掲示板バックナンバー: 2003年


1月1日
伊能忠敬は私とちょうど同じ年齢の時から17年間にわたり日本全国を測量して回ったのだそうです.だからといって自分も生涯学習に勤しみ,新たな仕事にチャレンジしよう,という気は毛頭ありません.伊能忠敬とはエネルギーと力量が違いすぎます.分をわきまえ,身の程を知るべきだと思います.「がんばらない」--- これが今年のモットーです.別な言葉で言えば,「プロジェクトXしない」,「のんびり行こう」です.

1月2日
微熱が出て,腰から背中にかけて疼痛.昨日午後からは,寝たり起きたりです.痛みにはカコナールが効きますが,時間が経つと元通りになってしまいます.昨年12月は疲労の極に達していました.そういうときは危ないということですね.

1月3日
ほとんど回復しません.ただ耐えるのみ.

1月4日
病院に行き,薬をもらってきました.ここ10数年,限界ぎりぎりの研究生活を続けた挙げ句,背骨と腰骨が油切れし,ぎしぎしときしんでいるという感じです.回復には時間が相当かかりそうでしょう.

1月5日
Mac OS XのFinderで使われる文字の大きさを変える方法がわかりました:表示 → 表示オプションを表示 → テキストサイズ.同じダイアログボックスでプレビュー欄を表示するか否かを設定できます.以上,メモ代わり.

1月6日
腰痛に苦しんでいるとはいえ,これほどなにもせずに寝ているだけという年末年始は,私には珍しいです.この数年,年末年始はむしろかき入れ時でした.たとえばRIETAN-2000にLe Bail法を組み込み,RIETAN-2001Tを作成するとともに,そのWebページを製作したのはいずれもこの時期でした.暖房もない研究所でこういうきつい仕事を平気でこなしていたのですから,元気なものでした.そういう無理を重ねてきた挙げ句,体のあちこちにガタが来ています.今回具合が悪くなった腰もその一つでしょう.

腰の痛みをおして出勤したら,日本結晶学会誌,Vol. 44,6号が届いていました.RIETAN-2000ーPRIMAーVENUSトリオを用いた結晶構造と電子・原子核密度分布について概説しましたので,ぜひお読みください.彫心鏤骨の文章だと自負しています.また,4ページにわたって派手なカラーグラフィックを突っ込みました.大金をつぎ込みましたが,やはり色つきだと見栄えと迫力が違います.実際にVENUSで三次元グラフィックを操るのに比べれば,さほど大したことはありませんが.ここで強調しておきたいのが,表1中のPRIMAのベンチマークテスト結果は早くも古ぼけてしまったということです.12/16に書いたように,新たに編み出した秘技を活用した新MEMエンジンは,その記事を執筆時点のエンジンに比べ段違いの超高速化を果たしています.

1月7日
昨日の本Webアクセス数は206(内1回は自分でアクセス)に達しました.200を突破したのは初めてだと思います.

PRIMAベータ版の第3弾をテストユーザーの方々に配布しました.昨日記した新MEMエンジンを搭載した超高速バージョンです.ほとんどすべての無機・金属化合物と低分子量の有機化合物の解析に利用でき,MEEDはもとよりENIGMAをも凄まじいスピードで置き去りにします.MEED比14倍の計算速度(K5.2@K-LTAの場合)--- MEM解析の世界に静かな革命が起きたといって過言でありません.ほんの数ヶ月でこれほど驚異的なパフォーマンスを発揮するソフトを完成させたのは快挙としか言いようがありません.他人はもとより,自分たちをも超えるものを創ったのです.

1月8日
生きているのがやっとのゾンビ状態に陥ってから1週間経ちました.しかし,快方に向かう気配はありません.とくに鎮痛剤が効かなくなる明け方の痛みは耐え難いです.その結果,睡眠不足にも陥っています.

1月9日
Macworld San Franciscoで発表されたMac OS X専用ブラウザSafariはどのブラウザよりも高速にHTMLファイルを読み込め,起動も迅速らしいです.メーラーとブラウザは常に立ち上げっぱなしの私としては,大いなる期待を寄せています.

1月10日
昨日の本Webページのアクセス数はタイ記録206に達していました.病み衰えた男のWebページをこれほど多くの方々が訪問するのはなぜでしょうか.

昨年暮れに購入したPowerBook G4とDynaBook G6に多くのソフトを次々にインストールしました.廃人同然の人間にふさわしい単純作業です.面倒なのはアップデータをダウンロードしなければならないことです.中には,2回アップデートしなければならないアプリケーションもあり,閉口しました.

1月11日
自宅のステレオを総入れ替えしました.その昔,私はいっぱしのオーディオマニアでした.20代のときから使ってきたヤマハ製スピーカーは白木づくりの高級品でしたが,片側のスピーカーがまともに鳴らなくなってしまいました.また,大分前からラックス製プリメインアンプのパワースイッチとバランス調整部にガタが来ていました.ソニー製のCDプレーヤーは問題ありませんが,かなり老朽化しています.そこで,オンキョーのINTECシリーズ275ミニコンポをついに購入しました.要するにオーディオにはもはや興味なし,音さえ鳴ればよし,ということです.いろいろなCDを試しに聴いてみましたが,プリシラの挿入歌19曲を集めたCD中のI've Never Been To Me(愛はかげろうのように; performed by Charlene)とSave The Best For Last(performed by Vanessa Williams)は,素晴らしい曲だとあらためて感じました.Vanessaはダンスのうまい歌手兼女優として有名です.一方,Charleneは病弱な子供時代を過ごし,ドラッグに溺れて刑務所入りし,挙げ句の果ては離婚,という幸運から見放された人生を送った末,文字通り「かげろうのように」消え去ってしまいました.しかし,不思議な魅力のあるI've Never Been To Meは真の名曲として時代を超えて生き残るのではないでしょうか.願わくば,私(たち)の開発したソフトウェアRIETAN-2000,VENUS,PRIMAもそうあってほしいです.ソフトウェアの力で人の心を動かすのは並大抵のことではありませんが,私たちはRIETAN-2000を中心とする三部作においてこの難業を為し遂げたと確信しています.

1月12日
腰痛はだいぶ治まってきました.今週はリハビリにつとめるつもりです.

当Webページのアクセス解析から明らかなのは,自宅のパソコンからアクセスする方々が日増しに増えていることです.休日や夜間のアクセス数が増加しているのはそのためです.自宅で常時インターネット接続環境を整えた人が激増している影響がこういうところにも現れています.

1月13日
昨年暮れにPowerBook G4 (1 GHz)を購入したばかりですが,17インチPowerBook G4の出現により一挙に霞んでしまいました.タイミングがまずかったです.正直言って,がっくりしました.

今朝はリハビリを兼ねて近所のヤマダ電機まで歩いて往復しました.シャープのLinux搭載PDA,ザウルスSL-C700を初めて拝んできました.VGA(640×480ドット)の高解像度を実現した「システム液晶」は凄いの一言です.日本の技術力の底力を実感しました.

午後は全国高校サッカー選手権大会・決勝の前半をTV観戦しました.市船橋のカレン・ロバート(2年)はつくば市の小学校と中学校を出ているのだそうです.後半は寝てしまったので,目の覚めるようなロングシュートは見損ないました.

1月14日
Mac OS用RIETAN-2000をアップデートしました.Absoft Pro Fortran v7.0 SP3でコンパイル・リンクし直し,ユーザー入力ファイル*.ins中の私の電話番号とFAX番号を修正しただけです.ふと気づくと,Classic環境で動くソフトはこのFortranコンパイラーだけになっていました.

以前,大阪弁Proxyサーバーを利用して私のWebページの一部を大阪弁化して面白がっていたことをふと思い出し,VENUSのWebページを大阪弁に変換してみました:
「電子・核密度と結晶構造の三次元可視化プログラム」大阪弁バージョン
いかがでしょうか.いやはや,唖然とするようなWebページが出現します.かつて,このフィルターを通した私のWebページで心が癒されると述懐していた女性がいました.今では音信不通のその人は今,どこでどう暮らしているでしょうか.

1月15日
DynaBook G6(OS: Windows XP Home Edition)からネットワーク・プリンター(プリントサーバーなし)に出力できるようにするべく奮闘しました.Mac OS Xに比べ設定法がずっと難解なのには困り果てました.エキスパートに教えを請い,ようやく接続しました.要するに,一種のローカルプリンターとみなすこと,専用の新TCP/IPポートを作成すること,メーカー提供のドライバーをHDに解凍しておき,その在処を教えてやるのというのが秘訣でした.

昨日のアクセス件数は225で,新記録樹立です.本Webサイトへのアクセス,最近3000件を解析してみたところ,訪問者の使用OSは
Windows: 78 %
Mac OS: 20 %
その他: 3 %
という結果が出ました.予想外にMac OS(ほとんどは8.X/9.X)が健闘しています.しかし学生がWindowsマシンを購入したがる傾向が顕著であり,Mac OS 9.XからMac OS Xへの移行が遅々として進んでいないので,今後Mac OSの割合はゆるやかに減少していくと予想されます.あえて心を鬼にして言いますが,15 %まで落ち込むのもそう先ではないはずです.なおブラウザーのシェアはInternet Explorerが約8割で,他を圧しています.マイクロソフトはOffice v.Xの売り上げが伸びないことに苛立っており,現状が改善されないようだとMac OS X用Officeから手を引くぞと,わめき散らしているとのことです.波及効果/開発コスト比を考慮してMac OS X用VENUSの開発を断念した私としては,マイクロソフトの気持ちがよく理解できます.「その他」のほとんどはLinuxやFreeBSDでしょう.悲惨なほどわずかなシェアしか獲得していません.一部のマニアやスペシャリストしか使っていないのは明らかです.寂しい話ですが,こういう冷厳な現実から目をそらしてはなりません.

1月16日
午前中は今日が木曜日だときちんと認識していたのに,夕方にはてっきり金曜日だと思い込んでいました.体調が悪い上,仕事がきついので,早く今週が終わってほしいという無意識の願望の顕れかもしれません.

1月17日
VENUS更新用圧縮ファイルの最新版UpdateVENUSto1.4.1a.tbzをアップロードしました.幾何学的パラメータの標準偏差に関するVICS.exeのバグを退治するとともに,マニュアルの誤りも修正しました.今日の日付になっているファイルが今回修正したファイルです.

1月18日
昨年12/13に記したことですが,ワイアレス光学マウス中の電池の持続期間があまりにも短いのに業を煮やし,今日はヤマダ電機で単3ニッケル水素二次電池と急速充電器を買ってきました.充電している間は,普通の単3電池をマウスに入れて使うつもりです.それにしてもポイント還元システムは実にありがたいです.ヤマダ電機では本,CD,DVDまで売っていますから,利用価値が高いです.

当初,ここはWhat's Newに相当するような最新情報を書き込む場だったのですが,いつの間にやら愚にも付かぬことを好き勝手に書き散らした日記ないしは雑記になり果ててしまいました.どう改善したらいいのか,自分でも妙案がありません.とりあえずもっと短くし,無理して毎日書き込むのは止める,というのではどうでしょうか.

1月19日
昨年の12/16,12/26,今年の1/6,1/7に記したように,現時点でのPRIMAは他のMEM解析ソフトを寄せ付けない高速性能を誇っています.第三者が実施したベンチマークテスト結果によれば,PRIMA >> ENIGMA > MEEDといった感じらしいです.MEEDを軽自動車とすれば,ENIGMAは大衆車,PRIMAはF1カーにたとえられます(別に運転がむずかしいわけではありませんが).もちろん,走る道路(結晶の対称性,非対称単位内の原子数,ピクセル数など)によって相対速度比は変わりますが,上記の大小関係は不変です.どうしてこれほどの大差がつくかというと,MEMエンジンの核心部分を再構築したからです.自動車におけるレシプロエンジンとロータリーエンジンくらい大きな差があります.独創的アイデアを模倣から保護するため詳細な説明は避けますが,エンジンの構造にまで手を加えなければこれほどの差は実現できません.画期的な新技術だと思います.

1月20日
毎日新聞朝刊によれば,日本の小中学生が抱く科学者像は,「暗くて汚い実験室で,髪の薄い(あるいは髪がボサボサの)さえない中年男が夜中まで研究している」というものだそうです.己のことを言われているような気がして,いい気持ちはしませんでした.

夜は「スパイダーマン」のDVDビデオ(レンタル)を見ました.派手なコンピュータ・グラフィックには圧倒されました.Maya, Houdini, RenderManなどを駆使して製作されたとのことです.VENUSもスパイダーマンもOpenGLテクノロジーに立脚している点では同じですが,制作費はいったい何桁違うんでしょうか.この映画を鑑賞しているうちに,ヒロイン(MJ)のキルスティン・ダンストがどこかで見たような顔なのに気づきました.大分経ってから,数年前に私のところにいたポスドクに似ているということがわかりました.何もかも知り尽くしたような顔をしているのに,なんと,まだ二十歳(!)なんだそうです.全体的に見てスーパーマンとバットマンの影響が歴然としていますが,最後の葬儀の場面はチャップリンの「街の灯」の有名なラストシーンに対するオマージュのようだと感じました.すでに第3作まで製作することが決まっているのだそうです.

1月21日
1月末締め切りの原稿(物理学関係の英文単行本の1章分),体調不良につき未だに1行も書いていません.エディターと交渉し,2月末までに送るということにしてもらいました.

1月22日
昨晩は自宅のiMacでCarbonアプリケーションがすべて動かなくなり,今日は勤務先のPower Mac G4上でATOK 15が使えなくなってしまいました.前者はMac OS Xをインストールし直す(前のシステムは保存)ことにより復旧しましたが,後者の場合,同じ再インストール方式を適用しても解決しませんでした.仕方なしに,ことえりを使っています.

「スパイダーマン」のコンピュータ・グラフィックがいたく気に入ったため,DVDを買いました.スパイダーマンは"With great power comes great responsibility."という叔父さんの最後の言葉を守って,MJの愛を受け入れるのをあきらめ,この世の悪と戦い続ける道を選びました.私はこの十数年の間,"Without great manpower comes great responsibility."という気持ちで奮闘してきたような気がします.その後の台詞は,「僕に与えられた力は僕を呪い続ける.」,というようなものだったと記憶しています.私の場合,これは「僕に与えられなかった力は僕を呪い続ける.」ですね.

1月23日
ことえりでは埒があかないので,Power Mac G4の起動ディスクの内容を完全に消去し,Mac OS X v10.2.3を新規インストールした後,ATOK15をインストールしました.案の定,ATOK15はなにごともなかったように動き出しました.ついでに,開発停止となったARENA Internet Mailerに代わり,アップル純正のメーラーMailを使うことにしました.アドレスブックと連携させると実に便利です.しかしアドレスブックでATOK15が事実上使い物にならないという不具合は,早急になんとかしてほしいです.

1月24日
VENUSのユーザーからの知らせによれば,現在配付しているv1.4.1aは,ベータ版に比べOpenGL加速機構なしのGPUを装着したマシンでの動作がはるかに軽快だそうです.両者の違いは,v1.4.1aをPentium用に最適化したことですが,それほど大きな効果があるとは思いも寄りませんでした.現在,v1.4.2の公開に向けて奮闘しています.

1月25日
本Webサイトへのアクセス,最近3000件における使用OSのうちMac OSの割合が20 %だと1/15に書きましたが,現在,早くも18 %にまで落ち込んでいます.この割合は単調に減少していくと予想しています.VENUSとPRIMAの開発にあたっては,Macを見限るという苦渋に満ちた判断を下しましたが,その決断の正しさには疑問の余地がありません.

1月26日
RIETAN-2000の1ユーザーからの問い合わせでわかったことですが,Windows 2000/XP上ではdrag & drop対応バッチファイルDD.BATは通用しませんね.Windows 2000/XPの場合,[My Documents]や[スタートメニュー]などのユーザーごとに管理されるべきフォルダは[Documents and Settings]というフォルダ内のアカウントと同名のフォルダ(ユーザープロファイル)に収納されます.つまりWindows 2000/XPはMac OS X同様,マルチユーザーでの使用を前提としているのです.これほどドラスティックにフォルダ構造が変わってしまったのでは,Windows NT上で開発したDD.BATが使えないのも無理はありません.いずれ,このバッチファイルは全面的に改訂するつもりですが,当面RIETAN-2000.BATを書き換えてRIETAN-2000を走らせるようお願いいたします.

1月27日
VENUSのアップデータをv1.4.2に更新しました.VICSで結合角とねじれ角の標準偏差が正しく計算されないというバグを除去しました.また幾何学的パラメーターの標準偏差が(1)と出力される場合は,(12)や(14)というように2桁表示するように改めました.分散ー共分散行列の対角項を無視すれば,原子間距離の標準偏差は簡単に計算できます.一方,結合角とねじれ角の標準偏差を計算するのは恐ろしく面倒だということを今回,思い知りました.

1月28日
今やパソコンを販売してもほとんど利益が上がらず,儲かっているのは,黙っていてもWindowsとOfficeが売れるマイクロソフトとCPUを牛耳っているインテル(CPU)ばかりです.かつてPC-9801で一世を風靡したNECもパソコン販売では赤字で,ソーテックも大きな赤字に苦しんでいます.ゲートウェイに至っては,日本市場から撤退してしまいました.国産メーカーではソニーが相対的に好調ですが,強力なブランドとマルチメディア系のオリジナルソフトという切り札があります.どう見ても旗色が悪いアップルは,いつまで持ち堪えられるでしょうか.

研究も一種のビジネスとみなせば,利益,すなわち研究者としての実質的な業績が多いに越したことはありません.この場合,論文引用回数,招待・特別講演の依頼,執筆依頼,特許収入,研究成果の波及効果,受賞,外部資金の獲得など,所属組織以外から評価されることが利益に相当します(私は単に論文数や特許出願数が多いことや所属組織から評価されることは利益とみなしていません).極言すれば,利益を獲得しない研究者には存在価値がほとんどありません.たとえ物理的には存在していても,存在の意義が少ないのです.それでは,粉末回折の専門家としてできるだけ多くの利益を上げるにはどうしたらいいのでしょうか.通常のリートベルト解析の結果を報告した論文をいくら書きまくろうが,よほど画期的な新物質を扱わない限り,粉末回折の専門家にとって利益は微々たるものという感が否めません.様々な手間と費やす時間を考慮すれば,赤字同然かもしれません.たとえ放射光X線回折や中性子回折を使ったところで,同じことです.ろくに開発経費をつぎ込まずに,特色のないパソコンを売るのと同じようなものです.そういうアマチュアでもできるような退屈な仕事からは足を洗った方が,大局的に見て儲けが増えます.今や,通常のリートベルト解析は単結晶X線解析と同様に,基本的に重要ではあるものの,ルーチンかつ古典的な構造解析技術にすぎないのです.もう「卒業」すべきです.私の場合,自分の能力,経験,研究環境,年齢,趣味嗜好を考えると,確実に利益を出し,外部から高く評価されるには,粉末データ解析ソフトの新しい方向性を打ち出すという選択肢しか残されていません.事実,RIETAN-2000を使用した際に必ず引用するよう要請している論文(Izumi and Ikeda, 2000)の引用回数は,近く100回に達しそうな勢いです.

1月29日
DynaBook G6を用い,RIETAN-2000用バッチファイルsetupDD.batとDD.batをWindows 2000/XPで動くように改訂し,それぞれsetupDD2.batとDD2.batという名前にしました.2日ほど費やしましたが,久しぶりにDD.batの中身を眺め,よくもまあ,こんな複雑怪奇な名人芸的スクリプトを書いたものだ,と我ながら感心しました.さらにRIETAN-2000のユーザー入力ファイルCimetidineE.insとCimetidineJ.ins中の原子間距離と結合角を計算するための命令と電話・FAX番号を修正しました.

上記のファイル更新に伴い,Mac OS,Windows,UNIX/Linux用RIETAN-2000システムの最新版を同時にアップロードしました.

それにしてもWindows用RIETAN-2000だけでも3種類のバッチファイル(Windows 95/98/Me,Windows NT,Windows 2000/XP用)が必要となるのだから,消耗します.本来,こんなことは研究者がやることではないはずです.Mac OSとMac OS X用のスクリプトも同様でして,Mac OS X用のスクリプト作成にはまだ着手すらしていません.UNIX/Linux用のVENUSはもうじきファイル入出力部分をGUIとしたバージョンが完成する見込みですが,Rubenの知り合いに手渡すだけで,当面,公開するつもりはありません.何度も言うように,Mac OS X用VENUSの開発は放棄しています.とにかく,手間を省いて時間を獲得したいのです.

やはり,組織が経済的・人的に積極支援してくれない一個人の力と時間には限界があります.SPring-8,PF,KENS,JRR-3Mのような非常に多くのユーザーが利用する施設こそ,優れたソフトウェアや解析手法を開発するとともに,豊富な科学技術情報とともにWebを通じてユーザーのために提供するべきであり,そのための予算(加速器や原子炉の建設・維持・運転経費に比べたら微々たるものです)や優秀な人材も確保しなければならないはずです.自分たちでは無理だというなら,外部に資金提供して委託すればよいだけの話です.たとえば,GSASとFullProfは中性子散乱研究施設で開発されました.我が国において評価の高い共同利用施設は寡聞にして存じません.情けない話です.こういう現状では,仏作って魂入れず,と言われても仕方ありません.所詮,私はこういう人材・予算不足の埋め合わせをするための人柱にされているのだと思います.

1月30日
VENUSをv1.5にバージョンアップしました.今回の機能増強はかなり実用的なので,小数点の次の数字を一つ増やしました.Preferencesダイアログボックスで"Save bars/window positions"をチェックし,[Save]あるいは[Save as defaults]をクリックすれば,現在のMenu Bar,Dialog Bar,Graphics Windowsの位置とGraphics Windowsの大きさが記録されます.こうしておけば,次にVICSあるいはVENDを立ち上げたときに,それらの位置と大きさが再現されます.

1月31日
(前略)の個人業績評価とかけてなんと解く.家電量販店のポイント還元と解く.その心は?(後略)


2月1日
CDを1枚しかリリースしていないアヴリル・ラヴィーン(18)が5月に日本武道館で公演するそうです.わずかな数の論文を書いただけでノーベル賞を受賞した田中さんみたいなもんだな,と感じました.よくよく考えてみると,私もつい最近,CD-ROM(セラミストのためのパソコン講座)1枚に収録したばかりのVENUS(PRIMAを含む)というネタだけで,日本セラミックス協会の年会で半日がかりのミニシンポジウムを開こうとしているのだから,いい度胸していると言われかねません.歌唱力は拙劣ながら,若くてルックス抜群のアヴリル・ラヴィーンは,きっと武道館を満杯にするでしょう.しかし,われわれのセッションに,はたしてどれだけ多くの人が集まってくれるでしょうか.心配になってきました.

2月2日
昨日,久々に「13管楽器のためのセレナード」(K.361)の第3楽章を聞き,感動しました.筆舌に尽くし難い美しさです.かくの如き曲を神品というのではないでしょうか.Robbins Landonが「コシ・ファン・トゥッテ」の1シーン(20番の二重唱の前奏.やはり管楽器だけで演奏されます)を,神聖にしてエロチック,と評していたのを思い出しました.私見によれば,「フィガロの結婚」におけるケルビーノのアリア「恋の悩み知るきみは」も同種の雰囲気を醸し出しています.「アマデウス」にはこの第3楽章が挿入されているらしいです.そこで,2月7日発売のDVD「アマデウス」ディレクターズカット・スペシャルエディションを今日,予約注文しました.

2月3日
VENUS v.1.5.1アップデータがダウンロードできます.VICSとVENDで拡張子なしのファイルを保存したとき,自動的に拡張子を付加するようにしました.さらにVICSでRIETAN形式の入力ファイル*.insを保存する際,異常終了してしまうというバグを除去しました.

英文単行本用原稿の執筆にようやく着手しました.物理学関係のレビューであるからには,断固LaTeXで書くべし,と決断しました.私は別に物理学者ではありませんが,由緒正しい物理学者はMS Wordなんぞで論文を書かないでしょう.TexturesというClassicアプリケーションを使いますが,これはMac OS X上でも安定そのものです.高価ですが,Follow FocusやSynchronicityなどの便利な機能を備えており,手放せません.LaTeXでは,引用文献同士の行間が広がります.私はこのデフォールト設定が大嫌いなので,行間隔が一定となるように細工しています.

2月4日
丸一日Classic環境上でTexturesを使い続けましたが,実にきびきびと動き,快適そのものでした.いずれMac OS Xバージョンが発売されるのでしょうが,このままでもほとんど不満はありません.私にとってLaTeXの最大の利点は,数式や化学式がきれいなことと引用文献や数式の番号が自動的に付け替えられることです.科学技術関係の論文を書くのにMS Wordのようなタコ(死語?)なソフトを使う人の気が知れません.数式がやたらに多い今回の原稿では,とくにLaTeXが役立ちます.

惰性で会費を払い続けている学会を退会するのと同じように,興味を失ったのに惰性や腐れ縁でやってる仕事からは足を洗いたいです.少しずつリストラを進めていくべきでしょう.とは言いつつ,己の人生が惰性そのものなのは如何ともしがたいです.

2月5日
VENUSをv1.5.2にアップデートするためのファイルUpdateVENUSto1.5.2.tbzを公開しました.VICSの修正点は次の通りです:(1) Cambridge Structural Database形式のファイルの拡張子をdatからfdtに変更しました; (2) 格子面(001)を移動しようとしたとき,動かなかったり,動きがのろかったりする障害を解決しました; (3) グラフィックデータファイルの形式として*.rgbを指定すると,*.rawとなってしまう不具合を修正しました.(1)の修正に伴い,VENUSExamplesVICSFDAT&CSDフォルダ中のファイルの拡張子をすべてfdtに変更しました.二つのPDFファイルにも少々手を入れました.

Windows版と同様のGUIを備えたUNIX/Linux用VENUSが本日,完成しました.Windowsを絶対使わない筋金入りのLinuxユーザー(オーストラリア人)に渡してテストしてもらうことになっています.Linuxさえインストールすれば,Mac上でも動くのは言うまでもありません.

2月6日
2/3にちらっと書いた文献同士の間を詰めるLaTeXのテクニックについて紹介しましょう.この技法を編み出すまでには,涙ぐましいまでの試行錯誤を重ねました.まずプリアンブル中の適当なところに
newcommand{packref}[1]{vspace{-3.0mm}bibitem{#1}}
という呪文を挿入します.ただし,行間の減少分"-3.0mm"のところは適当に調節してください.これでthebibliography環境において,packrefという命令が次の例のように使えるようになります:
begin{thebibliography}{1X}
packref{Gull78}
S. F. Gull and G. J. Daniel, textit{Nature}, textbf{272}, 686 (1978).
end{thebibliography}
本文中でこの文献を引用するときは,cite{Gull78}と記述します.

2月7日
VENUS v1.5.3へのアップデータを公開しました.GUIを備えたUNIX/Linux用VENUSが完成しましたが,OS非依存部のソースコードをWindows・UNIX/Linux版で共通にしただけでして,実質的にはv1.5.2と同じです.ソースコードに興味のない方は,v1.5.2のままでも構いません.

今日発売の「アマデウス」のDVDを早速購入し,冒頭から30分程度だけ見ました.2/2に書いたK.361ですが,サリエリがモーツァルトの音楽に初めて接し驚嘆するところで演奏されていました.この一曲で凡庸な作曲家サリエリの人生が変わってしまうのです.サリエリの述懐と私の感じたことがほぼ一致していたので,少々気をよくしました.コンツタンチェが夜,ひそかにサリエリの家を訪れるシーンは最初に公開された映画にはなかったようです.これはあまりにも悪趣味で,ない方がましです.いくら絵空事でも,サリエリがベートーベン、シューベルト、ツェルニー、リストらを育てた偉大な教育者だということを忘れてはなりません.

2月8日
現在,PRIMAのベータ版はWindows用の実行形式プログラムだけ希望者に配布しています.しかし,われわれのソフトをテストするのに留まらず,その開発に協力したいという方にはFortran 90で書かれたソースプログラムを提供するのにやぶさかでありません.ご希望の方は遠慮なく申し出てください.

Mac OS XのFinderでは,ファイルを選択し,Command-C(コピー)を押し,他のフォルダ内でCommand-V(ペースト)を押せば,そのファイルがコピーできるということを今日はじめて知りました.こんなに便利な機能を長く使わずにいたのは不覚でした.まだまだ修行が足りません.

このようにMac OS Xには日夜慣れ親しもうとしています.いまや私の研究はMac OS Xなしには進展しません.偉大なOSであることは疑いありません.しかし,私の予言通り,本Webサイト訪問者に占めるMac OSユーザーの割合は単調に減少しており,早くも17 %にまで落ち込んでしまいました.つい最近,VENUSのMac OS Xに移植しましょうか,とRubenに聞かれましたが,その必要はない,と押し止めました.その理由は,Windows一人勝ちの時代に,落日の感が強い会社のOSに肩入れする財政的余裕,ひいてはマンパワーはない,ということに尽きます.個人的趣味としてでなく,世のため人のためにVENUSを作成しているのですから,最重要プラットホームも絞らざるを得ません.ソフト開発にはとにかくお金と時間がかかります.こんな明白な事実をほとんど誰も理解してくれません.私たちの開発しているソフトの評価がきわめて高く,多くの研究に貢献しているのは明らかです.しかし,時折舞い込んでくるのは執筆と講演の依頼やソフトに関する質問ばかりで,研究資金の提供・寄付など皆無です.経済的支援を切望しています.

2月9日
昨日は週末として初めてアクセス数100に達した記念すべき日となりました.

昨年の12/16,12/26と今年の1/6,1/7,1/19に記したPRIMAの劇的なスピードアップをわれわれがいかにして実現したのか,関心のある方が多いと思います.MEEDはもとよりENIGMAもおもちゃにしか見えなくなるような荒技とはなんでしょうか.ヒントを一つ与えましょう.ポーの「盗まれた手紙」を読んだことがありますか.たしか,江戸川乱歩はこの作品をミステリーの最高傑作として賞賛していたと記憶しています.私も同感です.いくら躍起になって捜索しても見つからない超重要な手紙を名探偵デュパンはどこに発見したか,というのがヒントです.

「アマデウス」を見終わりました.映画そのものより,"Making of Amadeus"中で紹介された逸話の方が心に残りました.「アマデウス」でウィーン市街ということになっているのは,古いヨーロッパのたたずまいを色濃く残したプラハ市街なのだそうです.「ドン・ジョバンニ」上演のシーンはプラハ市内の木造のオペラ劇場で撮影されました.モーツァルトのオペラはウィーンでは不評でしたが,プラハの市民を熱狂させました.ウィーンからプラハへの旅はメーリケの「旅の日のモーツァルト」という小説に描かれています.プラハの人たちは今でも自分たちの祖先の鑑賞眼が優れていたことを誇りに思っているそうです.そのオペラ劇場はモーツァルト自身が「ドン・ジョバンニ」を指揮したところに他なりません.長く放置されていたため,ほこりだらけでした.スタッフの一人はこのような歴史的建造物で撮影する機会に恵まれたことに感激し, ただ一人,廊下で涙を流していたとのことです.私は今年の9月初めにポーランドに行くので,その後にプラハも訪れてみようかと思います.

2月10日
PowerBookのハイエンド機を年末に買ったばかりだというのに,17インチ・ディスプレイの上位マシンが発売になってしまいました.同じころ買ったDynaBook G6はもうdynabook.comの製品情報から姿を消してしまいました.ため息がでます.2年もてばいいくらいの気で酷使するしかありません.

2月11日
電子密度や原子核(干渉性散乱径)密度をVENDで3次元表示していつも感じるのは,原子核しか見ていない後者が地味で,さびしいということです.中性子回折では電子を見ていない(磁性体は別です)ので,原子の非調和熱振動や不規則分布を調べるのにはX線回折より都合がよいのですが,きらびやかな電子密度分布を見慣れた目にはどうしてもそう見えてしまいます.まるでMac OS Xとコマンドプロンプトの画面を見比べているようなものです.よほど顕著な不規則構造を調べるのでない限り,「貧相」です.それに化学反応,化学的特性,物性と深く結びついているのは外核電子です.華やかなもの,アクティブなものに曳かれるのは人間の基本的性質ですから,中性子回折による核密度分布の研究は重要ではあるものの,少々やりがいがないような気がします.

一方,X線回折による電子密度解析にも弱みがあります.全電子密度の空間分布しかわからないことです.前述のように化学的・物理的性質を実質的に決めているのは一部の価電子ですから,overall electron densityしかわからないというのでは不満が残ります.XPSの専門家から,X線回折で求めた電子密度など物性の解明において実質的にほとんど役に立たないと聞いたことがあります.解決策としては理論計算(分子軌道法,バンド構造計算,クラスター法など)の併用しかありませんが,X線回折による電子密度解析と理論計算の両方をこなせる人材はほとんどいません.頭の固くなった40才以上の高齢者(言い過ぎ?)にはまず無理でしょう.積極果敢な若手研究者に期待するしかありません.

ジム・キャリーとレニー・ゼルウィガーが競演した「ふたりの男とひとりの女」を見ました.下品,礼儀知らず,操行不良,かつ毒舌家のアマデウス氏(映画の中だけでなく,実際そうだったらしい)も真っ青になるような下ネタだらけの映画でした.私の目には,レニー・ゼルウィガーはマクドのカウンターに立っているお姉さんにしか見えませんでした.

2月12日
2月9日に記したヒントの意味が理解できた方は皆無でしょう.第一,「盗まれた手紙」を読んだことのない人はお手上げです.煙に巻くのは止めて,もう少しわかりやすく説明しておきます.われわれは結晶学に関する書籍に昔から書かれていることを単刀直入に利用したにすぎません(結果として,ソースプログラム中の当該部分の構造は根本的に変わってしまいました).プログラミング上の技巧を凝らしたり,並列計算に安直に頼ったりするのでなく,結晶学の基本に立ち返ることにより優雅に技術革新を遂行したわけで,ここに意外性と値打ちがあります.私が編著者となって出版した初心者向きの書籍「粉末X線解析の実際」にさえ,この初歩的知識が淡々と書かれています.こういう事実を伝えたかっただけです.もっともコロンブスの卵と違い,わかってしまえば後は誰でも実現できる,というわけでは決してありません.結晶学的計算に精通していないと無理でしょう.

ずっと前から読みたいと思っていたB. Masonの"Victor Moritz Goldschmidt: Father of Modern Geochemistry"をふと思い立って注文したのですが,もう入手不能とのことでした.残念です.

2月13日
昨日書いたコロンブスの卵ですが,卵というものは別に割らなくても,大抵立つものだ,ということはご存じですね.しかし,卵の殻を割って立てたというコロンブスの卵の逸話があまりにも有名なので,卵が立たないと思い込んでいる人の方が多いのではないでしょうか.「盗まれた手紙」も先入観念を打ち破ることの難しさと素晴らしさについて述べています.サイエンスの分野でも既製観念を破るような仕事ができたら,研究者冥利に尽きるというものです.

2月14日
昨日からアップル製のブラウザSafariを本格的に使い始めました.Cookieがきちんと働かないというバグがありますが,鈍重なInternet Explorerに比べはるかに高速です.IMP日本語版も問題なく動いています.今後はこれを常用ブラウザとするつもりです.ただしリンクを張った箇所につくアンダーラインがじゃまなので,Macoo_10の1/8に書いてあった方法で除去しました.なお,私のWebサイトで配布している圧縮ファイル*.tbzが*.txtという名前に変わってしまうというバグがありますが,解凍にはさしつかえありませんでした.

ここのところ,iCal,アドレスブック,Mail,Safariといったアップル製のソフトに乗り換え続けています.Webページの編集には,もっぱらテキストエディットを使っています.とくに機能が豊富なわけではありませんが,私には充分です.小粋で,すっきりしていて,どれも気に入っています.

2月15日
Mac OS Xをv10.2.4にアップデートしたら,アドレスブックでATOK15が使えるようになっていました.

MacとWindows機はSMB/CIFSプロトコルに基づいてファイルを共有できます.Windows機をサーバーにしたファイル共有は実に簡単ですが,Macをサーバーとしたファイル共有の操作法を昨日,ようやく習得しました.Internet Explorerを使えばよい,ということがわかったら,後はどうということはありませんでした.これで,市販ソフトを購入せずにファイルを共有できます.といっても,Windows機上ではNextFTPによるファイル転送の方が便利なので,MacをSMB/CIFSサーバーとすることはほとんどないでしょう.

2月16日
私のSafari用設定ファイル^/Library/Safari/Safari.css(詳しくはMacoo_10の1/8の項をお読みください)は
*{line-height: 1.5em !important; text-decoration: none; !important; }
という一行しか含んでいません.最初の設定で行と行の間が若干広がり,上付や下付の文字が含まれていても行間隔が一定に保たれます.2番目の設定でリンク箇所のアンダーラインを除去しています.私のWebページは上付・下付文字が多いので,Safariにうってつけです.高速なだけでなく,見栄えもよく,すっかり気に入りました.もう絶対,手放せません.Mac OS X用ブラウザの決定版といってよいでしょう.

2月17日
最近,未来の日付(明日,明後日,…)になっていることが多いですが,別にボケてきたわけではありません.一日分があまり長くならないように,翌日以降に回しているだけです.

相変わらずtexturesを使い続けていますが,一度たりとも落ちません.岩のように頑丈です.

2月18日
粉末X線解析の実際」のWebページに置いてあるBond valence parameterのCIFを更新しました.

gnuplot v3.7.3が昨年末にリリースされていたことを知りました.Windows版も含まれています.これがv3.7の最終リリースであり,今年の前半にはv4.0をリリースしたいとANNOUNCEMETに書かれていました.次はマイナーチェンジ版v3.8の出現かと思っていたら,一挙にv4.0! 胸が躍ります.

2月19日
先日,某氏に今後はこういう仕事をどうこうしたい…と語ったら,「えっ,まだ研究するつもりなの?!」と真顔で言われました.

2月20日
Safariは安定に動いていますが,Cookie以外にもう一つ不具合があります.IMP日本語版で返信メールを編集しようとすると,フォントが一回り小さくなってしまうのです.仕方ないので,エディターで引用文を新規ファイルにコピー・ペーストしてからメールを書いています.

2月21日
VENUSのアップデータUpdateVENUSto1.5.3a.tbzを公開しました.バージョン番号からわかるようにプログラム自体はまったく同じですが,VENUSEXAMPLESVENDフォルダの下に置かれた三つのフォルダGaussian,MEED,SCATに追加ファイルが入っています.またVICS形式のファイルKDP.vcsも追加になっています.どれも正負の値をもつ物理量(干渉性散乱径と波動関数)と関係のあるファイルです.実は今日,RubenがKEKでVENUSのデモンストレーションを行っている最中に,これらのファイルをCD-ROM書籍に収録した正式版v1.4に含めるのを忘れていたことに気づきました.17.4 MBにも達する巨大な圧縮ファイルになってしまいました.

2月22日
PRIMAのベータ版を配布し始めてから大分経ちましたが,バグは一つも見つかっていません.レスポンスはほとんど皆無です.まもなく最終チェックを終え,めでたく完成しますが,MEM解析の経験者がほとんどいない状況下で,いきなり全面的にあらゆる人に公開していいものかどうか,迷っています.結晶学の知識に乏しい人や,MEM解析の原理やノウハウがよくわかっていない人に役立つ情報を提供できるようになってからの方がよいような気がします.しかし,そんな悠長なことを言っていたら,何年も先になってしまうかもしれません.

粉末回折データの解析プログラムの開発から長く遠ざかり,3D可視化関連ソフトVENUSとPRIMAの製作に注力し始めてから1年半になります.畑違いの仕事に取り組んであらためて痛感するのは,我が国における科学技術ソフトウェア開発の極端な人材不足です.皮肉に聞こえるかもしれませんが,人材がほとんど見あたらないからこそVENUSとPRIMAが目覚ましい成功を収めることができたということでしょう.RIETAN-2000の入力ファイル*J.insの冒頭に書いたように,プログラミングが金儲けに直結するゲームソフト業界に最優秀のプログラマーが吸い込まれているせいなのでしょうか.金儲けどころか,ほとんど業績と見なされず,時間も金もマンパワーも流出する一方のフリーソフトウェアづくりに精を出す浮世離れした人はまれ --- ということでしょうか.ポスドクや任期つき研究者は2, 3年で手っ取り早く論文を取りそろえることを要求されますから,じっくり大規模なソフトを作っている時間も元気もありません.既製ソフトの使いこなし方を習得したり,こじんまりしたユーティリティーを作ってお茶を濁す程度で精一杯でしょう.かくして,ちまちました論文を手際よく仕上げる研究者が主として生き残るようになります.10年,20年と時が流れるにつれ,ほとんどすべての分野で国産ソフトが消えていくという,日本経済と同様の悲惨な未来が待っています.もちろん粉末回折の分野も例外でありません.

2月23日
「[改訂版] LaTeX2ε 美文書作成入門」(この本は改訂されるたびに購入しています)を読んでいて,bm (boldmath)パッケージというのがあることを知りました.これを使えば,任意の文字をボールド・イタリックの書体にすることができます.さっそく現在執筆中のレビューで使うことにしました.

PRIMAの更なる高速化を実現しました.昨年12月16日に記したKドープゼオライトKx@K-LTA(x = 5.2)の粉末X線回折データ(200×200×200ピクセル,630反射) のMEM解析ですが,当時のPRIMAでは253.0 sの計算時間を要しました.最新のv1.2bを使えば,188.6 sで終了してしまいます.これはMEEDに比べ実に18.4倍高速ということを意味しています.もうそろそろ頭打ちでしょうが,それにしても想像を絶するようなスピードアップを達成したものです.

2月24日
私はリートベルト解析が一段落すると,共役方向法でlocal minimumにトラップされていないかどうかチェックします.共役方向法は一種の直接探索法なので収束にかなりの時間を要しますが,それでも必ず実行しています.こうしないと,global minimumに到達していない可能性が充分あります.共役方向法の組み込まれていない外国製ソフトなど,少なくとも私は恐ろしくて使う気がしません.一方,PRIMAの驚異的な高速化を果たし,VENDで電子・核密度分布を手軽に3D可視化できるようした今,とにかく最終リートベルト解析結果に基づいてMEM解析を行い,VENDで最終的な電子・核密度の3D分布を精査するという手続きを常に励行するべきだとさえ思うに至りました.それくらい威力があります.MEMは粉末回折との相性が良いのです.PRIMAは牛歩の如く遅い既製のMEM解析プログラムを,VICSは異方性熱振動作画ソフトORTEP-IIIを,VENDは(図1枚あたりの情報量が少ない)2次元マップ作画プログラムを過去の存在にしてしまいました.時代遅れのソフトに惰性でしがみつく保守的な人の方が多いですから,急激に利用者が減ることはまずありませんが,未だにMS-DOS用ソフトを使い続けるようなもので,賢明でないと思います.RIETAN-2000,VENUS,PRIMAはいずれもフリーソフトウェアであり,ありふれたPC上で十分利用できます.高価なスパコン,並列計算機,グラフィック・ワークステーションなど必要ありません.私のノート型パソコンでも機敏に動いています.多くの人々,とくに貧乏な研究者・学生の創造性を刺激し,支援する3D可視化ツールが出現した --- と広言してはばかりません.

2月25日
ロシアの宇宙開発技術が再評価されているそうです.ロシアの宇宙研究予算はNASAのたった2%にすぎません.しかし,有人宇宙船ソユーズと無人貨物船プログレスはアメリカのスペースシャトルより安全性や信頼性が高く,しかも安上がりです.今や国際宇宙ステーション(ISS)はロシアの宇宙船なしには成り立ちません.NASAは年内にプログレス1基を追加して打ち上げるようロシアに要請し,それに要する資金を提供するという話です.Rubenの一緒にソフトを開発していても,ロシアのこのような底力を感じます.日本ーロシアの技術と知識と経験を結集(といっても,たった二人の零細プロジェクトですが)して結実させたVENUSとPRIMAでも,ロシアの宇宙開発技術と同様,実用性・信頼性・経済性の高さを実現していると言い張りたいです.わずかな予算しか消費していないにもかかわらず,絶大な波及効果を及ぼすに違いありません.一方,VENUSの随所に見られる遊び心は私の好みを忠実に反映しています.エンターテインメント性に欠けた実用一点張りのソフトにだけはしたくありませんでした.天こ盛りの機能もほとんどは私のアイデアです.これでもか,これでもか,という感じで機能を注入し続けましたが,その割には使いやすさを損なっていないと信じています.

FruitMenu 3.0がリリースされました.私にとってFruitMenuとJammingは,もうこれなしには生きていけないほど重要なソフトです.

2月26日
最近,ジム・キャリーのおバカ映画を立て続けに3本見ました.脳天気な生き方にあこがれています.あれこれ悩み煩っていたら,生きていけませんから.

一昨日,Rubenと今後の仕事について話し合いました.他に類を見ない超高速MEM解析プログラムPRIMAがせっかく完成したのだから,アレに再利用したらどうだろうか,ということになりました.実際にチャレンジするかどうか現段階ではなんとも言えませんが,Rubenによれば,PRIMAさえあれば,アレはそう難しいことではないそうです.アレは結晶構造の精密化とも電子・核密度決定とも3D可視化とも関係のない,またしても畑違いの領域の研究テーマです.ここまで言えば,勘のいい人はアレが何だかおわかりでしょう.

2月27日
先日,某氏その2に向かって,自分がいつまでも頑張ったところで,若手が圧倒されてつぶれたり,惰眠をむさぼったりするだけで,ろくな事はないので,そろそろ第一線から退き,のんびり過ごしたい,目の上のたんこぶがいなくなれば,若手が発奮するだろう,というような意味をことをつぶやいたら,信じない,もう何年も同じ台詞を聞かされ続けている,と反撃されました.

2月28日
PRIMAの最新ベータ版でベンチマークテストを実行してみました.
泉 富士夫, 日本結晶学会誌, 44 (2002) 380ー388.
の表1にまとめたベンチマークテストで使ったのとまったく同じデータを処理しました.MEEDによる実行時間tMに対するPRIMAによる実行時間tPの比tM/tPだけ以下に列挙します:
TiO2: 13.3
K5.2@K-LTA: 19.9
BaSO4: 7.9
Sr9.3Ni1.2(PO4)7: 21.0
アントラキノン: 21.1
Tl-2223: 49.5
センセーショナルなテスト結果です.上記の解説を執筆した時点(2002年12月初旬)に比べ,一層の高速化を果たしたことがわかります.BaSO4だけtM/tPが非常に小さいですが,これは空間群の対称性が低く,非対称単位が大きいためです.特殊な例とみなしてください.なお,PRIMAのベータ版ユーザーからは賞賛の声を聞くだけでして,バグの報告は皆無です.PRIMAはMEM解析を別な次元へと導いてくれる1本です.「アマデウス」中のサリエリの言葉を拝借すれば,猿に書けるコードではありません.


3月1日
博士号を取得した年月日を知る必要が生じ,学位記が見あたらないので,捜索に多大な時間を費やしました.もっとも昨年秋に全論文・著作のリストを作成せざるを得なくなった時の手間に比べたら大したことはありません.その際には,一通りリストアップが終わり,ほっとした直後に,各論文の最終ページも記す必要があるということを知り,ショックを受けました.結局,全部調べるのに2日かかりました.

Path Finderを購入しました.これでFinderに対する欲求不満が解消するでしょう.作者の奥さんが日本人なので,日本語のページもあります.

3月2日
SI単位やISOに準拠した"Guide for the Use of the International System of Units (SI)"(NIST発行)によれば,
The density is 3 X 1018 O2 atoms/cm3
は悪い表現であり,
The number density of O2 atoms is 3 X 1018/cm3
が正しいそうです.つまり,"O2 atoms"というような物理量と関係する情報を単位と雑居させてはならないということです.電子密度はしばしば
The electron density is 1.2 e/Å3
というように記述されますが,これは
The number density of electrons is 1.2/Å3
とすべきです.
電子1個を表す"e"が単位中に混在してはならないのは,考えてみれば当たり前のことですが,電子密度の研究者のほとんどすべてが平然と使っているのですから,相当スキャンダラスですね.なにもそこまで厳密にSI単位の原則に従わなくてもいいだろうとか,揚げ足取りだとかいう声も挙がるかもしれませんが,間違いに気づいたら,ただちに改めるべきです..実は,私も過去に同じ過ちを何度も犯してきました.今後は絶対このような間違いをしないよう肝に銘じておきます.今書いている英文レビューでは全部,修正しました.

3月3日
PRIMAの最新版v2.0bをベータ版のテストユーザーに発送しました.バージョンから明らかなように,重要な改良が加えられました.さらなる高速化を達成したばかりでなく,対称心のない空間群を扱う際の実行時間と消費メモリーが激減しました.メモリー不足ぎみのマシンの所有者にとって,PRIMA製作の掉尾を飾る,この改良は涙が出るほどありがたいでしょう.

明日,郵送する英文レビューですが,2段組で,しかもA4サイズを隅から隅まで使いきる大きさのため,いくらがんばってもなかなかページ数が増えませんでした.結局,20ページで力尽きました.ともあれ,PRIMAで用いている重要な式はほとんど網羅しました.今回,LaTeXで2段組の原稿を書く場合,横幅をフルに使った図や表は簡単に配置できることを知りました.むしろ,横幅の半分の大きさの図表を所望の場所に置くため,試行錯誤を延々と繰り返しました.

3月4日
私のDynaBook G6では,液晶ディスプレイを完全に閉じても,その右側部分が浮き上がっており,本体との間にかなり大きな隙間ができます.別に私が手荒に扱ったせいでなく,購入直後からこうなのです.建て付けの悪い家屋のようで,不快です(PowerBook G4の方はぴたりと閉まります).これが昨年暮れのハイエンド製品なのです.こんなざまでは高級感など生じません.Made in Japanの品質管理も地に落ちたものです.

3月5日
Adobe Photoshop Camera Raw & JPEG 2000プラグインが4月上旬に発売になります.ようやくPhotoshopでJPEG 2000形式のグラフィック・データファイルを開き,保存することができるようになりました.VENUSはJPEG 2000フォーマットのファイルを出力するという先進機能を搭載していますが,これまではJPEG 2000のファイルを読み込める商用グラフィック・アプリケーションがほとんどありませんでした(タイミングが早すぎました).今後は大いに活用していくつもりです.

3月6日
RIETAN-2000,PRIMA,VENUSを3本とも活用して得た解析結果を報告した論文が初めて世に出ました:
K. Takada, H. Sakurai, E. Takayama-Muromachi, F. Izumi, R. A. Dilanian and T. Sasaki, "Superconductivity in two-dimensional CoO2 layers," Nature (London), 422 (2003) 53.
このような画期的な新超伝導物質に関する論文でPRIMAのデビューを飾れたのは幸運でした.なお,同じ3月6日号で,フラーレンの超伝導などに関する捏造データを発表した論文7報が取り下げになっていました.捏造した張本人だけでなく共著者(Batloggのような大物も含まれています)の責任も問われて然るべきです.

上記トリオを用いた研究の第2弾では,単結晶X線回折データの解析にチャレンジしました.現在,投稿中です.

3月7日
JPEG 2000の御利益についてお話ししましょう.JPEG 2000ではデータが可逆的に圧縮・解凍されます.圧縮に伴う画質の低下はありません.現在,私はVENUSで出力したTIFファイルをPhotoshopで適当な分解能とサイズに変換しています.TIFファイルは圧縮されていないので,サイズが非常に大きくなります.PhotoshopでJPEG 2000フォーマットのファイルが読み込めるようになるのは大助かりです.Photoshop用JPEG 2000プラグインを入手したら,VENUSでは常にJPEG 2000ファイルを出力するつもりです.

Armel Le BailのCrystallography Open Databaseを支援するためにVENUSを提供することにしました.今日,VENUSの最新版を彼に郵送しました.

3月8日
今晩,NHKが「松任谷由実の軌跡」という特番を放送していました.ユーミン,おととい活字になった新超伝導体,今は3月,というふうに三拍子揃うと,どうしても1987年3月の高温超伝導戦争を思い出してしまいます."戦争"というと大げさに聞こえるでしょうが,組織の面目と存在意義を賭けた,血なまぐさい戦争にほかなりませんでした.当時,YBa2Cu3O7ーδの組成と結晶構造の解明が高温超伝導研究の焦点となっていました.無機材研ではY:Ba:Cu = 1:2:3という物質量比が突き止められていましたが,軽元素である酸素の位置と占有率が不明のままでした.細かい経緯は省略しますが,KEKの西川所長の意向で,無機材研の研究者がこの超伝導体の純粋な試料を合成し,KEKが加速器およびパルス中性子源を臨時運転し,私が結晶構造を解析するということが,KEKの西川所長の意向で決まりました.莫大な運転経費とマンパワーを費やすギャンブルじみた大仕事です.研究生命をかけた構造解析となります.すさまじいプレシャーがかかりました.3月24日の夕方から3月26日朝にかけて測定したTOF粉末中性子回折データを早速解析してみたところ,どうしてもうまくフィットしません.適切な構造モデルを血眼になって探し求めましたが,充分低いR因子はどうしても得られませんでした.こんな惨憺たる解析結果では論文など書けません.適当な構造モデルを導出するのに失敗したとあっては,切腹ものです.万事窮したときに,たまたまユーミンの「ホライズンを追いかけて」という曲を聴きました."L'aventure ついてゆくわずっと …"というフレーズが耳に入ったとたんに,雷に打たれたようになりました.超伝導相が斜方晶であることは,当時すでにわかっていました.われわれの試料は高温から急冷して合成したと聞いていました.高温相の正方晶(非超伝導体)が急冷時に「ついて」きちゃったのではないか,と気づいたのです.さっそく無機材研に飛んで行き,斜方晶・正方晶の2相が混合しているというモデルに基づいてRIETANで解析し,充分低いR因子を得ました.この解析結果を無機材研とKEKの所長が同席した記者会見の場で私が発表し,どうやら面目を保つことができました.一夜明けたら,有名人になっていました.この年は2週間に1回は講演に飛び回ることになりました.後に解析結果をじっくり調べてみましたが,斜方晶,正方晶の両構造とも見事に解析されていました.YBa2Cu3O7ーδの結晶模型を販売したいという業者が現れ,構造に関する情報を提供したところ,完成した模型をくれたので,西川所長と面会し記念品として贈呈し,大いに喜んでいただきました.この解析結果を報じた論文中の図はJJAPの超伝導特集号の表紙を飾り,私が第一著者の論文のうち引用回数No. 1の地位を未だに保ち続けています.本構造解析に関する詳しい話は,応用物理, Vol. 56, 8月号 (1987)に書きましたので,興味のある方はお読みください.

3月9日
私は梅園というところに住んでいるのですが,近所の梅園公園の梅が満開です.青空を背景に眺めるのは格別で,白梅がとりわけきれいです.

3月10日
現在,PRIMA正式版のリリースに向け最終チェックを行いつつ,VENUSに4つの新機能を追加しています.VENUSの機能向上はかなり目立つものなので,v2.0としてリリースするつもりです.楽しみにしていてください.PRIMAをVENUSシステムに含めるかどうかは微妙なところです.

3月11日
とりあえずVICS v2.0だけアップロードし,VENUSのWebページからダウンロードできるようにしました.残念ながら,VENDのv2.0へのバージョンアップは遅れており,少々先になります.VICSに追加した機能は以下の通りです:
1) 原子をクリックして選択すると,サイト,原子,分率座標(x, y, z)がInfo Barに表示されるようにしました.
2) 各原子に付加した矢印(磁気モーメントあるいは変位の方向)の方向と長さに関する情報をVICSフォーマットのファイル*.vcsに記録するようにしました.
3) 水素結合をユーザーが所望する形式で表示できるようにしました.
水素結合を特別な形式で表示する必要性については,ユーザーからの指摘があるまで気づきませんでした.たしかに通常のXーH(X: O, Nなど)と容易に区別できるような形で水素結合をプロットすると,水素結合を含む構造の理解に有効です.

3月12日
講演と講習のお知らせのページで日本セラミックス協会年会におけるミニシンポジウム「三次元可視化技術のインパクト」のプログラムと内容を知らせる宣伝ビラAdvertisement.pdfを閲覧できるようにしました(「セラミックス」に掲載されたプログラムは間違っていることにご注意ください).これはRIETAN-2000,VENUS,PRIMAのユーザーにとって,"must attend"の講演会といって過言でありません.私の講演を聴けば,何が何に対し如何なる「インパクト」を与えるのかがよく理解できるはずです.なお,講演1の座長は東工大の篠崎和夫先生,講演2以降の座長は私です.自分の講演の座長を勤めるというのも妙ですが,要は堅苦しさを避け,形式にはあまりこだわらないようにするということです.

3月13日
私はなにか不運に見舞われても,できるだけプラス思考を働かせ,楽観視するよう心がけています.災いを転じて福となすという言葉もあるくらいで,悪いことの次にはうれしいことや楽しいことがしばしば待っています.たとえば,東京発,ロス・アンジェルス行きの飛行機で通路側の席に座っていて,内側の座席に座っていたインド人に席を替わってくれ,と頼まれたので,にべもなくお断りしたところ,その男は図々しい願いを拒絶されたことに腹を立て,私に対しつまらぬ嫌がらせを何度も繰り返し,ロス・アンジェルス空港で乗り継ぐはずだったサンディエゴ行きの便に乗り遅れてしまい,次の飛行機でサンディエゴに着いたけれど,空港で私を出迎えメキシコ北部の町まで送ってくれるの人がなかなか現れず,バゲッジクレームにはスーツケースが届かず,アメリカーメキシコ国境はパスポートもなにも提示せずに通り過ぎてしまい(後でアメリカに戻ったとき不法入出国にならないのか?),ほうほうの体で到着したホテルの部屋では隣室の男の長電話がうるさくて眠れなかったとしましょう(実話です).こういうときでも,あわてず騒がず途方に暮れず,外国でこれほどまでの連続技で災難に遭遇するのはめったにないことで,幸運に恵まれた,と思うよう努力します.そうすると,結局どうにかなってしまいますね.3/8にも書いたように,高温超伝導体の構造解析で窮地に陥ったときも,「ホライズンを追いかけて」のおかげでかろうじて切り抜けられたではありませんか.バレンタイン・デーに義理チョコ一つもらえなくても,落胆してはいけません.ホワイト・デーにお返しせずに済んでよかったと思えばよいのです.篠原ともえも同じようなことを言っていました.すなわち,道を歩いていて犬の糞を踏ん付けてしまったら,これで今日も人を笑わせるネタができてよかった,と大喜びするのだそうです.身の不運を嘆かずにすます,もう一つのテクニックももっています.これについては後日お話ししましょう.

3月14日
VENUSを更新しました.圧縮ファイルUpdateVENUS_March14.tbzをダウンロードできます.次の二つのバグを退治しました:
1) VICSとVENDで絶対パス+ファイル名がかなり長く,しかもスペースを含んでいる場合に生じる障害を除去しました.
2) VICSでベクトル(磁気モーメントあるいは変位方向)を*.vcsに記録するようにした際に忍び込んだバグを解決しました.

3月15日
3/6に記した新超伝導酸化物NaxCoO2・yH2Oでは,Liイオン2次電池正極材料のLiCoO2と同様に,CoO2層内のO原子は立方最密充填(ccp)しており,隙間の6配位サイトにCo原子が入り込んでいます.CoO2層といっても,超伝導Cu酸化物と違って単一シートにはなっていません.歪んだCoO6八面体が陵共有して層を形成しています.超伝導Cu酸化物はBi系超伝導体以外は層状構造をもっていませんが,NaxCoO2・yH2Oは典型的な層状化合物です.スピネル型化合物AB2X4でもX原子(陰イオン)がccp配置をとりますが,4配位のAサイトの1/8と6配位のBサイトの1/2を陽イオンが占めています.一方,ペロブスカイト型化合物ABX3でも大きい陽イオンと陰イオンを合わせたAXX3に相当する原子がやはりccpの位置を占めていて,6配位サイトを小さい陽イオンBが占めているとみなせます.こじつけになるかもしれませんが,いずれも大きいイオンがccp配置をとるというように理解できます.

3月16日
RIETAN-2000をリリースしてから3年半の歳月が流れました.Web of ScienceとScience Directを検索すると,RIETAN-2000を利用して得た成果を報告した論文はすでに100報を超えていることがわかります.一般に新作科学技術ソフトの敷居は相当高く,広く普及するには2年はかかるのが常ですから,この数は今後,日増しに増えていくと予想されます.RIETAN-2000と関係するユーティリティーや情報を提供しているWebページもいくつかあります.最近気づいたものを二つ紹介しましょう:
1) 広島大学の坪田雅己氏によるRIETAN情報
文字通り,RIETAN-2000を使いこなすための諸情報を提供しています(建設中).
2) 新潟大学工学部,佐藤・戸田研究室のCRietan2000
[化学系ソフトマニュアル] → [Rietan2000]の順序でクリックしてください.RIETAN-2000用GUIプログラムCRietan2000を無償で配布しています.

3月17日
Path Finderは快適に動いています.すっかり気に入ったので,Macユーティリティのページで紹介することにしました.

3月18日
VENUSの最新アップデータUpdateVENUS_March18.tbzをアップロードしました.VENDに任意の(hkl)面上の数密度をプロットできるようにしました.また,二次元マップの左側に置かれる数密度ーカラー対応バーを短縮しました.これでVICSはv2.0.1,VENDはv2.0と,バージョン番号が共に大台に乗り,正式版v1.4をリリースして以来,綿々と続けてきた機能増強は一段落しました.今後は新機能の追加を抑制し,安定性を向上させるとともに細部を磨き上げていくつもりです.

あらためて申し上げるまでもないかもしれませんが,VENUSはGNUのGPLに従って無保証かつソースプログラムつきで配布するフリーソフトウェアです.GPLにさえ従えば,改変,再配布,販売,有料サービスの提供を許可します.私自身がユーザーや企業に対し無償でVENUSに関するサービスを提供する余裕はありません.しかし,バグや不具合は修正には無償で,個別のニーズに適合させるための改良・手直しには有償で応じます.また,VENUSを使用して作成した図を論文に含めるときは,VENUS.pdfの7ページに書かれている以下の条件(将来は変わる可能性あり)を遵守してください:
Drawings produced by VENUS may be used in any publications provided that proper acknowledgement is given; for example, "Figure 1 was drawn with VENUS developed by Dilanian and Izumi."

3月19日
最近,ようやくMac OS Xに慣れてきましたが,昨年の秋ごろはOSにもてあそばれているという感じでした.3/24のミニシンポジウムの準備をしていて痛感したのは,いかに自分がWindows XPについて無知蒙昧か,ということです.たとえば
C:Program FilesMy ProgramsVENUSPrograms
というようなドライブ名:絶対パスをデスクトップ上でコピーし,エディター上でペーストするにはどうしたらいいのかがまったくわかりません.RIETAN-2000, VENUS, PRIMAを使う際には,長いドライブ名:絶対パス名が必要になることが多く,ユーティリティーなど使わず,Windows XPに備わっている機能によりコピー&ペーストしたいのです.もちろんアドレスバーがあれば簡単なのですが,工場出荷状態ではアドレスバーを表示しないような設定になっています(少なくとも私のDynaBookでは).考えてみると,Mac OS Xでもドライブ名+絶対パスを文字列としてコピーするのはむずかしいです.さんざん時間を費やした末にわかった秘技(少々おおげさ)をメモ代わりに紹介しましょう:
1) 当該ファイルの入っているフォルダをダブルクリックし,[ツール]メニューで[フォルダオプション]を選ぶ.
2) [表示]タブをクリックする.
3) "アドレスバーにファイルのパス名を表示する"をチェックする.
4) [表示] → [ツールバー] → [アドレスバー]
5) これでもアドレスバーが現れない場合は,フォルダウィンドウの右側に表示されている[アドレス(D)]という文字を下方にドラッグする.
6) [表示] → [ツールバー] → [ツールバーを固定する]
Windowsアレルギー患者かつWindowsの超初心者である私にとって,ここまでたどり着くのは至難の業でした.もちろん1)〜4)は真っ先に試しましたが,5)はなかなか思いつかず,[アドレス(D)]を何度もクリックし,レスポンスがないのに首をかしげていました.ショートカットを作成し,[プロパティ]中のリンク先を利用するという荒技もあります.これだとファイル名までコピーできますが,ゴミ(ショートカット)が生じてしまうところがあか抜けません.

なお,ファイルを右クリックし,[プロパティ]の[ファイルの種類]で*.vcsをVICE.exeに,*.vndをVEND.exeに,*.prfをPRIMA.exeに関連づけておくと,それぞれのファイルをダブルクリック(設定によってはクリック)するだけで実行でき,便利です.

3月20日
日本セラミックス協会年会のミニシンポジウム「三次元可視化技術のインパクト」(3月24日午前)におけるスライドショー用のPDFが完成しました.実演用の*.vcsと*.vndもいくつか用意しました.新たに購入した液晶プロジェクターのテストも終わり,準備万端整いました.RIETAN-2000,VENUS,PRIMAのユーザーの方々はぜひご来聴くださるようお願いいたします.鮮烈な印象を与えるセッションになると確信しています.

3月21日
NewNOTEPAD Pro v2.0がリリースされました.早速,v1.Xからアップグレードの手続きをとりました.

3月22日
プロアトラスW for Mac OS X 全国DVDを購入しました.関東地方全域と他の主要道府県の地図をHDに記録しました.以前からMac OS 8/9用のプロアトラスを使っていたのですが,これでようやくMac OS X上で使用できるようになりました.残る主要ClassicアプリケーションはAbsoft Pro FortranとTexturesだけになりました.

3月23日
常々愛用しているNewNOTEPAD Proの作者も述懐しておられましたが,ソフトウェア開発は個人プレーそのものであり,孤独の世界です.ユーザーの声,要望,感想が励みになりますし,バグや不具合を知らせていただくのは大いに助かります.一々返事はできませんが,ユーザーからのレスポンスが将来の開発にフィードバックされることもありうる,ということを心に留めておいてください.

3月24日
日本セラミックス協会年会におけるセラミストのためのパソコン講座ミニシンポジウム「三次元可視化技術のインパクト」を無事終了しました.朝9時から開始ということで,聴衆があまり集まらないのではないかと危惧しておりましたが,杞憂でした.午前中一杯という長丁場にもかかわらず,途中で聴衆の数が減るようなこともなく,セラミストのためのパソコン講座関連の最終行事として有終の美を飾れました.VENUSの実演が功を奏したと思われます.ご来聴いただいた方々に厚く御礼申し上げます.

3月25日
VICS v2.0.2を含むVENUSのアップデータUpdateVENUS_March25.tbzをアップロードしました.Edit Dataダイアログボックスにおいて新しいサイトを追加したり,不要なサイトを除去したときに,原子の大きさと色がデフォールトの値に変わってしまうというバグを除去しました.

3月26日
以前,本Webページの訪問者(最近の3000人)が使用しているOSのうちMac OSが占める割合が17%にまで落ち込んでおり,このままずるずる減り続けるのではないか,と予測しました.ところが,その後この数字は20%にまで回復しました.理工系の人達の間には根強いMac人気が残っているなあ,とあらためて感じました.VENUSをMac OX Xに移植する余力などない,と再三申し上げてきましたが,Macファンを喜ばす朗報が届きました.アップルコンピュータはMac OS XへのUNIX/Linux用ソフトの移植を促進するためにX11 for Mac OS Xを開発中で,現在Public Beta SDKを配布しています.工藤貴司さんは以前からMac OS X上でVENUSを走らせるべく奮闘されてきましたが,多少の不具合はあるものの,入出力ファイル指定のためのGUI部分を除きX Window上でVICSを動かすことに成功したそうです.完成した暁には.macで公開するとのことです.Rubenと私のソフト開発は孤立無援だと思い込んでいましたが,そんなことはありませんでした.Mac OS X用VENUSに関する最新情報が入り次第,その都度ここでお知らせします.Macユーザーは楽しみにしていてください.

3月27日
Mac OS Xは未だに時折カーネルパニックを起こします.外付けMOドライブのオン・オフがしばしばカーネルパニックの引き金になるということが経験的にわかってきました(プリンターは問題ありません).MOドライブのドライバーとMOドライブの相性があまりよくないようです.ドライバーがカーネルとの間でかなり危険な処理を行っているのではないでしょうか.そこで本日午後6時にPower Macintosh G4を再起動し,今後どれくらいの期間,ノンストップ(再起動・電源オフなし)で動き続けるかどうか調べてみることにしました.もちろんMOドライブの電源は入れたままにしておきます.気を付けないといけないのは,壊れている内蔵CDドライブは絶対使わないことです.

3月28日
ときどき舞い込んでくる執筆,講演,講義の依頼は,それらをこなすのも給料の一部と心得ており,世のため人のため自分のため,原則として引き受けることにしています.「したくないことはしない一生であれ」という山田風太郎先生のお言葉を金科玉条とし,雑用・昇進(雑用がつきもの)・教育(面倒くさい)から逃げ回っているので,せめて執筆・講演・集中講義・講習会の依頼くらいは応じないと研究者失格の烙印を押されかねません.数年前,某新書のために啓蒙書を執筆してほしいという依頼はにべもなくお断りしましたが,私にとって,これは絶対「したくない」ことであり,止めておいてよかったと今でも思っています.今年はどういうわけか,今週の月曜に終わったばかりの「三次元可視化技術のインパクト」ミニシンポジウムをはじめとしてheavy job(書籍の1章分,50ページ近くを執筆するとか,国際会議で長時間の基調講演を行うとか)の依頼が相次いでおり,これらをきちんと処理していくだけで1年が過ぎてしまいそうです.現時点で,今年のスケジュールはすでに過密になっており,私の限界ぎりぎり,息が詰まりそうです.正直言って,プログラミングに打ち込める状況ではありません.ひたすら耐え,倦まず休まず前進するしかありません.

3月29日
私のところに客人がお見えになると,RubenにVENUSのデモをしてもらうのが常です.まず,どの方も度肝を抜かれますね.昨晩のお客様も含め異口同音に問われるのは,これほどの力作をなぜ無償で配布してしまうのかということです.確かに独立行政法人は運営費交付金だけではやっていけないのは事実であり,外部資金を獲得し,特許でお金を儲けることが強く要請されています.私はそういう質問にはまともに答えず,はぐらかしてしまうのが常です.

あまり格好付けていても仕方ないので,本音を言わせてもらえば,昨日書いた「したくないことはしない」という言葉に尽きるような気がします.無料で配布すれば,貧しいユーザーや経済力のない学生に喜ばれると同時に,自分にとって面倒くさく,手間のかかること(懇切丁寧な日本語マニュアルの作成やサービスの提供など)に巻き込まれずに済みます.商用ソフトと異なり,フリーソフトウェアでは個々のユーザーに対するサービスは無料ではありません.お金を払ってでもいいから,ぜひ支援してもらいたい,有償で新機能を追加してもらいたい,というユーザーもいるかもしれません.そういう人のためには第三者がサービスを提供してお金を儲けても構わないわけですし,受託業務として私が有償で請け負うことさえできます(独法化で可能となりました).要するに,ソフトを売ればサービスを要求される一方,フリーソフトウェアとして配布すれば多くのユーザーから感謝され,しかもサービスは不要,ということです.日本の国民や会社が収めた税金で作られたソフトを全世界に無償で配布してしまうのでは悪平等ではないか,という意見もあるでしょう.私が自分のWebサイト,講習会,解説などで日本語で豊富な情報を提供していることが日本人にとって圧倒的に有利な点だということを忘れないでください.大学での教育や研究(授業,教科書,教材,ディスカッション,etc.)のほとんどすべてが日本語で行われている日本では,英語+専門知識の二重障壁は想像以上に高いのです.それに私のソフト開発に要する予算など,たかが知れています.目の玉が飛び出るほど高価なスパコンも並列計算機も必要ありませんし(パソコンで充分),波及効果と実績(RIETANを使って得られた成果を報告した数100報の論文のことを思い起こしてください)を考慮すれば,これほどコスト-パフォーマンスが高い研究開発はまれといってよいでしょう.積極的にお金を儲ければ筋が通らないのは,桁が違う予算を消費している部門ではないでしょうか.研究の世界でも,富は偏在するのが常です.

そうそう,肝心なことに言及するのを忘れていました.商用ソフトとして販売したならば,ソースプログラムを秘匿せざるを得ません.ソースプログラムを通じて最先端の科学技術ソフトウェアについて学んでほしい,という私の願いはまったく叶えられなくなります.学生が自分のパソコンにインストールして,いつでも自由に使うことも違法行為になってしまいます.これらもソフトを販売することの重大なデメリットです.

3月30日
私のWebページはiDiskに格納しています.Sitesというフォルダにindex.htmlなどのコンテンツを収めるだけで,簡単に個人用Webサイトを構築できます.本Webページの訪問者は,サン-フランシスコ近郊のアップルコンピュータのサーバーにアクセスしていることになります.とくに遅いと感じたことはありませんし,セキュリティーやパソコン常時電源オンの欠点を考慮すれば,自宅Webサーバーを立ち上げる気にはならないですね.さすがにiDiskのセキュリティーは万全で,ハッカーに攻撃されたことなど一度もありません.HTMLファイルを編集するときは,Finder上でHTMLファイルをダブルクリックすれば,自動的にTextEditがそのファイルを開いてくれます.ところが奇妙なことに,こうしてHTMLファイルを開いても何も表示されないことが最近,多くなりました.しかも再現性がなく,きちんと表示されることもあるのです.そういうときは仕方なしにJeditで開くようにしています.まだiDiskは安定性に欠けているようです.

3月31日
先週はミニシンポジウムの疲れがどっと出てぐったりしていましたが,今年度は今日で終わりですし,そろそろいくつかの仕事を平行して進めていくことにしました.まずは,無機材研時代に購入した不要備品の廃棄にとりかかりました.平成元年度に購入したPC-9801ESもその一つですが,これはキーボードが壊れるくらい酷使し,膨大な量の文書を作成しました.主として使ったソフトは,一太郎とTeXです.もちろんマシンのみならず己の心身も酷使したわけでして,頭脳・肉体のいずれも相当がたが来ています.耐用年限に過ぎつつある自分自身も廃棄処分した方がいいように思えてなりません.


4月1日
すでに予告した通り,工藤貴司さんがMac OS X用VICSをリリースしました(エイプリル・フールではありません).工藤さんのMy iDiskからダウンロードできます.X11 for Mac OS X Public Beta SDKが別途必要なこと,まだ不具合が少々残っていることにご注意ください.できたてのほやほやですし,X11 for Mac OS X自身がベータ版なので,多少のトラブルは覚悟する必要があります.残念ながら私はPRIMA公開の準備に忙殺されており,OS X用VICSを試用するのは少々先になるので,Mac OS Xユーザーの皆様に先に遊んでいただきたいと思います.3/29に無償でソフトを配布することの利点について述べましたが,今回のMac OS X版のように第三者が移植を引き受けてくれたのは,ソースプログラムを公開していればこそ可能となったのです.やはりフリーソフトウェアの世界は素晴らしい!

4月2日
工藤さんが今回リリースしたMac OS X用VICSには,グラフィックウィンドウ,メニューバー,ダイアログバーの最下部にゴミが残るという瑕疵があり,彼に協力していろいろな対症療法を試しています.各バーの右下をマウスでつかんでドラッグすればゴミが消え失せますが,なんとかソフト側で解決したいです.

一方,PRIMAの正式リリースに向けた作業も続行しています.昨日と今日は,PRIMAのマニュアルを徹底的に書き直しました.近日中にリリースできるでしょう.

4月3日
今日,勤務先のMacからiDiskにアクセスできることを偶然知り,狂喜しました.Finder,Path FinderGoliathのいずれを使った場合でも大丈夫です.いつの間にそうなったのかわかりませんが,とにかく,どこからでもアクセス可能なファイルサーバーに仕事用のファイルを保存できるだけでも十分ありがたいです.バックアップファイルは離れた場所に置くのが理想ですから,カルフォルニアなら言うことなしです.これでMOディスクを持ち運ぶ必要はほとんどなくなりました.もっとも自宅で仕事するのもほどほどにしないと…

4月4日
夏休み前に集中講義を行うことになった京都工芸繊維大学から平成15年度の授業時間割表などが送られてきました.全学科の全授業の表を眺めると,大学の先生方がいかに教育に力を注がなければならないかが理解でき,頭が下がります.私は教育の義務がない分だけ研究を充実させるべきなのですが,必ずしもそうなっていないところが面目ないです.指折り数えてみたら,学生相手の講義(講演形式も含む)はこれで15回目(外国での講義が5回)です.すでにこれほどの回数に達していたのは意外でした.

4月5日
終日冷雨.日本結晶学会評議員会(3:00〜5:00)に出席.大江戸線(上野御徒町→本郷三丁目)に初めて乗りました.

4月6日
「コシ・ファン・トゥッテ」のCDを棚の奥から取り出し,ところどころ聴きました.2/2に書いた二重唱(20番)の前奏からは,やはり「13管楽器のためのセレナード」の第3楽章と実によく似た印象(エロチックかつ神聖)を受けますね.このCDはアルバカーキで開かれたAmerican Crystallographic Associationの年会で講演した後,コロラドのNISTを訪問した際,ボールダーの近郊で購入したものです.もう,かれこれ10年経ったことになります.ほとんど脈絡もありませんが,この曲を聴いているうちに「秋雨秋風人を愁殺す」という秋瑾の辞世をふと思い起こしました.

4月7日
PRIMAを明日リリースします.やはりVENUSシステムの一員として扱うことに決めました.つまりVENUS = VICS + VEND + PRIMA + α(contrdなど)という構成になります.RIETAN-2000におけるMPF解析機能やVENUSの一部の機能は,明らかに従来のソフトやユーザーの先を行きすぎています.半歩先を歩んでいるくらいならユーザーもついて来れますが,2歩も3歩も先んじていたならば追随するのが困難です.構造モデル修正用ツールにすぎず,電子密度決定法としての限界がすでに実証されたMEM/リートベルト法に執着し,それで求めた電子密度分布で充分と思い込んでいる(あるいは検証もせずに充分だと言い張っている)人々が未だに残っているのはそのためでしょう.エネルギー密度・ラプラシアンの計算・表示,JPEG 2000フォーマットの採用,桁はずれに高速なMEM解析(実は従来のソフトが稚拙なだけ)などがVENUSにおける「先に進みすぎた」点の良い例です.高・低温や高圧下の構造の研究者で配位多面体の歪みパラメーターを知っている人がわが国にどれだけいるでしょうか.

MEM/リートベルト法やMac OS 9.Xのような疲弊したテクノロジーにいつまでもしがみつくのは愚かしいことです.とはいえ,RIETAN-2000とVENUSの先進性・優位性を理解してもらい,それらを遍く普及させるにはかなりの年月を要するでしょう.

4月8日
PRIMA正式版(v2.0)がついに完成しました.1年8ヶ月余りを費やしたVENUSシステムの開発はこれにて終了です.新たに英語で書いたVENUSのWebページからシステム全体(VEND + VICS + PRIMA)をダウンロードできます.CD-ROM「セラミストのためのパソコン講座」に収録したVENUSの圧縮ファイルはもはや不要です.四つの圧縮ファイルに分けたのですが,VEND用の3Dデータファイルに巨大なものが多く,Examples.tbzは33 MBにも達してしまいました.プロキシサーバーが介在している組織内のパソコンへダウンロードするのは苦しいかもしれません.

VENUSシステムの完成はRIETAN-2000のリリース(2000年夏)に匹敵する重大事と認識しています.VENUSが3D可視化に興味ある人々やリートベルト法,さらにはMPF法のユーザーに対する福音となることは疑いありません.数多くの技術的困難と経済的困窮を乗り越え,波及効果の大きな事業を為し得たことを誇りに思います.

4月9日
昨日の本Webページのアクセス数は229に達し,これまでの最高記録を破りました.

昨日アップロードしたばかりのPRIMAを早くも更新しました.画面出力が一行だけ,すべて大文字になっていたのを修正するとともに,Manual.pdfにおいて*.mem中のデータに関する記述が不十分だったのを書き改めました.

4月10日
PRIMAのリリースに伴い,MPF法を利用するユーザーが徐々に増えていくと予想し,RIETAN-2000のWebページで配布しているPDFファイルNotes.pdfのSect. 5を補筆しました.また解凍ソフトとしてLZArcを利用するときの注意を書き添えました.

4月11日
昨日の本Webページのアクセス数は244に達し,最高記録(229,4月8日)をあっさり更新しました.

Notes.pdfのSect. 5をさらに書き換えました.またVENUSのページに目次,MEEDとPRIMAのベンチマークテストのグラフ(PDF),MPFの手続き(大して難しいことではありません)についての簡単な説明を追加しました.これでようやく,このページの体裁が整いました.ベンチマークテスト結果からは,MEEDとPRIMAの計算速度がいかに違うかが一目で理解できるでしょう.

4月12日
申し遅れましたが,現在配布しているVENUSパッケージには3D電子密度ファイルからVEND 3Dファイル(電子運動エネルギー密度,電子ポテンシャルエネルギー密度,電子密度のラブラシアンを保存)を作成するユーティリティーは含めておりません.少々事情があって,リリースが遅れています.もちろん,これもVENUSの一部としていずれは公開するつもりです.気長にお待ちください.

昨日,Mac OS Xをv10.2.5にアップデートしたため,Power Macintosh G4を再起動せざるを得ませんでした.結局,3月27日から15日間,再起動と電源オフなしで動き続けたことになります.これに満足せず,今日から1ヶ月間ノンストップに挑戦します.

4月13日
Mac OS X用VICSのためのREADMEにおいて,工藤さんは,私や工藤さんのような中年男ばかりがソフトの開発や移植で汗をかいている,とぼやいていました.若者を情けないと思う気持ちはよくわかります.既成ソフトの移植といえども,相当な手間と時間を消費するのです.Mac OS Xのような最新OSに関する限り,三十代前半くらいまでの人が我々の苦闘を座視せず,援助の手を差し伸べてくれてもよさそうです.しかし,「いまどきの若い者は,…」と嘆いたり嘲ったりするのは建設的でありません.モヘンジョ-ダロの古代遺跡にも同じ文言が刻まれているのだそうで,古代から現代に至るまで無数の老人や中年が同様の苦言を無数に吐き続けてきたわけです.むしろ私は,若い世代の創造性を鼓舞し,刺激するような感動的なソフトを創ることに今は集中したいです.

4月14日
以前ポスドクだったAlexeiがモスクワ大学の同窓生と一緒に書いた論文を昨日と今日の午前中に添削し,送り返しました.彼と共著の原著論文は,なんとこれで7報目です.てっきり6報で打ち止めだと思っていたら,おまけ付きだったのには首をすくめてしまいました.

Gaussian 03が発売になりました.350,000円という価格を知り,びっくり仰天.困窮を極めている私が支払える金額ではありません.ご存じのように,VENDはGaussian 98で作ったcubeファイルを読み込めます.Gaussian 98の場合は,物質研の並列計算機にインストールされていたサイトライセンスつき製品を使いました.Gaussian 03の出力するファイルも入力できるかどうかチェックしたいのですが,如何せん,お金がない!天から札束が降って来てほしい!フリーソフトウェアの作者は清貧に甘んじるしかないのでしょうか.「幸福の王子」のように,宝石や金箔を貧乏人のところに運んできてくれるツバメはこの世にいないのでしょうか.いや,むしろ自分が,次から次に金目の物をツバメに与え,見る影もなく薄汚くなっていく銅像であるかのように思えてなりません.最後はツバメの亡きがらも伴わずにゴミ捨て場行き(もちろん昇天せず)の運命をたどるでしょう.

4月15日
昨日の繰り言に対し,蛇足ながら一言申し添えておきます.フリーソフトウェアの作者は物質の貴族でなく精神の貴族なのだと思います.精神的貴族が物質的・金銭的に追いつめられ窮乏していくのは,むしろ誇るべきことです.「山猫」のドン・ファブリツィオ同様,堂々と胸を張って没落していくつもりです.

数年前,私のところでポスドクをしていたモスクワ大学のNellieからメールが昨晩,届きました.彼女は最近,X線回折データと中性子回折データを同時にリートベルト法で解析するのにGSASを使っているのですが,初期解析過程における不安定な挙動に苦しんでいるのだそうです.RIETANにその機能を追加する気はありませんか,と聞かれました.まったくそのつもりはない,と冷たく答えました.なぜなら,X線回折では電子を見ており,中性子回折では(主として)原子核を見ているからです.原子核はきわめて小さいですが,電子,とりわけ化学結合に関与している電子は広い空間に分布しています.π電子や金属の価電子のように非局在化している結合電子も存在します.観測対象がまったく異なるにもかかわらず,一まとめにして扱うのでは厳密さに欠けています.そんな精度の低い解析を行えるようにするために多大な労力と時間を消費するべきではありません.複数のデータセットを扱うのは,X線回折データ同士か,中性子回折データ同士に限るべきだというのが私の見解です.

4月16日
PRIMA v2.01をリリースしました.標準出力ファイル*.outの先頭部分にバージョン番号を明記するようにしただけです.またManual.pdf中のファイル拡張子に関する記述を書き足しました.

4月17日(昼間)
VICS v2.0.3をリリースしました.異方性原子変位パラメーター(anisotropic atomic displacement parameter)Uijあるいはβij(i ≒ j)にゼロでないものが含まれる場合,熱振動楕円体が正常に表示されないという深刻なバグを退治しました.

4月17日(夕方)
同じ日にVICS v2.0.3aをアップロードする羽目に陥りました.VICSのAboutボタンをクリックし,バージョンがv2.0.3になっているようだったら,もう一度ダウンロードしてください.異方性熱振動の様子を示す楕円体の一部が黒ずむというバグを解決しました.

4月18日
昨晩,帰宅直前にMac OX Xからログアウトしようとしたら,カーネルパニックが起きてしまいました.そして今朝は,バブルジェットプリンタBJ F930のドライバーを更新したため,再起動せざるを得ませんでした.OS Xの安定度テストはまたしても新規まき直しと相なりました.

新たな英文ページ,3D Visualization System VENUSがようやく完成の域に達しました.その冒頭で,以前の日本語ページへのリンクを張っておきました.両者を読み比べればわかるように,英文ページは面白みに欠けてはいるものの,簡潔で整然としています.必要にして十分なことだけ記述した堅実なWebページとなっています.英語の場合,私の語彙が貧弱で表現力が弱いので,レトリックを弄した派手な文章に仕立て上げるのは到底無理なのです.一方,日本語の文章では言葉が止めどもなく溢れ出て来て,垂れ流し状態に陥りがちです.しかし,本来は英文ページと同様,余計な装飾を取り去り,簡にして要を得た文章とするべきなのでしょう.今後,両方のページを維持していく余裕などありませんから,日本語ページは一切変更しませんが,遺跡として残しておきます.

英文,和文に関わらず,本Webページの文章は私がろくに推敲もせず書き殴っているにすぎません.わかりにくいところや間違っているところをご指摘いただければ幸甚です.

4月19日
私はリートベルト法は初級コース,MEM/リートベルト法は初中級コース,MPF法は上級コースというように位置づけています.全VENUSパッケージを公開した今,粉末回折データをMEMで解析するのはさほどむずかしいことではなくなりました.RIETAN-2000,PRIMA,VENDが事実上,三位一体で強調して動いてくれるわけですから,左うちわ・鼻歌まじりで解析できるでしょう.VENUSがRIETAN-2000に巨大な付加価値を与えたといって過言でありません.しかし食わず嫌いの人や尻込みしている人が多いでしょうから,初心者の背中を優しく押して,初中級コース,さらには上級コースへと導くことにいたしましょう.

まず注意を払うべきなのが,最低角の反射(言い換えれば,格子面間隔dが最大の反射)が強度データに必ず含まれていなければならないということです.残念ながら,国内のTOF粉末中性子回折装置VegaとSiriusで測定した強度データは最低角の反射が欠落していることが多く,MEM解析にはまず使えません.TOF中性子回折には消衰効果が無視できないという重大な欠点もあります.RIETAN-2001Tに*.mem出力機能がないのはこのためです.ブラッグーブレンターノ型粉末X線回折装置の場合,低角領域において入射X線ビームが試料からはみ出ていてはなりません.選択配向を呈している試料や粗大粒子を含む試料が好ましくないのは,リートベルト解析の場合と同じです.さらにS/N比の十分高い強度データを測定する必要があります.X線回折の場合は,放射光あるいはCu Kα1ビームの利用が望ましいです(必須というわけではありません).とにかく,質の低い強度データから信頼性の高い解析結果は絶対得られません.

最終リートベルト解析用の標準入力ファイル*.insにおいて,NMEMを1(第1相に対する*.memを出力),NUPDTを1(後でMPFを行う場合)に設定し,さらに
If NMEM > 0

end if
というIfブロック内のデータを解析対象とする物質と強度データに合わせて入力します.RIETAN-2000配布ファイル中の*.insにおけるこの部分はどこかからコピーしてきたデータに過ぎないので,自分で全部書き換えて下さい.たとえば,a,b,c軸に沿ったピクセルの数は,格子定数a,b,cや空間群の対称性を考慮して適切な値に設定する必要があります.また|Fo(Rietveld)|を調節するための因子SCIOが適切でないと,MEM解析がうまく収束しない恐れがあります.試行錯誤を要する場合もあるということをご承知ください.

引き続きRIETAN-2000でリートベルト解析を行うと,MEMデータセットファイル*.memが出力されます.次にPRIMAで*.memを解析し,3D密度ファイル*.denを得ます.PRIMAの速さに仰天することでしょう.後はVENDで*.denを入力し,電子あるいは原子核密度を3D可視化するだけです.VENDにおける諸設定(とくに等値表面レベル)を色々変えるとともに単位胞をぐるぐる回し,四方八方から密度分布を眺め,現構造モデルの妥当性を検証してください.

このような簡便な手続きはいわゆるMEM/リートベルト法にすぎず,原理上,確度(accuracy)の高い電子・原子核密度を求めるには力不足ですが,構造モデルの修正にはそれなりに役立ちます.はっきり言って,合理的な結果が得られるまで試行錯誤で解析を繰り返すリートベルト解析よりも簡単なくらいです.リートベルト解析が一段落したら必ず*.memをPRIMAで解析し,電子・原子核密度分布に異常がないかどうかをチェックするよう心がけてください.

電子・原子核密度の精度をできるだけ向上させたいならば,さらにMPFへと移行します.MPFの手続きについては,VENUSのWebページ,Sect. 7に概略を書いておきました.MPFを実行すれば,RBとRFの激減に度肝を抜かれるにちがいありません.REMEDYサイクルの過程で密度分布が認知できるほどに変化することもよくわかるでしょう.いずれもMEM/リートベルト法が電子・原子核密度決定への中途半端なアプローチに過ぎず,リートベルト解析における構造モデルのバイアスを最小化するのにMPFが有効であることを証拠立てています.

4月20日
RIETAN-2000,RIETAN-2001T,VENUS(= VEND + VICS + PRIMA)の各Webページの記述形式と言語を統一し,体裁を整えました.すべて英語としたのは,言うまでもなく全世界に向けてソフトと情報を配布するためです.2000年夏から相次いで公開してきた計5本のソフトがWeb上に勢揃いした様は実に壮観です.1997年の開発開始から足かけ6年,極端な人手不足と資金難を克服し,ようやくここまで到達しました.もちろん,その間,ソフトだけ製作していたわけではありません.現に本Webサイトをざっと閲覧してもらえば,この規模に成長するまで,いかに手間がかかったかを察していただけるでしょう.心身共に消耗し尽くしました.もうこれまでのペースで馬車馬のように働き続けるのはとうてい無理です(同じことを繰り返し書いたような気が…).

これらのソフトの評価は人にまかせるとして,低きに流れようとする風潮・心情に抗ったことは誇りに思います.顔パスで粉末中性子回折データを測定し,古典的なリートベルト法で解析し,論文を書きまくるという安直な研究スタイルにはまり込まなかったのは英断だったと確信しています.膨大な量の仕事を惰性でこなしたところで,逆に評判を落としたのではないでしょうか.

4月21日
昨日は,ここに何回か出てきた「コシ・ファン・トゥッテ」を一通り聴きました.これは「魔笛」や「ドン・ジョバンニ」に比肩する傑作に相違ありません.少なくとも私の耳にはそう聞こえました.ただし,あくまで私の趣味や好みに基づいていることをお断りしておきます.ちなみに,私はセバスチャン・バッハ(大バッハ)よりはクリスチャン・バッハ(大バッハの末子)の方がずっと好きです.つまり,あまり名声や知名度に左右されず,自分の耳や目だけで判断する傾向があります.ルーブル美術館を見物したときも,黒山の人だかりになっている「モナリザ」にはあまり目をくれず,ほとんどの人が前を通り過ぎるだけのキリストを抱いたマドンナの絵(タイトルは失念)の前に釘付けになり,ずっと見入っていました.最近,ゴッホの「農婦」を6600万円で購入した人がいますが,本当に素晴らしい絵と信じてそうしたとは思えません.ゴッホという超有名ブランドだけ重んじて大金を投じるのは愚かしい限りです.

4月22日
パソコンを使ったあらゆる仕事にエディターは欠かせません.最近はJeditよりはむしろHUNDOSHI-EDITをエディターとして使っています.その事情は話すと長くなるので,省きます.HUNDOSHI-EDITについてはRIETAN-2000のWebページで紹介しています.フォントの種類・サイズ・色などの部分的変更のような余計な機能が少なく,私の仕事にうってつけです.メーラーやブラウザーなどとともに常時立ち上げて使っています.ところが,Dock上に所狭しと腰を落ち着けているアイコンには「」という巨大な文字が…

「しこふんじゃった。」という映画に,相撲取りが締めているのは「ふんどし」でなく「まわし」,という台詞が何度もでてきましたが,本エディターの名称は「ふんどし」以外の何者でもありません.このアイコンを女子職員が見たら,怪しげなソフトを毎日弄っていると誤解し,気持ち悪がる恐れがあります.名前はともかく,せめてアイコンだけでも変えてくれたら助かります.

4月23日
偶然ですが,昨日の話題として登場したHUNDOSHI-EDITの最新版v2.8.5がリリースされました.MPW p2cでPASCALからC/C++に移植したのだそうです.

昨日書いた「しこふんじゃった。」という映画において,立教大学ならぬ教立大学出身のミスター(長嶋茂雄とおぼしきプロ野球のスター選手)が学生だったとき,英語の授業で"The … "という文を"テヘ …"と読んだ,という伝説がまことしやかに語られていました.一方,ジム・キャリーの「Dumb & Dumber」の一シーンでも,ほとんど文盲のおバカさんが"the"を変な発音で読んでいました.「しこふんじゃった。」の方が2年ほど前に撮られているので,priorityをもっています.

4月24日
(NH3)5.3Na2C60の結晶構造をMPF法により解析したという論文が最近発表されました:
J. B. Claridge, A. J. Fowkes, M. J. Rosseinsky and I. D. Watts, Chem. Mater., 15 (2003) 1497-1504.
リバプール大学化学科グループが挙げた研究成果です.SRS で測定した放射光粉末回折データを解析していますが,最終的なR因子(RB)は,GSASによる通常のリートベルト解析では6.48 %だったのに対し,RIETAN-2000+MEEDによるMPF解析では2.05 %にまで改善されたそうです.RIETAN-2000の作者として不思議でならないのは,RIETAN-2000+MEEDによるMPF解析の手続きに関する英語情報をほとんど提供していないにもかかわらず,独力で解析できたという事実です.第一,MEEDのソースプログラムを1行だけ変更しないと,*.fbaは出力されないのです.RIETAN-2000のWebページで宣告しているように,"the source code functions as a kind of a detailed manual in the case of open-source software"ということを覚悟し,ソースコードを読み切ったとしか思えません.MPF法を駆使して複雑な不規則構造を見事に決定したのには舌を巻きました.なお,当論文のIntroductionでは,次のようにMPF法を要領よく説明しています:
The use of MEM alone still maintains the Fobs as obtained from the initial extraction and is therefore biased toward the model used to extract the data. The results of an MEM calculation can, however, be used to provide Fcalc for a second extraction, which will be less biased by the original model. Repeated extractions and MEM calculations should therefore yield the true scattering density. This cycling of the MEM results has been implemented by Izumi in RIETAN-2000 who has applied the REMEDY cycles to a number of diffraction problems.
リートベルト解析の構造モデルの影響から脱却するにはREMEDYサイクルが必要不可欠であることを中立的立場の英国研究者が実証してくれたのは,うれしい限りです.

4月25日
工藤貴司さんのiDiskでMac OS X用VICSの最新版が公開されていました.

Mac OS X稼働中に外付けDVD/CDドライブのスイッチを入れたら,即座にカーネルパニックを起こしました.外付けMOドライブだけ危険だという訳ではなかったのです.今後は,少なくともログアウトしてからMO・DVD/CDドライブをオンオフすることにします.ということで,Mac OS Xの安定性テストはまたしても振り出しに戻りました.

4月26日
本掲示板から愚痴(3/28,3/31,4/14,4/15),毒舌・嫌み(3/4,4/7,4/13,4/15),自慢話(3/8,4/7,4/8,4/11,4/20),愚にもつかぬ与太話(3/13,4/22,4/23),個人的趣味(2/2,4/6,4/21),Mac偏愛記録(3/27,3/30,4/3,4/25),人様のお役には立ちそうもない備忘録(3/15,3/19)を除けば,サイズが半減してしまうでしょう(カッコ内は最近の典型的な記事の日付).堅苦しく形式張ったことやアカデミックな雰囲気(たとえば会議,研究集会,授業など)が大嫌いという私の性格を忠実に反映しています.プログラミングだけに没頭しているわけではないことを知ってもらうのにも役立つでしょう.これらの個人記録には危険な側面があります.融通が聞かず,冗談のわからない典型的理工系人間やまじめ腐った石頭の持ち主が,私がマジで書いていると勝手に思い込むのです.私は後でばれるような嘘はつきませんが,ジョークを飛ばし、軽口をたたくのは大好きで,本心が窺いしれないような韜晦趣味もしばしば披瀝します.面白半分に書き散らしただけで,文字通りに受け取られても困るという類の文も多いです.といって,野暮で無粋な人々のために一々注釈を付すわけにはいきません.要するに,本Webページはサイエンスに焦点を絞った場ではなく,エンターテインメント・文芸的色彩も帯びた余興ページでもあるのです.それらが渾然一体になっているところが人を引きつけるのでしょう.ともあれ,訪問者の方々が3/2,4/1,4/19,4/24のような実用的記事を切望しているのは明らかですが,それらのような有用な情報を連日提供できるわけはありません.要するに,本掲示版がWhat's new兼自作ソフト情報兼私的メモ兼倉庫(将来どこかで再利用)兼日記兼はきだめ(私的感情のはけ口)兼作文の公開練習場となっているからこそ,昨年来,途切れずに続いているのです.本Webサイトの人気が上々なのには,VENUSのリリースと本掲示板の充実が貢献しているのは疑う余地がありません.いずれ,建設的かつ有益な情報だけを時折提供するように路線変更したいとも考えていますが,その結果,本Webページの魅力が色あせ,訪問者がかなり減る恐れがあり,二の足を踏んでいます.

4月27日
カナダの研究者(理論家)からCerius2で出力したcssrファイルとGaussianで出力したcubeファイルがそれぞれVICSとVENDで読み込めないので,なんとかしてほしいというメールが届きました.Cerius2の所有者がなぜ貧乏人のためのソフトを使おうとするのか理解不能ですが,この不具合がなぜ起こるのかを追及してみました.原因は単純で,それぞれの形式には通常,様々なバリエーションがあり,すべてに対応しているわけではないからです.たとえば,PDBで許されているすべてのフォーマットをサポートするのは無理というものです.VENUSでは手持ちの資料やファイルに基づき,入力形式を絞り込みました.特定の個人のために一々読み込めるようサービスしていたら,身が持ちません.すでにcssrの問題は解決しましたが,全ソースプログラムを公開しているフリーソフトウェアなのですから,自力で読み込めるようにした上,拡張部分のコードを抱え込まず,当方に気前よく提供していただきたいです.もっとも,自分でどうにかできるくらいだったら,私に頼みこんで来ないでしょうね.VENUSのソースコードを公開してから4ヶ月経ちましたが,ANSI Cで書かれたソースプログラムを読んだ上でいろいろ指摘してくれたのは,今のところMac OS X用VICSを配布されている工藤さん只一人,というわびしい状況です.

バグや不具合はもちろん無償でつぶします.ユーザー全体と開発者自身が恩恵を被るからです.しかし,技術指導やプログラム改変の代行のような特定のユーザーのために汗をかくサービスは基本的に有償とすべきです.GNUのソフトに関する書籍でさえ,同様に主張していました.といって,積極的に有償サービスに応じる気は毛頭ありません.手間がかかりすぎます.

4月28日
VICS & VEND v2.1をリリースしました.昨日ぶつぶつ文句を垂れていたCerius2の排泄物(cssrとcubeファイル)をVICSで一応読み込めるようにしました.ただし,cssrファイル中の軸設定番号が正しいという保証はありません.うまく行かなかったら,Editダイアログで変更してください.さらに熱振動楕円体の描画に関するバグを除去するとともに,異方性原子変位パラメーター(Uijあるいはβij)と等方性原子変位パラメーター(UあるいはB)が混在した結晶データも扱えるようにしました.ORTEPキラーへの道は長く,険しいです.なお,VEND v2.1の新機能は,Cerius2の出力したcubeファイルを読み込めるようにしたことだけです(バージョン番号は強引にVICSと揃えました).このような改善に応じ,VENUS.pdfもほんの少々改訂しました.

RIETAN-2000で用いるモデル関数に含まれるパラメーターに関する文書Parameters.pdfを更新しました.部分プロファイル緩和に関する説明を少々増やしました.

4月29日
掲示板バックナンバーがあまりにも長大になってきたので,2001・2002年分を別なページに移し,再編成しました.これで,表示が完了するまであまり待たされなくなるはずです.とりあえず今年の分については日付をボールドの書体に変えました.それにしても,よくこれほど大量の文章を延々と書き綴ったものです.さらにSuper-fast program, PRIMA, for MEM analysis中のMEM解析に関する記述を詳しくしました.

27日に記したカナダ人研究者の話では,Cerius2は職場の古いUNIXマシンにインストールされており,そのグラフィック・ターミナル上でしか使えないのだそうです.出張先や自宅で働くのが常なので,Windows機で動くVENUSは実に魅力的だ,とのことです.なるほど,パソコン上で動くフリーソフトウェアの醍醐味は,いつでもどこでも誰でも自由にコピーして使えるところにあります.大げさに言えば全人類の共有財産です.目玉が飛び出すようなお金を払ったにもかかわらず,ソースコードは秘匿,ドングルつきの特定マシンでしか動かせない,束縛だらけの商用ソフトなんてくそくらえ!

4月30日
RIETAN-2000のページ中で公開している文書Notes.pdfとParameters.pdfを更新しました.Notes.pdfではMEM関係の記述を少し追加し,Parameters.pdfでは通常のLe Bail解析において構造パラメーターは入力しないことを明記しました.もちろん部分構造を導入したLe Bail解析ではこの限りでありません.

VENUSのソースプログラムを収めたSource_codes.tbz中のmain.cpp(VICS)が前バージョンのままだったことがわかったため,最新バージョンに入れ替えました.

工藤さんがVICS v2.1 for Mac OS Xをリリースしてくださいました.X11 for Mac OS XfinkなどとともにVICSをインストールし,実際に走らせるのに成功した方は,機種名,ビデオカード,パフォーマンス,問題点などに関する情報をお寄せいただければ幸いです.


5月1日
PRIMA v2.0.2をアップロードしました.対話式入力時のスクリーン出力が首尾一貫した形式となりました.

多目的パターン・フィッティングシステムRIETAN-2000ユーザーガイドを更新しました.「粉末X線解析の実際」と同様に,擬フォークト関数の右辺第1項が間違っていたのを修正しました.この式をコピー&ペーストしたのがばれてしまいました.

発売されて間もない「新英和中辞典」第7版(研究社)を買いました.英文執筆・添削時の必需品です.

5月2日
PRIMA v2.0.3をアップロードしました.対話形式でPRIMAを実行する際,*.prfを出力するか否かを指定できるようにしました.また*.prfのサンプルファイル(注釈行中の冠詞を変えただけです)とManual.pdfも改訂しました.

5月3日
各サイトの酸化状態を調べるため異常分散因子を精密化する機能をRIETAN-2000に追加したという論文を南イリノイ大学・シカゴ大学のYanan Xiao博士が投稿していましたが,ようやく活字になったので,RIETAN-2000のページのAnnouncementsに記載しました.

5月4日
VENUSのWebページにAnnouncementsを追加し,4つの項目を置きました.これで,このWebページは完成の域に達しました.卓越したソフトを取りそろえただけでなく,これだけきちんと環境を整備したのですから,VENUSは放っておいても次第に普及していくでしょう.

5月5日
本サイトで配布している自作ソフトはすべてtbz(= .tar.bz2)フォーマットで圧縮しています.sit形式(Mac OS)やzip形式(Windows)に比べ圧縮率が高く満足していますが,ポピュラーでないのが弱みです.RIETAN-2000のページでアーカイバについて詳しく書いたので,そこを参照すれば大丈夫ですが,解凍に苦労している人は意外と多いのかもしれません.日本人以外の人々のために英語で使える無料アーカイバを探し回ったのですが,LZArcくらいしか見つかりませんでした.しかしこのソフトには,拡張子tbzをbz2に変えないと解凍できないというバグがあります.開発元に修正を要望しておきました.他に良いフリーソフトウェアがありましたら,ぜひ教えてください.

5月6日
最近,未処理の仕事がたまってきており,そろそろ着手しないとまずいという黄信号が点りました.当面,最優先すべきなのは研究総説(5月末締切)と書籍1章分(刷り上がり50ページ弱!)を書き進めることです.研究総説は,期限までに必ず執筆します,と署名・捺印した誓約書を提出済みです.実際に取りかかると結構速いのですが,腰の重さは相当なものです.モチベーションが欠如しているためです.ハングリー精神どころか満腹精神しかありません.こういう言い方は反発を買うに決まっていますが,実際の心境を身も蓋もなく形容すると,そうなります.ソフト開発のための軍資金集め(あるいはスポンサー探し)も急務です.精神的には満腹ですが,財政的には北朝鮮顔負けの飢餓状態です.手をこまねいていると,Rubenと二人で細々と続けてきたミニプロジェクトは早晩立ち行かなくなり,のたれ死にが必至です.墓石にはVENUSという文字が刻まれるでしょう.フリーソフトウェアの理想に殉ずるのは美しいですが,継続性も大切にしたいです.「継続は力なり」ですから.といって,ほとんど金策のあてがありません.途方に暮れています.

5月12日
この掲示板を更新している最中にiDiskへのアクセスが緩慢となり,挙げ句の果てにindex.htmlが消去されてしまいました.5月7日以降に掲示板に書き込んだ内容はすべて失われました.それほど重要な記事はなかったのが不幸中の幸いでした.もっとも過去から現在に至る掲示板全体がどうでもいいような駄文ばかりなので,大して惜しくもありませんが...

5月13日
消失した5日分の記事を補って余りある内容とするべく,今日は最近の心境を吐露しましょう.

所属組織の研究費を使って開発した科学技術ソフトウェアを全世界に向かって無料で配布してしまうのでは,内部からは高く評価されず,潤沢な予算などつけてもらえません.数多くの研究者・教育者・学生に奉仕するような波及効果の大きいことをなし遂げたたところで,組織に一銭も入らず,組織のための汚れ仕事をこなす時間などさらさらない(自称,そんなことをやらせたらもったいない),というのでは,単なる個人プレーとみなされるだけです.一方,外部からは個人として最高クラスに評価されていると日頃から感じています.私にとって大切なのは外部評価なので,それで充分満足しています.私は所属組織のためなどという卑小かつ局所的な目的のためでなく,大げさに言えば,実用ソフトの開発と普及を通じて社会のために働いているつもりです.

ソフト開発での実績が大いに上がっており,もっぱらその方面での貢献を強く期待されているのは明らかですから,うまく後継世代に先端ソフトウェア開発をバトンタッチしたい,というのが私の積年の願いでした.ただ自分の論文が出ればいい,というのでなく,実際に広く使われ,愛される実用ソフトを積極的に開発する人を望んでいました.過去にも若手研究者を採用する機会を与えられましたが,結晶学を知悉しており,粉末回折に興味があり,しかもプログラミングに長けている人材など国内にまったく見当たらず,後継者を育成するまでには至りませんでした.もちろん最初から三拍子そろった即戦力でなくても,教育でなんとかなればいいのですが,才能,意欲,持続力,精神的強さのどれか一つが欠けても駄目なわけでして,人材が払底しているのは同じことでした.今にして思えば,論理和(才能 OR 意欲 OR 持続力 OR 精神力)でなく論理積(才能 AND 意欲 AND 持続力 AND 精神力)を要求しているのですから,該当者なし,で当然でした.身も蓋もない言い方をすれば,優れたプログラムを使える人は十分いますが,作れる人は稀少です.「使う」と「作る」では,難易度が桁外れに違います.私がリタイアしたら,物材機構における先端粉末回折関連ソフトの開発(利用ではありません)など,毫も期待できないということを覚悟してください.もうすでに手遅れです.寂しい限りですが,あきらめるしかありません.願わくば,日本国内のどこかから飛び切り優秀な若手研究者が彗星のように現れ,われわれのソフトなど過去の遺物と化してしまうような素晴らしいソフトを創り上げてほしいです.その際,RIETAN-2000/2001TやVENUSが結晶学的計算やプログラミング上の知識や影響を多少なりとも与えることができれば,これ以上の喜びはありません.

5月14日
昨日の話を続けましょう.人材不足はイギリスでも同様らしく,たとえばラザフォードーアップルトン研究所のISISではインド人の研究者を雇用しています(インドには数学やプログラミングが得意な人々が数多くいます).アメリカには世界中から科学者や技術者が流入し,最先端の科学技術を支えています.科学技術に興味を持つ若者が減っているという傾向や少子化を考慮すると,優れた外国人研究者を積極的に採用し,日本の研究機関に取り込んでいかねば,日本の科学はいずれ立ちゆかなくなるでしょう.実力のない日本人研究者はその分,職にありつけなくなりますが,あくまで競争原理を貫くべきです.

講演と講習のお知らせXVth International Symposium on the Reactivity of Solidsでの基調講演を追加しました.今日,正式な依頼状が届きました.

5月15日
コバルト酸化物超伝導体の構造解析過程で層間の水分子の位置を決定した際に使った3D電子密度イメージ(等数密度レベル: 1.3/Å3)をVENUSのWebページ,10.4に追加しました."this fugure"というところをクリックすれば眺められます.

牛歩のごときスピードで執筆してきた研究総説が図を残して仕上がりました.昨日書いた「願わくば (中略)喜びはありません.」という文を少々変更し,
We have been rushing into developing a new kind of software, expecting that RIETAN-2000, VENUS, and the forthcoming program will encourage the creativity of researchers in various fields. We sincerely hope that young scientists impressed with the capabilities of our programs challenge to build excellent software for powder diffraction.
と締めくくりました.剛力無双の若武者が白馬にまたがって馳せ参じ,暗黒の未来を救済してほしい,と他力本願で祈るしかないところが,我ながら情けないですが,現実に若手が台頭してくる可能性は無きにしもあらず,と思っています.

上の文を書いた後に気づいたのですが,「白馬にまたがって」というと,偉大な将軍様*や(現在の)山城新吾のような,腹の出た中年や初老の男を連想してしまいます.手垢にまみれた表現は避けるべきでした.
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* 脚注: 蛇足ですが,松平 健(暴れん坊将軍)ではありません.

ところで,MS Word v.Xで書いたこの文書をPower Macintosh G4からプリンターに出力すると,6ページまでしか印刷してくれません.一方,PowerBook G4の場合,前ページがきちんと印刷されます.もうじき3才になるPower Macintosh G4をそろそろ買い換えた方がよいという神様のお告げでしょうか?CD-ROMが読み込めない上,iDiskへのアクセス時に必ずユーザー名とパスワードを要求してきます(健忘症?).私の肉体同様,酷使し続けた結果,あちこちにガタが来ており,いつ壊れても不思議でありませんが,なんとか後一年持ち堪えてほしいです.

5月16日
VICS v2.1.2とVEND v2.1.2をアップロードしました.VICSでは,有効桁数の少なすぎる分率座標を読み込んだり入力したとき(たとえば,1/3が0.3333と入力されている場合),配位多面体が適切に作画されないという問題を解決しました.もともと,ずぼらな入力の結果に過ぎず,VICSの不具合ではないのですが,不可解な現象を引き起こす恐れがあるので,やむを得ず対策を講じたということです.VENDでは[Info]ボタンをクリックしたとき表示されるピクセル数の表示を変えました.

昨日と今日は,RIETAN-2000を用いたLe Bail解析の半自動化(NAUTO = 1)に取り組みました.AppleScriptやPerlを使わず,RIETAN-2000を一回実行するだけで解析が終わるようにするつもりです.本当はこんな時間のかかることをやっているどころではないのですが,ab initio構造解析はおろか,Le Bail解析でさえほとんど普及していない我が国にルーチンな解析手段として定着させるために奮闘しました.とりあえず,RIETAN-2000パッケージに含まれているFapatiteE.intのLe Bail解析はNAUTO = 1で行えるようにしました.しかし,どの強度データでもうまく動くようにするのは困難であり,この機能が完成するのはかなり先となるでしょう.

5月17日
Windows XP上でDD2.batを使ってRIETAN-2000を走らせようとしていて,RIETAN-2000 Folderをあまりにも深い階層の下に置くと(言い換えれば,当該フォルダの絶対パス名が長すぎると),RIETAN-2000が途中で止まってしまうことに気づきました.具体的には
C:Programs FilesMy programsRIETAN-2000 Folder
の場合はうまく動きませんでしたが,一段上の階層に移し
C:Programs FilesRIETAN-2000 Folder
とすると,なんの問題もなくDD2.batが実行されました.コマンドプロンプトの仕様に基づいているのかもしれませんが,注意が必要です.

5月18日
この週末は土・日とも半日ほど出勤し,半自動Le Bail解析の実現に向けて努力しました.この目的のために精密化するパラメーターを指定できるサイクルの数を最大50に増やしました.FapatiteE.intに引き続き,CimetidineE.intも1回の解析で収束するようになりました.

5月19日
RIETAN-2000を利用して得た成果を報告する際に必ず引用することを使用許諾条件としている論文
F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, 321-324 (2000) 198-203.
ISI Web of Scienceで検索したところ,ついに引用回数が100を突破したことがわかりました.ScienceDirectでこの論文を引用している論文(Elsevier発行の雑誌に投稿されたものに限る)を検索したところ,印刷中の論文が7報見つかりました.さらに本文中に"RIETAN"を含む論文をScienceDirectで検索すると,416報もヒットします.たとえRIETANを使っても"Rietveld method"や"Rietveld analysis"で解析したとしか書かれていない論文も多いことを考慮すると,驚くべき数字です.ともあれ,RIETANが様々な分野における数多くの研究に貢献し続けていることがわかり,気をよくしました.

5月20日
今年初め腰痛に呻吟していたころに比べ3キロ強は体重が減り,ズボンがどれもゆるくなりました.国際的に通用している標準体重の計算方法BMIによれば,体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値が22なら標準だそうです.現在の体重からBMI値を計算すると,21.9であり,標準体重に近いことがわかります.この状態をずっと維持していくつもりです.

ついに例の研究総説を日本セラミックス協会あてに発送しました.原稿(Wordファイル)と図(PDF)をCD-Rに焼いて同封しました.図3つをカラーにするよう依頼しました.

以下,混合金属サイトに関する個人メモ(別に読んでも構いませんが):
上記の研究総説を執筆中に気づいたことを記す.KXTI2-x/3Li3/3O4 (x = 0.8)では6配位八面体サイトの87%をTi4+イオン(イオン半径: 0.605 Å),13%をLi+イオン(イオン半径: 0.76 Å)が占めている.イオン半径に26%もの差があり,酸化状態が3つも違う陽イオンが同一サイトを占めるのは一見異常に見える.しかし,リートベルト解析に必要な基礎知識中で公開しているPDFファイル「無機化合物の結晶構造の安定性と評価法」,p. 3の一番下の段落を読めば納得するであろう.

5月21日
PRIMA v2.0.5をアップロードしました.対話式入力での画面出力形式が首尾一貫したものとなるよう,さらに努力しました.また,マニュアル中の使用許諾条件を書き改めました.

5月22日
ペプシコーラの社長として辣腕をふるい,コカ・コーラのシェアをも抜き去り,功成り名を遂げたジョン・スカリーが1983年にアップルコンピュータの社長兼CEOとして転職したとき,世間は唖然としました.比べ物にならぬほど小さな会社に移ったからです.自らスカリーをヘッドハントしたときのスティーブ・ジョブズの殺し文句,「一生,砂糖水を売って過ごすのか,それとも世界を変えてみないか.」は,あまりにも有名な伝説となっています.

われわれは現在,粉末回折データから未知構造を解析するab initio構造解析ソフトの製作に余念がありません.過去はともあれ,現在の私にとって,古典的なリートベルト解析を行って論文を書きまくるのは,砂糖水の販売で糊口を凌ぐようなものです.鼻歌交じりで儲けられますが,強い達成感と高い評価は決して得られません.なにしろ,リートベルト法は1960年代に開発された古い技法なのです.先の短い私としては,より有意義で波及効果の大きい仕事に傾注したいです(もちろん画期的な新物質でも扱うなら話は別ですが,そういうおいしい話は滅多にありません).RIETAN-2000/2001Tの開発から一転して,OpenGLを駆使した3D可視化プログラム,名人芸的な超高速MEM解析プログラム,さらにはab initio構造解析プログラムの製作へと,休むことなく異分野にチャレンジし続けてきたのは,自分に残された期間内に目の覚めるようなソフトを創り上げていきたいという強い欲求があったためです.

上記の新作ソフトは,現時点で半分ほど仕上がりました.前半が主要部分なので,もう山は越え,ゴールが視野に入ったという感じです.晩夏までにはベータ版が完成するでしょう.RIETAN-2000やVENUSで培ってきた部分プロファイル緩和,Le Bail解析,3D可視化,MEM解析などの技術がここに至り,じわじわ効き目を現してきています.Le Bail解析は観測積分強度の推定に,部分プロファイル緩和は観測積分強度の確度向上に,VENDはパターソン関数や電子密度などの三次元的理解に,PRIMAは重畳反射の構造因子の改善に威力を発揮してくれます.これらの技術的バックアップを背景に,新しい未知構造解析テクノロジーが大輪の花を咲かせ,豊かな実を結ぶよう全力投球していく所存です.

5月23日
Macintosh用RIETAN-2000 Rev. 1.1をアップロードしました.このバージョンでは,NAUTO = 1のもとでの半自動Le Bail解析をついに実現しました.この目的のために,精密化するパラメーターを指定できるサイクルの最大数を50に増やしました.いくつかのパラメーターをグループ化し,少しずつ精密化していきます.解析開始時にPCを変えるための係数CHGPCを入力するようにしました.通常は,プロファイルを計算する範囲(Cut-off)をかなり狭めて解析をスタートさせます.PC < 1(ピーク強度の百分率)の場合とPC > 1(±PC×FWHM)の場合でCHGPCがかなり変わることにご注意ください.格子定数かプロファイル・パラメーターが初めて精密化されるサイクルでPCが元の値に戻ります.Cu Kα1ビームで測定したBaSO4の粉末X線回折データのLe Bail解析例(BaSO4E.*)を追加しました.また,不等間隔の強度データをGENERAL$フォーマットで記録したときの反射リストにおいて,"-"や"H"などの記号が正常に出力しないことがあるという不具合(お茶の水女子大の梶本さんにご指摘いただきました)を解決しました.

Le Bail解析を行う際には,以下の点に留意してください:
1) バックグラウンド・パラメーター,プロファイル・パラメーター,格子定数はかなり真値に近い初期値を入力する必要があります.バックグラウンドはPowderXであらかじめ決めておくという手もあります.
2) 尺度因子は10-4〜10-3程度に固定します.
3) 適切なCHGPCの値は,ほぼLe Bail解析が収束した後,試行錯誤で決めてください.
4) 各サイクルで精密化するパラメーターをどのように変えていくかは,強度データごとに工夫する必要があります.
5) 分割擬ボイト関数におけるηの二次プロファイル・パラメーター(SPP)は発散しやすいです.Marquardtパラメーターλが最大限度まで増加する恐れがあるので,全部精密化するのは無理かもしれません.
6) 共役方向法は実質的に使えません.

5月24日
休日出勤し,Windows用RIETAN-2000 Rev. 1.1をアップロードしました.詳しくは昨日の記事をお読みください.さらに,昨日アップロードしたばかりのMac OS用RIETAN-2000 Rev. 1.1を更新しました.Le Bail解析例のBaSO4E.insに一部誤りがあったのを修正しただけです.

5月25日
Mac OSおよびWindows用RIETAN-2000 Rev. 1.1を更新しました.PCの変更に関する標準出力を修正しただけです.

5月26日
実に1年4ヶ月ぶりにMac OS・Windows用RIETAN-2001T(TOF中性子回折バージョン)配布ファイルを更新しました.といっても,別に不具合を修正したり,新機能を追加したわけでなく,それぞれPro Fortran for OS 9 v7.0 SP3とVisual Fortran v6.6Bでコンパイル・リンクし直しただけです(ただし,Mac OS版はNSF = 400に増加させました).現在Mac OS 9とMac OS Xの両方で走るプログラムを作成するためのPro Fortranの最新版はv8.0です.ことソフトに関する限り極端に新しもの好きの私が古ぼけた商売道具(前バージョン: 7.0)を未だに使わざるを得ないのですから,いかに経済的に困窮しているかがわかるでしょう.

このTOF版にはMEM解析用ファイル出力,MPF,Le Bail解析などのRIETAN-2000における目玉商品が欠落しています.いわばRIETAN-2001T Liteとでも呼ぶべき機能限定版にすぎないのです.部分プロファイル緩和の機能をいち早く実装したのはTOF中性子回折用RIETANでした.事前の予想をはるかに超える成功をおさめたのですが,その後,RIETAN-2000やVENUSなどの開発に注力していた間,TOF版ユーザーからの要望,フィードバック,レスポンスがほとんどないこと,KENSの先は長くないことも手伝って,RIETAN-2000での細かい改良点を取り込んだ以外は進化していません.複数バンクのデータの同時解析を比較的簡単に実現できるように配列Aにダミースペースを設けておいたのですが,なぜか具体的な要請がまったくなく,長いこと手つかずのままです.RIETAN-2001Tの"T"は"TOF"の"T"であると同時に,"Temporary version"(暫定版)の"T"でもあるというのが現状です.この数年は主としてMEM関連の仕事に取り組んでいたので,面間隔の大きい反射が観測できない(たとえ観測できたにせよ,消衰効果が顕著で,MEM解析やab initio構造解析に向いていません)KENSの装置に対する情熱が萎えてしまったのも事実です.あまりお奨めできる代物ではありませんが,こんなみすぼらしいものでよかったらお使いください,という半ばなげやりな気分で配布しています.不幸なことに,RIETAN-2001Tやそれを用いた解析に関する文書や解説はほとんど存在しません.そこがRIETAN-2000との大きな違いです.また,大山研司氏の「中性子粉末回折装置HERMES」のような有用な情報を提供しているWebページも存在しません.こんな状況ですので,できれば外国製リートベルト解析ソフトを使ってほしいくらいです.といっても,Rubenによれば,収束性が悪く,局所的最小値から脱出しにくく,原子間距離や結合角も計算できないISISのリートベルト解析ソフトに比べればRIETAN-2001Tはずっとまし,だそうです.温厚なRubenには珍しく,散々罵倒した挙げ句,"Too simple."の一言で片づけていました.収束性が劣悪ということについてはドイツ人研究者からも聞きましたが,私はそいつを一度も使ったことがないので,コメントを差し控えておきます.幾何学的パラメーターが計算できないのはunbelievableなことでしょうが,RubenがISISの粉末回折装置担当者に問い合わせて確認したことで,事実です.

次世代パルス中性子源の稼働開始も視野に置き,RIETAN-2001Tを改良・拡張したいのは山々ですが,いかんせん軍資金が枯渇しています.今や独立行政法人に属しているからには,開発に要する資金は外部,とくに受益者に求めるのが筋です.年齢を考慮すると,私自身が受益者でないのは言うまでもありません.粉末中性子回折の関係者に研究資金の提供を強く要請していますが,現時点ではなんら見通しがついていません.新たな開発に着手するのは,研究資金獲得後とするつもりです.資金の供与がなければ,パルス中性子源を利用した国産構造解析技術の育成と振興が事実上放棄されたとみなし,現バージョンにて打ち止め,ということにします.現時点では,そうなる確率は90%と踏んでいます.今から外国製リートベルト解析ソフトに乗り換えておいた方が身のためです.

私は粉末結晶解析ソフトの開発に関して,放射光源や中性子源から不釣り合いに重い責任を個人的に負担させられていると認識しています.装置さえ順調に稼働していれば十分使命を果たしている,とみなせるでしょうか.パソコンはソフトがなければただの箱,とよく言いますが,自主開発の構造解析技術抜きで世界をリードする研究ができるほど甘くないことを肝に銘ずるべきです.

5月27日
Windows用RIETAN-2000をアップデートしました.これまで実行形式ファイルrietanがPentium以降用だったのを,RIETAN-2001Tと同様にPentium II/Pro以降用としました.未だに初代Pentium搭載マシンを使っている人はまずいないでしょう.さらに,遅ればせながらUNIX/Linux用RIETAN-2000 Rev. 1.1をリリースしました.

5月28日
産総研は量子化学グリッドの第一弾としてGaussianの利用環境を提供するポータルを開発しました.科学技術計算プログラム利用環境のデファクトスタンダードとして世界で広く利用されることを目指すのだそうです.世界で通用するほど汎用性が高く,ユーザーフレンドリーな利用環境なのかどうか,フリーソフトウェアなのか否かは存じませんが,肝心要な分子軌道法計算エンジンが高価な商用ソフトと知ったとたんに拍子抜けしてしまうと同時に怒りさえ感じるのは私だけではありますまい.要するに,Gaussianは別途ご購入ください,ということです.納税者としての立場から見ると,一営利企業であるGaussian Inc.のお先棒をかつぎ,そのビジネスを支援しているようにしか見えません.志が低すぎます.4月14日に書いたようにGaussian 03を購入するお金がない極貧フリーソフトウェア作者としては,枝葉(利用環境)などより先に幹(Gaussianキラーとなるような分子軌道計算ソフトそのもの)をつくり,フリーソフトウェアとして公開してくれる方がずっとありがたいんですが,と突っ込みを入れたくなります.いくらがんばったところでGaussianには追いつけませんよ,というなら,せめてフリーソフトウェアであるGAMESSの利用環境にしてほしかったです.

VENDで読み込ませるためのcube形式ファイル*.cubeをGaussian 98で出力するのはあっけないくらい簡単でした.われわれはGaussian 98はおろか,分子軌道法プログラムを初めて使った超初心者だったのですが,コマンド入力で容易に計算できました.夕方にマニュアルを読み始め,翌日までに数個の*.cubeを作ってしまいました(VENUS配布ファイルに入力ファイルと*.cubeが含まれています).余計な利用環境などに頼っていたら,かえって時間を浪費したことでしょう.

人は人,自分は自分.われわれは大木の幹となるようなフリーソフトウェアを育成していくだけです.5月22日に書いたab initio構造解析用ソフトでBaSO4の実験室系X線回折データ(Cu Kα1)から半自動Le Bail解析(RIETAN-2000 Rev. 1.1に使用ファイルを添付)で求めた観測積分強度を処理してみました.この化合物は斜方晶系に属します.ブラッグーブレンターノ型回折計で測定しましたから,分解能が非常に高いわけではなく,反射の重なりはかなり顕著です.しかし,重原子であるBaの位置は一発で決まりました.Sの位置もおぼろげながら見えています.残る酸素の位置は,部分構造を導入したLe Bail解析かリートベルト解析で容易に決まるでしょう.こりゃすげー,と感嘆しました.

5月29日
予言者ムハンマドは自分では神の教えを文章にせず,ムハンマドの教友たちが口伝された内容を筆記しました.これがコーランにほかなりません.ドイツ人文献学者の長年に渡る研究により,当時アラビア半島で広く話されていたアラビア語シリア方言を聞き取って古典アラビア語に書き直す過程で,相当数の聞き違いがコーランに忍び混んだという事実が判明しました.天国では処女が殉教者を待っていると期待して世界貿易センターに突撃したテロリストには気の毒ですが,「クリスタルのような白い果実」が「大きな目の処女」と誤訳されたということです.仮に昇天したところで,テロリストを待っていたのは葡萄つぶに過ぎなかったわけです.毛沢東がエドガー・スノーに語ったという「自分は(中略)破れ傘を片手に世界を行脚する孤独な修行僧にすぎない.」が「地の法にも天の法にも縛られない(わしはやりたい放題のことをやる).」の誤訳だったというのは,あまりにも有名な話です.軽率なミスが既成概念化するのは恐ろしいことです.私はずっと前から「高温超伝導体の中で層状構造をもっているのはBi系超伝導体だけである.」と主張し続けています.別に揚げ足を取るためでなく,誤った結晶化学的概念が講演・著作物・教育を通じて拡散・定着するのを防ごうとしているだけです.理化学辞典(岩波)によれば,層状構造は「原子が共有結合などによって強く結合して密に配列した面がファン・デル・ワールス力など弱い結合力によって平行に積み重なった構造」とのことです.この定義に従えば,Bi系以外の超伝導Cu酸化物は明らかに層状構造をもっていいません.雲母,粘土鉱物,黒鉛のような構造でないと,層状構造とは呼びません.こういった結晶化学の初歩知識も知らずに,超伝導の業界では有名な大先生から半人前の学生まで99%以上の人たちが超伝導Cu酸化物は層状構造をもっていると思い込んでいるのですから,開いた口がふさがりません.このような誤解が二次元性の強い物性 → 層状構造という単純な連想から発しているのは明らかです.「葡萄の実」と「処女」ほどの違いはありませんが,無機結晶化学の専門家としては強く警鐘を鳴らしたいです.なお,大きな反響を呼び起こしている新超伝導酸化物NaxCoO2・yH2Oは典型的な層状化合物です.水和Na+イオンとCoO2層の結合はきわめて弱いからです.ついでながら,金属ー炭素結合を少なくとも一つはもつ化合物を有機金属化合物と呼ぶということも覚えておくとよいでしょう.金属ー炭素結合を含まない錯体などは有機金属化合物ではありません.私は学部学生だったときの授業でこの定義を教わりましたが,これを知らない人も結構多いように見受けられます.たとえば,ゾル-ゲル法の出発原料であるアルコキシドを有機金属化合物と呼ぶのがその類の誤りです.

5月30日
霞が関ビル33階で開かれた晴れがましい場に臨んできました.16年ぶりに宇田川重和先生にお目にかかり,手を取り合って再会を喜び合いました.高温超伝導の研究は実に素晴らしかった,と言われ,タイムマシンに乗ったような気分になりました.私は宇田川先生の「組成と結晶構造を決めることは無機材料研究の出発点」という教えを心に刻み込み,この10数年,困難な道を歩んできました.誤った(YBCOの)結晶構造に立脚して超伝導の機構を考察したところで砂上に楼閣を築くだけ,と某研究者を面と向かって論駁したこともありました.格子定数すら間違っていたのですから,笑止千万です.数ヶ月後には私の意見が正しかったことが判明しましたが,某研究者が物質のキャラクタリゼーションを軽視する姿勢に変わりはなく,室温超伝導を観測したなどという,己の致命的ミスを売り物とするような論文まで発表するに至りました.後に,別な物質の組成・構造に関連し,再び面前で同じ人を歯に衣着せず批判することになりました.生産的な仕事に専念したいのに,自分の度重なる誤りを素直に認めようとしない石頭相手にこのような不毛の論戦まで繰り広げなければならなかったのだから,消耗すると同時にストレスもたまります.そういうときに力を与えてくれたのが,宇田川先生のお言葉でした.

帰宅してしばらくすると腹痛に襲われ,ぐったりしてしまいました.普段とあまりに違う堅苦しい雰囲気に接しただけで体調を壊す虚弱体質のようです.

5月31日
昨日の本Webサイトのアクセス回数は245に達し,これまでの最高記録を1つだけ上回りました.


6月1日
リバプール大学(4月24日の項参照)と岡山大学の化学者が共同でCa3+xC60の複雑な結晶構造をMPF法で精密化するのに成功しました:
J. B. Claridge, Y. Kubozono and M. J. Rosseinski, Chem. Mater., 15 (2003) 1830-1839.
REMEDYサイクルを実行することによりRBは11.21 %から4.43 %にまで低下したと書かれています.第三者がMPFの効能について再び太鼓判を押してくれたのは喜ばしい限りです.REMEDYサイクルの必要性,言い換えればMEM/リートベルト法に対するMPF法の優位性についてはClaridgeらの論文2報が客観的に証明してくれたといって過言でありません.MPF法の勝利はこれで確定しました.とはいえ,MEM/リートベルト法の深刻な問題点に目をつぶり,時計の針を逆方向に戻そうとしている頑迷固陋な人々が未だに残存しているという状況下では,RIETAN-2000およびVENUSという棍棒を手に持ち,「水に落ちた犬は打て.」という魯迅の教えを実践するつもりです.誰でも無償で入手しうる棍棒では,自分だけの武器として独占できないではないか,と思われるかもしれません.これらの人々が当方の武器(RIETAN-2000)を使って書かれた論文の共著者となるならば,実質的に犬を叩いているに等しいのです.すでに,そういう論文がすでに相当数現れていることを指摘しておきます.

6月2日
昨日あたりから突如としてユーザー名とパスワードなしにPower Macintosh G4からiDiskにつながるようになりました.PowerBook G4やiMacでは前からそうなっていましたから,サーバー側の問題が解決したのかもしれません.

6月3日
Mac OSおよびWindows用RIETAN-2000 Rev. 1.2をリリースしました.Fo(Le Bail)をMEMで解析して求めた|Fc(MEM)|2(*.ffi形式のファイルに格納)に積分強度を固定するLe Bail解析モードを追加しました.最小二乗サイクルの間,積分強度が一定に保たれるのではLe Bail解析とは言えませんが,これ以上NMODEの種類を増やしたくないので,便宜上,そう呼ぶことにしました.NMODE = 4 and NCONST = 1と設定すると,このモードに入ります.構造と無関係なパラメーターを全パターンフィッティングで精密化した後,観測ブラッグ反射強度を再分配することにより|Fo(w.p.f.)|2を求め,*.ffoに出力します.本モードは,非経験的構造解析システム製作の一環として新設しました.すなわち,未知構造解析の過程でRIETAN-2000を活用するための下準備を終えたわけです.MPFの過程における全回折パターンフィッティング(w.p.f.)との違いは,|Fc(MEM)|2の入力ファイルが*.ffi,Fo(w.p.f.)の出力ファイルが*.ffoということだけです.一方,MPFではFc(MEM)を収めた入力ファイルが*.fba,Fo(w.p.f.)を収めた出力ファイルが*.memとなります.もちろんLe Bail解析で得た*.ffoを*.ffiと改名してLe Bail解析を続行する場合にも利用できます.このほか,ひな形ファイル*.ins中のLe Bail解析に関係する誤りも修正しました.

RIETAN-2000のパワーユーザーといえども,大半の方々は上の文を理解できないでしょう.要するに,多目的パターンフィッティング・システムRIETAN-2000に5番目の用途,すなわち最大エントロピー・パターソン(MEP)法における全回折パターンフィッティングを追加した,ということです.未知構造の解析に興味のある方々以外には関係ありません.現状のRIETAN-2000で満足することなく,ambitiousなソフト開発に注力し続けているということさえわかっていただければ結構です.この全回折パターンフィッティングは,MPF法におけるリートベルト解析をLe Bail解析に,MEMをMEP法に置き換え,REMEDYサイクルを1回だけ実行することに相当します.位相がわかっていないので電子密度は求まりませんが,"観測"積分強度の確度の向上を通じて未知構造解析を成功へと導きます.新作ソフトの進捗状況をWebページでさらけ出して構わないのかと不思議がる方もおられるでしょう.一向に構わないのです.RIETAN-2000でも,VENUSでも,新機能を企業秘密として隠し立てするようなケチ臭いことはしませんでした.最重要なところはプログラムの細部にあり,コーディングに際しては超絶的技巧が必要不可欠なので,第三者が同レベルのソフトを作ろうとしても,まず無理でしょう.

なお,Fo(Le Bail)あるいはFo(Pawley)から|Fc(MEP)|2を導き出すためのプログラムはすでに試運転の段階に入っています.PRIMAのMEM解析エンジンを改造した上で実装したものの,まだ実行速度が満足できる水準に達していないので,今後改良していかなければなりません.Le Bail解析機能は主要なリートベルト解析プログラムのほとんどすべてとEXPOに組み込まれていますから,このソフトはそれらで求めたFo(Le Bail)の改善に威力を発揮することになり,大きな波及効果が期待できます.もう一つ強調しておきたいのは,われわれが優れた3D可視化システムVENUSを開発済みであり,これがパターソン法などで位相問題を解く過程で非常に役立つということです.すなわち,これまで培ってきた超高速MEM解析とOpenGLによる3Dグラフィックの先端技術が今後,われわれの強みとなるのです.上に書いた「超絶的技巧」にはもちろんこれらも含まれています.

6月4日
UNIX/Linux用RIETAN-2000 Rev. 1.2をアップロードしました.あまり使っている人がいるとも思えないので,配布を止めるかどうか思案しています.

6月5日
小さな発見.「コシ・ファン・トゥッテ」,第一のフィナーレ中にパパゲーノとパミーナの二重唱(「魔笛」,7番)の最後部によく似た甘美な旋律(女声)があるのに気づきました.このフィナーレを聴くと,色とりどりの花々が咲き乱れる花園を歩んでいるかのような気分を味わえます.

「魔笛」と書いたところで,ふと思い出したのが,このオペラはRIETAN-2000に引き続きVICSとVENDを開発するためのきっかけを与えてくれたということです.以前どこかで述べたことですが,部分プロファイル緩和のアイデアは,パトリス・シェロー監督の映画「王妃マルゴ」からインスピレーションを受けて思いつきました.RIETAN-2000のソースコードrietan3.f90中のSUBROUTINE MARGOTはその名残です.「王妃マルゴ」に主演したイザベル・アジャーニは2児の未婚の母であり,マルゴ同様,自由奔放な女性のようです.「魔笛」が3Dグラフィックソフト製作のモチベーションとなった「魔笛」の音楽的特徴について,ここで説明したいところですが,今はVENUS開発夜話を語る気力も暇もありません.慢性的に体調が悪い上,かなり疲弊しています.後日改めて,ということで勘弁してください.

6月6日
自宅に届いたばかりの「セラミックス」6月号を開くと,巻頭に田端精一元会長に対する境野輝雄先生の追悼文が掲載されていました.達意の名文です.もちろん私はお二人とまったく面識がありませんが,いたく感銘しました.同時に,自分もこういう心温まる文章が書けたらいいのになあ,と羨望の念を感じました.

6月7日
工藤貴司さんのiDiskに格納されているMac OS X用VICSがv2.1.2になりました.Mac OS XのTerminal上で使うUNIX用RIETAN-2000 Rev 1.2も新たにアップロードされました.finkのg77をインストールし,MacOS X上でビルドしたところ,Carbonアプリケーションでは1分28秒かかるCu3Fe4P6Eの計算が39.9秒で終了したとのことです.UNIX版をお使いの際には,テキストファイルの行末をLFに変換することをお忘れなく(rietan2000u.tbz中の雛形ファイルではそうなっています).このようにUNIX版はMac OS X上では圧倒的に速いので,6月4日の項に書かれたようなUNIX版の配布停止は取りやめてもらえませんか,と工藤さんから要望され,今後も配布し続けると約束しました.RIETAN-2000やVENUSの移植に貢献されている方から建設的な提案があった以上,一も二もなく対応します.

6月8日
心待ちにしていたAdobe Photoshop Camera Raw & JPEG 2000プラグインが先日,宅急便で届きました.さっそくVICSでNaxCoO2・yH2Oの結晶構造イメージをJPEG 2000形式で保存し,Mac OS用Photoshop 7.0.1で読み込めることを確認しました.なお,JPEG 2000ファイルはGraphicConverter 4.6.Xでも入力できます.これらの商用ソフトにJPEG 2000用ライブラリーを組み込むにあたってはライセンス料$10,000を支払わなければならないのですが,フリーソフトウェアであるVENUSの場合は無料です(感謝!).商用結晶構造作画ソフトをお使いの方は,JPEG 2000形式でイメージを出力できるかどうか調べてみてください.マーケットの小さい科学技術ソフト,とくにMac OS用ソフトで,高額ライセンス料のつけをユーザーに回すのは困難でしょう.上記のイメージファイルは最高分解能で保存したにもかかわらず,約1 MBしかありませんでした.可逆圧縮にもかかわらずここまで圧縮してくれるのですから,瞠目すべき技術です.JPEG 2000ファイルの入出力は次期Photoshopでは標準機能となるそうです.超定番画像編集アプリケーションソフトPhotoshopに先んじてJPEG 2000ファイルの出力を実現したのですから,VENUSの先進性は卓抜しています.

6月9日
5月26日の項でRIETAN-2001Tの進歩が止まったままになっているのを嘆きましたが,よくよく考えると,RIETAN-2000と比べ相対的に見劣りするだけのことです.一度RIETAN-2001TのWebページ(注:2003年9月30日に撤去しました)を閲覧してみてください.我が国の放射光源と中性子源のWebサイトで,これに比肩する,あるいはこれを凌駕するフリーソフトウェアを提供しているページが存在しますか?私には皆目見つかりません.ご存じでしたら,お教えください.私は共同利用施設に雇われているわけでありませんから,むしろ過剰サービスを提供しているようにさえ思えてきます.ISISのリートベルト解析ソフトと違って原子間距離と結合角が計算でき,共役方向法と部分プロファイル緩和が使え,結晶構造可視化ソフトVICSとの連携も図れるという点を考慮すれば,RIETAN-2001Tはそう捨てたものではありません.論より証拠,VegaやSiriusで測定した強度データを外国製リートベルト解析ソフトで解析した結果を報告した論文がどれだけありますか.仮にRIETAN-2001Tがそれらのソフトより劣っているとしたら,次第に廃れていくはずですが,実際はむしろ逆でしょう.

6月10日
5月26日に述べたことについて引き続き議論しましょう.先端的構造解析ソフト(計測・制御用ソフトではありません)開発にかかる経費を大型共同利用施設がまったく負担してくれず,私個人の犠牲的精神と研究費を当てにしているという現状ですが,それがいかに理不尽なことなのかをたとえ話で説明しましょう.銀行が業務上必要不可欠なオンラインシステムを構築したとします.そのシステムを稼働するのに必要な大型コンピューターや端末は購入するけれども,オンラインシステム用ソフトのお金は一切出せません,というに等しいです.開発に膨大な人件費がかかるものを無料で納入せよ,と言ったところで通用するものではありません.もっともコンピューターを納入したメーカーにたかるのならまだ許せます.ハードウェアの販売で儲けているのですから.一方,私はRIETAN-2000/2001Tでびた一文,稼いでおりません.要するに装置だけ,ソフトだけではダメで,両者は不可分なのです.莫大な血税がつぎ込まれている施設である以上,データさえ取れればよいというような,お寒い状況に陥っているのだとしたら,存在意義が問われかねません.

6月11日
5月26日にはISIS(ラザフォードーアップルトン研究所の中性子散乱研究施設)で開発されたリートベルト解析ソフトの収束性についても言及しました.元来,リートベルト解析はモデル関数に含まれるパラメーターが真の値とかけ離れていると収束しにくいのです.80年代初頭,プログラミングの経験も応用数学の知識も浅かった若き日の私は,global minimumへと安定・確実に到達するようなアルゴリズムを求めて血の滲むような努力を重ねました.「若き日」といっても,見よう見まねでプログラミングに取り組み始めたときは,すでに30を過ぎていました.結晶学もプログラミングも非線形最小二乗の技法も完全に独学で,ゼロからRIETANを創り上げるべく奮闘しました.能率が悪すぎます.無駄が多すぎます.私がいかに多大な労力と時間を費やしたかが理解できましょう.そのエネルギーと熱意が失われて久しく,今の私は生きているのがやっとの抜け殻に成り果てました.RIETANにおける非線形最小二乗法ルーチンは80年代中頃からはほとんど変化していません.精一杯の努力が徒労に終わらず実を結んだか否かは第三者の客観的な判定にまかせます.

以前,あるメジャーなリートベルト解析プログラムのソースプログラムを眺めていて,こりゃータコだわい,と驚いたのは,正規方程式から独立変数を計算するのに逆行列を使っていることでした.この方法は数値計算上の精度が悪く,避けるべきなのです.リートベルト解析プログラムの多くがこの常識に従っておらず,明らかにこれが収束性の悪さの一因となっています.リートベルト解析プログラムの心臓部に腐ったコードが埋め込まれているのでは,不整脈が生じても不思議でありません.メジャーなソフトがこういう体たらくだとそこから派生していく次世代ソフトにそのまま負の遺産が継承されますから,罪つくりです.正規方程式を立てない方法,すなわちヤコビアンの直接分解による解法(修正Gram-Schmidt法,Householder法,特異値分解法)は精度こそ高いものの,大きな記憶容量を要求します.そこでRIETANでは正規方程式の係数行列を三角行列とし,Cholesky法で解くことにしました.さらに収束安定化のためのだめ押し的措置として倍精度で計算しています.正規方程式を固有値分解法で解くという手もありますが,反復法なので計算時間が増えすぎます.逆行列は,精密化したパラメーターの推定標準偏差(e.s.d.)を求める際に一度だけ計算します.これだけでもかなり収束しやすくなるはずです.

5月26日の項に関する注釈はこれでお終いです.

6月12日
VICS v2.1.3をリリースしました.ICSDフォーマットのファイル*.icsを読み込んでRIETAN-2000の標準入力ファイル*.insを出力する際,相の名前と*.memファイル用のタイトルが間違って出力されるという不具合を修正しました.また,'data_default'というキーワードを含むCIFに対応しました.

6月13日
モバイル Pentium 4 プロセッサ 3.06 GHzが出荷され,NECからこれを組み込んだLavie C アドバンストタイプが発売になりました.凄すぎます.昨年末に購入したDynaBookはモバイル Pentium 4-M プロセッサ 2.2 GHz CPU搭載でしたから,ようやく環境が整ったとたんに早くも古ぼけてしまいました.トホホ…の心境です.

6月14日
R. M. Stallman著「フリーソフトウェアと自由な社会」(アスキー)を一部だけ読みました.ある財団から賞金を獲得するまで彼がいかにして生計を立てていたかというと,自作ソフトのカスタム拡張だったそうです.「クライアントは,私がもっとも高い優先順位を持つと考えていた機能よりも,自分が必要とする機能のために私が働くことに対して報酬を支払った」とのことです.私の場合,私生活が不如意なわけではありませんが,本掲示版に何度も書き記したように,開発予算が極端に不足しています.そこで,「寄付・業務委託について」というWebページを新設しました.効果のほどは予想つきませんが,窮状を訴え支援を求めれば,思わぬところから助力の申し出があるかもしれません.微かにそれを期待しています.

6月15日
ヨーハン・セバスティアン・バッハの死後約80年間,彼の音楽は世間から忘れ去られました.一介のオルガニストと見られていたにすぎません.未亡人のアンナ・マグダレーナは貧民収容所で寂しく人生を終えました(これについては異説あり).末娘に至っては食べるのにも事欠き,後に彼女のために義捐金が集められ,ベートーヴェンもそれに拠金しているそうです.大作曲家としてバッハの名声が確立したのは19世紀の作曲家メンデルスゾーンの尽力の賜です.

モーツァルトの遺骸は未亡人も子供も立ち会わないまま共同墓地に葬られました.バッハ同様,埋葬された場所すら不明です.A. シューリヒの「モーツァルト」(大田黒元雄訳)には,

この長い寒い冬の夜にこの世を去ったのは,ほとんど地方的な名声すら獲得していなかった貧しい小音楽家にすぎないのであった.(中略)

ヴィーンにおいて,誰一人としてこの巨匠に哀悼の意を表しようとは考えなかった.花も,墓石も,簡単な木の十字架すらも,彼のために与えられなかった.それは貧民中の貧民が受ける取り扱いに等しかった.彼の肉体は朽ちて,それから四方に飛び散った.

モーツァルトには墓がない.しかし,不死の彼は,永遠の青春をもって宇宙の随所に生きている.

と書かれています.「宇宙の随所」というほどではありませんが,2年前に私がウィーンを訪れた際には,ウィーンの中心部で派手な衣装を着たモーツァルトを何人も見かけました.毎晩,ウィーン楽友会館で開かれるモーツァルトの音楽のさわりを演奏するコンサートの切符をせっせと売りさばいているのです.

ゴッホの生前,彼の絵は一点も売れませんでした.ある知り合いに贈った絵は壁の穴をふさぐのに使われ,ほこりまみれになったという残酷な話さえあります.しかし,画商であった弟のテオは兄の才能を見抜き,ゴッホが亡くなるまで彼の芸術活動を支援し続けました.画家を志して以降のゴッホは事実上,弟に寄生して生活していたに等しいです.テオの功績は偉大です.兄と同様に精神を病み,兄を追うように昇天したことを考え合わせると,ゴッホの絵画はテオとの二人三脚の賜ではないか,とさえ思えてきます.

不遇の芸術家の伝記を読むにつけ感じるのは,彼らがこの世を去る前に高く評価し,激励し,鼓舞し,援助した同時代人こそ偉いということです.死去した後にいくら崇め奉ろうが,後の祭りです.すでに名声が確立している巨匠を賞賛するほど容易なことはありません.

彼ら三人のような天才中の天才でも,現実世界ではなんとも社会的地位が低く,無力で惨めな存在に過ぎませんでした.まして己の如き凡庸極まりない人間が世に受け入れられなくても,理の当然.もちろん死後の名声などあるわけもなし.この世は才に乏しい人間にはつらく苦しいだけの場です.生まれ変われるものならば,天賦の才を授かり,それを楽しみつつ一生を過ごしたいです.

質問: 金儲けの才は如何?

6月16日
VENDとVICSの入出力ファイル例を収めたExamples.tbzを更新しました.*.insの変更に対応したほか,ファイル名から( )を取り除き,VICSファイルの一つを修正するという些末な変更に留まっています.

6月17日
今日は明るい希望に満ちた話題を取り上げましょう.RIETAN-2000の配布ファイルに含まれているBaSO4とフッ素アパタイトの粉末X線回折データをLe Bail法で解析し,観測積分強度|Fo(Le Bail)|を推定した後,試運転中の最大エントロピー・パターソン法ソフトで解析してみました.ブラッグ角がほとんど同じ反射対に注目して解析前後の観測積分強度比を調べてみたところ,ほとんどすべての反射対で真の積分強度比に近づくという傾向を示していました.パターソン関数をVENDで可視化したところ,ピークが所定の位置にはっきり現れ,充分低いバックグラウンドが得られました.事前の予想を超えるパフォーマンスです.孤立反射やプロファイルの裾が重なり合った程度の反射に含まれている構造情報が重畳反射の分解に有効利用されたということを意味しています.歓声を上げたい気分でした.

6月18日
VENUSシステムの配布ファイルのうち,Programs.tbzとPRIMA.tbzを更新しました.いずれもPDFドキュメントの誤りを正し,少々補筆しました.

6月19日
Mac OS Xに標準添付のPreviewでJPEG 2000形式のファイル*.jp2を読み書きできることを知りました.調べてみると,JuguarはJPEG 2000対応を謳っているのですね.アップルコンピュータは最先端のテクノロジーを重視する企業だということを再認識しました.このほかにもPreviewは主要なグラフィックデータフォーマットのファイルを入出力できますから,ファイル変換ユーティリティーとして使えます.

6月20日
PRIMAの配布ファイルPRIMA.tbzを更新しました.PRIMA.exeなどをPRIMAProgramフォルダに移したほか,二つのPDFドキュメントを少しだけ修正しました.環境変数PRIMAを変更することをお忘れなく.なお6月18日にアップロードしたPRIMA.tbzは破損していたことがわかりました.それをダウンロードした方は申し訳ありませんが,もう一度ダウンロードするようお願いいたします.

6月21日
PRIMAの使用許諾を少々変えました.PRIMA.tbzあるいはそれを解凍したPRIMAフォルダはそのままの状態なら自由にコピーし,再配布してよい,としました.クレジット(プログラム名や文献を明記すること)に関するルールには変わりありません.

使用許諾に関連し,警告したいことがあります.RIETAN-2000/2001TとVENUS(VEND,VICS,PRIMA)のユーザーはそれらを利用して得た成果を口頭・紙上発表したり共同利用施設(PF,SPring-8,KENS,JAERIなど)にレポートとして提出したりする際には,license agreementを熟読し,クレジットに関する許諾条件を必ず遵守してください.今に始まったことではありませんが,明らかに許諾条件に違反している例をときどき目にします.フリーソフトウェア作家の製作意欲を削ぎ,結果としてフリーソフトウェアの普及と発展に水を差す心ない行為です.一々抗議したり注意したりしていたら切りがないので,当面耐えるしかありませんが,あまり目に余るようだったら,対抗措置をとるかもしれません(実際,そうしたこともあります).身に覚えのある人はメールでもいいですから,謝罪してください.フリーソフトウェア作家の名誉が守られず無視されるのを直視するのは寂しい限りです.

6月22日
VENDとVICSの実行形式ファイルなどを収めたPrograms.tbzを解凍しても,Programsというフォルダだけ得られなかったり,解凍そのものに失敗したり,一部のファイルが破損していたりするという奇怪な現象がこれまで数名の方から報告されているほか,自分でも経験しています.原因は不明です.いろいろ調べてはみたものの,未だに解決していません.iDiskにアップロード後に圧縮ファイルが壊れることから,Webサーバー(たとえばHDの一部ブロックの破損)に起因するトラブルと思われます.そこで,配布形態を改良するためVENUSシステムからExamplesとPRIMAフォルダを除いたものをVENUSフォルダに入れ,それをVENUS.tbzとVENUS.zip(もっともメジャーな圧縮形式であるzip形式)に圧縮しました.VENUS.tbzが解凍できないときはVENUS.zipを解凍してみてください.ただしVENUS.zipの配布はあくまで暫定的措置です.現在の配布ファイルの場合,私のWindowsマシンでは,両圧縮ファイルとも解凍可能であることを確認済みです.

6月23日
長いことLaTeXの文書ファイルをMac上でPDFファイルに変換できなくて困っていたのですが,ようやく復旧しました.その過程でMac OS 9を久しぶりに立ち上げました.Mac OS 9,Windows,LinuxのGUIに接するたびに感じるのは,Mac OS Xに比べて実に貧相で面白みがないということです.まさに月とすっぽん.一度ゴージャスな雰囲気のMac OS Xに慣れ親しむと,味気ない他のOSを長時間使う気になれません.Mac OS Xには麻薬のような習慣性があり,離れられなくなります.こうなるとアップルの思うつぼなのでしょうが,OSを使うこと自身が一種のエンターテインメントと化しているように思われます.

6月24日
6月22日に書いたVENUS.zipですが,VENUS.tbzがトラブルもなくダウンロードできるようなので,今日からVENUS.zipの配布を取りやめ,様子を見ることにします.

6月25日
マイナーなブラウザSafariを使っていると,日本語のWebページがしばしば文字化けします.日本語コードの自動判定機能が実装されていないためです.metaタグでcharsetが指定されていないページはその恐れが高いです.自分のWebサイトもその点が不十分だったことを反省し,metaタグの説明を読み,各ページのcharsetをShift_JIS(日本語)とISO-8859-1(英語)のいずれかに指定しました.

6月26日
PRIMA.tbzを更新しました.二つのPDFファイルを少々修正しました.

6月27日
Igor Pro 4.08へのアップデータが出ました.

6月28日
PRIMA.tbzをまた更新しました.PRIMA.pdfを少しだけ書き直しました.

6月29日
私は研究集会とか会議とか葬式とか結婚式とか,人が大勢集まる場が大嫌いです.私が息を引き取った後は,葬儀をスキップするよう遺言する所存です.さらに苦手なのが多くの人の前に立つことで,講演や講義は私にとって生き地獄同然です.ちょうど,地中を蠢いていたモグラが陽光を浴びて目がくらんでいるのと同じような状態に陥ります.そういう極度にシャイで人嫌いな性格なので,自主的にオリジナルの講演を行うことは滅多にありません.私が初めて入会した学会である日本化学会を例にとると, 1979年の日米合同化学会(ハワイ)で化学輸送法によるアナターゼ単結晶の育成について英語で口頭発表したのが最後でした.一方,「化学と工業」に執筆したり,化学会の依頼で講演したことは数回あります.最近も,化学会が出版する叢書の執筆に連日追われています.化学会に限らず,ほとんど学会で活動したり,口頭発表したりしていないにもかかわらず,1987年(超伝導フィーバーの年)以来,講演や執筆の依頼が途切れたことはありません.これは実に不可解かつ異常なことです.高温超伝導体の構造解析にせよ,リートベルト法にせよ,10数年にもわたって人々の関心を引き続けるほどの話題ではない以上,私がよほど別格あるいは破格の存在となっていなければ,そうはならないでしょう.しかし,自分ではそれほどの存在となっている理由が思い当たらないのです.やむを得ず懇親会などに出る羽目になると,こういう一種異様な状況をそのまま反映した光景が繰り広げられます.すなわち,ほとんど誰も私の顔を知らないのです.その癖,虚名ないしは悪名だけは轟いている模様で,「お名前はよく存じております.」という言葉をよく耳にします.先日は同僚の結婚式で花嫁の父親から藪から棒にそう言われ,周章狼狽しました.私の心中では無意識のうちに,「お前の悪名は知ってるぞ.」というように翻訳しているからです.

上述の叢書(第5版 実験化学講座)ですが,例によって遅々として執筆が進みません.粉末X線・中性子回折,MEM,未知構造解析などを網羅した1章(50ページ弱)を9月末までに書き上げる必要があるのですが,筆が異様に重く,難渋しています.人が密集している場に顔を出したところで1日か2日で終わりますが,これは延々と続く苦役にほかなりません.格子なき牢獄に幽閉されたようなものです.懈怠の心を吹き飛ばし,ピッチを上げるにはどうしたらいいのか…途方に暮れています.

6月30日
4月から製作していた最大エントロピー・パターソン(MEP)法のプログラムがほぼ完成しました.|Fo|の改善に威力を発揮することはすでに確認済みです.将来はRIETAN-2000の協力ソフトとして,その存在感をアピールすることになるでしょう.アルゴリズムや使用している数式に関する文書はすでに書き上がりました.さらに簡易マニュアルを作成し,数個の解析例をファイルにすれば,一丁上がりです.引き続き,VENDとの連携を念頭に置いたパターソン関数法のソフトを晩夏までに完成させます.重原子法による位相決定に使います.3Dグラフィックを駆使した位相問題の解決が売り物です.これら二つのプログラムはab initio構造解析用アプリケーションという性格上,フリーソフトウェアとしてWebで公開すべき性格のものではありません.一般人に「レーシングカーを運転してみませんか.」と勧めるような愚挙は差し控えるべきです.といって,手元に留め置けば,結局,死蔵するだけに終わる可能性が高いです.粉末回折データを用いた未知構造解析にチャレンジしたいという研究者に協力していただき,熟成していくのが最善の道ではないでしょうか.共同研究あるいは委託研究を通じて作り込んでいきたいと存じます.本ソフト(名前はまだありません)に興味をお持ちの方はご一報ください.

Rubenが来日したのは2年前の8月ですから,Ruben-泉の二人三脚により2年間で5本のアプリケーション(VEND,VICS,PRIMA,MEP法ソフト,パターソン関数法ソフト)を創り上げることになります.このように驚異的なハイペースで新作ソフト製作一極集中路線をひた走りに走ってきましたが,そろそろこの辺で打ち止めにするつもりです.もう十二分でしょう.


7月1日
あるWebサイトを閲覧していたら,「自宅鯖」と書かれていました.自宅の鯖?! 思わず目を凝らしましたが,「自宅サーバー」のことでした.実は私も個人的趣味として自宅鯖を構築したくてむずむずしています.先日のようにiDiskに格納した圧縮ファイルが壊れるというような目に遭うとなおさらです.しかし,フリーソフトウェアを大々的に配布しているばかりでなく毒舌も吐きまくっているため,サイバー攻撃の標的になる恐れが多分にあり,二の足を踏んでいます(先日はテロリストをお笑いの対象としたので,恐ろしい目に遭うかもしれません).歯に衣着せぬ批判は建設的破壊のための必要悪です.有用なソフトや情報を提供することにより総体的にはすこぶる有意義なWebサイトとして役立っているはずですが,毎日多くの人が訪問し,フリーソフトウェアをダウンロードしているわけですから,外部からの侵入は悲惨な結果をもたらします.本Webサイトのコンテントはサンフランシスコ近郊のApple社のiDisk上に保存されており,Apache 1.3.27 (Darwin)がWebサービスを提供しています.当面,Mac OS X Serverの鉄壁の守りに頼るしかありません.

7月2日
私が自分のWebサイトを開設したのは1996年でした.その裏話はごあいさつに記されています.かれこれ7年の歳月が流れたのですが,その間,我が国において有用なコンテンツを配信している科学技術系Webサイトがどれだけ増えたかというと,実に寂しいものです.残念ながら,ほとんどの研究者が実質的にホームレス(ホームページのない人)です.たとえ個人的にWebサイトを開設していたとしても第三者に役立つ情報を発信している人などごくわずかですし,大多数のサイトはめったに更新されず,誰も見向きもしないような業績リストが相変わらず氾濫しています.ただ学会発表し,論文を書いていれば,それで十分,という時代ではないと思うのですが…

Webサイトを開いてからまもなく,PDFファイルを配布し始めました.Acrobat Distillerが発売になったばかりの頃で,Web上でPDFファイルを公開している理工系サイトなどほとんど皆無でした.その後,とくに新技術は導入せずに,ひたすら内容の充実に努めてきました.最近,日記,BBS,アルバムなど,これまでもインターネット上に存在していたコンテンツが最新Webテクノロジーにより大きく形を変え始めていることをようやく知りました.その代表がBlog(ブログ)です.正真正銘のホームレス(家のない人)が図書館のパソコンで作っているというThe Homeless GuyやSafariの開発者Dave HyattのSurfin' SafariといったBlogが有名です.

こと情報技術に関する限り,私が新しもの好きでなくなったら,もう私でありません.この潮流に乗る機会を逸してはならじ,と先週の土曜日に早速Blog技術の習得に励みました..Macのヘビーユーザーとして,CMS(Content Management System)にはiBlogを選びました.Mac OS X専用ソフトを開発しているインドの会社があるとは思いも寄りませんでした.まだベータ版ですが,iDiskへのBlogの保存に時間がかかることを除けば,とくに支障なく使えます.まずトレーニングとして,掲示板バックナンバー中の記事をエントリーとしたSelections from the Bulletin BoardというBlogを拵えました.このBlogにはタイトルとサマリー(冒頭の文で代用)だけが順序不同で表示されており,"Read more"をクリックすると,エントリーの全文が閲覧できます.各エントリーは4つのカテゴリー(Computer,Essay,My software,Software)に分類しました.Blogの詳細についてはこれから腰を据えて学んでいかなければなりませんが,この程度のコンテンツなら短時間で作れるということを強調しておきます.

7月3日
VICS v2.1.4を含むVENUS.tbzをアップロードしました.CIF中の一部の文字列がsingle quoatation markで囲まれていなくても,VICSで読み込めるようにしました.

7月4日
Jedit4.0 Rev.4.2.2(0)がリリースされました.

7月5日
最近,職場のPower Macintosh G4がしばしば眠りから覚めなくなります.こういう事態に陥ると,いったん電源を切り,再起動するしかありません.CDも読み込めませんし,もう買い換えるべき時期が近づいてきたのでしょう.しかし,3 MHzのG5プロセッサを2つ搭載したPower Mac G5が発売になるまで待ちたいというのが本音です.なんとかそれまで持ち堪えてほしいです.

7月6日
Selections from the Bulletin BoardというWebページをBulletin Board Digestと改名しました.今年の主要記事をほぼ収録し終えました.

7月7日
三次元可視化技術に取り組んでいるせいか,二次元プロットから三次元イメージへ,白黒からカラーへというのが時代の潮流とつくづく感じます.VICSやVENDで作成したイメージはぜひカラーで印刷したくなります.カラーと白黒では見栄えと情報量に格段の差があります.最近,執筆した日本結晶学会誌J. Ceram. Soc. Jpn.の解説では,それぞれ4ページと1ページをカラーとするよう依頼しました.国内学会誌の場合,およそ5万円/ページが相場のようです.1ページぐらいならどうということはありませんが,数ページとなると,かなりの大金をつぎ込むことになります.今後,カラーにするか否か,大いに悩む機会が増えることでしょう.

7月8日
大規模なWebページを一人で維持・管理していて悩みの種となっているのがリンク切れです.最近ではICSD-CRYSTINのWebページが見当たらなくなりました.事実上,消滅したMac/PC Moleculeに続いて,VICSの入力ファイル形式から削除するかもしれません.消えてなくなったサイト,URLが変わったサイトを調べるのは膨大な手間がかかり,消耗します.賽の河原に石を積んでいるというか,庭の草むしりというか,果てしない作業が延々と続くという感じです.

7月9日
VICS v2.1.5をリリースしました.結合を指定して分子中に含まれるすべての原子を探索する際,一部の原子を見逃すことがある,というバグを修正しました.さらに二つのPDFファイルを少々手直ししました.なお,VENUSシステムの圧縮ファイル*.tbzがアップロード/ダウンロード時に破損するという深刻なトラブルを完全に解決するために,それらをiDiskでなくquasi.nims.go.jpというサーバーに置くことにしました.今後,そのような問題は起きないはずです.ダウンロードは大幅にスピードアップするにちがいありません.

7月10日
VENUSの配布ファイルのうちExamples.tbzを更新しました.いくつかのファイル名で最初の文字が小文字になっていたのを大文字にしただけです.

7月11日
Windows上でのRIETANの実行を支援するプログラムRieMenuが6月13日付でv0.43aにバージョンアップされていました.

7月12日
私にとって,2003年はCD/DVD焼きまくり元年です.昨年までファイルはMOあるいはDVD-RAMにバックアップしていました.更新されたファイルは上書きしていました.しかし,近頃はDVD-R/RWにバックアップするよう方針を変更しました.これだと,ある時点でのフォルダの内容がすべて永久保存されますから,必要なファイルを失う恐れがありません.昨年末に購入したノート型バソコン2台はいずれもDVD-Rへ書き込めます.DVD-Rは容量も大きいですし,単価も大分安くなってきており,大量データの保存に向いています.書き込みは遅いですが,2CPUのPower Macintosh G4上なら,CD/DVD-RWドライブの付録として付いてきたRoxio Toast Liteを使ってバックグラウンドで焼いていてもイライラしません.DynaBookにはDrag'n Drop CDというライティングソフトが付いてくるのですが,DVDの追記ができるようにDrag'n Drop CD+DVD3 Power Editionという上位バージョンを購入しました.出版社や学会あての原稿と図はCD-Rに焼いて送ります.安上がりですし,CD-Rならすべてのパソコンで読み込め,Toast Liteを使えばMac OXでも追記可能です.MOは自宅と研究所間のデータ移動や短期間のバックアップにだけ使っています.Power Macintosh G4内蔵のDVD-RAMドライブはいつ壊れるかわからないので,ほとんど使わなくなりました.

7月13日
日本結晶学会の評議員会に出席するために茗荷谷(丸ノ内線)から徒歩7分のプラザ・フォレストまで歩きました.東京教育大学の跡地が公園になっており,そこを横断すると近道です.教育大のキャンパスを一度だけ訪れたことがありましたが,かれこれ30年近く前のことです.公園内の体育館で試合するらしい大勢の中学生の間をすり抜けていくうちに,己の老いを実感しました.

7月14日
国家予算の半分強に過ぎない税収(ほとんどは国債でカバー),りそな銀行への公的資金投入,生命保険の予定利率引き下げの許諾などからわかるように日本経済は末期症状です.国債 = 国の借金ですから,将来の財政に重大な悪影響を与えます.たとえ景気が回復し,株価が上昇したところで,国債の暴落が待ちかまえています.いずれ大幅な増税(たとえば消費税 > 10%)は不可避でしょう.若年人口の減少には歯止めがかからず,年金も値切らざるを得なくなっています.日本がお先真っ暗な,衰退期に入りつつある国なのは明らかです.一方,今のところ科学技術予算が減額されるという事態には至っていません.しかし落日の憂き目にあっている国がいつまでも科学技術予算だけ特別扱いしていられるはずもありません.経済状態が奇跡的に回復しない限り,年金同様の運命をたどるのは必至です.問題は,そのしわ寄せがどこにいくのか,ということです.まもなく国立の大学と研究所がすべて独法化されます.大学の先生と話をしていてよく聞かれるのが,私の勤務先が独法化してどのように変わったか,ということですが,それについてはここでは触れないことにします.一般的に言えるのは,運営費交付金が次第に減っていく以上,外部(競争的)資金を十分調達できない組織は必然的に衰退していくということです.外部評価が低いと,組織を縮小させられたり,予算を減らされたり,ついにはつぶされたり,といった憂き目にあうことになります.長い年月をかけ,腰を据えて研究するというムードは薄れていくでしょう.競争的資金と相性の悪い基盤的研究活動には逆風が吹き荒れます.私が鋭意取り組んでいる科学技術ソフトウェアの開発がいい例です.その行き着く先にどんな状況が現れるのか,私には予想がつきません.

7月15日
恩師が日本学術会議会員に三期連続(!)で選出されたことを偶然知りました.実は,私の恩師はかなり大きな学会の会長としてかつて活躍され,現在は国立大学学長として独法化に向けて奮闘中,英会話はnative speaker級,身長180 cm超という偉大なお方です.師匠がこれほど大物だと,不肖の弟子は肩身が狭いです.まして私はベクトルが恩師と逆向きで,「生涯列外」を貫き通して今日に至ったのですから,なおさらです.数ヶ月前に電話でお話ししたときは,「たまには遊びに来なさい.」と言われましたが,これでますます足が遠のきそうです.

7月16日
PRIMA v2.0.6をリリースしました.*.prf中に書かれた5つのファイル名の後ろに余分のスペースが付かないようにしました.対話形式で*.memファイルの名前を入力する際には,絶対パスも付けなければならない旨,Manual.pdfに書き加えました.

7月17日
VENUS.tbzを更新しました.VICSがv2.2.0にバージョンアップされています.熱振動楕円体を描く際,確率の値が楕円体の大きさに正しく反映されないというバグを除去しました.また,水素・重水素原子は特別扱いし,ユーザーが指定した半径の球体として表現するように改めました.有機化合物の場合は,こうした方が構造を理解しやすいと判断しました.

VENUS関係の圧縮ファイルをquasi.nims.go.jpに移したら,ファイルがまったく破損しなくなりました.Linux + Apache/1.3.22の組み合わせで動いているのですが,さすがに安定です.現時点におけるAppleの.Macはmission critical systemと言えるほどのレベルに達していません.トラブルが多すぎます.しかも,トラブルをひた隠しに隠すだけで,いっさい公表しません.こんな体たらくでは,顧客がどんどん逃げ出すのではないでしょうか.

7月18日
昨日にリリースしたばかりのVICS v2.2.0ですが,早くもv2.2.1に更新という羽目に陥りました.熱振動楕円体描画機能を組み込む際に参考にしたORTEP-IIIのマニュアル中の熱振動楕円体の大きさを決定するための式(p. 80)が間違っていることが判明したためです.また丸め誤差の影響を避けるために,熱振動楕円体内に原子核が存在する確率を百分率(%)で入力することにしました.貴重なご指摘を頂いた広島大学の大木 寛氏に深く感謝します.

さらにPRIMA v2.0.7もアップロードしました.対話型入力モードにおけるファイル出力に関するバグを修正しました.またPDFファイル二つを少々手直ししました.

7月19日
物材機構では20〜30 MBを超えるファイルはダウンロードできません.プロキシサーバーが延々とウィルスチェックしているうちにタイムアウトしてしまうようです.一昨年4月に発生したこの障害は未だに未解決です.ネットワークの安全性を確保するためには仕方ないのかもしれません.しかし,私は巨大なエロ画像をダウンロードしようとしているわけではありません.業務上必要があるアーカイブファイル(たとえばWindowsとコンパイラーのサービスパック,ビデオカードのドライバーなど)を職場で入手できないのは問題です.そういうときは,仕方なしに自宅でダウンロードし,MOに記録して職場まで運んできます.信じ難い話でしょう.

こういう劣悪な環境に対処するために,最近Download Wizardというダウンロード・マネージャー(Cocoaアプリケーション)を使い始めました.タイムアウトの時間を延ばすとともに,ファイルを二つに分割してダウンロードを高速化してくれます.これで事態が改善されることを望みます.

7月20日
Macの重要な利点の一つはMacを標的にしたウィルスが極端に少ないことです.アンチウィルスソフトには.Macユーザーに提供されているVirexを使っていますが,ウィルス定義ファイルの更新頻度はWindowsの場合に比べ段違いに少ないです.ウィルス製造者にとっては,シェアが少なすぎて張り合いがないということでしょう.また私はハッカーの標的となりやすいOutlook Expressも使っていません.ともあれ,ウィルスチェック用サーバーがガードを固めている勤務先はともかく,自宅でのメール受信ではなんの防御策もとっていませんから,安全性が高いのは何よりです.

7月21日
4日前の毎日新聞夕刊に載っていた我部政明氏の論説「存在意義を社会に示せ」は強烈でした.「ジャンク・パブリケーションを書いている暇があったら,国立大学の教官は研究の成果を世に提供し,社会貢献に努めるべきだ」と,ある雑誌編集者が言い放った,とのことです.ジャンク・パブリケーションというのは,書いた本人さえ認めるほど内容に乏しく,刊行されたというだけで何かをやった存在証明の材料とされる印刷物です.共著者とレフェリー+アルファしか読まない論文や引用回数が非常に少ない論文といってもよいでしょう.別に国立大学の教官だけでなく,すべての研究者・教育者にあてはまる言葉なのだと思います.大学の教官は実質的な研究成果が貧弱でも,教育に全力投球し,我が国の将来を担う人材を育成し,世に送り出せば立派に社会貢献しているとみなせます.一方,私の勤務しているような研究オンリーの場だと,ろくな研究成果の挙がらない研究者は,結果として,ただの税金泥棒です.引用されない論文,(大して)売れない特許,絵に描いた餅を山のように積み上げ宣伝しまくったところで,実質的に社会に貢献しているとは言えません.どういう形で社会に貢献したらいいのかは各研究者が考えるべきことですが,そもそも日頃,社会貢献を心掛けている人がどれだけいるのでしょうか.たとえどんなに立派な成果を挙げたとしても,社会に還元しなければ単なる自己満足に終わってしまいます.

7月21〜24日
京都工芸繊維大学における集中講義(セラミック科学II)のため出張しました.講義の最中に,「セラミック工学ハンドブック」基礎/第4編中の式(3.15)の右辺全体を平方根にしなければならないことに気づきました(メモ代わり).

7月24日
RIETAN-2000のWebページで公開しているNotes.pdfを更新しました.MPF解析に関する記述を補充しました.また"Recent Research Developments in Physics," Vol. 3中の私たちが執筆した章の別刷りが届いたので,ページやISBNを書き入れました.気づいてみると,上記のWebページ,13節で公開・掲示している文書・文献は(a)から始まって(w)にまで達していました.よくもまあ,こんなに書きまくったものだと,我ながら感心しました.大半はレビューです.年末までに,実験化学講座1章分を書き上げ,二つの国際会議における基調講演の内容をProceedingsのために執筆しますから,間もなく(z)まで使い切ってしまいます.少人数・少予算で紆余曲折を経ながら細々と続けてきた零細プロジェクトの産物が,どうしてこれほど馬鹿受けし,拍手喝采を受けるのか,首をかしげています.コスト-パフォーマンスが高すぎます.

類を見ないほど多くのレビューの執筆は,紛れもなく第三者の評価が高いということで,うれしい限りですが,個人的には失ったものや犠牲にしたことの方が多かったような気がします.しかし,済んだことはもう取り返しがつきません.大局的には世のため人のためになった,最善の道を選んだ,と言い張っておきます.負け惜しみにすぎないのかもしれません.

リートベルト解析に必要な基礎知識というWebページで配布している文書「無機化合物の結晶構造の安定性と評価法」を京都工芸繊維大学での集中講義のために補筆したので,数年ぶりに更新しておきました.

7月25日
NewNOTEPAD Pro v2.0.5がリリースされました.

7月26日
徳島新聞によれば,阿波踊り有名連に所属する踊り子である徳島県北島町鯛浜,泉 富士夫さんがでカメラ・複写機の大手メーカーを退社して,浴衣や鳴り物など阿波踊り用品の企画製造販売会社を設立したそうです.大勢の人の前で踊りまくるのが何より好きで,しかも脱サラする勇気があるというところが,つくばの泉 富士夫さんと違いすぎます.

7月27日
京都工芸繊維大学における講義のアフターサービス:

7月22日夜に開かれた懇親会兼Q&Aの場で博士課程の学生から受けた質問のうち,私の話が別な方向に逸れていき,結局答えずじまいになってしまったものがありました.材料科学や地球科学の研究において一般的に役立つ小知識なので,ここに記しておきます.異種金属をドープしたとき,その金属がどのサイトを占有するのかを知る方法です.言い換えれば,複数サイトへの元素の分配を調べる際に使えるノウハウです.

原子散乱因子(中性子回折では干渉性散乱径)がかなり違う金属を数%以上置換する場合は,占有率を精密化することによって比較的容易に金属の分配が決定できます.一方,原子散乱因子が互いに近く,しかも置換量が比較的少ないときは,占有率の精密化では決定的な証拠が得るのが困難となります.占有率は原子変位(熱振動)パラメーターとの相関が強く,いろいろな誤差の「はきだめ」と化しやすいからです.しかも,非常に2θが低い領域の反射を含むX線回折データを解析する際には,金属の酸化状態(たとえばFe,Fe2+,Fe3+,Fe4+)としてどれを選ぶかで,占有率の値が変わってきます.外核電子は低角反射に主として寄与するからです.とくに原子番号が比較的小さい金属で,この効果は増大します.そこで,格子定数や原子座標は占有率よりはるかに高確度・高精度で精密化しうるという事実に基づき,当該金属と結合している陰イオンとの結合距離(格子定数と原子座標から計算)に着目します.固溶体の場合,端成分も含め,ドープ量の異なる試料を数個,用意します.これらの試料のリートベルト解析結果から結合距離を計算し,各金属サイトについて結合距離の固溶量依存性を調べます.ドープした金属イオンのイオン半径が置換される金属イオンのイオン半径とかなり異なる場合は,こうして置換サイトを突き止めることができる可能性があります.

7月28日
永井荷風の代表作「墨東綺譚(ぼくとうきたん)」(墨:隅田川を表す造語で,実際はサンズイに墨)の生原稿が7月20日に開かれた「明治古典会古書大入札会」に入札最低価格三千万円で出品されましたが,入札者はいなかったとのことです.どうしてでしょうか.貧乏人の私でも,これより二桁下の価格だったら自ら入札したいくらいです.昭和文学屈指の大傑作だと思います.

「墨東綺譚」の終わり近くには,「紅楼夢」中の古詩「秋窓風雨夕」が掲げられています(和文に変換しました):

秋花は惨淡として,秋草は黄なり.
耿耿(こうこう)たる秋燈,秋夜は長し.
已(すで)に賞す,秋窓に秋の尽きざるを.
那(いかん)ぞ堪(たえ)んや,風雨の凄涼を助くるを.
秋を助くるの風雨は,来ること何ぞ速(すみやか)なるや.
驚破す,秋窓秋夢の緑なるを.

秋の嵐になぎ倒され,地べたに横たわっている草花に自身を喩えているのですから,私は老境を表現した詩だと長く思い込んでいました.ところが,これは黛玉という15才の少女が我が身の覚束無さをはかなみ,そう遠くない死を予感し,辞世代わりに詠んだ一編なのだそうです.予感は的中しました.結局,黛玉は宝玉と宝釵の婚礼の時刻に「涙を流し尽くして」息を引き取ります.

上の詩は全体の約三分の一に過ぎません.「紅楼夢」ではこれに続いて,うら若い女が悶々と悩む様が綴られているのですが,荷風は前後と調和を保つため,すべて割愛してしまいました.こういうことを知った上で,「墨東綺譚」の末段を読むと,老いも若きも,死に向かう存在にすぎないという無常観が漂ってきます.死が訪れるのが間近に迫ってきているか,遠い先であるかが違うだけです.

「墨東綺譚」の付録ともいうべき「作後贅言」は次の一節で終わっています:

花の散るが如く,葉の落るが如く,わたくしには親しかった彼(か)の人々は一人一人相ついで逝ってしまった.わたくしも亦(また)彼の人々と同じように,その後を追うべき時の既に甚しくおそくないことを知っている.晴れわたった今日の天気に,わたくしはかの人々の墓を掃(はら)いに行こう.落葉はわたくしの庭と同じように,かの人々の墓をも埋めつくしているのであろう.

7月29日
VENUSプロジェクトで作成したVEND,VICS,PRIMAはゼロからコードを書き上げたので,ソースコードが実にすっきりしています.PRIMAが驚異的に高速なのも,Fortran 90で新たに書き起こしたためです.RIETAN-2000/2001Tのように増築・改築を無数に重ねて肥大化した温泉旅館のなれの果て的ソフトにはいずれ見切りをつけ,Fortran 90の機能をフルに活用した新作ソフトを白紙の状態から作成するべきなのは明らかです.とくに数年後に稼働し始めるパルス中性子源J-PARCで使用するソフトは,遠い先のことも考え,絶対そうすべきです.古いしっぽを引きずっているFortran 77ベースのソフトでは,性能や拡張性の点で壁に突き当たってしまいます.GSASやFullProfとて,同じことでしょう.

人ごとみたいに表現したのは,"That is none of my business."という気持ちが強いためです.もはや私には温泉旅館を建て増しすることくらいの余力しか残っていません.

7月30日
私の机の上には5年前に買ったWindows NT機(IBM 300PL)が未だに鎮座しています.起動ディスクであるCドライブにほとんど余地がないものの,実に頑丈で当分壊れそうもありません.こんな時代遅れのマシンはもう買い換えるべきなのですが,私はパソコンに関しては非常に物持ちがよく,めったに更新しません.一つには,ソフトをインストールし,環境を整えるのが面倒だからです.またWindowsは98,Me,NT,2000,XPごとにかなり設定や操作が異なることも二の足を踏む原因となっています.同じ机に乗っているPower Macintosh G4も3年間,酷使し続けたせいで,老朽化しています.前にも書いたことですが,CDが読み込めません.といって,何万円も払って修理する気もありません.困るのはCD-ROMから立ち上げられないことで,ファイルシステムが壊れたときはパニックに陥るでしょう.

7月31日
約10年前に買った腕時計の秒針が2秒ごとに進むようになってしまいました.電池を交換すると,かなり高くつきます.それよりは最近流行りの電波時計が欲しくなってきました.はて,どうしたものか.


8月1日
最近,実験化学講座,第5版,全30巻のダイレクトメールが2通,丸善から送られてきました.それぞれ執筆者特価と日本化学会会員特別割引の案内です.ほとんど進捗していない原稿を抱えている身として,かなりのプレシャーを受けました.

8月2日
粉末回折法では反射同士の重なりにより構造に関する情報がかなり失われるのは事実ですが,低角領域ではほとんどの反射が孤立しています.プロファイルの一部が重なり合っているだけで,分解可能な重畳反射も存在します.部分プロファイル緩和は粉末回折データのこの特徴を巧妙に利用して,全回折パターンのフィットを大幅に改善します.粉末回折では二次消衰効果を無視しうることと相まって,これらの(半)孤立反射からは構造情報を100%近く引き出せます.Pawley法やLe Bail法は孤立反射に含まれている構造情報を重畳反射の分解にまったく利用しません.よく言えば単純,悪く言えば原始的なバターン分解法です.MPF法では,(半)孤立反射に含まれている構造情報をMEM解析を通じてフルに活用し,重畳反射の構造因子を改善してFc(MEM)を得た上で全回折パターンフィッティングを行います.その結果,反射重畳部分における観測ブラッグ反射強度の再分配がより適切となり,ひいてはFo(w.p.f.)の確度が向上します.REMEDYサイクルが進むにつれて真の密度分布に近づいていくのはこのためです.現在ポリッシュアップ中の最大エントロピー・パターソン(MEP)法プログラムも同様のアイデアに基づいています.Pawley法あるいはLe Bail法で推定した|Fo(Le Bail)|をMEPで解析することにより重畳反射の構造因子を改善し,|Fc(MEP)|を得た後,全回折パターンフィッティングにより観測ブラッグ反射強度を再分配してFo(w.p.f.)を求めます.引き続き,Patterson法か直接法で位相問題を解決するのは単結晶解析の場合と同様です.MEP法により重畳反射の構造因子の確度が向上した分だけ,解に近づくことになります.今後,Patterson法による初期構造導出のソフトも作るつもりですが,直接法については,すでにフリーソフトウェアのSIRPOW(EXPOの一部)があるので,自ら作成しなくてもよいのではないか,と考えています.

8月3日
還暦が迫りつつある国立研の研究者ほどわびしい存在はありません.教育者でないのですから,弟子はろくにいません,よほど著名人でない限り人脈,知名度,影響力はたかが知れています.定年が近付くにつれますます影が薄くなっていき,やがてレイムダック状態に陥り,退職するや否や完全に忘れ去られてしまいます.2,3年前,ある知人にそうぼやいたら,「泉さんにはそれは当てはまりませんよ.」という答えが返ってきました.当時,その意味が私にはよく理解できませんでした.

最近,iBlogというソフトをBlog構築のために使い始めましたが,そのWebページの"About Us"に,"We think we communicate with you every time you run one of our programs. (中略) We honor our responsibility of conveying our ideas, paradigms and functionality to end users using this medium and ultimately adding value to their lives. "と記されていました.この言葉はけだし至言です.RIETANやVENUSがユーザーに貢献している限り,私とユーザーとのコミュニケーションは途絶えないのです!RIETANの優れた収束性,VICSとVENDの鮮烈な3Dグラフィック,PRIMAによる度肝を抜かれるほど高速なMEM解析,RIETAN-2000とPRIMAとの連携によるMPF解析は世界に冠たる先端技術です.完成に近づきつつある最大エントロピー・パターソン法プログラムではLe Bail法で求めた観測積分強度の解析を世界に先駆けて実現しました.今後もこれらのプログラムに磨きをかけ,できるだけ長く愛用してもらおう,とあらためて心に誓いました.

8月4日
Windows用RIETAN-2001T配布ファイルrietan2001tw.tbzを更新しました.不安定なiDiskは敬遠し,VENUSパッケージと同様にquasi.nims.go.jpにアップロードしました.プログラムを数カ所修正するとともに,Pentium III以降のマシン用に最適化してコンパイル・リンクしたメンテナンス・リリースです.PentiumやPentium ProなどをCPUとする古いマシンでは動かないかもしれません.その場合は,ご自分で再コンパイル・リンクするようお願いいたします.

5月26日にも書いたことですが,RIETAN-2001Tは2001年初頭にリリースされるやいなやメンテナンス・モード入りし,新機能の追加は停止しています.今のところバージョンアップする予定はありません.さらに,正式版をこの春リリースしたばかりのVENUSでさえWindows版しか配布していないこと,Absoft Pro Fortranの最適化水準の致命的な低さ,Mac OSのシェアの漸減も考慮し,今後はWindows版だけを公開することにしました.Windows版への集約は現実的な措置であり,私の手間がかなり減ります.Macユーザーのご期待に添えなくて申し訳ありませんが,慢性的なマンパワー・予算不足に苦しんでおり,しかも3D可視化と未知構造解析のテクノロジーの開発に焦点を絞っている私が提供しうる無償サービスには限界があることをご理解ください.

世間ではリストラの嵐が吹き荒れています.私の仕事もリストラが急務です.今回の措置は,Mac OSへの自作ソフトの移植をリストラの標的としたということです.雇用者や組織のリストラと違って気楽なものです.これからも,急ピッチで仕事を整理していきます.ユーザー数の多いRIETAN-2000については,今のところMac OS版の配布を続けますが,これとても予告なしに切り捨てる可能性があることを覚悟しておいてください(いつまでもあると思うな,親と金とMac版).

8月5日
VENUS配布ファイルVENUS.tbzを更新しました.VENUS.pdf中の誤りを1点修正しただけです.

RIETAN-2000配布ファイル三つも安定なサーバー(quasi.nims.go.jp)に引っ越ししました.

8月6日
VEND v2.2.0を含むVENUS.tbzをリリースしました.Readme.pdfとVENUS.pdfも更新しました.バージョン番号からわかるように,今回はかなり根本的な改良をVENDに施しました.Gaussian 98とSCAT(DV-Xα法プログラム)で計算した波動関数(分子軌道)を3D可視化する際,互いに接近した正・負等値表面の間に幻の等値表面がしばしば現れます.ニッチ空間に出没するこのような幽霊を追い払いました.さらに,Gaussian cube形式のファイルに記録された3D数値データはなんら変換せず,そのまま表示するようにしました.Gaussian 98は種々の物理量をCube形式ファイルに出力する機能をもっており,(原理的には)これでどんな物理量でも3D可視化できるはずです.なお,今回のバグ退治の過程では,Winmostarの作者である千田範夫氏に大変お世話になりました.

Noel嬢からNoel Cafeの移転通知が届きました.圧縮ファイル破損の障害で.Macのホームページサービスの信頼性には不信感を抱いたので,私もiDiskから国内のレンタルサーバーへ引っ越ししたくて仕方ありません.しかし,いろいろなところにhttp://homepage.mac.com/fujioizumi/index.htmlというURLを書いたので,いまさら移りにくいです.それにFinder上でhtmlファイルをエディターで直接開けるのは実に便利で,止められません.どうしたらいいのか…

8月7日
VICS v2.2.2とVEND v2.2.1を含むVENUS.tbzをリリースしました.VENUS.pdfも少々書き足しました.VICSでは,RIETANの入力ファイル*.insを入力する際,同一ラベルに属する格子・構造パラメーターが複数行にわたっていると,構造パラメーターがうまく読み込まれないことがある,というバグを取り除きました.Queensland大学のYさんの貴重なご指摘を感謝します.VENDでは,wien2venus.pyで出力した3D電子密度データをそのまま描画するようにしました.これに伴い,等密度レベルの単位はÅ-3から(a.u.)-3に変わりました.結局,Gaussian 98,SCAT,WIEN2k関連の3Dデータファイルを読み込む際には,ファイルに記録された数値データがそのまま作画されることになります.Gaussian 98で出力した種々の物理量の単位については,Gaussian, Inc.にお問い合わせください(原子単位を使っているはずです).分子軌道法やバンド構造計算のプログラムで得た計算結果を表示する部分が,これでようやく実用レベルに達したと思われます.なお,X線回折データからMEMで計算した電子密度の単位はもちろんÅ-3です.(a.u.)-3ではないことに注意してください.

8月8日
朝,Mail(Mac OS Xのメーラー)を立ち上げるとすぐ,

あなたの「したい」がきっと見つかります

というタイトルが目に飛び込んできました.廃人同然とはいえ,まだ生きてるぞ --- と一瞬反発したのですが,Apple Storeからのメールにすぎませんでした.「死体」でなく「〜したい」という意味でした.

4日連続でVENUS.tbzを更新する羽目に陥りました.VENUS.pdf中の電子密度の単位に関する誤りを修正しただけです.

NextFTPがv3.72に更新されました.私にとって秀丸エディタおよび+Lhacaと並び,もっとも頻繁に使うWindowsユーティリティです.

8月9日
やはりDownload Wizardの威力は大したもので,Microsoft Office v. X 10.1.4 Update(28 MB)をなんの障害もなくダウンロードしてくれました.これはシェアウェアですが,Windows用にはIrvineという無料の優れたダウンロードマネージャーがあります.Windowsの方が圧倒的に安上がり,という現状は,こういうところにも顕れています.

8月10日
独立行政法人は運営費交付金にだけ依存するのでなく,自らお金を稼ぐことを期待されていますが,年間200万円以上の特許実施料を稼げる特許はごく少数です.特許を取得するまでに投じた研究開発費と人件費は強引に無視し,全特許の取得や維持にかかる経費や手間だけ考慮したとして,どの程度,利益が出るのでしょうか?

独立行政法人がソフトウェアを販売して儲けるのは,一層困難だと思います.一大ブランドとなった著名ソフトでないとまず無理でしょう.複数の人から聞いた話では,講習会は50人以上,書籍は1000部以上がおおよその損益分岐点だそうです.こういう数字を眺めると,独立行政法人で開発されたソフトを有料化することにより開発者がユーザーサポートに追われるのは愚の骨頂で,法人自身がそれらのソフトの講習会を開いたり,書籍を販売したりする方がはるかに収入が多く,サポートの手間がかからないため後腐れがない,と思えてきます.講師謝礼や執筆料を支払わず(給料を払っているのですから),書籍はCD-Rに焼いて済ましてしまえば,損益分岐点は上記の数字よりはるかに低くなります.こういうビジネスモデルはいかがでしょうか.といっても,数多くの人を引きつけるフリーソフトウェアは売れ行きの良い特許より,さらに稀でしょうが…

8月11日
先日,とある若い女性に「今日は私の誕生日なんです.」と言われてドギマギしたばかりですが,いい年こいたオヂが同じ台詞をつぶやいたところで気色が悪いだけでしょう.しかしながら,本日は私の誕生日に相違ありません.

8月12日
VENUS.tbzを更新しました.VENUS.pdfを少しだけ修正しました.

昨年あたりから,この掲示板への書き込みが途切れないよう奮闘してきましたが,深刻なネタ切れ状態に陥りつつあります.7月26日,8月8日,8月11日付けのナンセンス極まりないおバカ記事が明白な症状を露呈しています.同じような内容の文がくどくど繰り返されたり,他人の配付しているソフトのバージョンアップを知らせるのもネタ切れ症候群の顕れです.いや,ネタがないというよりは,ここに公開しうる話題に枯渇しているという方が当たっています.そろそろ週1回くらいのペースに落とすべきではないでしょうか(これと同じような文言も以前書いたような気がします).

(午後6時)文字通り朝令暮改で,恥ずかしい限りですが,VICS v2.2.3を含むVENUS.tbzをアップロードしました.単斜晶系の化合物において主軸を変えたときに,格子定数βとγの表示がおかしくなる,というバグを取り去りました.

8月13日
科学技術振興事業団創造科学技術推進事業(ERATO)細野透明電子活性プロジェクトは,室温・空気中で安定なエレクトライド[Ca24Al28O64]4+(4e-)の合成に世界で初めて成功しました:
S. Matsuishi et al., Science, 301 (2003) 626.
エレクトライドとは,陰イオンの占めるべき位置を電子が占める物質です.なんと300 ℃程度まで安定で,素手で扱っても変質するようなことはないそうです.この画期的な研究において,RIETAN-2000が有効に使われたのは喜ばしい限りです.

8月14日
本掲示板(日記)をお読みになっている方は,私が幾度となく依頼原稿の執筆に難渋し疲弊している様をご存じでしょう.最近ようやく筆が進まない主要な原因がわかってきました.Microsoft Wordで書いたファイルを提出するよう強要されることが多いからなんですね.タコで鈍重で,しかも不安定なソフトをいやいやながら使っていると,鬱状態になってきて,能率が落ち,やる気が削がれるのです.数日前にXIXth Conference on Applied CrystallographyのProceedingsの原稿を作成しました.幸い,出版元からLaTeXのスタイルファイルがダウンロードできたので,Texturesで執筆しました.他の仕事も処理しながらでしたが,6ページのCamera-ready原稿を半日で仕上げてしまいました.LaTeXなら迅速に片付くのです.バグは皆無ですしね.今回のようにスタイルファイルが用意されているなら,なおさらです.

3年前に日本化学会春季年会で「インターネットによる化学情報の交換と提供」というタイトルで講演したとき,Bull. Chem. Soc. Jpn.もChem. Lett.もLaTeXで原稿を書くことを想定しておらず,スタイルファイルも提供していないことに苦言を呈したことがあります.結局,なんのレスポンスもありませんでした.化学会に限らず,悪名高い一私企業が販売しているソフトを使うのを前提とするような投稿形式を学会が強制するべきでありません.学会発行の学術雑誌はLaTeXスタイルファイルくらい必ず配布してほしいです.

それにしても,Texturesの新版はいつリリースされるのでしょうか.JTeXeditのCarbonアプリケーションはこの春に完成しましたが,肝心のMac OS X用Texturesがなかなか出荷されません.ベンダーのWebページを眺めても,リリース遅延の言い訳が長々と書かれているだけです.

8月15日
AltIME v3.15がリリースされました.

8月16日
「世界・ふしぎ発見!」というクイズ番組のテーマが槍ヶ岳登山やウェストンだったので,槍ヶ岳に登ったことがあるものの,詳細はすっかり忘れてしまった私としては一も二もなくチャンネルを回しました.男性タレントを槍ヶ岳に案内する老ガイドは地下足袋を履いていました.これが登山に最適なのだとのことです.実は私も一度だけ,地下足袋を履いて登山したことがあります.頸城三山(焼山,火打山,妙高山)を縦走したときのことです.満員の夜行列車で登山靴を脱いで寝たのですが,駅に到着する直前にその靴がなくなっているのに気付きました.靴下のままあわてて下車し,駅前の雑貨屋で地下足袋を買いました.焼山では洞穴に泊まりました.下界(糸魚川あたり)で花火があがっているの小さく見えました.妙高山の頂上で図書館短大(後の図書館情報大)のワンダーフォーゲル部の女の子が多数いて,地下足袋姿を見られるのは恥ずかしかったですね.結局,2泊3日の山登りをこの格好で無事切り抜けることができました.私が21才のころの昔話です.

8月17日
文字化けや表示不良に悩まされているSafariユーザーに朗報があります.サファリスイッチというフリーソフトウェアを立ち上げておけば,F11を押すだけで,Internet Explorerが同じページを表示してくれます.双方向に切り替えが可能です.少なくとも日本語Webページの閲覧については,Safariはまだまだ修行が足りません.それに不安定で,よく落ちます.正式版v1.0のリリースは明らかに早すぎたと思います.

8月18日
VICS v2.2.4とVEND v2.2.2を含むVENUS.tbzをアップロードしました.

VICSでは,異方性原子変位パラメーターβijとUijをCIFやICSDのファイルから読み込んだ場合,Edit dialog boxにおいて等価等方性原子変位パラメーターBeqあるいはUeqを書き変え不可状態で表示するよう改めました.邪道ですが,異方性原子変位パラメーターの等方性原子変位パラメーターへのコンバーターとしても使えます.さらに,Edit dialog boxにおいて'U'と'beta'をチェックボックスで切り替えても,異方性原子変位パラメーターの値が変わらない,というバグを取り去りました.

VICSとVENDを連携を通じて結晶構造とSCATで計算した物理量の等値表面を重ね合わせたいときは,f01とc04d(contrdの入力ファイル)を同一フォルダに置いた後,VICSを走らせる必要があります.Boundary boxの大きさ(x,y,z方向に沿った直方体の長さであり,VICSやVENDでは仮想的格子定数とみなされる)はf01には記録されていないため,c04dから読み込まざるを得ないためです.c04dが同一フォルダに存在しない場合は,VICSが仮想的格子定数を適当な値に設定しますが,VENDはそれらを*.scatから読み込むため,VICSとVENDで描いたイメージを一致した大きさで重ね合わせられなくなってしまいます.そこで,両イメージの大きさが異なる場合は,"Dimensions of cuboids in *.vcs and *.scat files do not agree with each other."というエラーメッセージをVENDが出力し,注意を促すように改善しました.

上記の改訂に対応し,VENUS.pdfとReadme_contrd.txtも書き改めました.

8月19日
PRIMAがうまく動かないという問い合わせがときどきありますが,適切なピクセル数に設定していないことが多いです.ピクセル数が少なすぎたり,a,b,cの違いを考慮していなかったり,というケースがほとんどです.十分注意してください.PRIMA使用時のa,b,c軸に沿った分割数については,PRIMA.pdfのSect. 9をご参照ください.単位胞中の総電子数も慎重に計算する必要があります.なお,SCIOの値を試行錯誤的に変えて観測積分強度の標準偏差を調節してみるのもいいかもしれません.

8月20日
VICS v2.2.5を含むVENUS.tbzをアップロードしました.このバージョンでは,VICSとVENDを連携を通じて結晶構造とSCATで計算した物理量の等値表面を重ね合わせる場合に発生するエラーを未然に防ぐための措置を取りました.8月18日にも書いた通り,3Dデータを記録する領域(boundary box)はcontrd用入力ファイルc04d中で指定します.もちろんこのboxは3Dデータを出力する範囲に相当し,単位胞ではありません.VICSは便宜上,これらをÅ単位の格子定数に変換し,それらの格子定数をもつ結晶(直交座標をもつ斜方,正方,立方晶系のいずれか)として扱います.しかし,boundary box中にクラスターを構成するすべての原子が含まれていないと,重大な障害が発生します.VICSは基本的にすべての系を周期的な結晶として扱いますから,単位胞の外側に位置する原子が存在すると,並進操作により等価な原子を単位胞内に発生させます.SCATで扱うクラスターには周期性がないのに,周期性があるとみなしてしまうのです.その結果,余分な原子が発生し,画面上でダブって表示されたりします.そこで,boundary boxの範囲外に位置する原子が存在する場合は,"Part of atoms outside the boundary box specified in file c04d."というエラーメッセージを出力するようにしました.このfail-safeの追加に伴い,VENUS.pdfとReadme_contrd.txtも書き改めました.

上記のように,VICSはc04dから読み込んだboundary boxを単位胞と見なします.このような仮想的単位胞は物理的な意味をもたないので,3Dイメージをファイルに出力する際にはカットするべきでしょう.

8月21日
広島大学の坪田雅己さんがRIETAN-2000 for Windows用のExcelマクロSeqRun.xlsを公開しました.RIETAN-2000対応のサードバーティー製ユーティリティーはこれで計11本になりました.

8月22日
VICS v2.2.6とcontrdの改訂版を含むVENUS.tbzをアップロードしました.VICSではSCAT用ファイルf01とc04dを読み込んで結晶構造を可視化する際の原点の設定に関するバグを除去しました.対称性の低いクラスターを扱う際,結晶模型と等値表面を適切に重ね合わせることができるようになりました.contrdでは,数値計算上の誤差により電子密度がわずかに負となるピクセルが生じた場合の対策を施しました.contrdは大阪大学大学院マテリアル科学専攻,水野正隆氏に修正していただきました.私の要請に迅速に対応していただいたことを深く感謝します.

8月23日
最近,ブラスターというウィルスが繁殖し,大騒ぎになりましたが,ウィルスが発信したと思われるジャンクメールやウィルス入りのメールが私のMacにも続々と届いています.職場ではプロキシサーバーがガードを固めていますし,職場でも自宅でもMac OS X + Mailというマイナーな組み合わせでメールをやりとりしているので,メールからウィルスに感染する恐れはまずないでしょう.常用ブラウザはSafariで,これも比較的安全なはずです.ハッカーが標的にしてくれるほどのシェアを獲得していません.しかし油断していると,いずれひどい目に遭うかもしれません.

インターネットに常時接続しているWindowsのユーザー,とりわけInternet ExplorerとOutlook Expressのユーザーはイラクに駐在している外国人のようなものです.ハッカーの標的として,いつ危害を加えられるかわかりません.安全対策上,ひっきりなしにWindowsとアンチウィルスソフトの最新定義ファイルをアップデートし続ける必要があります.自分だけでなく他人にも害悪を及ぼすことになるのですから,さぼってはなりません.一台一台のPCに対しこのような手間をかけていたら,組織全体として膨大な作業量となります.PC使用の本来の目的以外に多大な時間と手間をかけざるを得ない現状について,Microsoftはどのように考えているのでしょうか.

一つの対策として,Internet関係の2大ソフトであるブラウザとメーラーくらいはMicrosoft以外の製品を使うことを強くおすすめします.それだけで,危険度が大幅に減少します.またOutlook Expressのユーザーは,せめて掟破りのHTMLメールだけは送らないようにしてほしいです.

8月24日
R. M. Stallmanの「フリーソフトウェアと自由な社会」を拾い読みしましたが,彼の主張は極論にすぎないと,つくづく感じました.ついて行けません.彼はソースプログラムの公開と研究・改変・再配布の自由を何よりも重視しています.そして,フリーソフトウェアという言葉における"フリー"は"無料”という意味ではないとし,フリーソフトウェアの頒布は開発資金を調達するチャンスであり,再配布にあたっては,かなり高額の料金を徴収した方がよいとさえ述べています.科学技術系フリーソフトウェアを長年にわたり配付してきた私の経験によれば,ほとんどのユーザーが望んでいるのは,ソースプログラムを入手し,研究・改変・再配布することでなく,単に実行形式プログラムを"タダ"で入手し,自分の仕事や研究に手っ取り早く役立てるということです.ソースプログラムを読み切り,自ら改良しバグを除去する,という意欲と力量を兼ね備えたユーザーは,残念ながらほんの一握りです.ソースプログラムなど無用の長物,プログラムの改良など夢のまた夢,自ら汗をかく気などさらさらなく,不具合は作者に直してもらうしかない,というエンドユーザーが圧倒的に多いのです.通常,大規模な科学技術計算ソフトは第三者が理解し,改変するには複雑すぎるという事情も背後にあります.また,WindowsやMac OSの場合,高価なコンパイラを購入しないと,ソースプログラムをコンパイル・リンクできず,しかもコンパイラに習熟するには,かなりの手間と時間がかかります.他人の書いた長大なソフトを隈なく理解でき,しかもLinuxやFreeBSD上でGCCを自在に操れる優秀なプログラマーは稀な存在です.Stallmanはこういう冷厳な現実を直視すべきでないでしょうか.

8月25日
SCAT(DV-Xα法プログラム)に関連したVENUSのバージョンアップが相次いでいます.いくつかの障害を逐一報告してくれたSCAT・VENUSユーザー(A子さん)のおかげです.今日は,VEND v2.2.3を含むVENUS.tbzをアップロードしました.負の物理量(たとえば静電ポテンシャル,波動関数)だけからなる3Dデータファイルを視覚化する際の不具合を修正しました.VENUSがA子さんの研究に貢献するよう心から祈っています.

8月26日
ウィルスに汚染されたメールが38通も届いていました.

LINKSで,著作権の消滅した小説などを収録した青空文庫にリンクを張りました.現在では入手困難な嘉村礒多渡辺 温の小説も入手できます.かねてからぜひ読みたいと願っている久坂葉子の作品は現在,準備中でした.久坂葉子は昭和27年の大晦日に阪神六甲駅(数年前,神戸大学で集中講義した際に,この駅近くの宿舎に泊まりました)で自ら命を絶った伝説的な作家です.享年21才.今では,ほとんど忘れ去られています.

週末に青空文庫で,若き日に読んだ小説を次々に流し読みしてみました.国木田独歩の「牛肉と馬鈴薯」の末段に「唯だ言うだけのこと」という印象的な言葉が書かれていました.これを伏線とした最後の文「近藤は岡本の顔に言う可からざる苦痛の色を見て取った。」は名文というしかありません.同じような言葉が太宰治の「女生徒」に確かあったはずなので,そのページに飛び,"ただ"という言葉を検索すると,「けれどもここに書かれてある言葉全部が、なんだか、楽観的な、この人たちの普段の気持とは離れて、ただ書いてみたというような感じがする。」という文がただちに見つかりました(我ながら,すごい記憶力だ!).独歩の文と一脈相通じるところがあるような気がします.書籍ではこのような検索は不可能です.

「女生徒」は有明 淑(ありあけ・しづ.大正8年〜昭和56年)という女性の日記(青森県近代文学館から2000年に刊行)を素材としており,前半の一部を太宰がリライトしたものですが,書き出しと最後の部分は日記に書かれていないそうです.最後の部分に含まれている「幸福は一夜おくれて来る。」と「私は、王子さまのいないシンデレラ姫。」という印象的な文は太宰のオリジナルでしょう.永井荷風作「墨東奇譚」(前にも書きましたが,"墨"にはニンベンを付ける必要があります.本当に困りものの嘘字です.)の読後感も,19才の女性が書いたものとは思えませんが,どうなのでしょうか.なお,有明日記の一部はここで公開されています. 両者を読み比べると,太宰が有明日記という荒削りな素材を「蒸留」あるいは「昇華」することにより「可憐で魅力的で高貴」(川端康成評)な芸術作品に仕立て上げたことがよくわかるでしょう.ついでながら,「俗天使」という小品の後半,「おじさん。サビガリさん。サビシガリさんでも無ければ、サムガリさんでも無いの。サビガリさんが、よく似合う。いつも、小説ばっかり書いているおじさん。(後略)」以降は有明 淑の手紙を多少修正しながら書き写した文章のようです.

8月27日
昨晩も30通弱のウィルス入りメールが届きました.ほとんどは現在,猛威をふるっているWORM_SOBIG.Fというウィルスです.Mac OS X上では無力ですが,これらの汚染メールだけでなく,私宛の必要なメールも一緒にゴミ箱に捨ててしまうのが恐いです.

8月28日
現在,VICSとVENDにきわめて重要な改良を加えつつあります.GUIの使い勝手が著しく向上する感動的なアップデートです.自分自身が一番喜んでいます.ポーランド・ドイツ出張(8月31日〜9月10日)から帰国後の来月中旬に,v2.5としてリリースするつもりです.ご期待ください.

8月29日
粉末X線解析の実際」,第4刷が発行された,という通知が朝倉書店から届きました.初版第1刷刊行の約1年半後に第4刷が出たのですから,専門書としては上々の売れ行きといってよいでしょう.出版元も喜んでいるそうです.この本をテキストとする粉末X線リートベルト解析の講習会をこれまで数回開催しましたが,今年はお休みです.すでに我が国において,リートベルト法は十分普及・定着し,RIETAN-2000は定番ソフトとして認められました.VENUSの正式版はこの本を刊行した1年2ヶ月後,すなわち今年の4月に完成したばかりです.来年以降にその講習会を開く際には,Le Bail解析,三次元可視化,MPFなどを新たに取り入れた内容にアップデートしたいです.その部分については,テキストを作成することになるでしょう.最大エントロピー・パターソン法のプログラムは,専門家でないと使いこなせない高度なツールであり,現時点で広く普及させるのは明らかに無理です.むしろ,少数のプロフェッショナル・ユーザーを養成していくべきだと考えています.

8月30日
2003年6月時点でのアクティブ・ブロガー(Blogの書き手)は、世界中で240〜290万人程度だそうです.18カ月後には,この数字が900〜1200万人くらいにまでまで膨れ上がると予想されています.16世紀に印刷技術と郵便サービスが同時に登場したときと同じようなインパクトだと極言する人さえいます.とはいえ,私は日本の理工系WebページでBlogを見かけたことがまったくありません.推察するに,日本の理科系人間は文章を書くのを苦手とする人の方が圧倒的に多いからではないでしょうか.あまり人のことは言えませんが…

8月31日
今日から9月10日までXIXth Conference on Applied Crystallography (XIX-CAC) とハノーヴァー大学で講演を行うために渡欧します.本Webページの更新は,その間,停止します.XIX-CACのプログラムを眺めたところ,初日の冒頭のセッションで三つの基調講演が行われ,最初がIUCr元会長のA. Authier(France),2番目が直接法の権威で,SIRとEXPOの開発者として有名なC. Giacovazzo(Italy),3番目がF. Izumi(Japan)となっていました.これでは,3番目の講演者の格が違いすぎて,釣り合いが取れないのではないでしょうか.前日の夜遅く会場のホテルに到着し,翌朝の冒頭にこのセッションが始まるのですから,精神的余裕がまったくありません.おまけにF. Izumiだけ二つのセッション(しかも専門外の内容)の座長も勤めることになっています.率直に言って,気が重いです.


9月10日
たった今,ヨーロッパ出張(東京→フランクフルト→クラクフ→ワルシャワ→ミュンヘン→ハノーヴァー→フランクフルト→東京)から無事戻りました.クラクフーワルシャワ間だけ電車で移動しました(所要時間:2時間40分).ポーランドとドイツは日本の11月ごろの気温で,上着なしでは外を歩けないほど涼しかったですが,朝の8時ごろ成田空港に着いたら30.2℃にも達しており,げんなりです.

でかける前は非常に億劫で,気が重かったのですが,実際には講演(自分で言うのもなんですが,XIX-CACの出席者は「格の違い」をまったく感じなかったと思います)も旅行もまったく危なげなかったです.年の功でしょう.

ハノーヴァー大学のInstitute of Mineralogyを訪問し,XIX-CACでの基調講演と同じ内容について講演しました.この学科は19世紀半ばに建設された壮麗なハノーヴァー王家の宮殿(Welfenschloss)内にあります.各部屋の天井が異様に高いのはそのためです.入り口の両脇には巨大なライオンの銅像が置かれています.Welfenschlossの主は結局,何らかの事情でそこに住めなかったとのことです.旧宮殿で講演する栄誉に浴するのは,これが最初で最後でしょう.

ハノーヴァー大学を訪問したのは,大分前からRIETANを教育と研究に活用していると聞いていたためです.RIETANを使ったリートベルト解析の演習も行っているそうです.ある学生の演習レポートをパラパラめくっていたら,RIETAN-2000で得た解析結果の間に,思わず見とれてしまうほど端麗な配位多面体模型(カラー)が二つ挿入されていました.キャプションを読んでびっくり.VICSで描いた図でした.教官ですら使ったことがないというVENUSを自分でダウンロードし,見よう見まねで修得したようです.ずいぶん積極果敢な学生がいるものですね.私が学生だったら,できるだけ手を抜くに決まっています.感心しました.

9月11日
VICS v2.5とVEND v2.5をリリースしました.バージョン番号からわかるように,今回は,細分化したソースプログラムの大半を変更するほどの大改訂をGUIに加えました.Menu BarやDialog Bar内のボタンをクリックすると現れる種々のDialog Boxを他の位置に移した場合,その位置が記憶され,次回からはそのダイアログボックスを同じところに自動的に置いてくれるように改善しました.Preferences Dialog Boxにおいて,それらの位置をデフォールト設定として保存することもできます.こういう,かゆいところに手が届くような機能を備えているソフトはほとんどないはずです.実に便利で,一度使ったら止められません.この改良に伴い,Preferencesファイルの中身が変わりましたが,以前のPreferencesファイルを使いたければ,それらに置き換えても大丈夫です.さらに,Contour mapという言葉をContour linesに変更するとともに,Edit Dialog Boxにおける等方性・異方性原子変位パラメーターの相互変換に関するバグを修正しました.

9月12日
昨日VICS v2.5をリリースしたばかりですが,翌日にv2.5.1にアップデートする羽目に陥りました.Edit Dialog Boxにおいて三方晶系(六方格子)に属する物質の結晶データを入力するとき,格子定数bが1 Åに固定されたままになる,というバグを退治しました.不具合を報告していただいた姫路工大の藏本健太郎氏に感謝します.なお,藏本氏はDV-Xα法による電子状態計算などのために分率座標をデカルト(直交)座標に変換するのにVICSを活用しているそうです.具体的には,結晶データを入力した後,XMol形式のファイルをexportするだけです.VICSは一種のファイルコンバーターでもあるという事実を再認識しました.

9月13日
ヨーロッパ出張から帰国後は明け方に目が覚めてしまい,以後,絶対眠れなくなります.仕方ないので,思いきって飛び起きてしまうようにしています.

欧米に海外出張する際には,できるだけ2箇所に滞在するよう心掛けています.研究集会が終わった後は,ふつう大学や研究所を訪問し,依頼があれば講演します.会議だけ出席してすぐ帰るのでは,滞在期間が短すぎ,肉体的にきついですし,見聞を広めるとともに欧米の研究者との交流も深めたいです.今回ハノーヴァー大学を訪問したのもそのためです.ハノーヴァー滞在中に三泊した安宿には客が私一人しかいない模様で,ホテルの従業員は私の朝食や部屋の掃除が終わると,玄関に鍵をかけて立ち去ってしまいました.また,部屋の内側からドアをロックするには鍵をかけ直さなければなりませんでした.こういう経験は初めてですが,かえって楽しかったです.もう一つ心がけているのは,できるだけタクシーに乗らず,公共交通機関を利用することです.海外旅行を一種の修行の場と見なしています.ハノーヴァーの空港からホテルまではタクシーで行く(25ユーロ程度)ことを空港のinformation deskで勧められましたが,あえてS-BahnとU-Bahnを乗り継いでたどり着きました.乗り換えでかなり苦労し,スーツケースを引きずりながらU-Bahn一駅分歩いてしまいましたが,親切な人が助けてくれました.これまでの経験では,一般にドイツ人は外国人旅行者に親切で,道ばたや駅などで困り果てていると,しばしば向こうから声を掛けてきてくれます.

9月14日
日本語が読めない人でも手軽に使えるtbzアーカイバーとしてtbz.exeをRIETAN-2000のページで紹介することにしました.

9月15日
フリーソフトウェアの作者にとって一番ありがたいのは不具合やバグの報告です.マニュアルや文書の誤りや記載もれを指摘していただくこと,プログラムを使用した感想をお聞かせいただくことも大歓迎です.それでは,RIETANやVENUSを使っていて,どうしても(つまり,マニュアル,解説書,文書などを隈なく調べても)わからないことが生じたとき,私に質問するのはどうなのでしょうか.生憎,私はあらゆるユーザーを支援する余裕など持ち合わせていません.私は商用ソフトのユーザーサポート係ではないのです.まず身近な人,あるいはその人の知人に聞いていただければ助かります.民間企業の方々は寄付・業務委託によりサポートを依頼するのもいいでしょう.とはいえ,直接・間接に知っているパワーユーザーがまったく見当たらず,バグだか仕様なのだか不明のトラブルに悩まされている場合は,遠慮なく私にメールをお送りください.当方のミスでトラブルを引き起こしている可能性もありますから,そういう情報の提供はありがたいです.その際は関連ファイル一式を添付していただくことが望ましいです.バグだと判明したときは,できるだけお知らせするつもりです.ただし,たとえレスポンスがなくとも,悪く思わないでください.むしろ私から返事が届いたら幸運,といった方がよいかもしれません.これまでの経験によれば,Webページの内容,Webページで配付してる文書,マニュアル,文献(とくに「粉末X線解析の実際」),Readmeなどを徹底的に調べればわかるケースがほとんど,ということも申し添えておきます.私ほど自作ソフトに関する情報を出し惜しみせず公開している開発者はまれなのです.どこかに書かれている確率が高いです.

9月16日
PRIMAを収録したアーカイブファイルPRIMA.tbzを更新しました.二つのPDFファイルの内容を少々補充しただけです.

9月17日
ヨーロッパ出張中に自宅に届いていたJ. Ceram. Soc. Jpn.と「セラミックス」の9月号には,RIETANを使って得た成果が前者に3つ(内一つは私自身の研究総説),後者に1つ(三友 護氏による窒化ケイ素とサイアロンに関する総説)掲載されていました.いずれにもリートベルト解析パターンが図示されています.三友氏の総説で紹介されているYーα-サイアロンの構造解析はごく初期の私たちの仕事で,結晶構造図と解析パターンはX-Yプロッタで作成しました.これは我が国で実用材料にリートベルト法を適用した初の研究だったのではないでしょうか.当時,無機材研の電算機室ではレーザービームプリンタが使えませんでした.X-Yプロッタで多点のデータをプロットすると,しばしば記録紙が破れました.計算機自身が現在のパソコンよりはるかに遅く,メモリーもわずかだったため,HITACを使いによくKEKに通ったものです.20年近く前のセピア色の話です.

9月18日
青少年がケータイなんぞにうつつを抜かし,時間とゼニを浪費する悪しき傾向をマスコミがほとんど批判しようとしない理由について,広告を一切載せないので有名な雑誌が種明かししていたのを読んだことがあります.目から鱗が落ちる感じでしたが,他人に厳しく,己や身内に甘く,スポンサーに弱いというマスコミの体質は昔からまったく変わっていないのだな,とつくづく思いました.もっとも,マスコミだけとくにそういう傾向が強いわけではありません.自分にもそういう面がかなりあります.自戒せねばなりません.

と言いつつ,本日BS 2で放送していた映画「ロミオとジュリエット」の結末近くをぼんやり見ながら途方もないことを想像しました.神父とロミオがケータイで連絡をとりあっていたら,ロミオとジュリエットは自ら命を絶たずに済んだ!!! ケータイをもっていない私はいずれ悲劇に見舞われるかもしれません.

9月19日
VICS v2.6を含むVENUS.tbzをアップロードしました.WIEN2k struct形式と新井正男氏のバンド構造計算プログラムasse形式の結晶構造データファイルを読み込めるようにしました.ともに新井氏の要望に応えたものです.これらの新機能については,VENUS.pdfに追記しました.

9月20日
Content Management System,iBlog v1.3.1がリリースされました.ついにベータ版でなくなりました.さっそく新バージョンを使ってみたところ,最新のエントリーがどうしても追加できませんでした.そこでiblogフォルダごと削除し,BlogメニューでBlogの公開状態をリセットしてから公開することにより全面的に更新できました.これでダメなら,公開状態のリセットからやり直しです.なお新バージョンでは,私がLifli Softwareに要望した通り,日付けの上に適度なスペースが空くようになっていました.

9月21日
RIETAN-2001とVENUSを併用したMPF解析と電子・各密度分布の3D可視化が急速に広まりつつあります.普及に弾みをつけたのが超高速MEM解析プログラムPRIMAという豪華付録を付けたVENUS正式版のリリースです.MEEDより一桁速く,並列計算など無用の長物としたPRIMAと高価な商用3Dグラフィックソフト顔負けのVEND・VICSが無料で利用できるようになったことの意義は計り知れません.今やMEM解析はリートベルト解析よりも速いのです(当社比).VENDとVICSは電子状態計算と結晶解析とをつなぐ架け橋となることも願って開発しましたが,WIEN2kSCATのユーザーも徐々に使い始めています.新井正男氏がwien2venus.py,水野正隆氏がcontrdをVENDのために作成してくれたおかげです.能う限り多くの人々をVENUSに引き寄せるには,PRIMA,wien2venus.py,contrdといった魅力的な「おまけ」を付けるのが効果的です.

今年3月の日本セラミックス協会年会では「三次元可視化技術のインパクト」というミニシンポジウムを開きました.そのタイトルを関係者に提示したところ,"インパクト"という表現は過激ではないかという声があがりましたが,安価なPC上で高速なMEM解析と種々の物理量および結晶構造の3D可視化を可能としたVENUSの出現はインパクト以外の何物でもないと固く信じています.このミニシンポジウムに半日も費やし,私だけで1時間10分もしゃべりまくっただけの値打ちは十分ありました.VENUSの登場は商用ソフトのベンダーにも衝撃を与えたのではないでしょうか.VENDとVICSで視覚化できるのは結晶構造,電子密度,原子核密度,波動関数,静電ポテンシャルに留まりません.事実上,平行六面体内に分布する任意の物理量を扱えます.最近,われわれは最大エントロピー・パタ―ソン法で求めたパターソン関数の3D可視化にVENDとVICSの組み合わせを活用しています.重原子法で未知構造を解く際の必携ツールとなっています.

こう書いてきてふと思ったのは,その辺にころがっているPCや3Dゲーマー御用達のビデオカードによる超高速MEM解析や3D可視化をたった二人で実現し,しかも完成したソフトを商品化もせず,Webを通じ気前よくばらまいているのが,明らかに私の経済的困窮に直結しているということです.「この研究を実施するにあたっては,新しい建物,高価な装置,スパコンあるいはワークステーション,多くの人手が必要で,何千万円,何億円もかかるんですよ.」とまくし立てている方が,競争的資金や組織内の研究資金を獲得しやすいのは明らかです.コスト/パフォーマンス比や実質的な波及効果などあまり問題にされません.フリーソフトウェアは四方八方に散在しているブラックホールに非可逆的に吸い込まれていくだけで,開発者にはほとんど何ももたらしません.いや,そうでなかった,ユーザーサポート(もちろん無償),原稿執筆,講演(講義)だけは絶え間なく依頼されます.どれも当方の持ち時間を着実に減らします.もちろん,当Webページの維持・管理にも相当な時間を費やしています.貧乏暇なしとはまさにこのこと.フリーソフトウェアは世のため人のために公開しているのだから,武士は食わねど高楊枝という態度で泰然自若としておればいいのでしょうが,割に合わないことをやっているなあ,というのが偽らざる実感です.

9月22日
水野正隆氏にcontrdの出力する電子密度,静電ポテンシャル,波動関数の単位を教えていただいたので,VENUS.pdfに書き加え,VENUS.tbzを更新しました.

LINKSで相互リンクしている崎間公久氏のWebページ物理のかぎしっぽのURLを変更しました.手違いでURLが変わってしまったとのことで,リンク先変更の依頼が崎間氏からあったためです.ついでに「かぎしっぽ」とはなにか尋ねたところ,「しっぽの骨は普通まっすぐに伸びていますよね.それが途中で曲がってしまって鍵状になっている猫がたまにいます.それがかぎしっぽだと思います.」とのことでした.なんとなく語感がいいので,物理の堅苦しいイメージが少しでも和らぐように「物理」とつなげてみたそうです.こんな感じとのことです.

9月23日
LINKSで「科学論文に役立つ英語」のWebサイトにリンクを張りました.これは相当な力作です.「このサイトのこと」というところを読んだら,Webサイトの使命についての精神を私と共有している旨の記述がありました.私は「研究者Web界の巨人」なのだそうです.赤面するばかりです.私のWebサイトは必ずしも有用な情報ばかり発信しているのでない上,諧謔,韜晦,毒舌,遊び心に満ちており,毀誉褒貶が相半ばするのでないでしょうか.大山氏のサイトとそこが大きく違います.

9月24日
三日連続でリンクのお知らせです.鋼管計測のWebページでKKS SOFTWAREのページが復活し,RIETAN-2000専用エディターPIETANが再びダウンロードできるようになったので,RIETAN-2000のWebページでリンクを張りました.

9月25日
バンド構造計算プログラムWIEN2k開発の中心人物であるウィーン工科大学のBlaha教授から,VENUSが気に入ったので,UNIX (Linux)版を送ってくれ,というメールが昨日届きました.WIEN2kはUNIX(Linux)機で実行しており,計算結果を一々Windows機に転送するのは面倒なのだそうです.このような著名な計算材料科学者にVENUSを使ってもらえるとは誠に光栄で,プログラマー冥利に尽きるというものです.さっそくUNIX版を送付しました.

VENUS.tbzを更新しました.VENUS.pdfとReadme.pdfの内容を補充しました.VENDとVICSに変更はありません.

9月26日
Noel嬢の要望に従い,LINKSで相互リンクしているNoel Cafeのバーナーを張り替えました.

9月27日
WIEN2kのWebページ中のHARD + SOFTで,VENUSwien2venus.py(WIEN2k用Pythonスクリプト)のWebページへのリンクを張った旨のメールがBlaha教授から届きました.すでにDV-Xα研究協会のホームページの表紙にもVENUSへのリンクが張られています.電子状態計算の世界でVENUSが3D可視化ソフトとして公認されたのは,光栄の至りです.

9月28日
9/14,9/22,9/23,9/24,9/26,9/27と相互リンクについての記述を連発しましたが,お察しのように深刻なネタ切れ症候群の現れです.一々掲示板(日記)に記すほどのことではありませんね.

9月29日
VENDとVICSを使って作成した図をいろいろな出版物で見かけるようになってきました.今後,ますます増えていくことでしょう.ここでプログラム作者の立場から苦言を呈しておきますが,お世辞にもきれいと言えない図が多いです.フリーソフトウェアではこの程度の図しか描けないのか,と誤解される恐れすらあります.やはり,日本人は70ページを超すような英文マニュアルは読んでくれないようです.

原子の輪郭(円弧)がギザギザになるのは,{Stacks}と{Slices}が小さすぎるためです(VICSマニュアル4.2.3参照).ただし{Stacks}と{Slices}を大きくすると,画面上での動きが遅くなるので,イメージをファイル出力するときにこれらを増やすのでも構いません.単位胞や等高線の線が鮮明でなかったり,途切れ途切れになるのは,それらの{Width}が適切でないためです.全体的に分解能が低いように見える場合は,イメージをexportするとき,{Scale}を大きくするべきです.この際,{Smoothing}を大きくすると,単位胞を表す線がシャープでなくなってしまいます.1にしておくとよいでしょう.{Scale}を10に設定して巨大な(ピクセル数の多い)図を出力した後,PhotoshopPaint Shop Pro(最近v8がリリースされました.ダウンロード版: 12,800円),GraphicConverter(シェアウェア: $30),IrfanView32(無料)などで分解能をあまり落とさずに縮小します.インクジェット・カラープリンタで印刷する場合,300 dpi程度,雑誌や書籍などの図は300〜400 dpiの分解能とします.グラフィックデータファイルは圧縮せずに保存します.私はPhotoshopでバイキュービック法によりイメージを縮小(イメージ → 画像解像度...)した後,画像圧縮なしでTIFFファイルとして保存し,それをIllustratorで読み込み,文字や図形を追加して,講演や論文などで使う最終的な図面を作成しています.

ついでに,VENDで等値曲面(isosurface) + スライスを描くときの秘訣をメモ代わりに述べておきます.スライスのうち,等値曲面中に埋もれている部分では物理量が色つきで表示されません.ただし,等値曲面をメッシュで表現すればスライスに色がつきます.

9月30日
VEND v2.6を含むVENUS.tbzをアップロードしました.WIEN2kなどのバンド構造計算プログラムで得られた結果から,逆空間内のメッシュにおけるエネルギー固有値を計算できます.こうして求めたエネルギー固有値を3D可視化する機能(フェルミ面の可視化に相当)を追加しました.VENDが原理的にあらゆるメッシュ・データを視覚化しうることを例示したわけです.VENDのエネルギー固有値は正負の値をもつため,そのままではVENDによる可視化に適していません.正と負の等値曲面が表示されてしまうからです.そこで,適当な一定正値を全データに加えた後,*.ebというファイル(*.rhoと同一フォーマット)に出力し,このファイルをVENDで読み込むよう工夫を凝らしました.したがって,全エネルギー固有値にゲタをはかせたことを考慮して等値曲面のレベルを設定する必要があります.このような「裏技」を強制されるところに難点があるものの,複雑な形状をもつフェルミ面を三次元的に理解するためのツールとして威力を発揮するにちがいありません.なお,*.ebの作成法については,後日,新井正男氏が彼のWebページで詳しい情報を提供してくれることになっています.

エネルギー固有値やフェルミ面などという学術用語まで「粉末回折情報館」に出没するに至りました.RIETAN-2000同様,クレージーな,化け物じみたソフトになりつつあります.


10月1日(初のエピグラフつき)

我,山に向かいて目を挙ぐ.
我が助けは何処より来るか. --- 「詩編」第121篇

フリーソフトウェアの理想は美しい.RIETAN-2000とVENUSは数多くの人々,とりわけ貧しい研究者や学生を支援し,鼓舞し,喜ばせ,成果を結実させつつあります.しかし,「我が助け」など来る気配は感じられません.「人材」ならぬ「人柱」として朽ち果てていくだけです.

私どもの結晶学ソフト開発に要する経費を一個人が調達するのはもう限界です.寄付・業務委託の申し込みは一切ありませんし,次世代パルス中性子源プロジェクトJ-PARCは結晶学ソフトの開発など二の次三の次という情勢だそうです.外部からの経済援助が皆無なのでは,財政的基盤が貧弱なフリーソフトウェア開発が長続きするはずもありません.刀折れ矢尽きました.

新作ソフトはもはや製作せず,今後は既成ソフト(VENUSとME-Patterson法プログラム)のバグとり,ブラッシュアップ,ドキュメンテーションに集中するようRubenに伝えました.金の切れ目が縁の切れ目.Rubenは早晩,私のもとから去るでしょう.VENUSの不具合やバグなどお気づきの点がありましたら,できるだけ早くお知らせいただければ幸甚です.

たった二人で2年余り細々と続けてきたミニプロジェクトがのたれ死にしていく様を直視するのは,とてつもなく「寂しい」です.

J-PARCを視野に入れたTOF粉末中性子回折用ソフトの開発も断念し,パルス中性子源の業界から足を洗うことに即決しました.結晶学の方法論やソフトウェアを自ら開発する能力もない上,第三者の開発を支援しようともしないプロジェクトのために汗水垂らす気は毛頭ありません.要するに,私の価値観の外側にあるプロジェクトなのです.受益者でもないのにボランティアとして働いたところで,徒労に徒労を重ねるだけでしょう.むしろRIETAN-2001T以外のリートベルト解析プログラムへの乗り換えを促すため,RIETAN-2001TのWebページは撤去しました.リストラは電光石火の早業で断行すべきです.「私がリストラされた」のでなく,「したくないことはしない人生であれ.」という座右の銘に従い,「私がリストラした」ということを強調しておきます.

後を託せる後継世代皆無の状況下で孤軍奮闘したところで,疲弊するだけです.プログラミングにこだわるだけの人生でいいのか,と自問自答しています.他人はもとより,自分自身でさえあてになりません.「年貢の納め時」という言葉が脳裏に浮かんでは消え,といった状態です.もう肩の重荷を一つずつ降ろし,腐れ縁を断ち切り,最重要課題に全力を傾けるべき時なのでしょう.私個人にとっては最善の選択だと思われます.

10月2日
当Webページは.Macを利用して運営しています.しかし,年間12,800円は割高だし,フリーソフトウェア配布用圧縮ファイルはなぜか壊れてしまうし,ときどき事前・事後の通知なしに不通になるし,CGIは使えないし,ftpサービスは提供されないし(致命傷),日米間のデータのやりとりは時間がかかるし,ということで,ほとほと嫌気がさしています.http://homepage.mac.com/fujioizumi/というURLが変わるのはまずいですが,そろそろ逃げ出したくなって来ました.そこでいろいろ調査した結果,ロリポップというレンタルサーバーが見つかりました.容量200 MBで年間3,000円,しかもCGI利用可能ということですから,激安の極致です.URLはたとえばhttp://fujiioizumi.lolipop.jpというようになりますが,"fujioizumi"の部分は任意の文字列で構いません.fujioizumi = ロリコンと誤解されたくなかったら,"lolipop"の部分を特定の文字列に置き換えることも許されています.しかし,主として女性がターゲットと明記された「ナウでヤングな」ロリポップの表紙を眺めると,移転にまでは到底踏み切れません,くたびれかけたオヂにふさわしいレンタルサーバーがありましたら,ぜひ紹介してください.ただしMac OS Xサーバーは.Macで懲りました.Linuxサーバーを望みます.

10月3日
電撃的なリストラに踏み切る一方で,VENUSのブラッシュアップには奮闘し続けています.本日,VEND v3.0を含むVENUS.tbzをアップロードしました.バージョン番号から明らかなように,本年4月8日にVENUS正式版をリリースして以来,類を見ないほど大規模な改良をVENDに加えました.

正,負,正負の等値曲面(isosurface)のいずれか一つを視覚化できるようにしました.Isosurfaces Dialog Box中のラジオボタンで選択します.ユーザーがisosurface levelの符号を間違えた場合のフェール‐セーフにも留意しました.負の干渉性散乱径をもつ元素を含む化合物の原子核密度分布やフェルミ面を視覚化するときに,とりわけ役立つ機能です.新井正男氏の要望に応え,WIEN2kの電子密度ファイル*.rhoに負の電子密度を含められるようにしました.2つの異なる計算(たとえば常圧相と高圧相に対する計算)で求めた電子密度の差や実験と計算で得た電子密度の差を視覚化できます.さらに,作画境界(デカルト座標系)や単位胞(結晶)での等値曲面の断面を表示するか否かを指示するチェックボックスをModels Panelに追加しました.非表示にすると断面が透明になり,スライスの場合と同様な色が断面にはつかないことになります.もちろんManual.pdfも改訂しました.

今回の改訂で,平行六面体中のメッシュに位置する全ての物理量の複雑な空間分布を三次元的に理解し,研究者の創造性を拡大するというVENDの究極的目標に一段と近づきました.従来は,一つのデータファイルが正負の物理量を含むときの処理が中途半端でした.フェルミ面表示機能を追加している際,この欠点に気づきました.Models Panelで断面非表示を選べば,球棒・棒模型と等値曲面を重ね合わせたとき,断面近くの原子や結合の見通しが一段とよくなります.これでVENDとVICSの華麗な連係プレーを楽しめるようになるでしょう.

この水準までよじ登るために払った労力は並大抵のものではありませんでした.論文が出るわけでも収入になるわけでも独創性が評価されるわけでもなく,内部評価はほとんどゼロに等しいといって過言でありませんが,VENUSシステムの外部評価(利用価値,波及効果,知名度)は今や抜群でしょう.当Webページのアクセス件数の急増がそれを如実に証拠立てています.知的創作物のインターネット上での公開と共有がいかに社会に貢献するかがよくわかります.私にとって大切なのは,私が発信している情報(もちろん論文や解説も含みます)とソフトが社会で役立つ,ということだけです.

10月4日
フィッシャーの「音楽を愛する友へ」に次の一節あり:

ブゾーニにはこんな逸話がある.晩年のある日,彼は永らく耳にしていなかった「後宮からの逃走」を聴いた.すると,どうだろう.あの冷静で,あれほど泰然自若たる精神の持主であるこの人の,精進に疲れた顔の上を,幼児のごとき喜悦の涙が伝ったというのである.

この文を思い出したのは,「後宮からの逃走」の先駆けというべき「ツァイーデ」(K.344)中のアリア「やすらかにお休み,私のいとしい命よ」をたまたま聞いたためです.涙こそ出ませんでしたが,陶然としました.シューリヒは「ツァイーデ」を平凡な,その場限りの作品と評しましたが,ヴィオラによるピッチカートにオーボエとファゴットが彩りを添える,この瀟洒典雅な絶品を聞き漏らしたのでしょうか.

10月5日
XVth International Symposium on the Reactivity of Solidsのscientific programがアップロードされたという知らせが届いたので,恐る恐る眺めたところ,びっくり仰天.私の基調講演にはなんと1時間も割り当てられているではありませんか.10・11月は別な仕事で超繁忙.講演用の図面を作成するだけで精一杯でしょう.ぶっつけ本番しかない!聞くところによると,私以外の二人の基調講演者は斯界の権威者だというし,プレシャーかかりっぱなしです.最終日というのも気が重い.「講演からの逃走」というわけにはいきませんし…

10月6日
午後,常磐線で東京に出かけました.以前,Suicaで常磐線に乗り,北千住 → 新御茶ノ水(千代田線)まで乗り越したのを荒川沖駅でSuicaに記録してもらいました.駅員に頼まなければならず,面倒です. (…都内での行動は省略…) 高速つくば号で午後11時ごろ帰宅.

10月7日
RIETAN-2000支援プログラムRieMenuv0.43aとv0.44 alpha1(英語版)が9月26日にリリースされていたことに気づきました.

10月8日
PRIMA v2.0.8を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.非線形単一ピクセル近似(nonlinear single-pixel approximation)で対称心のない構造を扱う際に生ずる障害を取り除きました.そのようなMEM解析を以前行ったことのある方は再解析してください.PRIMA.pdfとManual.pdfも少々改訂しました.

「粉末回折情報館」が2001年3月25日に当Webサイトに引っ越ししてからの訪問数が,今日中に10万カウントに達しそうです(注:16時51分に10万カウントを達成しました).

10月9日
10月6日に都内某所でカプチーノを啜りながら,しばし物思いにふけりました.VENUSミニプロジェクトは,チープなPCと3Dゲーマー用ビデオカードで俊敏な3Dグラフィックと超高速MEM解析を実現し,貧しい研究者や学生を支援し,救済し,鼓舞し,彼らの創造性を高め,さらには教育にも役立ててもらうという究極的目標を掲げてスタートしました.ここのところ貧窮の極に達していた私は,VENUSの理想を忘れ去っていたのではないでしょうか.Rubenと一緒にプログラミングに没頭するのも後わずかです.初心に立ち返り,残された時間を活用し,VENUSに精一杯磨きを掛けるべきです.この目的のために全力を尽くそうと決意しました.そのとき,唐突にニーチェの「この人を見よ」という著作が脳裏に浮かびました.確か,この本には「なぜ私はかくも良い本を書くのか」という章があったはずです.「なぜ私はかくも良いプログラムを書くのか」 --- 胸を張ってこう言えるくらいのソフトに仕立て上げなければなりません.

VENDはv3.0へのバージョンアップで,ほぼ完成の域に達しました.これ以上機能を増やすと重くなりすぎるのは明らかです.VENDについては,バグや不具合を解決するだけで十分なような気がします.一方,VICSには,まだメモリーサイズの余裕が十分あります.

3日前の時点では,PRIMAのさらなる高速化はもはや無理,と思い込んでいました.ところが,昨晩,広島大学の大木 寛氏(FortranにもCにも詳しい助っ人)からソースコードの最適化によりPRIMAを約20%高速化するのに成功したという朗報が届きました.喜び勇んで,改善されたコードを送っていただきました.さらに,選択配向に関係した無駄な配列と計算をすべてカットしてしまいました.

これら二つの改良は劇的な相乗効果をもたらしました.

こうして得られたPRIMA v2.5を本日リリースします.この最新版とMEEDを使って6つのMEM解析を実行したベンチマークテストの結果を記録したPDF文書(Table1_updated.pdf)をご覧ください.これは

泉 富士夫, 日本結晶学会誌, 44 (2002) 380-388.

中の表1を更新したものにほかなりません.PRIMA v2.5はMEED/PRIMA = 46という驚くべき平均実行時間比を叩き出しています.この数字はv2.0.8を2倍余り(!)高速化したのに相当します.エクセルでMEEDとPRIMAに対する実行時間の棒グラフを作ってみたところ,PRIMAの棒が短すぎて,両者を比較しにくくなってしまったほどです.奇跡は起こる --- ということを身をもって経験し,感動を覚えました.

10月10日
Noel(乃絵)嬢からNoel Cafe移転に関するメールを拝受しました.なんと,私も目をつけていたロリポップ(10月2日参照)にお引っ越しされました.しかし,いかにWebに関する師匠のお嬢様とはいえ,後を追う勇気は……ありません.当面homepage.mac.comに,こじんまりしけこんでいることにします.

VENUS.tbzを更新しました.電子状態計算プログラムSCAT用ファイル・コンバーターcontrdに付属しているReadme_contrd.txtの記述を補足しただけです.SCATをPCにインストールしてからcontrdを走らせる,ということを明記しました.contrdを使い始める前に,Readme_contrd.txtを必ず熟読するようお願いします.GUIを備えたソフトではないので,試行錯誤でなんとか動かしてしまうという荒技は通用しません.

10月11日
第1回 中性子によるセラミックス材料研究会での依頼講演「MPF法による構造精密化とME-Patterson法による積分強度決定」について講演と講習のお知らせのページに書き込みました.この研究会は日本セラミックス協会の平成15年度後期研究会として設置されました.今後,セラミックス分野における中性子散乱の利用に関する研究交流・情報交換を展開していきます.

10月12日
VENUS.tbzを更新しました.Readme_contrd.txtの記述をさらに拡充しました.これだけくどく書いておけば,迷える子羊(ユーザー)はまず出現しないでしょう.

本日のアップデートには間に合いませんでしたが,その後,PRIMAはさらに高速になっています(現在動作テスト中).これも大木 寛氏による最適化のおかげです.頼もしい援軍が現れたものです.

XV-ISRSのProceedings(Solid State Ionics)の原稿はElsevierのLaTeX用classファイルelsart.cls+LaTeXで書けることがわかり,一安心しました.とりあえずabstractまで書いてみました.Full paperとして提出するのですが,一日あれば十分でしょう.

10月13日
産総研のWebページで「世界初、固体電解質中の酸化物イオンの伝導経路の可視化に成功」というプレスリリースが公開されました.RIETAN-2000 + PRIMAを使った粉末中性子回折データのMPF解析で得られた成果です.VENDで可視化した酸化物イオンの伝導経路の図(なぜか単位胞を表す線がにじんで見えます)も含まれています.MPF解析機能をRIETAN-2000に組み込んだ主目的は,乱れた原子配置を示す物質の構造を分割原子モデルを用いない方法で精密化することでした.角度分散型粉末中性子回折データのMPF解析はイオン伝導体の構造解析にうってつけといって過言でありません.

10月14日
PRIMA v2.5.1をリリースしました.10月12日に書いたように,大木 寛氏が最適化されたプログラムに基づいてバージョンアップしました.5日前にアップロードしたv2.5に比べ5〜10%ほど速くなっています.ベンチマークテスト結果(Table1_updated.pdfBenchmark.pdf)も更新しました.K5.2@K-LTAの解析に要する時間はついに100秒の壁を突破しました.残る5つの物質の場合,数秒以内に計算が終了してしまうため,もはやベンチマークテストには不向きな解析となり果てました.TiO2とTl-2223に至っては,ほとんどの時間を入出力に割いているはずです.この信じ難いようなスピードを達成したのは,実に天晴れ --- というしかありません.夢見心地です.このベンチマークテストには2年前のハイエンド機を使いました.現時点でのハイエンド機なら,2倍は速いでしょう.今や,バルクメモリを十分積んだ最新デスクトップマシンならば,底辺機でも十分実行可能なはずです.v2.5以降の改訂に全面協力していただいた大木氏に心から感謝します.

Mac OS X用スケジュール管理ソフトiCal v1.5.1がリリースされました.

10月15日
PRIMA v2.5.2をリリースしました.対話形式でPRIMAを実行したときの画面出力のスペルミス(Langrange → Lagrange)を修正しました.

10月16日
今年のノーベル物理学賞受賞者のA. J. Leggett氏はどこかで聞いたような名前だと思っていましたが,日本物理学会発行の「Journalの論文を読むために」中で科学英文執筆についての覚書を執筆されていた方だったことがわかりました.これの和訳は「科学英語論文のすべて」第2版(丸善)にも再録されています.私はまだ二十代の頃これを読み,目から鱗が落ちた思いがし,その後,英文執筆のために大いに活用しました.この覚書の教えは,まさに血となり肉となり,脳細胞に染みついています.

ついでながら,「科学英語論文のすべて」 p. 11,表1.2中に三つある"fit A to B"という表現では,AとBがすべて逆だということを指摘しておきます.このことは友人の米国人研究者に問い合わせて確認したので,間違いありません.要するにカーブフィッティングでは「実験データに関数をフィットさせる」のであって,「関数に実験データをフィットさせる」のではないのです.日本語でも英語でも同じことです.

10月17日
VENUS.tbzをアップデートしました.Readme_contrd.txtにUNIXなどWindows以外のOS上でDVSCATを実行した場合の注意点を追記しました.

引き続き,PRIMA.tbzも更新しました.SiNiPOフォルダ中の解析例においてprfファイル中のファイル指定部分に誤りがあったのを修正しました.Readme.txtも少しだけ変更しました.

10月18日
Roxio Toast 6 Titaniumを入手したので,早速CD-Rに追記してみました.以前使っていたToast Liteと比べると,高速なように感じました.GUIがすっきりし,大分使いやすくなりました.

10月19日
VENUSの改良を支援していただいている広島大学大学院 理学研究科 固体化学研究室の大木 寛氏がLinux用VEND+VICSを配布し始めました.Vine Linux 2.6上でIntel C++ Compiler for Linuxを使ってコンパイル・リンクしたとのことです.OpenGLにはXFree86に付属しているXFree86-gl を使用しています.

10月20日
VENUS.tbzをアップデートしました.VEND・VICSを複数走らせる際の留意点(3.2項)とPaint Shop Pro 8により画像イメージのサイズを変更する方法(6.2項)をReadme.pdfに追記するとともに,Readme_contrdにもほんの少しだけ書き足しました.Paint Shop Pro 8は先週末入手したばかりですが,低価格(アカデミック価格:8,800円)かつ高機能(たとえばJPEG 2000フォーマットを扱える)です.推奨します.

10月21日
スウェーデンの研究者から,VENUSは頻繁にアップデートされているが,どこがどのように変わったのか,英語で逐一明記してほしい,というメールが届きました.UNIX/Linux用VENUSを送ってほしいという外国人研究者も10名近くに達しています.皆,WIEN2kのユーザーでしょう.これらの要望があるのはVENUSがdomesticでなくinternationalなソフトとして認められつつある兆候です.今後は,少なくともバージョン番号が変わった際には,変更点を英文で知らせるようにするつもりです.VENUSの更新が近い将来,事実上ストップするのは確実(10月1日,10月9日の記事参照)ですから,そう大した労力ではありません.

夜は,小津安二郎監督の遺作「秋刀魚の味」をビデオで見ました.私見によれば,岩下志麻の美しさばかりばかりが目立つ作品で,それ以外は見所なし.彼女が小津監督の映画に出演したことがあるほどの年だとは知りませんでした.

10月22日
VEND v3.0.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.今回はSCAT関係の改訂だけです.'scat'だけでなく'sca'という拡張子のファイルもVENDが読み込めることをVEND実行時のファイル入力ダイアログボックスで明示するとともに,VENUS.pdfにも記述しました.contrdの出力する3Dデータファイルの拡張子は'txt'なのですが,バッチファイルcontrd.batの下から2行目の
ren *3d.txt *.sca
というコマンドにより自動的に'sca'に変えるように改良しました.この結果,手動によるファイル名変更の手間が省けるようになりました.このことをReadme_contrd.txtに書き足しました.また,GraphicConverterを使ったイメージファイルのサイズ変更の操作についてReadme.pdfの6.2項に追記しました.

昨日予告した通り,今回からVEND,VICS,PRIMAの変更点についてArchive files for the VENUS systemに英語で明記することにしました.

Gaussian,WIEN2k,SCAT関連の機能はようやく枯れてきました.こういう結晶学と無縁の世界をも対象とし,なおかつ,まったく未経験のOpenGLを駆使した3Dグラフィックソフトの開発にたった二人でチャレンジしたのですから,無謀の極みでした.いつ軍資金が途切れるかわからない財政事情だったのですから,なおさらです.

VENDとVICSの創造過程では,辛酸をなめ尽くしました.Rubenともども研究者生命を数年は縮めたといって過言でありません.DV-Xα法についてはずぶの素人だったので,早大で開かれた講習会に参加し,講師の先生に3Dデータファイルを出力するユーティリティーを配布するよう要望しました(残念ながらレスポンスなし).年始休みにRubenと二人で連日出勤し,冷え切った部屋で働いたこともありました.正負の等値曲面(たとえば波動関数)を2色で描けるようにしてくれ,とRubenに頼んだときは,流石の彼も尻込みしましたが,強引に押し切りました.後日,この機能が負の干渉性散乱径をもつ原子を含む化合物の原子核密度分布を視覚化するのに使えることに気づいたときは,思わずほくそ笑みました.「粉末X線解析の実際」(発行部数が2000部を突破したそうです)の裏表紙を飾った二重カーボンナノチューブの結晶模型はNEC基礎研からデータをいただいて製作したのですが,フォーマットが不明で,ファイル変換に苦労しました.結晶学と電子状態計算における単位系の違いには,何度も痛い目に遭いました.日本セラミックス協会2003年年会中に開催された「三次元可視化技術のインパクト」ミニシンポジウムでは,なんと70分間の講演(+実演)を行うことになり,人前に立つのが大嫌いな私は,恐るべき苦役を耐え忍ばざるを得ませんでした.配布用圧縮ファイルVENUS.tbzの破損には長期間手こずり,多くの方々に迷惑をおかけしました.「過ぎ去ったことは,みんななつかしい.」

Linux用VENUSシステム(Intel CPU専用のPRIMA実行形式ファイルも含む)は広島大学の大木 寛氏が近く配布してくれることになっています.大木氏にはVICSの熱振動楕円体作画機能のバグとりとPRIMAのスピードアップでもご協力いただき,心から感謝しています.大木氏はVine Linux上で移植されています.これはとりもなおさず,VENDとVICSがMacintosh上でも動かせることを意味しています.なにしろ,Vine LinuxにはPowerPC Macintoshバージョンも含まれておりますので.

PRIMAに寄り道しながらも,2年余りでここまで完成度を高めるのに成功したのは,奇跡というしかありません.なにか目に見えない神様のようなものが,われわれの背中を力強く後押ししてくれたのではないでしょうか.

10月23日
VENUS.tbzを更新しました.Readme.pdfの6.2項中のPaint Shop Pro 8を使ったイメージサイズ変更の方法を修正しました.

10月24日
今日もVENUS.tbzを更新しました.contrdの出力する3Dテキストファイル(*.TXT)の拡張子を自動的に'SCAT'にする方法をReadme_contrd.txtに書き加えました.

10月25日
「文士の生きかた」読後感(その1).世の常識から逸脱した生き方を貫くのは楽でありませんが,そうしなければ絶対かち得ないものもあります.大村彦次郎著「文士の生きかた」(ちくま新書)を読み,そう思いました.13人の作家のうち奇矯な振る舞いと惨苦を極めた私生活で他を圧しているのが葛西善蔵なのは異論ないでしょう.この中に(文学的才能は抜きにして)自分の性格にかなり近い人物が一人いました.ここに明記するのは憚るような人物ですが,私をよく知っている人がこの本を読めば,どの作家だか即座にわかるでしょう.

10月26日
「文士の生きかた」読後感(その2).中でもっとも印象的だったのは,芥川龍之介の告別式に参列した作家たちが,葬儀の終わった後,数名集まって芥川の作家的力量について論評を加えたというエピソードでした.芥川の友人たちの誰もが小説家として芥川を認めないと発言したというのです.そもそも芥川が気質的に不向きな小説家などになったのが間違いで,文学の現場を高みの見物している大学教授が一番適していた,ということで全員の意見が一致し,最後に谷崎潤一郎が「人間というものは処世術を誤ると,とんだ不幸を持ち来たすことがある.」と,とどめを刺したそうです.しかし,のたれ死にの憂き目にあうことなく天寿を全うする方が立派だと言えるでしょうか.逆に不幸にあこがれるような人でないと,文学の道は歩めないような気すらします.

10月27日
「文士の生きかた」読後感(その3).翻って我が身を顧みれば,やはり処世術を誤った口にほかなりません.資質に適っていない理工系研究者などになってしまったのが蹉跌のもとでした.ぼろくそに言われるのは目に見えていますから,葬儀など生前から固辞しておくつもりです.それではどんな職業が最良の選択だったのかと問われれば,答えに窮してしまいます.実のところ,得意だと自認していること(悔しいことに,プログラミングではありません)も一つや二つはあるのですが,三度の飯より好き,というわけではないし,第一,クリエーティブな才能とは言えないのです.それで生計を立てたところで,鬱陶しく苦しいだけでしょう.天職に就き,最大の努力を重ね,かつ幸運に恵まれたとしても,所詮,(これまでの私の実績) ± アルファくらいが精一杯なのかもしれません.本来,比べられないことを比べても意味がありませんが…

10月28日
昨日は意表外な事実に直面し,雷に打たれたようになりました.まさに青天の霹靂.もちろんプライベートなことでなく,PRIMAの不具合です.MEM解析の根幹に関わることでありながら,表面化しにくい性格をもつため,迂闊にもこれまで見過ごしていました.詳しく調べてみると,他の何本かのMEM解析プログラムによる解析結果も同じ症状を呈しており,PRIMAだけの欠陥でないのは明白です.雁首をそろえて同じ落し穴にはまり込んでいます.しかし,「赤信号,みんなで渡れば恐くない.」(obsolete aphorism!)という訳にはまいりません.この問題に真っ向から立ち向かい,きちんと落し前をつける所存です.PRIMAは無償・無保証・無サポートのソフトであり,自動車会社と違ってリコールの義務があるわけでなし,悠然と構えているつもりです.といっても,来年のお年玉として贈呈するほど遅れることはないでしょう.自作ソフトだけの障害でないので,落し所がむずかしい…駄洒落を飛ばしているどころの騒ぎではありませんが.

10月29日
昨日は開き直って悠長なことを言っておりましたが,PRIMAのバグ退治は着実に進捗しており,すでに動作チェックの段階に入りました.計算速度はほとんど変わっていません.近日中にPRIMA v3.0にバージョンアップし,一件落着とします.人様のMEM解析ソフト(あえて実名は申し上げません)には一切干渉するつもりはありません.当らず障らず,という態度を貫きます.

10月30日
VEND v3.0.2を含むVENUS.tbzをアップロードしました.パレット名'Invers Rainbow'を'Inverse Rainbow'に修正しました.

今日は昼と夜,一回ずつunbelievableなことに遭遇し,びっくり仰天すると同時に,夢でも見ているのではないか,と疑いました.けっして悪いことでなく,逆にうれしいことです.まさかそんなことがあり得ようか,というような椿事が二つ続けて起きたのです.もしかしたら,本掲示板の10月9日の欄に書いた殊勝な心がけを神様が読んでくださったのかもしれません.

10月31日
VEND v3.0.3とVICS v2.6.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.ともにGeneral Dialog Boxにおけるスペルミス'Perspecive'を'Perspective'に修正しました.さらにReadme.pdfとReadme_contrd.txtをほんの少しずつ修正しました.


11月1日
先月は,当Webページの月間アクセス件数が跳ね上がりました.過去最高は間違いなし.人気急上昇の原因は,不採算部門(TOF中性子回折)のリストラでガス抜きしたせいか,本掲示版の内容が活気づいたためだと思います.10月1日に至ってはエピグラフつきだったのですから,凄すぎます.今日から11月です.今月は秋の霜のように厳しい雰囲気に一変させるつもりです.

11月2日
タランティーノの「キル・ビル」を鑑賞.波瀾万丈の凄惨なスプラッター映画.ハチャメチャの極致.ただただ唖然とするばかり.こんな型破りな映画は見たことなし.なにしろ,結婚式のさなかに銃弾を頭にぶち込まれたブライドが復讐の鬼として生き返り,尾羽打ち枯らした服部半蔵が沖縄に身を潜めてマズい寿司屋を経営し,沖縄発東京行きの飛行機の全席には日本刀を差し込むホールダーが付いており,日中のハーフ(東京の暗黒街に君臨するオーレン・イシイ姐さん)と白人の大女(ブライド)が怪しげな日本語を発しながら雪の降りしきる日本庭園で大立ち回りを演じ,善玉なのが定石のヒロインが女性弁護士ソフィーを拷問し,両手をぶった切って丸太(乱歩の「芋虫」を連想)のように転がすのですから,後は推して知るべし.血なまぐさい殺戮.腕と首が吹っ飛び,死屍累々,荒々しいタッチのアニメでオーレン・イシイの両親が虐殺される回想シーンが描かれ,エンド・クレジットの間には梶芽衣子の「恨み節」全曲が流れるといった具合.ブライドが仇を討つたびに「…人としての情けを断ちて,神に会うては神を切り,仏に会うては仏を切り,…」という裏柳生口伝が詠まれます.わざとアラを出してオバカ映画っぽく見せかけているシーン多し.流石,ビデオ屋の店員を5年も勤めあげ,膨大な量のヲタク知識を獲得したB級娯楽映画エンスーだけのことはあります.ただ,「影の軍団」,「バトル・ロワイアル」,「子連れ狼」,「修羅雪姫」といったジメジメしたサブカルチャー(元ネタ辞典参照)とは無縁の電算砂漠に棲息してきた私には,真の面白さが味わえませんでした.これは第一部で,第二部は来春に上映されるということを,見終わって初めて知りました.ブライドは日本以外にカリフォルニア,北京,メキシコを転々とするのですが,たまたま私がかつて訪れた所ばかり.あたかも私のためにロケ地を選んでくれたように感じられ,うれしい.なお,オーレン・イシイのボディーガードをつとめる凶暴な女子高生ゴーゴー夕張を演じた栗山千明は土浦出身だそうです.

この映画を配給しているギャガ・コミュニケーションズは,あのエド・ウッドが脚本を書いたサイテー映画「死霊の盆踊り」(このぶっ飛んだタイトルには感動しました)が配給第1号だった由.あの「少林サッカー」を配給したのもギャガ.暇な人は,こりに凝った「キル・ビル」のWebページを訪れ,しばし遊んでみてください.

この映画を見終わった後,私にとってVENUS(付録のPRIMAは除く)はタランティーノにおける「キル・ビル」みたいなもんなんだなあ,とつくづく思いました.てめえのやりたいことをやりたいように「やっちまいな!」(オーレン・イシイの台詞)という内心の声に従い,嬉々として製作したのがVENUSであり「キル・ビル」だ,と感じたわけです.ともに2部からなっていて,己が偏愛するチープな素材(VENUS: その辺にころがっているPC,3Dゲームヲタク用ビデオカード,フリーソフトウェア. キル・ビル: B級バイオレンス映画)を丹念に料理しており,過去に培ってきた膨大な蓄積を手当たり次第投入し,遊び心とエンターテインメント性を備えた作品を創り上げる喜びがほとばしり,先達(VENUSC. K. JohnsonJ.-M. CenseI. D. BrownP. RademacherP. BourkeM. D. Adamsなどのフリーソフトウェアの作者. キル・ビル: ショウ・ブラザーズ,ブルース・リー,深作欣二,サニー千葉,セルジオ・レオーネなどの映画人)に対する尊敬と憧憬の念に満ちています.両者が大きく異なるのは,製作費が何桁も違うこと,私がVENUSで金儲けする気など毫もないこと,VENUSは研究や教育に役立ち,しかも堅苦しいアカデミズムには無縁なビジュアル系ツールを世に送り出し,商用ソフトウェアに対抗するために開発したことです.もう一つありました.VENUSには,Izumiブランドの大型ソフトウェアはこれが最後,という悲壮感が漲っています.私だけが感じることでしょうが…

作者の気質と作者を突き動かしているモチベーションがかなり似通っていますから,VENUSを愛してやまない方はきっと「キル・ビル」にも熱狂するにちがいありません.ただちに映画館に直行してください.リピーターになるほどお気に召した方は,ブライドの衣装(15,000)を買うことをお奨めします.「死亡遊戯」でブルース・リーが着ていたのに酷似したデザインの,このトラックスーツを着用して劇場に行けば,無料で何度でも「キル・ビル」を見られるそうです.

研究でなく映画の話題となると,急に語彙が豊富になり,文章が生き生きとしてくる自分が情けない.本日はこれでおしまい.

11月3日
今日はバージョンアップをめぐる話題三つでお茶を濁しておきます.

定番テキストエディタ秀丸がついにv4.00にバージョンアップを果たしました.縦書き編集を必要としないWindowsユーザーにとっては,大ニュースでしょう.私はWindows機に触れている時間がきわめて短く,秀丸をあまり使い込んではいません.しかし,カーソル位置の文字列が検索ダイアログで自動的に検索語となること,秀丸の常駐と瞬間起動,巨大ファイルの入力の速さ,クリップボード履歴の保存には,いたく感心しました.サポートのページによれば,金銭的に難儀している学生,フリーソフトを公開している作者,Windows関連の本の執筆者はフリー制度に申し込む資格があるとのことです.2番目の条件に当てはまる私は,4000円を支払う必要はなかったということになります.今となっては,どうでもいいことですが…

Windows用圧縮解凍ソフトLhaz v1.12もリリースされていました.本Webサイトで配布しているtbz形式圧縮ファイルの解凍に使えます.やはり*.tbzを解凍できる+Lhacaのアップグレードは依然として止まったままです.機能的には現デラックス版v1.18で十分ですが,GUIが殺風景で実用一点張りなところに不満が残ります.

Igor Pro v4.09のアップデータも提供されていました.

11月4日
一昨日の駄文の続き.私がビジュアル系ソフトでやりたかったことは,VENUS(くどいですが,付録のPRIMAは除きます)でやり尽くしました.2年以上にわたる大仕事はちょっとしたきっかけから始まりました.6月5日にも書いたことですが,オペラ「魔笛」作曲上の技法に関する鋭い指摘(執筆者が誰だったか,どこに収録されていたのかすら忘却)を読んだことがVENUS開発の契機となりました.先日,ある女性にそのエピソードを問わず語りに語ったのですが,真意がうまく伝わったかどうか疑問です.理解不能な戯言と誤解されただけかもしれません.文章にしたためたところで同じことでしょう.私の貧弱な表現能力で微妙な感情を言葉にすると,すぐさま実体が逃げていってしまうのです.ここに記録しておこうか,と過去に何度も迷いましたが,結局止めておいたのはそのためです.

11月5日
PRIMA v3.0をリリースしました.これが最後のメジャーチェンジとなるでしょう.単位胞中の規格化電子・核密度に関係するバグ(10月28日の記事参照)を取り除き,画面出力の一部を改善し,標準出力ファイル*.out中の観測・計算構造因子の桁数を一つだけ増やしました.旧バージョンのPRIMAですでに解析ずみだとしても,v3.0で解析し直すようお願いいたします.手数をおかけして,誠に申し訳ありません.またSiやTiO2のように反射数が非常に少ないときは,偽の解に収束する可能性が高まるので,nonlinear single-pixel approximationを使ってはならない,とPRIMA.pdf中に明記しました.

VENUS.tbzも更新しました.VENUS.pdf中の3カ所を修正しました.

11月6日
VICS v2.6.2を含むVENUS.tbzをアップロードしました.Output Window中の等方性原子変位パラメーター(isotropic atomic displacement parameter)を表す'Biso'と'Uiso'をそれぞれ'B'と'U'に変えました.

11月7日
PRIMA.tbzを更新しました.PRIMA.pdfを少々修正しました.

11月8日
大木 寛氏がLinux用VENUS(VEND+VICS+PRIMA)を配布し始めました.VENDとVICSのソースプログラム(PowerPC Mac用Vine Linuxにも通用),Intel CPU専用のPRIMA実行形式ファイルが含まれています.VENDとVICSにおけるファイル入出力GUIにはGTK+-2.0を使っています.Webページに書かれているインストール・実行法は簡潔なものですが,一般にコンピュータのエキスパートが多いLinuxのパワーユーザーでしたら,これで十分でしょう.

11月9日
第15回「固体の反応性」国際シンポジウムXV-ISRSに参加するため,今日から4日間,京都に出張します.VENUSの実演も交えながら英語で1時間も話さなければならないのですが,案の定,ぶっつけ本番同然となってしまいました.かくなる上は,火事場のクソ力を発揮するしかありません.

11月12日
舞子の踊りを拝めるというバンケットは欠席し,スタコラサッサと京都から逃げ帰りました.クソ力をひねり出すまでもなく,つつがなく基調講演を終えました.私は人前で話すのが大の苦手なのですが,よく通る,大きな声で臆することなくしゃべりまくるので,聴衆はむしろ逆な印象を抱くようです.困ったことです.今回は東北大学際セの山根氏,東大生産研の野口氏,京大化研のAlexei(以前のポスドク),ローマ大学のGozzi先生,東工大の脇原先生とじっくりお話ができ,楽しかったです.いずれヨーロッパに出張する際には,Gozzi先生の研究室を訪問させていただくということになりました.

今回の講演用に作ったPDFファイルには,当初,昨年秋の日本セラミックス協会シンポジウムでの依頼講演用に作った図が一枚入っていました.若い女が剣を振りかざしている姿(パソコンゲームの一シーン?)が描かれたELSA社製ビデオカードの箱の絵が中央に置かれています.このようなOpenGL対応ビデオカードさえPCに装着すれば,グラフィック・ワークステーション並の高速3DグラフィックスがVENUSで実現する --- いうことを説明するための図です.しかし結局,この図は削除しました.理由は単純明快.講演中に「やっちまいな!」(11月2日参照)と口走りかねないからです.

11月13日
締切を一ヶ月半近く過ぎた原稿(書籍50ページ弱分)をかかえ,苦吟しています.筆が重く,遅々としてはかどりません(これが10月5日に書いた"超繁忙状態"の一つの原因です).後半部分はコピペの出番がほとんどなく,とくに難渋.高温超伝導騒ぎの頃は,原稿の締切を過ぎると,「お袋が病気なので」とか「ハードディスクがクラッシュしたので」とか言って逃げ回ったものです.そういう苦しい言い訳を聞かされる方も,私の弁解が本当だとはまったく思っていないのですから,必ずしも嘘とはみなせません.ちょうど企業の就職担当が教官の推薦状など信じないのと同じことです.両親がすでにこの世を去り,完璧なバックアップ環境(MO,CD-R/RW,DVD-R/RW,DVD-RAM,iDisk)を整備した今,上述のようなごまかしはもはや通用しません.ということは --- さっさと書くしかない,ということです.といっても,本当に追いつめられないと仕事に身を入れない質なので,修羅場は12月中旬以降に訪れるでしょう.あこがれのスローライフの醍醐味を満喫できるのはいつの日か…

11月14日
PRIMA.tbzを更新しました.PRIMA.pdf中の式(20)の右辺第3項の誤りを修正するとともに,別行立ての数式をamsmathパッケージのalign環境を使って書き直しました.mspace{5mu}や[5pt]まで駆使した労作です.たとえば式(20)の場合は次のように記述しました:

begin{align}
Q (rho + Delta rho ) = &mspace{5mu} Q (rho ) + Delta rho cdot frac{partial Q}{partial rho} notag [5pt]
&+ frac{(Delta rho)^2}{2} cdot frac{partial^2 Q}{partial rho^2} .
end{align}

11月15日
最近リリースされたNewNOTEPAD Pro v1.2.7では,無限回のundo/redoが可能になりました.このソフトは備忘録の作成に重宝しています.

11月16日
以前からずっとそう思ってきたのですが,秘書あるいは学生アルバイトがぜひほしいです.年齢・国籍・学歴・性別は問わず.外国人の場合は英語を話せること.MS Officeは使えない方がいいです.TeXとIllustratorの使用経験があり,PerlあるいはPythonを操れ,Webページ製作のスキルとデザインのセンスのあるMac OS Xユーザーが望ましい.しかし --- そんな人,いるわけないわな.

11月17日
東工大大学院理工学研究科応用化学専攻D3の中山将伸君のWebページ中のResearchにRIETAN-2001T(私が・捨てた・ソフト),VEND,VICSの出力が飾られています.非常に多くの実験・解析・計算手段を駆使してリチウム2次電池材料の固体化学について総合的に研究しており,大したもんだなあ,と感心しました.Webページのデザインも立派です.なお,彼の研究成果の一部は,WIEN2kによる計算結果をVENDで3D視覚化した美しい図とともに分子科学研究所極端紫外光実験施設(UVSOR)の新パンフレット(郵送してくれるそうです)に掲載されました.この見栄えのする図が掲載決定につながったのではないか,とのことです.

11月18日
ボタン型ランチャーSpecial Launch 4Macユーティリティの付録 = Windowsユーティリティに記載しました.DynaBookにインストールしました.Mac OS Xユーザーの目から見ると,安っぽさは歴然としており,ブーイングものです.明らかに,アイコンのピクセル数が少ないせいです.しかし大半のWindowsユーザーは「ちゃんと動けば十分」と主張するでしょう.アイコンが少々崩れて表示されるのと,ファイルを開くには,マウスの右ボタンでアイコンをドラッグ& ドロップし,「このボタンで開く」を選択する必要があるのを我慢すれば,それなりに役立ちます.

11月19日
VEND v3.1と VICS v2.7を含むVENUS.tbzをアップロードしました.これに伴い,Examples.tbzも久しぶりに更新しました(38.2 MBに増量).

今回の改訂では,東大生産研の野口祐二氏と高橋尚武氏(博士課程3年)の要請に応じ,擬ポテンシャル法を採用したバンド構造計算プログラムVASP(Vienna Ab initio Simulation Package.アカデミック価格: $3,000)とABINIT(フリーソフトウェア)で得た計算結果を3D視覚化できるようにしました.大きな波及効果をもつ追加機能といってよいでしょう.私はVASPもABINITも所有していませんが,高橋氏から各種3Dデータを収めたテキストファイルとそれらの内容に関する詳細な情報をすべて提供していただきました.相当な手間がかかったと推察します.野口氏からは受託研究資金を提供していただくことになりました.併せて感謝いたします.

ABINITが出力するバイナリーファイルは,いったんXCrySDenフォーマットのテキストファイルに変換してから読み込みます.ということは,とりもなおさずXCrySDen形式のファイルを出力しうる,すべての電子状態計算プログラムの計算結果を3D視覚化できるということを意味します.XCrySDenはその名が示すようにX-Window(つまりUNIX/Linux)上でしか動かないので,今後はVENUSがかなりのシェアをXCrySDenから奪うだろうと予想しています.本バージョン・リリースのニュースを高橋氏がABINITのメーリングリストに流してくれました.

VENUS.pdfに記載しましたが,VASPで出力したファイル*.vasを使って球棒模型と等値曲面を重ね合わせたいときは,タイトル行の任意の位置に'/ Ba Ti O /'というように元素名を置く必要があります.*.vasからすべての情報を得るためにそうしました.現時点では,VASPの出力する波動関数のファイルのフォーマットが不明であるため,VENDでそのファイルは読み込めませんが,フォーマットが分かり次第,その機能を追加投入するつもりです.Materials DesignのWindows用ソフトウェアパッケージMedeAはVASP用のGUIを提供していますが,VENUSはMedeAとの互換性ももちろん確保しています.UNIX/LinuxでVASPを走らせる場合に比べると,行末の変換(LF → CR+LF)が要らないだけ楽でしょう.

なお,VASPとABINITについては野口氏と高橋氏から基礎的な情報を仕入れました.完全受け売りモードの要約は以下の通り:

  1. VASPとABINITはWIEN2kと同様,密度汎関数理論に基づく第一原理バンド構造計算ソフトであり,原子のポテンシャルを近似する方法がそれぞれ異なる.
  2. ABINITはオーソドックスなノルム保存擬ポテンシャル法を使用している.
  3. VASPはPAW(Projector Augmented Wave)という比較的新しい近似手法を取り入れており,ABINITと比べ計算が圧倒的に速い.
  4. VASPは交換相関エネルギー計算において周期表中の全原子でGGA(一般化密度勾配近似)が使用できるため,全エネルギー計算の精度が高い.
  5. VASPはPAWポテンシャルを使っているため,構造最適化計算に優れている.
  6. 空孔や格子間原子などの格子欠陥や固溶体をP-1の空間群対称をもつ超格子で表現する必要があるのは,いずれも同じである.

こうして両者を比べると,VASPの方がABINITよりはるかに優れているのは間違いありません.野口氏の話ではノート型パソコンでも実行可能なほど速いそうですから,$3,000の値打ちは十分あります.素晴らしいバンド構造計算ソフトなのでしょう.しかし,MedeA(VASPより一桁上の価格らしい)はもとよりVASPでさえ買えない私(フリーソフトウェアの作者は,まず99%貧乏です)は,心情的にABINITを応援したいです.今回のバージョンアップでVASPとABINITの両方をサポートしたのは,私にとって精神的な救いとなりました.ABINITの詳細については次の文献をご参照ください:
三上昌義, 固体物理, 38 (2003) 219.
ABINITはまだまだ発展途上です.今後,順調に新機能が追加投入され,VASPを追い越すことを期待しましょう.

ここまで突き進んでくると,VENUSが有機化合物を対象とする分子軌道法のソフトとしてGaussianしかサポートしていないのが残念です.3Dデータをテキストファイルとして出力してくれる優秀なフリーソフトウェアはないものでしょうか.もちろんバイナリー→テキスト変換ソフトを使用するのでも構いません.テキストファイルの例とフォーマットに関する情報さえ入手できれば,VENDやVICSで入力できるようにするのは比較的容易です.協力していただける人はぜひご連絡ください.

11月20日
昨日更新したばかりのVENUS.tbzを再アップロードしました.ABINITの出力するバイナリーファイルをXCrySDen形式の波動関数のテキストファイルに変換する方法をVENUS.tbzに書き加えました.

Windows用RIETAN-2000パッケージを収めたrietan2000w.tbzを約半年ぶりに更新しました.といっても,ファイル閲覧ユーティリティーless.exe(GNU Utilities for Win32中に含まれています)をv3.81にバージョンアップしただけです.

11月21日
PRIMA.tbzを更新しました.PRIMAにおけるMEM解析のアルゴリズムについて,PRIMA.pdfにことごとく解説し終えました.プログラマーとしての私には「死期」が迫りつつあります.将来,PRIMAを乗り越えるようなMEM解析プログラムの作成にチャレンジする若手研究者が出現することを祈りつつ,何事も包み隠さず詳述しました.この文書を手にすれば,PRIMA相当品を作るのは,さして難しいことではありません.従来通り,ソースプログラムの配布は差し控えます.MEM解析プログラムは小規模で,比較的簡単に書けるわけですから,そこまで徹底したら,過剰サービスの誹りを免れないでしょう.

PRIMAの開発過程では,PRIMA/MEED速度比が鰻登りに上がっていくのを誇らしく思っていました.しかし,PRIMAが完成の域に達した今,むしろ索漠たる気持ちが強いです.充実感など少しも湧いてきません.神業のような技術を編み出して数10倍の速度比を達成したのならともかく,MEEDが稚拙だったにすぎないからです.若い研究者がベテラン研究者を追い越し,馬鹿阿呆呼ばわりし,化石扱いするくらいの方が真っ当な状況と言えます.逆なのでは,やりきれません.見てはいけないものを見てしまった --- という雰囲気.いくら最強MEM解析ソフトだといっても,PRIMAはVENUSの付録に過ぎない,という私の見解は,やはり的を射ています.

11月22日
本Webサイトの移転について以前から迷いに迷っている私ですが,ロリポップが近日中に独自ドメインサービスを開始するようだ,とNoel嬢が先日知らせてくれました(深謝).といっても,どんなURLにすべきか,グッドアイデアが浮かびません.それに引っ越しにはいろいろな手間がかかります.ロリポップ・レンタルサーバーの信頼性も不明です.当面ロリポップをミラーサイトとし,いずれ全面的に移行するするというのが現実的なプランです.しかし,いろいろやらなければならないこと(ここで,論文の査読をサボっていたことを思い出しました)が山積みだし,とにかく面倒くさくて仕方がない.結局,ぶつぶつ言いながら.Macにしけ込んでいることになるのか…

11月23日
11月20日に分子軌道法のフリーソフトウェアの出力を3D視覚化するために協力してほしい,と呼びかけました.しかし,こういう要請は2年以上前から行っているにもかかわらず,協力者は一人も現れません.こちらから某社に協力を打診したこともありましたが,なしのつぶてでした.まあ,世の中,そんなもんでしょう.レスポンスを座して待っていたところで,埒が明きません.VENUSプロジェクトの終焉が近づきつつある今,人を当てにするのは止め,自ら道を切り開くべきです.分子軌道法のフリーソフトウェアとしてもっとも有名なのは,なんといってもGAMESSです.非経験的・半経験的分子軌道法の両方が利用できます.昨年10月8日の本欄にも書いたことですが,GAMESS用公式2D・3DグラフィックソフトMacMolPltはGAMESSの出力ファイルを3Dグリッドデータに変換できます.MacMolPltの3Dデータファイルを読み込めるようにするのは簡単でしょう.Mac上で変換しなければならないのが難点ですが,MacGAMESSを使えば,多少は手間が省けます.

11月24日
本日は,今やピサの斜塔なみに傾いた日本経済のつっかい棒として貢献している産業について語りましょう.

平成13年度のパチンコ業界の売り上げは約28兆円で,これはスーパー,コンビニ,ホームセンター,ドラックストアの売り上げの合計に匹敵します.平成7年のピーク時(31兆円)よりは多少減りましたが,防衛費が5兆円足らずですから,いかにとてつもない規模であるかがわかります.なにしろパチンコ人口は約2000万人なのです.もちろん,こういう状況が好ましいと思っているのでなく,単に実際の数値データを示しただけです.

マンガ,アニメ,ゲームなどのヲタク産業も今や日本の主力産業といって過言でありません.米国へのアニメ作品輸出だけで約5,000億円,鉄鋼の3倍も稼いでいるのだそうです.ちなみに,ウォシャウスキー兄弟とタランティーノは日本のアニメの熱狂的ファンです.ウォシャウスキー兄弟の「マトリックス」三部作にはその影響が歴然と顕れており,「キル・ビル」中に挿入された残酷なアニメは日本の会社Production I.Gが製作したものです.日本のアニメーション映画は世界最高のレベルに君臨しています.

一方,私の研究と関係が深いセラミックス産業は,パチンコ業界はおろかヲタク産業と比べても,市場規模が比べ物にならないほど小さいです.国や企業などが無機材料開発に投じる研究開発費についても同様です.身も蓋もない言い方ですが,これまた冷厳な事実を述べているだけです.

貧困にあえいでいる列外研究者であり,かつエンターテインメント性に富むビジュアル系アカデミック・ソフトウェアの自主開発を熱望していたプログラマーでもある私が,ヲタク産業向け研究開発の成果を取り入れてやれ,と目論むのは自然の成り行きです.VENUSで有り難く活用させてもらっているOpenGL APIや3Dグラフィック用高速ビデオカードは,もともとゲーム・アニメ用ソフト・ハードです.ヲタク産業を支える基盤的技術にほかなりません.膨大な研究開発費が投じられたはずです.もちろん,これらは映画中のコンピュータ・グラフィックの製作にも利用されています.ジェームズ・キャメロンの「ターミネーター」と「タイタニック」が良い例です.OpenGLは文字通り無償で誰でも利用できますから,それを縦横無尽に使いこなす才能さえあれば,素晴らしい3Dグラフィックソフトをライセンス料を払わずに製作できます.つまり,VENUSはヲタク・映画産業に寄生し,そこから豊かな養分を吸収してすくすく成長したのです.言い換えれば,「巨人の肩に乗った」わけです.

といっても,過去はともかく,現在の私はパチンコ,マンガ,アニメ,ゲームにまったく興味ありません.ついでながら,麻雀は卒業しましたし,カラオケは講演以上に嫌いです(音痴ではありませんが…).パソコンはもっぱら実用的なことにのみ使い,Webサイトでは研究用ソフトと有益な科学情報を提供しています.私は,なんの役にも立たないことに意味もなく熱狂する人をヲタクと定義しています.ヲタクの世界から栄養は摂取するものの,自分自身はヲタクから程遠い存在です.しかし,この連休は多少時間的余裕があったので,ヲタク産業の実体について勉強してみました.

鈴木みそ「銭」壱巻(エンターブレイン)は,マンガ,アニメ,コンビニ業界の内幕(とくに金銭面)をマンガで赤裸々に表現しています.ジェニー(お姉さんの幽霊)とチョキン(少年の生き霊)がこれらの業界を案内してくれます.死亡事故の補償費を初めとし,具体的な数字がどんどん出てくるので,説得力があります.たとえば採算分岐部数をクリアしている月間マンガ誌などまずないのに,なんとか利益を確保しているカラクリが明かされます.第7話からはマンビーという少女の生き霊が登場し,コンビニ業界の過酷な実体が暴かれ,「みんな愛が足りませんでした」という不採算家族の崩壊が描かれます.ジェニーとチョキンがマンビーを絶望の縁から救い,家族から離れて一人で生き抜くよう励ます最後の数ページは実に感動的でした.「銭」弐巻が早く読みたい!

11月25日
PRIMA.tbzを更新しました.PRIMA.pdf,section 6中の誤りを訂正するとともに,イタリック・ボールドの書体を使うように改善しました.

11月26日
今日もPRIMA.tbzを更新しました.PRIMA.pdf中の些細な誤りを修正しました.

11月27日
VEND v3.2とVICS v2.8を含むVENUS.tbzをアップロードしました.VASPあるいは商用ソフトMedeAの出力する3Dデータファイル*.vasp(あるいは*.vas)と同じベースネームをもつファイル*.out(末尾が‘/OUTCAR.out’のファイルを改名)から化合物に含まれる元素名を読み込むように改良しました.また11月23日に予告したように,GAMESSの計算結果を3D可視化する機能をVENDとVICSに追加しました.VENDは3Dデータを*.mmpというテキストファイルから読み込みます.一方,VICSは元素記号と原子のデカルト座標をGAMESS入力ファイル*.inpから入力し,原点の位置を*.mmpから入力します.*.mmpと*.inpはMacMolPltを使ってGAMESSログファイル*.logから作成します.Macなしでは手も足も出ませんから,PC GAMESSよりはMacGAMESSのユーザーへのプレゼントという色彩が強いです.

VEND v3.2では,入力ファイルのID番号を並べ替えました.古いVENDで作成した*.vndファイルはv3.2と互換性がなくなったことに留意してください.

今回のバージョンアップに伴い,Examples.tbzも更新しました.ついに50 MB寸前に達しました.Examplesフォルダ内にVASP,ABINIT,GAMESSフォルダを置くよう階層構造を再編成しました.これらのフォルダにはVICSとVENDが読み込むファイルが両方とも置かれています.

分子軌道計算用フリーソフトウェアGAMESSの計算結果を3D可視化するという悲願がついに成就しました.高価なGaussian 03Mopac 2002とは無縁の人々(自分自身も含む)に別な選択肢を無償提供しているGordon研究グループを応援するのは,気分がいいです.そもそも商用ソフトを使おうという人は分子軌道法の専門家ではないわけで,商用ソフトだけが頼りというような特殊な計算を行う機会は少ないはずです.Gaussian 03やMopac 2002などに大金を投じる前に,まずGAMESSを試すべきでしょう.

しかし,達成していない悲願がまだ一つ残っています.等電子密度表面を静電ポテンシャルなどに対応した形で彩色することです.欲求不満が開発終了後に尾を引くのは嫌なので,もう一踏ん張りすることにします.できれば年内に仕上げたいです.

11月28日
今朝,ラジオで,イラクで大量破壊兵器などかけらさえ見つかっていない,という言葉を耳にしました.アメリカという唯一の超大国が大量破壊兵器の在処を未だに突き止められないのはあまりにもお粗末で,唖然とするばかりです.そもそも大量破壊兵器など存在していたのかさえ疑わしいです.存在の確証もないまま戦争に向かって突っ走った,と責められても仕方ありません.北朝鮮という国と同様,イラクに対する米英の戦争と戦後処理は,おバカ映画顔負けのナンセンスな世界です.大義なき戦争に突っ走ったからパンドラの箱が開いてしまったわけです.その後始末のために自衛隊を派遣するのは,「かけら」が発見されてからでも遅くありません.自衛隊員も犬死にしたくないでしょう.アメリカは無意味な戦争は回避し,カリフォルニアの貴重な森林資源を火事から守る方策でも講じるべきだったのでないでしょうか.アメリカにひたすらゴマをすり続ける小泉首相も情けない限りです.

VENUS.tbzを更新しました.VENUS.pdf中の誤りを少し修正しただけです.

11月29日
映画「阿修羅のごとく」が公開されています.私は向田邦子の随筆と小説を3冊ほど読んだことがありますが,達者だなあ,と思う反面,やや退屈でした.私はホームドラマがどうしても好きになれないのです.山口 瞳によれば,向田邦子はチャップリンのことを,それほど糞味噌に言わなくてもいいのに,と思うほど罵倒しまくっていたそうです.私もチャップリンは感傷的かつワンパターンな感じがして高く評価していませんが,「街の灯」の有名なラストシーンには心動かされました.同様に,唯一読んだ向田邦子の小説「あ・うん」でも,たみが水田の麻の夏服を着て,カンカン帽をかぶり,鏡の前で品を作っているところを門倉が偶然目撃し,雷に打たれたようになり,たみとはもう二度と会うまいと固く決意するシーンには感嘆しました.わざわざテレビドラマのビデオを全巻借り,最初から最後まで鑑賞したほどでした.

その少し後だったと記憶していますが,RIETANを使わせてくださいと,ある女性研究者が私を訪ねてきました.RIETANの使用法を簡単に説明し,コピーをお渡しした後,四方山話をしているうちに,彼女も「あ・うん」を読んだことがあるということが分かったので,上記のシーンの素晴らしさを力説しました.しかし彼女は,どうして二度と会わないと心に誓うのかわからない,という顔つきでキョトンとしていました.男の気持ちというものが理解できなかったようでした.やはり,男脳と女脳はかなり違うのでしょう.しかし,それでは,なぜ向田邦子はそういうシーンを書き得たのでしょうか?

向田邦子が飛行機事故のために鬼籍には入りさえしなかったら,「あ・うん」は戦後まで続く大河ドラマになる予定だったとのことです.惜しんでも余りあります.

11月30日
VENUSのページを再編成し,A version history of VENUSというセクションを新設しました.あらためてセクション4〜7を眺め渡し,VENUSが物狂いの所産であることを悟りました.熱狂の度が過ぎています.ほとんどのユーザーにとって過剰性能です.過ぎたるは猶及ばざるが如し.Rubenは温厚な常識人ですから,クレージーな性格は私が付与したに相違ありません.VENUSをリリースして以来,当Webサイトへのアクセス件数が著しく増加したことから判断すると,VENUSが今やRIETAN-2000を押しのけ,物材機構随一の有名ソフトにのし上がりつつあるのは確かです.しかしVENUSを商品化する気がまったくない以上,VENUSミニプロジェクトはもう潮時です.といっても,視覚に訴える等電子密度表面の彩色だけは絶対実現するつもりです.


12月1日
足利銀行の破たん(すでに投入済みの公的資金1359億円は戻らず,新たに1兆円を超す資金を投入),環境観測技術衛星みどりIIの運用断念に続くH-IIAロケット6号機の打ち上げ失敗(633億円の損失),イラク日本大使館員2名の殺害,というように悪いニュースが続いています.

今や紙切れになってしまった足利銀行の株券をお持ちの方々には,お悔やみ申し上げますが,どうしてそんなヤバい代物をさっさと手放さなかったのか不思議でなりません.H-IIAロケットの打ち上げ失敗には,ロケット打ち上げビジネスへの参入が頓挫したJAXAばかりでなく,H-IIAの開発をプロジェクトXで大々的に取り上げて賞賛したNHKもがっくり来ているに違いありません.再放送できませんから.VENUSミニプロジェクト同様,このクサすぎる番組も潮時です.亡くなった外交官の親族の方が殉職を「誇りに思う」と言っておられましたが,美談に仕立て上げていいのでしょうか.私に言わせれば,犬死に以外のなにものでもありません.与謝野晶子と同じように,「君死にたもうことなかれ」と言うのが身内でしょうが…業務としてイラクに赴任するのは仕方ないとしても,無謀な行動は絶対避けるべきでした.要するに,どれも皆,重大なミスが招いた失態というしかありません.

今の私はこういう暗い世相から超然としており,ハッピーです.長いこと探し求めていた鬼に金棒的掘り出し物をついに見つけましたから.当分,コイツが無聊を慰めてくれそうです.

12月2日
VEND v3.2.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.非対称単位内の最大原子数をVICSと同じ1200個に増やしました.またVENUS.pdfを少々修正しました.

12月3日
昨日更新したつもりでいたVENUS.tbzですが,古いままだと大木氏が知らせてくれました.私の作業ミスのためでしょう.申し訳ありませんでした.本日,VENUS.tbzを再アップロードしました.

PRIMA.tbzを更新しました.Manual.pdf,3節の*.memファイルの説明中に,σ(|Fo|)を調節するためのパラメーターSCIOの最適値を求めるノウハウを追記しました.

12月4日
昨日に引き続き,PRIMA.tbzを更新しました.Manual.pdf,3節の*.memファイルの説明中に,単結晶X線回折データのMEM解析におけるσ(|Fo|)の算出法を追記しました.産総研の高橋靖彦氏からご教示いただいた貴重なノウハウです.なんらかの形で情報を公開してほしい,という彼の要望に応えました.

12月5日
12月9日にKEKで開かれる第1回中性子によるセラミックス材料研究会において「MPF法による構造精密化とME-Patterson法による積分強度決定」というタイトルで講演します.質問も含めて25分だそうです.MEM/リートベルト法とMPF法の違いを理解していただくには,くどいくらい丁寧な説明が必要です.Le Bail解析で求めた積分強度のME-Patterson法による精密化は,われわれが世界で初めて実現したのですから,そのパフォーマンスの高さをアピールしたいです.さらにVENUSを用いた3D可視化の必要性と意義についても詳しく話したいです.3月の「三次元可視化技術のインパクト」ミニシンポジウムでは70分間もしゃべりまくったくらいで,話すネタには事欠きません.となると,2時間は欲しいわけで,どうしたらいいのか悩んでいます.要するに,短時間で要領よく話す能力に恵まれていないのに,欲張ったタイトルにしすぎたのです.かくなる上は,駆け足で骨子を述べるしかありません.

12月6日
「キル・ビル」で片目の極悪女エル・ドライバーを演じたダリル・ハンナはジョン・F・ケネディJrとの仲をJrの母ジャクリーン(マリリン・モンローをはじめとするJFKの女性関係に悩まされ通しでした)に引き裂かれ,その後,JFKJrは飛行機事故で死亡した由.派手でセクシーな容姿と裏腹に,暗くシャイな性格で,しかも高所恐怖症兼対人恐怖症だそうです.来春公開の「キル・ビル」パート2でブライドと対決します.

12月7日
NextFTP v4.00がリリースされました.MacintoshやFTPサーバーとの間のファイル転送に頻用しています.今回の改訂によりファイルシステムの階層構造のツリー表示が可能となりました.さっそくグレードアップしました(税込み609円).

12月8日
VICS v2.8.1を含むVENUS.tbzをアップロードしました.Crystallographicaが出力したCIFを正常に読み込めるようにしました.VICSで結晶系を変更すると,Edit Dataダイアログボックスにおいて格子定数α,β,γが不適切な値になるというバグを除去しました.さらに,最大原子数や最大ピクセル数などを変更した実行形式プログラムを得る方法をVENUS.pdfに追記しました.

12月9日
広く使われているフリーソフトウェアを自分のWebサイトで公開し,リートベルト法に関する講習会を何度も開き,そのテキストを単行本として上梓したため,多くのユーザーからメールが送られてきます.相手がエラいお方だろうが,会社員だろうが,学生だろうが,男だろうが,女だろうが,リタイアした人だろうが,わけへだてなく丁寧に返事するよう心がけています.しかし,忙しい時期にあたっていたり,虫の居所が悪かったり,たまたま出張中だったり,私に理不尽な負担がかかるような依頼だったりすると,無視せざるをえません.返答率は3割くらいでしょう.

私からレスポンスがなくても怒らないでください.全部に返事を出していたら,仕事に差し支えるのです.返事がなくとも,目は通していると思っていただいて結構です.

数が多いだけに,時には唖然とするようなメールや?!(ナンジャ,コリャ)というメールも届きます.ほとんどのメールの内容は忘却の彼方に去ってしまいましたが,記憶に留めている内でもっともヘンテコリンなメール三通の概略は次の通りです:

  1. RIETANのReadmeは英語で書かれているが,これではさっぱり理解できないから,日本語に訳してもらえないか,という○×大学学生(男性)からのメール
  2. 何日分かの日記が長々と書かれていて,その後ろにRIETANに関する,とってつけたような質問が一つだけポツンと置かれていた●□大学の女子学生からのメール
  3. これからあなたと……について共同研究したい(研究内容に関する詳しい説明は一切なし).ついては至急,会社の許可を得なければならないので,可及的速やかに応諾していただきたい,という△▼株式会社の研究者からのメール

いずれも面識のない人から届いた,初めてのメールだったのは驚くべきことです.といっても,別に怒ったりはしませんでした.最初のメールは読んだだけに留めましたが,残り二つには丁重に返事しました.私が意外と人格者であることがおわかりいただけたでしょう.

それなりに時間をかけて返事を書き送っても,お礼のメールなど来ないことが多いです.慣れというのは恐ろしいもので,もう不感症になり果てました.

12月10日
昨日KEKで開かれた第1回「中性子によるセラミック材料研究会」でMPF法とME Patterson法について講演してきました.やはり25分ではまったく時間が足りず,駆け足で概要を述べたに留まりました.フーリエ合成をMEM解析に置き換えたに過ぎないMEM/リートベルト法を電子・核密度分布の決定に使うことの愚かさ,MEEDが極度に遅い理由,さらにはMEEDの深刻なバグを指摘するとともに,過去にMEEDで解析したデータはすべて再解析すべきだということを強調しておきました.これまでMEEDを使って得られた成果の数を考慮すると,衝撃的な事実を公表したことになります.つい最近も,MEEDで解析した結果を発表した論文を見かけました.口をつぐんでいると,今後もMEEDをバグ入りのまま使う人がいるでしょうから,公式に発表した(KEKからプロシーディングが発行されます)のは適切な措置だったと信じています.

最後の質疑応答で,中性子回折用ソフトウェアの開発についてコメントを求められたので,将来,我が国では粉末中性子回折用ソフトはタンパク質や単結晶の構造解析ソフトと同じ道をたどる(外国製ソフトに席巻され,国産ソフトは壊滅状態となる)という暗い未来を予言しました.会場にはきまずい雰囲気が漂いました.次世代パルス中性子散乱プロジェクトは結晶学の国産ソフトなど開発しないという方針ですし,中性子回折の業界には結晶学とプログラミングの両方に精通した人材が皆無なのですから,巨額の予算をつぎ込んだ末,めでたく完成した施設が,よく言えば中性子回折データの大量生産工場,悪く言えば結晶学の墓場となるのは必定です.私には工場も墓場もおぞましいだけです.優秀な結晶学者はそういう外見だけ立派な場では働こうとはしないでしょう.データさえ測定できりゃー文句あるめえ,という装置偏重の弊害が何十年にもわたって尾を引くのは間違いありません.さらに,リートベルト法のような60年代の終わりの頃考案された古典的な構造精密化法のソフトが国産品である必要はとくにないが,MPF法のような我が国で産み出された独創的な解析法は大事に育てていくべきだ,と付言しました.

ただし,私には育ての親たる資格はありません.RIETAN-2000やVENUSを私自身が積極的に活用して成果を挙げていく気は無きに等しく,万人に対して両者を公開し,どんどん利用するよう呼びかけているのですから.私の役目は土を起こし,苗木を植えたところで終わりです.木に水をやり,手入れをし,大輪の花を咲かせるのはユーザーです.

斎藤緑雨が樋口一葉の諸作を「泣きての後の冷笑」と看破したという有名な逸話がありますが,私の講演と上記のコメントは「汗水流した後の冷笑」にほかなりません.何に汗水たらし,何をあざ笑うのか --- あらためて申し上げるまでもないでしょう.

12月11日
VICS v2.8.2を含むVENUS.tbzとExamples.tbzをアップロードしました.前者では非対称単位内の最大原子数を3000に増やしました.後者ではExamplesVASPフォルダ中のファイルの名前を修正しました(Ti → Ta).

12月12日
PRIMA v3.0.1を含むPRIMA.tbzをアップロードしました.負の干渉性散乱径をもつ元素を含み,かつ対称心をもたない結晶の中性子回折データを解析する際に顕在化するバグを取り去りました.障害を報告していただいた東京理科大学理工学部の井手本 康氏に感謝します.二つのPDFファイルも更新しました.格子面間隔が大きくなるにつれて消衰効果が顕著になるTOF粉末中性子回折はMEM解析に適さないことをPRIMA.pdfに明記しました.

12月13日
12月1日にみどりIIの運用断念とH-IIAロケットの失敗に対し苦言を呈したばかりですが,12月9日には火星探査機「のぞみ」の火星周回軌道への投入を断念したそうです.桁違いの血税が続けざまにブラックホールに吸い込まれたにもかかわらず誰も責任をとらないのですから,気楽なもんです.JAXAが民間企業だったら,株価が暴落し,リストラの嵐が吹き荒れるところでしょう.ボーナス袋に印刷されていた税額を眺めながら,そう思いました.

12月14日
VENUSが急速に広まりつつあり,賞賛の声をしきりに聞きます.拍手喝采を浴びているといって過言でありません.とりわけ学生や若手研究者に受けています.東北大学金研の村田浩一君のようにVICSの使い方のWebページを作成した学生もいます.自分の感性と趣向を天こ盛りしたソフトが若者を感動させていることを素直に喜んでいます.

さらに,昨年後半あたりから第三者がMPF法を使い始めたのも名誉なことです.12月9日に開かれた「中性子によるセラミック材料研究会」では.MPF法による解析の結果が数件発表されていました.MPF法は5年前に作成したRIETAN-98に組み込まれていたくらいですから,けっして最新技術とは言えません.いくら洗練されたテクノロジーを確立し宣伝しまくっても,それだけでは広まっていきません.VENUSという起爆剤が必要不可欠でした.VENUSの出現により,超高速MEM解析と電子・原子核密度の3D可視化をパソコン上で手軽に実行できるようになったことがMPF法の普及を促したのは明らかです.MPF法はMEM解析を複数回繰り返しますから,MEM解析の劇的な高速化はMPF法の普及にとって強力な追い風になりました.こういうふうに魅力的な大道具・小道具を取り揃え,「もってけ,泥棒」と叫ばないと,人は飛びついてくれません.過保護といえば過保護ですが,今時,高度な科学技術ソフトを作る意欲と能力と時間のある人はあまりいませんから,仕方ないでしょう.

VENUSはWIEN2k,SCAT,VASP,ABINITなどの電子状態計算プログラムで得た結果の可視化にも利用されています.これらのソフトからの出力をVENDとVICSで入力する機能は若い人たちと密接にコンタクトをとりながら組み込み,改良してきました.2次元の等高線図では理解しがたい複雑な三次元物理量分布を可視化することの意義を若手研究者が認めてくれるのはうれしい限りです.

VENUSのブレークは光栄の至りですが,自分の体も心もブレークしつつあるのは憂うべき事態です.明らかに,1997年以降の,なりふり構わぬプログラミング最優先生活が祟っています.そもそも巨大なソフトを開発するのは比較的若い人がやるべきことでしょう.無理を承知で人柱となっているのだから,我と我が身が壊れるのは当然のことです.今年初めは腰痛で長いこと寝たり起きたりとなり,一時はヨーロッパ出張をあきらめかけたほどでした.慢性的に眠りが浅く,一年を通じて目の状態は最悪でした.精神状態に至ってはダルそのもの.本掲示版のような駄文を書き散らすのはお手の物ですが,フォーマルな論文や解説を書いたり,長時間の講演や講義を行ったりするのはきついです.

それでもなんとか一つづつ片づけて来ましたが,心身ともに擦り減った感があります.今年度は無理ですが,来年度に入ったら,まず休養を十分取り,夏以降はひたすら充電に努め,以前のパワーを取り戻したいです.しかし我が身がリチウム二次電池のように充電可能なのかどうか,疑問の余地があります.電極そのものが回復不可能なほど劣化しているような気が…

12月15日
今朝,居室のハブが壊れたことがわかり,交換しました.4年ほど使ったことになります.3才半のPower Macintosh G4はカーネルパニックを起こす頻度が次第に高くなってきています.内蔵CDドライブは大分前から読み取り不能ですし,急激に老朽化が進んでいます.これも我が身同様ブレークする可能性が高く,どちらが先に壊れるか見ものです.

12月16日
PRIMA.tbzをアップデートしました.PRIMA.pdfに少しだけ書き加えました.

12月17日
昨日に引き続き,PRIMA.tbzをアップデートしました.ふと気が付いたら700 KBになっていました.PRIMA.pdfを再編成し,Section 10としてOn powder diffraction data used for MEM analysisを追加しました.ここには,面間隔の大きい反射はすべて含まれている必要があること,S/N比と計数統計が十分高い強度データを測定すべきこと,消衰効果が無視できないTOF粉末中性子回折よりは角度分散型中性子回折を使うべきだということを略述しました.またManual.pdfも少しだけ修正しました.これで両文書ともほぼ完成の域に達したと思います.

VICS v2.8.3を含むVENUS.tbzもアップロードしました.ICSD形式の結晶データファイルにおいて,空間群名の後ろに"R"(rhombohedral lattice)が付いていると,正常に読み込まれないというバグを取り去りました.

12月18日
VICS v2.8.4を含むVENUS.tbzを更新しました.結合を円柱で表す際,一部の結合が表示されないことがある,というバグを修正しました.この障害をご報告いただいた東京大学生産技術研究所の野口祐二氏に感謝します.VENUS.pdfも更新しました.

この配布ファイルに含めたVENUS.pdfは75ページもあります.RIETAN-2000の公式英文マニュアルが未だにないのに比べると,ずいぶん依怙贔屓しているように見えることでしょう.RIETAN-2000開発時は,使命感から意地になって苦役をこなしているという暗い雰囲気が漂っていました.RIETAN-2000のことを「多頭の怪獣」と形容したこともあるくらいですから,作者自身があまり愛していないんです.すでに200報近くの論文に貢献しているのに,ここまで冷遇されるとは,哀れなやつです.一方,VENUS(PRIMAを除く)は自分自身が楽しみながら拵えました.人間,好きなことに取り組んでいると,非常に手間のかかることでも面倒くさくないものです.連日の配布ファイル更新も平気の平左です.

思い返せば,この10数年間で,自らオリジナルな口頭発表を行ったのは,恥ずかしながら,わずか2回に過ぎません.講演嫌いもここまで徹底すると,立派です.その内の1回がVENUSの開発に関する昨年春の口頭発表でした.今年春のセラ協年会における「三次元可視化技術のインパクト」ミニシンポジウムは私が取り仕切りましたが,完成途上のソフトなのにもかかわらず広い会場を半日も占有し,お手盛りで自分に70分(!)もの講演時間を割り当て,ミニシンポジウムの宣伝ビラも一人で書き,ハイエンド・ノート型パソコンと高解像度液晶プロジェクターを車で運び(産総研の高橋さん,ご苦労様でした),実演入りでしゃべりまくりました.人が大勢集まる場が大の苦手,シャイで引っ込み思案で人見知りの激しい私がかくの如く捻りはちまきで奮闘したのですから,いかにVENUSの開発と普及に燃えていたかが理解できるでしょう.

なお,今年中にVEND v4.0が登場します.現在,鋭意開発中です.自分自身がなによりもv4.0のリリースを鶴首しています.

■ 2003年12月19日(金)

12月9日に開かれた第1回「中性子によるセラミック材料研究会」ではRIETAN-2001TにMPF解析を組み込んだ,という発表がありました.私はこの発表の内容には首をかしげざるを得ません.志が低すぎますし,第一,TOF粉末中性子回折やRIETAN-2001の問題点をほとんど理解していないのではないかとさえ疑っています.使い物にならないことは私が保証します.「君たち,ちゃんと仕事をしたまえ.」と苦言を呈したいです.

TOF中性子回折では格子面間隔dが大きくなるにつれて消衰と吸収が顕著になります.長波長の中性子を計数するためです.dの大きい反射の積分強度を高確度で求めることはMEM解析や未知構造解析において本質的に重要ですから,消衰・吸収効果は両者にとって大敵です.RIETAN-2001Tは到底「補正」とは言い難いような便法で消衰効果を表現しています.ここをSabineの手法に置き換えれば,少しはましになるでしょう.試料で100%充填されているわけでないので,吸収を厳密に補正するのは困難です.Vega/SiriusおよびRIETAN-2001Tをマルチバンク対応にすれば,dの大きい反射に対する波長を短波長側にシフトできます.しかし,未だにマルチバンクのデータを同時に測定できない体たらくでは腕のふるいようがありませんが,ソフトの改良はそう難しいことではありません.そういうところが現状のままなのでは安直すぎます.古い革袋に新しい酒,ではバランスがとれておらず,実用から程遠いと言わざるを得ません.

たとえ単結晶回折データを使ったとしても,消衰は物理的に意味のないパラメーターで表現する必要があります.おまけに,単結晶を使うと消衰効果が無視できません.角度分散型粉末回折には消衰を完全に無視できるという巨大なメリットがあります.これまで我が国で,MEMが角度分散型の粉末X線・中性子回折データにだけ適用されてきたのは,消衰効果を避けるためです.消衰効果はTOF粉末中性子回折データのMEM解析における泣き所です.TOF粉末中性子回折は原理的にMEMと相性が悪い --- これはTOF粉末中性子回折から私が遠ざかった原因の一つでもあります.相性が良かったら,とうの昔にTOF中性子回折用RIETANにMPF法を組み込み,それと関連した部分を徹底的に改良していたでしょう.TOF中性子回折では,所詮,MEMは不完全な構造モデルの修正くらいにしか使えない --- というのが私の見解です.

実のところ,RIETAN-2001Tとは名ばかりで,RIETAN-2001T ≒ RIETAN(2001ー5)T = RIETAN-96Tというのが実体です.引用すべき文献として私が指定している論文を見ればすぐわかるでしょう.私がRIETAN-2000やVENUSの開発に没頭していたため,7年間も放置した末,ついに見切りを付けたソフトなのです.私一人であれもこれもできない以上,私の心中で優先順位が低いものはリストラせざるをえません.

RIETAN-2001Tのメンテナンスをやめた後,気づいたバグも2, 3あります.恐るべきことに,内一つはMEM用データそのものである観測積分強度の計算に関するバグなのです!バグの原因究明に時間がかかりそうなので,忙しさに紛れ放置したままRIETAN-2001Tの終焉を迎えました.幸い,無保証・無サポートのフリーソフトウェアなのですから,私にはなんの責任も義務も生じません.廃棄処分したソフトのバグ退治に精を出すのはナンセンスです.

この数年間,私自身はRIETAN-2001Tをほとんど使っていませんから,私が気づいていないバグはまだまだ潜んでいると思われます.小規模で,枯れたソフトとみなしていたMEEDにさえ深刻なバグが含まれていたくらいですから,事実上一人で開発した長大なソフトにバグが忍び込むのはやむをえません.RIETAN-2001Tが修正されないまま,今後も使われ続けたとしたら,MEEDの轍を踏んでしまいます.私がこうしてRIETAN-2001Tの問題点と危険性について警告した以上,ユーザーの失態となります.

たとえ「免罪符」をもっていたとしても,賞味期限切れで廃棄したソフトが今後も長く使われるようだと,作者たる私は恥辱に堪えなければなりません.よもやRIETAN-2001Tという亡霊が「結晶学の墓場」(12月10日参照)に出没することはないでしょうが,一刻も早くKENSから消え去ってほしいです.こういう気持ちはプロフェッショナリズムの権化でないと理解できないでしょう.小説家でも,不出来な作品が全集に収録されるのは嫌なはずです.それと似ています.ゴミ捨て場からRIETAN-2001Tを拾って来て使うような,作者の意に反する心ない行為は止め,速やかに別なソフトに乗り換えるようお願いします.

原研改造3号炉にILLのD20のようなPSDを使った粉末回折装置が建設されるたらいいのになあ,とつくづく思います.MPF法には角度分散型回折法がよく似合います.

■ 2003年12月20日(土)

私が情け容赦なくリストラする対象は,RIETAN-2001Tだけに留まりません.来年度からTOF粉末中性子回折装置のグループもやめることにしました.未練など毫もなし.ほとんど情熱と興味が失せており,大分前から事実上活動を停止していました.潮時 --- というより,遅すぎたという感が否めません.今にして思えば,RIETAN-96Tが完成した7年前に腐れ縁を断ち切るべきでした.

所属学会も例外ではありません.昨年に引き続き,今年も会費だけ払い続けている学会を一つ脱会しました.ときたま送られてくる学会誌をパラパラめくった後ゴミ箱に捨てていただけなのですから,会員であることの意義はほとんど失せていました.

ついでにもう一つの団体からも抜けることにしました(子細は省略).要するに三つとも,自分の関心あるいは価値観の外側にある組織と縁を切るだけのことです.失うものは何もありません.

■ 2003年12月21日(日)

客人が私の部屋にお見えになると,古ぼけたデスクトップパソコンが二つ陣取っているのに驚愕するでしょう.なんと,いずれもOpenGL加速機構つきのビデオカードすら装着していないのです.Power Mac G5を最近買ったポスドクが極り悪がっていました.来年度こそ,これらを買い換えたいです.Macは3.0 GHzのG5,Windows機は3.6 GHzのPrescotのハイエンドマシンがぜひほしいです.これらを弄っていれば,急速充電できそうな気がします.

■ 2003年12月23日(火)

来年登場する樋口一葉の肖像入り新5000円札の発行は印刷技術上の問題で延期されました.5000円札には「文芸倶楽部」閨秀小説号の表紙を飾った有名な写真が使われますが,24才で亡くなった一葉の顔はつるつるしていて,髭はもとより皺もないので,偽造防止が大変なのだそうです.手当たり次第に金を借りまくり,怪しげな占師(久佐賀義孝)にまで金をせびり続け,借りた金もなかなか返そうとしなかったというほど困窮を極めた一葉の肖像が紙幣に印刷されるのは皮肉なことですが,そこまでていねいにメーキャップを施してもらえるとは幸せ者です.一葉の容姿については,同時代人の証言が多数あります.小柄,色黒で,髪の毛が薄く,鼻がとがっていたが,目に強い光があった,といった点が共通しています.美人だったと言っている人は皆無です.一葉の師匠である半井桃水は後年,「胃病やみみたいな顔色で,きたねえ人だった.恋してもらったそうだけど,およそ相手にはならないような人だった.」と述懐しています.かつての恋人とみなしていたら,ここまで言うとは思えません.結局,一葉の片思いに終わったのでしょう.可哀想な一葉!しかし,上記の写真や鏑木清方の肖像画を眺めたならば,誰でも清楚な佳人というイメージを抱くにちがいありません.病苦の末に若くして窮死した薄幸の芸術家はどうしても美化されてしまうのでしょう.実際の人物はさておき,聖処女として崇め奉りたくなる,という方が正確かもしれません.

■ 2003年12月24日(水)

最近,ピアノ・ソナタ第15番 K545の第2楽章がいたく気に入り,繰り返し聞いています.ソナチネ・アルバムにも入っているので,ピアノを習ったことのある方はご存じでしょう.単純で,愛らしく,優雅で,ほのかに寂寥感の漂う曲です.昨日書いた鏑木清方の肖像画「一葉」(針仕事の手を休めている姿)からも同様な印象を受けます.今の自分には,こういう「秋の想い」というべき雰囲気が一番しっくり来ます.

■ 2003年12月25日(木)

今日はクリスマスですから,Noel嬢の誕生日です.ハッピー・バースデーと唱えつつNoel Cafeを訪問してみました.開設以来4周年だそうです.Hitori-gotoを読んでいたら,PHP/MySQLでログを取るようになると,今更CGI(Perl)なんてやる気がしない,と書かれていました.すげー.負けました.私はLe Bail解析を自動化したとき,AppleScript+Perlでかなり長いスクリプトを苦労して作成したことがありますが,PHPもMySQLも知りません.一度こんなセリフをポツリとつぶやいてみたい.優秀な若者は未経験の技術もなにげなく身につけちゃうんですね.流体工学の研究で忙しそうですが,がんばってください.

■ 2003年12月26日(金)

VEND v4.0を含むVENUS.tbzを公開しました.VENUS正式版リリース以来最大級の記念碑的アップグレードです.等値曲面を別な3Dデータの値に応じて彩色する機能を追加しました.詳しくはVENUS.pdfのVEND編,4.2.6をお読みください.二つの物理量を曲面の形と色で可視化するという悲願をついに達成しました.テスト用3Dデータファイルをお送りいただいた東大D3の高橋尚武君とA子さんに感謝します.マニュアルの記述はごく短いですが,相当な時間と労力を費やした末,ようやく完成させました.さらに,3DデータをVEND 3D data formatで*.3edというテキストファイルに出力できるようにしました.東工大D3の中山将伸君からの要望にお応えしました.

■ 2003年12月27日(土)

VEND.tbzを更新しました.contrdの新バージョンが入っています.contrdが出力できる3Dデータ点数が一方向あたり101ピクセルでは少なすぎる,という姫路工大の藤本亜由子さんの訴えに耳を傾け,VENDと同じく,一方向あたり260ピクセルに増やしました.総ピクセル数は17 576 000にも達します.お忙しい中をcontrdの改良にご協力いただいた阪大の水野正隆氏にお礼申し上げます.この新バージョンが藤本さんの卒業研究の一助となればうれしいです.

今年はSCATに関係したVENUS/contrdのトラブルにかなり悩まされました.こんなに手こずるとは予想していませんでした.水野氏の力も借りて地道に一つずつ解決してきたのは,不具合や改良を訴えてくる学生たちを支援するだけでなく,国産電子状態計算ソフトにも健闘してほしいと願っているからです.

前方を眺めると,Noel以下,5人の学生の名前が続けざまに記されています.VENUSのリリース以来,学生たちから届くメールが急増しました..RIETAN-2000を一度も使った経験のない学生がほとんどのようです.複数の学生たちからのファンレターによれば,私はVENUSを拵えたヒーローとして彼らの周辺では勇名を馳せている,とのことです.誠に名誉なことですが,ヲジが20代の若者を何人も相手にタイムシェアリングしていたら,寿命が確実に縮まります.ほどほどにしなければいけません.「お前はもう死んでいる.」という不気味な声もどこかから聞こえますが…

■ 2003年12月28日(日)

数日前にTOF粉末中性子用RIETAN-2001Tに関するお知らせとお願いのWebページを新設しました.RIETAN-2001Tの廃棄とその理由について述べ,今後は他のリートベルト法ソフトで解析するよう要請しています.RIETANを使いこなしている人だったら,さほど手間取らないでしょう.これでまた一つ肩の荷が下りました.

上記のページの内容に対し,意見・批判・質問がありましたら,私に直接メールをお送りください.

今年は元旦から病魔に襲われたりして,気分が晴れず,ずっと意気消沈していましたが,TOF粉末中性子回折と腐りかけたソフトに見切りを付けたとたん,元気がもりもり湧いてきました.これで,すがすがしい新年が迎えられそうです.

急速充電のために最新ハイエンドパソコンなどは不要でした(12月21日参照).お金で買える物を手に入れたところで,溌剌とした心を取り戻せるはずがありません.やはり「したくないことはしない一生であれ」という山田風太郎先生のお言葉に嘘偽りはありませんでした.したくないことにそっぽを向くことの大切さを長年かけて学んだ訳ですが,授業料は恐ろしく高くつきました.

JAXAがH-IIAロケット6号機打ち上げに失敗した原因は固体ロケットブースターのうち1本が分離できなかったことでした.使用済みパーツの切り離しに失敗すると,命取りになります.RIETAN-2001Tという無用の長物の切り離しにより,私ははるかに遠くまで飛翔しうるに違いありません.

おぞましいということでは装置グループ(中性子散乱研究施設)と双璧のMicrosoft Wordは,残念ながら捨てるわけに生きません.Wordで書くように強制される原稿や書類が多いですし,圧倒的多数の一般大衆がこの極悪ソフトを好んで使っている以上,おつきあいしないと生きていけませんから.けばけばしいGUIのWindowsについても同様です.一方,装置グループから足を洗ったところで,実害はほとんどありません.いまさら粉末中性子回折データをリートベルト法で解析して論文を書いたところで,よほど画期的な新物質を扱うのでない限りインパクトはありませんしね.遅きに失したとはいえ,所属したところでほとんどメリットがない装置グループを見捨て,腐れ縁を断ち切ったのは,誠に賢明な「処世術」でした.

■ 2003年12月29日(月)

最近購入した20.1型液晶ディスプレイEIZO FlexScan L885は,以前の19型ディスプレイに比べて情報量が段違いに違います.これを接続した古色蒼然たるPower Macintosh G4は科学技術計算に使っているわけではありませんから,トラブルなく動いてくれさえすれば十分という気がします.

FruitMenu v3.2.1がリリースされました.私はFruitMenuを日夜使いまくっており,もうこれなしでは生きていけません.たった$10とは安すぎます.

■ 2003年12月30日(火)

VENUS.tbzを更新しました.VENUS.pdf中のAppendix Aを項目に分け,読みやすくしました.ここがだらだら長いのは前から気になっていました.これで本年の配布ファイル更新は終了です.

九分通り活力を回復した状態で今年の掲示板バックナンバーを読み返すと,己の信念と実行力とエネルギーと持続力に圧倒されます.プログラミングは予想外にはかどったし,VENUSは大ブレークを果たしたし,「粉末X線解析の実際」の売れ行きは相変わらず衰えていないし,基調講演二つと依頼講演三つは無難にこなしたし,RIETAN-2000の開発でセラ協から表彰されたし,MPF法はしだいに普及してきたし,本Webサイトの人気はいよいよ高まるばかりだし,Le Bail法とME Patterson法を併用した新手法(本邦初演でなく世界初)により未知構造の解析に成功したし,これ以上を望むのは贅沢というくらい順風満帆の一年でした.手放しで自賛しても,顰蹙を買ったりはしないでしょう.VENUS正式版の流布を通じて3D可視化の重要性を広い分野の人々に認識せしめたことが本年の最大の業績です.我が国ではゲームソフトだけが孤軍奮闘しているわけではない --- という実例を提示し得たと自負しています.

■ 2003年12月31日(水)

大晦日にあたり,2003年,私のお気に入りベスト10を発表します:

自作ソフトのVENUSを含めるとは手前みそもいいところですが,特大の場外ホームランだったと自負しています.先行バージョンを収録したCD-ROM版「セラミストのためのパソコン講座」はセラ協の出版物としてはかつて類をみないほどの売れ行きだった,と事務局の方が喜んでいました(出荷1年後の12月25日に完売しました).4月に正式版をリリースした後も,絶え間なくバージョンアップを続けたことも自己評価しました.付録(PRIMA)も凄すぎますしね.

Safariの高速性は立派ですが,文字化け対策と動作の安定化が課題です.まだまだ荒削りです.「新英和中辞典」ではトラウマを抱えています.私が貧乏学生だった頃,家庭教師として英語を教えた高校3年生のお嬢様は,自分でこの辞書(三訂版)には手を触れようともせず,全部私に引かせました.かくの如き屈辱に耐え,お嬢様を志望校に見事合格させた若き日の私は立派でした.こうして人格を磨いたのが災いして,後年,フリーソフトウェアの作者なんぞに零落れてしまったわけです.ところで,CD-ROM版「新英和中辞典」はいつ発売になるのでしょうか.一澤帆布のカバンの通信販売はなんと4ヶ月待ちで,現物が届くのは2月です.「キル・ビル」Part 2,来春の公開を心待ちにしています.オヂが中島美嘉のCDをもっている深い訳については,勝手に想像してください(笑).日立とNECの水冷パソコンは静粛性も重要な性能の一つであることを示してくれました.電波時計は気に入ったデザインの製品が発売になったら,即購入するつもりです.最後の思わせぶりな伏せ字は一体なんでしょうか.単にお気に入りが9つしか思い浮かばなかったのを誤魔化しただけなのでしょうか.それとも公言を憚るような字句が秘められているのでしょうか.いずれ私自身がその意味を忘れ去り,永遠の謎となるでしょう.