掲示板バックナンバー: 2004年


■ 2004年1月1日(木)

新年早々,暗い話で恐縮ですが,今年も厳しいリストラを実施し続けます.手始めにMac用RIETAN-2000を切り捨て,Windows版とLinux版だけに削減するつもりです.これでMac版が存在しないVENUSと歩調が合うだけでなく,私の労力をかなり減らせます.

同一OS上でVENUSと連携できないMac版RIETAN-2000の存在意義は,今やかなり薄れてしまいました.結局,これが命取りとなりました.RIETAN-2000を世界に類を見ないパターンフィッティング・プログラムたらしめている最大の強みは,今やVENUSとの密接な連携,とくにMPF解析なのです.今年はPRIMAのMEMエンジンの徹底活用と再利用を強力に推し進めていきます.

さらにRIETAN-2000のソースプログラムの配布は今後止めます.開発に協力を惜しまないプログラミングのエキスパートにだけお渡しすれば十分だ --- ということをPRIMAでの経験から学びました.もっとも,そういう奇特な人は稀ですが…

プラットホームの限定により,テキストファイルのバイナリー化が容易になりました.今後,入出力ファイルの一部を段階的にバイナリー化していきます.従来のファイルとの互換性は失われてしまいますが,ファイルサイズが大幅に小さくなるばかりでなく,入出力が高速化します.ディスクスペースを節約できるという意味では,一種のリストラとみなせます.

RIETAN-2000のソースプログラムをほしがる人はわずかでしょうが,Mac版の切り捨てはブーイングを浴びるにちがいありません.しかし,日本の将来を担う学生がMacにそっぽを向いているという現状を考慮した措置にすぎません.VENUSを配布し始めて以来,かなりの数の学生と知り合いになりましたが,Macユーザーはほとんど見当たりませんでした.私が学生たちにどれだけ慇懃かつ迅速に対応し,どれだけ多くの願いをかなえ,どれだけ彼らの研究を鼓舞し続けているか,ご存じでしょうか.想像を絶するほどなのです.学生たちは有限の可能性と無限の不可能性を秘めています.彼らの可能性を少しでも高めるのが,私の使命の一つと心得ています.

もちろんVENDとVICSをMac OS X + X Window System上で完璧に動かしてくれる救世主が出現すれば,話は別です.誰かがそれを実現した暁には,XL Fortranでコンパイル・リンクしたMac OS X用RIETAN-2000を公開することを誓います.

シェアが圧倒的に高いWindowsに魂を売り渡したわけではありません.Mac版が消滅するのを世界中で一番悲しんでいるのは私です.今後は,自分の美意識が許容しないWindowsのGUIを通じて自作ソフトを使わなければなりません.それでもMac版を切り捨てざるを得ない私の苦衷を察してください.私はMac偏愛者である前に「超現実主義者」なのです.

■ 2004年1月2日(金)

Macユーティリティの付録として,有用なWindowsユーティリティを列挙していますが,最近その数がしだいに増えてきました.とにかくWindowsとつき合わざるを得ない身として,少しでも環境を整えなければならないからです.以前も書きましたが,Windows XP機(DynaBook G6)ではSpecial Launch 4というボタン型ランチャーを使っています.さらに窓の手の力も借りてWindows XPを重くしているだけの無用の長物的機能を無効にしまくり,エクスプローラ拡張メニューで右クリック時の機能を増強しました.その結果,Windows XP機をかなり俊敏に操れるようになりました.以前からコマンド プロンプトだけは詳しかったのですが,それ以外は未熟者にすぎませんでした.すでにWindowsユーザーとしては上の下くらいのレベルに向上したはずです.今後,さらに修行を重ねていきます.Mac OS XとWindows XPの両方に精通した人は皆無に近いので,今年はそれをセールスポイントにしようかと企んでいます.

■ 2004年1月3日(土)

VENUS.tbzをアップデートしました.VENUS.pdf中のVEND: Appendix A.1中の誤りを修正しました.Panther上でPDFファイルを作成すると,以前よりサイズが小さくなることがわかりました.こういう目立たないところも,しっかり改良されているのですね.

年末にMac OS X 10.3 "Panther"を3台のMacにインストールしようと試みましたが,PowerBook以外では失敗に終わりました.今日,Power Macintosh G4内蔵のCDドライブからインストールしてみたら,あっさり成功しました.どうもこのドライブはCDをえり好みする程度に劣化しているというのが真相のようです.

■ 2004年1月4日(日)

昨日に引き続き出勤しました.Power Macintosh G4にPantherを上書きインストールしたら,ATOK 16がメニューバーに現れなくなってしまったので,いったん削除してから,インストールし直しました.マウスホイールのクリックにより画期的な新機能Expose(エキスポゼ)を使えるように設定しました.これで明日からの仕事に万全の態勢で臨めます.

■ 2004年1月5日(月)

新年早々,VENUSとRIETAN-2000の改造に着手しました.今日と明日の2回に分け,Izumiブランドファンへのお年玉として進呈します.機能増強と入出力ファイルのバイナリー化だけでなく,バグや不具合の修正も同時に行っていきますので,互換性を保つため,必ず最新版のVEND,VICS,PRIMA,RIETAN-2000同士を組み合わせてお使いください.手間を省くため,今後バグと不具合の修正については逐一記述しません.また,旧バージョンのソフトやそれらが出力したテキストファイルとの互換性はいっさい考慮しません.商用ソフトでない以上,それで差し支えないでしょう.旧バージョンのプログラムや旧形式のファイルを混在させると,原因不明のエラーや気づきにくい不具合が高い確率で発生するということを警告しておきます.

PRIMA v3.1を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.MEM解析で求まった3D密度データをバイナリーファイル*.priにPRIMA形式(FORM = 'UNFORMATTED')で保存するよう改めました.MEED形式のテキストファイル*.denはもはや出力されません.3D密度ファイルのバイナリー化のおかげで,そのサイズは激減しました.また,Fc(MEM)を収めたMPF解析用データファイル*.fbaも書式なしのバイナリー形式に変更しました.*.fbaの新フォーマットに対応したRIETAN-2000 Rev. 1.3は明日リリースします.

PRIMAのバージョンアップに対応したVEND v4.1を含むVENUS.tbzもアップロードしました.PRIMA形式の3D密度ファイル*.priあるいは*.prim(ID = 0)を読み込めます.既存のファイル形式のIDは一つずつ増えました.この変更に伴い,以前のバージョンで保存された*.vndは入力できません.最新版VENDで作り直すようお願いいたします.

Examples.tbzにPRIMA形式のバイナリーファイル*.priを収めたExamples¥VEND¥PRIMAフォルダを追加しました.

■ 2004年1月6日(火)

Windows用RIETAN-2000 Rev 1.3を含むrietan2000w.tbzをアップロードしました.元旦に予告した通り,ソースプログラムはもはや含まれていません.PRIMA v3.1互換のMPF解析用バイナリーファイル*.fbaを読み込めるようにしました.v3.01以前のPRIMAが出力したテキスト形式の*.fbaはもはや読み込めなくないことにご注意ください.Le Bail解析結果を収めたファイル*.ffo中の各行の末尾に観測積分強度Ioを付け足しました.Ioは最大エントロピー・パターソン法による重畳反射の分解において,|Fo|の標準偏差を計算するのに使います.新データ追加のおかげで,Palatinusとvan Smaalenの方法で標準偏差を推定しなくても済むようになりました.次期バージョンのRIETANではLe Bail解析で得られたIoを改善するという離れ業を世界で初めて実現しますが,その準備を水面下で進めているわけです.このほか,MEM解析用ファイル*.mem中の一行を変更するとともに,MPF解析(NMODE = 2, 3)における構造パラメーターの精密化指標IDに関するバグを退治しました.これはかなり危険なバグであり,無事解決して本当に良かったです.このように,RIETAN-2000,とりわけMPFのコードは未だに枯れていません.この障害をご報告いただいた物材機構の高田和典氏に感謝します.バグフィックスが大幅に遅れて申し訳ありませんでした.

RIETAN-2000のWebページで配布しているNotes.pdfを更新しました.

今後,Linux用RIETAN-2000はIntel CPU専用の実行形式ファイルを広島大学の大木 寛氏に配布していただくことになりました.これこそ,まさにアウトソーシングです.

今回,PRIMAとRIETAN-2000の両方をアップグレードしてあらためて感じたのは,Windows版だけ配布するのは実に楽だということです.もう後戻りはできません.

■ 2004年1月7日(水)

当ホームページのアクセス件数は昨日331に達し,300の大台を初めて超えました.

今日はRubenと二人で,終日RIETAN-2000とPRIMAの局所的改造に大童でした.その成果は今週中に公開します.

■ 2004年1月8日(木)

Pantherの華麗で優雅なメタル調GUIに引き比べ,Windows XPの洗練されないGUIにはつくづく嫌悪感を催します.まさに月とスッポン.素晴らしいデザインのハイエンドWinodows機を購入したところで,画面をのぞき込んだとたん,あの俗悪で安っぽいGUIと接しなければならないのですから,使用感は大幅に減点です.最重要なGUIがお粗末という点では,どのメーカーのWindowsマシンも雁首そろえて横並びです.こんな代物を毎日眺めていたら,創造力がかき消され美意識が劣化するような気さえします.ビル・ジョイの「ジャンクフード同然のOS」という批評には同感です.マイクロソフトはWindowsのGUIに莫大な経費を投じているに違いありません.なぜこれほど劣悪な代物しか提供できないのかというと,ビル・ゲーツが美的センスに欠けているためでしょう.今はそうでもないでしょうが,若い頃はフケだらけのスーツ,穴の開いたセーター,しみのついたワイシャツを平気で着ていた,とクリンジーの「コンピュータ帝国の興亡」に書かれていました.

■ 2004年1月9日(金)

Windows用RIETAN-2000 Rev. 1.4をリリースしました.σ(|Fo|)を調節するための係数SCIOの入力を取りやめ,*.memファイルに出力されるデータを変更しました.ユーザー入力ファイル*.insからSCIO入力行が削除されたことにご注意ください.後述のように,SCIOはPRIMAで指定します.

VENUS.tbzを更新しました.VENUS.pdfのVEND: Appendix A.1で,*.scatに出力される静電ポテンシャルの単位がHartreeとなっていたのをRydbergに改めました.また,現contrdでは静電ポテンシャルを計算する際,マーデルング・ポテンシャルを無視しているため,かなり大きな誤差が出ていることをReadme_contrd.txt中に明記しました.阪大の水野正隆氏がマーデルング・ポテンシャルを考慮して静電ポテンシャルを計算する新contrdを作成してくださるそうです.

PRIMA v3.2を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.本バージョンから,|Fo|を調節するための係数SCIOはPRIMAで入力します.この変更により,PRIMAだけでSCIOの最適値を迅速に決定できるようになりました.さらに,RIETAN-2000 Rev. 1.4以降の出力したMEMデータセットファイル*.memを読み込めるようにしました.

Linux用RIETAN-2000とPRIMAの動作チェックも完了し,広島大の大木氏に送付しました.RIETAN-2000とVENUSの入出力するバイナリーファイルはWindowsとIntel CPU用Linuxで互換性があることがわかりました.つまり,両プラットホームで同一のバイナリーファイルを共通に使えます.一方,テキストファイルだと行末を変換する必要があり,かえって面倒です.ユーザーが編集する必要のないファイルはバイナリー形式にする方が便利だということです.

年末のVEND v4.0リリース以来,怒濤のように続いたVENUS(contrdを含む)とRIETAN-2000のバージョンアップはこれで一段落しました.昨年の今頃はほとんど死にかけていたことを思い起こすと,このエンジン全開状態は夢のようです.

■ 2004年1月10日(土)

Jaguar上で動くSafari 1.0は安定性と信頼性が今一で,ときどき昇天し,頻繁に文字化けします.PantherのSafari v1.1は落ちなくなりましたが,相変わらず文字化けします.Webページの一部しか表示しなかったり,ページが更新されなかったりする,という問題もあります.同じくApple謹製のメーラーMailは,日本語メール送信時の改行コードの挿入位置がいいかげんで,返信メールで引用してもらうときに見栄えが悪くなります.この深刻な不具合はPantherでも解決していません.そこで,私はMail 日本語自動改行パッチで送信メールを処理しています.ただ,このパッチは英文メールをまともに処理してくれません.基幹的アプリケーションであるブラウザとメーラーがこんなレベルなのだから,日本人にとっては,魅力的ではあるものの実用的とは言い難い(観賞用?)OSです.

■ 2004年1月11日(日)

近ごろ身にしみて感じたのは,ソフト開発者とユーザーとのコミュニケーションの重要性です.人間的なつながりが欠落していたら,優れたソフトは創れませんし,やる気も削がれます.私がRIETAN-2001を捨て去り,TOF中性子回折用ソフトの開発から足を洗った主な原因の一つは,コミュニケーションやレスポンスの欠如とそれに起因するモチベーションの低下です.一方,昨年4月にVENUS正式版をリリースした後も急ピッチで続いているブラッシュアップは,学部学生からベテラン研究者まで多くのユーザーとのコンタクトを通じ,着々と進展しています.多くのメールをやりとりしています.バグや不具合の報告,共同研究,開発への協力・援助,ソフトの移植や情報の提供など,フィードバックの中身は様々ですが,いずれも涙が出るほどありがたいです.他から隔絶した環境に身を置いたら,私の仕事は間違いなく崩壊する,と痛感しています.

■ 2004年1月12日(月)

昨年7月28日に記した永井荷風の「墨東綺譚(ぼくとうきたん)」(墨:実際はサンズイに墨)中に「わたくしは若い時から脂粉の巷に入り込み,今にその非を悟らない.」という有名な文があります.そりゃあ,そうでしょう.脂粉の巷に通い詰めたからこそ「すみだ川」,「腕くらべ」,「おかめ笹」,「つゆのあとさき」などで下層狭斜の風俗が描けたわけで,いわば趣味と実益を兼ねていたのです.遊興費は必要経費にほかなりません.「わたくしは三十路に入ってからプログラミングに入れ込み,今にその非を悟らない.」というI氏の場合も,同じようなもんです.有用な結晶学ソフトを生産し普及させたという実績がなかったら,今頃は廃人として蔑まれていることでしょう.プログラム開発一極集中路線の非を悟るどころか,プログラミングに一層のめり込み,もう一花咲かせなければいけません.

MPF法とLe BailーME Patterson法は世界に類を見ないオリジナルな技術です.後者がRIETANに実装されたら,鬼に金棒です.Le Bail法が重畳反射の積分強度を改善する知恵を授かるのです.いずれの解析法も抜群のスピードを誇るMEMエンジンを利用しており,これまで培ってきた3D可視化テクノロジー(VENDとVICS)との密接な連携も可能です.次期RIETANの完成に向けて突進あるのみ!

■ 2004年1月13日(火)

VEND 4.1.1とVICS v2.9を含むVENUS.tbzをアップロードしました.入力ファイルの絶対パス+ファイル名の長さを256から260に増やしました.Visual C++の制限のために,261以上に増やすことができないのが残念です.VICSでは,Saveダイアログボックスにおいて現在の*.vcsの名前が表示され(すでに読み込まれたか,保存されたときだけ),グラフィックウィンドウが選択された状態でファンクションキーF2を押すことにより*.vcsが保存されます.今回のバージョンアップは東北大金研M1の村田浩一君のVENUSに関するWebページ(次第に長くなってきました)に記されていた要望にお応えしたものです.

PRIMA v3.2.1を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.入力ファイルの絶対パス+ファイル名の長さを256から512に増やしました.幸い,Visual FortranにはVisual C++のような制限はありません.

広島大の大木さんがLinux用RIETAN-2000 v1.4がリリースしてくださいました.

■ 2004年1月14日(水)

ご存じの通り,昨年10月以降,私は以下のリストラ,アウトソーシング,ソフトの配布方針と仕様の変更を断行してきました:

  1. Vega・Sirius装置グループからの脱退
  2. TOF粉末中性子回折用リートベルト解析プログラムRIETAN-2001Tの廃棄と使用・再配布禁止措置
  3. Mac用RIETAN-2000最新版のWebでの配布を停止
  4. RIETAN-2000最新版のソースプログラムのWebでの配布を停止
  5. Linux用RIETAN-2000とVENUSの配布を広島大の大木 寛氏に委託
  6. 旧版ソフトやそれらが出力したファイルの互換性を完全に無視したバージョンアップ

その結果,相当な反発を招いたかというと,そんなことはまったくなく,反響の無さときたら拍子抜けするほどでした.私が萎縮し,己のやるべきことを放擲したのではなく,コアコンピタンス(core competence)への集中を図ったということをご理解いただけた --- と解釈しています.以前は過剰サービスを提供していただけなのかもしれません.要望,批判,苦情,質問などがありましたら,躊躇せずにメールをお送りください.

■ 2004年1月15日(木)

RIETAN-2000 Rev. 1.5を含むrietan2000w.tbzをアップロードしました.MEM解析用ファイルがバイナリー形式の*.fosに変わりました.テキストファイル*.memが単結晶回折専用,バイナリーファイル*.fosが粉末回折専用という仕様になります.今後,粉末回折データを扱う場合は,必ず*.fos形式を使う必要があることに留意してください.また,MEM解析におけるラグランジュの未定定数λ0は,*.ins中では入力しないように改善しました.

PRIMA v3.3を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.RIETAN-2000 Rev. 1.5以降の出力するMEM解析用バイナリーファイル*.fosを読み込めるようにしました.*.fosを入力した場合,ラグランジュの未定定数λ0はPRIMAで入力することにしました.

VENUS.tbzをアップロードしました.VENUS.pdf中のVICS: Appendix A.1を再編成・整理し,読みやすくしました.

これでPRIMAの入出力ファイルは基本的にバイナリー形式(WindowsとLinuxで互換性あり)へと一変しました.RIETAN-2000ーPRIMAーVENDの緊密な連携を象徴するかのような仕様変更です.

この10日間余り,RIETAN-2000とVENUSを改訂しまくったため,本掲示版に記載しなかった細かい修正点の大半は忘れてしまいました.肝に銘ずるべきなのは,RIETAN-2000,VEND,VICS,PRIMAの最新版を取り揃え,それらが入出力できる形式のファイルだけを扱う必要がある,ということです.旧バージョンや旧形式のファイルを混在させた場合の動作は保証しません.新年以来の一連の改訂では,ファイルに書き込まれるデータを多少変更したほか,各プログラムのバグも退治しました.これで年始めの目標は100%達成しました.

■ 2004年1月16日(金)

PRIMA v3.3.1を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.対話モードでスクリーンに出力される質問とpreferencesファイルを修正しました.さらにManual.pdfの数カ所の誤りを訂正しました.

■ 2004年1月17日(土)

Windowsユーティリティにクリップボード履歴ソフトQTClipを追加しました.これとよく似たMac OS X用ソフトCopyPaste-Xはシェアウェアです.Mac OS X用フリーソフトウェアがもっと増えてほしいものです.

それはそうと,強制アンインストール v1.0aのおかげで「アプリケーションの追加と削除」ではどうしても削除できないソフトとWindows NT機のデスクトップに取り憑いた悪霊を首尾よく追っ払うことができ,実にすっきりしました.見栄えは悪いですが,強力なソフトです.なお窓の手のアンインストールタブをクリックすれば,同じことができます.

■ 2004年1月18日(日)

Blogで時刻の後ろが文字化けするのが以前から気になっていました.そこで,"ユーザー名"/Library/Application Support/iBlog/TemplateSets/中のLeftNavigationとRightNavigationフォルダに置かれた三つのファイル(BlogPage.txt,CategoryPage.txt,EntryPage.txt)において<$EntryTimestamp$>と<$PublishDate$>を含む部分を取り去りました.(メモ代わり)

■ 2004年1月19日(月)

委託研究資金が数万円残っているという通知が届いたので,Intel Visual Fortran Compiler 8.0 for WindowsMicrosoft Visual C++.NET 2003を購入することに即決しました.前者はCompaq Visual Fortranの後継コンパイラです.後者はIntel Visual Fortranを動かすための開発環境も兼ねています.Visual Fortranがアップグレード用キャンペーン中だったため,計45,400円で済みました.これらの必要不可欠な商売道具を今年度予算締切間際に発注できたのは幸運でした.

■ 2004年1月20日(火)

広島大の大木 寛氏がLinux用のRIETAN-2000とPRIMAの最新版をリリースしてくださいました.

■ 2004年1月21日(水)

数年前にモスクワ大学で開催された国際会議に出席したときの話です.会期中のある晩,開催者がディナーをごちそうしてくれました.その際,目の前で酒を飲んでいた偉い先生が「メンデレーエフのもっとも偉大な業績を知っていますか.」と,藪から棒に私に質問してきました.「もちろん周期律の発見でしょう.」と答えたところ,にこりともせずに「違います.優れたウオッカ精製法を発明したことです.」とおっしゃいました.なるほど,極寒の地に住むロシア人にとってウオッカの品質は周期律よりも切実な問題だわい,と感じ入りました.でも,本当はジョークだったのでしょうね.

三次元可視化が物理量の実空間分布を理解する最高の手段であり,応用範囲が非常に広く,しかも一般受けすることを考慮すると,VENUSはRIETAN-2000よりもよほど重要なのではないか --- MPF法で決定した電子密度の等値曲面をVENDでぐるぐる回し,四方八方から眺めながら,ふとそう思いました.

Rubenと私は相変わらずVENDとVICSに磨きを掛けるため,懸命の努力を重ねています.このほど,両プログラムにおける重大な不具合を取り除くのに成功しました.次のバージョンを楽しみにしていてください.

■ 2004年1月22日(木)

一澤帆布に注文していたカバンとリュック,今日届きました.早速,明日からカバンの方を使うことにします.私は自転車で通勤していますが,自転車のカゴにぴたりと収まる大きさです.

■ 2004年1月23日(金)

VEND v4.1.5とVICS v3.0を含むVENUS.tbzをアップロードしました.新年早々,VENUSとRIETAN-2000があまりにも頻繁にバージョンアップされるのに辟易し,ダウンロードをスキップしている方々が多いと推察します.しかし,今回のVENUS.tbzは絶対ダウンロードすべきです.

両プログラムにおける入出力ファイルの絶対パス+ファイル名の最大長を512に増やしました.前バージョンで最大長を260に増やしたつもりだったのですが,実際にはたった80(!)に過ぎなかったという深刻なバグにようやく気づき,修正しました.従来はこのバグのため,階層が深くなると入出力ファイルを読み書きできなかったのですが,今回のバージョンアップにより絶対パス+ファイル名の最大長が実用上十分な数に増えました.地味な改良ですが,ユーザーには大きなメリットをもたらすでしょう.これまで,深い階層に置いたファイルの入出力でトラブルに悩まされた方々にはお詫び申し上げます.

両プログラムで,デフォールトの投影方式を平行投影(parallel projection)に変更しました.さらにVICSでは,配位多面体と中心原子の色を独立に設定できるように改良しました.東北大金研の村田浩一君がVENUSのWebページで要望していた機能です.簡単かと思ったら,結構大変な改訂でした.

■ 2004年1月24日(土)

それにしても,マイクロソフトがこれほど強力なツールを気前よく提供してくれるとは信じがたいです: Windows Services for UNIX 3.5.マイクロソフトの気が変わらないうちにダウンロードした方がいいです.しかし,GUIしか受け付けない軟弱な人には猫に小判(豚に真珠)でしょう.

■ 2004年1月25日(日)

映画「アマデウス」に,モーツァルトの音楽(「13管楽器のためのセレナーデ」の第3楽章,アダージョ)を初めて聴いて驚嘆したときのことをサリエリが回想するシーンがあります(2003.02.07参照).自殺未遂の挙げ句,精神病院に収容された老サリエリがあこがれに満ちた表情でつぶやく言葉をDVD再生画面の字幕から書き写してみました:

出だしはおどろくほど単純だ
バスーンやバセットホルンがぎこちなく響く
さびついたような音
だが突然 ---
その上に ---
オーボエが
自信に満ちた音色
そしてクラリネットが引き継ぎ…
甘くとろけるような調べとなる
"猿"に書ける音楽ではない
初めて耳にする見事な音楽
満たされぬ切ない思いにあふれていた
神の声を聞くようだった

広辞苑によれば,セレナーデには小夜曲という器楽形式のほか,「思いを寄せる女性の家の窓辺で夕べに歌い奏する音楽」という意味もあるとのことです.「満たされぬ切ない思いにあふれていた」というのは当楽章に対する最高の賛辞といってよいでしょう.ピアノ協奏曲21番・23番の第2楽章に匹敵するほどの傑作だと思います.

■ 2004年1月26日(月)

VENUS.tbzを更新しました.VICSのソースコードの一部が前バージョンのままだったことが判明したので,VICSとVEND(念のため)のソースコード全体を最新のものに入れ替えました.

■ 2004年1月27日(火)

PRIMA.tbzを更新しました.Manual.pdf中の使用許諾条件を変更しました.

Intel Visual Fortran Compiler 8.0 for WindowsMicrosoft Visual C++.NET 2003(英語版)が届きました.かなりの枚数のCD-ROMにただただ圧倒され,その威圧感には恐怖心すら湧いてきました.ことプログラミングに関する限りチャレンジ精神旺盛な私も,ついに焼きが回ったようです.「こういう最新兵器は若者専用だよな〜.」という愚痴がつい出てきます.といっても,若手研究者は真っ先に逃げ出すでしょう.こんな化け物と格闘していたら,肝心の研究が滞りますから.

■ 2004年1月28日(水)

たかがコンパイラ如きにひるんだとあっては名折れなので,お得意の猪突猛進で切り抜けようと決意しました.Microsoft Visual C++.NET 2003をインストールし,VICSのソースコードをコンパイルしてみたところ,100個以上の警告メッセージが出力され,目の前が真っ暗になりました.しかし,突貫工事でヘッダーファイルを次々に修正していったところ,JasPer関係の警告以外は全部解決しました.JPEG 2000形式ファイルは問題なく保存できるので,実害はありません.これまでのVENDとVICSはPentiumを対象とする最適化に留まっていましたが,今回はPentium 4用に最高クラスの最適化を施し,それぞれVEND_p4.exe(VEND v4.2)とVICS_p4.exe(VICS v3.1)という実行形式ファイルを作成しました.これまでのVEND.exeとVICS.exeと同様に使えます.東大生産研D3の高橋尚武君によれば,AthlonをCPUとするマシンでも走ったとのことです.

上記の新バージョンを収めたVENUS.tbzをアップロードしました.ついに4 MBを越えました.最新版のVENDとVICSのソースコードはそれぞれVENUS?Source_code?VEND_p4とVENUS?Source_code?VICS_p4に保存されています.

休む間もなくIntel Visual Fortran Compiler 8.0 for Windowsをインストールし,PRIMAを再コンパイルしてみました.ベンチマークテストを行ったところ,Visual Fortran 6.6Bでコンパイルして得たコードと実行時間がほとんど変わりませんでした.こちらの方は明日,更新します

ともあれ,開発環境とコンパイラのインストール,VENUSの再コンパイル・テスト,配布ファイルのアップロードをわずか一日で終了したのには驚きました.電光石火の早業という表現がぴたりと当てはまります.Visual C++.NETなんて大したことはないと悟りました.強気モードに完全復帰です.

C/C++言語は学生時代に習得しておくことをお奨めします.一生の財産になります.Visual C++.NETのアカデミック価格は7,600円に過ぎません.

■ 2004年1月29日(木)

PRIMA v3.4を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.スクリーンへの出力'Standard data file'を'Standard output file'に修正しました.G-constraintを使わない場合(デフォールト)はゼロを入力するよう変更しました.それに伴い,*.prfのサンプルがすべて変更されたことにご注意ください.Intel Visual Fortran Compiler 8.0 for WindowsでPentium 4用の最高クラス最適化を指定して再コンパイル・リンクしました.

先週あたりから肉体的・精神的に調子を崩しつつあります.まさに青息吐息といった状態.しかし,仕事が山積みで休むわけにもいかず,よろけながら歩んでいます.二本の新コンパイラをインストールし,VENUSの実行形式ファイルを一新したのも,それぞれ一歩ずつ前進したことに相当します.

「不採算部門」をリストラしたといっても,その分,楽になる訳でない,ということが次第にわかってきました.リストラは人の恨みを買うと同時に,自分の神経も痛めつけます.労働量に至っては,かえって増したような気さえします.己のキャパシティーの低さを痛感するばかりで,昨年10月1日にエピグラフとして記した一句が脳裏に浮かんでは消えています:

我,山に向かいて目を挙ぐ.
我が助けは何処より来るか. --- 「詩編」第121篇

いくら目を挙げたところで,助けなど何処からも来ないでしょう.みんな己のことで精一杯なのですから.では,どうしたらよいのか.暗闇の中を手探りで一人歩んでいくしかありません.

同時に寄付・業務委託についても読んでくだされば幸甚に存じます.「同情するなら金をくれ.」という意味ではありません.義捐金を募らなければならないほど困窮し,健康を害しつつある泉に向かって,自らはなんのサポートもせずに,RIETAN-2001Tの手入れやバージョンアップを何卒よろしく,と一方的に頼むのが如何に身勝手な仕打ちであるかを悟ってほしいだけです.

いくら字面が似ているからといって,「人材」を「人柱」扱いする組織や業界の厚かましさと冷酷さにはほとほと愛想が尽きました.普段は散々世話になっているくせに,スポンサーになってくれるどころか,構造解析ソフト制作者の存在を完全に無視しています.中性子散乱の分野で活動する意欲はもはや消え失せました.先ほど日本中性子科学会を退会する手続きをとりました.

装置グループを辞めたときと同様,不思議なほど冷静で,未練など少しもありません.むしろ清々しい,吹っ切れた気持ちです.中性子回折以外の仕事だけでも手一杯だからでしょう.私にとって粉末中性子回折は優先順位の低い"one of them"にすぎなかった --- ということです.

■ 2004年1月30日(金)

Intel Visual Fortran Compiler 8.0 for WindowsでRIETAN-2000をコンパイル・リンクし,雛形ファイルを処理してみたところ,実行が見かけ上停止したり,部分的にNaNを出力したりすることが判明しました.正常に動く場合もあります.このFortranコンパイラはPRIMAではなんの問題も起こさなかったのですが,まだ枯れていないようです.少々がっかりしました.

今日は京都工繊大での集中講義(セラミック科学II)のシラバス提出期限だったので,急遽,ブラウザを使って入力しました.自分で言うのも何ですが,私は教育熱心すぎるところがあります.仮に大学の教官になっていたとしたら,それこそ真剣に教育に取り組んだことでしょう.私の能力・気力・体力などたかが知れていますから,研究者としてはもとよりプログラマーとしても大した業績は残せなかったに違いありません.その点,教育活動不要の現在の職場は理想的環境です.しかし,Web,メール,配布ソフトを通じて多くの人々を実質的に教育しているという面はあります.一研究室,一大学の学生に比べ,桁違いに多くの人々を教育していることになります.Internetを通じた教育 --- しかし,生身の人間に接しているわけでないのが欠点です.人間的なつながりはありません.RIETANやVENUSのユーザーである学生はつくばに来るチャンスがあったら,アポイントメントをとった上で私のところを訪問してください.時間に余裕があったらお相手します.

■ 2004年1月31日(土)

今日で1月が終わります.今月はVENUSとRIETAN-2000の改訂に全力を注ぎました.これほどプログラミングに没頭したことは近年まれなことです.厳しいリストラやアウトソーシングを実行したからには,惰眠をむさぼっている訳にはいきません.逆境をものともせず,波及効果の大きい建設的な難事業に雄々しく立ち向かった自分を誇りに思います.

■ 2004年2月2日(月)

先日,私のところを訪問してきた客が,「Webサイトにしろ会話にしろ,本当に話題の豊富な方ですね.」と言ってました.それは,私が訪問者を退屈させないよう一生懸命汗をかいているだけのことでしょう.Webサイトの場合,個人のプライバシーや特定の人との会話やメールの内容を公開するわけにいきません.そこが紙に書く日記と違います.たとえば上記の訪問者について,私は当掲示板には一行たりとも記述しませんでした.となると,さほど面白いものが書けるはずはありません.それにもかかわらず当掲示板が色々な話題を満載しているように見えるのだとしたら,私の筆力もそう捨てたもんじゃないな,と自惚れたりしました.

私は相当な速筆です.学生からのメールに長々と返事を書くこともしばしばです「一介の学生のためにこんな丁寧な返事を書いてくださって感激しました.」と言われたことさえあります.別に恐縮することはないんです.使い捨てではもったいないような文章は後で別なメール,当掲示板,解説などにcopy & pasteし,ちゃっかり再利用していますから.

■ 2004年2月3日(火)

VEND v4.2.1,VICS v3.1.1,contrd(2004/02/02)を含むVENUS.tbzをアップロードしました.Visual C++.NET 2003でPentium 4用に最適化したVEND_P4.exeとVICS_P4.exeも追加しました.VENDが*.vcsを読み込んだとき,原子と結合の一部が表示されないという障害(東大生産研D3,高橋尚武氏の指摘)を取り除き,VICSが*.insを読み込んだとき"Buffer overrun detected!"というエラーメッセージが出るという障害(物材機構の高田和典氏の指摘)を解決しました.いずれもVisual C++.NETによるコンパイル・リンクの結果として発生したトラブルで,バグではありません.さらに,阪大の水野正隆氏がマーデルングポテンシャルを考慮して静電ポテンシャルを計算するようcontrdを改良してくださいました.従来はクラスターだけを対象として計算していたため,かなり大きなバイアスのかかった結果しか得られませんでした.この問題は年末にA子さん(毎度,お手数をおかけします)から提供してもらったデータを視覚化した際に私が気づき,新年早々,水野氏に解決を依頼していたものです.お忙しい中をcontrdをバージョンアップしていただいた水野氏に謝意を表します.

なおVENUS.tdf,p. 35中の
The "Search atoms bonded to A1" should be used when drawing coordination polyhedra where each A1 atom is coordinated to two or more ligands.

The "Search atoms bonded to A1" should be used when drawing coordination polyhedra.
の誤りでしたので,修正しておきました.

Safari v1.2がリリースされましたが,相変わらず日本語が文字化けします.Macは日本での売り上げが世界第2位のはずですが,いつまでたっても改良されません.

■ 2004年2月4日(水)

VICS v3.1.2を含むVENUS.tbzをアップロードしました.VICSの実行形式ファイルがspgra.datとspgro.datの収納されているフォルダ以外のフォルダに置かれていると,[New]ボタンをクリックした際,エラーメッセージが出力されるというバグを取り去りました.VICS_P4.exeでは結合角がまったく表示されないという不具合を修正しました.この障害を早々と報告していただいた東北大D1の小松一生氏に感謝します.

■ 2004年2月5日(木)

VENUS.tbzをアップデートしました.VENUS.pdfとReadme.pdfをほんの少しずつ修正しました.

■ 2004年2月6日(金)

VICS v3.1.3を含むVENUS.tbzをアップロードしました.Bondsダイアログボックス内のParametersパネルにおける{Radius (B&S, poly)}を{Radius (B&S, c.p.)}に修正しました."c.p."はcoordination polyhedraの略です.

東北大で鉱物学を学んでいる門馬綱一君(4年)のJP-Mineralを逆リンク集に追加しました.彼がVICSのCPU占有時間を劇的に減らす方法を提案してきたのですが,却下しました.確かに占有時間は減るのですが,リアルタイムでオブジェクトを変化させることができなくなったりして,色々なところで支障が出て来るのです.われわれは貧弱なバソコンでもスムーズに動くソフトの開発を心がけているので,パフォーマンスが落ちるのは好ましくありません.しかし,C言語で書かれた難解なソースコードを読んで改善の提案をしてくる優秀な学部学生がいたのには驚かされると同時に,頼もしいなと喜びました.これまでは広島大の大木 寛氏くらいしか,そのレベルに達した人はいませんでした.

■ 2004年2月7日(土)

1月31日の毎日新聞夕刊「キャンパる」に同志社大文学部3年の舘林千賀子さんと瀬戸内寂聴さんの対談が掲載されていました.舘林さんは6年前の交通事故による頸髄損傷のために両足が動かず,両手の握力もなくなり,日常生活に車いすが欠かせなくなりました.舘林さんが「自分の状況を受け入れるのは難しい.できなくなったことばかりが目につき,自信がもてなくなったりするんです.」と弱音を吐くと,寂聴さんは「キリストが最後に十字架にかかって死ぬように,人の苦しみを代わって受けることのできる人,それは選ばれた人で,誰でもできるわけでない.それと同じように,あなたは誰かの苦しみを引き受けた人なのよ.あなたも選ばれた人なのよ.」と答えました.舘林さんはこの言葉を聞いたとき,今の自分が肯定されたように感じ,それだけ評価されたような気がして涙がほおを伝った,と記しています.

すね者の私には,寂聴さんの言葉が気休めの美辞麗句としか思えません.そういう慰藉の言葉なしには生きていけない,というだけのことでしょう.「カラマーゾフの兄弟」中に,無垢な子供たちが世界中で虐待され虐殺されているのを黙って見ているだけの神をイワンが否定する,という有名な一節があります.そういう可哀想な子供たちが誰かの苦しみを引き受けた選ばれた人と言えるでしょうか.それでは,実際に虐待・虐殺された子供たちが浮かばれないではありませんか.

「カラマーゾフの兄弟」が出てきたところで,「マドンナの理想」と「ソドムの理想」というドストエフスキーの言葉をふと思い出しました.寂聴さんはバイブルや仏典に基づいて「マドンナの理想」を説いたのです.マザーテレサのような慈愛に満ちた聖人同様,悟りの境地に達しているのでしょう.一方,「…人としての情けを断ちて,神に会うては神を切り,仏に会うては仏を切り,…」という裏柳生口伝(2003/11/02参照)は「ソドムの理想」にほかなりません.イワンは「ソドムの理想」を信奉し,地獄に堕ちる覚悟で「神を切った」のです.

私だったら舘林さんに何と言うでしょうか.いずれの理想も持ち合わせていない俗人の手には到底負えません.「人生の意味」そのものを問われているようなものだからです.それでは,人生にどんな意味があるのか --- 憂い顔の騎士ドン・キホーテに問いかけてみましょう.モンテシーノスの洞穴から引き上げられたばかりのドン・キホーテが誰よりも雄弁に語ってくれるはずです.洞穴の中でドン・キホーテが見た夢はなんだったのか(「ドン・キホーテ」後編,第23章),彼がその夢から悟った「人生の意味」とは何か,モンテシーノスの大冒険以降,彼の精神状態と行動はどう変わったのかについて,「ドンキ・ホーテ」でお読みください.それをもって私の答えに代えることにします.

■ 2004年2月8日(日)

最近,中学・高校の同級生だった親友が昨年永眠したことを彼のお母さんから知らされ,びっくりしました.東大医学部卒の医師で,なぜかずっと独身でした.一年ほど前につくばで会ったときは元気だったのですが…彼は実に勤勉な努力家でした.その分,寿命を縮めたのかもしれません(もっとも何が原因で亡くなったのかすら知りませんが).私が未だにくたばらないのは,学生時代に遊び呆けていたためでしょう.

■ 2004年2月9日(月)

昨日,物材機構 材料研究所の佐藤 卓氏から,2月1日に記した「KENSには有用な情報をWebで発信している装置グループは皆無です.」という文が不正確だと指摘されました.リンクを張っておらず,まだ発展途上ではあるものの,http://quasi.nims.go.jp/lamd/でLAM-Dに関する情報を発信しているとのことです.あわてて佐藤氏に謝罪するとともに,上記の文を修正しました.quasi.nims.go.jpといえば,私が配布しているフリーソフトウェアのアーカーブファイルを置かせてもらっているサーバーにほかなりません.なんと佐藤氏が管理しているそうです.大家さんから「とっとと消え失せろ!」と怒鳴られ,追放されなくてよかったです.

■ 2004年2月10日(火)

勤務先の勤務評定はポイント制を採用しています.紙上・口頭発表,著書,特許についてはポイント数が細かく決まっています.論文ではインパクトファクターや共著者リストでの順番まで考慮されます.受賞,学会役員,非常勤講師,獲得外部資金,広報活動などでもポイントを稼げます.ホームページ製作はゼロ点です.ポイント獲得の対象となる期間は前の年だけで,自分の書いた論文が過去何百回引用されようが1点にもなりません.獲得ポイントはボーナスに反映されます.近所のヤマダ電機,つくば唯一のデパートであるクレオ,クレジットカードでもポイントが貯まります.マイレージサービスも一種のポイント制です.ロゴヴィスタeダイレクトのようなネット販売でもポイントを獲得できます.新聞によると,いずれは年金の額まで獲得ポイントで決まるのだそうです.学校の試験から始まって,点数稼ぎに追われるこせこせした一生にいかなる意義があるでしょうか.空しいだけです.しまいには信仰までポイント制と化し,ポイントの多い人は昇天,少ない人は地獄堕ちとかいうことになりかねません.

ポイント制なんて,みみっちい話題を持ち出した理由は簡単です.以前,ある国際紙に投稿した論文に間違いがあり,修正を申し入れたところ,昨日,その別刷(無料分)が郵送されてきたからです.つまり形式的にはerratumも論文として発表したことになるのです.となると,この「論文」は発表許可願いさえ提出すれば,ポイントとして加算されます.駄目元で,やってみましょうか.

■ 2004年2月11日(水)

いよいよネタに枯渇してきました.2月1日の記事のように,一気呵成に長文を吐き出したのは大きな間違いでした.あれは少なくとも2週間分のネタに相当していました.「あんたもアホなら,わしもアホ」という形に組み替えれば,1ヶ月はこの話題で貫けたと思われます.小出しにしていくべきでした.

それではこんな話はどうですか.私はN嶋茂雄のサイン入りの野球帽を所有しています.大分前に誰かから頂きました.ほこりをかぶらないようにビニール袋に入れてあります.もともとサインの字が薄くかすれていて,なんとなくしょぼくれています.どちらかというと私はアンチ・ジャイアンツ派でして,そいつを大事にしようという気がこれっぽっちもありません.その物体はガラクタと一緒に棚の中に寂しく埋もれており,この世の空しさを象徴しているような鬱陶しい存在に成り果てています.いっそRIETAN-2001Tと同様に廃棄したいのですが,バチが当たるような気がして,なかなかそこまで踏み切れません.いったいこの哀れな帽子をどうしたらいいのでしょうか.いいアドバイスがありましたら,メールをお送りください.

■ 2004年2月12日(木)

PRIMA v3.4.1を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.'Lagrange'が'Langrange'となっていたスクリーン出力を2個所修正しました.以前も同じ間違いを直したのですが,まだ残っていました.Manual.pdfとReadme.txt中の誤りも正しました.

■ 2004年2月13日(金)

PRIMA v3.4.2を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.研究社の「理化学英和辞典」に従い,スクリーン出力,Manual.pdf,PRIMA.pdf中の'Lagrange multiplier'を'Lagrangian multiplier'に修正しました.

VEND v4.2.2とVICS v3.1.4を含むVENUS.tbzをアップロードしました.Generalダイアログボックス中のPerspectiveパネルを修正しました.{Perspective}は{Accentuation}に変えました.VENUS.pdf中の当該箇所も書き直しました.

■ 2004年2月14日(土)

もう旧聞に属することですが,K.J.衆院議員がペパーダイン大学を単位不足で卒業してなかった,という一件が大きな騒ぎを引き起こしました.そういう些事が明るみに出たとたんにU.K.知事は建設大学校の講師でなく,建設大学校中央訓練所の非常勤講師だっただの,K.N.は青学2部の卒業だっただの,I.T.衆院議員はメリルリンチ社では部長クラスにすぎなかっただの,A.S.幹事長は南カルフォルニア大学に2年でなく実質1年しか留学していなかっただのと,かまびすしくなってきました.あまり本質的なこととも思えない個人レベルの些細な粉飾をほじくり返す前に,国家レベルの作為的な嘘(あるいは調査不足による思い込み)の責任を厳しく問うべきです.スケールと重要性がまったく違います.イラクの大量破壊兵器問題でブッシュ大統領,その追従者であるブレア首相や小泉首相がなんら責任を取らずに開き直っているくらいですから,K.J.氏も辞職する必要はまったくないと思います.

お前も何か粉飾した覚えがあるだろう,と責められそうな気がして,過去の掲示板を眺めてみました.昨年3月24日に開催したセラミストのためのパソコン講座ミニシンポジウム「三次元可視化技術のインパクト」というタイトルを少々後ろめたく感じました.昨年3月時点でのVENUSはまだブラッシュアップが行き届いていない発展途上品にすぎませんでした.正直なところ,そのタイトルはやや自信過剰でしたね.バグや不具合の多さに衝撃を受けるという意味だったのではないか --- と苦笑しました.一年遅れながら,誇大タイトルに惹かれてミニシンポジウムに足を運ばれ,半日も聴講していただいた聴衆の皆様にお詫び申し上げます.

よくよく考えると,競争的資金獲得やプロジェクトの提案書なんて粉飾あるいは大風呂敷だらけ,と相場が決まっています.当人が実現できると思っていないことや実際にはやるつもりのないことも臆せず記述するのが常識となっています.昨年,とある一大プロジェクト(大体,想像がつくでしょう)に関する文言を読みました.なんでも,そのプロジェクトは産業界に直接役立つ研究手段を提供するのだそうです.思わず,景気回復の特効薬ですか,とツッコミを入れたくなりました.せいぜい基礎的データの測定を通じ,間接的に貢献するくらいが関の山でしょう.いくら大義名分と存在意義を強調したいからといって,「直接」役立つと自信たっぷりに言い切るのは誇大妄想に等しいです.あきれ果てました.

選挙目当ての国会議員や建設業界の圧力を受けて本州と四国の間に3本もの橋が架けられました.大盤振る舞いもいいところです.その結果は巨額の赤字となって国家・地方財政に重くのしかかり,その赤字をどうやって穴埋めするのかで揉めています.誰も責任を取ろうとしません.もちろん,これらの橋は本州ー四国間の交通・輸送に役立ちます.しかし,橋の建設や維持にかかるコストを考えたら,まったく引き合わないのです.東京湾の横断道路アクアラインも似たような状況にあります.結局,膨大な赤字は税金や国債で補填するしかありませんから,将来の増税に直結します.

某プロジェクトは産業界のためにある程度は役立つでしょう.しかし,産業界が被る恩恵とプロジェクトのコストを比べたら,やはり引き合わないに決まっています(あくまで産業利用に限定した文言です).要するに,アカデミックな色彩の強い施設に巨額の予算を投入するには,いかにももっともらしい大義名分を色々取り揃える必要があるのです.その業界にノーベル賞学者が一人でもいれば,話は別ですけどね.こういう身も蓋もないことを言うと,アンデルセンの「裸の王様」もどきになりますが,納税者の立場に立って口先だけの宣伝文句を批判させていただきました.

■ 2004年2月15日(日)

先日,Windows用圧縮・解凍ソフトLhaplusへのリンクが切れていたので張り直し,ついでにそのWebページ(hoehoe.com跡地)を覗いてみました.末尾の近況報告を読むと,Schezo氏は仕事・健康上の悩みをかかえているそうです.Lhaplusはカンパウェアになるかもしれません.窓の杜における昨年のダウンロード数が4位であるLhaplusの作者が逆境にあるのは憂うべきことです.そういえば,Lhasa(2位)や+Lhaca(3位)も長いことバージョンアップされていません.超定番ソフトでも,一銭にもならないのでは,まめに改良などしている訳にいかない --- ということでしょうか.科学技術系フリーソフトウェアの作者として身につまされます.

■ 2004年2月16日(月)

本掲示版で,元旦に

もちろんVENDとVICSをMac OS X + X Window System上で完璧に動かしてくれる救世主が出現すれば,話は別です.誰かがそれを実現した暁には,XL Fortranでコンパイル・リンクしたMac OS X用RIETAN-2000を公開することを誓います.

と宣言しましたが,IBM XL Fortran for Mac OS Xの価格が205,000円(税抜き)と判明した今となっては,撤回させてください.官公庁価格は138,000円(独立行政法人は官公庁か?)ですが,いくらIBM謹製の由緒正しいコンパイラといっても高すぎます.Linux用Fortranコンパイラを事実上無料で提供しているIntelを見習い,もっと太っ腹に振る舞ってくれてもいいのになあ,と落胆しました.Absoft Pro Fortranと同様に,バージョンアップするたびに大金を巻き上げるつもりなのでしょう.せこい話ですが,上記の宣言を以下のように変更させていただきます:

もちろんVENDとVICSをMac OS X + X Window System上で完璧に動かしてくれる救世主とXL Fortranを私に供与してくれる奇特な方が現れれば,話は別です.両方が叶えられた暁には,XL Fortranでコンパイル・リンクしたMac OS X用RIETAN-2000を公開することを誓います.

救世主+篤志家が必要不可欠となると,奇跡を期待するしかありません.

■ 2004年2月17日(火)

VENUS.tbzを更新しました.VENUS.pdfとReadme.pdfを修正しただけです.VENUS.pdf中の14. Export Structural Images(VICSのパート)の2番目の段落に注目してください.画像イメージのピクセル数に関する重要な情報が追加されています.要するに,ビデオカード(チップ)やドライバーに固有の最大ピクセル数を越えるピクセル数のグラフィック・データファイルは保存できないということです.

■ 2004年2月18日(水)

CD-RやDVD-Rを焼きまくっているばかりでは能がないと悟り,かの有名なDAEMON Toolsエンジンにイメージファイル作成やライティングなどの機能を追加した仮想CD/DVDソフトSimDisc3を使い始めました.以前買ったDrag'n Drop CD+DVD 3 Power Editionではイメージファイルをマウントできないので,これを購入しました.DynaBook上で安定に動いています.実は以前,K速という同種ソフトを安さにつられて購入したのですが,少なくとも私のdynabook上ではまともに動きませんでした.金をドブに捨てたも同然でした.

市販のDVDビデオには複製防止のためにCSS(Content Scrambling System)というプロテクトがかかっています.もちろんSimDisc3はCSS破りなどしない,行儀の良い商用ソフトです.CD-ROMのバックアップを主目的とする私としては,これで十分です.

プロテクトというのはいつかは破られるものです.世界初のリッピングソフトDeCSSはノルウェーに住む15才の天才少年ヨン・ヨハンセンによって開発されました.アメリカ映画協会とアメリカDVDコピー規制協会が少年を訴えましたが,オスロの法廷は昨年1月に無罪の判決を下しました.DeCSSの影響力は甚大で,同種のソフトが続々と登場しました.DVD Shrink,DVD Decrypter,DVD43といった無料ソフトが代表例です.これらのリッピング・ツールを使えば,片面2層のDVDビデオを容易に「ぶっこ抜け」ます.CSS解除機能をもたない商用DVDバックアップ・ランティングソフトが多数販売されているのは,リッピング・ツールの併用を前提としているためとしか思えません.DVDJackのような「DVDビデオを奪え!乗っ取れ!」を謳い文句とするソフトのWebページに「CSSにより保護されたDVD-Videoのイメージ作成およびバックアップはできません。」と注記されているのですから,笑わせます.なお,私的複製のためにCSS(アクセスコントロール系ガード)だけを解除してDVDビデオをリッピング・複製するのは適法ですが,コピーコントロール系ガードをはずした複製は違法だそうです.念のために言っておきますが,私はDVDビデオを「ぶっこ抜いた」ことは一度もありません.ただ,現実にはびこっている行為を包み隠さず述べているだけです.

このように,無料ソフトウェアが商用ソフト顔負けの機能をもつことは珍しくありません.手前みそになりますが,VENUSにおけるreiterative convoluting sphereによる原子探索,配位多面体に関する物理量(volume, quadratic elongation, bond angle variance, bond valence sum, estimated bond length)の算出,電子・原子核密度,静電ポテンシャル,波動関数などの等値曲面と結晶模型の重ね合わせ表示,JPEG 2000フォーマットのグラフィックデータファイル作成,RIETANの入力ファイル*.insの読み込み,ダイアログボックスの位置の記憶が良い例です.CrystalMaker,ATOMS,Diamondなどの商用ソフトはそれらの魅力的な機能を欠いています.VENDとVICSの場合,ソースプログラムを書き換えて新機能を追加するというdo it yourself式カスタム化さえ許されています.こういう芸当は商用ソフトでは不可能です.これがVENUSの最大の利点かもしれません.同室の山本昭二氏はご自分で準結晶用に改造して利用しておられます.

■ 2004年2月19日(木)

Windows用RIETAN-2000 Rev. 1.5.1を含むrietan2000w.tbzをアップロードしました.RIETAN-2000の標準出力で'Background'が’Bacgground’となっている一行があるのを修正しました.広島大の大木 寛氏のご指摘です.また,lst2cifの出力したCIF中で格子定数の標準偏差に対する制約条件(たとえば正方晶系の場合σa = σb)が満たされていないというバグに気づき,lst2cifを改訂しました.

PRIMA v3.4.3を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.スクリーン出力に一つだけ残っていた'Lagrange multiplier'を'Lagrangian multiplier'に修正するとともに,1箇所の冗長なコードをすっきりさせました.Manual.pdfも少々手入れしました.

■ 2004年2月20日(金)

Windows用RIETAN-2000 Rev. 1.5.2を含むrietan2000w.tbzをアップロードしました.rietan.exeをPentium III以降用に最適化しました.

■ 2004年2月21日(土)

今日は起承転結のはっきりした文章を書きました.ただし,脚注まで付いた「結」の部分が愚劣すぎ,全体として無惨な出来に終わりました:

RIETANは「りーたん」と読みます.「りえたん」ではありません.RIETveld ANalysisの略なのです.実に安直な命名です.

Googleで"RIETAN"を検索することがときどきあり,Rietanのきままなお部屋というWebサイトが存在することは大分前から承知していました.この部屋の主は「りえたん」さんという主婦でした.つい最近,りえたんさんが闘病生活の末,昨年5月17日に30代の若さで天国に召されたということを知りました.亡くなる10日前まで日記をつけておられたのですね.DIARYの最後に,ご主人が「今ごろは、rietanがまだ小さい頃に亡くなったお母さんにめいっぱい甘えていることでしょう。」と書かれていたのには,ほろっと致しました.ご冥福をお祈りします.

生みの親に血も涙もなく虐殺されたRIETAN-2001Tは成仏できず,亡霊と化して,あちこちに出没していることでしょう.

「りえたん」で思い出しましたが,2チャンネルの粉末X線回折スレッドの272番に

「RIETAN、RIETAN」言ってると「千尋たん萌えー」とかイってるイタイ人だと勘違いされないかと不安になります。

というヘンテコリンな投書があったと,ある学生から聞きました.この筆者も「りえたん」と発音しているのでしょう.恐らく,アニオタかギャルゲーオタですね.「千尋」は「千と千尋の神隠し」の千尋でしょうか.あるいは別なアニメの主人公でしょうか.「萌えー」とか「萌え萌え」とかは,こういう世界では馬鹿の一つ覚えのように頻用されている言葉です.「燃え」から来てるんでしょうね.「イタイ人」は「はまっている人」という意味でしょうか.私には正確な意味やニュアンスがわかりません.その道に詳しい人は,ぜひ無知蒙昧な私に教えを垂れてください.*


* その後,泉サロンのメンバーである有識者(匿名希望)から寄せられた情報を紹介しておきます:

「千尋たん萌えー」とくれば,工藤千尋でしょう。
井上千尋ではないと思われます。

「イタイ」は,ちょっとそっち(*1)の系統にはまりすぎていて
あんまりお近づきになりたくないなぁ,と感じる場合の表現です。
他には,「ヤバイ」「(失敗して)マズイ」などのシチュエーションでも
「イタイ」を使います。
(*1) もちろん,ロリ系,エロゲー系,アニオタ系など

「イタイ人」ですが,特定の話題になると異常とも思える知識と偏見を
さらけ出す点は「ヲタク」と同じなのですが,暗さはなく,一見,普通の
サラリーマン風の人も沢山います。「ヲタク」との違いは「イタイ人」
はほとんど役に立たないことでしょうか(汎用性なし)。
ちょっと(頭が)イッちゃってるように見えますので,「イタイ」という
表現でオブラートをかけます。
■ 2004年2月22日(日)

システムソフト電子辞典「研究社新英和(第7版)・和英(第5版)中辞典」をロゴヴィスタから購入しました(7,840円).新英和中辞典にまつわる忌まわしい過去(横溝正史もどきの表現)について昨年の大晦日の本掲示番に記しましたので,ぜひご覧ください.新英和中辞典はcountableあるいはuncountable nounが明記されているのが特長です.Mac OS XとWindowsの両用というところが気前がいいです.Mac OS X用Jammingでも検索できることを確認しました.

■ 2004年2月23日(月)

VICS v3.1.5を含むVENUS.tbzをアップロードしました.New/Edit Data Dialog Box中の"Use anisotropic atomic displacement parameters"と{Type}を同一ブロックに収め,項目間の関連を明確にしました.さらにVENUS.pdf中の6.4(VICS)に原子変位パラメーターに関する記述を追加しました.各種原子変位パラメーターの変換法が理解しやすくなったはずです.

■ 2004年2月24日(火)

RIETAN-2000のWebページで配布しているNotes.pdfを更新しました.MEM解析用のデータを収めたファイルの拡張子を'mem'から'fos'に修正しました.フォーマットをテキストからバイナリーに変更したとき,拡張子をそのように変えました.ついでに同ページを再編成し,"9. A version history of RIETAN-2000"を挿入するとともに,Linux用RIETAN-2000の配布ファイルは広島大学の固体化学研究室から入手してもらうよう書き改めました.

■ 2004年2月25日(水)

RIETANやVENUSを製作している仮想ソフトウェアハウスの社員の話に耳を傾けてください:

ご存じのように,弊社は昨年秋までRIETAN-2000,RIETAN-2001T,VICS,VEND,PRIMAという5本の結晶学ソフトを本Webサイトで無償で配布してきました.弊社の技術力には昔から定評があるんです.とくにこの2,3年は自称史上最強のコンビがソフト開発に没頭していて,次々に新作をリリースし続けています.その結果,Webサイトのアクセス件数は以前の倍くらいに増えました.致命傷なのが,商売気に欠けているところです.「どれもこれもタダだよ,もってけ泥棒.」という気前の良さがたたって,次第に資金繰りが苦しくなってきました.いわゆる一つの放漫経営ってヤツです.「なんで商用ソフトとして売らねえの.」と銀行から嫌みを言われても,ウチの社長はそれらのソフトを使ってる学生やら研究者やらの顔が脳裏に浮かび,そこまで踏み切れないんだそうです.そういうときは,●●さん(匿名希望)の顔じゃなくて札束を思い浮かべるべきですよ.高邁な理想を奉じていては,我々社員が路頭に迷いかねません.

浮世離れしたお人好し経営者も,マザー・テレサ顔負けの慈善事業をいつまでも続けてると会社が立ち行かなくなるってことに最近ようやく気づきました.熟慮の末,パルス中性子関係の事業とRIETAN-2001Tをリストラしました.某プロジェクトに金輪際関わり合わないための予防的側面もありました.ついでに中性子の業界団体からも足を洗っちゃいました.

RIETAN-2001Tなんて,もう8年近くほとんど手入れしてない,カビのはえたソフトに過ぎません.5本のうち1本くらい切り捨てたって,いいじゃないですか.コンビニだって賞味期限切れの弁当を捨ててますよ.よくぞそこまで踏み切ってくれた,と社長の英断を褒め讃えたいです.

ところがRIETAN-2001Tのリストラを聞きつけると,TOF粉末中性子回折装置のユーザーたちは肝を潰し,泣き叫び,右往左往するばかりです.慣れ親しんだRIETANに対する愛着の念は断ち切り難いらしく,今まで通り無償サービスを続けてくれ〜,と訴えて来るユーザーが後を絶ちません.いくら自分たちが困っているからとはいえ,つぶれかけた会社にすがりつくとは情けない話です.他力本願の体質が一向に改まらないのでは,先が思いやられます.むしろ助けてほしいのはこっちの方です.なにしろ従業員の解雇またはサラリー3割カットが目前に迫っているのですから.弊社は能う限り多くの支援を必要としています.寄付や業務委託は大歓迎です.業績好調な会社はぜひぜひお願いします.かの有名なRIETANやVENUSのスポンサーになれば,拍手喝采は間違いなし.御社の名声が一段と高まります.なんなら当Webページにクレジットを明記してもいいですよ.えっ,中性子なんて産業界に役立たないからダメですって?「それを言ったらおしまいよ.」じゃないですか.

弊社としては,蛮勇をふるって切り捨てた事業を再開して業績を悪化させたくありません.したがいまして,ゴミ箱をあさってRIETAN-2001Tを取り出し,再生加工して無償で提供するなんて愚行は避けたいです.有償ならどうかって?そりゃあ弊社も営利企業のはしくれですから,きれい事ばかり言ってられません.儲かる話なら乗りましょう.しかし,甘い話につられて飛びついたら,結局たかられただけだった,というのはゴメンです.

今はただ,外国製リートベルト解析ソフトへのスムーズな乗り換えを陰ながらお祈りするばかりです.実のところ,あんまり色んなことに手を出すと,過労死が恐ろしいです.「陰ながら」じゃなくて「草葉の陰から」お祈りすることになりかねません.

現在,私どもは新規事業で手一杯です.現在,最終テスト中のmaximum-entropy Patterson法ソフトが当社比で5倍強速くなったのに歓声を上げている最中でして,過去の遺物なんぞまったく眼中にありません.黄金コンビの設計したMEMエンジンはやはり天下一品です.PRIMAのMEMエンジンを再利用しただけなんですが,凄まじい最高回転数を余裕をもって叩き出してます.重畳反射の観測積分強度は驚くほど改善されます.ソロバンをはじかせると簡単な損得勘定もできない癖に,技術水準の高さには目をみはるものがあります.このソフトが会社再建の起爆剤になれば,万歳三唱です.パルス中性子事業に見切りを付けたからこそ,こいつの完成に漕ぎ着けたんです.いや〜! リストラって本当にいいもんですねえ.お後がよろしいようで…


落語仕立てにしたのですが,無惨に失敗しました.傾きかけた会社が云々という暗い内容だと,軽妙洒脱な噺には到底仕立て上げられません.

罪滅ぼしのため,元旦に表明したリストラ策のうち,Mac OS用RIETAN-2000の配布停止をあっさり撤回することにしました.2月15日に改訂したばかりの宣言も引っ込めます.それで勘弁してください.さきほどRIETAN-2000 Rev. 1.5.2を含むrietan2000m.tbzをアップロードしました.Rev. 1.5.2はAbsoft Pro Fortran v7.0(obsolete!貧乏人はつらい)でコンパイル・リンクしました.Mac OS 8.6以降とMac OS Xの両方で走るCarbonアプリケーションです.いつまた私の気が変わるかわかりません.私の気前がいい内に,即,ダウンロードすることをお奨めします.今のところorffeとlst2cifはClassicアプリケーションに留まっていますが,近日中にCarbonアプリケーションに入れ換えるつもりです.rietan,orffe,lst2cifをMac OS X上で走らせている方にとって最高のプレゼントとなるに違いありません.

■ 2004年2月26日(木)

VICS v3.2を含むVENUS.tbzをアップロードしました.単斜晶系の化合物のCIF中に長い空間群名(full symbol)が記述されている場合でも,VICSで正常に読み込めるように改善しました.The University of the West IndiesのR. J. Lancashire教授のご要望を実現しました.

■ 2004年2月27日(金)

一昨日約束した通り,orffeとlst2cifのCarbonアプリケーションを含むrietan2000m.tbzをアップロードしました.やはりAbsoft Pro Fortran v7.0でコンパイル・リンクしました.これでようやく,Classic環境抜きのMac OS X上で両プログラムを走らせることができるようになりました.

元旦に宣言したMac OS用RIETAN-2000のリストラは完全な失敗に終わりました.結局,元の木阿弥はおろか,以前よりも過剰なサービスを提供する羽目に陥ってしまいました.

■ 2004年2月28日(土)

当Webサイトへのアクセス,最近3000回のログを一昨日調べたところ,Mac OSが21 %となっていました.瞬間風速的に高まったにすぎませんが,それにしてもMacの人気は根強いです.東北大金研の大山研司氏のBlog(2月25日)を読むと,日本のプロフェッショナルな中性子屋の9割はMacユーザーではないか,とのことです.現に,私も日常の仕事はほとんどMac OS X上でこなしています.最近,Mac OS用のRIETAN-2000 Rev. 1.5.2,orffe,lst2cifをリリースしたのも,実のところ自分自身が使うからにほかなりません.

私が使用しているClassicアプリケーションはTexturesを残すだけになりました.残念ながら,Mac OS X用Texturesがリリースされる気配はありません.Blue Sky TeX SystemsのWebページでNewsを読むと,Blue Sky TeX Systemsはもうじきツブれそうだ,という噂が飛び交っているが,云々などと言い訳が長々と書かれています(注: 現在は削除されています).自社のことをこう表現するということは,25日に内情を暴露した会社同様アブないのでしょう.まあ,Textures v2.1.5はClassic環境で安定に動いていますから,業務に差し支えないのが救いです.

Lhaz v1.13がリリースされていたことに気づきました.派生版というのを提供しているのには驚きました.

■ 2004年2月29日(日)

RIETAN-2000のWebページで東北大学理学部4年の門馬綱一君が作成したリートベルト解析パターンをプロットするためのJavaアプレットPowderPlotにリンクを張りました.

■ 2004年3月1日(月)

VEND v4.3とVICS v3.3を含むVENUS.tbzをアップロードしました.たとえ何も操作していないときでも,両ソフトがCPUに絶えず不要な負荷をかけ続けていることは前から知っていました(2月3日参照).これを解決する名人芸的方法を門馬綱一君が再提案してきました.テストの結果,確かにCPU占有率が改善されることがわかったので,今回は彼の提案を全面的に採用しました.とくにVENDで効果的にCPU占有率が減ります.仮想記憶がひんぱんに働くような状況,たとえばVENDで巨大な3Dデータを読み込み,他の大きなアプリケーションを同時に動かすような場合に有効です.今回改訂した部分はVENDとVICSを走らせている間,つねに実行されます.機能が増えた訳でないので,バージョン番号は0.1ずつ増やしただけに留めましたが,実質的には大きな改良です.このようなユーザーからのフィードバックほど嬉しいことはありません.

彼のWebサイトJP-Mineralでは四つの自作Java Appletが公開されています.これほどプログラミングに長けた学生を私は知りません.若い才能が威勢良く羽ばたいているのを目の当たりに見て,老プログラマーは幸せな気分になりました.将来,門馬君が大規模なアプリケーションの開発にチャレンジすることを願ってやみません.

■ 2004年3月2日(火)

フローベールの「三つの物語」が喉から手が出るほどほしいです.「聖ジュリアン」は鴎外の名訳を所有しています(末尾の一節はとりわけ素晴らしい).「ヘロデア」は興味なし(ビアズリーの挿絵が入ったワイルドの「サロメ」で十分).私がどうしても読みたいのは「まごころ」(別訳題「素朴な心」)です.しかし,過去に出版された訳書はすべて絶版です.こうなると,古本を探すしかありません.しかしそこまで手間暇かけたくありません.どうしたらいいのか…

■ 2004年3月3日(水)

昨日の記事をご覧になったVENUSユーザーがWeb上の古本屋について親切に教えてくれました.結局,絶版文庫販売の黄麦堂から1,200円(送料込み)で購入することにしました.

■ 2004年3月4日(木)

少し前まで,ウィルス(WORM_MIMAIL.R,WORM_MYDOOM.A,PE_BUGBEAR.B-O, WORM_NETSKY.C)に汚染されたメールがすごい勢いで押し寄せてきていました.Mac OS X上で悪さすることはまずないでしょう.しかし大量のウィルスメールとSPAMメールに埋もれた正式なメールを削除してしまう恐れがあります.Outlook Expressはウィルスを繁殖させる社会悪と化していますから,使用を控えるべきです(Microsoft自身がウィルス増殖に手を貸しているようなものです).ましてHTMLメール(Outlook Expressのデフォールト)を人に送るなんて最悪です.

Windowsのユーザーは,ウィルス作者が相手にしないマイナーなメーラーとブラウザを使うことをお奨めします.ウィルス感染に対する予防措置となります.Windows用の添付ファイルを取り出すときにはWindows用メーラーの方が便利です.またMac OS Xに付属しているMailではうまく読めなかったり,添付ファイルを保存できなかったりするメールがときどきあります.私はMailにはMail 日本語自動改行パッチを当てていますが,これは英語のメールに対応していません.そういう場合は,HTMLメール拒絶の姿勢を貫いている鶴亀メールを使うことにしました.ウィルス攻撃に強いと思われます.秀丸エディタのユーザーなので,実質的に無料です.

■ 2004年3月5日(金)

今年は記録型DVDにとって画期的な年になります.片面2層記録,最大容量8.5 GB(DVDビデオと同容量)のDVD-RとDVD+Rと対応ドライブが発売になるのです.HD DVDやBlu-ray Discと異なり過渡期の製品にすぎませんが,8.5 GBの大容量は魅力的です.圧縮ライティングソフトは壊滅状態になるでしょう.ただし,初期トラブルを避けるため,ドライブの購入は来年まで待つべきです.

■ 2004年3月6日(土)

当Webサイトへのアクセス,最近3000回について使用OSを調べたところ,Mac OSのシェアが最高記録の25 %にまで上昇していました.Mac OS用RIETAN-2000の配布再開が効いたのでしょうか.Macを見捨てないでくれ〜と叫ぶ声が聞こえるような気がしました. 私がMac OS用RIETAN-2000をまた邪魔者扱いし出すのを防ぐ最良の方法は,Macファンがせっせと当Webサイトを訪問することです.私は世の中が私に何を望んでいるのかを常に「世論調査」しています.アクセス解析でもう一つわかったのは,2月のアクセス件数が過去最大になったことです.閏年でなかったら,そうはいきませんでした.

■ 2004年3月7日(日)

先週,私のところにお見えになった客人が机の上の大きなWindows NT機を見て肝をつぶしました.6年前に購入した備品のラベルが貼ってあったからです.「本当にこれを使っているんですか?」と言われました.「RIETANのWindows版はこのマシンでコンパイル・テストしてます.私が配布しているWindows用ソフトは全部ここで圧縮してからサーバーにアップロードしてるんですよ.」と答えました.客人は「えっ,あのRIETANとVENUSをこれで…」と言ったきり,絶句していました.まあ,いくらなんでもこの粗大ゴミめいたマシンを人に見られるのは恥ずかしいなあ,と思いました.

■ 2004年3月8日(月)

体調最悪.まさに気息奄々.その理由は,RIETAN-2000VENUSの驚異的な更新記録,TOF粉末中性子回折用RIETAN-TNベータ版についてという新設Webページ,寄付・業務委託についてをご覧になれば一目瞭然です.さらにmaximum-entropy Patterson法ソフトの仕上げが残っています.そろそろ原稿の執筆も再開しなければなりません.過労とストレスと貧困のトリプルパンチで,いつ倒れるかわからない --- という状況です.少しでも身と心を休めるため,明日からこの掲示板への書き込みはしばらくお休みします.

■ 2004年3月12日(金)

最後の力を振り絞って,という感じでRIETAN-TN FCを希望者全員に配布しました.FCは"Final Candidate"の略で,8番目のベータ版です.ユーザーからバグや不具合が報告されない限り,FCが実質的な最終バージョンとなります.ソースプログラムを含む正式版については,私にお問い合わせください.

結局,只働きモードで約半月働きました.「甲斐ない努力の美しさ」といったところです.

FCには10個の改良点(二つの深刻なバグの退治を含む)と一つの追加機能を盛り込みました.私が一番問題視していたバグを発生させていたサブルーチンは自分なりに技巧を凝らしたものでしたが,策を弄しすぎて墓穴を掘っていました.そのサブルーチンを全面的に書き換えるとともに,そこでコールしているルーチンにまで手を入れ,安定・確実に動くように改良しました.見違えるように優雅なコードに生まれ変わりました.名前もDOUBLE_CLUTCHと改めました.

当該サブルーチンを書き直している過程で,それにまつわる忌まわしい記憶が次第に蘇ってきました.青白い顔の幽霊がうめき声をあげている,おぞましい光景が目に浮かびました.たじろぐことなく直視し,その正体を見極めました.RIETAN-2001Tは私にしか見えない幽霊に長く祟られていたのだ,ということをようやく悟りました.この呪われたサブルーチンを一新した以上,幽霊は二度と出没しないはずです.

この機会に,RIETAN-2001T(≒ RIETAN-96T)のソースコードをあちこち眺め回してみました.これをいじるのが厭わしい苦役だったことを示す痕跡を随所に見かけました.今更どうしようもありませんが,私は1996年の時点でTOF中性子回折の世界から足を洗うべきでした.後悔先に立たず,とはこのことです.

Mac OSおよびWindows用のRIETAN-2000 Rev. 1.5.3もリリースしました.等方性原子変位パラメーターBを精密化していないにもかかわらずUの標準偏差(ゼロ)が出力されるというバグを取り去りました.RIETAN-TNの開発過程でわかったバグです.

■ 2004年3月13日(土)

実は,昨日リリースしたのはRIETAN-TN FCとRIETAN-2000 Rev. 1.5.3だけではありませんでした.ついにmaximum-entropy Patterson法プログラム(名前はまだありません)のベータ版も外部の協力者に向けて出荷しました.

とにかく,この2ヶ月余りの急ピッチなソフト開発には鬼気迫るものがありました.これほどプログラミングに没頭することは,もう二度とないでしょう.特筆大書すべきなのは,私の疲弊,心労,困窮が最新プログラム(RIETAN-2000,VEND,VICS,PRIMA,RIETAN-TN,ME Patterson法ソフト)の出来映えに毫も暗い影を落としていないことです.Ver. 3.2以降のPRIMAでは,粉末回折により得られたデータの解析にかかる手間が大幅に減りました.Le Bail解析結果をME Patterson法で再解析することにより,積分強度についてのR因子は驚くほど減少します.RIETAN-TN中のサブルーチンDOUBLE_CLUTCHにしろ,その名が暗示するように,2段構えの技巧的なアルゴリズムを盛り込んだコードです.年の功というよりは,自分がプログラミングあってこその存在だということを十分自覚しているということでしょう.

■ 2004年3月17日(水)

TOF粉末中性子回折用RIETAN-TNについての末尾に置いた歌を詠んだ一山師(匿名希望)によれば,注釈を付けないと,一般ピーポーにはこの歌の意味がわかるまい,とのことです.私も一般ピーポーの一人なので,理解し難いです.興味のある方は注をお読みください:

沍返る泉の元に戯れるヒナの恵みと古木の芽吹く 詠み人:一山師
(いてかえるいずみのもとにたわむれるひなのめぐみとこぼくのめふく)

注1) 暖かい日差しはまだ見えてこないものの,凍り付いた泉の畔(ほとり)に生える大木(たいぼく)が芽吹くことで,右往左往している幼いひな鳥たちに春が近づいていることを知らせる様。

注2) 大木(たいぼく)が芽吹く = 改訂に着手しました.

注3) 春が近づいている = 配布も近々です.

注4) 季語は「沍返る」(2月)です.

これは素人の歌とは思えません.この才能を研究に注ぎ込んだら,素晴らしい成果を挙げることでしょう.「一山師」という名はなぞかけになっているのですが,答えは省略しておきます.

私は歌詠みでないので,返歌を詠む才能はありません.ソースコードを眺めてもいない時点で配布間近と決めつけられても,唖然とするだけです.レスポンスを怠っていたら,自ら返歌を詠んで送りつけてきました:

木の芽立つ光の元に戯れて我先踊るヒナの声かな 詠み人:一山師
(きのめたつひかりのもとにたわむれてわれさきおどるひなのこえかな)

注5) 木の芽立つ = もう芽が立ってきた = 改訂版,できました.

注6) 季語は「木の芽」(3月)です.

勝手に3月に改訂版が出来上がることにしてしまうのだから,強引です.

一山師はRIETAN-2001T萌え〜のユーザー中,もっとも執拗にその改訂を迫って来た男で,気の弱い私は押しまくられ通しでした.一山師が送り続けてきた数多くのメールに一々返答していなかったら,RIETAN-TNはずっと早く完成していたでしょう.

■ 2004年3月18日(木)

Mac OS用RIETAN-2000配布ファイルrietan2000m.tbzを更新しました.rietan,orffe,lst2cifの計算終了時にMRWEウィンドウを閉じるように変更しました.キーを押してもすんなり終了しないことがある,という報告を受けたため,安全のためにそうしました.

■ 2004年3月19日(金)

VICS v3.3.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.配位多面体模型を*.vcsに保存した後,そのファイルを読み込むと,一部の配位多面体が消失してしまうというバグを取り除きました.物材機構の高田和典氏のご指摘です.*.vcsに記録される並進マトリックスの要素と分率座標の有効桁数を4桁から5桁に増やすことによって解決しました.高田氏にはこれまで数回,VENUSのバグを報告してもらいました.誠にありがたいです.

■ 2004年3月20日(土)

デスクトップWindows NT機(まもなく満6歳)のハードディスクの音が少々異様だと人に指摘され,急に気になりだしました.こんな甲高い音を発しているようだと,いつ物理的に壊れるかわかりません.あわてて,ネットワーク経由で自作ソフトを納めたフォルダ全体をCD-Rに焼きました.

同じ机の上に置いてあるPower Mac G4(まもなく満4歳)もピンチです.側板がピタリと閉まらず,ときどきカーネルパニックを起こします.読み込めないCD-ROMが結構多いです.いずれ私もパニックに陥れる可能性が高いです.

いくらなんでも今年こそデスクトップ機を2台買うしかありません.しかし,お金がない.来年度のプロジェクト予算はがた減りです.RIETAN-2001T → RIETAN-TNの苦役に耐えた報酬はどうなったのかというと,今のところ宛先と金額を記入した請求書だけ手元にあります.実際に入金する確率は4割くらいと踏んでいます.商用パッケージソフトに組み込まれる予定の拙作ソフトは,無償で結構,と太っ腹なところを見せてしまいました.次世代角度分散型回折用RIETANもフリーソフトウェアとして配布します.あまり裕福そうでない研究者(失礼)からの寄付・業務委託の申し出3件は深く感謝しつつも,お断りしました.今年はヨーロッパに出張して「ビーナスの誕生」を拝むつもりだったのですが,この財政難では到底無理です.

昨年4月14日の掲示板で自分を「幸福の王子」にたとえました.自分の全財産(自作ソフト)を人に与え続け,無一文かつ身も心もボロボロになってしまったからです.しかし,私は「王子」と称するには年をとりすぎました.もとより高貴な雰囲気は全くありません.とすると,「幸福のおじん」だな,ということに気づき,その滑稽さに思わず吹き出してしまいました.

結論1 → 身銭を切り続け,さらに貧しくなるしかない!

蛇足1 → 「身銭」という言葉で思い出しました.セラ協年会は3日間とも出席するつもりだったのですが,早々と予算を使い切ってしまったため,宿泊費および参加登録費は自腹と相成りました.そこで少しでも節約するために,「中性子によるセラミックス材料研究会」は欠席し,2日目から出かけることにしました.胸をなで下ろす人が多いことでしょう.

蛇足2 → 本Webサイトには自宅のiMacからアクセスしていますが,最近,そのCRTディスプレイが突然暗くなってしまいました.目に悪いので,できるだけ早急に買い換える必要があります.となると,やはり先立つものが…

蛇足3 → 最近,CATVインターネットをより高速なサービス(下り: 20 Mbps,上り: 1 Mbps)に切り替えたのですが,ブースターが必要なことがわかり,3万円吹っ飛びました.また月額料金も500円増えました.

結論2 → 貧乏を通り越して禁治産者状態に近い.

対策 → RIETAN-2001Tのバグ騒動の煽りで,本来やるべき仕事が大幅に遅延してしまいました.この時間的損失を取り戻して余りあるような大成果を挙げるべく,現在,VENDとVICSを対象とする野心的なアイデアの可能性を検討しています.この魅力的な新機能が仮に実現したならば ーーー 業務用3D可視化システムとして販売するというのはどうでしょうか(かなり本気).

話があまりにセコくなってきたので,この辺で自主規制しておきます.

■ 2004年3月21日(日)

RieMenu v0.44がアップロードされていました.第三者が製作したRIETAN-2000関係のユーティリティーは,指折り数えると,RieMenuを含め13本に達していました.

HERMESでのRietveld解析: RIETAN-2000の情報には,角度分散型の粉末中性子回折により測定した強度データをRIETAN-2000で解析するための基礎知識とノウハウが記述されています.VICSの使い方に関するWebページを拵えてくれた学生(村田浩一君)もいます.当Webサイトの逆リンク集には53のWebサイトが列挙されています.

印刷中の論文も含めれば,RIETAN-2000は200報近くの論文に貢献しています.

大山研司氏は科学論文に役立つ英語で,私のWebサイトに触発されてWebを重視するようになったと書かれています(このサイトの事).瀬戸秀紀氏のWebサイトにも,Webでの情報の公開と共有に関する私の主張への共感が記されています(from Editor).光栄の至りです.

私のフリーソフトウェアとWebサイトがこのように注目を集め,多くの人々に役立っているのは名誉なことです.もっともっと多くの科学者・技術者が科学情報やフリーソフトウェアをWeb上で提供してほしいです.

Webの素晴らしさは双方向性にあります.VENUS一つとってみても,計り知れないほど貴重なフィードバックをユーザーから受けました.大木 寛氏はPRIMAを大幅に高速化する最適化を示唆してくださいました(2003/10/09,2003/10/14).門馬綱一君はVENDとVICSがCPU時間を浪費していたのを見事に解決してくれました(2004/03/02).多くのユーザーからのフィードバックなしにはVENUSが現在の形にまで到達し得なかったのは明らかです.

私は自作ソフト(RIETAN-96T/2001T)の深刻なバグでさえTOF粉末中性子回折用RIETAN-TNで率直に公表しています.バグは長大かつ複雑なソフトに付きものであり,防ぐ術はありません.バグを公表するのは決して恥でないのに対し,バグを隠し立てするのは卑劣な行為だと信じるからこそです.世界一のソフトウェア企業マイクロソフトの製品にさえ大量のバグやセキュリティーホールが含まれているのですから,個人が細々と作成したソフトにバグがないはずはありません.ましてユーザー(装置グループのメンバーも含む)からのバグ報告やレスポンスが皆無に近く,中性子業界からの人的・財政的援助がまったくなく,他にも私のやる気を削ぐようなことがやたらに多く,それらすべての結果として私が手抜きし続けたRIETAN-2001Tでバグ問題が浮上したのは当然の帰結です.一個人の趣味と犠牲的精神の産物に高品質,継続性,サポートを要求するのは図々しすぎる ーーー そう開き直るしかありません.

阪大産研の北浜克熙氏は発表倫理向上を目的とする川合研は嘘の枢軸という過激なタイトルの内部告発サイトを公開されています.北浜氏はかつて(旧)無機材研に私を訪問され,そのときRIETAN-94を差し上げたことがあります.北浜氏によれば,私のWebサイトで「HPを用いて自分の意見を世界に向かって発信する事の重要性」が説かれているのに深く感動し,自分も後に続いたのだそうです.

私は北浜氏のWebサイトの内容にコメントする立場にありません.専門知識に欠けており,川合,北浜両氏とほとんど面識がなく,当該内部告発に関する事情もまったく知らないからです.両氏のどちらが正しくどちらが嘘をついているのかについて,門外漢である私が軽々しく断定するわけにはいきません.本当に噂程度のことしか聞いていないのです.私がここで強調しておきたいのは,私がごあいさつで主張したことを北浜氏が真摯に受け止め実践されたということと,北浜氏の個人サイトに記されているのとほぼ同じ内容の資料が産研の公式Webサイトでも堂々と閲覧できるようになっている(!)という事実だけです.正直なところ,当Webサイトがこの告発サイトにまで影響を与えたというのには強い衝撃を受けました.

■ 2004年3月22日(月)

gnuplot homepageでgnuplot 4.0 release candidate 1(3.8k)がダウンロードできます.といっても,3.8g → 3.8kに2年半余り要したわけですから,4.0がいつリリースされるのかは予想がつきません.

.Mac有料化のためでしょうが,Mac OS 8.X/9.X/X用gnuplot 3.7.1d(Carbonアプリケーション)を配布していたサイトが消滅してしまいました.ご所望の方はtucowsでダウンロードしてください.

■ 2004年3月23日(火)

Blogがますます流行ってきました.新しもの好きの私は,掲示板の記事の一部を試行的にblog化していました.両方では手間がかかりすぎるので,どちらかに絞ろうと思っていましたが,結局,掲示板を選びました.ホームページ(Webサイトの表紙という意味です)に殴り書きのビラが貼ってある,という雰囲気が好きだからです.

■ 2004年3月24日(水)

昨日と今日はセラ協の年会(湘南工科大学)に出席しました.セラミックス関係の研究の動向が大体把握できました.私は人が大勢集まる場が苦手なので,少々疲れました.久しぶりに学生相手に長いこと語り合いました.普段,若者が周囲にいないので,リフレッシュしました.藤沢のホテルでツインルームにシングル料金で泊まれたのはラッキーでした.東京からの帰りにすし詰めの電車に乗っていたら,閉所恐怖症になりかけました.普段いかに通勤で楽をしているかがわかりました.

■ 2004年3月25日(木)

恐らく誰も気づいていないでしょうが,RIETAN-2000とVENUSに関連して,はっとするような事実に突如として気づきました.RIETAN-2001の二の舞(つまりバグ)ではありませんので,ご安心ください.ともあれ,どうしたらいいのか… 迷います.

■ 2004年3月26日(金)

VEND v4.3.1とVICS v3.3.2を含むVENUS.tbzをアップロードしました.従来は,Readme_contrd.txt中の3Dデータのフォーマットに関する記述が誤っていたため,f01および*.sca(あるいは*.scat)からデータを入力した後,x座標とy座標を入れ換えていました.ユーザーを戸惑わせないように,このような座標変換は行わないようにしました.もちろんReadme_contrd.txt中の当該記述も修正しました.この不具合をご報告いただいた長岡技科大の武田雅敏氏に感謝いたします.

このバージョンからVENUSに含まれる三プログラムの使用許諾条件を共通にしました.どのように変わったのか,なぜそうしたのかについては,近日中に詳しく説明します.といっても,これらの条件はまだ叩き台にすぎません.今後,予告なしに変わるということをご承知ください.

■ 2004年3月27日(土)

前の部屋に置かれている並列UNIXワークステーションが今月末で撤去されます.そこで,Mac OS Xの基盤となっているDarwin(FreeBSD互換OS)にRIETAN-2000を移植してみました.Absoft Pro Fortran for Mac OS XによりTerminalアプリケーションを作成しました.現在配布しているCarbonアプリケーションの約2倍速いことがわかりました.teeコマンドにより標準出力を表示しファイルにも記録するため,2 CPU機のメリットを享受できます.

Terminal,すなわちUNIXのありがたいところは,強力なシェルが利用できることです.私はtcshを使っています."x"という簡単なシェルスクリプトを書き,一文字入力するだけでRIETAN-2000を起動するようにしました.「書類を開く」ダイアログで一々入力ファイルを指定せずに済むところが堪えられません.もう一つ便利だと感じたのは,Terminal上での計算と平行してAqua GUI用アプリケーションも実行可能なことです.入出力テキストファイルは各行末がLFに変わるものの,Jeditやmiなどで直接編集できます.地獄からやってきたエディターemacsを使わなくてもいいのです.かったるいCarbonアプリケーションには別れを告げ,Mac OS Xネーティブ・アプリケーションに乗り換えることにしました.

Windows機の場合は,再起動してLinuxやFreeBSDに切り替えざるを得ません.パーティションを切り直してインストールするのは面倒です.FreeBSDやX Windowを同時に使えるというMac OS Xユーザーだけに許された特権を存分に活かすべきだとつくづく感じました.

TerminalアプリケーションのRIETAN-2000が喉から手が出るほどほしいという方はご連絡ください(ほとんどいないでしょうが).

■ 2004年3月28日(日)

今回初めて知ったのですが,行末がCRの*.patはMac OS用Igor Proで直接読み込めるのですね.Terminal上でリートベルト解析を実行した後,ただちに解析結果をプロットできました.

■ 2004年3月29日(月)

今年度が終わりに近づいてきました.昨年後半から血も涙もないリストラを断行したはずだったのですが,結局,見るも無惨な失敗に終わりました.個人的趣味と自己犠牲の産物が公共用財産とみなされるようになったのは空恐ろしいことです.

最大の誤算は「逝っちまった」ソフトRIETAN-2001Tを修復せざるを得なかったことでした.これほど嫌々ながら働いたのも珍しいです.いずれこの勘定書は■■■■に回すつもりです.

さらにMac OS用RIETAN-2000が復活を果たしたばかりか,勢い余ってORFFEとlst2cifのCarbonアプリケーションまで作成してしまいました.RIETAN-2000のTerminalアプリケーションも新たに登場しました.もちろんMac OS Xネーティブの実行形式プログラムです.

リストラの挫折はIzumiブランド・ソフトウェアの将来にどう響くのか ーーー 予測不可能です.

■ 2004年3月30日(火)

Fortran 90/95に備わっているDATE_AND_TIME,CPU_TIME,TRIM,LEN_TRIMを使うことにより,Windows/UNIX用RIETAN-2000中のUNIX互換ルーチンをgetargとgetenvだけに減らしました.

■ 2004年3月31日(水)

ORFFEとlst2cifのTerminalアプリケーションも作成しました.移植に際して習得したノウハウは,しっかりメモしておきました.RIETAN-2000, ORFFE,lst2cifの終了と同時に出力をlessで眺めるようなシェルスクリプトxも作成しました.

■ 2004年4月1日(木)

Terminalアプリケーションを高速化するこつがようやく飲み込めました.現時点での(CarbonアプリケーションでのCPU時間)/(TerminalアプリケーションでのCPU時間)比は約2.3にまで上がりました.プログラミングの醍醐味を満喫しました.RIETAN-2000終了後にlessで*.lstを読み込み,指定した文字列を含む行にジャンプするようにシェルスクリプトxを改良しました.実に便利です.

絶対TerminalアプリケーションのRIETAN-2000を使いたがるに違いないと踏んでいた人が,案の定ぜひ欲しいと言ってきました.CrystalMaker text fileを更新する機能を追加し,早速送ったところ,大喜びしていました.私と同様,もうCarbonアプリケーションなど使う気がしないそうです.

VICS v3.3.3を含むVENUS.tbzをアップロードしました.空間群P2/c(No. 13)における映進対称に関するバグを除去しました.この障害を報告していただいた分子科学研究所の原 俊文氏に感謝します.

スウェーデンの科学者からVENUSの改訂記録を公開するように要望され,A version history of VENUSをVENUSのWebページに挿入してから半年経ちました.当該部分は着実に長くなりつつあります.やはり巨大なソフトは長期間手を入れ続けないと安定になり得ません.VENUSを開発し始めてから早2年8ヶ月.随分遠い道のりでしたが,ようやく終着駅が視野に入ってきました.

■ 2004年4月2日(金)

RIETAN-TNのWebページにVegaで測定した強度データのリートベルト解析で得られたR因子の表を追加しました.たまたま手元にあったデータを二つ再解析してみたうちの一つです.ちなみに,もう片方の解析ではRwpが4.15 %から4.09 %に下がりました.遅ればせながら装置グループから脱出した後,ようやくRIETANがまともに動くようになったのは皮肉なことです.

この期に及んでRIETAN-2001T(改造版)なんぞに往生際悪くしがみついていると,研究者失格の烙印を押されるぞ,と警告しておきます.

BuggyかつpoorなソフトRIETAN-2001Tの後始末はこれでほぼ終了しました.「飛ぶ鳥跡を濁さず」という形になりました.RIETAN-TNはあくまで既存強度データの再解析用に作成したわけですし,次世代中性子源にVENUSを無償で提供するつもりはありませんから,もうパルス中性子源とは縁が切れたも同然です.なんの未練もありません.なにしろ90年代初頭からTOF倦怠期だったくらいですから.

■ 2004年4月3日(土)

Mac OSおよびWindows用のRIETAN-2000 Rev. 1.6をリリースしました.プログラムの随所をFortran 90/95で書き直しました.初めて動的配列を使いました.定数NB, NGEN(全反射数)を7000から20000に増やしました.NFUNCT(NLESQ = 2)のフォーマットをI4からI6に変えました.標準出力の最後に'Copyleft'でなく'Copyright',経過時間(elapsed time)でなくCPU時間を書くように変更しました.

ORFFEとlst2cifの一部もFortran 90で書き直しました.

今回の改訂ではFortran 90/95専用のサブルーチンと関数副プログラムを使ったため,g77互換のコードではなくなりました.IntelのCPUを搭載したマシンならば,Intel Fortran Compiler for Linuxが無料で使えるし,Mac OS XのDarwinには商用ソフトながらAbsoft Pro Fortranがあるんだから,まあいいか ーーー という心情でおります.

■ 2004年4月4日(日)

SSL暗号化に対応したNextFTP4 v4.21がリリースされました.FTPサーバーとのやりとりにはもっぱらNextFTP4のお世話になっています.

■ 2004年4月5日(月)

松下電子部品の森分博紀氏から次の論文が日本セラミックス協会のJCerSJ優秀論文賞を受賞したとの知らせが飛び込んできました:

古賀英一, 森分博紀, J. Ceram. Soc. Jpn., 111 (2003) 767.

おめでとうございます.この論文にはX線回折データをRIETANで解析した結果が使われています.RIETANがお役に立てて誠に光栄です.

森分氏はRIETANのユーザーであるとともに,DV-Xα法のエキスパートです.京大の足立研究室で博士号を取得されました.VENUSの開発に着手してまもなく,SCATによる電子状態計算の結果を3D可視化しようと決意したのですが,当時は3Dテキストデータを出力するユーティリティーが公開されていませんでした.DV-Xα法のコミュニティーに縁が薄い私は,森分氏を通じて阪大の水野正隆氏に3Dデータテキストファイル作成ユーティリティーの作成を依頼しました.こうして世に出たのがcontrdです.実のところ,VENUS(+contrd)のSCAT関連の機能は不具合が多く,今日の姿になるまで何度も改訂を重ねました.その間,水野氏とA子さんにはお手数をかけました.3月26日にもVENDとVICSを手直ししたばかりです.継続的な努力が実を結び,VENUSがSCATのユーザーの間にしだいに浸透しつつあるのは嬉しい限りです.

■ 2004年4月6日(火)

PRIMA v3.4.4をリリースしました.UNIX互換ルーチンETIMEをFortran 95互換のサブルーチンCPU_TIMEと入れ換えました.さらに不要な2行を削除しました.テキストファイル*.mem(MEED互換フォーマット)は単結晶回折データ専用であり,粉末回折データは必ずバイナリーファイル*.fosから読み込む必要があることをManual.pdfに明記しました.以前,本掲示版にも書いたことですが,今年に入ってからそういう前提のもとでPRIMAをコーディングしています.いずれ単結晶回折データファイルの記録形式は大幅に変更する予定です.

次世代パルス中性子源J-PARCで測定した回折データから得られたデータをVENUS(の一部)で解析あるいは可視化するにはサイト・ライセンス契約を結ばなければならないとマニュアルおよびVENUSのWebページに明記しました.その理由はTOF粉末中性子用RIETAN-2001Tに関するお知らせとお願いを読めば明らかなはずです.サイト・ライセンスなしには外部ユーザーも使えないことにご注意ください.ここまで徹底しなければ,抜け道だらけになってしまいます.もちろんJ-PARCと無縁の研究には自由に使えます.例外規定も設けるつもりです.この使用許諾条件に関してご意見・ご要望がありましたら,メールをお送りください.マニュアルの修正に伴い,VENUS.tbzも更新しました.

■ 2004年4月7日(水)

Mac OS用とWindows用RIETAN-2000 Rev. 1.6.1をアップロードしました.バックグラウンド強度ファイル*.bkgを読み込み(NRANGE = 2),かつ強度データの一部をカットする(NEXC = 1)と,エラーが発生するというバグを除去しました.Igorテキストファイル*.pat中のoffsetの桁数を6から7に増やしました.2θminと2θmaxの書式をF8.3からF9.4に変更しました.

■ 2004年4月8日(木)

VEND v4.3.2とVICS v3.3.4を含むVENUS.tbzをアップロードしました.VENDの'About VEND'における'Nuclear Density'を'Nuclear Densities'に修正しました.さらに両プログラムのPreferencesダイアログボックス中の'Settings'を'Other settings'に変えました.実行形式プログラム*_P4.exeはPentium 4 CPU用に最適化されていることをマニュアルに書き加えました.最新コンパイラMicrosoft Visual C++.NET 2003でコンパイル・リンクしたので,Pentium 4搭載機で動かせば,*.exeより多少は高速に動作するはずです.

■ 2004年4月9日(金)

Mac OSおよびWindows用RIETAN-2000 Rev. 1.7をリリースしました.初期プロファイル・パラメーターが不適切なために一次プロファイル・パラメーターが不合理な値となったとき,RIETAN-2000は停止しますが,その際,プロファイル・パラメーターに関する,より詳しい情報を出力するよう改訂しました.東北大金研の大山研司氏のご要望に応えました.

VICS v3.3.5を含むVENUS.tbzをアップロードしました.オブジェクト(たとえば原子,配位多面体)を選択し,キーを押せば,そのオブジェクトは直ちに消えることになっています.ところが最近のVICSでは,さらにマウスを左クリックしなければ消えないようになってしまいました.キーを押して消去したオブジェクトを復活させる際も同様の障害が起こります.これはVICSを改訂中に,ある行を一時的に注釈とし,そのまま放置していたためだということがわかりました.早速,その行を復活させました.

この不具合は東北大(地球物質科学講座)の小松一生氏が報告してくださいました.なお,小松氏のWebサイトでは,4月8日からVICSに関する情報を提供し始めました.Work → プログラム → VICS ー 結晶構造可視化プログラム,でそのWebページに入れます.VICS形式ファイル*.vcsのサンプルがダウンロードできます.

■ 2004年4月10日(土)

Mac OSおよびWindows用RIETAN-2000 Rev. 1.7.1をリリースしました.精密化の指標ID(I)だけからなる行が入力ファイル*.insに含まれていると,精密化されたパラメータを更新(NUPDT = 1)する際,その行が2行続いて出力される,という不具合を東北大金研の大山研司氏が報告してくださいました.調査したところ,この障害はMac OS版でのみ起こり,無限ループの命令'DO WHILE (.TRUE.)'を'DO'に変えれば,全面的に解決することがわかりました.すなわち,RIETAN-2000でなくAbsoft Pro Fortranのバグだったという訳です.

これまでの経験によれば,Absoftのコンパイラの信頼性は今一です.生成する実行形式プログラムもあまり速くありません.204,750円という価格ほどの値打ちはない ーーー というのが正直な感想です.

■ 2004年4月11日(日)

すでに本掲示版に書き込んだことですが,MEM解析プログラムMEEDは極端に遅いばかりでなく,単位胞中の総電子数がユーザー入力値から多かれ少なかれ逸脱するという致命的なバグを抱え込んでいました.MEEDで得た解析結果はすべてこのバグの影響を受けます.われわれの経験では,総電子数が約2割も変わったことさえありました.ご存じのように,MEM/リートベルト法ではリートベルト解析の構造モデルのバイアスが必然的にかかります.さらにMEM解析の根幹とも言うべき制約条件(総電子数=一定)すら満たしていないのでは,MEEDによるMEM解析を報じた過去の論文をどこまで信用してよいのか,戸惑うばかりです.化学結合の可視化もへったくれもありません.

MEEDは2, 3年前まで広く使われていたので,それで解析した結果を報告した論文は相当な数に達しているはずです.プログラムにバグが忍び込むのは致し方ないとして,MEEDを開発したグループがバグの存在と症状を公式に告知せず頬被りを決め込んでいるのは失態です.スキャンダラスといってもよいでしょう.最近もMEEDによるMEM解析の結果を報じている論文を見かけました.何も知らずに使っていたのでしょう.MEEDの開発グループはバグを隠蔽していると後ろ指さされても仕方ありません.

もう一つ指摘したいのは,いわゆるMEM/リートベルト解析を行っている人たちは,自分たちが使っているリートベルト解析プログラムの名前を常に明記すべきだということです.たとえ改造して使っているにしても,オリジナル・プログラムの名前まで隠蔽し続けているのは,ソフト開発者をないがしろにする卑劣な行為です.こんな不作法な連中がいるからソースプログラムを公開したくなくなるんです.

RIETAN-96T/2001TのバグについてはTOF粉末中性子回折用RIETAN-TNについてに詳述しました.局所的な最小値に落ち込んだわけでもないのに残差二乗和が順調に最小化されないことがあるというのですから,やはり深刻なバグに相違ありません.しかし,私はそのWebページでバグの存在を公式に認め,RIETAN-2001Tで得た結果の発表を禁止しました.RIETAN-2001Tの作者として当然の義務を果たしたまでのことで,これで免罪符を得たとみなしています.8年間にわたり発表された論文はかなりの数に上っています.その重みに押されて口をつぐんでいたならば,RIETAN-2001Tが今後も使われ続け,良心の呵責に悩んだことでしょう.今は青天白日といった気分です.

■ 2004年4月12日(月)

Mac OS XからTerminalにおける標準のシェルがtcshからbashに変わりました.今後,Terminalを愛用していくのだとしたら,bashに切り替える方がよいのでしょうか.今のところ,手慣れたtcshを使っています.

Mac OS X(Terminal)ネーティブ・アプリケーションのRIETAN-2000はいずれ公開するつもりです.今後,さらなる高速化の可能性を探ります.いろいろな設定やノウハウを記したReadme_Darwin.txtはすでに書き上げました.未だにMac OS 8.X/9.Xを使っている人が多いにもかかわらず,敷居の高そうなCUIのソフトを提供しても無意味なのかもしれません.しかし私には,Acrobatが発売になるや否やWebサイトでPDFを公開し,VENUSのリリースにより3D可視化テクノロジーの驚異と重要性を多くの人々に認識させた実績があります.目新しいことに率先して挑戦し,新たな潮流を生み出すのが私の使命と心得ています.

■ 2004年4月13日(火)

PRIMA v3.4.5をリリースしました.対話形式で諸設定を入力する際の画面出力をほんの少し改善しただけです.

Windows NTとXPのレジストリをNTREGOPTで再構築したのですが,サイズは一割も縮まりませんでした.むしろ恐怖の余り心臓が縮み上がりました.無事終了し,安堵しました.

■ 2004年4月14日(水)

3月20日に言及したことですが,心ならずも鬱陶しい苦役(RIETAN-2001Tのバグ退治と改良)を強いられる羽目に陥った反動で,VENDとVICSに未だかつてないほどambitiousかつacrobaticな機能を追加するのに熱中しています.今日は「スゲースゲー」を連発しつつ試用しました.こういう斬新な試みにチャレンジすると,コードが枯れるまで長期間を要します.低予算にあえいでいる現状を考慮すると,できれば避けたいところですが,「風車に突進するドン・キホーテ」モードで奮闘しています.私とRubenの年を足すと99才なのですから,この無謀な特攻精神は際だっています.すでにVENDには新機能を組み込み終えました.VICSの方は来月中旬ごろまでには完成させたいです.

業務用ソフトとして有償化するかどうかについては,理想と現実の食い違いから迷いに迷っています.そもそも商売道具であるコンパイラやパソコンを買うのにも事欠いている銭形金太郎的研究者が,ソフトを無償配布していること自体が不自然です.机の両脇で騒音を発しているヘタレPC2台を交互に眺めながら,そう思いました.

支援者などろくにいませんし,今年度のプロジェクトおよび所属グループの予算はなんと昨年度の約2割減です.独法化された研究所は,外部資金を獲得の努力なしには維持していけません.組織および個人レベルで同様の状況下にあります.

商用ソフトとして販売して得た利益(一種の外部資金にほかなりません)をVENUSの改良につぎ込むか,かねてから覚悟している通りVENUSの開発を打ち切るのか ーーー どちらを選ぶべきなのでしょうか.別な選択肢はないのでしょうか.

■ 2004年4月15日(木)

Mac OSおよびWindows用RIETAN-2000 Rev. 1.8をリリースしました.Fortran 90の文法に従って数多くの行を書き換えました.行番号,GO TO,DO+行番号,CONTINUE,IF文が2行続く箇所を極力減らしました.多くのIFブロックをSELECT CASE 〜 END SELECTで書き直しました.上から下へ自然に流れていくような素直なコードとなり,すっきりしました.機能はまったく変わっていません.

Rev. 1.8の総行数をカウントしたところ,22,060行でした.

■ 2004年4月16日(金)

PRIMA v3.4.6をリリースしました.RIETAN-2000と同様に,ソースコードを美容整形しました.ゼロの状態からFortran 90で書き起こしたソフトなので,もともと非常にきれいなコードなのですが,ますます磨きがかかりました.新たな機能は追加していません.

ソースコードのあちこちを書き直しながら感じたのは,実に単純かつ小規模なプログラムだということです.複雑怪奇なRIETAN-2000とは比較にならないほど,こじんまりまとまっています.やはり,これはVENUSの付録以外のなにものでもありません.アルゴリズムはPRIMA.pdfに詳しく記述したので,同様なソフトを書くのはさほど難しくないはずです.

ついでにJ-PARCをターゲットとしたVENUS利用規制について言及しておきましょう.ユーザーの分まで含めたライセンス契約が必要,云々という奇抜なヤツです(4月6日参照).こういう変化球を直球と勘違いしたら,打ち返せません.「J-PARCは一千億円を超すような巨大プロジェクトなのだから,軍資金はたっぷりあります.若くて優秀な人材も確保できるでしょう.ご自分達でVENUSを凌駕するソフトを開発されたらいかがですか.」というのが本音です.私が口癖のように唱えている建設的破壊でなく,建設的挑発ですね.あくまで前向きの姿勢で使用制限措置を打ち出したのです.

VENUSはボンビー研究者がなけなしの研究資金をはたいて創り上げた戦略ソフトです.J-PARCを「結晶学の墓場」呼ばわりしている男にVENUSを使わせてほしいなどと頭を下げたら,面目丸つぶれではありませんか.墓場の住人であることを認めることになります.そんな屈辱を堪え忍ぶよりは,自主開発にチャレンジし,そのゴーマン男を見返してやるくらいの覇気を見せてほしいです.手始めに,PRIMA.pdfを参考にしてMEM解析ソフトを試作してみたらいかがでしょうか.

大分前から進化が止まったglut+gluiの組み合わせによるGUIの使い勝手には限界があります.すでにVENUSのようなお手本が存在するのですから,今後20年位は通用しそうなオリジナル可視化ソフトを自作し,無償で配布してもらいたいです.プラットホームはWindowsに絞ることをお奨めします.あれもこれもと欲張ると,中途半端なソフトに成り果ててしまいます.J-PARCで素晴らしい3D可視化ソフトが開発された結果,VENUSが過去の遺物として忘れ去られたとしても,私は草葉の陰で新作ソフトの誕生と普及を喜び,感涙にむせぶことでしょう.

■ 2004年4月17日(土)

PRIMA v3.4.7をリリースしました.OPEN文およびREAD文のうち,エラーが起きたときジャンプするようになっている箇所と行き先付近を書き換え,GO TO文を大幅に減らしました.v3.4.6同様,単にソースコードがすっきりしただけです.

■ 2004年4月18日(日)

TOF粉末中性子回折用RIETAN-TNについてのWebページに,Vegaで測定したTOF粉末中性子回折データのリートベルト解析で得たR因子をもう一組(Vega #2)追加しました.手元にあったデータを再解析した結果です.

あらためて三つの表を眺め,プログラミングの難しさを実感しました.ついでにRIETAN-TNにおける最重要な改良個所であるSUBROUTINE DOUBLE_CLUTCHのソースコードに久しぶりに目を通したところ,あまりにも凝りすぎており,第三者には理解しにくいのではないかと感じました.注釈を入れておくべきだったのでしょうが,未来のないソフトのためにそこまでやる気がしませんでした.

希望者全員に提供してきたRIETAN-TNですが,4月23日(金)を期限として無償配布を終了することにします.もういいでしょう.こんな過剰サービスを続けていると,気が散り,時間を浪費するだけです.なおRIETAN-TNは,原則としてRIETAN-2001Tで解析した強度データを再解析するためにお渡ししています.入手をご希望の方は,このことをご了解いただいた上,期限までに私に送付を依頼してください.

信じられないでしょうが,装置グループからはRIETAN-2001Tのバグの詳細に関する問い合わせは未だにありません.この不可解極まりない無反応ぶりには唖然とするばかりです.聞かれれば,なんでも丁寧に教えてあげたのですが,もうその気も失せました.

■ 2004年4月19日(月)

NextFTP4 v4.30がリリースされました.エクスプローラやデスクトップとの間で、ドラッグ&ドロップによるアップロード・ダウンロードが直接行えます.

■ 2004年4月20日(火)

Drag'n Drop CD+DVD4 Power Editionの先行ダウンロード販売で,3BOXという機能限定廉価版を2079円(アップグレード料金)で購入しました.別にバージョンアップしなくてもよかったのですが,「フランスのPrassi Technology社製次世代ライティングエンジンPz MDKを搭載」という惹句に誘惑され,少々奮発してしまいました.Pz MDKはファジー理論に基づいたマルチプラットホーム・ツールキットです.片面2層式のDVD+RやBlu-ray Discへの書き込み機能を隠しもっており,将来はこれらも焼けるようにするらしいです.

なお,Drag'n Dropで作成したISOイメージファイル*.isoはSimDisc3DAEMON Toolsを実装)でマウントできます.ただしCDフォーマットはMODE1に設定する必要があります.

Andrew Naiden氏がDAEMON Toolsを無料で配布しているのは驚くべきことです.イメージファイルを作成してくれたら言うことなしですが,そこはベンダーにまかせ,ライセンス料で儲けているのでしょう.

■ 2004年4月21日(水)

RIETAN-2000 Rev. 1.8.1をリリースしました.Rev. 1.8に引き続き,Fortran 90の文法に従ってソースコードを書き直しました.RIETANの心臓部であるSUBROUTINE CURFITはとくに念入りに手を入れ,GO TO文を一つに減らしました.Gauss-Newton法による非線形最小二乗において,格子定数(の一部)が発散したとき正常に精密化が進まない恐れがあるという不具合を修正しました.

■ 2004年4月22日(木)

引き出しを整理していたところ,「セラミストのためのパソコン講座」のCD-ROM書籍(売り切れのため絶版)がひょっこり出てきました.懐かしさの余り,mozillaでざっと眺めてまわりました.パソコン講座は「セラミックス」に2000年4月から2002年7月まで28回にわたって連載されました.このCD-ROM書籍にはRIETAN-2000,VEND,VICSが収録されました.意外かつ残念だったのは,本CD-ROMのために提供されたのがこれら3本のソフトだけだったことです.これ一つとっても,自分が一般研究者から懸け離れた別格的存在であることが窺えます.

振り返ってみると,誰にも頭を下げず,言いたい放題のことを言い,いやなことからは逃げ続け,列の外で好きなことにだけ熱中してきました.完全に浮世離れしています.専門知識・技術はほとんど独学で身につけました.旧無機材研の管理者不在・野放し・サファリパーク文化の象徴を自負しています.こせこせしたポイント制評価システムのもとでは,こういう自由人は窒息してしまいます.息の長い仕事にじっくり取り組める雰囲気ではありません.逃げ切りに近い年寄りは別として,若手研究者は今や点数稼ぎに追われる身です.可もなく不可もない無個性な研究者が増加の一途をたどるような気がします.

■ 2004年4月23日(金)

RIETAN-2000 Rev. 1.8.2をリリースしました.線形制約条件式において非等方性原子変位パラメーターβ23を表す'beta23'が使えないというバグを修正しました.産総研の鹿野昌弘氏のご指摘です.

■ 2004年4月24日(土)

予告通り,RIETAN-TNの配布を昨日で停止しました.これでRIETAN-2001Tのターミネーターとしての役割を終えました.

RIETAN-2001T(改造版も含む)で得た解析結果の発表は厳禁していることをあらためてここで通告しておきます.今後もRIETAN-2001Tを使い続けたなら,恥の上塗りとなるばかりか,研究者としてのモラルを問われることになるでしょう.

■ 2004年4月25日(日)

キル・ビル Vol. 2」,近所のシネコンで鑑賞して来ました.血なまぐさいバイオレンス映画の割には,救いようのない結末でありませんでした.続編として子連れ狼の女性版が製作されるのは必至ですね,こりゃ.ビルは死んでしまいましたから,「キル・ビル Vol. 3」というタイトルにはならないはずです.未来の敵のうち二人は容易に想像がつきます.一人はヴァニータ・グリーンの娘,もう一人は両目をえぐり取られた女座頭市でしょう.両腕を失った女については予想がつきません.公開を心待ちにしています.

■ 2004年4月26日(月)

現在,Rubenはモスクワ大学コンピュータ科学科グラフィックス・メディア研究室の教授が執筆したコンピュータ・グラフィックスの教科書を読みながら,VICSに強力な新機能を追加しつつあります(3月20日,4月14日参照).驚くべきことには,この教科書の内容はすべてWebで配布されていたそうです(現在は改訂中).気前が良すぎます.日本の大学だったら,パスワードなしにはダウンロードできないようにすることでしょう.この教科書には,なんとコンピュータゲームの製作法まで書かれています.ゲーム業界が有力な就職先ということなのでしょうか.

■ 2004年4月27日(火)

予告通り,Mac用RIETAN-2000配布ファイルrietan2000m.tbzにDarwin用RIETAN-2000(コンソール・アプリケーション)を追加しました.RIETAN-2000X Folderに一式入っています.まずReadme_Darwin(日本語)をお読みください.UNIXに習熟しているRIETANユーザーでしたら,これを読むだけで,ただちに使いこなすことができるでしょう.2 CPU機で動かすと,快適そのものです.

■ 2004年4月28日(水)

長期間にわたりVENDとVICSに業務用を強く意識した機能を追加すべく奮闘して来ましたが,この程ようやく完成しました.

新機能とは,ベクトル画像を含むEncapsulated PostScript (EPS)ファイルの出力です.EPS形式のグラフィックデータファイルは現在のVENDとVICSでも出力できます.しかし,その中身はJPEGやTIFFと同様,ビットマップ(ラスター)データにすぎません.分解能(ピクセル数)に限界があるだけでなく,拡大・縮小すると画像の質が劣化します.

一方,ベクトル画像を含むEPSの場合,オブジェクト(線,円弧など)に関する情報を含むため,分解能の制約を受けず,拡大・縮小しても画像の質が低下しません.とくに単位胞や等高線がくっきり(ねぼけたり,かすれたりせずに)出力されます.もちろんIllustratorやPaint Shop Proなどのグラフィックソフトウェアで直接読み込み,加工できます.

3Dグラフィックス(OpenGL)と2Dグラフィックス(PostScript)との間の橋渡しは,クイックソートを駆使した名人芸的プログラミングにより実現しました.OpenGL→PostScript変換エンジンは,他のグラフィック・ソフトウェアにも組み込めるように設計されています.

半透明の配位多面体や等値曲面は保存できませんが,メッシュやドットで表現した等値曲面は大丈夫です.実用には差し支えないと思われます.

4月14日の掲示板に記したように,VENUSを商用ソフト化し,それで儲けたお金をソフト開発に回すか,あるいはソフト開発を来年度以降も続行するのは断念し,無料ソフトとして配布し続けるか,どちらがいいのか,散々迷いました.結局,VENUSを開発し始めたときの初志を貫徹し,できるだけ多くの人々,とくに学生や手元不如意の研究者にベクトルグラフィックスの醍醐味を味わっていただくため,後者を選びました.すさんだ情熱の炎は自ら消すべきです.泉ーRubenのコンビによるソフト開発を何年か先まで続けてゆきたいという願いは,ここに潰えました.かくなる上は,これまで二人で作成したソフトに磨きをかけた上,潔く散っていく所存です.

莫大な血税が注ぎ込まれるJ-PARCプロジェクトにVENUSを無償提供する必要はないという考えは,以前と変わっていません.願わくば,VENUSを葬り去るようなソフトを自力で世に送り出してほしいです.そんなこともできないようだと,「J-パー苦」と罵られても仕方ありません.

ということで,上記の新バージョンVEND v5.0とVICS v4.0を含むVENUS.tbzを本日アップロードしました.新機能の使い方についてはVENUS.pdf中のSect. 14(VICS)とSect. 11(VEND)をお読みください.連休の間に新バージョンを試用していただければ幸甚です.新形式EPSファイル出力のルーチンはできたてのほやほやなので,完璧に動作するとはかぎりません.不具合が見つかりましたら,遠慮なくご指摘ください.

■ 2004年4月29日(木)

VEND v5.0.1とVICS v4.0.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.ベクトル画像を含むEPSファイルを出力するには最低512 KB,できれば1 GBのメモリーが必要となります.昨日リリースしたVENDとVICSでは,メモリーが足りない場合,空のファイルを出力してしまうということを物材機構の高田和典氏が指摘してくださいました.それでは不親切極まりないので,"Insufficient memory to output an EPS file with vector data"というエラーメッセージを出力するよう改めました.

VENDとVICSに限らず,3Dグラフィックのような重い処理を行うには,512 KBでは心許ないです.デスクトップ・マシンの場合,今やRAMは安いですから,1 GB以上に増設することをお奨めします.

■ 2004年4月30日(金)

IrfanViewの"About the author"によると,作者のIrfan Skiljan氏はこのフリーソフトウェアを配布し始めてから,少なくとも12人のご婦人たちから,あなたの子供が欲しいと迫られたそうです.彼女たちはヌードの写真を送るべきだったと茶化していました.

やはりフリーソフトウェア作者である私の場合,ご婦人方から多少なりともアクションがあったかというと ーーー 黙して語らず,ということにしておきます.

■ 2004年5月1日(土)

4月25日に引き続き,「キル・ビル」関連の話題です.Vols. 1 & 2を通じ数多くの楽曲がバックグラウンドに流れました.その中で私がもっとも気に入ったのは「ロンリー・シェパード」でした.Vol. 1中で,服部半蔵から日本刀を受け取るシーンとエンド・クレジットで演奏される寂寥感が漂う音楽です.ザンフィルが奏でるパンフルート(葦笛)の音色の美しさは筆舌に尽くしがたいです.

■ 2004年5月2日(日)

昨日は約150名が出席したパーティーに参加しました.大勢の人が集まる場が苦手な私ですが,精一杯社交的に振る舞うよう努めました.若かりし頃は非常に無口で,遠慮がちにボソボソ喋るという感じでした.幾星霜を経て,いつしか,くだらない話を面白おかしく大声で喋りまくるのを得意技とする軽佻浮薄なオヂに成り果てました.20代の若い女性二人(初対面!)を相手に15分ほど立ち話しましたが,何度も笑い転がらせたくらい舌が回り続けました.メインのパーティーの後,隣の部屋で二次会となったのですが,最後に馬脚を現しました.お開きの挨拶をし,二次会をシメて欲しいと主催者に言われ,それだけは勘弁してくれ,と逃げ回ったのです.乾杯の音頭や閉会の辞のようなことを時々頼まれるのですが,一度も引き受けたことがありません.そんな簡単なセレモニーを毛嫌いするほどシャイな性格が,我ながら情けないです.

■ 2004年5月3日(月)

プログラマーにもいろいろなタイプの人がいます.複雑なアルゴリズムを構築するときは,まずフローチャートを作成するという人といきなりコードを打ち込む人が両極端にいます.私は後者です.ブラインドタッチで入力しまくります.私は英語論文も直接英語で書きます.事前に構成も何も考えません.プログラム・英語論文ともラフに書いておいてから自宅に持ち帰り.音楽を聴きながら,あるいはテレビを見ながら綿密にチャックし,手直しするのが常です.このような気の散りやすい悪条件下でプログラムや論文を仕上げられるというのが私の特技です.

■ 2004年5月4日(火)

ベクトル画像データ入りEPSファイル出力エンジンをVENDとVICSに実装し,画像の質を大幅に改善したのは久々の快挙でした.しかし,これで満足する訳にはいきません.VENDの次期バージョンでは,3方向のピクセル数を動的かつ自動的に変えられるようにするつもりです.VENDのパフォーマンスを向上させるこのバージョンアップを終えれば,VENUSがプロフェッショナル仕様のソフトウェアに成熟したことになります.VENUSはNIMSの超伝導プロジェクトの予算で開発しているため,超伝導体の研究に直接貢献する当該改良は,私の心中で義務に近くなっています.VENUSプロジェクトを経済的に支えてもらった恩義に報いたいのです.感涙にむせぶ方の顔もいくつか浮かびます.プログラムの改変には相当な手間がかかりますが,近日中になんとか実現したいです.

■ 2004年5月5日(水)

ごあいさつ」をお読みになればおわかりのように,当Webサイトは多くの人々のために役立つ情報とソフトを提供するべく開設しました.エクスプロイテーションHPを指向している訳ではありません.手垢にまみれた話を蒸し返すことになりますが,MEEDとRIETAN-2001Tのバグに関する情報は無用でしょうか.粉末回折データにおいて反射の回折強度が弱いということが必要不可欠な構造情報であるのと同様に,両ソフトの欠陥を広く知らしめるのは有意義なことです.当事者は隠蔽したがるでしょうが,ユーザーがもっとも知りたがる事実であり,包み隠すのは科学者にあるまじき卑劣な行為です.

それでは,メジャーな資格・採用試験の問題にある種の欠陥が含まれている,ということは指摘すべきことでしょうか.私は20代のとき,これに気づきました.最近,その話題にメールで触れる機会が偶然あり,再び意識するようになりました.先日,東京の大型書店に立ち寄った折,その資格試験の問題集をくくって何問かチェックしたところ,昔となんら変わらぬ愚行が依然として繰り返されていることがすぐわかり,唖然としました.ということは,これに気づいているのは私一人ということでしょうか(unbelievable!).採用試験の方が現在どうなっているのかまでは調べませんでした.どの試験のどういう欠陥なのかについては口をつぐんでおきますが,試験の目的を考慮すると,重大な不具合に相違ありません.

■ 2004年5月6日(木)

リートベルト解析,ひいてはMPF解析(手前みそ)は粉末回折データから構造に関する情報を最大限に引き出すために考案されました.自分自身の研究生活を振り返ってみると,己の限られた能力・体力・気力を100%近く使い切ったという気がします.その結果,望外の成功を収めることができました.にもかかわらず,自分の心情が満足・喜び・幸福から程遠いのはなぜでしょうか.憂愁と空しさで胸一杯です.「退屈な話」(チェーホフ)の主人公に瓜二つ.いや,もっと寒々とした心境かもしれません.

■ 2004年5月7日(金)

Co系超伝導酸化物の化学組成と結晶構造に関する論文
K. Takada et al., J. Mater. Chem., 14 (2004) 1448-1453.
が購読者以外もWebでアクセスできるhot article(Interview with the authorsつき)に選ばれました.本研究により,その超伝導体がNatureに掲載された論文での記述と異なる化学組成Na0.343(H3O)0.237CoO2・1.19H2Oをもつという衝撃的な事実が明らかになりました.Coの酸化状態は約+3.4となります.層間にオキソニウム(H3O+)イオンが含まれていることをラマン散乱により実証するとともに,結晶構造と電子密度分布をそれぞれ放射光粉末X線回折データのリートベルト解析とMPF解析により決定しました.本超伝導物質についてこれまで発表された理論・実験的研究はすべてオキソニウムイオンの存在を見落としていたので,根本的な修正を迫られることになります.要するに,どれも砂上の楼閣だったということです.

■ 2004年5月8日(土)

gnuplot v4.0が4月16日にリリースされたことを知り,Windows用RIETAN-2000配布ファイルrietan2000w.tbz中のgnuplotをその最新版に更新しました.gnuplotスクリプトファイル*.pltとReadme_win.txt中のgnuiplot関連部分が一部修正されています.rietan2000w.tbzのサイズは2倍以上に膨れあがり,4 MBを越してしまいました.gnuplot v4.0の詳細については,gnuplot.pdfをお読みください.

■ 2004年5月9日(日)

2月18日に書いたように,私は,かの有名なDAEMON Toolsを実装した仮想CD/DVDソフトSimDisc3でイメージファイルを作成・マウントしています.最近,SimDisc3形式のイメージファイル*.xmd(≒ *.mds)ばかりでなくDrag'n Drop CD+DVD4 Power Edition形式のイメージファイル*.di(≒ *.iso)もDAEMON Toolsでマウントできることを知りました.つまり,いったん*.diを作成すれば,後はDAEMON Toolsにおまかせ,で大丈夫なのです.SimDisk3などでなく,DAEMON Toolsと互換性のある4種類のイメージファイルを作成できるAlcohol 120% Proを買うべきでした(注:その後,自費購入).

実は,純正DAEMON Toolsは昨日,日本語情報を参照しながら初めて試用しました.凄すぎますね,これは.なんとMac用のToast Titaniumで作成したイメージファイルも直接マウントできます(拡張子不要.ファイルの種類をAll filesと指定).Windowsユーティリティに優れものソフトとして追加しました.

■ 2004年5月10日(月)

スケ番ヤンキーとヒラヒラメルヘン(ロリータファッション)女の友情を描いた「下妻物語」が5月29日から公開されます.下妻は車で何度も通り抜けたことがあります.砂沼サンビーチにも2,3回行きました.この映画のラストでイチゴ(土屋アンナ)がリンチされそうになっているところへ無免許運転の原チャで桃子(深田恭子)が殴り込みをかけるのですが,その場所は私の両親が眠っている(ということは,いずれ私も葬られる)墓地なんです.といって,映画館まで足を運ぶ気はありません.連休中にバイオレンス映画のDVDを2本鑑賞したので,もう十分ですし,ロリコンと誤解されるのは嫌ですから.

原作者の「嶽本野ばら」って名前.DAEMON Tools同様,凄すぎます.なにしろ男性なので…

■ 2004年5月11日(火)

Windows用RIETAN-2000 Rev. 1.8.3を含むrietan2000w.tbzをアップロードしました.rietan*.f90において,実際には使われていない引数とそれらの宣言文を除去しました.Compaq Visual FortranのUNIX互換サブルーチンGETARGでは,最初の引数は2バイト整数ですが,これまでは4バイト整数とみなしていました.実害はないものの,このバグを一応修正しておきました.本バージョンからCompaq Visual Fortran v6.6C3でコンパイル・リンクし始めました.

VEND v5.0を先月末にリリースしたばかりですが,早くもv6.0が出現しました.ポインターを使って一次元配列を動的に確保・分割する技法によりa, b, c軸方向のピクセル数に関する制限を撤廃しました(5月4日参照).PRIMAと同様に,メモリーの許す範囲内でピクセル数を増やせます.とくに格子定数a, b, cの差が大きい化合物で画質が向上します.

■ 2004年5月12日(水)

Mac OS・Darwin用RIETAN-2000 Rev. 1.8.3を含むrietan2000m.tbzをアップロードしました.一日遅れのMac版のリリースに突っ込みを入れないでください.

■ 2004年5月13日(木)

RIETAN-2000 Rev. 1.8.4を含むrietan2000m.tbzとrietan2000w.tbzをアップロードしました.SUBROUTINE DERPHIをSELECT CASE文を使って書き直しました.Mac OS版においてPRIMAによるMEM解析用のファイルの拡張子がfosでなくmemになっていたというバグを修正しました.

もっとも,Mac OS用RIETAN-2000で作成した*.fosはWindows・UNIX用PRIMAでは読み込めません.バイナリーファイルの形式が異なるためです.Mac OS用のVENDとVICSが存在しない以上,PRIMAをMac OSに移植する気はまったくありません.

Case Western Reserve University(クリーブランド)のF. Ernst教授から,RIETAN-2000(Terminalアプリケーション)用のReadme_Darwinが日本語で書かれているため,その使い方がわからないというお叱りのメールをいただきました.英訳してくれたら絵葉書を送ってくれるそうです.恥ずかしい話ですが,自分用のメモをReadme_Darwinとして配布ファイルに含めていました.手抜きを反省し,上記のrietan2000m.tbzでは英文ファイルに差し替えました.

RIETAN-2000のWebページで配布しているPDF文書Notes.pdfを更新しました.リンクを一つ張り直しただけです.

■ 2004年5月14日(金)

VEND v6.1とVICS v4.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.VENDとVICSでは,ベクトル画像データを含むEPSファイルを出力する際,OpenGLオブジェクトを格納する配列を動的に割り付けます.前バージョンではこの配列のサイズを固定していましたが,今回,必要最小限のメモリーを割り当てるよう改良しました.

■ 2004年5月15日(土)

私はデジタル家電の「新三種の神器」であるDVDレコーダー、薄型テレビ、デジタルカメラはもとより,ケータイさえ所有していません.購買意欲は限りなくゼロに近いです.一方,今どき,人が見向きもしないものにしばしば執着します.最近も,絶版の文芸書を定価の約2倍で注文したばかりです.

米国コロラド州のボールダー(高橋尚子がトレーニングしてる所)を1993年に訪れたとき,知人が「ハロー・ドリー」というミュージカルに招待してくれました.ディナーを食べ,ワインを飲みながら観劇しました.翌朝,ボールダーの目抜き通りを散歩すると,大道芸人が何組もパフォーマンスを繰り広げていました.その中の一つが気に入り,大分長いこと,飽きもせず眺めていました.知人には申し訳なかったですが,「大道芸の方がよほど面白いわい.」と心の中でつぶやいていました.へそ曲がりの極致です.

その折りに自分へのおみやげとして買ったのが「コシ・ファン・トゥッテ」(2003年2月2日,4月6日,4月21日,6月5日参照)のCD3枚組でした.こんなマイナーなものを持ち帰るところが,いかにも私らしいです.

7,8年前までは中性子ビームを求め,毎年,世界中を放浪していました.大半は顔パスで測定してもらいました.いつしか粉末中性子回折データの解析にも諸国漫遊にも興味を失い,現在はソフト開発にフォーカスしています.考えてみると,これも人が見向きもしない(やろうとしない or やれない)ことにほかなりません.回折データを測定・解析して論文を書きまくるのは飽き飽きしたし,もともと好きじゃない,それに他人でもできることを己がやるまでもない,と斜に構えています.

現実問題として,RIETAN-2000やVENUSのような巨大アプリケーションを製作できる(製作意欲がある)人材はほとんど見当たりません.ちょっとしたユーティリティーを拵えたり,既成ソフトの一部を書き換えたりするのが関の山でしょう.物質や材料に興味のある人は掃いて捨てるほどいますが,多大な成功を収める人はほんの一握りです.よほど画期的な新物質や新材料でも発見しなければ,高い評価と知名度は得られません.

こういう状況下で,これまで培ってきたスキルを存分に活用し,己の存在意義を最大限に高めるには,プログラミングがうってつけです.もっとも,プログラミングが三度の飯より好きだからこそ,それにのめり込める訳です.好きこそ物の上手なれ,です.

昔は山に登ったり,ギターを弾いたり,英会話を習ったり,オーディオに凝ったりしました.それぞれ楽しかったですよ.しかし,三十路に入ってからコンピュータにのめり込み,それ以来,すべて壊滅状態となりました.希少価値があり,しかも自分が好きで仕方ないことでないと情熱が湧きません.もちろんそんな偏屈な態度でいいとは思っていませんが,今更どうしようもありません.このまま惰性で流されていくしかないでしょう.

嶽本野ばら先生(5月10日参照)によれば,「冗談半分に作ったものであっても,生理的にお気に召してしまえば,それに価値を与える.他人の評価や労力を査定の対象とせず,自分自身の感覚で,これは嫌い,これは好き,と選別していく,究極の個人主義こそが,ロココの根底を支えている」(下妻物語)とのことです.どうやら私はロココの精神を宿して,この世に生まれてきたようです.

■ 2004年5月16日(日)

ふと我に返ると,Drag'n Drop CD+DVD4 Power EditionSimDisc3DAEMON ToolsAlcohol 120%Super ウルトラISOカクテルがDynaBook内でひしめき合っていました.もっとも,CD・DVDがらみのトラブルを避けるために,一本も常駐させず,仮想ドライブとイメージファイルのマウントはDAEMON Toolsにまかせています.幸い,なんの問題も起きていません.

余談ですが,CD・DVD関連用語をGoogleで検索していたところ,悪名高い2ちゃんねるの掲示板に迷い込んでしまいました.2月21日にも「萌え」ってのがわからねえ,とボヤきましたが,2ちゃんねる掲示板にはオヂに理解不能な隠語が氾濫しています.曰く,アボーン,インスコ,鬱だ氏のう,乙,氏ね,尻,スマソ,厨房,漏れ,香具師,割れ,…

2ちゃんねる掲示板の解読には「学術用語辞典 2ちゃんねる編」が必要です.ちょっと調べたら,すぐ見つかりました.後学のために,メモしておきます:2典Plus.メニュー中の索引をクリックしてご利用ください.

「尻」が「シリアル・ナンバー」だったとは…

ちなみに2ちゃんねるでは「萌え」より「ハァハァ」の方がポピュラーだそうです(w

■ 2004年5月17日(月)

ファイル交換ソフトWinnyの作者として逮捕された「天才」プログラマー金子 勇氏が作ったゲームNekoFightはWindows+OpenGL用だと知り,3Dグラフィックソフトの作者として興味を抱きました.戯れに遊んでみましたが,これのどこが凄いの?という印象しか受けませんでした.天才という言葉を安売りすべきではありません.

■ 2004年5月18日(火)

rietan2000m.tbzをアップロードしました.Darwin用RIETAN-2000関連の更新です.データベースファイルasfdc,spgra,spgriの行末がCRだったのをLFに変えました.環境変数lst2cifをLST2CIFに修正しました.環境変数中のアルファベットはすべて大文字とすべきでした.Readme_Darwin中で,「Programsフォルダは~/Applicationsの下に置く」と書かれていたのを「Programsフォルダは/Applicationsの下に置く」と修正しました(和訳しています).すべてCase Western Reserve UniversityのErnst教授のご指摘です.

■ 2004年5月19日(水)

窓の手 2004がリリースされたので,さっそくDynaBookにインストールしました.アンインストールした前バージョンの設定はそっくり再利用できました.ただし,旧バージョン削除後も窓の手のフォルダとその中の設定ファイルはそのままにしておいて,新バージョンをインストールしました.

■ 2004年5月20日(木)

VICS v4.3を含むVENUS.tbzをアップロードしました.

テキストファイルの行末がCR(Mac OS), LF(UNIX), CR+LF(Windows)のいずれであっても,VICSで直接読み込めるようにしました.この新機能はVICSの利便性を大幅に高めるにちがいありません.なお,VENDでは以前からこれら3形式のテキストファイルを入力できるようになっていたはずです.

結晶データを読み込んだ後,単位胞の体積をOutputウィンドウ中に表示するとともに,VASPが出力するファイル*.outから元素記号を読み込む際に生じるトラブルを解決しました.それぞれ中山将伸君(客員研究員としてMITに滞在中)の要望と指摘への対応です.

VENUSの開発・改良は最終段階に入りました.バグや不具合はなるべく早くご報告ください.締切前の駆け込み的機能追加の要望も歓迎します.

■ 2004年5月21日(金)

RIETAN情報を公開されている坪田雅己氏は博士号取得後,原研(SPring-8)でポスドクとして放射光を利用する研究に携わっておられるそうです.彼の依頼で,m.Tubo's Pageへのリンクを張り直しました.

■ 2004年5月22日(土)

PRIMA.tbzをアップデートしました.PRIMA.pdf中の回転行列Rをイタリック・ボールドで表現するよう修正しました.

■ 2004年5月23日(日)

無料Visual C++コンパイラがMSDNで手に入るということを知りました.Visual C++.NET 2003と同じ最適化コンパイラがコマンドラインで使えます.Microsoftも太っ腹になったものです.

■ 2004年5月24日(月)

再三再四ということになりますが,RIETAN-2000とVENUSを使用する上での留意点をお知らせしておきます.

VEND v6.0とVICS v4.0以降,両ソフトはプロフェッショナル仕様の3Dグラフィックソフトへと脱皮しました.今やPRIMAだけでなくVENDとVICSもスケーラブルになりました(ときには再コンパイルが必要ですが).ベクトル画像データ入りEPSファイルを出力し,ピクセル数の非常に多い3Dデータを解析・可視化するには,メモリーをたっぷり積んだ高速マシンを使用することをお奨めします.

もう一つ念を押しておきたいのが,RIETAN-2000,PRIMA,VEND,VICSを互いに連携させる際には,すべて最新版を取り揃える必要があるということです.たとえばRIETAN-2000の場合,入力ファイルのひな形*.insはもとより,Windows用バッチファイル*.batに至るまで最新配布ファイルに含まれているものを使用すべきです.また粉末回折データをPRIMAで解析するときは,*.mem(テキストファイル)でなく*.fos(バイナリーファイル)をPRIMAに読み込ませなければなりません.

要するに,ソフトが複雑になるのを避け,テストに必要な手間を省くために,旧バージョンとの互換性を無視して上記4つのソフトをバージョンアップしているのです.ユーザーの困惑を顧みている余裕などありません.Version historyへの記載から漏れた細かいバグや不具合の修正は何度もありました.新旧バージョン混在環境では,何が起こるか私自身にも予想がつきません.そういうことのないよう十分ご注意ください.

現時点でのRIETAN-2000,PRIMA,VEND,VICSは,それらの最新版だけを互いに連携させることを念頭に設計・製作しています.他のソフトについては,わずかにEXPOとの間でテキストファイル(*.ffoと*.ffi)のやりとりを可能とするに留めています.

上記4つのソフトは,もとより私の趣味嗜好の産物です.好き勝手に振る舞い,自己満足の世界に浸り切っているロココな人間(5月15日参照)は,旧バージョンとの互換性や人様の作ったソフトとの連携など歯牙にもかけません.それでどこが悪い,と開き直っています.商用ソフトでない以上,自分らにとって不要な機能まで組み込むのは過剰サービスであると同時に,時間の浪費です.

そんな閉鎖的仕様では自分の研究に差し支える,という御仁は他のソフトとの接続を私に業務委託するか,共同研究という形で依頼すればよいだけのことです.もっとも,そういう「雑用」に私が応じるとは限りません.ソフト開発の経費のほとんどすべてを負担してもらっている超伝導プロジェクトの要望でしたら,義務に近いですから,一も二もなく引き受けるでしょうが.

■ 2004年5月25日(火)

PRIMA.tbzをアップロードしました.もはやRubenと一緒に働くのも長くないので,ME Patterson解析ソフトのマニュアルをチェックし始めました.物理量のシンボルなどをPRIMAと共通にしている過程で,PRIMAのマニュアル中にいくつかの修正すべき点を見つけたので,PRIMA.pdfとManual.pdfを改訂しておきました.

上記のソフトはMEP(Maximum-Entropy Patterson method)と仮に呼んでいますが,これでは芸がなさすぎます.なにか気の利いた,響きのよい呼称はないものでしょうか.

■ 2004年5月26日(水)

5月20日にリリースされたOpenOffice.org v1.1.1をFTPでダウンロードし,DynaBookにインストールしました.インストールは簡単です.ATOKで日本語を入力できることを確認しました.Microsoft Officeと操作が微妙に違いますが,MS Officeで作成したファイルを眺めたり,自分一人で使ったりする分にはこれで十分という印象を受けました.

■ 2004年5月27日(木)

一晩熟考した末,最大エントロピー・パターソン(MEP)法ソフトをALBAと命名しました.これはLe Bail法で推定した観測積分強度をMEP法で精密化(改良)する世界で唯一のプログラムです.そういう特徴を強調するため,After Le Bail Analysisの略としました.ランダムハウス英和大辞典によれば,albaとは「プロバンス語で書かれた騎士道的恋愛詩; 特に恋人との夜明けの別れを歌ったもの」だそうです.実にロマンチックな言葉ではありませんか.

最初はALBIONという呼称にしようかと思ったのですが,そういう名前の化粧品会社があることを知り,敬遠しました.

プログラム自体については,画面出力や3Dデータファイルをバイナリー形式(*.pri)に変更し,PRIMAでの改訂も取り入れたv1.2を作成しました.マニュアルのチェックもほぼ終了しました.

ALBAはRIETAN-2000EXPOVENUSとの密接な連携を前提として開発しました.RIETAN-2000とEXTRA(EXPO)はLe Bail解析に,SIRPOW(EXPO)は直接法による位相問題の解決に,VEND(VENUS)はパターソン関数の3D可視化に使います.ALBAにはPRIMAの超高速MEMエンジンの改造版を組み込みました.構造因子の虚数部分や並進操作が存在しない分だけ,エンジンが小型化しました.重畳反射の観測積分強度はALBAによるMEP解析により驚くほど改善されます.RIETAN-2000とVENUSの付加価値を能う限り高めていくという決意のあらわれとして,いずれALBAを世に送り出すつもりです.

VEND,VICS,PRIMA,ALBAを残し,Rubenはこの夏,私のもとから去ります.過去3年間,主として私が上流(プロデュース,デザイン,Webページ製作,宣伝),彼が下流(プログラミング)の仕事に従事しました.Rubenをプログラミングに専念させなかったならば,4本もの新作ソフトを相次いで完成させるのは到底不可能でした.ともあれ,VENUSを商用ソフト化しないということを含め,あらゆる方針は私が独断で決めました.

RIETAN-2000には,MPF解析,電子・原子核密度の3D可視化,Le Bail法で求めた積分強度のMEP法による精密化というオンリーワンの技術が導入されています.それぞれの機能はvisualizationを共通のキーワードとしており,いったんうまく使いこなしたなら,必需品と感じられるはずです.既成ソフトを寄せ集めるのでなくコツコツ自作してきたからこそ,ここまで創造力を発揮できたのだと思います.今後,数多くの人々が泉ーRubenのペアが開発したソフトの恩恵をこうむるでしょう.やりたい放題のことをやらせる価値があるプログラム作家であることを見事に証明してみせた,と広言してはばかりません.

■ 2004年5月28日(金)

ここのところ,連日連夜,ジャンクメールの到来に悩まされています.迷惑メールの割合は9割以上でしょう.正式なメールを誤って捨ててしまうのが心配です.こういう状況のもとでは,各メールのタイトルを具体的に日本語で書くよう心がけるべきです.ジャンクメールのタイトルはたいてい英語です.

一方,職場にかかってくる電話の場合,約半分がワンルーム・マンションなどのセールスです.もちろんすぐ切ってしまいますが,気が散ること,おびただしいです.今後,各種名簿に電話番号を記載するのはお断りとしたいです.

■ 2004年5月29日(土)

PRIMA v3.4.8を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.前回のバージョンアップに引き続き,GO TO文をできるだけ減らすようソースコードを修正しました.これでソースコードの整形はすべて終了しました.マニュアル二つも少々手直ししました.

■ 2004年5月30日(日)

前言を翻し,昨日「下妻物語」をシネプレックスつくばで観てきました.茨城県知事が女子高生と一緒に鑑賞したのに追随したわけでなく,北川れい子が絶賛していたためです.ほとんど若い女性しかいないところで映画を観るのは,結構勇気が要りました.周星馳がタジタジになりそうなギャグを連発した,脳天気かつ痛快で,なんとなく懐かしい感じのする青春映画でした.日本映画特有のじめじめしたところがなく,ワクワク感と疾走感があるのが気に入りました.

竜ヶ崎桃子が乗っていた原チャVIVA YOUがロビーに展示されていました.ロリ服を着込んだ親子がいました.全身ロリータ・ファッションの客は入場料が1000円にディスカウントされるのです.

ちなみに私のキャラクターは桃子ライクです(5月15,24日参照).「マジで心根が腐ってます.」と私がうそぶいても,しっくり似合います.腐り方は私の方が甚だしいです.桃子はBABY, THE STARS SHINE BRIGHTで働く気はないそうですから…中島哲也監督によれば,この映画は"世の中の常識とか,普通であるという事に全く関係なく,あるモノに夢中になる人の話"だそうです.要するに,「あるモノ」が桃子の場合ロリータファッション,私の場合プログラミングというところが違っているだけです.

■ 2004年5月31日(月)

WindowsユーティリティのWebページにWin高速化 XP+を追加しました.昨年9月から公開された比較的新しいソフトなので,こりゃヤバイかなとおびえつつ試用してみました.全43項目(!)中,38項目をチェックしたのですが,トラブルはまったく発生しませんでした.高い安定性といい,詳細きわまりないWebページといい,学生が一人で拵えたとは信じがたい出来映えです.

これで,Windowsを快適に使うための環境がようやく整ったと感じました.

■ 2004年6月1日(火)

以前にも書いたと思いますが,学術分野では講習会で50名,単行本で1000部が損益分岐点だそうです.「粉末X線解析の実際」の印税振り込み通知が届いたのを機会に,これまでの発行部数を合計してみたところ,損益分岐点をはるか下に見下ろしていました.喜ばしい限りですが,「世界の中心で,愛をさけぶ」の発行部数に比べれば3桁下にすぎません.それにしても,同書のタイトルには恐れ入谷の鬼子母神です.タイトルが読む気が萎えさせる小説も珍しいです.あまりに長いタイトルなので,セカチューと呼ばれているそうな.

■ 2004年6月2日(水)

ALBAのマニュアルを改訂している最中に,このソフトは粉末回折データばかりでなく単結晶回折データも解析できるということに気づきました.しかし,現在入力可能なのは,RIETAN-2000あるいはEXTRAで得られたLe Bail解析結果を収めたファイルだけです.実は単結晶回折データを読み込むルーチンは作成済みなのですが,注釈にしておいたのです.これを活かすだけのことです.

とある女性ファン(注1)から「ALBA ROSAというギャル系ファッションブランドがあるんですよ.」というメールをいただきました.ブランドイメージが●●●●のだそうです(注2).「ふ〜ん.いよいよ面白い.いっそAfter Le Bail Analysis, Resolve Overlapped reflectionS more Accuratelyの略ということで,ALBA ROSAに変えませうか.(注3)」という軽薄極まりない返事を出しました.ALBAというのは腕時計の名前でもあります.こちらのステータスはどうなのでしょうか.

注1: 私でなく,RIETAN-2000のファンです(念のため).
注2: 来た.来た.来たぁ!久方ぶりの伏せ字です.勝手に想像してください.
注3: 一部,旧かなづかいになっている理由が気になって仕方ないという方は,当方までお問い合わせください.

■ 2004年6月3日(木)

連日使いまくっているPower Mac G4は,OSをPantherにアップグレードした後も,ときどき眠りから覚めなくなったり,カーネルパニックに陥ったりしていました.ところが,先日B's Crew X ユーティリティをインストールして以来,そういう障害がまったく発生しなくなりました.Mac OS X対応のB's Crew X driverが魔除けになっている模様です.

■ 2004年6月4日(金)

VICS v4.4とVEND v6.1.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.VICSがより多くの書式で書かれたWIEN2k structファイルとXCrySDen XSFファイルを読み込めるようにするとともに,各原子の最大結合数を25から70に増やしました.両プログラムとも,Preferencesダイアログボックスをほんの少しだけ修正しました.

■ 2004年6月5日(土)

昨年9月初旬にクラクフで開かれたXIX Conference on Applied CrystallographyのProceedingsが届きました.私の基調講演の内容を収めた論文をRIETAN-2000のWebページに記載しておきました.

■ 2004年6月6日(日)

三次元可視化ソフトAVS/Express Viz v6.3が6月28日に発売されます.Mac OS X版もあるそうなので,そのWebサイトを訪れてみました.しかし480,900円(年間保守料金189,000円)という販売価格に度肝を抜かれ,それ以上調べる意欲が失せました.(後略)

■ 2004年6月7日(月)

VENUSファンはご存じでしょうが,電子・核密度と結晶構造の三次元可視化プログラムという,もはや更新されていない日本語ページが当Webサイトの片隅で埃をかぶっています.映画に喩えれば,こいつはVENDとVICSの予告編です.逆境の中での3Dグラフィックソフトの開発に向けて自らを奮い立たせるため,面白おかしく書き連ねました.「こんなソフトを使ってみたい.」という願望が節度なくぶち込まれています.悪趣味の極致.VENUSの開発過程の後半に製作されたPRIMAについて触れていないところが参考資料としての価値を著しく損ねています.

VENDもVICSも,そこで喧伝しているような超弩級ソフトでありません.3Dグラフィックソフトにしては見かけが質素で,学術的な印象が強いです.むしろ慎ましやかな物腰のソフトです.上記の装飾過剰Webページを閲覧し,どんな大傑作なのかと飛びついてみたら,拍子抜けした,という方々が多いのではありますまいか.過大な期待は禁物です.なにしろ,体力・気力・記憶力が衰えつつあるオヂ2名が金力の無さを嘆きつつ細々と拵えた,無骨なソフトなのですから.そこがAVSと大違い.もってけ泥棒的ソフトが超すげーわきゃねーわな,と開き直らせていただきます.

こういう誇大広告じみた,クレージーなWebページは速やかに撤去するのが良識というものです.しかし,このド派手ページは野放図に威勢がよく,独りよがりな情熱がほとばしり,ユーモラスな雰囲気に加え毒ガスの香りまで漂っています.「やりすぎの美学」ですね.まるで香具師 ーーー いやいや,そんな生やさしいものではありません.私が洟垂れ小僧だったころ,チンドン屋という宣伝業がありました.チンドン屋が鳴り物入りで町を練り歩いているようなものです.このハジケっぷりに愛着の如きものが湧き,今日に至るまで廃棄を躊躇し続けております(ごめんね,■■さん).

イプセンの「ジョン・ガブリエル・ボルクマン」森鴎外訳(注:"鴎"は嘘字です)にはシュレンテルの評が添えられています.名文の名訳です.これを一読した後に当該戯曲を読んだら,確実に失望します.廃人同然の主人公には共感を抱けません.無様なだけで,廃人としては大庭葉蔵の方が格上です.

アンドレ・ジードの「狭き門」山内義雄訳(新潮文庫)には石川 淳の跋が収録されていますが,これまた知性と教養に裏打ちされた洒脱な文章です.きりりと引き締まった,過不足のない跋に比べたら,肝心の小説は冗長で,退屈しました.アリサは血の通った人間と感じられません.強いて言えば,作者の操り人形です.

廃人が事切れようが,人形が壊れようが,格別な感情は湧きません.味気なさが募るだけです.

大分脱線してしまいました.要するに,ソフトだろうが小説だろうが,解説と本体の調和がとれていないのは避けるべきなのです.VENUSプロジェクトの臨終(野垂れ死に?)が近づきつつある今,上記Webページは処分した方がよろしいでしょうか.ご意見を伺いたいです.

■ 2004年6月8日(火)

VICS v4.4.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.格子定数α,β,γのうち少なくとも一つがゼロでない標準偏差をもつとき,原子間距離の標準偏差が正しく計算されないというバグを修正しました.計算式が間違っていました.小松一生氏(東北大D2)のご指摘です.VENUS.pdfも少々書き換えました.

■ 2004年6月9日(水)

VICS v4.4.2を含むVENUS.tbzをアップロードしました.昨日のバグ退治は完璧でなく,角度の単位をラジアンにするのを忘れていた箇所がありました.これを修正しました.この不具合も小松一生氏が指摘してくださいました(頭が上がりません).VICSでは,分散共分散行列の非対角項を無視して原子間距離,結合角,ねじれ角の標準偏差を近似計算していることをVENUS.pdf中に明記しました.

関係者(特に名を秘す)のご意見を伺った上,本ホームページにおける電子・核密度と結晶構造の三次元可視化プログラム(6月7日参照)へのリンクをひっそりと復活させました.英語のページを作成して以来,更新を怠ってきたので,あくまで参考程度の遺跡ページとみなしていただければ幸いです.奇抜で自由奔放な文章ですが,嘘はついておりません.

■ 2004年6月10日(木)

帰宅後,岡崎京子の「ヘルタースケルター」を読み,放心状態に.強烈すぎます… この手の過激なマンガには免疫ができてないんだよな.

■ 2004年6月11日(金)

ついにVENUSプロジェクトが終焉の時を迎えました.Rubenは今月末で私のもとを去り,イギリスで新たな職に就くことになりました.2年11ヶ月にわたるVENUSの開発過程では,多くの方々にご協力いただきました.この場を借りて,厚く御礼申し上げます.

VENUSに不具合がありましたら,できるだけ早くお知らせください.まだ対応可能です.

■ 2004年6月12日(土)

PRIMA v3.4.9を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.v3.4.8のテストが不十分で,対称心のない化合物のデータが解析できなくなっていたため,急遽修正しました.

■ 2004年6月13日(日)

「下妻物語」は好評です.キネ旬で川本三郎が絶賛していました.中身はさておき,私が感心したのはタイトルです.古風な感じがするでしょう.意図的にミスマッチの効果をねらっています.原作者である嶽本野ばらの処女作は「ミシン」です.私は文字通り裁縫に使うミシンを思い浮かべました.ところが,おっとどっこい…,でした.タイトルだけでなくストーリー(とくに結末)にも意表を突かれました.続編の「ミシン2」を読まずにはいられません.こむずかしそうなmaximum-entropy Patterson法のソフトの名前がALBAなのには不協和音が響く心地がするでしょう.モーツァルトにも「不協和音」(K.465)という有名な弦楽四重奏曲があります.すべて調和がとれた世界は退屈です.

■ 2004年6月14日(月)

Jamming v3.5.5がリリースされました.検索語入力欄の文字サイズを指定できるようになりました.大分前,作者に要望したことがついに実現したのです.Jammingは毎日のようにお世話になっている最重要のMacユーティリティなので,嬉しい限りです.

「猟奇的な彼女」のDVD,観終わりました.前半のおバカ映画風味が後半になるとしだいに影を潜めていき,ありきたりのラブコメになり果ててしまいました.私の採点では,星三つ(満点:五つ)です.

■ 2004年6月15日(火)

PRIMA v3.5を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.スクリーン出力をほんの少しだけ改良しました.このバージョンからFortran 90コンパイラをIntel Visual FortranからCompaq Visual Fortran Compiler v6.6C3に変更しました.このコンパイラは旧製品ですが,現時点ではIntel Visual Fortranより優れていると判断しました.PRIMAの実行形式ファイルのサイズが612 KBから456 KBに減少するとともに,MEM解析に要する時間がわずかに減りました.

■ 2004年6月16日(水)

Rubenと相談した結果,ALBAはVENUSシステムに含めることにしました.ALBAにはPRIMAのMEMエンジンの改造版を組み込みましたし,ALBAで求めたパターソン関数はVENDで3D可視化できるからです.2種のMEM解析プログラムPRIMAとALBAがVENUSシステムの一部として無償配布された結果,わが国における粉末回折データの解析に新たな潮流が生じたならば,これに優る喜びはありません.

VICS,VEND,PRIMA,ALBAが勢揃いしたところで,フォルダの階層構造やファイル名や配布ファイルも一部変更しました.Programs,Examples,Documentsフォルダにはそれぞれ上記4つのソフトのプログラム,入力例,PDFファイルを収めました.

VICS.exeとVEND.exeはMicrosoft Visual C++.NET 2003で,PRIMA.exeとALBA.exeはCompaq Visual Fortran Compiler v6.6C3でコンパイルしました.いずれもPentium 4用に最適化しました.それ以外のCPUでも問題なく動くはずですが,計算速度は多少低下します.

VENUS¥Documentsフォルダの中を覗きながら,これだけ詳細な英文マニュアル(計144ページ)つきの国産科学技術フリーソフトウェアはまれだと思いました.PRIMAに至っては,アルゴリズムと重要な数式をすべて記述した文書(PRIMA.pdf)まで提供しているのですから,過剰サービスの感が強いです.ここでも「やりすぎの美学」(6月7日参照)をちゃんと実践してました.

善は急げということで,3D Visualization System VENUSのWebページを新装開店するとともに,圧縮ファイル*.tbzを三つアップロードしました.contrdは厳密にはVENUSシステムの一部ではないので,今後はcontrd.tbzという圧縮ファイルとして配布することにしました.

かくして,VENUSシステムは終着駅に到着しました.感無量です.

■ 2004年6月17日(木)

VICS v4.4.3とALBA v1.3を含むVENUS.tbzとExamples.tbzをアップロードしました.

VICSが出力するCIFに関する不具合を修正しました.特殊点の場合,分率座標を'1/2'や'1/4'のように表現していましたが,'/'を使った分数のフォーマットは公式には認められていないようです.'0.5'や'0.25'のような小数フォーマットで出力するよう改めました.中山将伸君(MIT客員研究員)のご指摘です.

ALBAのスクリーン出力'amounts of substances'を'numbers of atoms in the unit cell'に変え,実数を入力するよう改良しました.Lagrangeの未定定数λの初期値やλを調節する係数tが非常に小さいと,それらがゼロと出力されてしまうという不具合を解決しました.ALBAのバージョンアップに伴い,Examplesフォルダ中のALBAフォルダも更新しました.

■ 2004年6月18日(金)

VENUS.tbzを更新しました.ALBA用の二つのPDFファイルを改善しただけです.

■ 2004年6月19日(土)

もう10年以上前に読んだため,プロットはうろ覚えなのですが,横溝正史作「真珠郎」という中編小説があります.世を呪う男が怨念のおもむくまま.一人の美少女(実の娘だったかな)にありとあらゆる悪と犯罪について連日連夜教えまくります.何年にもわたって「ソドムの理想」(2月7日参照)を叩き込むのです.その少女は長じて悪の権化,真珠郎となり,次々に人を殺めます.凶悪な殺人鬼でも一人前に恋をするのですが,恋い慕う相手までは手に掛けられません.そこに深刻な葛藤が生じるという奇想天外なストーリーでした.

個人のblogとか日記とかがWeb上で手軽に閲覧できる時代が到来しました.特定のblogや日記を読むのが習慣となったとします.それは読者に甚大な影響を与えるに違いありません.個人の偏った性格や行状や思考形態が知らず知らずのうちに読者に伝染するからです.

上記の文言は,当掲示板を好んで読むのは控えた方がよいという警告にほかなりません.自作ソフトに関する最新情報を提供しているだけならまだしも,私が面白半分に書き散らかした,どこまで本気かどこまで冗談か判然としない,奇を衒った雑文が相当な割合で混ざっています.なにしろ「人生の意味」を知るには,どの本のどこを読めばよいのかまで明記されているのですから,穏やかでありません(同じく2月7日参照).実際にそれを読み人生の意味を悟ってしまったら,絶望の淵に沈む人も出てくるでしょう.私は後でバレるような嘘は絶対つきませんし,私生活については口をつぐみますが,しばしば心にもないことを軽佻浮薄な調子で書き殴ります.TOF粉末中性子回折用RIETAN-TNについてのように,悲憤慷慨が度を超した結果,渾身の力を振り絞ったプロテストがギャグすれすれになってしまったWebページもあります.強者に立ち向かうのなら拍手喝采ですが,相手にとって不足があり過ぎでは白けるだけです.ドン・キホーテが風車を壊してしまったら,様になりません.

脱線してしまいました.話をもとに戻しましょう.要するに,私は異質なものが相分離し,複雑に混ざり合った状態を意識的に創り出しているのです.Web上で常に自分の気持ちを率直に表現する気はありません.そういう意味では一部創作が入っています.

ときにはアカデミック,ときにはマニアック,ときにはダウナー,ときにはアグレシブ,ときにはペダンチック,ときにはシニカル,ときにはアッパラパーな拙文を読むのを日課としたなら,人格が歪みかねません.純朴な青年(すでに絶滅したか?)にとりわけ精神的副作用を与えます.健康のため読み過ぎにご注意ください(あっ,これはNoelパパのお言葉だった).

■ 2004年6月20日(日)

もはや手元不如意でなくなったので,「寄付・業務委託について」というWebページを削除しました.さらに,最近発表されたPower Mac G5(June 2004)のハイエンド機(RAMを2 GBに増設)を発注しました.年末にはデスクトップWindows機を買うつもりです.今のところ外国出張の予定はありませんが,その余裕も十分あります.じっくり思案しましょう.

経済状態が急に好転し,散財モードに切り替えたものの,銭形金太郎だった時の方が精神的に高揚していたような気がします.戦時中のスローガン「贅沢は敵だ」が「贅沢は素敵だ」に書き換えられたという逸話がありますが,少なくとも私には「武士は食わねど高楊枝」が似合っているようです.

■ 2004年6月21日(月)

東大のN氏から,応用化学科3,4年向けの「無機化合物の構造」という講義にVICSとVENDを用いた3D可視化を盛り込む準備をした,というメールを受け取りました.たとえばダイヤモンド,グラファイト,Siの結晶構造に電子密度分布を重ね,sp3やsp2混成軌道について説明する,といった具合です.学生諸君には大受けでしょう.電子・核密度と結晶構造の三次元可視化プログラムの2節にも書いたように,VICSとVENDは大学教育への応用も念頭に置いて開発しました.東大での講義の教材として使っていただくのは本当に光栄です.「その歴史的瞬間(実は今日)に立ち会わせてもらえませんか.」とN氏にお願いしたのですが,「もっと説明が板に付いてからにしてください.」と断られてしまいました.別に「VENUSの作者として舞台挨拶させてください.」と頼んだわけではないのですが…

■ 2004年6月22日(火)

昨年11月に開かれた国際シンポジウムXV-ISRSのProceedingsのゲラが届きました.Solid State Ionicsに掲載されます.基調講演者は最長8ページも与えられていたのですが,なぜか私の論文は6ページしかありませんでした.ページ数の見積もりを誤ったのでしょうか.長くするのは簡単だった訳ですから,損したような気分になりました.

OpenOffice.org v1.1.2が早くもリリースされました.

■ 2004年6月23日(水)

VENUS.tbzとExamples.tbzを更新しました.PRIMAのマニュアル二つを改訂するとともに,American Mineralogist Crystal Structure Databaseのファイルの内,VICSで読み込めないファイル一つを削除し,新たなファイル一つを追加しました.

■ 2004年6月24日(木)

Win高速化 XP+ v1.81がリリースされました.このソフトにはWin高速化 Advanced XPという製品版もありますが.フリーソフトで十分だと思います.

■ 2004年6月25日(金)

数年前,某氏と昼食を食べながら雑談していたときのことです.リートベルト法は直感的に理解しやすいが,MEMはどうもわかりにくい,という話になりました.彼はMEMとは「エロ写真中のモザイク部分をできるだけオリジナルに近い状態に戻す ーーー そんな感じの技術」だと学生に説明するとのことでした.確かに似ている… いや,単なるこじつけだな.MEMでエロ画像を見事に再現できるなら,そういうソフトが出回っているはずです.結晶中の電子密度分布を再現するのと比べ,桁違いに需要が多いですから,誰かが必ずその手の画像処理ソフトを作るに違いありません.

アカデミック・ソフトの需要などたかが知れています.一方,一般大衆向きの魅力的(強力)なソフトは膨大な数のユーザーを獲得し,商用ソフトして販売すれば確実に儲かります.では,プログラマーにとってどちらのタイプのソフトを開発するのが幸せでしょうか.もちろん,人によって答えは違います.少なくとも私の場合は,一も二もなく後者です.己の才能を頼りに一攫千金を狙うのは男の甲斐性というもの.ただ,30を過ぎてから初めてコンピュータに接した1周遅れの研究者には,前者を無料ソフトとして配布するしか選択の余地がなかったというだけのことです.私が「退屈な話」の主人公と似た心境(5月6日参照)なのは,案外そういうところから来ているのかもしれません.

■ 2004年6月26日(土)

VENUSシステムの製作にあたり,ドキュメンテーション(Webページも含む)には相当力こぶを入れました.Documentsフォルダにはなんと9.96 MBのPDFファイルが含まれています(ちなみにProgramsフォルダは2.76 MBにすぎません).懇切丁寧なマニュアルつくりには膨大な手間(= コスト)がかかるということを実感しました.大変なのはプログラミングばかりではないのです.国立研や国立大の法人化が完了した今,VENUSのような巨大ソフトを組織の全面的支援なしに個人が開発し,かつ無料で配布するのはますます難しくなっていくでしょう.

■ 2004年6月27日(日)

つらつら惟るに,仕事でも私生活でも無駄が多すぎます.初めから無駄を承知の確信犯だったりするから,始末に負えません.挙げ句の果てはアッシャー家のように瓦礫の山を残して崩壊,てなパターンは何度も経験ずみ.

たとえば,当掲示板も無駄の最たるものです.さほど時間をかけているわけではありませんが,毎日書き込み続けると,一年も経てば,相当な時間を費やしたことになります.週に一度くらいのペースで十分です.

無駄の固まりの如き生活を送っている割に,本来やるべきことにはそっぽを向きっぱなし,というケースが多いです.RIETAN-2000の正式なマニュアルを書かずじまいだったのは,弁解の余地のない失態でした.そもそも,オリジナルの講演を毛嫌いし,研究集会にもろくに顔を出そうとしないのだから,研究者失格です.本Webサイトの訪問者で,私のオリジナル講演を聴講したことのある方がどれだけいますか.とにかく,人が沢山集まる場が大の苦手.自発的に出席したことはほとんどありません.

大分前のことですが,私が末席を汚した講演を何回か行った共同研究者から,「泉さんてどんな人なんですか.どんな顔をしているのですか.物質にも材料にも興味ないって本当ですか.(後略)」と何度も(それぞれ別な人から)訊ねられたと聞きました.それほど好奇心旺盛なのだったら,アポイントをとって訪問されたらいかがですか.歓迎しますよ.

大研究室を率いていると誤解されたことも何回かあります.大体,私がそんなリーダーシップを発揮する訳ありません.群れをなすのは大嫌いですし,竜ヶ崎桃子(5月30日参照)同様,猫の額ほど狭い心の持ち主ですから,複数の人と良好な人間関係を長く保つのは無理です.

研究発表の場に積極的に参加し,己の成果をアピールし,顔と名前を売っておかないと,知名度が上がらず,人脈を築けず,アクティビティーが低いとみなされ,講演や執筆を依頼されることはまず無くなり,まして賞と名の付くものなど獲得できない,というのが当然の帰結です.研究の世界はそう甘くはないのです.ところが,なぜかそういうルールは私を避けて通ります.講習会などでの人寄せパンダ(死語?)として人気を博してきましたし,NHK教育テレビの中学地理の時間に登場して喋りまくったことさえあるほどで,それなりに存在感を示し続けているはずです.冷厳な現実を歪曲し,小さな器を大きく見せかけ,努力抜きで目標を達成しようとする根性または念力を備えているのでしょうか.

■ 2004年6月28日(月)

Lhaz v1.20がリリースされました.最近,私は+LhacaでなくLhazを使っています.

■ 2004年6月29日(火)

昨晩,すごいビデオを見てしまいました.といってもポルノではありません.昨日の朝,放送された「はなまるマーケット」の一部です.興味ある方は番組表をご覧ください.ちなみに,そのお方はiBook(オレンジ)で日々名作を生み出しておられるそうな.

VENUS.tbzをアップデートしました.VICS_VEND_manual.pdfとVICS_VEND_readme.pdfを少々修正しただけです.前者は全文にわたってスペルチェックしました.

■ 2004年6月30日(水)

Ruben Dilanianは本日をもってめでたく退職し,イギリスのケンブリッジに向かいます.新しい職場は企業なので,自分の作ったソフトでお金を稼げます.いつ首になるか分からぬまま,フリーソフトウェアしか作ろうとしない私の下で働くより,はるかにましです.浮世離れした頼りないボスで申し訳なかったなあ,とつくづく思います.

4本の強力なソフトを取り揃えてVENUSプロジェクトの幕を下ろすことができ,ほっとしています.貧しいながらも,充実した日々でした.実は,可視化ソフトがもう一本完成間近だったのですが,これはお蔵入りにするしかありません.すでに完成した三つのユーティリティは当面公開せず,手元に留めておくことにします.内一本は,化学結合の性質を理解するのに役立つ4つの物理量を計算するソフトELENです(3D Visualization System VENUS,12.5参照).電子密度さえ求まれば満足する研究者が圧倒的に多い状況の下でELENを配布しても,猫に小判(豚に真珠)でしょう.

■ 2004年7月1日(木)

m@stervisionが★★★★★と採点していた「修羅雪姫」のDVD,観ました.梶芽衣子でなく釈由美子主演のヤツです.m@stervisionと私は趣味嗜好が割とよく似ているので,B級映画のDVDをレンタルするときの参考にしています.映画に関する豊富な知識に基づく蘊蓄も楽しめます.

結論から申し上げると,m@stervisionのご指摘のように,尻切れトンボなのがブーイングものです.予算が途中で尽きたのか,続編を製作するつもりだったのか存じませんが,釈由美子が佐野史郎をぶった斬ってThe Endにしないと,観客(including me)が欲求不満になります.これでは,バグ入りのRIETAN-2001Tを放り出して,「あっしには関わりのねえこって…」とほざいていた時点のI先生止まりじゃないですか.「嫌な渡世だなあ.」とボヤきながらRIETAN-TN製作・配布のために1ヶ月余り黙々と只働きしたI先生を見習って佐野史郎を葬らなければ,修羅の道を突き進むヒロインと言えません.

上記の欠点に目をつぶれば,結構楽しめます.しかし「修羅雪姫」の原作では,雪の母は凄まじい怨念を抱きながら数多くの男と交わり続け,獄中でその恨みの全てを託して雪を産んでから息を引き取ったのです.釈由美子版は,雪の母にまつわる話が綺麗事すぎました.もっと陰惨な死に様を晒してもらわないと,血みどろの復讐に拍手喝采できません.私の採点はちょっと辛くて,★★★です.

■ 2004年7月2日(金)

RIETAN-2000 v1.8.5をリリースしました.SFおよびANALDというサブルーチン中のGO TO文を完全に追放し,すっきりさせました.Darwin版はG4 CPU用に最適化しました.さらにWindows版のreadme_win.txtをスペルチェッカーで処理し,かなりの数の誤りを訂正しました.

Darwin版(Terminalアプリケーション)のユーザーって,どれくらいいるのでしょうか.Carbonアプリケーションよりはるかに速いといっても,UNIX/Linuxを多少は知らないと歯が立たないのでは,ろくに使われていないような気がします.若い人はとりわけTerminalのようなCharacter User Interfaceを嫌うでしょう.

私の気が変わってDarwin版が配布停止になるのを恐れる方は,助命嘆願のメールをお送りください(返事は期待しないでください).嘆願メールがほとんど届かないようだと,配布停止に踏み切る,と警告しておきます.

■ 2004年7月3日(土)

VEND v6.2をリリースしました.干渉性散乱径,波動関数,静電ポテンシャルのように正負の値をもつ物理量の2Dマップを作成する場合,従来は絶対値を視覚化していました.これは不自然ではないかと指摘されたので,新バージョンでは最小値Z(min)から最大値Z(max)まですべてのデータをそのまま視覚化するよう改めました.Z(min)とZ(max)は2D Mapウィンドウの左上に表示されます.

■ 2004年7月4日(日)

Alcohol Softwareのホームページ(Fubra Limitedが維持・管理しているオンライン販売サイト)に奇妙なメッセージが書かれており,Alcohol 120%の開発会社であるAlcohol Softは新しいWebサイトにさっさと引っ越していました.要するに,Fubraはヤバいビジネスから足を洗ったということです.

■ 2004年7月5日(月)

また下ネタならぬ下妻ネタかい,と顰蹙を買いそうですが,下妻の砂沼サンビーチを何度も訪れたことがあり,身内がかつて代官山の隣町に住み,若かりし頃は大のパチンコファンで,いずれ牛久大仏裏の墓地に埋葬される桃子キャラの私としては「下妻物語」に重大な関心を抱かざるを得ません.小説も映画も不朽の名作と評価しています.

誰も指摘していないので,あえて申し上げますが,あの映画のクライマックスは茨城を舞台とするストーリーにふさわしく,水戸黄門ライクでした.桃子が伝説のWネームを振りかざすと,ヤンキーたちがひれ伏すのですから.ロリ服を買うために駄目親父をだまし続けたことが迫真の嘘として実を結ぶ,という伏線の張り方は鮮やかでした.

ヤンキーは基本的に早期恋愛 → 早期出産&早期結婚に憧れていると野ばら先生は述べておられましたが,まさか土屋アンナ(20)が映画公開中にできちゃった婚を発表すると予期していた訳ではないでしょうね.

「下妻物語」ファンに耳よりの話があります.実はWEBきららで「続・下妻物語」を読めるのです.ただし,バックナンバーは置かれてないので,毎月忘れずにチェックする必要があります.片山恭一や市川拓司の連載小説もそこで公開されています.

続編の第2回によれば,桃子とイチゴは仲良く高校を留年することに決定.桃子は駄目親父に「いっそ高校なんか中退して,土浦のキャバクラで働け.」とけしかけられます.今度は,桃子とイチゴが殺人事件に巻き込まれるようです.

WEBきららの執筆者からも明らかなように,小学館はかつての角川商法を忠実に踏襲しています.「ミシン」とその続編の「ミシン2/カサコ」を合わせれば,「下妻物語」のようにラブリーなバディ・ムービーになりうるはずですが,どうなのでしょうか.

女二人が相棒のバディ・ムービーというと,「フライド・グリーン・トマト」を思い出します.当時は私のお気に入り(とくに主人公のイジーが)映画でしたが,今となっては細かいプロットは忘れてしまいました.

■ 2004年7月6日(火)

コバルト酸化物超伝導体の発見を報じた論文
K. Takada, H. Sakurai, E. Takayama-Muromachi, F. Izumi, R. A. Dilanian and T. Sasaki, Nature (London), 422 (2003) 53-55.
ISI Essential Science Indicators Special TopicsFast Moving Frontsの物理分野で取り上げられました.第一著者の高田和典氏が4つの質問に答えています.

本超伝導物質はPRIMAによるMEM解析の利用第1号です.リートベルト解析にはRIETAN-2000が,結晶構造の作画にはVICSが使われました.一連の研究にVENUSを活用していただいたおかげで,バグをいくつも取り除くことができました.上記の論文がSpecial Topics(激戦区のPhysics分野で年間6報だけ)に選ばれたのは,引用回数がきわめて多く,しかも注目の的になった研究成果だからでしょう.画期的な新物質の研究にRIETAN-2000とVENUSが貢献したのは誠に幸運でした.

■ 2004年7月7日(水)

VICS v4.4.4とVEND v6.2.1をリリースしました.Aboutボックスに手を入れました.VICS_VEND_manual.pdfも修正しました.

電子・核密度と結晶構造の三次元可視化プログラム廃墟ページ中のリンク切れを修復しました.内容まで更新する気力は到底ありません.

■ 2004年7月8日(木)

PRIMA v3.5.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.画面出力で"G-constraint"が"G-constaint"となっていたのを修正しました.三井金属の田平泰規氏が指摘してくださいました.

Multi-Purpose Pattern-Fitting System RIETAN-2000のSection 14で配布しているNotes.pdfを更新しました.MEM関連ファイルの拡張子が間違っていたのを訂正しました.RIETAN-2000とPRIMAの最新版ではそれぞれ*.mem → *.fos,*.den → *.priというように拡張子が変わるとともに,バイナリー化したことにご注意ください.古いバッチファイルを使うと痛い目に遭うことがあります.

同Sectionには(a)〜(x)の文書・文献が列挙されています.つまり,後二つ分しか余地がないのです.すでに印刷中のProceedings(6月22日参照)を一つ,鋭意執筆中(嘘つけ!)の単行本1章を一つ追加すれば,完全に埋まります.プログラミングやテストだけでなく,ドキュメンテーションと執筆にも気が遠くなるほどの労力を費やしたということです.よくもまあ飽きもせず疲れもせず愚痴も漏らさず,同一デーマについて書きまくったものです.

RIETAN-2000はなぜ空前の大ヒットとなったのか ーーー 自分でも首をかしげています.確かRIETAN-2000を作り始める前,K氏に「泉さんはもう一生分の運を使い果たしましたよ.」と宣告されたはずでしたが…

■ 2004年7月9日(金)

7月17〜19日の集中講義(京都工芸繊維大学)を受講する学生に配布する分厚いテキストを発送しました.真夏の三連休ぶっ通しで講義し,19日にはつくばに帰るという強行軍です.授業中は脱線しないよう,せいぜい自重します.

■ 2004年7月10日(土)

Mac用RIETAN-2000配布ファイルrietan2000m.tbzを更新しました.Darwin版のプログラムフォルダをRIETAN_Programsに変え,それに応じてReadme_Darwinの一部を書き直しました.つまりhappy fewのためにDarwin版を配布し続けるということです.

■ 2004年7月11日(日)

英辞郎 v76(126万項目)のCD-Rを980円で購入し,JammingDicToolsでJammingのユーザー辞書形式に変換しました.

Jammingはもっとも使用頻度の高いソフトの一つです.ほとんど毎日使うといって過言でありません.

■ 2004年7月12日(月)

3D Visualization System VENUS を再編成しました.いつの日かELENを世に送り出したいという願いを込めて,6. File convertersというセクションを挿入しました.さらに8. Super-fast program, PRIMA, for MEM analysisを二つの項に分割するとともに,拡張子の間違いを訂正しました.

「粉末X線解析の実際」サポートページ中の10. 数学の学習12. 訂正・修正を更新しました.

■ 2004年7月13日(火)

とある女性を相手に延々と与太話をした挙げ句,「泉さんて本当に研究してるんですか.」とおちょくられてしまいました.ちなみに,私はしらふでした.酒を飲むと大人しくなるのですが…

VENUS.tbzを更新しました.VICS_VEND_manual.pdfとVICS_VEND_readme.pdfを修正しました.

■ 2004年7月14日(水)

m@stervisionによる★★★★★という採点を信じて「阿修羅のごとく」のDVDを借りてきましたが,期待はずれでした.どうも私の気質はホームドラマ向きでないようです(小津安二郎も苦手).大体,有名人でもお金持ちでもない老人に若く美しい愛人がいる,なんてありえねーだろー,とツッコミたいです.生真面目かつウブな三女とその恋人も現実味ゼロ.四女の夫のボクサーが植物人間に成り果てないと,三女と四女との仲は修復されないというのは極端すぎます.不倫は一組だけで十分だと思いますが,向田邦子の原作では,さらに四女まで行きずりの男と過ちを犯すことになっているのですね.それから,四女(深キョン)はジーンズを穿くべきでありませんでした(??).

この駄作,早く終わらないかな,という気持ちで観ました.同じ修羅でも,先日観た「修羅雪姫」の方がずっとましでした.私の採点は★★です.

■ 2004年7月15日(木)

一時Weblog(Blog)を試行的に公開していたのですが,iBlogというMac用ユーティリティの出来が今一だったことに落胆し,現在は最新情報の提供を本掲示版に集約しています.その後,Weblogはますます持て囃されています.今やイエローキャブの社長までがWeblogで巨乳ビジネスを論じる時代なのです.恥ずかしながら,そのサイトは,自分がさとう珠緒と佐藤江梨子を取り違えるほど無知だということを思い知らせてくれました.Weblogは個人ニュース発信のための超強力な手段です.閲覧者からのコメントとトラックバックも追加情報として取り込めます.プログラミングバカ一代が巨乳バカ一代に先を越されて茫然としているのでは情けない.いずれ本掲示板を閉店し,新たなWeblogを立ち上げることを堅く誓います.

■ 2004年7月16日(金)

Rubenが去った後もVENUSの改善は続いています.既存機能に関係するバグはRubenが退治してくれることになっていますし,外部の協力者も若干はおります.

本日はVICS v4.5とVEND v6.3を含むVENUS.tbzをアップロードしました.広島大学の大木 寛氏による改変です.両プログラムでダイアログボックスを閉じる際,"GLUT: Warning in (unamed): glutSetWindow attempted on bogus window."という警告が出ないよう処置しました.VENDでは,2D mapを表示するとセグメンテーション違反が起こるという不具合を解消しました.いずれもLinux版だけで発生する症状ですが,Windows版とLinux版のソースコードを共通とするため,両版ともバージョンアップしました.さらにVENDのAbout Boxにおけるスペルの誤りを正し(whicfh → which),VICS_VEND_manual.pdfを少し手直ししました.

今日は,島根大学総合理工学部の赤坂正秀先生と永嶌真理子さん(D2学生)が来訪されました.RIETANやVENUSのユーザーが生の泉 富士夫と対面すると,当惑するに違いありません.知性のかけらも感じられませんから.

■ 2004年7月17日(土)

今日からはじまる3連休は,京都工芸繊維大学での集中講義(セラミック科学II)のため出張します.今回は大学の宿舎が満杯だったため,地下鉄四条駅近くのビジネスホテルに泊まります.

■ 2004年7月18日(日)

朝から夕方まで講義.おかげで喉がガラガラ.

四条通を汗だくになって歩きました.浴衣の女性が多いのは,つくばではありえない現象です.

16倍速DVD±Rと4倍速DVD+R DLのドライブが発表されました.あにはからんや,パイオニアがDVD+Rタイプの2層記録方式を採用したのです.といっても,現時点におけるメディアの入手は困難ないし不可能です.ドライブの安定性や耐久性も不明.あまり先走るとろくなことはありません.何ヶ月か経ってから買うことにしましょう.

■ 2004年7月19日(月)

今回の授業では,受講者(約40名の3年生)が眠気を催さないよう,くだけた調子で3つほど質問してみました.

「●●●●」(映画)を観た人は手をあげてください: ゼロ.
Macユーザーは手をあげてください: 一人.
Windowsのコマンド プロンプトやUNIXなどでコマンドを打ち込んで実行したことのある人は手をあげてください: ゼロ.

やはりそんなもんか ーーー という感じです.異端者の孤独を味わいました.

■ 2004年7月20日(火)

クラッカーの標的となりやすいWindows上では,比較的マイナーなメーラーとブラウザを使うのが身のためです.私はメーラーとして鶴亀メール(Mac OS Xのmailの補助),ブラウザとしてMozilla Firefoxを使っています.未だにタブ機能を欠いているInternet Explorerは,Windows updateを利用する時にしか使いません.今のところ,安全・確実に動いています.

■ 2004年7月21日(水)

池部 良は30過ぎてから「青い山脈」で高校生役を演じたそうです(若者は池部 良も「青い山脈」も原作者の石坂洋次郎もご存じないでしょう).といっても,30過ぎて初めてコンピュータに接した私に比べたら,ハンデはそうきつくありません.当時の私の場合,結晶学をろくに知らなかっただけでなく,師匠すらいなかったのですから,無謀の極みでした.

VENUSのようなOpenGLを駆使したソフトの開発に踏み切ったのも,ぶっ翔んだことをしたものです.いったい,なにをトチ狂って,そんな畑違いの一大事業にチャレンジしたのでしょうか.来年春ごろ,VENUSに関するレビューが活字になりますので,それを読んでいただければ幸甚です.これは7月末までに書き上げてくれないか,と頼まれたのですが,物理的・体力的に到底無理なので,にべもなく断りました.嗚呼,また突拍子もないことを書き散らかすんでしょうね.楽しみにしていてください.

石坂洋次郎という名が出てきたところでふと思ったのですが,かつて数多くの作品が映画化され,功成り名を遂げ,軽井沢に別荘まで建てた名士も,今ではすっかり忘れ去られてしまいました(昔読んだ「若い人」,ほとんど記憶に残っていません).17の石坂作品に主演した吉永小百合もいずれ同じ運命をたどるでしょう.所詮,時代を超えて生き残るほどの人たちではないんです.

■ 2004年7月22日(木)

本掲示版では,春ごろからギャグすれすれ・だだもれの書き込みを意識的に増やしました.粉末回折や自作ソフトに関する情報,コンピュータ関連の蘊蓄,愚痴と嫌みと毒舌だけで人を惹きつけるのは無理と察してのことです.といっても,私は生来ユーモアの才に乏しく,こういった趣向の記事が受けているとは到底思えません.

それにひきかえ,物理のかぎしっぽ悪あがき日記は素直に笑えます.こういうトホホな味,とぼけた味は私には出せません.脱帽です.

お笑いが苦手なのだったら,せめて「いとをかし」の趣を醸し出せたらいいのですが.枕草子でも読みましょうか.いや,それよりも,近い将来立ち上げるWeblogのタイトルを「いとをかし」と命名しましょう.

■ 2004年7月23日(金)

そろそろIgor Pro 5を入手しようと決意し,アップグレード料金を調べたところ,なんと47,250円でした.Mac版とWindows版を取り揃えると,94,500円.7月以降は貧民の境遇から脱却しましたが,それにしても高い.しかし,Igor ProはRIETAN-2000の出力する*.patの内容をプロットするのに使う必需品です.渋々,両バージョンを注文しました.

■ 2004年7月24日(土)

スパイダーマン2」は想像を絶するような制作費(220億円!)がかかってるな,と実感させられる娯楽大作でした.前半はアパート代にも事欠き,ピザショップの配達係を首になり,学業にも身が入らず,M.J.(キルスティン・ダンスト)には愛想を尽かされ,スパイダーマンたり続けることに倦み疲れたピーター・パーカーが描かれます.二足のわらじには限界があるということですね.ピーターが神通力を失って車の上に落下,「腰が痛い.」と呻き声をあげながらヨタヨタ歩くシーンがありました.これはトビー・マグワイアが腰痛を理由にギャラをつりあげようとしたことを皮肉る楽屋落ちのようです.昨年1月,腰痛に苦しんだ私には人ごとでありませんでした.

以前も書きましたが,M.J.は昔のポスドクにそっくりで,それが軽い違和感を催させます(純個人的感情).

■ 2004年7月25日(日)

昨日の話の続き.スパイダーマンとフリーソフトウェア作者たる私は似たような境遇だなあ,と感じました.生まれつき凡人に過ぎないこと,延々と続く自発的無料サービス,経済的な困窮,自由に使える時間の喪失という点が共通しています.二人とも,いくら努力しても見返りがなく,重い責任ばかり負わされる存在なのです.私は半強制的勤労奉仕に駆り出されて以来,「ボランティア」という言葉を毛嫌いしています.

両者の大きな違いは,私はもう年を取りすぎたし,蜘蛛の糸は出せない(超人に変身できない)という点です.疲弊しきった凡夫が過大な要求に応え続けなければならないのは,あまりにも悲惨です.おまけにM.J.に相当する人がいないのですから,可哀想です.

そうそう,スパイダーマンの大活劇とVENUSによる3D可視化は,いずれもOpenGLテクノロジーの賜です.片や映画,片や科学への応用ですが,エンターテインメント性に富むのは共通しています.

■ 2004年7月26日(月)

毎度すみません.またまた「下妻物語」ネタです.全国高等学校野球選手権茨城大会の決勝戦で下妻二高が常総学院を8−2で破り,初の甲子園出場を決めました.奇跡としか思えません.常総学院は昨年の全国大会の覇者なのですから.

常総学院は私の家から近いです(自転車で約15分).しかし下妻二高が優勝したと知り狂喜しました.なにしろ,竜ヶ崎桃子が体育の授業(ハンドボール)を見学しているシーンとカラフルなお弁当を一人ぼっちで食べるシーンを撮影した学校なのですから.桃子の母校みたいなもんです.桃子のロリ魂が球魂に変化して選手に乗り移ったのでしょうか.甲子園で勝ち進み,下妻の名を一層轟かしてほしいです(いずれ三つの町との合併で,無粋な名前に変わってしまうようですが).

■ 2004年7月27日(火)

Microsoft Office 2004 for Mac Professional Editionが届きました.残念ながら,Windows XP SP2のリリースが遅れている余波で,Virtual PC 7が手にはいるのは10月以降となりました.待ち遠しいです.

WordやExcelなどどうでもいいですが,Virtual PC上でWindows用VICSとVENDが動くかどうかは興味津々です.動作がのろのろでも構いません.幸いそれらが使えるなら,PRIMAとALBAをMac OS X(Darwin)に移植するつもりです.3Dデータを収めたバイナリーファイル*.priはVENDで読み込めません.そこで*.priでなくテキストファイル*.denを出力するように変更します.これはいとも簡単.実はPRIMAとALBAのソースコードには*.denを出力するためのコードを注釈にしてあるのです.出力ファイル形式の変更は作者だけが享受しうる特権です.

■ 2004年7月28日(水)

VICS v4.5.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.MDL Molfileを入力したとき,一部のサイトの通し番号が6から始まるというバグと余計な結合がときどき表示されるというバグをRubenに退治してもらいました.VICS_VEND_manual.pdfも更新しました.

圧縮ファイルExamples.tbzとrietan2000w.tbzが+Lhacaでうまく解凍できないという報告が届きました.それらのファイルはLhazで圧縮しました.Lhazの不具合でしょう.GNU Utilities for Win32のコマンドtar.exeとbzip2.exeを組み合わせて圧縮してみたところ,+Lhaca,Lhaz,解凍レンジと互換性のある圧縮ファイルを作成できました.そこで両圧縮ファイルを更新しておきました.たかがフォルダの圧縮でも一筋縄ではいかないのだから,しんどいです.

■ 2004年7月29日(木)

TOF粉末中性子回折装置Siriusのユーザーからの要請に応え,Siriusの90度バンク用にRIETAN-TNを改造しました.背面バンク専用版の場合と同様,RIETAN-2001T(90度バンク用に改造したアングラ版)と比べ,Rwpがかなり改善されることがあります.この由緒正しい特別版(Windows・Mac OS用)をご所望の方は私に直接ご連絡ください.

■ 2004年7月30日(金)

VICS v4.5.2を含むVENUS.tbzをアップロードしました.一部のMDL Molfileを入力したとき,余計な原子を表示するというバグを取り除きました.

Rubenが去ってから1ヶ月経ちましたが,サポーターのおかげで,これまでのところVENUSの更新は途切れていません.たとえばVICS v4.5とVEND v6.3は両ソフトをUNIX互換のOS上で安定に動かすための重要なバグフィックスの成果でした(広島大の大木氏に感謝!).これでMac OS XへのVICS・VEND最新版の移植が可能になったと踏んでいます.早くアウトソーシング先を探さなければ!

なお,Linux版のファイル入力・保存ダイアログを大幅に向上させる改良も着々と進んでいます.

■ 2004年7月31日(土)

Zulu2という妙な名前のCD/DVDライティング・ソフトが昨日発売されました.DVD+R DL(2層)に書き込めます.最大16台同時書き込み(最大13台/アクション)可能と豪語 ーーー マニア向けの仕様です.

同じ会社の類縁品Drag's Drop CD/DVD4パイオニアの最新DVD±R/RWドライブDVR-108に対応するか否かは未定だそうです.両ソフトともライティング・エンジンにPz MDK(Mastering Development Kit)を採用しているのですから,この高速ドライブにぜひ対応してほしいです.

私はダボハゼ的食い付き人柱症候群の患者かつブランク円盤大量所有者なので,即日,Zulu2を自腹で購入しました.早速,DynaBook G6/U22PDEWでイメージファイル*.diを一つ作成し,自作ソフト開発用フォルダをDVD-RWにTAO方式で焼いてみました.いずれも成功.他のCD/DVD関係ソフトと平和を共存しているように見えます.

Mac OS Xの場合,ライティング・ソフトRoxio Toast 6 Titaniumをv6.0.7にアップデートすると,DVD+R DLが焼けるようになります.すでにDVR-108およびそれと同等の性能をもつNEC 3500Aに対応しています.

■ 2004年8月1日(日)

ヤマダ電機でちょっとした買い物をしたのですが,ポイントカードが読み取れず,再発行と相成りました.カードが壊れるほど使いまくった覚えはないのですか…

ヤマダ電機,シネプレックス,ビデオショップ,書店が自宅から近いのは幸運です.コンビニ,百円ショップ,スーパー,ユニクロ,マツキヨ,パチンコ屋も近いですが,あまり有り難みは感じられません.職場までは自転車で15分.なんとも便利な所に住んでいるのですが,つくばエキスプレス(来秋開業予定)のつくば駅からやや遠いのが玉に瑕です.

■ 2004年8月2日(月)

昨日の朝刊によれば,昨年度の国立大学所有特許で得た収入は4億2700万円で,内4億1000万円が赤崎 勇名大名誉教授の青色発光ダイオード関係の特許6件による収入だそうです.ということは,それ以外の特許収入はたった1700万円?! ちょっとした装置1台分?! 驚くほど少ない特許料収入への批判が皆無だったことも含め,この記事の内容はアンビリーバボーです.民間企業が大学をあてにしていないのも無理はありません.

■ 2004年8月3日(火)

Zulu2のテストを続けました.とくに問題なし.しかし,Drag'n Drop CD/DVD4と比べ,DVD+R DLへの書き込み(まだ対応ドライブが僅少)と複数ディスクへの同時記録くらいしかメリットが感じられません.同時に焼く必要などまずないことを考慮すると,無駄な買い物だったか.

■ 2004年8月4日(水)

今度はI・D DATAがDVR-iUN16WというDVDドライブを発表しました.NECのND-3500Aを採用しています.

■ 2004年8月5日(木)

秀丸エディタがv4.10にバージョンアップしました.今回の目玉はタブ切り替え機能です.

シェアウェアはメジャーチェンジの際,しばしばバージョンアップ料金を請求します.秀丸は一度送金すると,二度とバージョンアップ料金を徴収しません.それどころか,鶴亀メールなどは秀丸のユーザーには追加料金なしで提供しています.太っ腹なのは有り難いですが,それでよくビジネスが成り立つなと思います.

■ 2004年8月6日(金)

DVDドライブは商品サイクルが極端に短いです.有名なYSS氏のように何十台も買い集めている猛者がいます.CD/DVDドライブの購入とテストに相当な時間を振り向けていると思われます.DVDドライブを1台買うのにも慎重な私から見ると,スゴすぎます.

最新DVDドライブを入手したところで,昨年度,大量に買い込んだCD/DVDメディアを使い切るまでは最高速で焼けません.それには少なくとも2,3年はかかるでしょう.要するに,私にとっては最新ドライブは過剰性能なのです.

■ 2004年8月7日(土)

今,お笑い芸人でダントツに面白いのは元ホストのヒロシです.ヒロシがバックグラウンド・ミュージックに使っている曲をグーグルってみたところ,ペピーノ・ガリアルディの「ガラスの部屋」とのことでした.

■ 2004年8月8日(日)

自作ソフトのユーザーから質問メールがしばしば届きます.返信確率は50%くらいですが,能う限り丁寧に返答するよう心がけています.多少嫌な気分になるのは,私がレスポンスを期待して送ったメールに返事が来ないときです.たとえば,RIETAN-2000がかくかくしかじかのエラーメッセージを表示するのはなぜか,というユーザーの質問に対し,私がトラブルの原因を具体的に示唆したとしましょう.そのユーザーが私の推測の当否を調査し,その結果を知らせてくれるよう私が望むのは言うまでもありません.ところが,いつまで経ってもなしのつぶて ーーー こういう経験は数え切れません.私のサポートのおかげでエラーが発生しなくなったとたん,事後報告をケロっと忘れてしまう人達が多いのです.

私はユーザーからのフィードバックを常に待ち望んでいます.マニュアルやReadmeの誤りを指摘してもらうのでさえ有り難いのです.しかし,ほとんどのユーザーは自分が支援してもらうことしか眼中にありません.フリーソフトの作者にとって張り合いのないこと,夥しいです.私はこういう一方通行的状況に失望した挙げ句,配布ファイルへのソースコードの添付を止めてしまいました.プログラム改良に貢献する意志と能力をもつ方々にだけ提供すれば十分 ーーー というスタンスに切り替えたのです.フィードバックの欠如はTOF粉末中性子回折の装置グループから足を洗った一因でもあります.

もちろん,その類の不快感は日々の生活において誰もがしばしば感じていることです.私も他人に同じような仕打ちをしているに違いありません.気配りに欠けたユーザーを非難したところで,天に唾するようなものです.

マタイ福音書の黄金律「人からして欲しいと思うことのすべてを人々にせよ.」は理想論です.マザーテレサのようなお方に接したためしなし.人間は自分のことは棚に上げる勝手な生き物であり,他人に厳しく自分に甘いのです.世の荒波に揉まれていない研究者はとりわけその傾向が強い.オレが,オレが,という性格の自己チュー同士が一緒に仕事したら,人間関係を円滑に保てる方が不思議です.処世術(バランス感覚)に長けていないと,にっちもさっちも行かなくなります.人間関係がぎくしゃくしてくると,地位と力のある方や声のでかい方が勝ちと相場が決まっています.勝てば官軍が世の定め.しかし,勝てばよい,官軍と認知されればよい,というものではないということを肝に銘じるべきです.

以上,自戒の念も込めた述懐です.

■ 2004年8月9日(月)

定番アーカイバ+Lhacaデラックス版がv1.19にバージョンアップされました.本Webサイトで配布している圧縮ファイル*.tbzの解凍に使えます.

■ 2004年8月10日(火)

VENUS.tbzを更新しました.マニュアル二つを改訂しただけです.VENDで正負の等値曲面+境界面を可視化する際,境界面上の負の値に対しどのように色を割り当てるかについてVICS_VEND_manual.pdfに追記しました.PRIMA.pdfでは,式(4)と式(6)の右辺を修正しました.

■ 2004年8月11日(水)

今日は目出度くもない誕生日です.去年の8月11日になんと書いたか知りたくなり,バックナンバーを閲覧してみたら ーーー 思わず「ぶわっはっはっ」と笑ってしまいました.所詮,オヂの誕生日なんて話題は滑稽なだけです.

9月締切の原稿が3つ溜まっています.このクソ暑い最中,今日も執筆,明日も,明後日も… 夏休みはゼロ日.嗚呼,辛気くさい.

■ 2004年8月12日(木)

VEND v6.3.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.v6.3で'glui->close()'をすべて'glui->hide()'に変えたつもりでしたが,一箇所だけそのままになっていました.これを修正しました.この不具合をご指摘いただいたストックホルム大学の室山知宏氏に感謝します.さらに,ユーザーが入力した等値曲面レベルの初期値が自動的に変えられる場合があるとVICS_VEND_manual.pdfに明記しました.これも室山氏から伺ったことですが,不具合でなく仕様です.自動的に設定された値が適切とは限らないことに注意してください.

■ 2004年8月13日(金)

以前,私のポスドクだったAlexeiが7月初めに京大から物材機構に舞い戻ってきました.昨日,J. Solid State Chem.に掲載される予定の論文のコピーを手に私の部屋を訪れました.“Thanks”と受け取ったところ,“By the way”と別な話を切り出してきました.2年前に論文にするのを断念するよう私が引導を渡した仕事を執念深くやり直した結果,研究成果として発表する目処がついたというのです.私が厳しく指摘した問題点を見事にクリアしたのです.

その論文が活字になれば,彼と私との共著論文はfull paper8報,Proceedings2報となります.私と一緒に研究したのは2年間に過ぎないのです.「恐れ入りました.」と頭を下げるしかありません.

■ 2004年8月14日(土)

"International Tables for Crystallography", Vol. C,第3版が届きました.原子散乱因子,散乱径,吸収断面積の値が更新されていると面倒だな,と思いつつ第2版と比べてみましたが,まったく変わっていませんでした.

■ 2004年8月15日(日)

Yanan Xiao氏(南イリノイ大学・シカゴ大学)との共同研究の成果がAppl. Phys. Lett.に掲載されました:

Y. Xiao, D. E. Wittmer, F. Izumi, S. Mini, T. Graber, and P. J. Ciccaro, Appl. Phys. Lett., 85 (2004) 736-738.

異常散乱因子を精密化できるように改造したRIETAN-2000を用い,MnのK吸収端近傍で測定した放射光粉末X線回折データを解析することによりMn3O4中の二種のMn原子の酸化状態を決定しました.

■ 2004年8月16日(月)

Linux用VICSの不具合と対症療法をお知らせします.Editダイアログボックスで空間群のStd. symbolを選ぶ際,一番上と一番下の矢印が現れないためスクロールできないことが発覚しました.広島大の大木 寛氏に調査していただいた結果,次のような裏技で当該障害を克服できることを見出してくださいました:

空間群番号の横の上下ボタン,または空間群の記号のリストボックスをアクティブにする.空間群のシンボルのリストが見えなくても,リストを示す下向き矢印がアクティブになっていればよい(アクティブにするには、マウスをクリックする,タブキーを押すのいずれも可). 引き続き,キーボードの上下方向ボタンを押す.これで空間群の番号が上向きで1つずつ増加,下向きで1つずつ減少する.この番号変化に伴い,空間群の記号もリストボックス内で変化する.

リストボックスから選択するという本来の方法から逸脱し,利便性が多少損なわれるのは大目に見てやってください.

■ 2004年8月17日(火)

ある学生がMADEL(以前,FAT-RIETAN中の一プログラムとして配布)でマーデルング・エネルギーを計算したいと連絡してきました.Power MacのHDを探し回ったのですが,見つかりませんでした.昨日,古いMOディスクに記録されていたMADELをようやく発見し,Mac OS XのClassic環境で動くことを確認.以前と同じ解を与える(当たり前ですが)のには感動しました.

マーデルング・エネルギーの計算では陽・陰イオン間の静電相互作用しか考慮しませんが,無機化合物の構造の安定性を考察するのに役立ちます.事実,Paulingの規則はマーデルング・エネルギーの大小でうまく説明できます.

■ 2004年8月18日(水)

先週の土曜日は,牛久浄苑にお墓参りに行きました.ついでに牛久大仏の内部を初めて参観しました(10回分の無料参観券を所有).

たまたま昨日「続・下妻物語」の第3回を読んだのですが,舗爾威帝劉の総長だった亜樹美とできちゃった婚した竜二(イチゴの初恋の相手)は交通事故で子供と一緒に死んだそうです.極道とはいえ,惜しい人を亡くしました.ご冥福をお祈りします.亜樹美は二人のお墓を牛久大仏裏の墓地に立てるために下妻に戻ってきました.ということは,将来,私はあの一角獣と同じ墓地に葬られるのですか.光栄至極です.

↑フィクションと現実とがごちゃごちゃ(ボケてはいません.ご心配なく).

■ 2004年8月19日(木)

緊急速報:喜んでください.東北大の門馬綱一君が貧しい人々を救うためVICSを改造してくれました.目を瞠るような改善といってよし.以前,VICS・VEND不使用時のCPU占有率を激減してくれたのも彼でした(3月1日参照).なんてすげーヤツ(失礼)なんだ.まだM1なのだから,将来が楽しみ.VICSのバージョンを一気に5.0に上げて,その栄誉を讃えましょう.

ちなみに「貧しい人々を救う」というのは,私がVENUSの日本語廃墟ページの創造的破壊行為としてのプログラミングに臆面もなく記した文言です.私の信念が門馬君にのりうつったとしか思えません.VENUSプロジェクトは6月末で幕を閉じた訳ではありませんでした.

■ 2004年8月20日(金)

門馬君がVICSをどのようにハックしたのか,興味津々でしょう.別に隠し立てはいたしません.彼のメールからコピペします:「メモリ使用量を200 MB超から20 MB前後まで激減させることに成功しました。」なんと1/10のサイズに!感激しました.

残念ながら,Visual C++.NET 2003でコンパイルできなかったので,スリムになったv5.0をまだ拝んでいません.

■ 2004年8月21日(土)

当方でもVICS v5.0をビルドできたので,VICS v5.0をリリースしました.配位多面体に関係する配列を動的に割り付けることにより,VICSが起動直後に占有するメモリーサイズを約200 MBから約20 MBに減らしました.ただし,配位多面体を表示すれば,その数に応じて使用メモリーは増加します.

タスク マネージャでパフォーマンスを選び,コミット チャージ(プログラムおよびシステムに割り当てられているメモリー)をモニターしながら新旧のVICSを立ち上げれば,VICSの消費するメモリー容量が劇的に減ったことを確認できます.GPUが3Dグラフィックスを高速処理してくれるPCではCPUにあまり負荷がかからないので,今回の改訂は大して影響ありませんが,GPUが非力なマシンでは絶大な効果を発揮します.さらに主記憶容量の小さいマシンでも,VICSが軽快に動くようになります.このような御利益が「貧しい人々を救う」ためのメジャーチェンジと称する所以です.

このほかv5.0では,CPU占有率を無意味に高めていたバグと"Push"モードでのオブジェクトの回転に関するバグを除去しました.PRIMA_manual.pdfとALBA_manual.pdf中の些細な間違いも修正しました.

ソフトというものはバージョンアップのたびに重くなるのが常で,軽くなるというのは稀です.門馬君の奮闘は夢のような軽量化をもたらしました.

なお,VICS v4.5.2はProgramsフォルダ中にVICS_v452.exeと改名して収めておきました.万一v5.0に不具合がありましたら,こちらをお使いください.

門馬君によるVICSとVENDのハッキングはまだまだ続きます.今後,いったい何が飛び出すか ーーー 楽しみにしていてください.望外の喜びに浸れるかも.

■ 2004年8月22日(日)

アテネオリンピックの柔道,最終日に優勝した男子100キロ超級の鈴木桂治と女子78キロ超級の塚田真希はそれぞれ茨城県の石下町と下妻市(!)の出身です.石下と下妻は互いに隣り合っており,いずれ合併する予定.こんなことありうるの,って思いました.夜,「冬のソナタ」の最終回を観ていたら,昔,英会話教室で一緒に学んだ女性の息子さんがセーリング470級で銅メダルを獲得したというニュース速報が流れました.茨城パワー炸裂です.

■ 2004年8月23日(月)

RIETAN-2000を使用して得た解析結果を報告する際,必ずクレジットを入れるよう要請している論文

の引用回数が200に達しておりました(ISI Web of Knowledgeによる).

■ 2004年8月24日(火)

日本大学の古谷龍也君(M2)から,RIETANに関するWebページを完成させたとの知らせが届きました.

■ 2004年8月25日(水)

門馬君による貧乏人救済用改訂の第二弾VEND v6.4をリリースしました.VICS v5.0と同様なメモリー管理の導入により,起動直後にVENDが占有するメモリーを大幅に減らしました.等値曲面上の最大ピクセル数と最大ポリゴン数はいずれも1 073 741 823に増えました.

なお,VEND v6.3.1はProgramsフォルダ中にVEND_v631.exeと改名して収めておきました.万一v6.4に不具合がありましたら,こちらをお使いください.

■ 2004年8月26日(木)

発売間もない「ジョゼと虎と魚たち」のDVDをレンタルし,多大な期待を抱きつつ鑑賞しましたが,あいにく性に合いませんね,この映画は.田辺聖子の原作には遠く及びません.私の採点は★★★(満点は★5つ)です.

身体障害者との同棲生活に倦んだモテモテ男が別な女に乗り換える ーーー こういう「やっぱり逃げちゃった.ご立派な人と違うもん.」という展開ではやりきれません.リアルすぎて救いがない.それじゃあ,私が「Rubenいなくなりました.VENUSは今後,放置します.孤軍奮闘するほどご立派な人と違うもん.」と,やさぐれるようなもんでしょう.

この「ご立派な人と違うもん.」という捨てぜりふを吐けるチャンスは結構多いので,覚えておくようお奨めします.

ただ池脇千鶴の演技には舌を巻きました.大阪弁のnative speakerを主役に選んだのは大正解でした.

■ 2004年8月27日(金)

当Webサイトでソフトと情報を提供し,メールで多くの質問に答え続けていますが,当方に入ってくる情報はごくわずかです.かくの如き一方通行的状況を嘆くのは建設的でありません.たまには私の方から訪問者に質問し,貴重な情報を引き出してみましょう:

Tommy heavenly6の最後の"6"にはどんな意味があるのですか.そして,上付きになっているのはなぜですか.

■ 2004年8月28日(土)

昨日の質問に対し二人の方から独立に回答をいただきました.本掲示版を読んでいらっしゃるでしょうから,この場でお礼を申し上げておきます.

すべてはTommy library6に記されています.

どうしてTommy heavenly6(あるいはブリグリの川瀬智子)に興味を抱いたかというと,"Roller coaster ride →"と"Hey, my friend"を歌っているからです.そうして,これらの曲は… 嗚呼,もうこの辺で抑えておきます.

最近の掲示板,面目躍如しすぎです.方向転換を図らねば…

■ 2004年8月29日(日)

Power Mac G5(Dual 2.5 GHz CPU)のビデオカードをNVIDIA GeForce 6800 Ultra DDLに換装することにしました.しかし,肝心のPC本体が未だに届きません.

PCについてはハイエンド機と最新ソフトを取り揃える ーーー やはり私にはこのスタイルが一番しっくりきます.もっともハイエンド機と誇れる期間は半年程度にすぎません.購入物品は長期間にわたって酷使し,完全に投資を回収するよう心がけています.

■ 2004年8月30日(月)

癒し系,アキバ系,萌え系,ギャル系などの「〜系」という言葉が氾濫していますが,一体オレは何系なんだろうと自問自答しました.迷うまでもありません.答えは「したくない系」.

努力したくない,苦労したくない.雑用はしたくない,他人に指図されたくない,出世したくない,教育したくない,講演したくない,目立ちたくない,ノルマに追われたくない,云々.要するに,生来の引っ込み思案かつ面倒くさがりで,社交性と協調性と上昇志向は検出限界ギリギリ.

数10年前,幼稚園の運動会でかけっこしたときのことを思い出します.ゴールの少し前で私がトップでした.ところが,嗚呼なんということか,真っ先にテープを切るのに躊躇し,急にスピードを落としてわざと順位を下げてしまいました.エラくなりたい人,浮かび上がりたい人,エバりたい人は掃いて捨てるほどいますが,私ははな垂れ小僧のころから下降志向かつ縮み志向でした.

てなことを,先週の木曜に訪れた女子学生にポツリポツリ語ったら,戸惑いの表情をありありと浮かべていました.エネルギッシュかつアグレシブな大先生を想定していたようです.尊敬の念が雲散霧消したのは間違いなし.ご立派な人じゃなくて,すみません(=「ご立派な人じゃないもん」×「生れて,すみません」).

つらつら思うに,「情けない系」でもよさそうです.この世に生まれて来てしまったから仕方なく,惰性で生きている男 ーーー 情けないと自嘲するのみ.鬱,

おっと,もう一つ色濃く入っているのがありました:「ぶっとび系」.こいつを忘れたら,実体と懸け離れすぎです.

■ 2004年8月31日(火)

CD/DVDエミュレーション・ユーティリティDAEMON Tools v3.47がリリースされました.次のメジャーチェンジ版v4.0までは更新しないとのこと.

Windows XP SP1のマシンにインストールしましたが,とくに異常なく動きました.

■ 2004年9月1日(水)

VENUS.tbzを更新しました.ALBA_manual.pdfをわずかながら修正しました.

VENDのバージョンアップ(v6.3.1 → v6.4)に伴い,起動直後の主記憶占有量が204 MBから17 MBに激減したことを確認.VICSにしろVENDにしろ,メモリー管理の改良を通じ,「ありえねえ」と叫びたくなるほど軽くなりました.すべて門馬君の尽力の賜です.CPUに対する負荷を劇的に軽減してくれたのも彼でした.

Rubenは今でもVENUSのポリッシュアップに快く協力してくれます.外部からの支援がなければ,細部の作り込みは無理です.何人かの支援者の力を結集し,VENUSプロジェクトは依然として爆走中です.ソフト開発しか眼中にない私にとって,この上ない喜び.

もはや誰もこのソフトの勢いを止められない!

と雄叫び(某CMからのパクリ)をあげたい気分です.

■ 2004年9月2日(木)

VICS v5.0.1とVEND v6.4.1を含むVENUSをアップロードしました.東北大の門馬綱一君と広島大の大木 寛氏の手でいくつかの細々とした修正が加えられています.詳しくはVENUSのWebページ,Version historyをお読みください.

VICSとVENDの改善における門馬君と大木氏の多大な貢献を評価し,両ソフトのAbout Boxにお二人への謝辞を追加しました.

■ 2004年9月3日(金)

人柱となるのを覚悟の上,DynabookのWindows XPをSP2に更新しました.Alcohol 120%がatapi.sysをロックしているため,それをコピーできないという警告が出ましたが,無視してインストールを続行しました.当該障害についてはここに明記されています.要するに,元の状態に戻さない限り差し支えありません.atapi.sysはSP2の最新ファイルきちんと置き換えられます.ついでにHDをデフラグ・圧縮しておきました.

幸い,平穏無事に動いております.

■ 2004年9月4日(土)

昨日のことです.ある単行本の第2版の原稿を第1版のときのファイルをもとに書こうとしたら,そのファイルがどうしても見つかりません.どうも廃棄パソコンに置き忘れたらしい.仕方なしに,第1版を参照しながら打ち直し,新たに一部を書き換えました.こういう二度手間にはストレスが募ります.オレは肝心なところが抜けているなあ(つまらぬことにこだわるくせに)ーーー と悲嘆にくれました.

■ 2004年9月5日(日)

Tommy heavenly6について詳しく教えてくれた学生(8月28日参照)曰く「僕はこのアーティストが好きで車でよく聞きます。湘南の海岸沿いをドライブしながら聞くと楽しいですよ。」ついていけません.つくばの山猿を自称する私が湘南の海から思い浮かべるのは,Tommy heavenly6どころか,サザンを通り越して若大将(加山雄三)なのです.車の助手席にいるのは星由里子といったところ.レトロすぎます.

竹内まりやのCDを聴いたとしましょう.私が好むのは「象牙海岸」,「グッドバイ・サマーブリーズ」,「恋の嵐」といった60年代ポップス風味の曲です.最近は菅野よう子作曲の似非フレンチポップス「Lucie Est Amoureuse」と「Une Belle Histoire」が気に入り,毎晩聴いています.キャッチーなメロディーが共通点ですが,若者にはold fashioned love songとしか聞こえないでしょう.

要するに,私は古風なセピア色の感性しか備えていない,没落していく人種なのです.肉体的・精神的にゆっくり壊れつつあります.私の分身であるRIETAN-2000は基本的にFortran 77+αで書かれています.動的配列や構造体は別世界の技法.27年前に策定された規格に従ってコーディングされたソースプログラムからは目を背けたくなります.本来ならFortran 90/95で書き直すべきなのですが,もはやその気力も体力も失せています.VENUSはともかく,RIETAN-2000と私は軌を一にして滅んでいくことでしょう.

■ 2004年9月6日(月)

当Webサイトのタイトル「粉末回折情報館」は看板に偽りがあります.大分前から改名したいと思っているのですが,良い案が浮かびません.ご提案をお待ちしております.

不適切なタイトルはさておき,当Webサイトにふさわしいテーマ音楽はいったいなんでしょうか.このポップで脳天気なデザインのホームページ(表紙の意),ぶっ翔んだ文言満載の掲示板,狂騒感に満ちたVENUS日本語廃墟ページにはサディスティック・ミカ・バンドの「タイムマシンにおねがい」がよく似合います.30年前の曲が未だに新鮮なのは凄い!

世をはかなんでいる人,落ち込んでいる人はこの名曲をぜひ聴いてください.ワクワクすること,まちがいなし.元気が出ること,請け合います.

願わくば,VENUSも「タイムマシンにおねがい」なみに生き長らえ,多くの人々に愛されてほしい ーーー まず無理だろうね.タイムマシンに乗って30年後の世界を訪れたなら,VENUSはおろかWindowsもLinuxもMac OSも消え失せているのを目撃することでしょう.もちろん,その頃,私はあの世(天国じゃない方)に逝ってます.

ところで上記の曲,ボーカルの出だしが卓球の福原 愛ちゃんのかけ声に瓜二つなのをご存じでしょうか.愛ちゃんのかけ声が「ター」なのか「サー」なのか,はたまた「シャー」なのかは国民的関心事となっていますが,未だに決着がついていません.ちなみに「タイムマシンにおねがい」の冒頭は次の通りです:

さあ不思議な夢と 遠い昔が好きなら
さあそのスヰッチを 遠い昔に廻せば

さあ」が「たあ」と聞こえるんだよな,私の耳には.

■ 2004年9月7日(火)

今時は,迷惑メールフィルタ機能のないメーラーは使い物になりません.私宛のメールの約8割はジャンクメールです.Mac OS X標準のメーラーmailのフィルタは,長期トレーニングの成果を十分発揮しています.

■ 2004年9月8日(水)

Igor Pro v5.02が届いたので,Windows用RIETAN-2000との連携をテストしてみました.バッチファイルDD2.batをダブルクリックすると,RIETAN-2000実行後にIgor Proが立ち上がるものの,*.patをどうしても読み込んでくれません.*.patをダブルクリックしても,同じ症状を呈します.あれこれ調べた挙げ句,次のような設定が必要なことを突き止めました:

ツール → フォルダ オプション → ファイルの種類で拡張子patをIgor Proに関連づける.次に,詳細設定をクリックし,Openを選び,編集をクリックする.アクションを実行するアプリケーションで
"(Igor.exeの存在するフォルダの絶対パス)¥Igor.exe" "%1"
と入力する.

要するに,%1を引用符で囲わなかったのが蹉跌の元でした.Igor Pro v5.02は意外に石頭です.

■ 2004年9月9日(木)

粉末X線パターンやリートベルト解析結果などをIgo Proでプロットした後,EPSファイルとして保存し,Adobe Illustratorで文字などを追加することが多いです.この際,横軸のラベル(2θ)中の"θ"がイタリックにならないのが悩みの種でした.ところが,Igor Pro v5.02 + Adobe Illustrator CS v11.0.1の組み合わせだと,"θ"がきちんとイタリックになることを昨日知りました.最新版を取り揃えた御利益です.しかし,両ソフトは販売価格ばかりでなく,バージョンアップ料金も非常に高い.誰にでも勧められるお買い得ソフトではありません.

商用ソフトが滞ることなく進化し続け,バグや不具合は責任をもって除去してくれ,しかもユーザーに対する技術サポートも提供されるのでしたら,個人やグループが「趣味」で作っている無料・無保証・無サポートのソフトよりよほどいいと思います.業務に使う重量級ソフトは,とくにそうです.上記二本のソフトはその理由からアップグレードし続けています.gnuplotやTgifを使うつもりはまったくありません.こじんまりしたユーティリティの場合は話が別です.

■ 2004年9月10日(金)

かねてから懸案の単行本の原稿,後半がほぼ完成し,前半を手直し中です.峠は越えました.後は原稿発送前にPower Mac G5が納品されぬよう祈るのみ.

この原稿を執筆しながら痛感したのは,恥ずかしながら,RIETAN-2000にしろVENUSにしろ,作者たる私がフルに活用しているとは到底言えないということです.たとえば,単一の原子から分子全体の原子を探索しうるreiterative convoluting sphereの機能をVICSに組み込むのに執念を燃やしていた割には,自らその醍醐味を味わったことが一度もないというテイタラク.せっかくMPF法という画期的なmethodologyを打ち立て,ソフト環境を整えたにもかかわらず,なにもオレが使うまでもないだろ,とうそぶく不遜な態度.世界で初めてLe Bail法で求めた積分強度のMEP解析を実現したALBAも前車の轍を踏むことになりそうな雲行き.実際の未知構造の解析にとんと無関心なのです.なんという投げやりな姿勢!

PRIMAの超高速化にチャレンジしたのは,ベンチマークテストで自己満足にひたるためだったのではないでしょうか.それが事実だとしたら,なんとも空虚なモチベーションです.PRIMAがMEEDの数10倍速くなったからといって,自慢になりません.実のところ,学生が四苦八苦して書き上げた英語論文をベテランの教官が徹底的に添削したようなものですから.何度も繰り返し述べてるでしょ,PRIMAはVENUSの付録に過ぎないって.PRIMA.pdfに記されたアルゴリズムの詳細を読めば,同様なソフトを作るのは比較的容易です.

自作ソフトの活用に不熱心極まりないことについては,手段が目的と化している,と批判されても抗弁できません.しかし,近年の私の仕事が有意義であるか否かは,RIETAN-2000とVENUSの質と有用性だけで決まります.ユーザーの判断にゆだねることにします.

■ 2004年9月11日(土)

VICS v5.0.2とVEND v6.4.2を含むVENUS.tbzをアップロードしました.Linux版のファイル・オープン/保存ダイアログボックスをGTK+-2.4の新機能を存分に活用し,全面的に改訂しました.物材機構の山本昭二氏作成のソースコードを広島大の大木 寛氏に組み込んでいただきました.Windowsのダイアログボックスよりはるかに使い勝手が良くなりました.Linux版のユーザーにとってはバージョン番号が0.5増えたくらいの値打ちがあります.さらにVICSでは,CSD/FDAT形式のファイルを読み込む際のバッファー・オーバーフローを防止する措置をとりました.東北大の門馬綱一君によるデバッグです.

Windows用VENDは,見かけ上まったく変化していないことを付言しておきます.なお,VICS_v452.exeとVEND_v631.exeは配布ファイルから取り去りました.それらの後継バージョンに対するクレームは届いていないので,もう不要でしょう.

■ 2004年9月12日(日)

一昨日の午後,たまたま廊下を歩いていたところを●●大学の××先生に捕まり,「▲▲…」という本の原稿を書いてよ,と迫られました.不意打ちを食らったせいか,うかうか引き受けてしまいました.ウ〜ム.いかにも顔が広そうなこの先生には10数年前にも○○○○学会誌への執筆を頼まれた覚えが… いや,それだけじゃない,■■…展の特別講演も彼の依頼だったような記憶が… (以後のボヤキは省略)

私が研究集会に顔を出すのを好まないのは,この手のコンタクトを避けるという処世術でもあります.火の粉が降りかかってくる確率が高いのを経験的に悟っています.気弱なので,面と向かって物事を頼まれると断りにくいです.廊下を歩かない訳にはいきませんが,研究集会への出席は自由にスキップできます.

■ 2004年9月13日(月)

Mac OS用アーカイバーbin-tar-gzip v2.5がリリースされました.Mac用のRIETAN-2000をお使いの方は更新しておいてください.

■ 2004年9月14日(火)

VICS v5.0.3とVEND v6.4.3を含むVENUS.tbzをアップロードしました.変更内容についてはVersion historyをご覧ください.VICS・VENDとも,かなり深刻なバグを除去しました.

Version historyには聞き捨てならぬ文言が記されています: Some minor changes for the forthcoming Mac OS X version.私は隠し事とひそひそ話ができない開けっぴろげな性格なので,もう口をつぐんではいられません.ぶちまけてしまいませう:

すでにMac上でVICSとVENDがビュンビュン動いている♪

Mac OS Xネーティブ版だよ!Virtual PCなんかいらないよ!しかも,Closeボタンは追放したんだよ!

このMac版は「貧しい人々」のみならず「3D可視化ソフトという強力な武器が手に入らず,悲嘆にくれている棄民たち(マックユーザー)」も救ってやろうじゃないか,という高邁な目的を達成するべく日夜奮闘した成果にほかなりません.嘘です,てめえがMac版を弄りたかっただけのこと.移植はアウトソーシングに頼りました.

ともあれ,「もはや誰もこのソフトの勢いを止められない!」という9月1日の雄叫びは虚勢を張ったのでなかったことがおわかりでせう.詳しい話は後日,ということで.

■ 2004年9月15日(水)

8月24日の掲示板でお知らせしたRIETAN-2000による結晶構造解析のWebページの管理人である日大M2の古谷龍也君が日本セラミックス協会第17回秋季シンポジウムで9月19日に二つ連続して講演するそうです.ちなみに,私はセラ協の研究集会でオリジナル講演を行ったことが一度しかありません.重い腰を上げ,来年の年会でMac用VENUSについて発表することにしましょうか.

■ 2004年9月16日(木)

日本の借金は現在,約700兆円という天文学的数字に達しています.一世帯あたりの負担額は1500万円に迫る勢いです.いったいどうやって返済するのでしょうか.下記の通り,歳出を大幅にカットする気がまったくない以上,大増税は不可避でしょう.

不可思議なことに,ODAの総支出額は日本が何年も続けて世界一.外国から援助してもらうべきじゃないですか,とツッコミを入れたくなります.本州ー四国連絡橋は悲惨を極めています.無謀にも3ルートすべてを建設した結果,本州四国連絡橋公団は実質破綻状態に陥っています.川崎と木更津を結ぶアクアラインも損失では負けていません.木更津は「木更津キャッツアイ」にまかしておけばいいものを.廃止するはずだった伊丹空港は存続するにもかかわらず,新たに神戸空港を建設するのだそうな.神戸の住民よりは土建・建設業界が喜ぶのでしょう.膨大な出費を伴うイラクへの派兵についてはブッシュの言いなりです.大量破壊兵器って破片くらいは見つかったんでしたっけ.

科学方面に目を転じてみましょう.EUとの間で国際熱核融合実験炉の誘致合戦を展開中なのは驚くべきことです.見栄っ張りもいいかげんにせんかい,と罵りたいです.JAXAの三連敗(みどりII,H-IIAロケット,のぞみ)により巨額の税金が泡と消えましたが,リストラもせずに敗者復活戦に臨むようです.外部評価の切り抜け方をWebで公開したら,あちこちの独法が喜んで活用することでしょう.大型放射光源が二つ稼働中なのに加え,次世代パルス中性子源まで建設中です.少子化と財政破綻は人材の枯渇,日本の科学技術の失速,ひいては(学術的意義の高い)テーマの減少に直結すると思われますが… 今でも魅力的なテーマはほんの一握りで,地味な研究が圧倒的に多いんですよね.旅費支給カットや実験経費の一部負担という事態に陥ったら,テーマ提案者はがた減りでしょう.(大学院重点化+少子化→大学院生のレベル低下→教官の負担とストレスの増加)の二の舞とならぬよう祈るのみです.

下降しっぱなしの借金大国が大盤振る舞いやってるどころじゃねーだろ,バブルの延長戦かよ ーーー と身の程知らずの濫費に対しイチャモンをつけたいですが,これ以上毒舌を浴びせるのは控えておきます.頭の上のハエを追わなければならない(締切の過ぎた原稿を可及的速やかに脱稿せねばならない)もんで.

■ 2004年9月17日(金)

やはりMac OS XのSecurity Update 2004-09-07はバグっていたのですね.Ver.1.1 (J)に更新したとたん,NextFTP4によるMac OS X機へのアクセスが再び可能になりました.

Mac OS X 10.3は岩のように頑丈です.カーネルパニックはまったく起こしません.

■ 2004年9月18日(土)

Mac OS X用VICS/VENDはまだ不具合や不満な点が残っているものの,実害はあまりありません.このVICS/VENDでは,ダイアログボックス内で数値や文字列を修正する際,deleteでなくdel(helpの下)を押してバックスペースする必要があることに気づきました.PowerBookではoption+deleteです.一方,Aquaインターフェースでは,delを押すと,ポインタの直後の一文字が消えます.このキーの働きは今回初めて知りました.

Macを使っていると,ついついVICS/VENDで結晶模型/等値曲面をmanipulateしたくなります.このうきうき・わくわく感はたまりません.夢見心地.ずっと片思いだった人から愛を打ち明けられ,突然両思いになってしまったような気分です.おかげで,原稿執筆は一向に捗りません(言い訳は止めとけ!).

■ 2004年9月19日(日)

本Webサイトのタイトルが不適切だとつぶやく前に,粉末回折や周辺技術に関する情報を少しずつ提供していくよう心がけるべきだと思います.脱線もほどほどにしないと.

今日はFingerらのプロファイル非対称化法で用いる二つのパラメーターhs/lsdとhd/lsの最適値を自動的に推定する方法に関する文献を紹介しておきましょう:

R. J. Papoular, Mater. Sci. Forum, 378-381 (2001) 262-267.

EPDIC 7(バルセロナ)でのPapoular氏の講演は直に聴きました.彼と少々話もし,後日別刷を交換し合いました.この時は,安ホテルのバスで滑って腰をしたたかに打ちつけ,呻吟していました.会議終了後にドイツのキール大学を訪問したのですが,ベッドで寝返りをうつのも大変なほどの痛みに苦しみました.それでも1時間余りの講演をきちんとこなしたのですから,4年前の私は根性の塊でした.

■ 2004年9月20日(月)

昨日に引き続き,粉末回折関連の話題を提供します.1997〜2000年にかけてRIETAN-2000を共同で開発した産総研の池田卓史氏がデカいことをやってのけました.自ら合成した新規ゼオライトCDS-1の合成と非経験的構造解析に成功したのです:

T. Ikeda, Y. Akiyama, Y. Oumi, A. Kawai, and F. Mizukami, Angew. Chem. Int. Ed., 43 (2004) 4892-4896.

部分構造を導入したLe Bail解析,直接法(EXPO)による初期構造の導出,リートベルト解析(RIETAN-2000),MPF解析(RIETAN-2000+VENUS),分子動力学シミュレーション(MXDTLICL)による構造予測を通じ,60個もの構造パラメータをもつCDS-1(斜方晶系,空間群: Pnma)の構造を見事に決定しました.ゼオライトの未知構造が解析されたのは日本で初めてです.池田氏の構造解析の腕前は折り紙付きですが,分解能がさほど高くない粉末X線回折装置(Cu Kα1)で測定した強度データから,これほど複雑な構造を解明するとは,神業としか思えません.CDS-1は触媒,吸着剤,イオン交換体などの材料として有望であり,現在,工業化を目指した応用研究を展開中です.

本論文にはVICS/VENDで描いたカラーの図が6つ含まれており,結晶構造と電子密度分布の3次元的理解を助けてくれます.

この構造解析では,

泉 富士夫, 池田卓史, 日本結晶学会誌, 44 (2002) 30-34.

に詳述したいくつかの技法を駆使しています.粉末回折を利用したab initio構造解析に興味のある方は,ぜひお読みください.そこで披瀝したテクニックを磨き上げるための労を惜しまなかったことが画期的な成果として結実したのです.

RIETAN-2000やVENUSをフルに活用して,これほど立派な業績を挙げてくれる若手研究者がいるのですから,頼もしい限りです.師匠から弟子へのバトンタッチは完了.私が髪を振り乱して自作ソフトを使いまくるまでもありません(もう言い訳はやめんかい!).

余談ですが,RIETAN-2000の開発期間中に池田氏が数多くのゼオライトのリートベルト解析に試用してくれたのは実にありがたかったです.一般にゼオライトは単位胞が大きく,構造パラメータが非常に多いので,安定・確実に動くソフトづくりのためのテストにうってつけでした.逆に,面間隔の大きい反射を呈するゼオライトの構造解析にはRIETAN-2000が強力無比の武器となりました.部分プロファイル緩和が低角領域の反射に対するフィットを大幅に改善するからです.

■ 2004年9月21日(火)

今日も粉末回折関連の話題です.粉末回折パターンの指数づけプログラムDICVOLの最新版DICVOL04がCCP14からダウンロードできます.Windowsのコマンドプロンプト上で実行します.このソフトに関する論文も最近発表されました:

A. Boultif and D. Louer, J. Appl. Crystallogr., 37 (2004) 724-731.

■ 2004年9月22日(水)

昨日紹介した最新論文の掲載号にRIETAN-2000とVENUSをMPF解析に用いた結果を発表している論文が2報掲載されているのに気づきました:

H. Yamada, W. S. Shi, and C. N. Xu, J. Appl. Crystallogr., 37 (2004) 698-702
M. Yashima and M. Tanaka, J. Appl. Crystallogr., 37 (2004) 786-790.

「イオン伝導体における酸化物イオンのディスオーダーと拡散経路」と題する最近の解説で,東工大の八島正知氏は中性子回折データのMPF解析で得られた成果を報告しておられます:

八島正知, 日本結晶学会誌, 46 (2004) 232-237.

一昨日に紹介した池田卓史氏らの論文は出版されたばかりですし,XV-ISRSにおける基調講演の論文も近日中に活字になります:

F. Izumi, "Beyond the ability of Rietveld analysis: MEM-based pattern fitting," Solid State Ionics, to be published.

MPF法による構造精密化がこれほど立て続けに報告されるのは,その有効性と魅力が知れ渡り,速やかに普及しつつある証拠でしょう.非経験的構造解析における構造モデルの構築・修正,動的・静的に乱れた構造の解析,化学結合の可視化にはとりわけ威力を発揮します.今のところ,RIETANのユーザー以外はMPF法を使えません.GSAS,Fullprof,DBWS,Rietica,TOPASなどの古典的リートベルト解析ソフトのユーザーは指を加えて見ているしかないのです.おまけにVICS/VENDによる3D可視化まで享受しうるのですから,至れり尽くせり.RIETANのユーザーだけに与えられた,この特権を行使しない手はありません.

MPFで思い出しましたが,リガクが最近リリースしたVisual RIETANの新バージョンでは,MEM解析プログラムとしてMEEDに代わりPRIMAが採用されました.つまりMEEDのバグによるトラブルが解消し,MEM解析が超高速化し,*.fosや*.priを扱えるようになったのです.Visual RIETANのユーザーにはアップデートをお奨めします.

■ 2004年9月23日(木)

先月購入したばかりのDVDドライブDVR-iUN16Wのファームウェアをv2.27に更新しました.これで8倍速DVD-Rメディアに16倍速で書き込めるようになるのだそうな.しかし,私は8倍速メディアを一枚ももっていません.4倍速メディアばかり,しこたま… 嗚呼.

■ 2004年9月24日(金)

来月上旬に都心の■■ホテルで開かれる▲▲レセプションへの招待状が●●省から届きました.当日のスケジュールは空いているし,出席者の一人からは「お会いするのを楽しみにしています」というメールまで受け取ったのですが,残念ながら,欠席することにしました.理由は ーーー 「エド・ウッド」の打ち上げパーティーみたいになりかねないので.

なんのことだか絶対わからないでしょうね,これだけでは.

■ 2004年9月25日(土)

最近の書籍(1章分,刷り上がり約50ページ)原稿執筆への注力には鬼気迫るものがあります.3連休も秋分の日も返上してその仕上げに没頭し,本文と表をほぼ完成させました.図はトレースが必要なものを除き,全部出来上がっています.

饒舌でチャラチャラした当掲示板からは想像もできないほど,きりりと引き締まった格調高い文体で綴られております(自分で言うんじゃねーちゅうの).こりゃーゴーストライターに執筆させたな,と誤解されはしないかと心配しているくらい.様々なタイプの文章を巧みに書き分けるのも芸の内です(芸者か,お前は).

後半はかなり読み応えがあります.その部分はLe Bail法,MEM,MPF法,MEP法に関する詳細な記述として大いに役立つに違いありません.

MEM解析に関する節で,回折データの分解能から見て無意味なほどピクセル数を増やして解析しても,メモリーと計算時間の無駄になるだけ,と指摘しておきました.単結晶X線解析における分解能は

桜井敏雄,“X線結晶解析の手引き” 裳華房 (1983), p. 184.

に記されています.粉末回折の場合は,実質的な分解能がもっと低下するはずです.普通は,こうして計算した分解能に見合ったピクセル数より大きく設定しますが,程度問題です.ほどほどに増やす方が時間の節約になります.

仄聞するところによると,ピクセル数の増やしすぎで主記憶を使い切ってしまい,仮想記憶が働き,何日も計算せざるを得なくなることさえあるとのこと.等電子密度面を滑らかに描きたいので,便宜上,ピクセル数を増やしているのだそうです.阿呆らしくて聞いていられません.単にPRIMAの出力する3次元密度データを補間して平滑化すればよいだけのことじゃないですか.出来合いの多次元データ補間ルーチンを使えば,どうということはありません.

とはいえ,*.priはバイナリーファイルなのですから,第三者が補間ユーティリティーを作成するのは無理な相談.ということは ーーー あっしが拵えるしかない?! 面倒だなあ.RIETAN-TNの時みたいな只働きは蒙御免.そうだ,シェアウェアとしてリリースしましょう.ジョークです.実は,有り余っているのはCD/DVDメディアばかりじゃないのです.Rubenが去って以来,研究費が一向に減らず困り果ててます.

■ 2004年9月26日(日)

昨日,3Dデータの補間ルーチンの必要性を論じたばかりですが,幸運にも広島大の大木 寛氏がVENDに平滑化機能を実装してくださいました(深謝!).3次元配列を読み込んだ直後に,よりピクセル数の多い3次元配列にスプライン補間で変換します.VENDの利便性が劇的に向上します.

まだテストしていませんが,本機能がきちんと作動するならば,VENDは業務用ソフトにまで成熟したといってよいでしょう.

今は締切の過ぎた原稿2本を抱えて真性パニック状態に陥っており,この新バージョンをリリースする余裕などありません.気長にお待ちください.

■ 2004年9月27日(月)

週末は単行本の原稿を推敲し続けました.引用文献86,数式61,図25,表8という大作です.一部削除を要請される可能性大.

昨日のベルリンマラソンでは渋井と大南にペースメーカーが付いていました.私が原稿を執筆するときも,ぜひペースメーカーがほしいです.極端なスロースターターで,執筆に取りかかった後も筆が重い反面,締切が近づく(過ぎる)と脱兎のごとく書きまくるのが常となり果てております.平均したペースで着実に書き溜めていくよう心がけたいものです.しかし「明日できることは今日やるな」,「苦労は買ってでもするな」という怠惰な性格はいまさら直るはずもありません.

■ 2004年9月28日(火)

単行本の原稿ですが,Microsoft Word:mac v.Xで作成した本文,引用文献,図の説明の分割ファイルを一つに合体しました.合体以前からそうでしたが,どうも動作が不安定で,最悪の場合,落ちてしまいます.これほどよく昇天する(というよりは,地獄に堕ちる)おバカソフトも珍しいです.何度もアップデートを重ねたのにこのザマなのですから,発売されて間もないWord 2004など恐ろしくてインストールする気にもなりません.技術者の腕が悪いというより,あらずもがなの機能を満載しているせいだと思われます.大男,総身に知恵が回りかね,ということです.

このようにWordを忌み嫌っているので,何を使っても構わないなら,絶対LaTeXを選びます.しかし,Wordファイルの提出が義務づけられることが圧倒的に多いのです.一般ピーポーへの迎合に過ぎません.悪貨が良貨を駆逐するとは,まさにこのこと.少数派の悲哀を感じます.

ともあれ,当該原稿は本日,脱稿しました.明日,出版社に発送します.

■ 2004年9月29日(水)

CD/DVDドライブは先月購入したばかりですが,プレクスターが魅力的な製品PX-716UFを11月に発売します.なに,添付のライティングソフトは使い慣れたDrag'n Drop CD/DVD4.IEEE1394インターフェース付き,バッファ容量8 MB,DVD-R DLにファームウェアのバージョンアップにて対応予定だって.これはもう手に入れるしかない.ついでにDVD+R DLメディアも ーーー 買っちまいな!(ルーシー・リューの声で).

■ 2004年9月30日(木)

ルーシー・リューの名が出てきたところで,「キル・ビル」関連の話題を一つ.今,迷いに迷っているのは10月8日発売の「キル・ビル Vol. 2」のDVDを買うか否かです.野蛮な活力に満ちたVol. 1に比べると,スタイリッシュではありますが,パワー不足の感が否めませんでした.思い起こせば,Vol. 2でブライドが殺したのはたった一人,タイトル通りビルだけでした(ネタばれ).居合いの呼吸で,勝負は一瞬にして決まりました.あっけないな,と思いました.

それに引きかえ,(1+88+1)人+腕2本をぶった切ったVol. 1の迫力には度肝を抜かれました.雪が舞う日本庭園でのブライドとオーレン・イシイの死闘には痺れました.妙な発音の日本語のセリフにチャームされたのは私だけでしょうか.場違いな「悲しき願い」フラメンコバージョンが鳴り響くのも素敵でした.2003年11月2日の書き込みが私の傾倒ぶりを如実に示しています.Vol. 1のDVDを発売直後に買ったのは言うまでもありません.

今回はスキップだな.

■ 2004年10月1日(金)

昨日,Power Mac G5(デュアル2.5 GHz)が納入されました.ただしビデオカードはRadeon 9600 XTのままです.GeForce 6800 Ultra DDLが届くのはいつの日か.

■ 2004年10月2日(土)

VENUSを一緒に開発したRuben A. Dilanianはケンブリッジからオーストラリアのモナッシュ大学に移りました.健闘を祈ります.

■ 2004年10月3日(日)

実は,Tommy heavenly6(8月27・28日,9月5日参照)について教えてくれた方お二人の内,Tommy heavenly6を聴きながら湘南をドライブするのが好きなシティーボーイ(死語?)は日大M2の古谷龍也君でした.一宿一飯の恩義を返すため, 彼がRIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析というWebサイト中の学会日記とBlog形式の日記crystal blogに記した事柄に対し,私が小出しにコメントしていくことになりました.どんな調子で応答するのか自分でも予想つきません.ただ,内容はその都度,古谷君にチェックしてもらい,書き改めたり追記したりします.

私はすでに粉末回折,リートベルト法,RIETAN-2000などについて膨大な量の文章を発表ないしWebサイトで公開しています.ただ,色々な情報が多くの解説・文書・Webページに散在していて,どこに何が書かれているのかがわかりにくいのは事実です.あらためてここにQ & A形式で書き込んでおくのも有意義だと思われます.

それにしても,学会発表に関係するネタだけで,これほど長い文章を書き上げるという活力は凄い!200ページ超の修士論文を書き上げそうな勢いです.内容や筆致から判断すると,当掲示板がかなり影響を与えているものと思われます(毒気はありませんが).

■ 2004年10月4日(月)

学会日記へのレスポンス,No. 1です.「学会の反省−その3」と「わからない事をわからないままにしないように−その1」で触れている精密化パラメータの標準偏差の信頼性について説明します.

リートベルト法では通常,単結晶法の場合と同じ式で標準偏差を計算します.単結晶法では全反射,粉末法では回折パターンの全ステップに非線形最小二乗法を適用するため,本来なら別な式を使うべきなのですが,便宜上そうせざるを得ないのです.ケースバイケースですが,真の標準偏差はリートベルト解析で求まる標準偏差の少なくとも2〜3倍だとされています.

実測パターンに対するフィットがよいと,一連のデータ点で連続して観測値が計算値を上回る(あるいは,その逆)というserial correlationが減り,両者が接近する傾向があります.もちろん,最小二乗法はserial correlationがないことを前提としています.観測値はモデル関数(当てはめに用いる関数)を中心としてランダムにガウス分布していなければならないのです.しかし,リートベルト解析ではその前提条件が成立しないことの方が多く,これが標準偏差の計算に悪影響を与えます.たとえば,構造モデルが不完全で,ある反射の積分強度の計算値が実測値より大きかったとしたら,当然,その反射が観測される2θ領域でserial correlationが生じてしまいます.直感的にわかることですが,ステップ幅が狭まるにつれてserial correlationはより顕著になります.

もう一つの深刻な問題点は,観測データの総数に応じて標準偏差が変わってしまうことです(標準偏差の計算式を見れば一目瞭然).つまり,標準偏差は最高2θ(通常,反射の混み具合やブラッグ反射強度を考慮して決めます)やステップ幅に左右されるのです.

標準偏差の絶対的な値が信用できないからといって,論文やレポートに標準偏差を記述しない訳にはいきません.ただ,リートベルト法で得られた解析結果を検討する際には,このような事実を常に念頭に置くべきです.またリートベルト解析のノウハウとテクニック,6節の3,4番目の段落を頭に叩き込むこともお忘れなく.

■ 2004年10月5日(火)

学会日記へのレスポンス,No. 2です.「学会の反省−その4」に記してある原子変位パラメーターの呼称について脱線気味にコメントします.

BやUの呼称をめぐる混乱については,「粉末X線解析の実際」サポートページ:結晶学の学術用語についてを参照してください.正式な名称(たとえばisotropic atomic displacement parameter)が余りにも長すぎ,しかも略しにくいので,人によって,あるいは時と場合(たとえば口頭発表と論文)によって呼び方が変わってしまうのです.

少々イチャモンをつけさせてもらえば,atomic displacement(原子変位)というのは妙な表現です.変位といっても静的変位(たとえば理想位置から逸脱した位置の占有)と動的変位(たとえば熱振動や超イオン伝導体におけるイオンの非局在化)がありますから.私見によれば,thermal displacement(熱変位)の方が物理現象をより適切に表現しています.

原子の熱振動とそれに関係するパラメーターについては,「粉末X線解析の実際」の9.2節が参考になります.

一般に,人は長い言葉を口にするのを好みません.だから,長い名前やタイトルはすぐ略したがります.たとえばTommy heavenly6こと川瀬智子の所属グループ"the brilliant green"は"ブリグリ"になってしまうんですね.今はなき"プリプリ"や少々落ち目の"モームス"も同じ口です."冬のソナタ"のように短いものまで"冬ソナ"にされてしまうのですから,極端です."原子変位パラメーター"より"温度因子"の方が短いという理由だけから,後者が使われるのです.

こういう人間の性癖を考慮すると,何かに名前を与えるときは,(a) 最初から短い名前にするか,(b) 略しやすい名前にするのが賢明です."等方性原子変位パラメーター"では処置なしです."等原パ"では話になりません."B's"とか"ゆず"とか"UA"(読み方わかるかな.スワヒリ語です)は(a)に属します.(b)を選ぶとき留意すべき点は,発音がきれいになるよう工夫することです."セカチュー"はいただけません.それに悲しいお話なのですから,"ピカチュー"や"ジコチュー"と発音が似ているのは最悪です.

VENUSのコンポーネントをVICS,VEND,PRIMA,ALBAと命名したときは,意識的に短い名前を選びました.まだリリースしていない(電子密度→電子エネルギー密度・ラプラシアン)変換ソフトELENも同様です.「卒業」のラストシーンをご存じですか.ダスティン・ホフマンが「エレン!」と叫びながら教会に乗り込み,キャサリン・ロス扮する花嫁を連れ去ったのですが,そのイメージですね.電子密度を直接云々するんじゃありきたりだから,もっとカッコいいやり方に乗り換えようよ,という訳です.

RIETAN-2001T(発表禁止措置をお忘れなく)をRIETAN-TNに生まれ変わらせたときも,できるだけ名前を短縮しようと努めました."TN"が何を意味しているかをここで暴露するのは憚りますが,"Time-of-flight Neutron"の略でないのだけは確かです.

ところで,バグ入りアングラソフトRIETAN-2001Tを未だにコソコソ不正使用している輩がいるのだから,あきれ果てます.発表の現場に居合わせた方から伺いました.恥を知れ,と罵りたいです.なしてRIETAN-TNを使わんと(お前はヒロシか!).「オラはTNを持ってねーだ」と開き直るのなら,申し込み期限はとうに切れましたが,差し上げますよ.然るべき地位の方が私に頼めばね.M菱自動車顔負けの愚行を一々取り締まるほど暇でありませんが,少なくとも私の目の前で発表したり,雑誌に投稿しない方が身のためです.看過する訳には参りませんから.信頼の置ける解析結果を得るとともに無用なトラブルを避けるために,絶対RIETAN-TNを使うべきです.

RIETAN-TNリリースのためにたっぷり1ヶ月は只働きし,配布締切期限を過ぎた後でさえ請求があれば提供するのにやぶさかでないというのですから,(過剰サービス+寛大な措置)に相違ありません.自分自身は得る物が何もなく,時間を失うだけなのにもかかわらず,ですよ.私から協調性と奉仕精神を取ったら何も残らないのではないでしょうか.

■ 2004年10月6日(水)

新聞のチラシを一つ一つ丁寧に眺めると,私のような世捨て人にも世の中の移り変わりが如実にわかります.ひときわ目立つのはパチンコ屋の極彩色のチラシです.枚数も一番多い.なにしろ市場規模30兆円の基幹産業ですし,パチスロ全盛時代ですから.

その内の一枚は3人のお兄さん,お姉さんの写真とともに,託児施設が付属していることを売り込んでおりました.「お預かり中のお子様は退屈させません」とのことです.素晴らしい! 私も当Webサイトの訪問者を退屈させないよう努めなければ…

別なチラシにはチアガールの写真がありました.「ふーん,こんなに可愛い子がいるんなら行ってみたい.」とつぶやいたら,傍らから声あり:「小倉優子も知らないの.」小倉優子?ゆうこりん?オヂが知ってる訳ねーだろ.

■ 2004年10月7日(木)

学会日記へのレスポンス,No. 3です.「学会の反省−その4」に記してある等方性原子変位パラメーターBの精密化についてコメントします.一昨日と昨日は羽目を外し過ぎたので,今日は堅実路線を貫くことにいたしましょう.

特定の原子の中性子吸収断面積が大きいからといって,その原子が占めるサイトのBを固定する必要はありません.回折強度にあまり寄与しない原子のBはしばしば固定します.また中性子を吸収しやすい原子の構造パラメーターが精密化しにくいということはありません.その原子の干渉性散乱径bc次第です.試料が中性子を吸収しやすい元素を含んでいると,入射・散乱ビームの一部が試料によって吸収されるということです.「粉末X線解析の実際」を広げ,回折強度の計算式(モデル関数)fi(x)を眺めてください.式(6.2)です.吸収因子はΣKの前に置かれているのです.

X線回折では,Bが負になったり,異常に大きくなったりすることは珍しくありません.放射光を使ったところで,改善には限界があります.これまでの経験によれば,中性子回折の方がX線回折より確度・精度*の高いBを与えます.干渉性散乱径bcは2θと無関係に一定ですから,中性子回折データでは高角領域での相対強度がX線回折の場合ほど落ち込みません.主にこのことがBの精密化にとって有利に働きます.

* 注: 確度(accuracy)と精度(precision)の違いがわからない人は,「岩波 理化学辞典」の"誤差"の項を参照してください.

Bの精密化に関するノウハウについては,「粉末X線解析の実際」,8.5.18,9.2.2,9.2.3とリートベルト解析のノウハウとテクニック,5節も必読です.そこにも明記しましたが,Bは実験・解析上の不十分な点が発生させるゴミの「はきだめ」になりがちなのです.たとえば回折強度の計算式(モデル関数)ではthermal diffuse scattering(TDS)を"under the carpet"に押し隠していますし,物理的に意味のないバックグラウンド関数やプロファイル関数が完璧なはずはありません.そのしわ寄せは主としてBに来ます.上記Webページの5節にも書いたように,プロファイル・カットオフの値でBが変わることもあります.回折プロファイルの裾はほとんどバックグラウンドと重なるためです.

X線回折データがまともに測定されており,構造モデルが妥当なのにBがあらぬ値になったら,まずお手上げです.論文に結晶構造パラメーターを記述する際,あり得ないようなBの値が出てくるのは体裁が悪いですから,意味があるかどうか別として,なんとか形を整えようとしたことは数え切れないほどありました.常套手段は軽原子(たとえば酸素)のサイトに対するBは共通にするとか,特定の原子のBは類縁化合物の中性子リートベルト解析や単結晶X線解析で報告されている値に固定するといったことでした.将棋の世界では,たとえ負け戦でも投了時の駒の並び具合を思い浮かべながら形を整えることがあるでしょう.それと多少似ています.

あるサイトをいくつかに分割したsplit-atom modelを採用する場合,互いに相関が強い占有率gとBを同時に精密化するのは事実上不可能です.そういう場合は,しばしばBを典型的な値に固定します.

実験時に注意すべきことは,できるだけ広い2θ領域の反射を観測することです.デバイーワラー因子は指数関数の形をもっており,sinθ/λの範囲が広がると,Bの確度と精度が高くなります.

■ 2004年10月8日(金)

学会日記へのレスポンス,No. 4です.「学会の反省−その5」に記してある選択配向の補正に対してコメントしましょう.

選択配向関数はRietveldが初めて作成したリートベルト解析用ALGOLプログラムにすでに組み込まれていました.当時,彼はオランダのPettenにあるNetherlands Energy Research Foundation ECNの研究者であり,原子炉を用いた粉末中性子回折によりウラン酸化物の構造について研究していました.一種のデバイーシェラー光学系を採用し,ビームの試料透過能の高い粉末中性子回折でさえ選択配向の補正はしばしば必要となるのです.

Rietveldがリートベルト法を開発した経緯については,次の総合報告の2節を参照してください:

そのくだりを少し補足しておきましょう.Rietveldはオランダ人ですが,ニューギニア生まれです.彼が誕生した当時,ニューギニアはオランダの植民地でした.彼が西オーストラリア大学で学位を取得したのは,ニューギニアから一番近い先進国がオーストラリアだったためと思われます.Rietveldの顔を拝みたい人はここをクリックしてください.

余談ですが,私はリートベルト法に関する国際ワークショップに出席したとき,Pettenを訪れました.アンカレッジ経由でヨーロッパに飛ぶ時代の話です.ワークショップ出席者一同は宿からバスに乗ってPettenの研究所に向かったのですが,乗客の点呼係を務めていたのがRietveldでした.会期中,彼に頼んで要旨集にサインしてもらいました.彼がアトラクションとして若い女性とダンスしているのを眺めましたが,とてもうまかったですね.そのワークショップでの招待講演者が執筆した本が,有名な"The Rietveld Method"(Oxford University Press)です.私も40分間講演しましたが,非常に好評でした.一番受けたのはGUIを備えたRIETANを紹介するスライドでした.メニューが日本語なのを見て,聴衆が一斉に笑い出しました.何がおかしいんだ,と言いたかったです.

ωスキャン(あるいはεスキャン)による粗大結晶の残留のチェックは励行すべきことですが,ωスキャン・プロファイルが滑らかだったからといって選択配向が無視できるとは限りません.リートベルト解析パターン中の残差カーブを見て,積分強度(プロファイルとバックグラウンドに囲まれた部分の面積)が合っていない反射を調べる癖を付けた方がいいです.それらの反射の指数から選択配向ベクトルの方向が分かることがあります.

選択配向については,あくまで積分強度に基づいて判定します.各反射が出現する領域における残差(観測値マイナス計算値)のカーブから積分強度の観測値と計算値のどちらが大きいかは容易に見当つきます.積分強度がよく合っていない反射について,hklと両者の差の大きさの程度(符号も含めて)をリストアップします.その表を眺めれば,選択配向の大まかな傾向が把握できる可能性があります.大体の方向が決まったら,選択配向ベクトルを仮定したリートベルト解析により試行錯誤的に決めるという手もあります.ただし選択配向パラメーターrの値が正しいか否かに注意してください(「粉末X線解析の実際」,8.5.7項参照).

一方,部分プロファイル緩和は積分強度の観測値と計算値がほぼ等しい(半)孤立反射にだけ適用します.具体的に言えば,残差カーブが正の部分(観測値 > 計算値)と負の部分(観測値 < 計算値)の面積が拮抗している反射です.選択配向の影響が出ている反射は両者が相殺しません.

■ 2004年10月9日(土)

VICS v5.1とVEND v6.5を含むVENUS.tbzをアップロードしました. VICSとVENDには実害のない文法違反を犯している個所(ポインタを渡す引数である配列名の頭に"&"をつけている)が多数含まれており,Intel C++ Compiler 8.0以降でコンパイルすると,大量のエラーメッセージが出るということを物材機構の山本昭二氏から指摘されました.広島大の大木 寛氏にこれらをすべて修正していただきました.回転モードがClickだと,オブジェクトがうまく回転しないというバグを東北大の門馬綱一君に修正してもらいました.さらにAboutボックス中の文を少しだけ変更しました.

VENDでは,IsosurfacesダイアログボックスにSmoothingパネルを追加しました.このパネルはSpline補間により等値曲面を平滑化するのに用います.[More]ボタンをクリックすると,a,b,c方向に沿ったピクセル数がそれぞれ2倍になり,[Less]ボタンをクリックすると半分になります.[More]ボタンをクリックしたとたんに総ピクセル数が8倍に増えますから,RAM容量と相談しながらこの機能をお使いください(メモリー使用量のチェック法については8月21日の掲示板を参照のこと).本改良については,本掲示版の9月25・26日の関連記事もぜひお読みください.

実際にいくつかの等値曲面を平滑化してみたところ効果覿面で,久方ぶりに感動しました.バージョン番号は0.1しか増やしませんでしたが,本機能の利便性を考慮すると,実質的にはメジャーチェンジに相当するといって過言でありません.私が提案した新機能を見事な形で組み込んでくれた広島大の大木 寛氏に厚く御礼申し上げます.

■ 2004年10月10日(日)

学会日記へのレスポンス,No. 5です.「わからない事をわからないままにしないように−その3」に記してある回折強度について述べます.

現在の日本では中性子は貴重なビームです.ピークカウント4700でも致し方ないでしょう.5000を切る最大強度のデータを解析するのが無謀だとは思いません.解析結果の確度・精度はバックグラウンドの高さやS/N比にも依存することを忘れないでください.S/N比が低いと,弱い反射から構造情報を引き出すのが難しくなります.

粉末回折データのMEM解析では各測定ステップにおけるブラッグ反射強度を単純に足し合わせて求めた積分強度を処理するため,観測ブラッグ反射強度が十分高いことが必要条件となります.

回折強度と関連して,今日は実験室系の粉末X線回折におけるトピックスを紹介しましょう.最先端の研究には放射光を使うというのが最近の風潮ですが,実際問題として特性X線で十分な研究がほとんどだと思います.MPFだろうが,未知構造の解析(9月20日参照)だろうが,放射光を使わなくても済むことの方が多いです.ほとんど放射光を使おうとしない未知構造解析の大家さえいます.特性X線だろうが放射光だろうが,回折強度さえ適切に測定されていれば,化学結合や原子の不規則分布の傾向について似たような結果が得られます.

もちろん特性X線を用いる回折装置では測定時間が長くなるのは事実ですが,検出器の進歩が事情を変えつつあります.

ブルカー・エイエックスエスが最近発売した一次元型位置敏感検出器(VANTEC-1)は25 μmピッチで1600ピクセルの素子が並んでいます.検出面積はライン方向が16 mm,ラジアル方向が50 mmと,かなり広いです.ゴニオメーター半径が217.5 mmの場合,VANTEC-1は12゜の2θ領域を一挙にカバーします.平板の形状で使う場合,ブラッグーブレンターノ光学系における収差の問題から検出器の有効面積を約1/4に減らさなければなりませんが,それでもシンチレーション・カウンターの30倍くらいのカウントを稼げます.デバイーシェラー光学系の場合,収差が少ないため全面積が使えシンチレーションカウンターに比べ約200倍の効率となります.微量試料でも高分解能・高強度データを容易に測定できます.もう一つの特徴は時分割測定が可能なことで,実質0.01゜以下の最小ステップで,原理的には0.1 s単位でスナップデータが計れます.実際には,測定時間は試料の結晶性や発生装置にも依存しますが,画期的な高感度検出器であることは間違いありません.

重原子を含まない(つまり吸収の少ない)試料ではデバイーシェラー光学系で選択配向や粗大粒子の効果を抑制して測定できます.実空間法による有機化合物のab initio構造解析に向いています.さすがに重原子を含む試料では,非常に波長(たとえば0.5 Å)の短いビームが使える放射光源(PFは無理)の方が有利です.

VANTEC-1は空冷・密封タイプで,メンテナンスは不要です.欠点はブルカーのX線回折装置にしか付けられないことです.入射側にGeのヨハンソン型モノクロメーターを装備してCu Kα1に単色化し,このPSDで計数すれば申し分ありません.寿命については,約5年おきにXeガスを充填すれば問題ないそうです.

なお,PANalyticalのX'Celeratorという半導体アレイ検出器も同程度の高速測定を可能にします.

放射光や中性子を使うのも結構ですが,いいことばかりではありません.

という大変な面,嫌な面,トホホな面とも直面することになります.綺麗事は廃して本音だけを語りました.プロファイルの広がりが著しい試料を放射光で測定しても意味がないということも指摘しておきます.

どこの施設も建前としては産業利用を謳わざるを得ないご時世ですが,旺盛な需要がある訳でなし,製品開発に直接役に立つはずもなし,マイペースの実験など夢のまた夢では,顧客確保には相当苦労するはずです.民間企業には放射光・中性子施設の利用経験豊富な専門家がほとんどいませんしね.第一,提案書に研究計画を具体的に記述しなければならないのでは,企業はそっぽを向きますよ.秘密研究も可能ですが,かなりの利用料を徴収されるのでしょうから,あまりいい顔をされないと思います.

競争的資金を獲得せよ,というのがどの組織でも至上命令になりつつあります.出張旅費や実験経費(の一部)は競争的資金から支出せよということになると,実質的に貧乏人はご遠慮くださいということになりかねません.研究室のX線回折実験環境をしっかり整備しておくことの重要性を訴えたいです.自分の所属組織だけで事が済むというのは堪えられない魅力です.

■ 2004年10月11日(月)

学会日記へのレスポンス,No. 6です.「学会の反省−総括」に記してある解析ソフトの開発について超辛口の意見を述べます.

RIETAN-2000とVENUSの開発経費はNIMS(あるいは旧無機材研)の超伝導プロジェクトから支給されました.もちろんこれらのソフトは超伝導の研究に大いに役立つのですが,一般ユーザーのほとんどは超伝導と無関係な研究に使っている訳でして,しばしば割り切れない気持ちになります.まあ,両者を一般に開放したおかげで,税金の超有効利用になったのは間違いありません.

「学会の反省−総括」に古谷君は「RIETAN, VENUS, PRIMAなど泉先生が無料で配布しているけどその開発費用はどうなっているんでしょうね? 一時期費用の事のページがあったけど、どうにかなったのかな?個人で出そうと本気で思っていたんですよね (といっても学生だから一万円位しか出せませんけど)。」と書き込んでました.そこまで心配してもらえるのは,涙が出るほどありがたいです.しかし,これらのソフトの最大の受益者である放射光源や中性子源でさえソフト開発にはお金を掛けようとしないという悪習に染まっているのです.万一,学生が私に寄付などしたら,それらの施設の立場がありませんよ.第一,私はもう「幸福の王子」や「銭形金太郎」の境遇からは脱却ずみです.

外部資金の必要性は大いに感じますが,マンパワーを提供してくれるのが一番助かります.知恵を貸してくれるのも大歓迎です.現に,VENUSのポリッシュアップは広島大の大木 寛氏と東北大の門馬綱一君の献身的な無償協力に支えられています.彼らのサポートなしにはVENUSの進歩は事実上停止してしまうでしょう.

掲示板BN,5月15日の記事で次のような毒舌を吐きました:

「現実問題として,RIETAN-2000やVENUSのような巨大アプリケーションを製作できる(製作意欲がある)人材はほとんど見当たりません.ちょっとしたユーティリティーを拵えたり,既成ソフトの一部を書き換えたりするのが関の山でしょう.」

要するに,本質的に重要なのは開発資金ではないんです.ソフト開発に何億円投資したところで,優秀な人材がいないのではoutput(= 実用価値のあるソフト)が得られません.結晶学に詳しい人,プログラミングに強い人,時間的余裕のある人はそれぞれ結構いますよ.しかし,(結晶学に詳しい) and (methodologyの考案が得意) and (プログラミングに強い) and (時間的余裕がある) and (分厚いマニュアルを書く覚悟がある) and …というように論理積をとっていくたびに限りなくゼロに近づいていくのです.

論より証拠,我が国ではタンパク質の構造解析や単結晶X線解析の中核となる直接法のソフトを作成している人種は絶滅してしまいました.外国製ソフトのユーザーしかいないのです.たとえばタンパク質の構造解析の業界の人達はノウハウを蓄積するとともに互いに情報交換することによりそれらのソフトをなんとか使いこなしているとのが現状だと,当該業界の消息通から伺いました.もういくら頑張っても追いつけないほどの大差がついたのです.金に飽かせて建設した強力放射光源・中性子源に高価なオモチャをずらりと取り揃えたところで,バランスを欠いた根無し草的状況が変革される訳ではありません.

たとえ優秀な人材がいたとしても,様々な技術力の集積があり,しかも職場の色々な環境が良好でないと,才能が花開きません.たとえば,任期つきのポスドクが息の長いソフト開発に取り組むのは到底無理です.既成ソフトを使うか,それらを手直しして手っ取り早く論文を発表していかなければ,次の職が見つからなくなります.

既成ソフトや商用ソフトを寄せ集めたり,1000行未満のユーティリティーを拵えたり,既成ソフトにGUIを追加したりするだけで「開発」と称するのなら話は別です.私はアプリケーションの中核(しばしばエンジンと呼びます)を製作することこそ正真正銘の「開発」だとみなしています.最近「鳥肌が立つ」という言葉が誤った意味で頻用されていますね.「開発」の意味も時代の流れとともに変わったのだと開き直られたら,それまでです.

■ 2004年10月12日(火)

学会日記へのレスポンス,No. 7です.「学会の反省−その5」に記してある異方的なプロファイルの広がりについて説明します.

たとえば,結晶子サイズが特定の方向に沿って非常に小さいとします.そのような場合に反射のプロファイルが異方的に広がることは直感的にわかりますね.格子歪みについても同様です.

プロファイル異方的に広がると,積分強度の計算値と実測値がよく合っていても残差カーブはゼロレベルから上下するようになります.プラス側とマイナス側の面積は大体相殺します.そういう反射をピックアップして指数hklを調べると,異方的広がりのベクトル(異方的広がりのもっとも顕著な反射の逆格子ベクトル)が分かることがあります.たとえばh00反射のプロファイルがとくに顕著に広がっていたら,[100]を異方的広がりのベクトルの方向とします.プロファイルの広がりの原因が結晶子サイズの効果なのか格子歪みなのかで,どの異方性広がりパラメーターを精密化するかが変わります.異方的広がりパラメーターというのはTCHの擬ボイト関数の場合XeとYe,分割型プロファイル関数の場合UeとPeであり,それぞれ「粉末X線解析の実際」中の式(6.26)と式(6.33)に含まれています.異方的広がりベクトルを試行錯誤的なリートベルト解析で決めることもあります(「粉末X線解析の実際」,10.7.3参照).

異方的に広がっている反射の数が比較的少数の場合は,部分プロファイル緩和が威力を発揮します.ただ部分プロファイル緩和は異方的なプロファイル広がりばかりでなく,プロファイル関数が観測プロファイルによくフィットしないときにも使えます.たとえば,ソーラースリットの開き角が比較的大きい回折計で測定した強度データにおいて,2θが非常に小さい反射に適用すると有効です.

このQ & Aシリーズも終わりに近づいてきました.単行本の原稿を片づけ終わるや否や,これを書き綴り始めました.その間は雑用が結構多かった上,体調が悪く,丸二日間にわたり外国人研究者を接待したこともあって,さすがに疲れました.

crystal blog,10月5日の書き込みには「さながらF1界の音速の貴公子ことミハエル・シューマッハに運転を教えてもらっているようなもの」という感想が記されていました.光栄の至りですが,喩えがよくありません.私は「貴公子」という風貌からはほど遠い,くたびれかけたオヂですからね.しかも私の車は満9才の大衆車(シビック)なのです.上記の研究者は名家のお嬢様なので,この薄汚いボロ車の助手席に座らせるのはかなり心理的抵抗がありました.しかも,私はそのシビックを買って以来,自らの手で洗車したことが一度もないのです.したがってアクアクリスタルなんて必要ありませんし,へっこもうが傷つこうが無頓着.要するに,車は安くて頑丈で燃費が良く,A地点からB地点に自分を運んでくれれば十分とみなしているのです.そんな私ですから,カーレーサー以外の人に喩えてもらえないでしょうか.

■ 2004年10月13日(水)

学会日記へのレスポンス,No. 8です.crystal blog,10月10日の書き込みに対しコメントします.

「カリスマ性」,「オーラ」,「風格」,「雲の上」ーーー 日頃,そういう分別くささが漂わないよう故意に言動を攪乱してきたはずですが.

なに,「ビル・ゲイツにパソコンの使い方を習っている」だって! よりによって,あの忌まわしい男に喩えるとは.点数を付けたとしたら,★0.1個です.せめて

くらいにしてほしかった.

「羽生生 純」で思い出しましたが,シネプレックスつくばでは「恋の門」(松尾スズキ監督)をまだ上映していないことに気づきました.東京に行かないと観られない! いかにも私好みの奇想天外な映画とはいえ,そこまでやる気はありませんから,シネプレックスでの上映開始まで待ちましょう(ハマりそうな予感).ところで,古谷君が10月7日に書き込んだ記事に寝た子を起こされ,「キル・ビル」Vol. 2のDVDを買ってしまいました.観賞のためでなくコレクションに加えるために購入しました.とくに観たい訳ではありません.それよりも,別な掘り出し物(★★★★★)をいずれ紹介しましょう.

■ 2004年10月14日(木)

学会日記へのレスポンス,No. 9です.「わからない事をわからないままにしないように−その2」に記してある複数サイトへの元素の分配について説明します.

種々の固溶体の物性や化学的性質は元素の分配によって影響されることが多いですし,鉱物学や地球化学における重要な研究テーマでもあります.個人的には水酸アパタイト中の二つのCaサイトへの異種金属イオンの分配に昔から興味をもっているのですが,ついに研究に着手しないまま今日に至っています.

ある元素が二つ以上のサイトを占める可能性がある場合,化学組成と各サイトの占有率の合計が分かっていれば,比較的簡単にそれぞれのサイトにおける当該元素の占有率が求まることがあります.

具体例で説明しましょう.Aという金属のサイトを二つ(A1とA2)含み,Bという異種金属が両サイトに置換型固溶している化合物を想定します.Bがこれらのサイトにどのように分配するかを調べてみるとしましょう.A1は4aサイト(占有率g = 1),A2は8iサイト(g = 0.5)です.Bが固溶しても占有率は不変と仮定します.A1と同じサイトを占めるBをB1と呼び,A2と同じサイトを占めるBをB2と呼ぶことにします.また単位胞中に含まれる原子の数はAが6.2個,Bが1.8個です.単位胞中の原子の数は化学式とZ(単位胞中のformula unitの数)から簡単に計算できます.

4aサイトと8iサイトに対する合計の占有率から,それぞれ
g(A1) + g(B1) = 1
g(A2) + g(B2) = 0.5
という制約条件が得られます.

また化学組成から,
4g(A1) + 8g(A2) = 6.2
4g(B1) + 8g(B2) = 1.8
というchemical constraintが成立します.(当該サイトの等価位置の数)×占有率 = (単位胞中の当該サイトを占める原子の数)という関係から導きました.(当該サイトの等価位置の数)というのは,ワイコフ文字(この場合,"a"と"i")の前に置かれた整数です.

これら4つの式から,一つの占有率(たとえばg(A1))を精密化すれば,残る三つの占有率は線形制約条件により自動的に求まることが容易にわかります.それらの制約条件は各自導いてください.

もちろん,A1とB1のx, y, z, Bはそれぞれ同一,A2とB2のx, y, z, Bはそれぞれ同一という制約条件も必要となります.制約条件の記述法は「粉末X線解析の実際」の8.5.20に書かれています.

AとBの散乱能(X線回折: 原子散乱能,中性子回折: 干渉性散乱径)の差が大きければ,二つのサイトへのBの分配を決めるのは容易です.散乱能の差が小さいときの対処法については,掲示板BNの2003年7月27日を参照してください.

異種イオンがあるサイトに取り込まれやすいか否かは,主としてイオンのサイズによって決まります.サイズが近いイオンを置換しやすいのはもちろんです.ただし酸化状態が異なるイオンを置換する場合はstraightforwardではありません.そういう場合の固溶の傾向について,私は独自の経験則(Izumi's rule)を打ち出しました.詳しくはリートベルト解析に必要な基礎知識から「無機化合物の結晶構造の安定性と評価法」をダウンロードし,2節の後ろから2番目の段落をお読みください.

ところで,crystal blog,10月10日の記事に,ビル・ゲイツがお気に召さないなら,大塚 愛と周富徳あたりはいかがでしょうか,という提案がありました.大塚 愛という名前はゆうこりん同様,初耳です.今年の学園祭の女王ですか.「金魚花火」ってどんな曲なのでしょうか.ご自分の大学で大塚 愛のコンサートが開かれるのでしたら,いつでも出来る構造解析は後回しにして,さっさとチケットを買うようお奨めします.研究にばかり熱中していると偏った人間になりますからね.それに,アイドルはその全盛時代に拝んでおくべきです.牛久大仏と違って後光が差してますよ.オバさんになってからでは遅すぎます.周富徳って脱税した人でしょう.いくら料理の名人とはいえ,そういうズルい人に喩えてはいけないわな.

これで古谷君の抱いていた疑問点にすべて回答したことになります.解説1本分くらいの長さは優にある感じです.ご存じの通り,私は1997年以来,地に足をつけることなくソフト開発一途に突っ走ってきました.自作ソフトは極力使わないという「贅沢な生き方」を貫き通したのですから,空中を一直線に爆走しているようなものでした.たまには地面に降り立ち,迷える学生の相談に乗ってあげるのも悪くありません.古谷君だけでなく,RIETAN-2000の多くのユーザーにとって今回のQ & Aシリーズは貴重な情報源になると信じております.

次回に本シリーズの所感を述べ,その幕を閉じることにします.

■ 2004年10月15日(金)

学会日記へのレスポンス,No. 10です

これが最終回なので,リートベルト解析の初心者向きの情報を追加提供しておきましょう.

RIETAN徹底活用ガイド(1)

はRIETAN-2000の入出力ファイルについて説明しています.「粉末X線解析の実際」や当Webサイトに記載されていない細々したノウハウが書かれています.RIETAN-2000のユーザーにとっては必読の解説です.ただしMEM用ファイルの拡張子が変わった(*.mem → *.fos)ことにご注意ください.

なお,RIETAN-2000の使用法についてWebで情報提供している方々(古谷君も含む)が若干名おられます.m.TuBo's PageのRIETAN情報およびそのページ末尾のお役立ちリンクをご参照ください.

さて,最後に「所感」を述べることにしましょう.10年くらい前に某大学の某氏(当時は講師だったかな)に「ソフトを無償で配布する理由がまったくわからない.」と面と向かって言われたことがあります.その当時はWebサイトを開設していませんでしたが,当Webサイトで粉末回折に関する膨大な量の情報を発信している理由も彼には理解不能なことでしょう.確かに苦労して作成したソフトを無償配布し,自分の知っている有用な情報・知識・ノウハウをことごとく公開し,全財産を失うのは研究者にとって一種の「自殺行為」に相違ありません.装置,技術,情報を独占して自己利益を計り,華々しい成果を挙げ,知名度を高め,競争的資金を獲得し,研究の世界で勝者となる ーーー これが研究の世界における常識です.将来,某氏が某大学の教授に昇進したいのなら,ぜひそうすべきです.

粉末回折に関する技術指導のために某国に出張したことがありました.日本人駐在員から「この国の人に個人的に技術指導すると,その人のところでストップしてしまいますよ.」と釘を刺されました.自分の得た知識やノウハウは私有財産と見なし,皆で共有しようとはしない,ということです.もちろん某大学の某氏のように日本人にもそういう傾向がありますが,それがもっと甚だしいのだそうです.師匠から何か教わったら,他の人々にそれを伝えることが師匠への最良のお礼になります.その連鎖がブツブツ断ち切れるのでしたら,師匠の立つ瀬がありません.何度も同じ事を教えなければならない上,あちこちで無駄な時間と労力が費やされるのですからね.自分の使ったソフトの作者に問題点や改良点をフィードバックしないのも同じように利己的な態度です.

価値観は人それぞれ違います.勝ち組に入りたくない人や不幸にあこがれる人もいれば,時代の犠牲者の道を選ぶ人さえいます.そういう人達のどこが悪いのでしょうか.自分の物差しで他人を測っても意味がありません.5月15日の掲示板に記した通り,私は「冗談半分に作ったものであっても,生理的にお気に召してしまえば,それに価値を与える.他人の評価や労力を査定の対象とせず,自分自身の感覚で,これは嫌い,これは好き,と選別していく,究極の個人主義」(「下妻物語」より)を長く貫き続けており,某氏の仰ることなど歯牙にも掛けておりません.私と彼とは立っているステージが違うのです.私は自分のステージに立ち,自分のやりたい事をやりたいようにやりたい時にやるだけのことです.自研究室のメンバーでもない学生にリートベルト解析の基礎知識を懇切丁寧に教えるのもその一環です.本来なら指導教官が教えるべきことをどうしてオレが代行しなきゃならねえんだ,と憤っているなら,見て見ぬふりをするだけでしょう.

某大学の某教授から,RIETANの配布は功罪半(なかば)すだな,と皮肉られたこともあります.配布先を選ばず,直接手取り足取り指導もせず,難しい結晶学的計算ソフトを自由に配布しても,とんでもない使い方をされたり,自分たちだけでは使いこなせなかったりで,混乱を引き起こす,現に専門家の目から見たら目を覆いたくなるような論文が多数活字になっているだろう,という意味です.それも一理ありますが,傍観者の後ろ向きな意見に過ぎません.無償で自由に配布し,リートベルト法をできるだけ早く普及させるのが結果として最善の道と言い張りたいです.確かに共同研究者でない限り,直接指導はしておりません.そんな時間的余裕など到底ありません.しかし,講習会や大学の講師を何度も務め,「粉末X線解析の実際」を上梓し,膨大な量の解説とドキュメントを執筆し,粉末回折に関する大規模なWebページまで開設し,精一杯「伝道」に努めてきました.重要なノウハウや基礎知識のほとんど全ては,すでにどこかに記述し,発表ないしは公開したはずです.特定の専門領域でここまで熱心に啓蒙と普及に力を入れた研究者はまれではないでしょうか.

古谷君の好きなクルマを例に取り上げてみましょう.クルマが広く普及した結果,大気は汚染され,地球は温暖化し,毎年,かなりの数の人々が交通事故の犠牲になっています.だからといって,クルマに乗るのを禁止せよ,という人はいません.クルマのメリットは計り知れないものがあり,メリットがデメリットを大きく上回っているからです.リートベルト解析が広まっていく過程でボロボロの論文が発表されたり,どう使ったらいいのか頭を抱える学生・教官・技術者が続出したのは事実です.しかし,そういう事態を収拾し,できるだけ建設的な方向に粉末回折のユーザーを導くために私は長年奮闘し続けて来たのです.8月から9月にかけて捻りはちまきで1章分執筆した単行本も来年には出版されるでしょうし,VENUSに関する解説も来春に発表します.ソフトをばらまいただけで,後は放置プレーという無責任な態度をとってきた覚えはないということを最後に強調して,本シリーズの幕を閉じることにします.

■ 2004年10月16日(土)

学会日記crystal blogへのレスポンスは昨日をもってめでたく完結しました.映画のDVDを買うと特典映像が付いてきますね.全10回をお読みいただいた訪問者様のためにアンコール記事を提供しましょう(誰がアンコールしたの?).

そもそもこのシリーズを始めたきっかけはTommy heavenly6中の上付文字"6"の意味を知りたくて,訪問者に「教えてくれ〜」と頼んだことでした.こういう些細なことに徹底的にこだわるのが私のスタイルです.もちろん自分で調べることもできますが,人から教わる方が楽しそうだからそうしたまでのことです.おかげさまで,眼鏡をかけているのがTommy february6という貴重な情報を獲得しました.

1993年に北京の中国科学院物理研究所に招かれ訪中したときのことです.とある若い中国人女性から「高田馬場ってどんなところですか?」と質問されました.どうしてそんなことを知りたがるんだろうと好奇心が湧き,その後,数日は「高田馬場の謎」を解明するのに熱中しました.その謎が解けたときは精神が相当高揚しましたね.中国に出かける前は度重なる外国出張と雑用の処理にくたびれ果てていたのですが,俄然元気を取り戻しました.その熱気を日本まで持ち帰り,RIETANのメジャーチェンジに全力で取り組みました.数ヶ月後に完成したのがRIETAN-94です.嘘か冗談としか聞こえないでしょうが,実話です.次の解説の21ページ左に詳しい話抜きでその体験が語られています:

すでにどこかに書きましたが,部分プロファイル緩和のアイデアは映画「王妃マルゴ」から湧き,VENUS製作の契機はオペラ「魔笛」に関するエッセイを読んだことでした.「風が吹けば桶屋が儲かる.」のようにしか聞こえないでしょうが…

古谷君がcrystal blog,10月13日の記事にヒロシの自虐ギャグを書き込んでいました.最近「ヒロシです。」という本まで出版されたんですね.私も即興で自虐ギャグ(ヒロシ→フジオ)を捻り出してみましたので,これらを披露して正真正銘のお開きとさせていただきます.「ガラスの部屋」を聴きながらお読みください.

過去:「フジオです.liloをついついloliと入力してしまいます.」
現在:「フジオです.自分でつくったソフトの使い方を忘れました.」
数年後:「フジオです.自作ソフトを一度も使わずに定年を迎えました.」
さらに数年後:「フジオです.ホームページのタイトルを泡沫怪説情報館に変えました.フジオです…フジオです…フジオです…」
・・・・・・・・
さらにまた数年後:「MEM/リートベルト法とMPF法の違いがわかりません.自分の名前もわかりません.」

注釈を少々.最初のはヒロシの「ロータリーという字がロリータに見えて仕方ありません.」というギャグのパロディです(注中の注:私はロリコンではありません).liloはLinuxのブートローダLILO(LInux LOader)をインストールするためのコマンドです.最後のギャグでは,"MEM/リートベルト法とMPF法" → "RIETAN-2001TとRIETAN-TN"も可です.両者の違いも己の名もわからないほどのボケ老人になり果てたという想定で…

ヒロシ的自虐ギャグは難しいです.簡潔にズバっと表現しなければなりませんから.

アクセス解析の結果を眺め,GoogleやYahoo!でどんなキーワードを検索して本HPにたどり着いたかをチェックすると,お下劣なキーワードが検索されていることが多々あります.たとえば

の類(アイウエオ順)です.過去の掲示板にこれらのいかがわしい言葉が含まれているのは事実でして,前後の文章抜きでこのようにピックアップすると,変態サイトとしか思えないでしょう.全体を読み通せば,ギャグを散りばめただけだということがわかるはずです.

こういうけしからん連中がいることは自虐ギャグにならないかな,と検討してみたのですが,どうしても駄目でした.くどくど長くなってしまうのです.しかし,エグいねた探しに知恵を絞っていると,ボケないような気がします.

以上でアンコールはお終いです.ご閲覧,ありがとうございました.序言(10月3日),所感(10月15日),カーテンコール(本日)付きの長大なQ & A ーーー 己の腕力の逞しさに感心しました.

■ 2004年10月17日(日)

昨日,上映を心待ちにしていた「恋の門」をシネプレックスつくばで観ました.公開初日でしたが,ガラガラでした.3C(コミケ,コスプレ,コミック)やアニメソングに関する教養に欠けている私には,得体の知れないオタクや変人が支離滅裂な奇行を演じる,この狂騒感に満ちたラブコメについて語る資格はありません.住んでいる世界が違うのですから(同類じゃないか,というツッコミは厳禁).もちろん採点は不能.といっても,ノーコメントでスタコラサッサと逃げるのも卑怯なので,一言二言さらっと述べておきます.

主人公の自称「漫画芸術家」蒼木(あおき)門はアルバイト先の社員から「貧乏=失敗だ!」と決めつけられます.その身も蓋もない罵詈雑言は4ヶ月前まで赤貧洗うが如き境遇に陥っていた私の胸にグサリと突き刺さりました.「競争的研究資金を獲得してない研究者=負け犬だ!」と切り捨てられたような気がしたのです.

もっとも,敗残者の烙印を押される寸前にスルッと身をかわしてしまうのも芸の内で,今の私は雑用も会議も学会も予算・ポジション獲得も我関せず,Power Mac G5の最高峰を買い込み,右手にマウス,左手にうちわという結構な身分を享受しています.潤沢な研究資金を獲得したところで,持て余すだけ.第一,この豪勢なマシンと戯れる時間が激減してしまいます.

しかし,経済的に困窮していた頃の方が充実していた,楽しかった,スタイリッシュだった,ヒップだったと思えて仕方ないのはなぜでしょうか.OLとして地道に働いている証(あかし)恋乃が精彩を欠いていたのに対し,コスプレ,コミック,ゲームに夢中になっているときの彼女が実に活き活きとしていたのと根が同じような気がします.そう,少なくとも自分の好きなことに没頭している限り,「貧乏≠失敗だ!」と言い張って構わないのです.たとえ負け犬の遠吠えと誹られても,馬耳東風でいればよし.

門も恋乃もここぞというときに嘔吐し,せっかく盛り上がった雰囲気を台無しにするのですが,ゲロを一度も写さないのが不自然でした.それでは綺麗事すぎはしませんか.「猟奇的な彼女」を見習い,リアルに撮るべきでした.

恋乃のパソコンはiMacでした.門・恋乃・毬藻田(まりもだ)が三つ巴の漫画バトルを繰り広げた際には,グラフィックソフトを手際よく使いこなしてました.

恋乃と門 ーーー 二人合わせて「恋の門」.この安直でポップなタイトルには唸るほど感心しました.苗字は「あお」と「あか」から来ているのでしょうか.

■ 2004年10月18日(月)

リガクが最近リリースしたVisual RIETAN v1.5に関する情報を入手しました.9月22日にも書きましたが,MEM解析にはMEEDに替わってPRIMAが使われています.VENDによる3D可視化機能も追加されました.つまり,電子密度の決定・可視化にはVENUSシステムが全面的に採用されたのです.さらに金属結晶構造データベースCRYSTMETから構造データを直接入力できるようになりました.詳細についてはリガクに問い合わせてください.

■ 2004年10月19日(火)

Mac OS X用のVICSとVEND(9月14・18日参照)は意味不明のエラーメッセージがTerminalウィンドウに出力されるという不具合(実害なし)を除けば,問題なく利用できます.Windows・Linux版ではそのメッセージはまったく出ないので,Xcodeの不具合によるものだと思われます.VICSとVENDをDockに登録しておけば,アイコンをクリックするだけで立ち上がります.Mac OS Xは3Dグラフィックスの処理にOpenGLを採用しており,VICSとVENDの実行にうってつけです.Mac OS Xへの移植を快く引き受けてくれた東北大の門馬綱一君に心から感謝します.

参考までに,Power Mac G5上でソーダライトの結晶構造を表示しているところ(切り抜き)をご覧ください.各ウィンドウ・バーの右上のcloseボタンが姿を消し,すっきりすると同時に,誤ってプログラムを終了させてしまう恐れがなくなりました.

■ 2004年10月20日(水)

VEND v6.5.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.2DイメージをTIFF形式で保存する際,Scaleをnに設定すると,(n×n)個のイメージを含むファイルが出力されるというバグ(物材機構の高田和典氏のご指摘)を退治しました.広島大の大木 寛氏に改訂していただきました.

■ 2004年10月21日(木)

VICS v5.1.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.多くのオブジェクトを削除した後,VICS形式のファイル*.vcsを保存しようとすると,VICSが異常終了するという不具合を取り去りました.これも物材機構の高田和典氏のご指摘です.本障害は,改行コードを自動変換している部分で1行あたりの文字数を最大256文字としていたため発生することがわかりました.この部分はchar型を使う限り安全なコードを書けないので、std::stringに変更しました.さらに同一の結合が複数回,削除オブジェクトとしてカウントされないように修正しました.いずれも東北大の門馬綱一君による改訂です.

■ 2004年10月22日(金)

古谷龍也君からRIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析というWebサイトを新たに開設したというメールが届きました.このバイタリティはすごい!見習わなければ…

過去の記事を上記Webサイトと古谷君のcrystal blogに適合するように書き改めました.

表紙に丹沢の写真が張り付けてあったので,山の名前を明記した方がいいですよ,とアドバイスしておきました.20代のはじめのころ丹沢山塊を縦走(大山→塔ケ岳→丹沢山→蛭ケ岳→桧洞丸)したことがあり,懐かしかったです.

国際会議の思い出に「図書館っていうのは調べ物をするためにあるんじゃなくて、自分が書いた本を人に読ませる所」と豪語した先生の話が記されていました.自著を人に読ませて悦に入る ーーー う〜ん,なんともショボいB級不条理ホラ話だな.大体,専門書なんぞ読む人の数はたかが知れてますよ.10月17日の掲示板をご覧ください.私は「恋の門」で,実にうらやましい役得を目にしました.羽生生 純の原作では端役だった毬藻田を重要な役に格上げし,恋乃(酒井若菜)とのキスシーンを強引に挿入し,ちゃっかり自分が毬藻田を演じた松尾スズキ監督 ーーー 彼の方が格が数段上です.

■ 2004年10月23日(土)

Absoft Pro Fortran for Mac OS Xをv9.0にアップグレードしました.さっそくRIETAN-2000をPower Mac G5上でビルドしてみたところ,理解不能なエラーメッセージが出力され,リンクが途中で止まってしまいました.Absoftのサポートに問い合わせても,なしのつぶて(定価176,400円のコンパイラなのに).ベンダーが頼りにならないのなら,自力で暗中模索するしかありません.数日かけてあれこれこれ試行錯誤したり調査したりして対症療法を見つけ,リンクできるようにしました.

v9.0でビルドしたRIETAN-2000によりCu3Fe4P6E.insを処理した結果,旧バージョンでビルドしたRIETAN-2000よりわずかに遅いということが判明しました.つまりアップグレードならぬダウングレードのために大枚をはたいたことになります.まさに骨折り損のくたびれ儲け.Absoftは旧バージョンに比べ25%スピードアップしたと宣伝していますが,ベンチマーク用プログラムで高速化するように細工したのかもしれません.

かくの如く,ソフトの移植は一筋縄ではいかないことが多いです.その都度,相当な時間(ときにはお金)を費やすと同時に気力・知力・体力を消耗します.RIETAN-2000でもVENUSでもそうでした.辛酸をなめ尽くした挙げ句,ユーザーからのクレームを一身に引き受けなければならないのですから,人柱そのものです.

種々のOSへのソフトの移植を何度も経験した挙げ句,私は次の結論に達しました:「ソフトのプラットホームは一つに絞るべきである.」マイクロソフトでさえ今後Mac OS用Internet Explorerはバージョンアップしないと決定したくらいですから,個人で細々と開発している無料ソフトに話を限れば,絶対的な真理に相違ありません.でも,その教訓を生かそうとすると,あの不細工で華のないOSにしけこむ羽目に陥っちゃうんですわな.

■ 2004年10月24日(日)

ご存じの方が多いでしょうが,"International Tables for Crystallography", Vol. Aに記載されている空間群の記号の一部が1995年発行の第4版から変わりました.具体的にはAem2 (39), Aea2 (41), Cmce (64), Cmme (67), Ccce (68)です.RIETAN-2000とVICSは全空間群における等価位置の座標などをデータベース・ファイルとして含んでいますが,これらの空間群の記号は第3版以前のままです.データベース・ファイルを修正するか,従来のままにしておくか迷っています.

■ 2004年10月25日(月)

Power Mac G5は快調に動いています.なにしろメモリーを2 GBに増設したデュアルCPU(2.5 GHz)の最上位機種なので,マシンパワーがあり余っています.そこでFinderの代わりにPath Finderを使い始めました.自前のテキストエディターまで含んでいるのには驚かされました.一番便利なのはドロップスタックです.

すっかり気に入りましたが,一つだけ不満な点があったので,cocoatechに改善をお願いしたところ,快く引き受けてくれました.今回は英語でやりとりしましたが,作者のSteveの奥様(美穂さん)が日本人なので,日本語でのサポートも受けられます.

■ 2004年10月26日(火)

粉末X線解析の実際」の第5刷が発行されました.2002年2月刊ですから,お堅い専門書にしてはかなりのハイペースといってよいでしょう.過去数回開催したX線リートベルト解析講習会の受講者の多さから見て結構ヒットするだろうとは予想していましたが,これほど好評を博するとは思いも寄りませんでした.嬉しい限りです.

なお,「粉末X線解析の実際」サポートページ中の12.訂正・修正にリンク切れの修正を追加しておきました.WebサイトのURLというものは変更になる確率がかなり高いです.本書のようにアフターサービス用のWebページから最新情報を提供するのでなければ,書籍中にURLを記載するのは控えるべきです.

■ 2004年10月27日(水)

ATOK 17 for Mac OS Xを購入しました.まめにバージョンアップしているのですが,進歩はほとんど感じられません.Absoft Pro Fortran同様,一回おきにバージョンアップすれば十分だと思います.ジャストシステムやAbsoftが傾かないように支援したいというなら話は別ですが…

■ 2004年10月28日(木)

掲示板の10月13日に記した掘り出し物(★五つ)の映画は「金髪の草原」(2000)です.監督と主演女優は「ジョゼと虎と魚たち」と共通です.DVDが安価(税込2,625円)だったので,衝動買いしてしまいました.

重い心臓疾患のため若い頃から廃人同然の生活を余儀なくされてきた80才のボケ老人があえない最後を遂げるまでの1週間を描いた作品というと,食指が動かないかもしれません.しかし,これは初々しい青春映画でもあります.古代なりす(池脇千鶴)と弟が黄金色の夕日を浴びながら航行する汽船の甲板に佇むリリカルなシーンには感動させられました.

私見によれば,「金髪の草原」の伊勢谷友介にしろ「ジョゼと虎と魚たち」の妻夫木 聡にしろ生彩を欠いており,池脇千鶴の引き立て役に堕しています.俳優としての力量が違うのでしょう.いずれの作品でも首尾一貫して池脇ワールド全開で,とくに「金髪の草原」は彼女のプロモーションビデオであるかのように感じてしまいました.

どすの利いた声で悪態をつくジョゼより鈴を鳴らすような可愛らしい声で語りかけるなりすの方が私が好きです.世評の高い「ジョゼと虎と魚たち」を私が★三つと採点したのは,案外そんなところにあるのかもしれません.

といっても,★三つは点が辛すぎました.投げやりな言葉を吐くひねくれ者のジョゼも嫌いではないんですよ.なにしろ,乳母車の中で身動きできないジョゼを殴った香苗を演じた上野樹里が主役だというだけで,「スウィングガールズ」を観ようとしないくらいですから.

■ 2004年10月29日(金)

VICS v5.1.2とVEND v6.5.2を含むVENUS.tbzをアップロードしました.VICSではPreferences,New Data,Edit Dataダイアログボックス中の表示を少しだけ変更するとともに,空間群に関する情報を収めたテキストファイルspgra.dat中の数行を修正しました.匿名協力者が誤りを指摘してくださいました.VENDではPreferencesダイアログボックス中の表示を1箇所だけ変更しました.

■ 2004年10月30日(土)

粉末X線解析の実際」サポートページ中の12.訂正・修正で,付録4中の引用文献10(Fundamentals of Crystallography)を更新しました.第2版が2002年に出版されたことを知ったためです.同時に購入手続きも取りました.この名著にはVENUSを開発している間,ずっとお世話になり通しでした.重要な数式が網羅されているのです.結晶学的な記述に対する引用文献にもよく使っています.

■ 2004年10月31日(日)

15th International Symposium on the Reactivity of Solidsのproceedingsが刊行されたので,RIETAN-2000のWebページ中の14. PDF documents, articles, and booksに私の基調講演の内容をまとめた論文(x)を追加しました.巻頭に掲載されていたのは気分爽快でした.この論文のPDFをダウンロードしたところ,図が全部カラーになっており,なんとなく儲けたような気になりました.

■ 2004年11月1日(月)

RIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析をより充実したWebサイトにするべく古谷龍也君に協力しています.

今回は「出発原料の混合法と生成物の粉砕法について」のタイトルのもと,三つのWebページを追加しました.一般に,固相反応で試料を合成する場合,出発原料が十分に混ざり合っていないと,良質の試料が得られません.良質な試料は結晶性が高く,相分離しておらず,固溶体の場合は結晶子内や結晶子間で化学組成がほぼ均一になっています.乳鉢に出発原料と有機溶媒を入れ,乳棒でゴリゴリこするだけでは不十分なことが多いです.そこで高品質の酸化物試料を合成することで定評のある匿名研究者から出発原料の混合法と生成物の粉砕法をお聞きし,それをこの付録中で公開させていただくことにしました.複酸化物を合成している方々の参考になれば幸いです.

「粒成長しない焼成温度を見極めて作製した粉末がベストである」と記されていますが,確かにこれが究極の粉末X線回折用試料なのです.粒成長した結晶をいくら粉砕しても粗大結晶が残存しがちですし,あまりしつこく粉砕すると,メカノケミカル反応により劣化してしまいます.生成物そのものがすでにX線回折実験向きの結晶子サイズになっているよう合成条件を最適化するのが理想です.

この他,古谷君自身が実践している出発原料の混合法と生成物の粉砕法および固相反応法についても詳しく記述されています.これらの記事はRIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析に大きな付加価値を与えるに違いありません.

学生とのコラボレーションは楽しいですね.学生にとって得るところが多いですし,私も背中を押された心地がします.

なお,当Webサイトの月間アクセス数は10月に過去最高となりました.10月3〜16日に書き込んだQ & Aシリーズが注目を集めたのは間違いありません.Tommy Heavenly6がどうのこうのという人を食った話から始まり,構造解析とは無縁の与太話が随所に散りばめられており,自虐ギャグといかがわしい検索語の列挙で幕を閉じる騒々しさと全体のボリュームに読者は圧倒されたのではないでしょうか.長年の鍛錬を経て,冗長な文章を素早く書き殴るのが得意技となりました.もちろん古谷君のWebページ中のQ & Aでは,余計な部分をカットして再録しています.

■ 2004年11月2日(火)

GCCの次期メジャーバージョンGCC 4.0.0にはFortran 95コンパイラgfortranが公式にバンドルされます.これさえ手に入れば,Absoft Pro Fortran for Mac OS Xなんぞ要らなくなるんだけどなあ.GCC 4.0.0のリリースを心待ちにしています.

Mac OS Xの普及率は次第に上昇しています.当Webサイトを訪問するMacユーザーに話を限れば,8割強の方々がMac OS Xを使用しています.計算が遅すぎるCarbon ApplicationのRIETAN-2000の配布は,早晩止めるつもりです.G5用の最適化もできないコンパイラに執着するのは愚かです.その際にはTerminal(つまりUNIX環境)上でプログラムを実行するのが無理な人々は切り捨てざるを得ないのが残念ですが,GUIを提供する意志がない以上,致し方ありません.

■ 2004年11月3日(水)

VICS v5.1.3とVEND v6.5.3を含むVENUS.tbzをアップロードしました.VICSではPreferencesダイアログボックスの表示とOutputウィンドウの出力,VENDでは2D Projectionダイアログボックスの表示とOutputウィンドウの出力を修正しました.Outputウィンドウでは格子定数(VICSとVEND)と単位胞の体積(VICS)の単位を明記しました.

■ 2004年11月4日(木)

Power Mac G5(デュアル2.5 GHz)に組み込む予定のNVIDIA GeForce 6800 Ultra DDLは依然として納入されていません.IBMによるGPUチップの生産が遅々として進まず,需要を満たせていないとのことです.今年の4月に発表されたGPUなのですが,歩留まりが低すぎるのでしょう.2億2000万個ものトランジスタを詰め込んだ超弩級チップなのですから,無理もありません.

■ 2004年11月5日(金)

古谷君に丹沢の山々についてもっと詳しく説明してほしいと要望したときに,いずれ本掲示版に山の話を書きましょう,と伝えました.その約束を果たすことにします.

私は18才からの10年ほど,山登りに凝っていました.夜行列車に乗り,ほとんど寝ないままひたすら登り続けるというパターンが多かったです.深田久弥の「日本百名山」という本で調べてみたところ,39の名山に登っています.30過ぎてからプログラミングを始めて以来,山登りとは無縁の電算砂漠をさまよい続けてきました.ただ,高いところが好きなのは相変わらずで,ボールダーのNISTを訪問した際にはロッキー山脈国立公園をドライブし,スイスを旅したときにはシャモニーからロープウェーでエギーユ・デュ・ミディまで登り,モンブランを指呼の間に臨みました.自分の足で登ったわけではありませんが,いずれの折りも富士山より高い地点まで到達し,爽快な気分を味わいました.

もっとも印象に残っている山行は白根三山(北岳,間ノ岳,農鳥岳)と平ケ岳です.いずれも素晴らしい晴天に恵まれました.

百名山ですが,あと一つ登りさえすれば40に達するのですから,いずれぜひそうしたいです.しかし慢性的な運動不足と,昨年初め腰痛に苦しんだことを考慮すると,重い装備を担いで長時間歩き続けるのは危険だと思われます.楽に登れる山を選ぶ,ガイドを雇う,スケジュールに余裕を持たせるというように,慎重に計画を立てるべきです.

なお,私が登った山々は東北,関東,中部に集中しています.北海道,近畿,中国四国,九州の山はまったく登ったことがありません.できれば,それらの地方を訪れてみたいです.

■ 2004年11月6日(土)

Mac OS用アーカイバbin-tar-gzip v2.5.1がリリースされました.v2.5はアーカイブ時に致命的な障害を引き起こすそうです.Mac用RIETAN-2000のユーザーは必ず更新しておいてください.

■ 2004年11月7日(日)

Win高速化 PC+ v1.9がリリースされました.7項目の高速化項目と4項目のユーティリティ項目が追加されました.このユーティリティのおかげでWindows XPが相当俊敏になりました.

■ 2004年11月8日(月)

毒を食(くら)わば皿までということで,羽生生 純原作「恋の門」全6冊を読破しました.暗くて,セコくて,悲惨で,重苦しい印象を受けました.門も恋乃も打算的で小心翼々とした面が強まっています.私は映画の方が好きです.

「私も恋の門を観ました.」というメールが女の子(人?)から届いたので,「エンドロールが終わるまで観ましたか?」という質問を投げ掛けました.答えは「エンドロールの途中で席を立ちました.」それは残念でした.蒼木 門がその後たどる運命を示す落ちを見逃したことになります.もう一度観に行くよう奨めておきました.

怒っているでしょうね,この底意地の悪さには.まるで「キル・ビル」Vol. 2の回想場面に登場するパイ・メイみたいです.

■ 2004年11月9日(火)

VENUS.tbzを更新しました.VICS_VEND_readme.pdfをVICS,VEND,Paint Shop Proの最新版に対応して修正しました.

■ 2004年11月10日(水)

研究費や研究者をかき集める熊手をもっているような人が重んじられるのは,どの旧国立研でも同じようです.独法化により運営費交付金が年々減り,外部資金をどんどん獲得しなければ組織が維持できませんから,必然的にそうなります.しかし,多くの予算とマンパワーを投入して得た研究成果がさほど高く評価されなかった(たとえば,論文がさほど引用されなかった,特許が売れなかった,波及効果が微々たるものだった,エト‐セトラ)としたら,コスト‐パフォーマンスは極端に悪いです.逆に少人数の人(ときには一人)が少額の予算で評価の高い仕事を成し遂げたなら,コスト‐パフォーマンスは最高.アウトプットと波及効果だけでなくコスト‐パフォーマンスも重要だと思うのは私だけでしょうか.

Webサイトにも同じようなことが言えます.ちょっとしたサイトを開設・維持・管理するのでさえ相当な手間と時間がかかります.訪問者がろくにいないサイトや役に立つ情報がほとんどないサイトに手間暇かけるのは無駄の最たるものです.体面維持のために種々の組織が渋々開設した無気力サイト,愚にも付かぬ情報を垂れ流しているサイト,まれにしか更新されないサイトが多すぎます.消えてなくなったところで誰も惜しまないでしょう.

■ 2004年11月11日(木)

NVIDIA GeForce 6800 Ultra DDL(11月4日参照)は当分納入できそうにないので,NVIDIA GeForce 6800 GTに変更しませんか,とアップルが代理店を通じて問い合わせてきました.ビデオカードの換装をとりたてて急いでいる訳ではありませんし,OpenGLを駆使したアプリケーションの開発者としてあくまで最強ビデオカードにこだわりたいので,きっぱり断りました.

■ 2004年11月12日(金)

先月は,最近観た映画の中から★5つの「金髪の草原」と採点不能な「恋の門」についてコメントしましたが,いくら甘く採点しても★一つから脱却し得ないB級オバカ映画「ドラッグストア・ガール」と「キューティーハニー」については書き漏らしました.しかし,ここに書き殴るべきネタがいよいよ枯渇してきたので,今日は「ドラッグストア・ガール」について一言.

私と同じくらいの年格好のオヂたち(バンブーロードというさびれた商店街の面々)が,ドラッグストアでアルバイトしている大林恵子(田中麗奈)とお近づきになりたい一心で,ラクロスを始めます.寄る年波には勝てず,いくら練習しても上達しません.なかには試合中に昇天してしまうオヂまで出る始末です.インディアン相手の最終試合も一方的に点を取られていく展開で,業を煮やした恵子が「シュートを決めたらデートしてあげる!」→「シュートを打ったらデートしてあげる!」→「相手コートに入ったらデートしてあげる!」→「一番大きい声を出した人とデートしてあげる!」というシークエンスで叱咤激励します.

結局,面白かったのは「〜したらデートしてあげる!」というセリフだけでした.確かに,人はなんらかのモチベーションなしには動こうとしません.魅力的な見返りが強烈なdriving forceとなるのはもちろんです.実際問題として,「講演したらデートしてあげる!」,「論文書いたらデートしてあげる!」,「特許を取ったらデートしてあげる!」,「外部資金を獲得したらデートしてあげる!」という甘い誘惑の方がポイント還元制で研究者の尻を鞭で叩くより有効ではないでしょうか.

■ 2004年11月13日(土)

相変わらずネタ切れが続いているので,今日は「キューティーハニー」についてコメントしましょう.同時期に封切られた「下妻物語」がうるさ型の映画評論家たちから絶賛を博したのに対し,「キューティーハニー」はぼろくそに言われました.

主役の佐藤江梨子(サトエリ)は製作発表記者会見で「私なんかを抜擢してくれるなんて…」と感涙にむせびました.そのしおらしい姿の方が如月ハニーよりもよほどキュートに見えました.「私なんか」以外の女優をヒロインに据えたとしても,間違いなく失敗作に終わったでしょう.ワクワク感がなく,陳腐で,アホくさい ーーー DVDで観ながら,そう感じました.サトエリの巨乳以外は盛り上がりを欠いており,全体的にショボいのです.

日本漫画協会と出版社5社は,11月3日の「まんがの日」を記念して第3回まんがの日大賞を発表しました.大賞には「キュティーハニー」に主演したサトエリが選ばれました.捨てる神あれば拾う神あり ーーー ということですね.

■ 2004年11月14日(日)

しばらく前から,RIETAN-2000のLe Bail解析機能の改良に鋭意取り組んできました.例によって関連部分のアルゴリズムを思い出しソースコードを解読するのに,相当な時間を費やしました.RIETAN-2000では,リートベルト解析,MPF,Le Bail解析(部分構造導入可),個別プロファイル・フィッティングの4通りの解析が行えるほか,3種類の非線形最小二乗法と部分プロファイル緩和が利用できます.必然的にIf,else if,else,select case文,フラッグ,COMMON領域の変数が増し,私自身にもなかなか理解しがたいほど複雑怪奇なプログラムになってしまいました.

案の定,今回の改訂は難渋を極めました.しかし,本機能のブラッシュアップはかねてからの悲願だったので,じっくり腰を据え,倦まずたゆまず頑張りました.購入して間もないPower Mac G5が早速役立ちました.いずれ,Le Bail法と最大エントロピー・パターソン(MEP)法の連携によるパターン分解を世界で初めて実現したという内容で口頭発表(私としては超レア物)するつもりです.改訂版は近日中にRIETAN-2000 Rev. 2.0としてアップロードします.まだ完璧にはほど遠いので,今後さらに磨きをかけていきます.

我が国では,RIETANのおかげでリートベルト法が普及したことは誰もが認めるでしょう.RIETAN-2000に実装したMPF解析もその威力が認知され,次第に広まりつつあります.VICS/VENDにより電子・原子核密度をPC上で手軽に三次元視覚化できるようになったことも強力な追い風となりました.今後は,RIETAN-2000によるLe Bail解析およびALBAによるMEP解析の改良と普及に傾注していく所存です.

■ 2004年11月15日(月)

残念ながら李戦士男監督の「お父さんのバックドロップ」はつくば市では観ることはできません.そこで中島らもの原作(集英社文庫)を読みました.子供むけの物語の体裁をとっており,4つの短編からなっています.悪役プロレスラー下田牛之助を主人公とする「お父さんのバックドロップ」がやはり一番読み応えがありました.泣かせる話です.

私は10代のころ(いつだったか,はっきり覚えていません),一度だけプロレスラーを見たことがあります.ジャイアント馬場とザ・デストロイヤーがお付きの者を従え,肩を並べて歩いていました.その二人が親密そうな様子だったので,びっくりしました.当時の私はプロレスというのはすべてガチンコ勝負であり,宿敵同士が仲良くするはずはないと思い込んでいましたから.

やはり男というものは一生に一度や二度はガチンコ勝負すべきなのだと思います.私も過去に何回か勝負してきたつもりです.もっとも私には冷徹で抜け目ない面があり,勝利できる成算があるときしか勝負しません.そういうのを勝負と呼んでいいのかどうか…

■ 2004年11月16日(火)

11月14日の予告通り,Mac OS・Windows用のRIETAN-2000 Rev. 2.0をリリースしました.Le Bail解析機能をどのように改善したかについては,A version history of RIETAN-2000をお読みください.今回のバージョンアップにおける収穫は解の発散(重みつき残差二乗和の単調増加)を防ぐ仕組みが盛り込まれたこと,共役方向法によるLe Bail解析が可能になったこと,Le Bail解析の高速化です.さらに,空間群に関する情報を格納しているファイルspgraを一部修正するとともに,注釈部分が英語の入力ファイル*E.insとバッチファイル*.bat(Windows)中のコメントにおける些細なミスも訂正しました.

10月23日の掲示板に記した通り,Mac OS X用のTerminalアプリケーションRIETAN-2000は悪戦苦闘の末,Absoft Pro Fortran for Mac OS X v9.0でビルドできるようにしました.あのときの労苦を思い起こすと感無量です.G4用に最適化したので,CPUがG4あるいはG5のMac上でお使いください.G3マシンでは動きません.私のPower Mac G5でLe Bail解析を実行すると,あっという間に終わってしまいます.

■ 2004年11月17日(水)

Firefoxの正式版v1.0が最近ついにリリースされました.私はやむを得ない場合を除き,Windows上ではFirefoxを,Mac OS X上ではSafariをブラウザとして使っています.とくにWindowsの場合,安全対策上,Internet Explorerは敬遠しています.不思議でならないのは,今や必須の機能となったタブブラウズがInternet Explorerになかなか組み込まれないことです.マイクロソフトの腕力(金力?)をもってすれば,容易に実現できるはずですが…

■ 2004年11月18日(木)

VICS v5.1.4を含むVENUS.tbzをアップロードしました.Graphicウィンドウ内で結合を選択したとき,Outputウィンドウに同じ結合距離が2行続けて出力されることがあるというバグを除去しました.Outputウィンドウへの出力を数個所修正するとともに,配位多面体に対する結合距離の前後に空白行を一行ずつ挿入して見やすくしました.Dialogバー中のModelsパネルで"Polyhedra"を"Polyhedral"に変更しました(Polyhedral modelを選択するのですから,こうあるべき).データベースファイルspgri.dat中の空間群No. 152に対する不要な行を削除しました.以前,一時的に挿入した設定を取り除くのを忘れていたようです.この不具合を指摘していただいた三井金属の田平泰規氏に感謝します.今回の改良に応じて二つのマニュアルも書き直しました.

■ 2004年11月19日(金)

昨日に引き続き,VICSにおけるOutput Windowへの出力を改善しました.新バージョンv5.2では,Graphicウィンドウ内で配位多面体を選択したときのOutputウィンドウへの出力として,(1) 平均結合距離と (2) 結合距離に基づく歪み指数(Baur, 1974)を追加しました.(2)については,VICS_VEND_manual.pdfの7.4節を参照してください.なお,Baurの論文を新たに引用したのを機に,VICS_VEND_manual.pdfのVICS編における引用文献の番号の大半を付け直しました.

7月に島根大学の赤坂正秀先生と永嶌真理子さんが物材機構を来訪された折り,Am. Mineral.に発表された論文の別刷をいただきましたが,その中にBaurの歪み指数が記載されていました.永嶌さんの話では紅簾石中のMn3+含有量と歪みの関係を調べたとき,Baurの歪み指数の方がRobinsonら(1971)のquadratic elongationよりも鋭敏に変化したそうです.結晶構造に及ぼす温度・圧力・化学組成の影響を研究している方々のお役に立つかもしれません.

なお,来年3月に赤坂研究室(ホームページの写真の迫力にはビビりました)を訪問させていただくことになりました.山陰地方に出かけるのは初めてなので,楽しみにしています.

3,4年前から,未経験の物事に積極的にチャレンジ(というと大げさですが)するよう心がけています.もちろんVENUSの開発やWindowsを一通りマスターしたこともその一環でした.Mac OS Xへの乗り換えも一気呵成に片づけました.つい最近のことに話を限っても,自宅の一部を改築し,BS・地上デジタル放送に飛びつき,米国の大学での終身在職権(academic tenure)の審査を引き受け,サウナつき大浴場とやらにでかけ,「いま,会いにゆきます」という私の趣味から程遠い本まで読みました(感想: こんなのありかよ〜).少し前のことだと,古谷君とのコラボレーションもそうでしたね.その際,自虐ギャグ(10月16日参照)の創作に興じたのもチャレンジ精神の発露にほかなりません.この元気がいつまで続くのでしょうか.

逆に,これまで十分経験したことは,惰性に陥らぬよう極力避けています.中性子回折からは足を洗ったのも同然ですし,海外に渡航する回数もめっきり減りました.テスト以外の目的でRIETAN-2000やVENUSを走らせることは皆無といって過言でありません.約360日/年働きづめ(RIETAN-2000リリースまでの3年余りはまさにこうでした)というのは,今や昔話です.残った余力を新しい試みに振り向けています.

■ 2004年11月20日(土)

VEND v6.5.4を含むVENUS.tbzをアップロードしました.DialogバーのModelsパネル中の"Surface", "Frame", "Mesh"をそれぞれ"Smooth Shading", "Wire-frame", "Dot surface"に修正しました.当該パネルの名前もSurface typeに変更しました.不適切な表現にこれまで気づかなかったのは誠に迂闊でした.

■ 2004年11月21日(日)

.Macメンバー向けウィルス対策ソフトVirex 7.5.1 for Mac OS Xがリリースされました.

■ 2004年11月22日(月)

VICS v5.2.1とVEND v6.5.5を含むVENUS.tbzをアップロードしました.Orientationダイアログボックスの内容を相当変更しました.視線と画面上方を向いたベクトルを指定するモードの名前が"Project along [uvw]"と"(hkl) plane on the screen"に変わりました."Manual selection"をチェックした場合,View directionパネルで格子ベクトル[uvw]と(hkl)面に垂直な逆格子ベクトルの組み合わせを入力します.両ベクトルが互いに直交することからhu + kv + lw = 0という関係が成立し,Upward direction on the screenが入力しやすくなりました.詳しくはVICS_VEND_manual.pdfの9章(VICS)および8章(VEND)を参照してください.東北大の門馬綱一君による改訂です.表示の一部は私が変更しました.

■ 2004年11月23日(火)

12月1・2日にKEKにおいて第3回粉末回折法討論会が開催されます.私は「粉末回折における三次元可視化」というタイトルでVENUSの概要について40分間の招待講演を行います.内容の大半はすでに書いたり話したりしたことに過ぎず,目新しさに欠けています.そこで関係者と協議の上,これまで口をつぐんでいたことを公表することにしました.講演の最後で断片的に述べるだけに留めますが,かなりのインパクトを与えると思われます.

■ 2004年11月24日(水)

VENUSのサンプルファイルを収めたExamples.tbzを更新しました.一部のRIETAN形式入力ファイル*.insとVICS形式ファイルY-alpha-Sialon.cifがVICSで読み込めないので,修正あるいは削除しました.

余談ですが,Y α-サイアロンの構造は私が20年前(!)に粉末X線回折データのリートベルト解析で精密化し,J. Mater. Sci.に報告しました.工業材料にリートベルト法を応用した先駆的研究の成果です.その結晶データがCrystallography Open Databaseに収録されており,Y-alpha-Sialon.cifはそこから私がダウンロードしたものなのです.偶然とは恐ろしいものです.

密接にコンタクトをしながらVICSとVENDを一緒に改良している東北大の門馬綱一君のWebサイトJP Mineralによれば,彼の研究テーマは熱水溶液からの準安定相の成因の解明だそうです.これまた偶然ですが,それは若かりし頃の私の研究テーマそのものでした.このことについては後日,述べることにいたしましょう.

私はかつて水熱合成のエキスパートでしたし,水溶液を注入した貴金属パイプの溶接が得意技でした.パーツを買い集め,温度調節器と電気炉も含めた水熱合成装置一式を2回ほど自作しました.化学輸送法による単結晶合成の経験もあります.「優秀な合成屋が道を誤って下手の横好き的プログラマー兼結晶解析屋に成り下がった」と自称しているのですが,「こいつ,マジに言ってないな」と誤解されているようです.本音以外の何物でもないのですが…

■ 2004年11月25日(木)

VICS v5.2.2とVEND v6.5.6をリリースしました.Orientationダイアログボックスにおける視線方向の表現を"(hkl) plane on the screen"から"Project along the normal to (hkl)"に改めました.さらに,VICSが一部のCIFファイル(具体的にはY-alpha-Sialon.cif)が読み込めないという不具合(11月24日参照)をRubenに直してもらいました.

■ 2004年11月26日(金)

VICS v5.2.3をリリースしました.New Dataダイアログボックスでデータを入力しOKボタンをクリックすると,プログラムが異常終了するというLinux版の不具合を広島大の大木 寛氏に解決していただきました.念のため,Windows版も更新しておくことにしました.

■ 2004年11月27日(土)

Lhaca+デラックス版 v1.20がリリースされました.これには毎度お世話になっております.

■ 2004年11月28日(日)

学術論文サーチエンジンGoogle Scholarが大きな反響を呼んでいます."Rietveld method"をキーワードとする検索
http://scholar.google.com/scholar?hl=en&lr=&q=Rietveld+method&btnG=Search
において,"The Rietveld Method"という書籍中の私の執筆した章が引用回数で3位にランクされておりました(Le Bail氏からの情報).トップはもちろんRietveld(1969)のオリジナル論文です.

■ 2004年11月29日(月)

VICSとVENDのユーザーかつGaussian 03の所有者はおられませんか.Gaussian 03の出力するCube形式テキストファイルがVICSとVENDで問題なく入力できるか否かを調べてもらえれば,ありがたいです.たぶん大丈夫だとは予想しているものの,念のために確認しておきたいのです.また"Gaussian 98 User’s Reference"に相当するマニュアルも教えていただければ幸甚です.

今やGaussina 03を購入する経済的余裕は十分ありますが,ファイル入力の確認のためだけに大金を投じる気にはなりません.ご協力の程,よろしくお願いいたします.

といっても,協力者が出現する確率はきわめて低いです.GaussianのユーザーのほとんどはGaussViewのような3Dグラフィックソフトをすでに活用しているでしょうから.

■ 2004年11月30日(火)

原研の坪田雅己氏がWindows用RIETAN-2000の補助ソフトSeqRun.xlsを再び公開されました.

東北大学の小松一生(D2),門馬綱一(M1)の両氏が来訪されました.VICSとVENDを一緒に改良している門馬君とは頻繁にメールで連絡を取り合っていますが,今回初めて対面しました.

■ 2004年12月1日(水)

第3回粉末回折法討論会に出かけるまでの間にPower Mac G5のTerminalにおけるログインシェルをtcshからbashに切り替え,.bash_profileと.bashrcを新たに作成しました.Pantherではbashがデフォールトのshellになったことを受けての措置です.ulimitコマンドの使い方で少々苦戦した他は,順調に移行できました.

Igor Pro v5.02 → v5.03アップデータがリリースされました.

■ 2004年12月2日(木)

粉末回折法討論会が終わった後,RIETAN-2000(VENUS)による結晶構造解析の充実をお手伝いした日大の古谷龍也君(M2)に初めてお会いし,研究のことや入社予定の会社のことなどについて話しました.

古谷君にしろ門馬君にしろ,実にパワフルで意欲的です.与えられたことしかやろうとしない無気力で役立たずな学生がやたらに多い中で,彼らとのコラボレーションを実施できたのは誠に幸運でした.

■ 2004年12月3日(金)

つい最近知ったのですが,ATOK17の連想変換は実に便利です.control-Aを押すだけで,類義語や言い換え表現を一覧表示してくれます.語彙が貧弱な人に最適な機能です.

■ 2004年12月4日(土)

BS・地上デジタル放送はすばらしい!画面サイズはもとより画質もDVDと大差ありません.もう通常の放送を見るのは嫌になりました.

■ 2004年12月5日(日)

粉末回折法討論会での講演をお聞きになった方はすぐお気づきになったでしょう.私は文章にはかなり凝りますが,講演ではあからさまに手を抜きます.そもそも講演というものをあまり重視していないのです.図表は無造作なものしか作りませんし,液晶プロジェクターを使って話す際にはPDFファイルを全画面表示するだけです.常にぶっつけ本番で,時間の配分もいいかげん.嫌々ながら人前に立って話しているのが,聴衆にはありありと伺えるでしょう.

私は酒が体質に合いません(注: 酒を飲まなくても酔ったのと同じようなことをしゃべり,酔うとかえって大人しくなります).ビールなどは顔をしかめながら飲んでいるようです.そんなにまずそうな顔をしなくてもいいじゃないですか,と言われたことさえあります.講演も同じようなもので,苦手意識がかなり強いのです.この年になって今更改善できる訳もなし,あきらめるしかありません.

ただ,他の講演と比べての相対評価は自分では下せません.どうだったんでしょうね.少なくとも講演の最後で手短に述べた開発計画で意外性を演出できたはずですが…

■ 2004年12月6日(月)

門馬綱一君と相談して,彼がMac OS X(Panther)に移植したVICSとVEND(10月19日参照)をごく少数の方々に配布しました.一部のダイアログボックスを閉じるときOutput Windowに理解不能なエラーメッセージが出力され(実害なし),ファイルのopen/saveダイアログボックスが利用できず,コマンドラインからファイル名を入力する必要があり(裏技あり),EPS(ベクトルデータ)ファイルが正常に出力されないことを除けば,最新版の全機能が完璧に動いています.

門馬君にMac OS X版の完成度を高めていただき,当Webサイトで正式に配布するつもりは当面ありません.それよりはVICSとVENDの飛躍的な発展(2日の講演の最後ではこれについて述べました)に傾注してもらいたいからです.しかし,Mac OS Xバージョンを使いたくて使いたくて仕方なく,このままでは焦がれ死にしそうだというMac偏愛者には,人道的見地から(渋々モードで)差し上げることにいたしましょう.ただし,あまり手間をかけたくないので,事前の予告なしに提供を中止するかもしれないということを予め申し上げておきます.

誰も欲しがらなかったりして…

■ 2004年12月7日(火)

9月6日の掲示板でサディスティック・ミカ・バンドの「タイムマシンにおねがい」を絶賛しました.この曲名どおり,ただ一度だけタイムマシンに乗って過去に遡ることを神様が許してくれたら,私は何時そして何処にジャンプするでしょうか.

答えは一も二もなく1791年9月30日のFreihaustheater auf der Wieden.ウィーン南郊外のその小さな劇場では,支離滅裂な低俗茶番劇たるドイツ語大衆オペラが作曲家自身の指揮で初演されようとしています.彼はひどく健康を害しており,2ヶ月後にはこの世を去る運命です.

3年前にウィーンを訪れたとき,そのオペラを初演したときの宣伝ビラを見ました.粗末な紙片に小さな文字で印刷されており,作曲家の名前を探すのに苦労したのを覚えています.

すでに評価が確定した天才中の天才をいくら崇め奉ったところで仕方がありません.それでも私はその時,その場にぜひ立ち会いたい.別にタイムマシンでなく,ドラえもんの「どこでもドア」経由でも結構.われわれ現代人は不遇の境遇に苦しんでいた生活破綻者にこの偉大な作品を産み出す機会を与えた同時代人,すなわちその台本を執筆したアウフ・デア・ヴィーデン劇場の支配人シカネーダーに感謝の念を抱くべきではないでしょうか.

■ 2004年12月8日(水)

12月2日の講演で初めて公表したVICSとVENDの全面改良計画をここで簡単に紹介しておきます.

まずwxWidgets.pdfをご覧ください.今後,両ソフトの次世代版は東北大の門馬綱一君(M1学生)が中心となって開発していき,私はサポート役に徹します.次世代版では,Graphical User Interface(GUI)が一新されます.これまでGLUT+GLUIの組み合わせで営々と構築してきたGUIは,すべてwxWidgetsで書き換えます.GLUTとGLUIの進化が完全に停止した今,オブジェクト指向のGUIライブラリーの導入は必要不可欠です.膨大な労力を要するambitiousなソフト開発ですが,門馬君ならきっとやり遂げるでしょう.完成の暁には,同一のソースコードからWindows,Linux,Mac OS Xに固有のGUIを備えた3バージョンをビルドできるようになります.

門馬君が試作したWindows用VICSのプロトタイプでソーダライトの構造を表示しているのがこの図です.プルダウンメニューが利用でき,Output WindowがGraphics Windowの下部に同じ幅で置かれ,Graphics Windowの最上部にイメージ切り換え用のタブ(この場合"Sodalite")が付いていることが窺えます.OpenGLはGraphics Window内だけで作動します.

これ以上詳しく述べるのは控えますが,VICSとVENDが次世代版で大きな飛躍を遂げることを最後に強調しておきます.手塩にかけて育ててきた両ソフトを若い世代にバトンタッチできるのは願ってもないことで,これに優る喜びはありません.

■ 2004年12月9日(木)

古谷龍也君にお願いして,RIETAN-2000(VENUS)による結晶構造解析中の動作環境の設定 - 2000/XPに名人芸的バッチファイルDD2.batの使用法を追記していただきました.RIETAN-2000.batより便利なはずです.

4年前にDD2.batの前身であるDD.bat(Windows NT用)を作成したときは,
ドッシー秋山, 「コマンドプロンプトがわかるとWindows 2000に強くなる」, メディア・テック出版 (2000).
の助けを借りました.今でも時々,この本のページをめくることがあります.Webで検索してみたところ,もう品切れになっていました.

コマンドプロンプトは安定性に問題がありました.ネストしたIFブロックのような複雑な条件処理が苦手で,GOTO文の使用を何度も余儀なくされました.さらに,長いファイル名を処理する際,訳の分からない名前に変換されてしまうのにも困惑しました.UNIX/Linuxの強力かつ安定なシェルとは雲泥の差でした.この出来の悪さから見て,マイクロソフトはCUIに真剣に取り組む気が更々ないのでしょう.

■ 2004年12月10日(金)

VENUS関連の配布ファイル三つをすべて更新しました.

VICSをv5.2.4に,VENDをv6.5.7にバージョンアップしました.両者に共通な修正は,3Dイメージファイル保存時に現れるExport Graphicsダイアログボックス中のCloseをCancelに変更したことです.さらにVENDでは,VENDが出力したVEND 3Dデータファイル*.3edを正常に読み込めないというバグをRubenに取り除いてもらいました.ついでにVICS_VEND_manual.pdfを少々修正しました.

VICS・VENDの入力ファイルサンプルを収めたExamples.tbzにファイルをいくつか追加しました.例のY-alpha-Sialon.cifを再び収録しました.

contrd.tbz中のReadme_contrd.txtに,岡山理科大学の坂根弦太氏が配布されているDV-Xα法用の周辺プログラムについての記述を加えました.contrdと併用すると便利でしょう.

■ 2004年12月11日(土)

最近,二つ目のCo酸化物超伝導体に関する論文が活字になりました:

K. Takada, H. Sakurai, E. Takayama-Muromachi, F. Izumi, R. A. Dilanian, and T. Sasaki, Adv. Mater., 16 (2004) 1901-1905.

粉末X線回折データのリートベルト解析とMPF解析の結果も報告されています.

私はAdv. Mater.という雑誌についてほとんど知らなかったのですが,7.305というimpact factorを叩きだしている材料科学分野での最高峰の雑誌なんだそうです.今をときめくChem. Mater.でもimpact factorが4.374なのですから,すごい数字です.

7月6日にも書きましたが,最初のCo系超伝導体の発見に関する論文(Natureに掲載)はISIのFast Moving Fronts物理分野で最重要なcore paperに選ばれました.各分野で1年につき6報しか選定されませんから,極端な狭き門です.PRIMAの最初の解析例がこの新超伝導体だったのは,幸運以外の何物でもありませんでした.どでかい打ち上げ花火を上げたようなものです.VENUSは超伝導プロジェクトの予算で開発しましたから,この華々しい研究に直接役立ったことにより面目を施せました.VENUSによる3D可視化技術にとって,これらの結晶解析はCo酸化物超伝導体とのたいへん幸福な科学的遭遇だったといえましょう.

ここでもう一つ特筆大書しておきたいのがVENUSのブラッシュアップに対する高田和典氏の貢献です.本掲示版を通読されている方々はよくご存じでしょうが,高田氏はVICS,VEND,PRIMAの不具合を何度も報告してくださいました.また,単位胞内の総電子数(X線回折)あるいは干渉性散乱径の合計(中性子回折)がMEMの繰り返し過程で入力値から逸脱していくというMEEDの致命的なバグには,彼との共同研究の過程で偶然気づきました.VENUSの信頼性向上にまで協力していただいた高田氏にはただただ感謝するばかりです.

■ 2004年12月12日(日)

7月15日の掲示板で,イエローキャブの野田社長までがBlog(Weblog)をおっぱじめる時代なのだから,オイラもBlogを再度立ち上げるぜ,と高らかに宣言しました.しかし5ヶ月近くたった今も,マイBlogは影も形もなし.まあ,目くじら立てないでください.イエローキャブも巨乳同様,ピークが分裂したことだし…(関係なかったか).

断じてチャレンジ精神が衰えた訳ではありません.むしろ逆です.ダボハゼのように真っ先に飛びつくものの,すぐ飽きてしまうという,過去に私が何千回も繰り返してきたパターンにはまり込んだだけのことです.Blog再開は見送り,古谷龍也君におまかせしましょう.

■ 2004年12月13日(月)

8月にNECのND-3500Aを採用したDVDドライブDVR-iUN16Wを購入したばかりですが,早くもND-3520Aを採用したドライブDVR-UN16Aが出現しました.事実上4ヶ月で現役を退いたことになります.もっとも,DVR-iUN16Wはなんのトラブルもなく稼働しているので,当分働いてもらうつもりです.

東北大の門馬綱一君が来訪されました.PFで実験中とのこと.VENUSの開発についていろいろ話し合いました.

■ 2004年12月14日(火)

辛酸なめ子の千年王国」をアマゾンで注文しました.いずれ読後感想文を書くかもしれません.

■ 2004年12月15日(水)

映画「恋の門」の主題歌「月に咲く花のようになるの」を歌っていたサンボマスターがテレビに出演していました.外見は逆ビジュアル系,というよりアキバ系そのもの.昨今は,この手のバンドが受けるんですか.アンビリーバボー.時代が変わった?!

■ 2004年12月16日(木)

10月にRIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析を舞台に古谷龍也君とコラボしたものの,掲示板(10月3日〜16日の記事)で羽目を外しすぎたので,世評が気になってきました.いろいろな検索手段を駆使して反響らしきものを探ってみましたが,次の三つが網にかかっただけでした:

ヒット数が少なすぎますが,好評だったということにしておきましょう.

■ 2004年12月17日(金)

VICSをv5.2.5に,VENDをv6.5.8にバージョンアップしました.

両者に共通なのは,Streaming SIMD Extensions 2 (SSE2)を有効にしたことです.実際に高速化するかどうかは定かでありません.万一,両ソフトがお手持ちのPCでトラブルが発生するようでしたら,CPU名を明記の上,ご一報ください.

VICSでは可動格子面がGraphics Windowに表示されないというバグ(Indira Gandhi Centre for Atomic ResearchのSharat Chandra博士のご指摘)をRubenに修正してもらいました.VENDではContour Lines Dialog Box中の{MAX}と{MIN}をそれぞれ{Max.}と{Min.}に変更しました.さらに,VICS_VEND_manual.pdfを少しだけ書き直しました.

■ 2004年12月18日(土)

昨日アップロードしたVICSとVENDの最新版がPentium 3機で異常終了するとイムラ材料開発研究所の上田 完氏が報告してくださいました.SSE2を有効にしたためなのは確実です.Pentium 4,Pentium M,Celeron(一部),Athlon 64,Sempron(一部)などをCPUとするマシン上では両ソフトが高速化するはずですが,その他のCPUを搭載した機種では動かないのでしょう.そこで,以前と同様にビルドした実行形式ファイルVICS_P3.exeとVEND_P3.exeをProgramsフォルダに急遽,追加しました.VICS.exeとVEND.exeがポシャる場合は,こちらをお使いください.

■ 2004年12月19日(日)

最近受け取ったRIETANやVENUSのユーザー(匿名にしておきます)からの質問に対する回答のうち,当事者以外にも告知しておいた方がよい情報を四つピックアップし,以下に示します:


Q: RIETAN-2000の計算結果を収めたs*.lst中の反射リストで,Iobs(観測積分強度)のところに'-','W','H','G'という文字が出力されていることがあります.それぞれどんな意味なのでしょうか.

A: 私自身がうろ覚えです.RIETAN-2000のソースコードを参照したところ,
Iobs(規格化整数): Full observed (positive) and calculated profiles have been obtained.
'-': Part of the observed profile is lacking as a result of excluding a 2θ region.
'W': Full observed (negative) and calculated profiles have been obtained.
'H': Part of the profile exceeds 2θmax.
'G' + Iobs(規格化整数): Group of reflections with nearly equal d spacings.
という注釈が挿入されていました.'W'は'Weak','H'は'High','G'は'Group'の略です.早速,Notes.pdfに追記しておきました.


Q: PRIMAの計算結果から特定の原子(化学種)に対する電子数を計算するにはどうしたらよいのでしょうか.

A: PRIMAが出力する3D密度データファイル*.priはバイナリーファイルなので,ユーザーには読めません.そこで,VENDで*.priをテキスト形式のVEND 3Dデータファイル*.3edに変換する必要があります.*.3edのフォーマットについては,VICS_VEND_manual.pdf: VENDのAppendix A: ID = 6: ?edを参照してください.単位胞内のピクセル数が比較的少ないときは,あらかじめ等値曲面をスプライン補間で平滑化(VICS_VEND_manual.pdf: VENDの4.2.5参照)してから*.3edを保存するとよいでしょう.電子数は当該原子(化学種)に対応するピクセルの電子密度の総和となります.共有結合性の高い結合をもつ原子で総和を取る範囲を決めるのが困難なのは言うまでもありません.


Q: RIETAN-TNが最終的なR因子などを出力した後,'Too large NREGION'というエラーメッセージを出して止まってしまいます.どうしたらいいのでしょうか.

A: 一つの反射についてTOFのステップ幅が5回変化すると,計算をストップするようにしてあります.ご存じのように,VegaやSiriusのステップ幅は一定でありません.通常はそんなことはありえないはずで,よほどプロファイルの裾が尾を引いているのでしょう.対症療法としては,プロファイルカットオフ(PC)を調節し,プロファイル関数の計算範囲を狭め,ステップ幅変化の回数を減らしてやるのが有効です.ただし,Rwpが少々悪化するかもしれません.*

* 注: その後,質問者の要望にお応えして,ステップが最大10回まで変化しても落ちないようにRIETAN-TNを改造しました.不具合やバグがあると改善せずにいられないのは,プログラマーの性(さが)ですね.


Q: 2チャンネルの「中性子回折について語ろう」というスレにJ-PARC(での粉末中性子回折)と泉先生のことが3つ(48, 50, 51)ほど書き込まれていますが,どれが正しいのでしょうか.11月12日の掲示板に記された類のモチベーションはいかがでしょうか.

A: やれやれ,「便所の落書き」にまでコメントせにゃならんのですか.これでは,まるで「全国こども電話相談室」じゃあ,ございませんか.48番の「100万」て,どこから出てきた金額なのでしょう.そんな生々しい数値データを口走ったことなど記憶にございませんが… 51番の書き込みですが,「2桁違う」という表現では,千円なのか1億円なのか判然としません.仮に後者だったとしても,研究資金に飢えていない今の私にとって,紙くず同然.不採算事業としてリストラしたパルス中性子関連の仕事に私が復帰するためのdriving forceは,無きに等しいです.何の魅力も感じられませんし,創造性も一向に刺激されません.私の研究活動に対しJ-PARCが何のメリットを与えてくれるというのでしょうか.デメリットの方が圧倒的に多いこと,間違いなし.いや,災厄をもたらすのみ.大体,泉復帰のラブコールが発生することが,とりもなおさず,TOF粉末中性子回折の将来を担う面々の「脆弱性」を物語っているんじゃありますまいか.「11月12日の掲示板に…」というツッコミは,ただ一言「ありえねー」と斬り捨てるだけです.

ということで,正解は50番でした.


3番目までのQ & Aは一部カットの上,RIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析中のQ & Aに再録してもらいました.実際に古谷君から受け取ったのは最初の質問だけですけどね.

■ 2004年12月20日(月)

ご存じのように,Windows用VICSとVENDの最新版にはストリーミングSIMD拡張命令2(SSE2)が導入されました.現役CPUでSSE2が有効か否かを調べるには,次のリストが便利です.

これからPCを買う予定のVENUSユーザーには,SSE2が作動するCPUを搭載したマシンをお奨めします.

■ 2004年12月21日(火)

12月13日に門馬綱一君とVICSとVENDの仕様について議論しましたが,その際,私が仰天したことがありました.

複数の構造(ファイルの内容)をタブブラウズできるよう設計するということは,12月8日に述べました.「タブ切り替えとマルチウィンドウにはそれぞれ利点と欠点がありますよ.」と指摘したところ,門馬君は事も無げに「次世代版ではオブジェクト指向プログラミングを採用しますから,マルチウィンドウ機能を追加するのは難しくありません.」と答えました.つまり,ブラウザのSafariやFirefoxと同様,タブを備えたウィンドウを複数表示させうるというのです.

タブブラウズ+マルチウィンドウが実現すれば,GLUT+GLUIに基づく現行VICS・VENDは"toy"に過ぎなくなります.門馬君がこのような飛躍的進歩を目指していることに驚かされると同時に,頼もしく思いました.

■ 2004年12月22日(水)

PRIMA v3.5.2を含むVENUS.tbzをアップロードしました.初期電子・核密度分布をバイナリーファイル*.priから読み込ませると異常終了するというバグを取り去りました.本トラブルを報告していただいた分子科学研究所の原 俊文氏に感謝します.

11月29日の掲示板でGaussian 03の出力するCube形式ファイルについて支援を依頼しましたが,University of Saskatchewan(カナダ)のJohn S. Tse教授からVICS・VENDで問題なく読み込めたとのメールが届きました.日本語で書かれた掲示板を彼が読めるはずもなく,日本人からのレスポンスがないのに業を煮やした私が,旧知の研究者に調査を依頼したのです.ともあれ,これで金367,500円を浮かすことができました.

Tse教授はVENDの不具合も報告してくださいました.明日,改訂版をアップロードする予定です.

■ 2004年12月23日(木)

VICS v5.2.6とVEND v6.5.9をリリースしました.両プログラムにおいて'Gaussian 98'を'Gaussian'に変更しました.昨日述べた通り,Gaussian 98/03のCube形式には差がないことが判明したためです.VENDでは,VICS形式のファイル*.vcsから球棒模型のデータを読み込み"Show model"をチェックしても,球棒模型が見えず(つまり等値曲面と球棒模型を重ね合わせることができない),VICSボタンが黒づむという不具合に対し,応急処置を施しました.大木 寛氏による対症療法です.

VICS_VEND_manual.pdfも少しだけ改訂しました.PC GAMESSでもCube形式ファイルが出力できることを明記しました.

■ 2004年12月24日(金)

VENDをv6.6にバージョンアップしました.他のOSのフォーマットをもつテキストファイルの一部が正常に読み込まれないという不具合を門馬綱一君に修正していただきました.

12月15日にリリースされたばかりのMacMolPlt v5.4を試用しているうちに,上記のバグに気づきました.

■ 2004年12月25日(土)

読んでるかな,Noelさん.誕生日,おめでとうございます.

今年も,VICSとVENDのバグ/不具合の治療に追いまくられました.まだまだ枯れていません.Version historyを眺めれば,GUIを備えた3Dグラフィックス・アプリケーションの開発とブラッシュアップがいかに消耗する作業なのかがよく理解できるでしょう.このエネルギーがどこから湧いてくるのか ーーー 自分にもよくわかりません.

■ 2004年12月26日(日)

古谷龍也君のblog(12月20日)に書き込まれていた質問への回答を以下に記します.相当な力作です.RIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析のQ & Aに追加されます.

Q: MPF(MEM-based Pattern Fitting)法は特性X線を用いる粉末回折装置で測定したデータにも適用できるのでしょうか?それとも放射光X線・中性子回折デー タでないと話にならないのでしょうか?

A: 条件付きですが,特性X線で測定したデータにも適用できます.「条件」を以下に列挙します:

  1. 選択配向が無視できる(選択配向は厳密には補正できない).
  2. 粗大結晶を含まない(ωスキャン・プロファイルが滑らか)
  3. 低角領域の反射がすべて観測されており,十分高角領域までカバーされている.
  4. 計数統計が十分よい(Rietveldの手続きに従い,観測積分強度をステップごとの和で算出するため).

1〜3はリートベルト解析用データを測定する際にも当然注意すべきことですが,MPF解析では要求がよりシビアになります.もちろん分解能が高い(プロファイルの半値幅が狭い)に越したことはありません.しかし,分解能不足による重畳反射からの情報の劣化は,REMEDYサイクル過程における観測反射強度の改善が部分的に補ってくれます.ブラッグーブレンターノ型光学系の粉末X線装置でも角度分散型の中性子回折装置より分解能が高いことが多いくらいですから,対称性が比較的高い物質なら大丈夫です.低指数の反射を長波長ビームで観測せざるを得ないため,それらの(MEM解析にとって)超重要な反射で消衰効果が顕著になるTOF中性子回折よりはよほどましでしょう.実際,われわれは実験室系X線回折計で測定した強度データのMPF解析結果を何報も発表しています.

できれば,入射側に結晶モノクロメーターを挿入しCu Kα1に単色化することが望ましいです.有機化合物のような重原子を含まない試料では,10月10日の掲示板に書き込んだような位置敏感型検出器や半導体アレイ検出器を用い,デバイーシェラー光学系を採用するという手が使えます.

粉末・単結晶回折データから求めた観測積分強度を解析する場合,それらの推定標準偏差(estimated standard deviation: esd)はいずれも便法で求めざるを得ません(PRIMA_manual.pdf,3.1節参照).粉末回折データの場合だと,計数統計と誤差の伝播則に基づいて便宜的に算出したesdに過ぎず,しかもSCIOのような物理的に意味のない係数でesdを調節しないと,MEM解析がうまく収束しないのです.MEMではesdの範囲内で観測積分強度と一致し,しかも情報エントロピーを最大とするような電子・核密度分布を決定します.したがって,esdが怪しいと,最終的に得られる密度の確度もそれに応じて低下します.

このようなMEM解析のウィークポイントと熱散漫散乱(Thermal Diffuse Scattering: TDS)を無視していることを考え合わせると,MEMは絶対的な密度を決定する解析法でなく,密度分布(X線回折の場合,化学結合の性質)を半定量的に理解するための解析法とみなすべきでしょう.論より証拠,2,3年前まで単位胞内の総電子数が入力値から逸脱するMEM解析ソフト(MEED)が何の疑問もなく使われていたくらいですから,最終的に得られる密度の傾向を知るためのツールというのが暗黙の内の認識だったのだと思います.そのような目的にとって,実験室系のX線回折装置でも十分利用価値があります.事実,同一の物質について放射光と特性X線(Cu Kα1)を用いて測定した粉末回折データをMPF法で解析したことがありましたが,等電子密度曲面の形状は瓜二つでした.

反射同士の重なりが顕著な試料で,MEM/リートベルト法により密度分布を決定 ーーー などという手抜きは以ての外です.MEM/リートベルト解析は所詮,前座(構造モデル修正のための手段)にすぎません.そんな中途半端な解析どまりでは,電子・原子核密度の確度がなおさら下がってしまいます.超高速MEM解析プログラムPRIMAの出現によりREMEDYサイクルに要する時間が激減したからには,MPF法によってリートベルト解析における構造モデルのバイアスをできるだけ減らすよう努めるべきです.たとえそこまできちんと解析したとしても,構造モデルのバイアスと不確かなesdの問題は多かれ少なかれ残るでしょうが…

粉末回折の分野でMEMが頻用されているのは,我が国における特異な現象です.MEMと粉末回折は非常に相性がよいということを否定する人はいないでしょう.粉末回折データの解析における必殺技といって過言でありません.MPF法は非経験的構造解析の過程でも大いに役立ちます.今やリートベルト法・MPF法・3D可視化用キラー・アプリケーション(RIETAN-2000とVENUS)と豊富な日本語情報が無償で手に入るのですから,特性X線で測定した粉末回折データを積極的にMPF法で解析するよう強くお奨めします.

■ 2004年12月27日(月)

昨日のQ & Aを読み返しての感想を述べませう.

アンデルセンの「裸の王様」,ご存じですね.「王様は裸だ!」と無心に叫んでしまう少年は痛快至極です.「ワグネル君,正直に叫んで成功したまえ.しんに言いたい事があるならば,それをそのまま言えばよい.」(ファウスト)とゲーテ大先生も仰せになっております.

実は,私はその少年の生まれ変わりなんです.「MEM/リートベルト法=前座」とか「結晶学の墓場」とか,他の皆が陰でひそひそ囁いていることを大声でまくしたててしまうのは,そのためです.ところが,王様にしろ群衆にしろ,耳が遠くもないのに,聞こえなかった振りをしてしまうんですね.そのため,当方としては,同じことを何度も怒鳴らなければならないのです.お寒い業界事情を裏の裏まで知り尽くしていますから,必然的に辛辣になります.くどいな,きついなと感じても,ご海容ください.

今年はビンボーバトル(銭形金太郎),漫画バトル(恋の門),節約バトル(黄金伝説),薄型大型テレビバトル(液晶,プラズマ,SED),次世代DVD規格バトル(HD DVD,BD)などの興味深い闘いを観戦しました.科学技術も建設的バトルを経て高度化することが多いのですが,見ざる,言わざる,聞かざるという怯懦な態度をとられてしまったら話になりません.「可視化ソフトバトル」(2004年4月16日の掲示板参照)の対戦相手には,逃げ回ることなく,真っ向から立ち向かってこい,と挑発したいです.不戦勝なんて興ざめですから.老婆心ながら忠告しておきますが,そろそろ着手しないと,開業に間に合いませんよ.

■ 2004年12月28日(火)

「辛酸なめ子の千年王国」,読了しました.表紙のポートレートを拝見すると,虫も殺さぬような癒し系の容姿の持ち主であり,裏表紙には処女懐胎中のマリア様の絵が麗々しく飾られているのですが,いったんページを括るや否や,「うわ〜,なんじゃ,こりゃ〜」と呻き声があがってしまう「伝説のセカンド作品集」でありました.

■ 2004年12月29日(水)

岡山理科大学の坂根弦太氏から,DV-Xα分子軌道計算をこれから始める方へ,とりあえず第一歩の利用マニュアルというWebページを新設し,そこでVENUS(+contrd)を使った3D可視化についても解説したとのメールをいただきました(注: 12月31日にはDV-XαとVENUSによる波動関数の三次元可視化データ集も追加されました).

VENUSを開発し始めた当初から,WIEN2kおよびSCATとの連携を目指していました.今では,両ソフトのWebサイトで当サイトへのリンクを張っていただいております.坂根氏のようなSCATのパワーユーザーにVENUSを愛用してもらえるのも光栄の至りです.

VICS・VENDのSCAT関連部分とcontrdの熟成には予想外に長期間を費やしました.ようやく枯れ切ったようです.

上記のチュートリアルページには,VICSとVENDを連携させた可視化操作の手順が詳述されています.棒模型(VICSで作成)と波動関数・電子密度(VENDで作成)とを重ね合わせた8枚の図も例示されています.坂根氏への返礼メールで,「VENDには電子密度などの等値曲面上を別な物理量(SCATの場合,静電ポテンシャル)の大きさに応じて彩色する機能もあります.一度,試用していただければ幸甚です.」と指摘しておきました.

このようにVENUSの波及効果を目の当たりにすると,心躍ります.VICSやVENDを自ら操るのも,うきうきします.粉末回折の狭く息苦しい世界に閉じこもっていたら,こういう躍動感は味わえなかったでしょう.いや,むしろ粉末回折の研究や業界に倦怠感や閉塞感を感じていたからこそ,未経験の難事にチャレンジしたのです.VENUSの公開前と比べると,今や当Webサイトの一月あたりのアクセス数はほぼ倍増しました.3年以上にわたってVENUSの開発に全力投球したのは,自他にとって最善の選択だったと断言できます.

■ 2004年12月30日(木)

今年の映画の見納めは「インストール」と心に決めていたのですが,北川れい子先生の評を読んだとたん,萎えてしまいました.曰く「観たことを忘れたい.」

「〜ことを忘れたい.」って,自虐ギャグに再利用できますね:

切りがないので,この辺で止めておきます.

とりあえず,この年末は北野 武の旧作「キッズ・リターン」と「Dolls」を観て過ごすことにしました.

元旦に封切られる「カンフーハッスル」に期待することにしませう.

■ 2004年12月31日(金)

本年最後の古谷君とのQ & Aです.もともと,これは逆Q & Aでして,私が質問者,古谷君が回答者でした.以下に私の回答を示します.少しずつ加筆修正を重ねていき,最終的な文章をRIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析のQ & Aに追加してもらいます.

Q: sinθ/λが大きくなるにつれて原子散乱因子(X線回折)は単調に減少していきますが,干渉性散乱径(中性子回折)は一定の値に留まります.中性子回折の場合,磁気形状因子(magnetic form factor)はsinθ/λの増加とともに顕著に減少します.また,化学結合に関する情報は,主としてsinθ/λが大きい(格子面間隔dが大きい)反射に含まれています.どうしてそういう傾向があるのかについて,わかりやすく説明してください.

A: それらの傾向は,X線や中性子の散乱体(電子あるいは原子核)がどれだけ原子核から離れて広がっているのかということと密接に関係しています.

散乱体が原子核近傍に集中している場合,散乱能はsinθ/λにほとんど依存せず,ほぼ一定となります.内殻電子(たとえば1s電子)によるX線の散乱がこれに該当します.核散乱の場合,干渉性散乱径はsinθ/λと無関係に一定です.

外殻電子のように原子核から遠く離れている場合,電子のX線・中性子散乱能はsinθ/λの増加とともに急激に減衰します.化学結合に関与する電子(X線回折)や磁気散乱に寄与する3d軌道や4f軌道の不対電子(中性子回折)がこれに当たります.

結合電子は低い密度で原子間に広がっています.このため,結合電子は逆空間中では低角の反射に主として寄与しますが,高角の反射でその寄与は急激に減衰します.したがって,MPF法による電子密度分布の決定において,低角反射の観測積分強度をとりわけ高い確度・精度で求めなければなりません.磁気形状因子も3dや4fの軌道電子の空間的広がりを反映して,散乱角とともに減少します.その減少の程度が原子散乱因子の場合よりも顕著なのは,3dや4f軌道が原子の比較的外側にあるためです.

なお,原子散乱因子については,「粉末X線解析の実際」,p. 86の「原子散乱因子の物理的意味」を読むことを強くお奨めします.とくに式(5・26),式(5・27),図5・19が助けになります.原子散乱因子が原子の電子密度のフーリエ変換であることを知れば,大体のところが理解できるでしょう.