掲示板バックナンバー: 2002年


1月5日
Mac OS用RIETAN-2001Tをほぼ1年ぶりに更新しました.多少のバグを修正し,角度分散型回折法用RIETAN-2000と同様,Carbonアプリケーションとしました.UNIX版は配布しません.KENSのSiriusとVegaで測定したTOF粉末中性子回折データの解析にしか使えない,一部の人向けのソフトなので,Mac・Windows版だけ提供すれば十分と考えています.

1月6日
Mac OS用RIETAN-2000/2001Tパッケージを更新しました.AppleScriptで書かれたスクリプトExriet(TOF版の旧名:Exran)が安定に動くようになりました.以前のExrietには,(1) 初回の起動時にMacPerlの所在場所を必ず聞いてくる,(2) rietanが*.xyzと*.patを作成したとしても,それぞれorffeや Igor Pro(あるいは gnuplot)が自動的に起動されないことがある,という未解決の不具合がありました.(1)は未サポートの逐次Le Bail解析のためのコードが入っているために発生する症状です.(2)は再現性がないので,ファイル更新の日付・時間に関するAppleScriptのバグにより生じていると思われます.このバージョンで,これらの障害を完全に解決しました.1年半の長きにわたり,ほとほと手を焼いてきたAppleScriptですが,Exrietのポリッシュアップはこれで一段落したとみてよいでしょう.

1月8日
昨日,容量80 GBの内蔵ハードディスク(Seagate バラクーダシリーズ,ST380021A,80 GB,7200 rpm,流体軸受)をPower Mac G4(500 MHz X 2)に取り付け,そこにMac OS Xをインストールしました.Aquaインターフェースの美しさと楽しさには,すっかり魅了されました.CPU二つがほぼ平等にプロセスを処理しているせいか,そう重いという感じはしません.このような華やかなGUIを一度堪能してしまうと,貧相で見栄えがしないMac OS 9.Xにはもう戻れません.ましてエンターテインメント性が欠如しているWindowsにはできるだけ触れたくありません.頻繁に使うソフトのうち,Adobe IllustratorとMS OfficeのMac OS X版は注文中ですが,Jedit4,Arena Internet Mailer,Internet Explorer,Fetch,gnuplot,bin-tar-gzip,GraphicConverter,DragThingはCarbonアプリケーションがすでにリリースされており,Netscape Communicator 4.79,Igor Pro,ランダムハウス英語辞典はClassic環境下で安定に動くので,今後,Mac OS Xに一気に移行していくつもりです.痛いのは,現時点でMOのドライバが手に入らないことです.B'sCrew のMac OS X用バージョンが早く発売になることを切望しています.

1月12日
東京理科大での徹夜に近い奮闘の末,2月初めに刊行予定の「粉末X線解析の実際」の三校を校正し終えました.これをテキストとして配布する二つの講習会への参加申し込みは予想を超えるほど順調に増え続けており,胸をなで下ろしています.最終的には満員御礼になる見通しです.結果よければすべてよしで,これまでの労苦は報われたといってよいでしょう.Case Western Reserve Universityの赤瀬善太郎氏がPatMill(パットミル)を公開されました.ActivePerlgnuplotの組み合わせでIgor Pro用の*.patを自動的に表示させる力作です.Windows・UNIX版があります.再編成したRIETAN-2000のWebページの12. Auxiliary softwareでリンクを張りました.また独田地獄斉のローマ字名をJigoku-sai DokudaからJigoku-sai Dokutaに改めました.うかつなことに,独田がDoctorの当て字であるという重大な事実に今日,ようやく気づきました.

1月17日
Absoft Pro Fortran for Mac OS X 7.0をインストールし,さっそくRIETAN-2000をコンパイル・リンクしてみました.案の定,すぐさま異常終了しました.いろいろコンパイル・リンクの設定を変えてみましたが,てこでも動きません.残念至極です.MRWE関連部分に不具合があるようです.X線分析講習会が本日,満員御礼になったとの知らせが届きました.同じ書籍を配布する日本結晶学会講習会「X線解析の実際」ともども,化学会館ホールを満杯(120名収容できますが,講師の席なども確保するため,111名に留めました)にするという快挙をあっさり成し遂げたのは誠にめでたいです.この不景気の最中に,これほど大勢の方々に参加していただけることを心から感謝します.今回はこれまで人任せだった実習も担当しなければならないので,相当きついです.あまり自信ありませんが,がんばるしかありません.

1月19日
これまでのところ,クラシック環境は何度もクラッシュしましたが,Mac OS X自身は一度たりとも落ちたことがありません.つまりクラシック環境と心中することは絶対ないということです.Mac OS 9.X以前の惨状を思い起こすと,夢のようです.ちなみにクラシック環境上でよく昇天する(地獄に堕ちる?)代表的ソフトはMicrosoft Word 2001です.環境が変わっても,相変わらず悪役を演じてくれます.その後も,RIETAN-2000をMac OS Xネイティブアプリケーションとするべく奮闘しました.結局,Absoft Pro Fortran for Mac OS X 7.0のMRWEアプリケーション作成機能に深刻な不具合があり,GUI上で動くプログラムは現時点では得られないことが判明しました.一方,Terminal(FreeBSD互換のDarwin)用のRIETAN-2000は問題なく走ります.しかし,テキストファイルの行末をすべてLFとし,UNIXのコマンドやemacsを使いこなさなければならないということになると,どれだけユーザーがいるか,疑問です.ご意見,ご要望をお聞かせ願えれば幸甚です.自分自身は,UNIX環境が利用できるようになったことを機能の増強とみなし,大いに歓迎しています.少なくともCharacer User Interfaceでは,あの貧弱なコマンドプロンプトしか使えないWindowsを大差でリードしたといって過言でありません.またAquaインターフェースの楽しさと美しさは,Windowsでは到底味わえません.

1月20日
独田地獄斎選2001年の厳選ツール」にRIETAN-2000が選ばれていることを知りました.独田氏のような名プログラマーに選んでいただいたとは,名誉なことです.Cygwinの放逐とgnuplotとのドッキングが評価されたのではないでしょうか.リストを眺め渡すと,知らないソフトがほとんどです.いかにWindowsのことに無知だかが,よく分かりました.ご自分のソフトを推すとは,すごい自信です.

1月28日
結晶構造と電子・核密度分布の可視化プログラムのα版が出来上がりました.まだ荒削りですが,OpenGLの切れ味は相当なものです.グラフィックワークステーション並みのスピードでこのソフトを操りたくなり,nVIDIA Quadro DCCプロセッサを搭載したELSA GLoria DCCを発注しました.32億テクスチャマッピングピクセル/秒というプロ用ビデオカードです.これを使って,カーボンナノチューブの中をまっしぐらに突き抜けてみたいものです.


2月2日
紆余曲折を経た末,RIETAN-2000の完全なカーボン化をようやく果たしました.Mac OS X上でclassic環境はもはや不要です.実行形式プログラムをダブルクリックするとOpenダイアログが現れ,*.insファイル指定後も安定に計算し続けます.華麗なAquaインターフェース上でRIETAN-2000が走るさまを眺めるのは最高です.X線分析講習会が終わったら,早速,配布することにしましょう.CarbonアプリケーションのIgor Pro 4.05が使えるようになり,Mac OS Xバージョンの重要性がいよいよ増しています.AppleScriptで書かれたスクリプトExrietがまだ使えないのは誠に残念ですが,いずれなんとかするつもりです.昨日,本ホームページは173アクセスという,これまでの最高記録を達成しました.これからも多くの方々に訪問していただくよう,精一杯がんばります.

2月8日
ついに「粉末X線解析の実際 --- リートベルト法入門」が出版され,それをテキストとして配布したX線分析講習会が無事終了しました.いろいろな文書,解説,書籍にプログラムに関する説明が散在し,ドキュメンテーションが不十分だった(公式マニュアルがない!)RIETAN-2000ですが,迷えるRIETAN-2000ユーザーにこの本が救いの手を差し伸べてくれることでしょう.「粉末X線解析の実際」サポートページの末尾にこの本の正誤表を置きましたので,読者の方はお手数ですが,ご訂正ください.なお,恐れおののいていたRIETAN-2000の実習は,予行演習とテキスト配布の甲斐あって,とくにトラブルもなく順調に進行しました.予想外でした.化学会館ホールでの講習会の間に,公衆電話の横で3D可視化プログラムのsneak previewを行いました.受付をしてくれていた中井研究室の女子学生に「何を実演しているのか掲示しましょうか.」と聞かれ,「結晶構造と電子・核密度の三次元可視化プログラムVENUS」と書いたメモを渡し,ビラを作ってもらいました.この呼称は正真正銘,とっさに閃いたものでして,ビラを貼ってもらった後で,Visualization of Electron/NUclear densities and Structuresと語呂合わせしました.愛と美の女神の名にふさわしいソフトになれるかどうかは,今後のポリッシュアップにかかっています.

2月13日
昨日の本ホームページ(表紙)のアクセス回数は211にも達し,2月1日に樹立したばかりの最高記録をあっさり更新しました.一個人の地味なホームページが200の大台を突破するとは驚きです.訪問者急増の主な理由としては,VENUSが関心を読んでいること,「粉末X線解析の実際」の発売直後のため,そのホームページにアクセスする人が多いことが挙げられます.本ホームページは私と外界との最重要な接点であり,アクセス数は私の研究・プログラミング・広報活動に対する評価の尺度とみなしておりますので,このようなアクセス数の増加は大いに励みになります.VENUSのWebページの背景にボッティチェリ作「ビーナスの誕生」をPhotoshopで加工したJPEGファイルに変えてみましたが,いかがでしょうか.ご存じの方が多いでしょうが,Adobe Illustratorのopening title中のビーナスはこの絵から来ています.私はPhotoshopをこういうつまらないことにしか使っていません.宝の持ち腐れです.

2月15日
Mac OS X用のAdobe Illustrator,Igor Pro,Microsoft Office v.X,CopyPaste-X,DragThing,NewNOTEPAD Pro,StuffIt Delexeなどを取りそろえた結果,辞書などを除けば,「業務」用の環境が大分整ってきました.後はLaTeX(英語,日本語)が使えるようになれば十分です.もうMac OS 9.2.2は自宅のiMacでしか使っていません.そのマシンにも,いずれMac OS Xをインストールするつもりです.CarbonアプリケーションのうちMS Word,ARENA,Internet Explorerはときどき落ちますが,これまでMac OS X自身がハングしたことは一度もありません.Mac OS 9.Xとは比較にならないほど堅牢で,2つのCPUが平等に動作してくれるため,生産性が大いに向上しています.

2月17日
CPD NEWSLETTER, No. 26に寄稿した“Beyond the abilities of Rietveld analysis: MEM-based pattern fitting with synchrotron X-ray powder diffraction data”という記事が活字になりました.MEM/リートベルト法の欠陥の指摘,代案としてのMPF法の提案,SPring-8の物質・材料研究機構ビームラインに設置した分解能世界一の粉末回折装置で測定した強度データのMPF法による解析例三つ,の3部からなっています.私のMEM/リートベルト法批判はこれに留まりません.まもなく発行される日本結晶学会誌の2002年第1号に執筆した解説にも記しましたので,そちらもぜひお読みください.日本結晶学会誌では,すでにRIETAN-2000に関する紹介記事(Vol. 42, pp, 516-521)でもMEM/リートベルト法を辛辣に批判しました.両方の記事とも査読者からまったくクレームがつかなかったということは,公正中立な第三者も私の見解が的を射ていると認めている証拠でしょう.それにしても,RIETAN-2000がらみの解説はもうげっぷが出るほど書きまくりました.「粉末X線解析の実際」という書籍もRIETAN-2000の利用を念頭に置いて書かれています.これでもか,これでもか,という気持ちで,歯を食いしばって執筆してきました.この4月には,粉末X線回折やリートベルト解析などに関する部分を担当した「セラミック工学ハンドブック」も出版されます*.もうそろそろ打ち止めにしたいです.
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* 4月に出版されました:
「セラミック工学ハンドブック」第2版, 基礎・資料, 日本セラミックス協会編, 技報堂 (2002), pp. 531-544.

2月18日
rietan2000m.tbz以外のRIETAN-2000システム配布ファイルを更新しました.もちろんrietan2000m_Carbon.tbzにはCarbonアプリケーションのrietanが含まれています.2月15日にアップロードされたばかりのAbsoft Pro Fortran v7.0 for OS9のSP2でコンパイル・リンクしました.これはMac OS Xでも動きますが,その場合,AppleScriptのバグのためにExrietは使えないことにご注意ください. 単にrietanをダブルクリックしてお使いください.この他,入力ファイルの雛形とgnuplotのスクリプトがほんの少し改良されています.このCarbonアプリケーションは,Mac OS XのAquaインターフェース上でネーティブに動く世界初のリートベルト解析プログラムでしょう.Mac OS 9上と違って,まったくSystem Error #-23が発生しません.私のMac OS Xに対する熱愛(偏愛?)の結晶として,どうか可愛がってやってください.独田地獄斉のHPですが,Software Laboratoryの画像とタイトルが変わりました.「シズマ管」に替わって「衝撃のファーストブリット」という,またしても訳の分からない文句が登場しましたが,一体全体,これはなんでしょうか.気になって仕方ありません.いずれ,本人に尋ねてみたいです.

2月23日
今後はプログラム開発に専念しようと決意を固めてから,星去り時移り,5年の歳月が流れました.当時,技術指導のためインドネシアに出張した後,ひどい下痢と嘔吐で何日か寝込んでしまいました.現地の細菌に犯されたのです.意識が朦朧とする中で,たった一度しかない研究人生は有意義なことに捧げたい,という願いが心を占めるようになりました.世の中から完全に遊離したアカデミックな研究に従事して紙くず(論文を出したという実績づくりのための論文,読まれない論文,売れない特許)を製造したり,他人でもできる空しい雑用や会議で消耗し尽くすのでなく,外部からの期待に応え,多少なりとも社会に貢献する仕事に集中したい,と考えました.この目的を達成するには,私の場合,波及効果のある実用ソフトを作成し,膨大な時間を投じて製作したWebサイトで粉末回折に関する情報と一緒に広く配布するとともに,リートベルト法に関する啓蒙・普及活動に積極的に展開する以外に選択肢がありませんでした.「粉末X線解析の実際」という書籍の出版とそれをテキストとする講習会の開催も,その一環にほかなりません.この本が予想以上に売れ行きがよいと聞き,素直に喜んでいます.5年も費やした割には進捗状況がはかばかしくありませんが,現実にはそれだけに没頭できるわけでありませんし,自分の限られた能力・体力・気力では,これくらいのペースが精一杯です.もともと,プログラミングは三度の飯より好きなだけで,けっして得意でありません.牛歩の如きテンポで,一歩一歩前進していくだけです.これからもプログラミング一極集中路線を貫き通し,VENUSのような新作ソフトを製作していくつもりですが,所属組織や外部から十分な経済的・人的支援があるわけでなく,残された期間内にどれほどのことを成し遂げられるか,ということに思いを巡らすと,暗澹とした気分に陥ります.


3月1日
ELSA GLoria DCCビデオカードが届きました.nVIDIA Quadro DCCをGPUに採用したCAD/CG向けカードです.早速,Rubenのマシンに装着し,VENUSを走らせました.とにかく速い,の一言です.以前だったら,これほどの高速3Dグラフィックは専用ワークステーションでないと無理だったでしょう.今後,OpenGLは高速化の一途をたどるでしょうから,将来が楽しみです.

3月3日
ご存じの通り,RIETAN-2000のWebページは英語で書かれています.専門用語が氾濫しており,難解で親しみにくいという方も多いでしょう.RIETAN-2000の周辺ソフトについては,Noel CafeのBookmarkに日本語の簡単な説明がありますので,ぜひご参照ください.Noel Cafeの膨大なボリュームには,さすがの私も圧倒されました.女子学生が一人で,よくぞそこまで,という感じです.日増しに勢いを失いつつある私に,そのエネルギーを一部分け与えてほしいです.LINKSの逆リンク集にバーナーを貼り付けておきました.

3月6日
Mac OS用CarbonアプリケーションのRIETAN-2000をアップデートしました.ファイルopenダイアログのサブルーチン(stdfil.f90)のバグを修正しただけです.Rubenから,VENUSの出力するグラフィックファイル形式としてEPSF,PPM,RAW,RGB,TGAを追加したと聞きました.EPSFの出力が本当だとすると画期的なことですが,未だに半信半疑です.ATOMSCrystalMakerもそんな芸当はできません.

3月9日
三次元可視化プログラムのWebページがだらだらと長くなってきたので,読みやすくするべく12の節に分け,文章も再編成しました.おおげさな表現を多用した,激烈,熱狂的,かつ饒舌な文章ですが,筆者の心中は至って冷静沈着,氷のように冷めきっています.見せかけだけの熱気に当てられないよう,十分ご注意ください.アップル・コンピュータCEOのスティーブ・ジョブズがMacWorld Conferenceなどで基調講演を行いますよね.以前,彼の講演の全訳をじっくり読んだことがあります.ジョブズの講演は「現実歪曲空間」を作り出し,聴衆を幻惑する魔力をもつのだそうですが,さすがに巧みなレトリックで聴衆を陶酔させていました.もっとも,カリスマ性を備えた「生ける伝説」でないとけっして演じることのできないマジックなのは確かです.冷厳な現実を巧みに隠蔽し,明るい側面だけをクローズアップしうるCEOが復活していなかったら,アップルは凋落の一途をたどり,すでに破綻していたことでしょう.VENUSのWebページは,ジョブズの講演のパロディーを戯れにでっちあげてみたものにほかなりません.ジョブズだったら,VENUSについてかく語るだろう,というような感じとなるよう,ありったけの語彙を総動員し,けばけばしく脚色しました.VENUSというネタだけでこれだけ延々と語り続けるのは,結構大変でした.昔の「ハチャメチャ情報館」の「角度分散型回折法用RIETAN」のWebページ全編がエド・ウッド調に染まっていたのと同様,遊びの精神に満ちています.率直に言って,ソフト自体よりこの文章の方がすごすぎます.「高邁なモチベーション」,「貧しい人々を救うという使命」,「崇高な目標を高々と掲げたVENUSプロジェクト」などと私が真剣に書いていると思い込み,振り回されないよう留意することをお勧めします.世人(とくに理工系の人)にはこういう洒落を理解できない,よく言えばきまじめ,悪く言えば石頭がやたらに多く,かくの如く注釈をきちんと入れておかないと,何と陰口をたたかれているか分かったものでありません.真剣味のない証拠に,冒頭のエピグラムでくだらない駄洒落を放っています(ビーナス・トーバルズ → リーナス・トーバルズ).とはいえ,後でばれて非難を浴び,信用を落とすような嘘や誇大宣伝は一切混ぜていません.これは私の著作物,ホームページ(過去の「ハチャメチャ情報館」も含め)すべてに一貫している鉄則です.たとえば,展示している図は正真正銘,すべてVENUSで製作したものですし,入出力可能なファイル形式も書かれている通りに相違ありません.VENUSはまだ完成途上ですが,バグ退治と要望集めのために外部の試用希望者にアルファ版を配布し始めました.テストも大事ですが,これをMac OS Xに移植したいという有志が現れると大助かりです.複数のプラットホームへの移植作業がいかに人を消耗させるか,ということはRIETAN-2000で身をもって体験したので,慎重になっています.しかし,そういう奇特かつ優秀な人が現れる確率は,ほとんど無きに等しいことは覚悟しています.粉末X線リートベルト解析講習会は先月初旬に成功裡に終わりましたが,今年の10月に大阪でも開催することになりました.関西でもぜひ開催してほしいという声が高まっているためです.詳細が決まりましたら,「講演と講習のお知らせ」に掲示します.例の独田地獄斉のSoftware Laboratoryですが,またしても「アーノルド坊やは前科者」という,私にとってはチンプンカンプンな文句をタイトルに掲げています.一計を案じ,Googleで検索したところ,ぞろぞろ検索結果が出て来るではないですか.ちなみに「シズマ管」,「ファーストブリット」はいずれも一発回答でした.私が邪推していたようなギャルゲー用語ではなかったです.これで,いい年こいたオヂ(田淵純一的表現)が正体不明の怪人にヲタク語の意味を問う,なんぞという間の抜けたことをせずに済みました.

3月10日
発売されたばかりの「英辞郎」(道端秀樹監修,アルク,1,800円,ISBN4-7574-0570-7)を書店にて購入しました.今日現在,amazon.co.jpでは堂々,ベストセラーの1位に君臨しています.CD中のフォルダ一つをHD上にdrag & dropするだけで,Mac OSとWindows上で直ちに使 えます.早速,Macにインストールし,jdix2で検索できるようにしました.「英辞郎」誕生の舞台裏,という一節にはとくに感動しました.ぜひプロジェクトXで取り上げてほしいです.これまでの半年間の使用経験によれば,英辞郎は由緒正しいランダムハウス英語辞典(15,000円)などよりずっと役に立っています.なんといっても,100万語の威力は抜群で,用例が豊富なことも相まって,今や私にとって必需品といって過言でありません.ランダムハウス英語辞典には新語が皆無なのが致命傷です.英語の文章を読み書きする機会が多い人には,一も二もなく英辞郎を推奨します.

3月19日
電子・核密度と結晶構造の三次元可視化プログラム」のWebページに超伝導体YBa2Cu3O7の熱振動楕円体モデルの図を追加しました.ラグビーボールとCu−O結合だけでは殺風景なので,半透明の(101)面も挿入しておきました.他の2枚の画像とともに,GraphicConverterで高分解能TIFFファイルを比較的小さなJPEGファイルに変換し,それらを直接眺めるようにしました.しかし,VENUSの真価は,OpenGL API対応のビデオカードを装着したマシン上でオブジェクトを回転・拡大・縮小・移動しないと味わえません.これら3枚の静止画では明らかに迫力不足ですが,VENUSはRIETANの将来への布石として非常に重視しておりますので,じっくり熟成してからリリースするつもりです.まあ,秋くらいまでにはなんとか完成させたいです.

3月23日
VENUSを操っているのを横目で眺めながら,ふと思いました.私には,チープなもの,無料のものが予想外にパフォーマンスを発揮するのを好むという性癖があります.高価な商用ソフトを嫌い,GNUプロジェクトのフリーソフトウェア,Perl,Mac OSやWindows用の無料あるいは安価なユーティリティーを愛でるのは,コスト‐パフォーマンスを人一倍重んじる,この性格に由来しています.iMacの過剰性能ぶりに舌を巻き(2001年4月30日の記事参照),英辞郎を賞賛するのも,その顕れです.こういう清貧指向の私ですから,膨大な開発経費・人員が惜しみなく投じられたMicrosoft Word*を毛嫌いし,できるだけTeXを使うよう心がけています.もちろん国立研に席を置くからには,研究費不足で困窮するはずもありませんが,金にあかした研究には反感すら覚えます.このホームページは私個人のポケットマネーでアップルコンピュータのWWWサーバーに置いており,自宅のiMacで細々と製作・維持・管理していますが,ご立派なWWWサーバーを利用して運営している勤務先のホームページ(言い換えれば組織の顔)にこれほど頻繁に更新されていて,アクセス回数が多く,しかも有用なソフト・情報を提供し大いに喜ばれているWebページがはたして存在するでしょうか.RIETAN-2000はワークステーションなどでなく,古ぼけたMac上で開発し続けました.そういう安上がり大衆路線を素足でとぼとぼ歩んできた私にとって,3Dゲーマー向けのビデオカードさえあれば,グラフィックワークステーションに匹敵するリアルタイム3Dグラフィックを堪能できるのは,快楽以外の何物でもありません.VENUSは100%自主開発のフリーソフトウェアなのですから,うれしさもひとしおです.さらに,放射光など使わなくとも,最高クラスの実験室系の粉末X線回折装置(3 kW)で測定した回折データからMPF法(MEM/リートベルト法では荷が重いです)により,かなりの確度で電子密度が求まることが最近になってわかってきました.これも同じ意味で,深い喜びが味わえます.そんなこぢんまりした装置がRIETAN-2000とVENUSの力を借りて,「超高分解能X線顕微鏡」に変身するのですから,コスト-パフォーマンスは最高です.莫大な予算を投じて大組織が建設・運営する放射光源や次世代パルス中性子源から自分の心が遠く離れているのは隠すべくもありません.少なくとも自分にとっては,自作フリーソフトウェアで高々数万円のビデオカードを使い倒すのに憂き身をやつす方が性に合っています.私見によれば,ウン千億円の国家予算を湯水のようにつぎ込んだ大型施設を利用したならば,見事なデータが測定できて当たり前(それができぬようなら,正真正銘の税金泥棒)で,当事者はともかく第三者から見たら,そこになんら意外性もドラマも見出せません.素直に感動し,共感できないのです.ベンツに乗れば,安全性が高く,乗り心地がよく,静粛で,しかもガソリン大食いで維持にお金がかかる,というのと同じようなものです.むしろ私は,遠心分離器一台くらいしか所有していない女性研究者がノーベル賞を受賞したという逸話に胸を打たれます.
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*この図体ばかり無闇に大きく,総身に知恵が回りかねている恐竜(注中の注:恐竜は脳がとても小さいそうです)については,いくら罵倒しても罵倒し足りないことはありません.そもそも出力がTeXに比べて汚すぎます.とくに上付き,下付き文字は小さすぎ,バランス感覚に欠けています.文献を挿入したり,削除したりした際,文献番号を全自動で変えてくれないのでは,生産性が一向に上がらず,学術論文では致命傷です.ほとんど使いこなせないほど多彩な機能を満載しているのに,理工系研究者にとってトップクラスに重要な機能が欠落しているのです.マンモスソフトの鈍重さはさておき,商用ソフトのうちでこれほど不安定でよく落ちるソフトを未だかつて見たことはありません.DTP印刷用の記事を執筆したときの経験では,巨大なEPSファイルを張り込むと,いつ落ちるかわからないほど不安定となり,完成までに疲弊しきってしまいました.また「粉末X線解析の実際」の6章を執筆していた際には,一部の数式が突如として壊れるという奇怪なバグに悩まされ通しで,執筆に神経を集中できませんでした.数式の数がかなり多いのは事実でしたが,それくらいで悲鳴を上げてしまうのでは,業務に使えません.Office v.Xでも不安定なのは相変わらずです.前バージョンで作成した業績リストを編集中に何度も昇天しました.自分一人で書けば済むという原稿の場合は,当然TeX(Mac用のtextures)を利用するのですが,共著の原稿を手直しする場合や,ワープロファイルを提出する場合は,まずWordに触れざるをえなくなるわけです.どうせWindows版はもっと安定で,かつ高速なのでしょうが,ワープロだけWindows上で使うというわけにもいきません.どうして猫も杓子もこんなタコな代物にしがみつくのか,はなはだ理解に苦しみます.中村正三郎氏が指摘したように,一種の生活習慣病ではないでしょうか.Knuth先生のような天才が設計したフリーソフトウェア,TeXの方が優れているのに決まっています.もちろんTeXは理解しにくいエラーメッセージを出すことが多いですが,あくまで筆者が文法に則って記述しなかった場合に限ります.アプリケーション自体が落ちたことなど一度もありません.

3月28日
電子・核密度と結晶構造の三次元可視化プログラム」のWebページで,高温超伝導体YBa2Cu4O8の配位多面体モデルの図とセラミックス協会年会における講演で用いたOHPシートの原図(PDFファイル)を追加公開しました.ソフト開発の進展とほぼ比例して,このWebページは次第にボリュームを増しつつあります.しかし怪気炎もそろそろ過飽和状態に達したような気がします.


4月3日
私はこのホームページ中のLINKSを常時,ブラウザで表示しておき,そこからいろいろなサイトにアクセスしています.しかし,Mac OS X用Internet Explorerでは,左フレーム内の各項目へのジャンプがやや遅く,イライラします.駄目で元々という気で,最近リリースしたばかりのNetscape 6.2.2を使ってみたところ,なんと瞬間的にジャンプするではないですか.もちろんそれが当たり前なのですが,これまで堪え忍んできた不便から解放されたため,実にうれしかったです.そこでMac OS X(職場),Mac OS 9.2.2(自宅)とも常用ブラウザをInternet Explorerから一気にNetscape 6.2.2に切り換えてしまいました.メーラーと並んでもっとも重要なアプリケーションであるブラウザを非マイクロソフト製品に乗り換えることができたのは,私にとって画期的なことです.セキュリティーにとっても好ましいでしょう. 些細なバグはあるものの,Geckoはエンジン全開で,元気に回っています.自宅でメールをやりとりする際,ブラウザから使用するIMPもNetscape上で俊敏に動作するようになり,実に満足しています.Mac OSで大きい文字をきれいに表示するにするには,アピアランスというコントロールパネルでフォントタブをクリックし,なめらか文字で表示するをチェックし,サイズを16 pt程度にしておきます.

4月5日
粉末X線解析の実際」という書籍を2月初めに朝倉書店から上梓したのですが,予想以上に評判がよく,2月末には早くも残部僅少となりました.そこで第1刷での筆者側ミス,誤植,見にくい図を多数修正し,4月1日に第2刷を発行しました(断じてエイプリルフールではありません).この勢いが今後衰えなければよいのですが,どうでしょうか.願わくば,第3刷,第4刷,…と増刷を重ね,ついには第2版の出版にこぎつけたいものです.

4月11日
電子・核密度と結晶構造の三次元可視化プログラム」のWebページに 9,10-ジオキソアントラセン(アントラキノン)の電子密度イメージを追加しました. SPring-8の物材機構ビームラインBL15XUに設置された超高分解能粉末X線回折装置で測定した強度データをMPF法で解析した結果です.非局在化したπ電子や炭素原子に結合した水素原子が見事に視覚化されています.WIEN2kによる電子密度の計算結果ほど滑らかでありませんが,この分子の電子密度分布の特徴が一目で理解できます.

4月12日
X線分析研究懇談会主催の講習会「粉末X線リートベルト解析」を 大阪科学技術センタービル(大阪市西区靱本町)で10月23・24日に開催することが正式に決まりました.2月初めに「粉末X線解析の実際」をテキストとして催した同講習会が非常に好評だったこと,過去数回の同講習会がすべて東京で開かれており,関西での開催を望む声が高まったことから,本企画が立案されました.私はMPF法VENUSについても話すつもりです.これまで,開催地が東京では遠すぎて,受講を断念されておられた方々は,奮ってご参加ください.

4月20日
RIETAN-2000のLinux版ですが,V2.96以降のGCCに含まれるg77でコンパイル・リンクすれば,問題なく動くことが判明しました.Mac OS XのTerminal上でGCCによるRIETAN-2000の実行形式プログラムを走らせるのに成功したという報告も受けました.RIETAN-2001Tも大丈夫でしょう.VENUSもLinux上で動きますし,Mac OS Xにばかり入れ込んでいないで,そろそろLinuxと浮気しようかと思案し,Vine Linux 2.5CRをオンラインショップで予約注文しました.Power Mac G4(Gagabit)にインストールするつもりです.Mac OS Xと同様,対称型マルチプロセシングの機能を備えていますから,2CPU機のメリットが享受できましょう.まあ,年明けからいじくり回してきたMac OS Xの艶やかさに飽き,倦怠期に入ったのも事実です.まわりを見渡せば,Mac OS-Windows-Linux(UNIX)を同時に使う強者はおろか,Mac OS Xを本格的に使っている人ですら見当たりませんから,まだアクティビティーや好奇心が落ちていない証拠です.Linux企業が軒並み凋落・倒産し,Linuxバブルがはじけたという声を聞きますが,長い目で見れば,今後も着実に進歩・発展を遂げていく質実剛健なOSに違いありません.微力ながらアプリケーション開発者として,Linuxの普及に貢献したいと存じます.

4月27日
4月21日に入手したVine Linux 2.5CRをPower Macintosh G4(Gigabit)にインストールしました.カーネルは最新安定版の2.4.18です.Linuxに不慣れなこともあって,何度もインストールし直す羽目に陥りました.紆余曲折の末,内蔵ハードディスク2台の内,購入マシンに最初から内蔵されていたドライブ(40 GB)のパーティションを切り直し,そこにブートローダ,ファイルやり取り用Mac OS標準フォーマットのパーティション,Linux用のパーティションを収め,Mac OS 9.2.2のシステムフォルダは80 GBのドライブにコピーしました.この過程で会得したノウハウと判明した事実は次の通りです:(1) 2CPUのマシンには「その他」というパッケージもインストールする;(2) Mac OS 9.2.2/Xにおいて起動ディスクを指定すると,ブートストラップのパーティションが消滅してしまうので,必ずブートローダyabootを通じて起動する;(3) シェルにはtcshでなく,デフォールトのbashを使う方がよい(変なエラーメッセージがターミナルに出なくなる);(4) wnn7は挙動不安定なのでCannaを使う;(5) GNOMEに付属するユーティリティー(具体的にはgeditとシステム情報)を起動したとたん,いきなりlogoffしてしまうことがある.(1)については,マニュアルの記述が不適切です.(2)は不具合というより仕様なのでしょうが,危険きわまりないです.疲れているときに,またぞろ同じミスを繰り返しそうな予感がします.(4)は早晩,解決する初期トラブルでしょう.(5)についてはGNOME 2.0に期待した方がいいかもしれません.とりあえず,十分枯れ切ったcannaとemacsを使えば済むことです.とにかくLinuxエキスパートへの道のりは長く険しいです.なおPPC用LinuxへのVENUSの移植は昨日,終了しました.


5月1日
これまでMacとWindows機の間のファイル転送は,FetchWar FTP Daemonの組み合わせに頼ってきました.ところが,どういうわけか最近,Windows機からダウンロードできなくなってしまいました.いろいろ試行錯誤(この過程で,ブートストラップ・パーティションを消してしまうという悲惨な事故を起こしました)を重ねた挙げ句,無名のCocoaアプリケーションosXigenTiny FTP Daemonという新しいコンビに選手交代することにしました.Tiny FTP Daemonとは寄りを戻した形になります.テキストファイルの転送がやや遅いですが,動作は安定しています.

5月8日
Linuxの安定性とその上で動くGUIのアプリケーションの安定性とはまったく別物,という当たり前のことにようやく気づきました.Vine Linux 2.5CR がリリース直後ということもあるのでしょうが,3ボタンマウスのエミュレーション操作を誤るとキーボード入力もマウス操作も一切受け付けなくなったり,GNOMEのユーティリティーが勝手にセッションをログオフしてしまったりします.さっそく,隣のWindows機からTera Term ProTTSSHでloginし,暴走したプロセスを殺せるようにしました.同じUNIXベースのMac OS Xは堅牢そのもので,Mac OS X上ではそこまでひどい障害は一度たりとも経験したことがありません.画面の美しさ,華やかさはMac OS XのAquaインターフェースと比べるべくもありませんし,PowerPC用Linux上ではATOKは動きません.やはり只(同然)だけのことはある,サーバーには申し分ないだろうが,この味気なさ,そっけなさ,精彩を欠いた画面デザインでは一般ユーザーには受けないな,というのが偽らざる実感でして,少々落胆しました.カーネルがいくら安定かつ俊敏でも,デスクトップ環境やアプリケーションの機能・デザイン・安定性がいまいちでは高く評価するわけにいきません.しかし,チープなもの,フリーなもの大好き人間の私は,それでもなおLinuxを捨て去るつもりは毛頭ありません.じっくり時間をかけて,この見栄えの悪い奔馬を調教し,名馬に変身させたいです.ところで,Vine Linux 2.5CRでとりわけ気に入っているのが,Mozilla の利用するフォントができるだけきれいに見えるように最適化されていることです.英数字だけでなくカナ・漢字も可変幅で表示するために,フォントのレンダリングに相当なマシンパワーを使っているそうです.

5月14日
RIETAN-2000のWebページで公開しているRIETAN-2000の使用上の注意を記した文書Notes.pdfを更新しました.Le Bail解析の部分を多少詳しくするとともに,些細なミスを修正しました.現在,VENUSの英文マニュアルをRubenと一緒に作成中です.もともとダイアログボックス,パネル,ウィンドウといったGUIを備えたプログラムなので,最低限必要なことだけ記していますが,実用上は十分でしょう.肝心のVENUSですが,遅くとも6月中には全機能の組み込みを終了する見込みです.しかし,アルファ版のユーザーからのレスポンスがほとんどない上,これだけ大規模なソフトをわれわれ自身が十分テストする余裕などありません.今年は珍しく海外渡航しないにもかかわらず,いつの間にやらスケジュールが年末まで詰まっています.仕方ないので,ベータ版(Windows専用)をこの夏にリリースし,不特定多数の方々からバグの報告やコメントをお寄せいただく,ということにしようかと思案しています.慢性的テスト不足の状態では,ベータ版としての配布を長期間,続けざるをえません.

5月15日
Linuxにいささか失望した反動で,昨日,ついに自宅のiMac Special Edition(Blue Dalmatian,600 MHz G3)にMac OS Xをインストールしました.Linuxと異なりパーティションを切り直さずに,楽々とインストールできました.勤務先でMac OS Xの経験はすでに十分積んだので,諸設定やMac OS X用ソフトのインストールには一切戸惑いませんでした.動作がやや緩慢ですが,OSのきわめて高い安定性を考慮すれば,許容範囲内です.最大の利点は,システムがまったくフリーズしないことと,Mac OS 9.2.2使用時に頻繁に起こった,スリープからなかなか目覚めてくれない(ときには爆睡し,寝たきりになる)という障害に苦しまなくてすむことです.Mac OS 9.X以前のクラシックOS上で遭遇した数限りないフリーズ+再起動に引き比べると,まるで夢のようです.ブラウザとメーラー(IMP日本語版)にはNetscape 6.2.3を使います.本ホームページのHTMLファイルは長らくJeditで編集してきましたが,これからはMac OS X上で,miGoliathを用いて制作していきます.miは,HTMLのテストブラウジングにNetscape 6を使用でき,ジャンプメニューを自動的に作成してくれ,ハイバーリンク用タグをツールメニューから挿入できるところが気に入りました.ファイルのタイプごとに違う設定を適用できるところが,芸が細かいです.なおFinder上でiDiskにアクセスすると,レスポンスが極端に悪化するという欠陥は,Mac OS 9.2.2の場合とまったく変わりませんでした.予想通りです.

5月18日
RIETAN-2000については,随分あちこちに書かせていただきました.「粉末X線解析の実際」も上梓したことだし,RIETAN-2000に関する解説はそろそろ打ち止めにしたい,と2月17日に述べましたが,日本結晶学会誌に3号連続でRIETANに関する初心者向きの解説を執筆するよう最近,依頼されました.こういう注文が来るのは,RIETAN-2000に関するドキュメンテーションが未だに不十分とみなされているためではないかと反省し,無抵抗で引き受けました.2ヶ月に1回のペースで原稿を作成しなければなりませんが,なまけものの私にとっては相当きついです.これまでとは違う趣向の読み物にしたいとは思うものの,具体的なイメージがまったく浮かびません.まあ,なんとかなるでしょうが,精神的プレシャーが相当のしかかっています.RIETAN-2000の正式なマニュアルを未だに提供していないのは,誠に遺憾です.といっても,ホームページ,文書,講習会のテキスト,解説記事,単行本などに情報が散在しているだけで,全体としての情報量は類を見ないほど膨大なはずです.事実,当ホームページのディスク占有量は70 MB弱に達しています.グラフィックデータがとくに多いわけではありませんから,個人のホームページとしては相当な容量です.この分だと今年の暮れには100 MBに達し,一大組織並みの容量に達しそうな勢いでして,iDiskのレンタル料を余計に払うことになるかもしれません.

5月25日
本ホームページの読者は,私がプログラミングに全精力を傾けて続けていると誤解していないでしょうか.実際はそんなことはなく,論文リストを掲示するのは控え,自分の論文についてほとんど言及していないだけのことです.一部の人しか興味を示さないものをWebでこれ見よがしに見せびらかしたところで,誰も見向きもしません.ナンセンスです.第三者の関心を呼び,波及効果のありそうな情報だけを抽出し,自作ソフトとともにここで公開しています.論文を執筆するのが研究者の最重要の仕事であることは否定しませんが,ホームページで取り上げるには専門的かつアカデミックすぎます.少なくとも今年の2月以降は,ポスドクのAlexeiが途切れることなく書き続ける論文の指導と添削に相当な時間を費やしてきました.まるで論文生産工場の工場長のようなものです.6月19日限りで私のところを去るので,それまでに執筆できた論文だけを(私と共著で)投稿するように申し渡してあります.ただ実験事実や解析結果を淡々と記述するだけでなく,多彩な表現を散りばめた躍動的な文章となるよう腐心しています.この目的のために"Writing English papers in English"という,かなり長い文書(実は本ホームページで公開しようと思っていたのですが,著作権の関係で無理なことがわかりました)まで作成してAlexeiに渡しました.教育的見地からそうしている面もありますが,趣味的側面も多分にあります.審査から戻ってくる論文もあり,大変な労力ですが,supervisorとしては捻りはちまきでがんばるしかありません.少々疲れぎみです.

5月30日
いつのまにかPower Mac G4のブートローダが壊れ,Linuxが立ち上がらなくなってしまいました.別に重大なミスを犯した覚えがないのに,あっさり壊れてしまうのでは,安心して使えません.再インストールする気力と暇がないので,当分放置にしておきます.ブートローダの切れ目が縁の切れ目にならなければいいですが...


6月6日
さるアメリカの大学教授がつくばにお見えになったので,ホストとして二日間つきっきりで応対しました.あれこれ雑談しているうちに,ある高名な研究者が引退し,奥さんと一緒に全米を車で移動しているということが話題になりました.バリバリ仕事をこなす力が残っているうちに,あっさりリタイアして人生を楽しむ,というライフスタイルはアメリカでは珍しくないそうです.イタリアなどの国では,それが常識でしょう.翻って我が身を考えてみると,楽しいと感じることが,常日頃,ほとんど皆無です.プログラムを作ろうが,解析しようが,海外でどんな壮大な光景に接しようが,原稿を書こうが,人の論文を添削しようが,講演しようが,面倒くさいこと,辛気くさいこと,腰が引けていることを歯を食いしばって処理しているとしか思えず,砂をかむように味気ない研究生活です.研究が苦役にすぎないのだったら,いっそ足を洗ってしまった方がいいのかもしれません.といっても,優雅な隠遁生活は,自分とは無縁だと思います.なにしろ,無趣味ですから.いったい今後どんなことに楽しみあるいは生き甲斐を見出せばよいのか,真剣に考えなければなりません.

6月9日
今日の夕方,見てはいけないものを見てしまいました.FinkでMac OS X用gluiが開発されていることを知ったのです.Mac用VENUSは絶対開発しないぞと固く誓ったはずなのに,この一撃(誘惑?)でグラグラ来ています.6月6日の項に陰鬱なことを記しましたが,どうも近頃,Windows機でVENUSを点検していた副作用のような気がしてなりません.アメリカにたとえれば,Windowsからは東海岸の重苦しい雰囲気,Mac OS Xからはカルフォルニアのドライな明るさを感じます.きらびやかなMac OS X上でVENUSを使えるようにすれば,多少は元気が出るかもしれません.

6月12日
計算材料科学研究センターの新井正男氏がWIEN2kで計算した3次元電子密度のファイルを作成するためのPythonスクリプトを作成してくれました.ここから入手できます.WIEN2kのユーザーがVENUSの恩恵に浴せることになったのは,実にありがたいです.磁気モーメント・原子位置のシフトを表す立体的なベクトルを各原子に付加する機能をVICSに組み込みました.これで計画に入っていた全機能を組み込んだことになります.英文マニュアルも九分通り書き上げました.しかし,商用ソフト顔負けの驚異的な高機能を誇るソフトにしては動作テストが不十分なのは明らかで,ベータ版の配布に踏み切るか否か,迷いに迷っています.

6月19日
STAフェローのAlexeiが2年の任期を終えました.明日からは京大でポスドクの第2ラウンドに入るとのことで,最後の論文を今朝,投稿した後,車で京都に向かいました.健闘を祈ります.VICSに組み込んだ自動分子サーチをテストしましたが,実に快適です.Molfileをはじめとする分子性結晶の構造を描くには必需品といって過言でありません.この機能はORTEPのreiterative convoluting sphereに範をとりました.笑い話ですが,私はORTEPの作者Carroll K. Jonson(オークリッジ国立研究所)を長いこと女性とばかり思い込んでいました.ある方(特に名を秘す)がJohnson博士のことを「彼女は…」と言うのを聞いたからです.偉大なソフトの作者に女性はいない,とどこかで読んだことがありました.TeXしかり,emacsしかり,Linuxしかり,perlしかり,というわけです.しかし私は,そんなことは絶対ない,あの名人芸の極致ともいうべきORTEPは女性が開発したのではないか,と心の中で強く否定しました.後にオークリッジ国立研を訪問したときに,中性子回折の専門家とJohnson博士のうわさ話をして,実はお婆さんでなくお爺さんだということを知りました.確かにランダムハウス英語辞典をひもとくと,Carrollは「男子または女子の名」とあります.「かおる」のような名前です.発音も似ていますね.こういうくだらない話をするのは,ネタに枯渇している証拠です.

6月22日
英辞郎検索ソフトjdix2はクラシック環境で立ち上がらないことが多いだけでなく,クラシック環境そのものをしばしば壊します.このため,Mac OS X上で安定に動く検索ソフトの出現を鶴首して待っていたのですが,今日,DViewCocoaという掘り出し物を見つけました.Mac OS X専用を謳うCocoaアプリケーションだったのは願ってもないことでした.一も二もなくインストールし,ユーザー登録しました.ついでに英辞郎Ver. 55(105万語収録)のCD-Rも発注しました.ついにMacユーティリティーで紹介しているソフトがすべてCarbonあるいはCocoaアプリケーションとなりました.クラシック環境上でないと動かない頻用ソフトは「ランダムハウス英語辞典」だけです.もっともこの辞典はMac OS Xと相性がいいので,まったく実害ありません.

6月28日
大げさな前宣伝を繰り広げていたVENUSですが,ついにベータ版(別名dog food version)をひっそりとリリースしました.あまりに容量が大きいので,アーカイブファイル作成時にLHMelt+tar32.dllが長いこと沈黙を続け,少々あせりました.これに懲りて,今後はtar.exe + bzip2.exeを使用するバッチファイルで全自動圧縮することにしました.公開の下準備でくたびれ果てたので,今日はこれにて失礼.Dog food versionがjunk food versionに進化したころ,VENUS開発夜話を語りましょう.


7月1日
今日からMEM解析プログラムの自主開発が本格的にスタートしますが,これはVENUSに比べると段違いに楽な仕事です.難易度を比べると,RIETAN-2000 > VENUS >> 新MEM解析プログラムといった感じです.2000年にRIETAN-2000,2001年にRIETAN-2001T,2002年にVENUS,2003年に新MEM解析プログラム,というように,1年1作のペースでリリース,ということにするつもりです.早々とVENUS配布ファイルを更新しました.VEND.exeにおける配列の大きさを変更し,安定に動くよう改善しました.またVENUSのWebページに,磁気モーメント作画例としてCoAl2O4の磁気構造を追加しました.こういうことに熱中していた結果,締め切りが迫りつつある日本結晶学会誌の解説にはほとんど手をつけていません.内心,焦り狂っていますが,筆が重く,なかなか取りかかる気になりません.どうなることやら.

7月3日
VENUS中のVEND.exeと三つのPDFファイルをほんの少々手直ししました.さらに,XMol xyzファイルの2行目が空行だと,VICSが正常にデータを読み込めないというバグを修正しました.Power Mac G4にインストールしたのに事実上使えなくなっていたLinuxですが,今日,突然立ち上がるようになりました.狐につままれたような感じです.島根大学総合理工の赤坂正秀先生からのメールによれば,VAIO PCG-C1(MMXテクノロジ Pentium 233 MHz,64 MB RAM,NeoMagic MagicMedia 256AVビデオチップ,ビデオメモリー2.5 MB)とWindows 98の組み合わせでVEND,VICSとも問題なく使えるそうです.作者としては,初代VAIOでこんな巨大ソフトがどうして動くの,とつっこみたくなりますが,デジタルカメラで撮影したVEND,VICS使用中のVAIOの証拠写真三葉を突きつけられたら,沈黙するしかありませんでした.

7月4日
VENUS中のExamplesフォルダを改訂しました.VICSが解釈できない空間群名を読み込んだときは,エラーメッセージをOutput Windowに出力するようにしました.PDFファイルも少々手直ししました.

7月5日
分子構造に対するstartup search for bondsを実行するか否かと,入力ファイルのデフォールトの拡張子をVICSのPreferencesで保存できるようにしました.VENDとVICSで長いタイトルを入力したとき,後方の文字を消失してしまうというバグを除去しました.Xboxが発売後三ヶ月で見事に玉砕,という雑誌広告を見ましたが,枯れているというには程遠いVENUSも,ポリッシュアップを怠ると同じ憂き目にあうでしょう.

7月8日
VICSにおける多相CIFの読み込みと正方晶系の化合物の格子定数入力に関するバグを除去しました.VENDにおける主要配列のサイズを最適化しました.

7月9日
VICSのOpenダイアログで入力ファイルの種類を二つ修正しました.*.vcsに異方性熱振動に関する余計なデータが書き込まれるというバグを退治しました.*.vcs保存時にはOutput Windowに構造パラメーターを出力しないように変更しました.Visual Studio 6.0をSP5に更新し,VEND.exeとVICS.exeをVisual C++でコンパイル・リンクし直しました.

7月10日
相変わらず,日本結晶学会誌の依頼原稿そっちのけで,VENUSのポリッシュアップに精を出しています.VICSのOpenダイアログにおけるICSDファイルの表示を変えました.VICSとVENDのOutput Windowに対する出力を多少変更しました.PDFファイル三つを少々手直し,謝辞を追加しました.PDBファイルの例を一つ追加しました.

7月11日
VENDのOpenダイアログボックスにおけるファイルの種類の表示を修正しました.Output Windowへの出力と三つのPDFファイルを少々手直ししました.VENUSをリリースしてから2週間近く経ちましたが,これまでに届いたバグ報告は2件だけで,後はレスポンスなし.反響を呼び起こしてないのか,すでに十分安定なのか,ほとんどゴミ箱行きの憂き目にあったのか,さっぱりわかりません.本ホームページのアクセス件数がVENUSリリース後に3割ほど増えたのは事実なので,後者だということにしておきましょう.感想でも罵倒でも苦情でも構いませんから,とにかくユーザーの生の声を聞きたいです.

7月12日
*.denファイルの例を一つ追加しました.*.denの冒頭に'#'で始まる注釈行を置けるようにしました.これで試料に関する情報,発表文献などを記述しておくことができます.VICSのOutput Windowにおける格子定数と構造パラメータの出力を変更しました.物理量のシンボルを示す行を追加しました.配位数を削除し,占有率を各行の最後に移しました.現在,当ホームページのディスク占有量は74 MBで,単調に増加しつつあります.昨年の3月30日時点では約25 MBだったのですから,随分膨張したものです.いずれは中身をリストラしてスリムにする必要がありますが,どれをカットすべきでしょうか.いまさら安直なVRMLなんて…,ということで,第一候補は結晶構造ギャラリーですが,ここはあまりディスクを食っていないので,効果を期待できません.

7月14日
夏風邪をひいてしまい,38 ℃を越える発熱のため体調が最悪です.6月28日以来のVENUSの頻繁な改訂に疲れたのかもしれません.明日は日本結晶学会誌の依頼原稿の締め切りだというのに,困り果てています.先週の金曜日に,さる学生がVICSの重大なバグ二つを詳しく報告してくれました.協力を深く感謝します.一つはいとも簡単に退治できます.もう一つは特殊な図を描くときの障害で,かなり難物ですが,なんとか解決するよう努力しましょう.なおATOMS 4.1やORTEP-IIIよりはるかに使いやすく,しかも多機能であると伺い,実にうれしかったです.

7月15日
体調の悪さを耐え忍びつつ,夕方までみっちり働きました.VICSで等方性原子変位パラメーターが*.vcsに記録されないという深刻なバグを除去しました.これに伴い,Examples\vcsフォルダ中の*.vcsファイルを更新しました.配位多面体の頂点に熱振動楕円体を置いたとき,異常な陰が楕円体に生じるという障害を解決しました.結局,7月14日に記した二つのバグは無事除去できたということです.さらにOutput Windowに各サイトの番号を出力するようにしました.

7月16日
Mac OS X上のブラウザでJavaがうまく働かないので,今日から普通の掲示板に改装しました.この方が読むのが楽で,しかもリンクが張れるので,訪問者から喜ばれるのではないでしょうか.VENDでInfoボタンをクリックすると,絶対パス+ファイル名がある長さを越えた場合に限り異常終了するというバグを退治しました.PDFファイル三つをほんの少しずついじりました.今日はMac OS Xが2回もカーネルパニックを起こしました.これではMac OS 9より不安定です.OS Xはまだ枯れきっていないようです.

7月18日
ICSD の出力するCIF中の異方性原子変位パラメータは順序が変則的で,VICSではうまく読み込めないことがわかり,さっそく改善しました.Search Bondsダイアログボックスでの設定項目を増やしました.Search modeを三つに増やすとともに,領域外の原子探索と配位多面体ー球棒模型混在のフレキシビリティーを高めました.VENUSリリース以来,最大の改訂です.詳しくはVICS.pdf中の11節をお読みください.さらにNew DataおよびEdit Dataダイアログボックスにおける結晶軸変換に関するVICS.pdf中の記述も書き改めました.日本結晶学会誌の原稿を書いていて,文章のまずさに気づきました.これまでの記述通りに操作していたら,斜方晶における軸変換がうまく行かなかったはずですが,クレームはまったく届いていませんでした.これまでのところ,改善点の約8割は私自身が見つけたものでして,ユーザーのレスポンスは芳しくありません.iToolsの無料サービスが終了し,.Macのサービスが始まるそうです.私はすでに毎年$100払って本Webサイトを運営しているので,当面,実質的にはなにも変化なしです.最初からいずれは有料化の方針だったのでしょうが,ついに運命の時が来たか,という感じです.

7月19日
VICSでMOLDA形式のファイルを読み込めるようにしました.これに伴い,VENUS\Examples\MOLDAというフォルダを新たに作り,4つのファイルを置きました.VICS.pdfを少々書き改めました.執筆中の日本結晶学会誌の解説でRIETVIEWについて少々言及しました.そのためにRIETVIEWを今回初めて試用し,手軽かつ迅速にリートベルト解析パターンが得られることに感心しました.作者に3点ほど改善してほしい点を指摘したメールを送ったのですが,その際,私が未だに彼の名前を間違っていたことに気づきました.毒田地獄斉 → 独田地獄斉 → 独田地獄斎という変遷を経て,ようやく真の名称にたどり着きました.お詫び申し上げます.今後二度と間違えないように,ATOKの辞書に固有人名として登録しておきました.

7月20日
VICS.pdfの結合サーチの部分を少々補強しましました.日本結晶学会誌の原稿がほぼ完成しました.Windowsの画面キャプチャーソフトWinGrabの使い方をRubenから教わって,VICS とRIETVIEWを操作している最中の画面をTIFファイルに落としました.VENUSのリリースと頻繁な改訂の時期と原稿の執筆が重なり,結局どちらにも集中できませんでした.私には対称型マルチタスキングは無理です.Mac OS 9のような非対称マルチタスキング型の人間で,いくつかの仕事が重なると,能率がめっきり落ちます.研究と教育,両方をこなさなければならない大学の教官は絶対勤まりません.

7月21日
7月19日に記したRIETVIEW改善のリクエストですが,独田地獄斎氏がさっそく新バージョン0.1.3beta1を昨日リリースしてくれました.素早いレスポンスに感謝します.ベータ版となっているのは,新しい機能をさらに追加しようしているためだそうです.

7月22日
VICS.pdf中の結合サーチの部分を少々手直ししました.今日はMac OS Xの色つきコマが回りっぱなしになり,外部ターミナルからのシャットダウンも効かなくなってしまうという事態に陥りました.もちろんMac OS 9よりはるかに安定ですが,まだ枯れてはいませんね.1ヶ月間くらいは再起動なしに使えるようになるのはいつでしょうか.

7月23日
ついに日本結晶学会誌の原稿(1回目)を編集委員長に直接手渡しました.結局,締め切りから(たった)8日遅れただけで済みました.VICSでファイル入力時にエラーが起きたときは,エラーメッセージが前面に現れるようにしました.従来からOutput Windowにエラーメッセージを出力してはいたものの,陰に隠れていて気づかないことが多かったのではないでしょうか.これと関連して,VICS.pdfとReadme.pdfもわずかずつ変更しました.CIFCrystalMakerテキストファイルなどを読み込む際,一部の空間群の名前に'マイナス'が含まれていない(たとえば'F d -3 m'が'F d 3 m')と間違った空間群名と解釈されるので,空間群名は十分チェックするように,ということを,くどいくらい強調しておきました.

7月25日
VICS.pdfとVEND.pdfを合体し,VENUS.pdfとしました.中身はほとんど変わっていませんが,VICSとVEND両方に共通の事項を先頭に置きました.これまでのマニュアルはJedit4のテキストファイルをPDFに変換したものだったのですが,このたび全面的にMicrosoft Wordで整形しました.数式やフォントがきれいになったのがおわかりになるでしょう.非常に困ったのが,Wordを使用中に突如としてプログラムが強制終了されてしまい,保存したファイルさえ読めなくなったことです.この許し難いほどの不安定さは,さすが悪名高いWordだけのことはあります.仕方なく,少々古いファイルを読み込み,再度打ち直しました.VICSのベクトル表示関連のダイアログボックスで"U", "V", "W"をそれぞれ"u", "v", "w"に改めました.

7月26日
Readme.pdfとVENUS.pdfを多少手直ししました.ようやくマニュアルとしての形が整ってきました.RIETVIEWの0.2.0 betaがアップロードされていました.かなりの機能増強を果たしています.

7月27日
京大の星野聡孝氏より,Mac用カーブフィッティングソフトpro Fitを用いてgnuplot形式の*.patからリートベルト解析パターンをプロットするプログラムPlotRietRefPatをリリースしたとの知らせを受けました.pro Fit($95)というソフトは初耳です.星野氏によれば,主としてカーブフィッティングを効率良く行うためのソフトで,データ処理のためのプログラミング環境が内蔵されており,描画などの命令も充実していることから,カーブフィッティング以外の用途にも便利だそうです.

7月28日
私見によれば,プログラマーに必須の能力は(1) 抽象化能力,(2) 論理的思考力,(3) 記憶力,です.私の場合,(1)と(2)はほとんど衰えていないはすですが,(3) がじりじり低下しつつあります.最近は,思いついたことや忘れてはならないことは,すぐその場でメモするよう心がけています.時には,寝ながら考えついたことを,夜中にむっくりと起きあがってメモすることもあります.Mac OS X上でJammingによりランダムハウス英語辞典を検索できるようにしました.以前もインストールしようとしたことがあったのですが,軽率なミスのために失敗に終わっていました.今回はMac OS 9用ランダムハウス英語辞典をそのまま用い,フォント(SRDG*.TTF)だけ「起動ディスク」→「Library」→「Fonts」にコピーした後,拡張子TTFを取り去りました.私の場合,これでクラシック環境をほとんど使わずに済みます.Mac OS Xを使い始めてから7ヶ月弱でMac OS 9.Xから95%は足を洗ったことになります.後はTeX関連のソフトがカーボンアプリケーションになれば言うことなしです.

7月30日
VICS,preferences_VICS.ini,VEND,マニュアル二つを更新し,VICSの入力ファイルを二つ追加,一つ削除しました.配布ファイル名をVENUS.tbzに変えました.VICSとVENDの改定内容については明日,詳しくお知らせします.楽しみにしていてください.

7月31日
昨日,配布したVICSに些細なバグが発見されたので,本日あらためてVENUS, junk food version 1.1bとしてアップロードし直しました.両マニュアルとVENDも更新しました.Junk food versionでは,種々の入力ファイル(たとえば*.vcs,*.cif,*.ins,*.pdb,*.den,*.rho)をVICS.exe,VEND.exe,あるいはそれらのショートカットに直接ドラッグ&ドロップできます.Openダイアログボックスを経由せずに済むため,実にスピーディーな操作が実現します.詳しくはReadme.pdfの2節(インストール)をお読みください.


8月1日
VICSとVENDのPreferencesダイアログボックスでデフォールト設定を変更した後,新たなデフォールト設定として保存できるようにしました.二つのマニュアルにおける入力ファイルのドラッグ&ドロップに関する記述をより詳細にしました.MEM解析プログラムのプロトタイプを試運転しました.9,10-ジオキソアントラセンの放射光粉末回折データのMEM解析を行ない,もっともらしい解を得ました.最初の一里塚に到達したという思いです.

8月2日
VICSのBondsダイアログボックスにおいてBond styleのところに些細な表示ミスがあったのを修正しました.両マニュアルを多少手直ししました.ユーザーからのクレームはもう10日間ほど途絶えたままです.なにかお気づきの点がありましたら,遠慮なくお知らせください.本日届いた「化学と工業」8月号,p. 941に第11回X線分析講習会「粉末X線リートベルト解析」(大阪)の開催通知が掲載されていました.

8月5日
VICSに肝心要な三つの機能(*.mol, *.mld, *.pdbからの結合情報の取り込み,金属結合半径,共有結合半径,イオン半径の区別,depth cueing)が欠けていることを認識し,大急ぎで追加し始めました.その作業に必要なデータを集めるため,酷暑の中,千現(旧金材研)まで自転車で出かけました.このように,VENUSのポリッシュアップを精力的に続けていますが,2年前にRIETAN-2000をリリースした後に比べると,消耗はわずかです.理由は簡単で,Windows版だけにフォーカスしているからです.VENUSのリリースと新MEM解析プログラムの完成を最優先し,今年は海外渡航(例年,3回程度)を敬遠した,というのも効いています.Windows用VENUSしか配布していないのを残念に思う方々は多いでしょう.Mac OS Xファンには申し訳ないですが,新MEM解析プログラムを可及的速やかに完成させ,人柱にならないようにするには,冷たく切り捨てる以外の選択肢はありません.現時点でMac OS Xを主に使用しているパソコンユーザーは1 %程度にすぎないそうです.苦労して移植したところで,波及効果がほとんど見込めません.さらにPowerPCの性能向上が遅々として進まないのにも失望しています.モトローラの力不足は明らかです.突如として消滅する可能性さえあるOS・CPUのために限りある身の力を注ぐのは,リスクが高すぎます.

8月6日
Chem3D形式のファイルに結合情報を含めうることを知り,これも考慮することにしました.*.pdbなどのファイルに含まれている結合情報を利用すると,相当原子数が多い分子でも球棒模型が瞬時に現れ,効果てきめんです.PDBのファイル形式に関する理解が進んだので,分子グラフィックの標準フォーマットといってもよいPDB形式のファイルを出力できるようにしました.次回にアップロードするv1.2bではかなり新機能が増えることになるので,じっくり腰を据えてプログラミングに取り組みます.

8月8日
Alexeiが最後に投稿した論文の審査結果が届きました.ほんの少々書き直せば受理してくれるそうで,ほっとしました.これで,彼が2年間に書いた6報のオリジナル論文(このほかProceedingsの論文2報)のうち,審査結果を待つのは1報のみとなりました.VICS v1.2bはすでに完成しましたが,マニュアルの手直しが終わっていません.もうしばらくお待ちください.ファイル読み込み直後の分子の球棒模型表示が劇的に速くなったのがなによりの収穫です.Depth cueingも効果的です.種々の構造データファイルを変換するソフトBabelをWeb上で利用するサイト,Format Conversion with Babel-1.6を発見しました.PythonでBabelを操っています.プラットホームを問わないのはいいですが,Windowsフォーマットのファイルを用意しなければならないのがしゃくです.このところ,粉末回折や構造解析でなく分子グラフィックの(にわか)専門家として活動している感じです.このまま粉末回折から遠ざかっていくような気さえしてきました.

8月10日
Rigaku J.に執筆した解説でFig. 10が欠落しているという知らせを受け,至急,新しいPDFファイルをアップロードしました.講演と講習のお知らせにXIX Conference on Applied Crystallographyでの講演を追加しました.ふと気がつくと,明日は誕生日.また馬齢を重ねることになります.

8月13日
日本結晶学会誌のために執筆した解説の校正刷が届きました.ざっと眺め渡して感じたのは,これほど作為の跡が見えない,無造作な文章は私にしては珍しい,ということです.ですます体で書いたせいか,9ページに達していました.9月初めには発行されるでしょう.VICSにおける配位多面体・空間充填模型以外の構造モデルにdot surfaceを追加できるようになりました.Dot surface+stickモデルで有機分子を表示し,全画面モードで回転させてみました.言葉に尽くせないほど美しく,長いこと眺めていても飽きません.感動しました.

8月14日
Mac OS Xを安定に動かすには,Classicの使用をできるだけ避けるべきです.ClassicはMac OSにとって獅子身中の虫といって過言でありません.やむを得ないとき以外はClassicを切るようにしたら,多少は安定になりました.といっても,未だにカーネルパニックやインターネットの切断が突発的に起きるなどのトラブルに見舞われることがあり,完璧からは程遠いです.

8月15日
昨晩から,分子軌道計算プログラムGaussianで出力したCube形式ファイル中の3D電子密度をVENDで視覚化する機能を追加し始めました.Gaussianをターゲットにしたのは,勤務先の並列ワークステーションにインストールされているためで,開発者のジョン・ポープルがノーベル化学賞受賞者だからではありません.私もRubenもGaussianを使った経験は皆無ですが,今日の夕方までにはD2O,ベンゼン,キュバンなどの電子密度を眺めることができるようになりました.半経験的分子軌道法プログラムWinMOPACも検討したのですが,富士通に問い合わせたところ,3D電子密度をテキストファイルに出力する機能はないとのことで,あっさりあきらめました.

8月18日
とにかくGaussianのCube形式ファイルがVENDで読み込めるようになったのは大収穫です.他のフォーマットのファイルはCube形式に変換すればいいでしょう.分子軌道法プログラム(分子対象)についてざっと調べてみて,有名ソフトの最新版はどれもかなり高価格だということを知りました.たとえば,Gaussian 98(UNIX用バイナリ)は220万円(可視化ソフトは別売り)です.WIEN2kがソースコード・サイトライセンスつきで400ユーロにすぎないのとは大違いです.ブランド品は高いところに値打ちがあるということなのでしょうが,それにしても一桁違うのではないか,というのが率直な感想です.分子軌道法の専門家は日本にも数多いはずです.ブランド品に匹敵するような非経験的・半経験的分子軌道法プログラムを自ら開発し,フリーソフトウェアとして配布しているような偉人は我が国には存在しないのでしょうか.著名ソフトのユーザーと解説者ばかり多い国では,当該研究分野はしだいに衰退していきます.いくら追いかけても追いつけないほど差をつけられたということでしょうか.

8月19日
VENUS v1.2b(ベビーフード・バージョン)をアップロードしました.主な新機能は,Gaussian Cube形式ファイルからの電子密度の入力,Chem3D・MDL・Molfile・MOLDA・PDB形式のファイルに含まれる結合情報の利用,金属結合・共有結合・イオン半径を原子半径のデフォールト値に使用,VICSにおける球棒・棒・針金模型における分子表面のドット表示,depth cueing(手前から後ろに向かうにつれて暗くなるというグラフィック処理),VICSによるPDBファイルの出力です.MacMolecule/PCMoleculeは開発者が見捨てたようなので,VICSによるMacMolecule/PCMoleculeファイル入力の機能は取り去りました.Cube形式ファイル三つを\VENUS\Examples\VEND\Gaussianフォルダに格納した結果,アーカイブファイルの大きさは13.4 MBに達してしまいました.

8月21日
VICSを更新しました.恥ずかしい話ですが,分子グラフィックスに関してはど素人のため,空間充填モデルにはvan der Waals半径を使用するという基本的常識を昨日まで知りませんでした.van der Waals半径の文献(J. Phys. Chem.)を探し出し,さっそく入力しました.また球棒モデルではvan der Waals半径×0.25を半径のデフォールト値としました.球棒・棒モデルの重ね合わせに関するModelダイアログボックスに関する記述をVENDのマニュアルに追加しました.Chimeプラグインを使ってブラウザで表示した球棒モデル中の各原子は,元素と無関係に同一半径をもつことに今日はじめて気づきました.なぜこんな不自然な表現を採用しているのか,理解に苦しみます.高速化するためなのでしょうか.

8月22日
しばらくの間,DViewCocoaというココア・アプリケーションで英辞郎を検索していました.しかし,広辞苑,ランダムハウス英語辞典,英辞郎をすべてJammingで検索すると便利なので,英辞郎の辞書Ver. 55をJamming形式に変換し,インデックス語を作成し,最後にインデックスファイルを作成した後,Jammingで辞書として登録しました.また広辞苑はこれまでCDイメージとしてマウントしていましたが,ハードディスクにファイルをすべてコピーし,Jammingが直接これらのファイルにアクセスするようにしました.この結果,三つの辞書の一括串刺し検索が可能となり,文章作成の能率がアップしました.

8月23日
久しぶりにRIETAN-2000をアップデートしました.修正点と新機能は次の通りです:
(1) 回折パターンのシミュレーション用*.patファイル中で","が一カ所欠落し,エラーとなる,というバグを修正しました.
(2) Thompson, Cox, Hastingsの擬ボイト関数において,通常の発散スリットつきブラッグーブレンターノ回折計以外の光学系に対し透過型光学系用の試料変位パラメーターを適用している,というバグを除去しました.
(3) Windows上で*.insと同一フォルダにVICSテキストファイル*.vcsが存在する場合,リートベルト解析後に*.vcs中の格子・構造パラメーターを精密化値に自動更新するようにしました.
(2)はかなり深刻な不具合ですから,ただちに最新RIETAN-2000パッケージに切り換えるようお願いいたしします.(3)はMac OS版におけるCrystalMakerテキストファイル更新機能のWindows版です.なお,今回からMac OS用バージョンはCarbonアプリケーションだけを配布することにしました.Mac OS 8.6より前のOS(時代遅れ!)ではもはや動かないことにご注意ください.

VENUS\Examples\VEND\Gaussianフォルダ中にGaussian 98でHartreeーFock分子軌道法計算を実行したときの入力ファイルを収めました.Gaussian Cube形式ファイルを作成するときの参考になります.詳しくは同フォルダ中のReadme.txtをお読みください.またVENUSのマニュアルを少々書き足しました.

8月26日
3年前に買ったShriverとAtkinsの"Inorganic Chemistry," 3rd ed.東京化学同人発行の和訳もあります)の付録CDを初めて袋から取り出してみました.かなりの数のMDL Molfile(Mac形式)が元素ごとに記録されており,ブラウザ+Chimeで眺めるようになっています.いくつかのファイルをDOS形式に変換したところ,VICSで問題なく視覚化できました.VENUSのWebページにも書きましたが,種々の結晶・分子構造が記載されている教科書では,これくらいのサービスは提供して当たり前の時代が到来したのではないでしょうか.結晶・分子構造は三次元的に理解すべきです.VENUSとVICSテキストファイルを記録したCDつきの書籍が刊行されたら素晴らしいですが,そこまで先進的な著者がいるとはとうてい思えません.若い人は少ないですしね.

8月28日
Gaussian Cube形式のファイルから分子軌道と静電ポテンシャルをVENDで読み込み,視覚化できるようにしました.もちろん正・負の値に応じて違う色で等値面(isosurface)を描けます.とある商用ソフトなどよりはるかに美しく表示でき,素晴らしい出来映えです.もちろん鳥瞰図もプロットできます.これらの図に球棒・棒模型を重ね合わせるために,Cube形式ファイルをVICSで読み込めるようにしました.新機能をマニュアルに追記するのが終わり次第,公開するつもりです.ところで,HOMO(最高被占分子軌道)は「ホモ」, LUMO(最低空分子軌道)は「ルモ」と読むということをバンド計算の専門家から伺いました.ホモ-ルモ相互作用という述語もあるようです.そんな初歩的な用語も知らない,ずぶの素人が量子化学計算結果の可視化に熱中しているというのですから,ほとんどお笑いの世界です.ナフタレンのHOMOとLUMOをVENDで視覚化し,フロンティア軌道の状態によって化学反応の方向が決まる(α位の水素が置換されやすい)ことをあらためて認識しました.いずれブタジエンとエチレンのHOMOとLUMOも可視化し,ディールスーアルダー反応のメカニズムを視覚に訴える形で理解してみたいです.思い返せば,自分が学生の時は分子軌道計算の実習もありませんでしたし,HOMOもLUMOも教わりませんでした.定性的な有機電子論では,ナフタレンのα位が陽・陰イオンに対し活性な理由はまったく理解できなかったはずですが,もう記憶がおぼろになっています.

8月29日
Alexeiの6番目の論文の審査員意見が届きました.幸い,二人の審査員とも非常に高く評価してくれました.受理されたのも同然,という感じです.RIETAN-94を製作していた当時,私のところに研修員として10ヶ月間滞在した金容日氏が来訪しました.8年ぶりに会ったことになります.VENUSで結晶構造やら電子密度やら分子軌道やら次から次に表示・操作し,最後にだめ押しとして二重カーボンナノチューブの内部に入り込み,伸長軸を中心に回して見せたら,度肝を抜かれた様子でした.これはフリーソフトウェアだと言ったら,もっと驚いていました.VENDに量子化学関連機能を実装するのに情熱を注ぎ込んでいた結果,日本結晶学会誌の2本目の原稿はまだ着手すらしていないままに留まっています.そろそろ焦ってきました.

8月31日
大阪大学の水野正隆氏(「はじめての電子状態計算」の著者の一人)にDV-Xα法プログラムSCATの計算結果を収めたバイナリーファイルf09とf39から電子密度,分子軌道,静電ポテンシャルの三次元テキストファイルを出力するプログラムcontrdを作っていただきました.ご協力を深く感謝します.このような変換ソフトの出現を心待ちにしていたので,うれしくてなりません.VEND 1.3bではこれらのファイルを読み込めるようにするつもりです.DV-Xα法のユーザーは楽しみにしていてください.ただし,来月は超多忙なため,気長にお待ちください.オリジナルのMEM解析プログラムはすでに試運転とチューニングの段階に入っており,9月末にはほぼ完成する見通しです.案の定,RIETAN-2000やVENUSのような超弩級ソフトの開発に比べれば,はるかに楽な仕事でした.


9月2日
DV-Xα法プログラムSCATの計算結果から求めた電子密度,波動関数,静電ポテンシャルをVENDで三次元表示できるようにしました.WIEN2kと異なり,周期性を無視するクラスター法を使うと分子軌道を表示できます.TiCの分子軌道をいくつか表示してみて実感したのは,正負の値が複雑な三次元分布を呈しており,2次元の等高線図では理解しがたいということです.三次元グラフィックの効用は一目瞭然でした.DV-Xα法のユーザーの方々にとって,VENDが福音となることを確信しています.このように次々に新機能を追加しているのですが,ベータ版ユーザーのレスポンスは芳しくありません.Jedit4のベータ版の場合,メールアドレスを入力してダウンロードするようにしています.ベータ版配布の目的は宣伝や普及のためではありません.動作テストとバグの報告を通じてわれわれを支援するようお願いしているのです.いわば開発に参加していただくようなものなのですから,ベータ版ユーザーからは所属,氏名,メールアドレスくらいは聞いておいた方がよいのかもしれません.そうすれば,フリーソフトウェアの開発を積極的に支援する気のある方々だけがVENUSのベータ版入手を申し出てくるのではないでしょうか.しかし,余計な手間が増えるだけなような気もします.

9月5日
日本結晶学会誌の連載記事(第2回)の執筆,なかなか進捗せず,今週初め頃は精神的にかなり切羽詰まっていました.しかし,毎日少しずつ書き進めていった結果,今日ようやく本文と表1ができあがりました.今回はRIETANで得られる種々の情報(幾何学的データ,bond valence sum,磁気モーメント,結晶子サイズ,格子ひずみ,質量分率)について述べました.VICSによるアシストの有効性も説きました.Collinearな磁気的結晶構造の解析について述べた3節には苦戦しました.なにしろRIETANにこの機能を組み込んだのは1980年代の半ばでして,自分自身はほとんど使った経験がない上,もとより興味もなく,ほとんど忘れ去っていたのです.また,以前から気づいてはいたのですが,白根先生の論文には記載のなかった単斜晶系と三斜晶系に属する物質の解析について記録した文書がまったく存在しません.冗談は抜きにして,ソースプログラムがマニュアル代わりといった状況に陥っていました.今回,表1に両者の<cos2η>を明記でき,喜んでいます.明日までに図を作成し,すべて片づけてしまうつもりです.

9月7日
最近,Netscape 7.0を使い始めましたが,File → New → Navigator Tabで新しいページにアクセスすると,以後,Webページがタブで切り換えられるようになり,実に便利です.安定度は十分高く,動作も速くなったような気がします.男子高校生がシンクロナイズド・スイミングに挑戦するという「ウォーターボーイズ」を見ました.川越高校での実話だとか.「しこふんじゃった。」の影響が濃いように感じました.映画そのものより,演技中に流れるシルビー・バルタンの「あなたのとりこ」が気に入りました.フランスのポピュラー音楽イェイェ時代華やかなりし時代の晴れやかな曲です.この曲が緑水のCMに使われたのが引き金となって,シルビー・バルタンのアルバムはなんと100万枚を突破したのだそうです.以前,ジリオラ・チンクエッティの「雨(La Pioggia)」がVitzのCMに使われていましたが,実は私の頭の中では「あなたのとりこ」と「雨」が,歌手・曲名ともごちゃごちゃになっていました.年は取りたくないものです.

9月9日
日本結晶学会誌, Vol. 44, No.4が発行されました.拙作「RIETAN徹底活用ガイド (1) 入出力ファイル」が載っています.この記事によれば,VICSで読み込めるファイルフォーマットは15種となっていますが,次期β版ではGaussian 98 Cube形式とDV-Xα法プログラムSCATのF01ファイルが追加されることにご注意ください.電子密度や波動関数の等値面と球棒・棒模型を重ねて表示するためです.VICSで配位多面体の体積とひずみパラメーター(quadratic elongationとbond angle varience)を計算できるようになりました.低温・高温・高圧下での構造変化を調べる際の必携ツールとしてVICS 1.3bで利用可能とします.さらに,BurgerのMEM解析プログラムMEEDCABとMENDが出力する密度ファイルをVENDで読み込めるようにしました.いずれもmeedを改造したソフトで,MENDは負の干渉性散乱径(中性子回折)の原子を含む化合物を扱えます.

9月13日
UNIX/Linux用RIETAN-2000をRedhat Linux 7.3上でリンクできないとの報告を受け,makefile_g77を修正した上,rietan2000u.tbzをアップロードしました.今週は雑用に追われ,日本結晶学会誌のために執筆中の原稿「RIETAN徹底活用ガイド(2)粉末回折データから得られる情報」は放置していましたが,本日,次の一節を挿入し,めでたく脱稿しました:
「(VICSの)GUIを通じて様々な結晶学的情報が楽々と手に入るのは,3Dグラフィックソフト自作の賜です.安直なVRMLなどに頼っていたら,こういう芸当は不可能です.未経験の分野で辛酸を嘗め尽くしましたが,その労苦は報われたといってよいでしょう.」
MPF法による電子密度や不規則構造の解析ばかりでなく古典的なリートベルト解析においても,3D可視化ソフトの有効性は明白です.今やRIETAN-2000とVICSは*.insや*.cifを介した密接な結合を果たしており,両者の連携は容易です.今後は,最高の武器(優れた可視化ソフト)を装備していないスタンドアローン・リートベルト解析プログラムは時代遅れとみなされるにちがいありません.今回の記事は過去の文章からほとんどコピー&ペーストせず,新たに書き起こしました.かつてコピー&ペースト王と自称して開き直っていた私にとって異例なことです.

9月17日
日本セラミックス協会第15回秋季シンポジウムにおける依頼講演用のOHPシートを作成し始めました.この夏,買ったばかりのキヤノンBJ F930で印刷していますが,印刷品質の高さには目を見張るものがあります.実売価格,約4万円の製品にしては上出来です.インクジェットプリンターは初代カラリオ以外使ったことがなかったこともあり,長足の進歩には驚かされました.この値段で利益が出るとは思えませんが,消耗品で儲けるのでしょう.BJ F930はExif2.2に完全対応しているので,デジタルカメラによる撮影時の様々な情報を画像データ内に収めることができます.ということは,撮影条件に忠実に印刷できるということを意味します.こうなると,デジタルカメラがほしくなってきました.出力の速さは相当なもので,もちろんMac OS X用ドライバも完備しています.

9月21日
「粉末X線解析の実際」第3刷が発行されました.初版発行から半年あまりしか経過していませんから,快調なペースではないでしょうか.某国際会議で講演するよう某国の知己から依頼されたのですが,にべもなく断りました.海外出張は当分控え,研究集会で発表もせず(これは毎度のことですが),VENUSのポリッシュアップをはじめとするソフト開発に専念します.次回のバージョンアップには間に合いませんが,電子密度解析の大家Tsirelsonの論文
V. G. Tsirelson, Acta Crystallogr., Sect. B, 58 (2002) 632-639.
に基づき,VENDの読み込めるデータをさらに増やししつつあります.一般に,電子エネルギー密度he(r)は運動エネルギー密度g(r)と電子ポテンシャルエネルギー密度ν(r)の和で表されます:
he(r) = g(r) + ν(r)
これらを3Dの電子密度から計算し視覚化すれば,原子間相互作用のタイプに関する情報が手に入ります.また,上式中に含まれるラプラシアンから,共有結合性やイオン結合性の程度を見積もることも可能です.L. Paulingの名著"The Nature of the Chemical Bond"のタイトルそのものを理解するのに役立ちます.すでに直交座標系については外部ユーティリティーのコーディングを終了していますが,斜交座標の場合は計算がやっかいです.動作チェックもしなければなりませんし,この機能を公開するつもりは当分ありません.

9月24日
日本セラミックス協会秋季シンポジウム(秋田大学)での依頼講演を終え,さきほど帰宅しました.前半はMPF法による結晶構造の精密化,後半は構造,電子・核密度,波動関数の3D可視化について講演しました.前者はともかく,後者について私のようなオヂが滔々と語るのは,我ながらあまりにも異様な感じがしました.なにしろOpenGL API,3Dゲーマー,GeForce4 Ti4600,WIEN2k,Gaussian 98,HOMO,Mac OS Xといったセラミックス離れした用語を連発し,胸の谷間もあらわなお姉さんが剣を振りかざしている絵(ビデオカードの箱に描かれたゲームの1シーン)まで飛び出す,ぶっ飛んだ講演ですから,聴衆もあっけにとられたのではないでしょうか.書類やら,会議やら,雑用やらに追われ,徒に消耗している同年代の研究者とは対照的です.したくないことに背を向け,好きなことだけを好きなようにやれているのだから,幸せだと思います.


10月3日
大阪大学の水野正隆氏がDV-Xα法プログラムSCATの計算結果から電子密度・静電ポテンシャル・波動関数の3Dデータファイルを作成するユーティリティーcontrdの改良版を送ってくださいました.これで大きなピクセル数のデータを保存できるようになりました.VENDで表示した鳥瞰図と2D密度マップをグラフィックデータファイルに出力できるようにするとともに,2D密度マップに等高線をプロットする機能を追加しました.さらに分子動力学ソフトMXDORTOの計算結果(現在の原子位置)を読みとり,VICSで表示できるようにしました.こうして描いたSiO2融液の配位多面体模型をVENUSのページに追加しました.14ヶ月余りにわたって一心不乱に開発してきたVENUSは,これにてコードフリーズとあいなりました.われわれはVENUS正式版v1.4の完成に向けて全速力で突き進みつつあります.

RIETAN-2000のページに置いた文書Parameters.pdfを更新しました.

10月8日
非経験的分子軌道法フリーソフトウェアGAMESS専用の可視化ソフトMacMolPltが電子密度,波動関数,静電ポテンシャルの3Dデータをテキストファイルに出力できることを知りました.いずれVENDで視覚化できるようにするつもりです.さらに,GAMESSとMacMolPltの両方にMac OS X版が存在することもわかり,狂喜しました.

10月10日
VENUSのベータテスト用freezed food version 1.3bをリリースしました.掲示板の8/28,8/31,9/2,9/9,10/3の項に書いた新機能を追加したほか,2Dマップと鳥瞰図のグラフィックファイル出力,2Dマップにおける等高線のプロット,Graphicsウィンドウのタイトルバーへのファイル名の表示,ファイル保存ダイアログにおける現ファイル名の表示も盛り込みました.これら4つの機能は最近インド人研究者が要望してきたものです.VENUS v1.4には,さらなる新機能はもはや注入しません.人目を引くビシュアル系ソフトであるVENUSは,私的Webサイトで寂しく公開し始めるよりは,フォーマルな檜舞台で華々しくデビューさせてやるのが親心というものです.そこで,日本セラミックス協会が11月末に刊行する予定のCD-ROM版「セラミストのためのパソコン講座」に収録することにしました.これはセラミックス誌に2年4ヶ月にわたって連載された同講座を各著者が最新の内容に改訂した上,CD-ROM化したもので,RIETAN-2000とその記事も含んでいます.「セラミストのための…」と銘打ってはいますが,どんな専門の方にも役立つ情報を満載しています.会員価格が1,300円(税込),非会員価格(税別)が1,800円となっています.2002年11月末までに予約すれば,送料は無料です.VENUS v1.4はこのCD-ROM書籍中の圧縮ファイルとしてだけ配付し,Webページでの配布は修正・追加ファイルだけに留めます.VENUS v1.4を入手したい方はぜひ予約購入してください.私自身も2枚,注文しました.

10月11日
Mac OS X v10.2 Jaguarを3台ものMacにインストールした同僚がいたのに刺激され,遅ればせながら勤務先のPower Mac G4(Gagabit)にJaguarをインストールしました.古いシステムを保存し,OS X 10.1.Xでの設定を再利用するモードを選択したため,ほとんど自動インストール同然でした.システムに組み込まれているATOK 15は当然のことながら使えなくなり、再インストールせざるをえませんました.また日本のタイムゾーンでなくなってしまうという不具合があり,設定し直しました.GUIがかなりスピードアップした模様です.Power Mac G4でカーネルパニックが絶対起こらないよう祈ります.

10月12日
自宅のiMacにもJaguarをインストールしました.エディターでファイルを編集中やWebページを閲覧中に一部の文字が見えなくなるという重大な障害があることがわかりました.Mac OS X v10.1.5のときには,こういう奇怪な現象はまったく起こりませんでした.ARENA Internet Mailerがメールチェック時にエラーメッセージを時折出すのは,以前と変わっていません.

10月13日
Jaguar上でRIETAN-2000が正常に走ることを確認しました.

10月15日
VENUS v1.3bを更新しました.VENDに入力ファイルをドラッグ&ドロップできないというバグを退治しました.9月21日の項に記したg(r),ν(r),he(r),ラプラシアンの可視化機能は簡単な外部ユーティリティーによる電子密度ファイルの変換で実質的に実現することを考慮し,急遽v1.3bに組み込んでしまいました.これで視覚化できる物理量を一挙に増やせました.各ユーザーが変換ソフトを作れるように,テキストファイルのフォーマットをVENUS.pdf中に記述しておきました.

私のPower Mac G4 500MHzX2 (Gagabit) はDVD-RAMこそ装備しているものの,CDは焼けません.高速ビデオカードに交換することもかなわず,すでに使い倒した感が強いですが,最新Power Mac G4があまりにも魅力ないので,なんとか延命させたいです.そこで6月ごろ買ったLaCie StudioDrive DVD-RW/CD-RWをFireWireポートを介して接続し,付加価値を高めることにしました.ドライバーのインストールはとくに必要ありませんでした.さっそくCD-Rにいくつかのフォルダを8倍速で保存してみました.最後にCDを焼くよう指示するところを除けば,通常のFinderの操作と変わらず,実に簡単でした.これでなんとか,あと1年間は命拾いできるでしょう.

10月16日
われわれはオリジナルMEM解析プログラム(名前はまだありません)がVENUS同様,普通のパソコンで高速に実行できるフリーソフトウェアになるよう懸命に努力しています.スパコン,マルチCPUマシン,ワークステーションなどは念頭に置いていません.並列計算機(お金持ち以外は縁なし)もFFT(かなり大規模な計算でないと逆効果)も使わずに,現段階でどれくらいのパフォーマンスを発揮するかを2 GHzのPentium 4を装備したRubenのWindows 2000機でテストしてみました.9,10-ジオキソアントラセンの放射光粉末回折データから求めた観測構造因子を解析してみたところ,MEEDと比べて3.4倍速いことがわかりました.劇的な高速化といって過言でありません.単一CPUでここまで加速させた技術力を誇りに思います.意外だったのは,物質研の並列計算機titan5(アルファCPU)より,上述の平凡なパソコンで実行する方が速かったことです.Pentium 4用にFortran 90プログラムを最適化してはいますが,それにしてもあまりの速さに驚かされました.Ruben機のCPU(Willametteコア)の場合,L2キャッシュは256 KBにすぎません.最新のPentium 4(Northwoodコア)では2倍の512 KBに拡張されていますから,一段と加速するはずです.

10月17日
10月3日の項に書いたように,VICSは分子動力学ソフトMXDORTOの計算結果(現在の原子座標)を読みとり,表示することができます.この機能をチェックするためにわざわざ注文した「パソコンによる材料設計」という本が今日届きました.この本にはMXDORTOや実行例などを収めたFDが2枚付属しています.今どきFD添付とは珍しいな,といぶかりつつ,FDの内容をバックアップするためCD-Rを焼くようRubenに頼んだら,彼のWindows機では読めないと言われました.私のマシンでも同じことでした.しばらく悩んだ末,ひょっとしたら1.2HDのPC-9801フォーマットのFDなのではないかと思いつきました.そこで床に投げ出されていた同僚のPC-9801にディスプレイとキーボードを接続したところ,これらのFDが読み込めました.720 MB容量で別なFDをフォーマットし,zipフォーマットで圧縮したファイルをこのFDを介して私のマシンにコピーし,さらにRubenのマシンに転送しました.Rubenのマシンに直接コピーしなかったのは,それでは720 MBフォーマットが読めないからです.こうした一連の面倒な作業を経て,ようやくCD-Rに記録しました.ちなみに,tbzフォーマットで全フォルダを圧縮してみたところ,521 KBにすぎず,2DDのFD1枚に余裕をもって収められる程度の大きさにすぎませんでした.これらのFDに記録されていたいくつかのFILE07.DATの内容がすべてVICSで視覚化できることを無事,確認しました.FDの入っていたボール板の背面に"IBM-AT互換機では読めません."と明記してあることに気づいたのは,帰宅してからでした.このFD騒動について,所見を述べるのは控えておきます.

10月19日
10月16日の記事を少々補足しておきます.私は5年前から一握りの専門家よりはむしろ一般の研究者,技術者,学生を勇気づけ,彼らに力を与え,研究の創造性と生産性を飛躍的に高めるフリーソフトウェアを開発することにフォーカスしてきました.もちろん,VENUSおよび製作中のMEM解析プログラムはこの目的にかなっています.ありふれたパソコンで驚異的な性能を発揮するソフトを提供するのが私の使命です.並列計算機やグラフィックワークステーションを所有するお金持ちを積極的に支援するつもりは毛頭ありません.

化石化しつつあるWindows NT機で我慢し続けているのは馬鹿らしいし,自作ソフトを最新のWindows XPでテストする必要もあるので,一昨日に発表されたばかりのDynaBook G6/U22PDEWを購入することを決意しました.これを選んだ理由は単純で,モバイルPentium 4プロセッサ 2.20GHz-MとグラフィックスコントローラnVIDIA GeForce4 460 Goを搭載しているハイエンド機だからです.RAMは1 GBに増設します.GeForce4 460 GoはVENUSを俊敏に動作させるの威力を発揮するはずです.ビデオメモリーが32 MBに留まっており,OSがWindows XP Home Editionなのが少々悔しいですが,実用上はこれで充分でしょう.

大阪大学の水野正隆氏がDV-Xαホームページの表紙でVENUSにリンクを張るよう手配してくださいました.

10月20日
VENUSで保存した高分解能(つまりピクセル数の多い)グラフィックデータを最適サイズに縮小するとき役立つチップを一つ.PhotoshopPhotoshop ElementsPaint Shop Proなどのフォトレタッチソフトでファイルを読み込み,バイキュービック法で解像度と大きさを変更すると,単位胞などの線がシャープさをほとんど失いません.

10月21日
VENUS 1.3bの配布ファイルを更新しました.二つのマニュアルに少々加筆しただけです.

鋭意,開発中のMEM解析プログラムですが,10月16日の項に記したように,単一CPU機における卓越した高速性をすでに実現していることから,中・小規模計算用ベータ版を11月末ごろを目標に公開しようと決意しました.すなわち,この開発途上版とVENUS v1.4を相前後してリリースすることになります.VENUSとオリジナルMEM解析プログラムはRIETAN-2000と互いに連携させながら動かすので,ほぼ同時期に使えるようになることの意義は大きいです.VENUSと違って長いマニュアルの執筆に苦労することはありませんし,多くのノウハウを習得する必要があるRIETAN-2000と異なり,事実上ブラックボックスとして使えます.PCの高速化は留まるところを知りませんから,時の流れとともに実用性が急速に増していくにちがいありません.MPF法を広く普及させていくためには,論文や解説を書いているだけではだめで,論より証拠,解析結果をパターンフィッティングのプログラムにフィードバックさせ得る高速MEMプログラムをWebで提供するのがなによりです.明後日から大阪で開かれる粉末X線リートベルト解析講習会でも,これら3者の連携プレーについて述べるつもりです.

10月24日
さきほど大阪から戻りました.講習会の席で,新MEM解析プログラムのベータ版を11月中に必ずリリースすると宣言しました.ほとんど初心者ばかりの場で大見得を切ったところで仕方ありませんが,自らの背中を押すために敢えてそうしました.このベータ版を出発点として,段階的に完成させていきます.巨大かつ複雑なRIETAN-2000およびVENUSとは比べ者にならないミニソフトなので,2大巨頭を補佐する裏方という位置づけです.

10月26日
最近は,iDisk上のHTMLファイルを直接Jedit4(Rev. 4.2.0が出ました)で入力・編集・保存しています.かなりかったるいですし,一部の文字が見えなくなるという障害に悩まされるのは相変わらずですが,Goliathでファイル転送するよりはるかに楽で,パソコンのHDとiDiskがシームレスに使える便利さを満喫しています.

「粉末X線解析の実際」サポートページに「11. 追加」という項目を増設しました.

10月27日
Mac OS・Windows用RIETAN-2000配布ファイルを更新しました.入力ファイル*.ins中の磁性原子のCMFFに関する文献を修正しました.Mac OS用rietanの出力ウィンドウで用いているフォントが小さすぎたので,12ポイントのMonacoに変更しました.Windows用のrietan,orffe,lst2cifをCompaq Visual Fortran v6.6Bでコンパイル・リンクし直しました.

10月28日
Windows用RIETAN-2000配布ファイルを更新しました.Pentium 4用に最適化した実行形式ファイルrietan_pn4.exe(rietan.exeと改名してお使いください)を追加したほか,readme_win.txtをほんの少々手直しました.

オリジナルのMEM解析プログラムをいつまでも名無しの権兵衛のままにしておくわけにはいかないので,この1週間ほど思案した結果,MPF法の原理に則ったPRIMA(PRactice Iterative MEM Analyses)という名前が浮上してきました."プリーマ"("リー"にアクセント)と発音します.RIETAN,VENUS,PRIMAに共通するのは,"イー"という発音が含まれていることです.最終決定したわけではありませんが,もうこれ以上こんなことで悩みたくないので,たぶんそうなるでしょう.ほかにもっとよい名称がありましたら,至急ご提案ください.

10月29日
Windows用ICSD検索プログラムFindItが出力する結晶データファイルのフォーマットがMS-DOS用のRETRIEVEのフォーマットとかなり異なっているとの報告があったので,両方とも読み込めるようにしました.コードフリーズしたはずなのに,影響範囲の広さ故に新機能として追加せざるを得ませんでした.VENUS正式版(v1.4)はCD-ROM版「セラミストのためのパソコン講座」に収録するため,11/11までに日本セラミックス協会に送り届けなければなりません.これが正真正銘の最終機能となるでしょう.なお,FindItもRETRIEVEも空間群名の後ろに正体不明の1文字が付くことがあるのは,まったく同じです.必ずその文字を削除してから,VICSで読み込むようお願いいたします.

10月30日
昨日記した機能をVICSに追加するとともに,新フォーマットの*.icsをICSDフォルダにいくつか入れたVENUS配布ファイル(最終ベータ版)をアップロードしました.新MEM解析プログラムの名称をPRIMAにしたい,とRubenに伝えたところ,ロシア製安タバコと同じ名前だと指摘されました.しかし,呼称なんぞにいつまでもこだわっても仕方ないですし,Rubenがロシア人で,かつ愛煙家であることも考慮し,PRIMAを採用することに決めました.

10月31日
UNIX用RIETAN-2000配布ファイルを更新しました.入力ファイル*.ins中の磁性原子のCMFFに関する文献を修正し,readme_unixを少々手入れしました.また日本語で書かれた入力ファイルの雛形*.insはシフトJISコードからEUCコードへと変更しました.


11月1日
本Webページ表紙の10月の総アクセスカウントは4008に達し,月刊アクセス数の最高記録3478(本年2月)を塗り替えました.

ありふれたパソコンを用いたオリジナルMEM解析プログラムPRIMAのベンチマークテスト結果(計算CPU時間)を発表します:

(1) Sr9.3Ni1.2(PO4)7の放射光粉末回折データ(64×64×128ピクセル,283反射)
A. A. Belik et al., Chem. Mater., 14 (2002) 4464ー4472.
で報告した超高分解能データです.

MEED: 203.4 s
PRIMA: 71.1 s(2.9倍高速化)

(2) ルチル型TiO2の粉末X線回折データ(64×64×64ピクセル,34反射)
MEEDに添付されていたファイルをそのまま使用.

MEED: 24 s
PRIMA: 5.3 s(4.5倍高速化)

(3) 9,10-ジオキソアントラセンの放射光粉末回折データ(64×32×96ピクセル,453反射)
F. Izumi and T. Ikeda, Commission on Powder Diffraction, IUCr NEWSLETTER, No. 26 (2001) 7ー9.
に記載したデータです.

MEED: 314.8 s
PRIMA: 93.5 s(3.4倍高速化)

(4) KドープゼオライトKx@K-LTA(x = 5.2)の粉末X線回折データ(128×128×128ピクセル,630反射)
T. Ikeda et al., Mol. Cryst. Liq. Cryst., 341 (2000) 447ー452.
に記載したデータです.

MEED: 895.2 s
PRIMA: 306.4 s(2.9倍高速化)

これらの結果は,PRIMAがMEEDの約3倍にも達する高速化を達成しており,(4)のようなかなり大規模な計算でも数分以内に完了することを示しています.MEED/PRIMA比が高いのは,MEEDが古いFortran 77プログラムなのだから当然でして,むしろPRIMAでの計算時間にご注目ください.リートベルト解析と同程度か,あるいはそれ以下の時間しかかかりません.

テストには,2.0 GHz Pentium 4と1 GBのRAMを装着したWindows 2000機を使いました.約1年前の購入当時にはハイエンド機でしたが,現時点では完全に陳腐化しています.L2キャッシュ容量が2倍の512 KBに増えている2.8 GHz Pentium 4マシンを使えば,数割は高速化するでしょう.今後,続々と登場してくるインテルの新CPU(Prescott,Tejas,Nehalem)を搭載するハイエンドPCでは,ハイパースレッディング技術によるIPCの向上と2次キャッシュメモリーの増加も追い風となり,飛躍的なスピードアップが望めます.単一CPUのWindows機でMEMを手軽に使う時代が到来した,とみてよいでしょう.個人的には,2CPU機や並列計算機は高価で,しかも騒音源かつ熱源となるため,敬遠しています(最新のPower Mac G4を私が買おうとしない主な理由です).1気筒ターボMEMエンジンによる卓越した加速性能を謳うPRIMAと留まるところを知らないPCの性能向上は,MEM解析を何回か繰り返すMPF法に大きな恩恵をもたらします.残念ながらPowerMac G4は蚊帳の外です.PowerPC G4の最高クロックが1.25 MHzでは,いくら2気筒エンジン(CPU二つ)を積んだところで話になりません.

パソコン上でのMEM解析が予想外に速かったため,MEM解析の実行時間よりはパターンフィッティングや3D可視化ソフトの性能や機能の方がはるかに重要なように思えてきました.

11月3日
10/12の項に書いたように,JaguarをiMacにインストールして以来,ブラウザーとエディターを使用中に一部の文字が見えなくなったり,崩れたりするという不具合が顕在化しましたが,これはCarbonアプリケーションに特有の障害だと思われます.事実,Jeditに替えTextEditでHTMLファイルを編集し始めたら,そのような症状がまったく起きなくなると同時に,iDisk上のファイルを編集後に閉じたりエディターを終了したりするのが迅速になりました.TextEditはApple純正のCocoaアプリケーションだけあって,Mac OS Xとの相性は抜群です.HTMLファイルは当面TextEditを用い,on the flyで更新するつもりです.

11月4日
MacユーティリティーのページにFruitMenuを追加しました.

11月5日
IUCrのCommission on Powder Diffractionが発行しているニュースレターのNo. 27が届きました.ページをパラパラめくっていたら,"Programs that link into Fujio Izumi's Rietan Rietvled"のタイトルが目に映りました.なんと,そこには独田地獄斎のRIETVIEWでプロットした解析パターンが載っていおり,"Screen image of Rietvlew for Windows by Dr. Hell for viewing Rietan plot files."と紹介されているではないですか.恐らくエディターのCranswick氏が書いた記事なのでしょう.少々驚きました.

これも本日届いた「セラミックス」11月号中のCD-ROM版「セラミストのためのパソコン講座」の広告には,VENUSの収録が大々的に謳われていました.このように鳴り物入りでVENUSを登場させることになり,正直言って,相当なプレシャーがかかっています.

東大物性研の松下能孝氏から提供していただいているCrystalMaker用化合物ライブラリーを更新しました.前バージョンに比べ1.5 MB増え,22.2 MBにも達していました.

11月6日
ついにVENUS v1.4を「出荷」しました.最終ベータ版(すでに存在意義はありませんが,CD-ROM版「セラミストのためのパソコン講座」が今月末に発行されるまでは残しておきます)中のVICS.EXE,VEND.EXE,マニュアル二つを更新し,巨大なテキストファイルを三つ追加し,International Tablesのボリューム名が'I"になっていた*.insをすべて入れ換えました.さらに,約束通り,全ソースプログラムも含めました.全容量は123 MBに達し,+LHACAでLHA形式自己解凍ファイルに圧縮した後も28.5 MBもありました.Rubenには,
Today, we lose all the property we have acquired since the last summer, but we will get more by presenting VENUS as free software.
と小声で心境を伝えました.

現在,結晶構造作画ソフトの購入やアップグレードを考慮中の方は,買い急がず,まずVENUS正式版を試用してみることをお奨めします.商用ソフトが電子・核密度や波動関数も表示できるでしょうか.VICSほど多くの形式の結晶データファイルを読み込めるでしょうか.4通りの回転モードを備えているでしょうか.ORTEPゆずりのiterative convoluting sphereの離れ業を駆使できるでしょうか.配位多面体における構成原子の対称操作,ひずみパラメーター,中心原子のbond valence sumを出力できるでしょうか.リートベルト解析プログラムとの連携は可能でしょうか.JPEG 2000フォーマットのグラフィックデータファイルを出力できるでしょうか.フリーソフトウェアであるVENUSで実現したこれらの機能を欠いており,しかもソースプログラムを研究する自由を奪われているのに大金を投じようとしているのでしたら,商用ソフトにそれに値する値打ちが本当にあるのかどうか,熟考してみてください.

11月7日
昨日の本Webページ表紙のアクセスカウントは218で,最高記録樹立です.私がHTMLファイルのチェックのために何回かアクセスしましたが,それらを差し引いても新記録には相違ありません.

DV-Xα法で計算したTi6Cクラスターの電子密度と波動関数の等値面を半透明とし,VICSで作成した球棒模型を重ね合わせた図を収めたPDFファイルをVENUSのWebページで公開しました.

11月8日
昨日から日本結晶学会誌の連載記事の最終回をそろそろ書き始めました.第2回の記事(粉末回折データから得られる情報)が掲載されている日本結晶学会誌,第44巻5号が届きました.RIETAN-2000のページにその解説記事に関する記述を追加しました.

今やパソコンは買い換えサイクル約3年の消耗品 --- というのが常識化しています.ところが私は古いパソコンを長く大切に使う貧乏性です.家,車,家電製品はさておき,商売道具のパソコンに関しては,こういう時代に逆行する性格を改める必要を感じます.現在,文書,原稿,図,グラフの作成,インターネット・イントラネットの利用,プログラミングなど,ほとんどのパソコンによる作業を2年前に購入したPower Macintosh G4 (Gigabit)で行っています.Windows用のアプリケーションはあまり所有していません.その前に使っていたPower Macintosh 9500/132が雷に打たれて即死するという惨事を目の当たりに見たことがあります.万一,現有機が不意に故障したら,かなり長期間にわたり仕事に壊滅的な打撃を与えることは必至です(すでにCDの読みとりが不調となっています).このような危険を回避するために,新発売のPowerBook G4 (1 GHz)を本日,発注しました.これなら場所を取りませんし,Quartz Extremeの切れ味が存分に堪能できるでしょう.Mac OS X 10.2がリリースされ,Mac OS X用アプリケーションを取りそろえ終えた今は,新マシン導入の絶好のタイミングです.不満が残るのは,先日発注したDynaBook G6/U22PDEWに比べいくつかのパーツが古いことです.PC133 SDRAM,Ultra ATA/66,USB 1.1,DVD-Rという仕様は,最新のハイエンド機にしては貧弱すぎます.

11月11日
PRIMAの位置づけについてRubenと話し合いました.その結果,合意したのは,PRIMA正式版をリリースする際には,テキストファイル変換ツールとしてVENUSに含めるということです.つまり*.mem(RIETAN-2000が出力するMEM解析用ファイル) → PRIMA → *.den(3D密度ファイル) + *.fba(MPF用ファイル)という変換のためのユーティリティーとみなすわけです.PRIMAのサイズと単純さから見て妥当な処遇でしょう.なにしろPRIMAはlst2cifよりも短いミニソフトなのです.

VENUSについては,現在配布中の最終ベータ版はもとより,すでに発送済みの正式版v1.4のアップデートも少しずつ進行しています.今日はバグとり兼新機能の追加(International Tables, Vol. Aに二つの設定が存在する斜方晶系をきちんと取り扱えるようにしました)とPentium用の最適化を行いました.CD-ROM版「セラミストのためのパソコン講座」が刊行され次第,差し替え分あるいはパッチをアップロードし,v1.41とする予定です.

11月13日
「粉末X線解析の実際」サポートページに書評を一つ追加しました.ところで,CD-ROM版「セラミストのためのパソコン講座」(11月末刊行予定)の予約販売は好調だそうです.VENUS正式版の収録が多少は貢献したかどうかは定かでありません.

11月14日
11月1日に披露したPRIMAのベンチマークテスト結果に新たなデータを一つ追加します:

(5) Cu Kα1特性X線で測定したBaSO4の粉末X線回折データ(104×64×84ピクセル,352反射)

MEED: 199.0 s
PRIMA: 52.6 s(3.8倍高速化)

Mac OS Xをv10.2.2に更新して以来,エディターやブラウザを使用中に文字の一部が見えなくなる不具合は消え去りました.素知らぬふりをしてバグを退治したようです.Jaguarが発売されるや否や飛びついたというわけでもないのにこの始末ですから,ソフトがまともに動くようになるには,とにかく時間がかかるのです(別に私のソフトにバグがあるのを弁解しているわけではありません).

11月15日
ついにMEM解析プログラムPRIMAのベータ版(Windows専用)をリリースしました.といっても,本Webページで大々的に配布し始めたわけではなく,数名の方あてにひっそりサンプル出荷しただけです.MEEDと異なり,負の干渉性散乱径をもつ元素(H,Li,Ti,Mnなど)を含む物質の中性子回折データも扱えます.11/11にも書いたように,PRIMAの正式版は将来リリースする次期VENUSパッケージに一種のファイル・コンバーターとして含める予定です.これはPRIMAをSCATファイル用変換ツールcontrdと同様に扱うということにほかなりません.今回のベータ版はできたてのほやほやなので,バグや不具合が多少はあるかもしれません.それを覚悟の上で試用してみたい,バグや不具合を報告して開発に協力したい,という方には直接お届けしますので,IZUMI.Fujio@nims.go.jpまで遠慮なくご連絡ください.

11月16日
日本セラミックス協会2003年年会(3月22〜24日,東京都立大学)において「三次元可視化技術のインパクト」というミニシンポジウムを開催することになりました.Windows上でのVENUSによる3D可視化とその応用に焦点を絞ったタイムリーな企画です.日時などの詳細が正式に決まりましたら,講演と講習のお知らせのページでお知らせします.

2002年上半期(1〜6月)のPC出荷台数におけるアップルコンピュータのシェアをご存じですか.たった3.4%です.ちなみに1995年のシェアは14.2%でした.トップシェア(22.6%)のNECでさえパソコン事業では赤字だそうですから,この程度のシェアしかない会社が未だに生き残っているのが不思議でなりません.

11月17日
3.06 GHzのPentium 4を搭載したPCが続々と発売になっています.今年度はデスクトップ機を買う気はまったくありませんが,パソコン雑誌には\184,800という商品の広告がありました.RAMを2 GBくらいに増強すれば格好のMEM解析マシンになりそうです.

11月18日
数日前の朝,寝ぼけまなこで新聞をめくっていたら,「アレクセイと泉」を上映云々の見出しが目にとまりました.今年の6月まで私のところで働いていたポスドク(昨年6月3日の掲示板参照)と私のことが映画化された! --- ということはありえませんから,こりゃ夢を見ているんだな,どうせならもっとましな夢を見たいな,と思いました.しかし,そのまわりの記事を読むと,いかにももっともらしいことが書かれており,どうも本物のようです.結局分かったのは,ベラルーシを舞台とする「アレクセイと泉」という日本映画が実際に製作・上映されているということです.「アレクセイ」は青年の名前,「泉」はチェルノブイリ近くの小さな村の中心に湧く泉のことでした.不思議なことに,この泉からは放射能がまったく検出されないのだそうです.創作でなくドキュメンタリーです.つまらないネタをつまらなそうに語ってしまい,誠に申し訳ありませんでした.

11月19日
ScienceDirectに久しぶりにアクセスしてみました.面白半分にIzumi (References中) AND RIETAN (本文中)という条件でRIETANによる解析結果を報告している論文を検索してみたら,306件ヒットしました.このヒット数には驚愕しました.Elsevierの学術雑誌だけを検索した結果ですから,国内外の学会や他の出版社が発行している雑誌は含まれませんし,古い文献はデータベース化されていないはずです.実際の数はこの2・3倍くらいでしょうか.RIETANに深刻なバグがあったら,とんでもないことに… いつの間にやら重大な責任を背負わされていたことを悟り,背筋が寒くなりました.

11月21日
この1・2週間,日本結晶学会誌の連載記事(最終回)を断続的に書いてきましたが,ようやく本文と表が出来上がりました.いつも前から後ろへと順番に書き進めていく私には珍しく,順序不同で気の向いたところから先に執筆しました.最後に残った穴を埋めるような気持ちで挿入した文章は以下の箇所です:

「華やかなビジュアル系ソフトであるVENUSは,RIETANの外面の悪さを補って余りある,頼もしい援軍です.RIETANの複雑さや気むずかしさに挫折しそうになっても,親しみやすいGUIを備え,ゲーム感覚で操れるVENUSがその傍らに控えていることを思い出せば,解析を続行する勇気が湧いてくるでしょう.」

私の文章は,いつもこういう軽佻浮薄な騒々しい文体になってしまいます.本Webページも例外でありません.長い年月の間に身につけた芸として肉体化しており,今更どうにもなりませんが,もっと暖かみのある,軽妙洒脱な文章にあこがれを抱いています.

図の作成と原稿の推敲はこれからですが,ここまで来れば楽なものです.前2回の淡々とした記事と違って,今回は肩に力の入った激烈な文となりました.実際にこの記事のページを開いたとき,あっと驚くような趣向も凝らしますので,ご期待ください.

11月22日
PRIMAベータ版は少数の有志に配布ずみですが,今のところバグの報告はありません.MEEDと比べてはるかに速いというのがもっぱらの評判です.来月に入ったら,画面・ファイル出力やマニュアルに私が手を入れ,お化粧を施す予定です.

11月23日
ブラウザ,メーラー,ワープロ,表計算ソフトなどを使うだけの人にとって,最新パソコンの大半は過剰性能です.Windows機だろうが,Macだろうが同じことです.しかし,科学技術計算や3Dグラフィックまでパソコン上で行おうとすると,Windows機の方が圧倒的にソフト数が多く,しかも安上がりです.結晶解析の分野も例外でありません.Mac偏愛者と言えども,Windowsマシンも持っていないと,仕事に差し支えることになります.10万円台でかなりの性能のマシンが買えますが,各種ソフトまで取りそろえると,相当なお金がかかります.しかし背に腹は代えられません.かくの如き悲しい現実を直視すれば,私が今のところVENUSとPRIMAのWindows版しか配布していないのは当然だ,ということがご理解いただけるでしょう.もっとも,PRIMAのMac OSへの移植は半日くらいで片づく程度の作業にすぎません.ただ,PRIMAはVENUSの付録のような軽い存在ですから,VENUSがMac OSで走らないのでは,移植したところで意味がないように思われます.

かつて北朝鮮とその指導者を賛美した小田 実,大江健三郎,安江良介(元岩波書店社長),はては「キューポラのある町」とその原作者早船ちよまで厳しい批判にさらされています.北朝鮮が「地上の楽園」ということになっていた時代に,実態もろくに知らずに,思いこみそのものを書き散らしたことのつけが回ってきたということです.北朝鮮への帰還者9万3000人余や拉致被害者には顔向けできないでしょう.まあ人間,神様ではありませんから,時にはたわごとや暴言を吐いてしまうことも当然あるわけで,間違いに気づいた時点で素直に謝罪するしかありません.私もこれを教訓として,Mac礼賛は慎みたいと思います.将来,なにが起こるかわかりませんし,アップルが金儲けのために販売している商品にすぎませんから.しかし,Windowsのデザインのセンスの悪さに辟易としているのは事実でして,Windows用ソフトを優先的に開発せざるを得ないことに複雑な思いを抱いています.苛立っているという方が近いかもしれません.

11月24日
この週末は日本結晶学会誌のための原稿を推敲しただけに終わりました.2ヶ月おきに3回執筆するだけで悲鳴を上げるのだから,己の馬力の低さが情けないです.本音を言うと,リートベルト法には食傷気味で,これ以上RIETANについて執筆するのはあまり気が進みませんでした.完全に倦怠期入りしています.記事の執筆とVENUSのリリースがちょうど同時期だったので,VENUSに関する話題をかなりの割合で盛り込んで,気を紛らせました.どちらが主役なのか判然としないような内容に,読者は戸惑ったのではないでしょうか.

最終回はPRIMAまで登場し,ますます焦点がぼやけてしまいました.今回の記事ではPRIMAについて詳しく述べるスペースがなかったので,この掲示板を読んでおられる方々だけにお伝えしておきます.RIETAN-2000のユーザーはPRIMAを死蔵し,宝の持ち腐れにするべきでありません.古典的構造精密化法であるリートベルト法の限界を突き破るための強力なツールとして,ぜひPRIMAも併用してください.なお,けっして「プリマ」と呼ばないでください.ハム会社の名前になってしまいますし,「ブルマ」(ドラゴンボールの登場人物のつもり)と聞き間違える人がいますから(ジョークでなく実話です).正しくは"リー"のところにアクセントを置き,「プリーマ」と発音します.過去にRIETANを「リエタン」と発音する人が何人かいたので,一言申し添えました.

11月25日
VENUSで高解像度,言い換えればピクセル数の多いグラフィックデータをファイルに出力した後には,PhotoshopPaint Shop Proなどでバイキュービック法を用いて適当なサイズと分解能のデータに変換し,別なファイルに保存します.私はこのファイルをIllustratorで読み込んで,文字や線などを書き込み,Illustrator形式のファイルとして保存しています.白黒の図を作成し,白黒プリンターでこのファイルを印刷すると,単位胞を表す直線がかすれたり,シャープでなくなったりしてしまい,困っていました.カラーの図を作成し,バブルジェットプリンタBJ F930でカラー印刷すると,くっきりした線が印刷されることに今日気づきました.このノウハウは重要です.

11月26日
日本結晶学会誌の連載,3回目をようやく脱稿しました.9つの図,2つの表を含めて103.4 MBに達しました.明日,MS WordとAdobe Illustratorで作成したファイルをCD-Rに焼いて送付するつもりです.今年の後半はこの連載に振り回され通しでしたが,これで肩の荷が下りました.次のノルマは来年1月末までに英文書籍の1章分を書き上げることです.年始後に始めれば大丈夫でしょうから,ようやく一息つけます.今回はMS Word v.Xの不安定さに悩まされました.ファイルを読み込もうとするや否や,このファイルは破損している,と文句を言ってきます.ところがこのエラーメッセージには再現性がなく,ほとんどの場合,すんなり読み込めます.どうも印刷の後にこういうトラブルが起こるようです.もうこれ以上いらざる機能を増やすのは止めて,安定性の向上に注力してほしいです.

PRIMAの評判は上々です.ENIGMAよりはるかに速いらしいです.不具合はまったく見つかっていません.MEEDの後継として申し分のない出来映えです.今後,二つの異なるアルゴリズムを追加することによってMEM計算法の選択肢を増やし,規模の異なる問題を効率よく扱えるようにするつもりです.

11月27日
ScienceDirectでElsevierが発行した今年の雑誌について,検索条件を適当に設定して,RIETANとRIETAN-2000を使った解析結果を報告している論文を調べてみたところ,それぞれ66報と20報でした.この結果はRIETAN-2000以外のソフトを使っている人の方がはるかに多いことを物語っています.リリースしてから2年数ヶ月たっていますが,広く普及するまでにはあと2年はかかるかもしれません.

11月28日
例年,この季節になると,学協会の会費請求が届きます.指折り数えてみると,5つの学協会の会員になっていました.今年はこれらのうち,とりあえず一つだけリストラしようと決心し,候補を検討してきましたが,本日,正式に決定しました.早速,退会通知を送ろうとしたら,会員番号が必要とのこと.足踏みしています.

11月29日
CD-ROM「セラミストのためのパソコン講座」 はその後も順調に予約数を伸ばしたそうです.送料が無料となる予約受付は明日までですので,購入されたい方はお忘れなく.VENUSは正式版を日本セラミックス協会に送った後もかなり手直ししました.CD-ROM書籍が実際に発行されたことを見届けてから,差分をアップロードするつもりです.今日はその準備としてWindows用のファイルとフォルダの比較ユーティリティーDFを入手し,使い方を覚えました.

11月30日
27日に投稿した日本結晶学会誌の原稿を読み返しました.短時日で書き殴ったせいか,2・3点修正すべき点はあったものの,簡明率直かつ説得力のある文章だと思いました.風車に突進し,はねとばされるどころか,古ぼけた羽根車をぶち壊し,新設計の羽根車と交換することにより風車のパフォーマンスを劇的に改善する遍歴の騎士,という趣があります.建設的破壊という言葉がぴたりと当てはまります.私は強力な武器も持たずに突進するような馬鹿な真似はしません.私の方がドン・キホーテより少々年上の分だけ用意周到です.愛馬ロシナンテにまたがる代わりにMacとWindows機を駆使し,RIETAN-2000,VENUS,PRIMAといったオリジナル・ソフトを取りそろえるだけでなく,世界最高水準の分解能をもつ放射光データまで入手した上で,その原稿を執筆したのだ --- ということを強調しておきます.


12月1日
森 鴎外作「かのように」という小説がありました.「かのように」の哲学に関する詳しい内容はうろ覚えですが,そのタイトルはいつまでも頭の片隅にこびりついており,事があるたびに浮かび上がってきます.たとえば,戦前は天皇を現人神である「かのように」みなし,崇め奉っていました.自分が今,身を置いている研究の世界でも同じような例は無数にあり,実際にはほとんど意味のない(役に立たない)研究やプロジェクトを相当な波及効果がある「かのように」アピールするのは日常茶飯事です.要するに,予算を獲得したり,業績を整えるためには,重大な意義がある「かのように」言い立て,体裁を整える必要があるのです.会社が見向きもしないような研究のことを,工業的応用の可能性が大である「かのように」述べる例は枚挙にいとまがありません.後で実際にどの程度,特許料を稼いだかどうか追跡調査したら,惨憺たるものでしょう.論文を生産するという目的のためだけに書かれた論文も,無数にあります.それではお前の仕事はどうなのか,と問われそうですが,私の開発したソフトはアカデミックな世界で利用されているだけでなく,工業的にも大いに役立っているようです(いくつかの例を仄聞しています.企業秘密なので,具体的な内容は言えませんが).私はけっして自作ソフトが有用である「かのように」宣伝しているつもりはありません.RIETANを使って得た研究成果を発表した数100報の論文から判断すれば,有用であることを否定する人はいないでしょう.ただ,画期的な新物質を発見した,とかいう華々しい成果と違って,間接的な貢献であり,縁の下の力持ちなのです.これが構造解析のもつ悲しい宿命です.ともあれ,有意義な研究成果を挙げたい人は「かのように」の世界からの脱却を図らなければなりません.そうでなければ,名ばかりの研究に堕してしまいます.

12月2日
11/1,11/14に記したPRIMAのベンチマークテスト結果は,先週投稿したばかりの日本結晶学会誌の原稿でも報告しましたが,早くもobsoleteなデータになってしまいました.先週から今週にかけてPRIMAに追加投入した新アルゴリズムによるMEM解析を実行したところ,軒並み,計算時間が激減しました.なかにはMEEDと比べ13倍も速くなった例もあります.MEM解析技術の飛躍的前進といって過言でありません.こういう意外性があるから,プログラミングは止められないんですね.

夜は,「少林サッカー」のDVDを見ました.チャウ・シンチーの映画のヒロインにはいつも唖然とします.不細工なヒロインというのは,他に類を見ない独創です.吹き出物だらけの顔のまわりをハエが飛んでいたりするのですから,すさまじい限りです.今回は中国の国民的アイドル,ヴィッキー・チャオが演じています.しかし,彼女が優勝戦に現れたときの顔はどういう訳できれいになってしまったのでしょうか.異様に顔が大きく,肩幅が狭い作曲家志望の男には笑いが止まりませんでした.1シーンにしか出さないのはもったいない貴重なキャラクターです.とにかく,ヘンテコリンな人が一杯,ナンセンスで下品な笑いをひたすら追求するサービス精神には圧倒されました.

12月3日
会員番号不明のまま某学会に退会を申し出ましたが,あっさり認めてくれました(11/28の項参照).来年にも追加リストラを実施するつもりです.アメリカの某大学建築学科の先生から,VENUSのWebページで公開している二重カーボンナノチューブのイメージを,来年イギリスの出版社から上梓する書籍で使わせてほしい,というメールが届きました.もちろんOKで,より分解能の高いTIFFファイルを送ってあげました.出版時には必ずクレジットを入れる,とのことです.しかし,どうして建築学の本にカーボンナノチューブの図が必要なんでしょうね.

12月4日
2002年8月現在のケータイ普及台数は約7700万台,日本人10人に6人はケータイを持っている勘定になります.私はケータイを所有していません.若い人から見たら,化石のような存在でしょう.先日,「ワン切り」ってなんですか,と人に聞いて,笑われました.仕事に関する連絡にはほとんどすべてメールを利用しています.ブラウザ上でIMPを使えば,自宅はもとより,世界中どこにいてもメールを送受信できます(もっともインターネットに接続されたパソコンがなければ駄目ですが).勤務先と自宅にかかってくる電話の約半分は節税対策とか称するワンルームマンション購入などの勧誘です.経験則によれば,うれしい電話,喜ばしい電話というのはほとんどないですね.それどころか,マーフィーの法則通りに,かかってほしくないときに限ってかかってくることが多いような気がします.メールだとゴミ箱に捨てられてしまうので,電話しました,という感じの電話がかなり多いような気がします.これでは,わざわざお金を払ってケータイを使う気にはなりません.それにケータイでメールをやりとりするのも嫌です.私は若い頃から10本指を全部使ってブラインドタッチでバシバシ打ち込むのに慣れ切っていますから,右手の親指だけを酷使する一本指打法など御免被りたいです.たぶん「無ケータイバカ一代」を貫き通すことになるでしょう.

12月5日
MEM解析のソフトPRIMAですが,すでに当掲示板に書いたとおり,それほど長い開発期間を費やしたわけでも,さほど難渋したわけでもありません.VENUSの開発とは比べ物にならないほど楽な仕事でした.それにもかかわらず,MEED比で数倍〜10数倍という驚異的な高速化をあっさり果たしてしまいました.現バージョンよりのろいはずの前バージョンですらENIGMAよりはるかに速いと聞いています.無機・金属化合物や低分子量の有機化合物を対象とする限り,並列コンピュータなんぞまったく不要で,RAMを512 MB以上(できれば1 GB)に増設すれば,普通のパソコンで十分実行可能です.われわれはこれまでMEMのソフトなど作成した経験など皆無です.それにもかかわらず,短時日でこのようなレベルにまであっさり到達したということは何を意味しているのでしょうか.ここでは,終わりよければすべて良し(All's well that ends well),とだけ言っておきましょう.VENUSとPRIMAは,日本の粉末X線・中性子回折分野を活性化する画期的な新兵器となるにちがいありません.RIETAN-2000ーVENUSーPRIMAという用途と性格のまったく異なる三本のソフトを取りそろえ,緊密な連携を計ったところに計り知れない値打ちがあります.今後は,この三点セットを活用した3D可視化テクノロジーのポリッシュアップ・宣伝・普及に力を尽くしていくつもりです.

12月6日
先日投稿した日本結晶学会誌のための原稿ですが,校正用PDFファイルが今日届きました.その最後に「RIETANやその周辺ソフトは,完璧からはほど遠いです.これからも地道にポリッシュアップと機能強化に努めていくつもりですが,もう先が長くありません.」という一節があります.ここを書いていたときは,まさにそういう心境でした.しかしその後,先が長くないどころか,先が長すぎると思うようになりました.あの悪夢のような高温超伝導戦争以来,身を粉にして働き続け,綿のように疲れています.それなのに,ずっと尻をひっぱたかれ通し(というよりは,己を鞭打ち続け).もうこれで限界,勘弁してくれ --- と叫びたいくらいです.しかし,今さら削除するわけにはいきません.そのままにしておきましょう.

Adobe Photoshopを更新していて気づいたのですが,Power Macintosh G4内蔵のCD-ROM/DVD-RAMドライブでCD-ROMが正常に読み込めなくなっていました.外付けのCD-RW/DVD-RWドライブがあるので,助かりました.購入後2年4ヶ月も経つと,あちこちトラブってきます.やはりPowerBookを発注しておいたのは正解でした.

12月7日
並木ショッピングセンターの抽選会でミカン1箱が当たりました.

昨日届いた校正用PDFファイルをチェックしました.今回の記事は前2回の淡々とした記事とは異なり,実に衝撃的です.これは,オリジナルな新作ソフトと構造精密化法について述べていることに由来しています.PRIMAの前人未踏の解析速度と,国内の放射光施設に設置されている粉末回折装置のうちでダントツに分解能が高い装置により測定したデータの解析結果を報告したというのも功を奏しています.説得力が違いますね.あまりにも先端的かつアグレシブな内容で,初学者向けの解説とは言い難くなってしまいましたが,このど迫力はあらゆる読者の心を揺さぶり,強烈な印象を残すものと確信しています.

田中耕一さんがノーベル賞授賞式に出席するためにストックホルムに到着し,アバ(ABBA:二つ目の文字は左右逆)のヒット作22曲を網羅したミュージカル「マンマ・ミーア」を四季が上演中,とテレビが報じていました.私はストックホルムで1999年夏に開かれた国際会議に出席した後,おみやげに何を買おうかと思案したあげく,スウェーデンといったら,なんといってもノーベル賞とアバ,ノーベル賞は絶対とれないからと,アバのベストアルバムCDを空港で買いました.帰国後,誰にその話をしても,失笑を買っただけでした.なお,全19曲中のお気に入りは,スケールの大きい'Knowing Me, Knowing You'と愛らしい'Super Trouper'です.地味ですが,'My Love, My Life'も良い曲です.来年夏,ポーランドにでかけますが,ショパンのCDだけは買うまいと心に決めています.

12月8日
産総研 関西センター 生活環境系の野村勝裕氏らがRIETANによって得た解析結果を第11回固体プロトン伝導体国際会議(SSPC-11)で発表し,ポスター賞を受賞したと聞きました.おめでとうございます.RIETANの作者としてうれしい限りです.

12月9日
長靴を履いて雪の中を勤務先まで歩いて出勤したら,軽い風邪をひいてしまいました.

12/1に書いたことを補足しておきます.失われた90年代の原因となった日本経済のバブル崩壊に留まらず,2000年4月にはネットバブル崩壊(2000年4月),IT不況へと突き進みました.こういう未曾有の不況時でも,史上最高益を挙げている優良企業もあります.どこが違うのかというと,やはり実体のある優れた「もの」を作っているところだと思います.やがて消えてなくなる泡でなく,実際に活用され,役立ち,末永く財産となる「もの」です.「もの」にもいろいろあります.研究の分野では,他に類を見ない先端技術,画期的な装置・ソフト,有用な化学的特性・物性を呈する物質,既存技術の根本的な改良なども含まれます.かけ声ばかり立派で,中身がお粗末なプロジェクトは,大量の予算を消費した末,実質的な成果をろくに残さず,空しく消え去るのみです.固有名詞を挙げるのは避けますが,こういうプロジェクトがかなりの割合を占めているように見受けられますが,いかがでしょうか.消えてなくなるだけならまだ救いようがありますが,本州-四国架橋のように後々まで膨大な赤字を垂れ流すものが出来上がってしまったら悲惨です.

12月10日
DynaBook G6/U22PDEWが届きました.幸い液晶ディスプレイには欠落しているピクセルはありませんでした.さっそくVENUSを走らせたところ,スムーズかつ迅速に動きました.つまりGeForce4 460 Goとの相性は良いということです.ビデオメモリーが32 MBとやや少なめなのを気にしていたのですが,杞憂に過ぎませんでした.15型UXGA(1600×1200ドット)なのにもかかわらず,なんとRubenのデスクトップ機と同程度の速さで3Dグラフィックを操れます.彼の話だと,ビデオメモリーは16 MBだと明らかに少なすぎるが,32 MBあればまずまず,とのことでした.解像度が高いせいか,種々のオブジェクトが実にきれいに表示されます.

少林サッカーかるたというのを見つけ,つかの間のあいだ楽しみました.

12月11日
PowerBook G4 (1 GHz)が届きました.Windows機にふさわしい垢抜けないデザイン,かつ太めのボディーのDynaBook G6とは比較にならないほど薄く,スタイリッシュです.しかし,見るからに華奢で,頻繁に持ち歩いたら,すぐボロボロになりそうな感じです.アップルの製品はハード・ソフトを問わず,使い勝手よりは斬新な印象を優先させる傾向があります.これが一つの魅力になっていることは否定できませんが,あまりにも見栄え優先のボディーのように思われ,首を傾げざるを得ませんでした.メモリ,ハードディスク,USB,光学ドライブの仕様も少々古めかしいです.業務用や一般大衆用ではないブランド品という位置づけなんでしょうね.

Windows用RIETAN-2000でNUPDT = 1として入力ファイル*.ins中の精密化パラメーターを更新する場合,一部のOSとマシンの組み合わせで障害が発生するとのことです.すなわち,Ifブロック中のパラメーターを更新すると,異なるブロック中の(スキップされた)パラメーターが更新されてしまうのです.Mac OSではこのようなトラブルはまったく発生していません.万一このような障害に遭遇したら,実際に入力するべき行だけ残し,不要なIfブロックを削除することをお奨めします.

12月12日
PRIMAのベータ版,第2弾をテストユーザーに配布しました.Newton-Raphson法を採用した新解法を投入した結果,前バージョンよりはるかに高速になっています.

12月13日
ワイアレスの光学式マウスをPowerMac G4に接続して使っています.単3の乾電池2個で駆動するのですが,20日も経たないうちに交換しなければなりません.使っていても電池の消耗が気になるので,いずれ充電式ワイアレスマウスに替えたいです.

「セラミストのためのパソコン講座」CD-ROMは11月末に完成する予定だったのですが,編集作業が少々遅れています.もうしばらくお待ちください.予約申込みが予想以上に多かったため,プレス枚数を増やすことを検討中とのことです.この不景気な時勢に希有なことといってよいでしょう.微力ながら,自作フリーソフトウェアの収録を通じて応援してきた甲斐がありました."セラミストのための"と銘打ってはいますが,理工系の人たちすべてに役立つと思われます.また,RIETAN-2000の記事もそうですが,「セラミックス」に連載された記事すべてが最新の内容に更新されています.多くのWebページへのリンクも張られているので,マウスボタンをクリックするだけでジャンプできるのも便利です.

12月14日
小説を読んでいて,貧弱な読解力ゆえに,作者の意図するところを読み違えてしまうことがよくあります.私の場合,ドストエフスキーの処女作「貧しき人々」がそうでした.うら若きヒロインが自分に淡い恋心を抱く初老の貧乏官吏を手玉に取る,結構したたかで勘定高い女だったということは,さる評論を読むまでまったく気づきませんでした.最近,牛島信明の「ドン・キホーテの旅 --- 神に抗う遍歴の騎士」(中公新書)を読み,目から鱗が落ちる思いがしました.眼光紙背に徹す,というのはこういう文章を指すのだと思います.上記のタイトルがドン・キホーテのいわゆる「狂気」の内情を物語っているのですが,詳細についてはこの本をお読みください.

12月15日
都立大で開催される日本セラミックス協会2003年年会におけるミニシンポジウム「三次元可視化技術のインパクト」は3月24日(3日目)の午前に割り当てられることになりました.他の一般講演が9時から一斉に始まるので,9時から午前中一杯使い切るプログラムにしてもよい,とのことでした.このミニシンポジウムだけ9時50分から始まるのも妙なので,講演者を1名増やして,9時開始に変更することにしました.無謀にも,3時間にも及ぶ長大なセッションにするということです.私は本ミニシンポジウムを,VENUSとPRIMAの完成を祝賀し,それらの桁外れなパフォーマンスを誇示し宣伝するための催しとして位置づけており,時間に余裕のあるプログラムとなったことは実にありがたいです.願わくば,首都圏に居住するRIETAN・VENUSのヘビーユーザーは一人残らず集結していただければ幸甚です.それだけの値打ちのある内容にするつもりですから.といっても,私は人前でしゃべるのが大の苦手で,実演も含めて1時間10分の持ち時間はきついです.先のことと思うから今は平然としていますが,来年の3月頃はすごく機嫌が悪くなっているでしょうから,近寄らない方が身のためです.

12月16日
12/2に,PRIMAが大幅に高速化し,日本結晶学会誌に投稿した記事で報告した実行速度がobsoleteになってしまった,と書きました.結局,翌日に編集者に頭を下げて,数字を全部,最新値に入れ替えていただきました.やれやれ,これで一件落着,と安心していたら,この週末の間にまたまた大幅なスピードアップを果たしました.一例を挙げれば,

KドープゼオライトKx@K-LTA(x = 5.2)の粉末X線回折データ(200×200×200ピクセル,630反射)
MEED: 3473.6 s
PRIMA: 252.8 s(13.7倍高速化)

という驚くべき結果が出ています.まるで「少林サッカー」ならぬ「少林メム」とでも表現したくなるようなマル秘的荒技を繰り出したところ,あっさりここまで到達してしまいました(Confidentialと言いつつ,Webで自慢しまくるところが支離滅裂ですが).日本結晶学会誌の記事では,MEED比で4.6倍高速化にすぎませんでしたから,この秘技の導入により3倍も速くなった勘定になります.まだ徹底的にテストしたわけではないので,平均値は出ていませんが,既製のMEM解析プログラムをまとめて葬り去るような数字を叩き出しています.まさにアンビリーバボー.ぶっちぎりの独走態勢.夢見心地です.VENUSの成功で自信を深めたことが,われわれを勇気づけ,奮い立たせたということでしょう.こうなると,日本結晶学会誌の記事で報告した値を再々修正したくなりますが,連載3回の間,編集者に色々な注文を付け,多大な労力を煩わせてきたので,さらにわがままを言える立場にありません(気が小さい上,シャイです).このままにしておきましょう.

12月17日
休日や昼休みなどに自分のWebページで張ったリンクをたどると,時おり新たな発見があります.たとえば,LINKSの逆リンク集には瀬戸秀紀氏のWebページにリンクが張ってありますが,最近これをクリックしていて,瀬戸氏が広島大から京大へ移ったことを知りました."ごあいさつ"では天網恢恢という書籍紹介ページにリンクを張ってあります.この本の著者である藤原博文氏のWebページ,パソコン初心者の館中のページです."ごあいさつ"にも書いたように,この本は私が当Webページの構築にのめり込んだきっかけとなったので,本来ならWebの精神を叩き込んでくれた師匠として「藤原先生」と呼ばなければいけないのですが,ご本人がいやがるでしょうから,「藤原氏」失礼します.以前,藤原氏のWebページを散策していたところ,プロフィールのところに,見慣れたNoel Cafe(相互リンク中)のアイコンが貼り付けてあるのに気づきました.こうして,藤原氏のお嬢さん(お散歩娘) がNoelだということを知りました.奇縁というしかありません.掲示板バックナンバーにはなぜか我が青春のドリフターズにリンクが張られています(2001年10月10日の項参照.要するに,ビートルズの日本公演の際に,ドリフターズが前座を勤めたという歴史的事実を脳裏に浮かべながら,MEM/リートベルト法なんぞはMPF法の前座にすぎないと皮肉っただけのことです).ここをクリックしたところ,高木ブーの愛娘かおるさんの結婚披露宴の写真が飾ってあり,かおるさんがお父さんそっくりなのには,思わず吹き出してしまいました.別に何かの役に立つわけではありませんが,つれづれなるままに,しばしネットサーフィン,というのも悪くありません.

12月18日
島根大学の赤坂正秀・永嶌真理子両氏による「粉末X線解析の実際」の書評が日本鉱物学会と日本岩石鉱物鉱床学会の統合雑誌である「岩石鉱物科学」のVol. 97, No. 4, p. 283に掲載されていました.詳細に渡って紹介していただいた上,過分のおほめにあずかり,気をよくしています.

今回購入したDynaBookの最上位機種G6/U22PDEWはWindows XP Home EditionをOSとしています.工場出荷状態では,ユーザ名とパスワードを入力する必要がありませんでした.実に手軽です.まあ,自分一人で使っているノート型パソコンの場合,機密を要することに使わなければ,これで十分ではないでしょうか.

12月19日
2000年夏以降,RIETAN-2000,RIETAN-2001T,VENUSを相次いでリリースし,来年前半にはPRIMAを公開する目処が立っています.他のMEM解析プログラムに対する圧倒的な技術的優位性を謳う超高速プログラムPRIMAの出現は,MPF法を普及させるための強力無比な武器となるにちがいありません.こういうふうにプログラムは比較的スムーズに開発できるのですが,気乗りしないマニュアルの執筆となると,話は別です.「粉末X線解析の実際」の上梓によりRIETAN-2000に関するドキュメンテーションは大幅に改善されましたが,RIETAN-2001Tの場合は惨憺たるものです.2桁以上違うユーザー数がモチベーションの高まりを妨げています.一方,広いユーザー層が期待されるVENUSでは相当充実した英文マニュアルを用意しましたが,(現時点では)一部の専門家向けのソフトと言うべきPRIMAのマニュアルを拵えるのは気が重いです.研究・講演・執筆・雑用をこなしながら,分厚いマニュアルを書くのは困難と言わざるを得ません.私の場合,この巨大なWebページを一人で構築・更新していますから,なおさらです.ある時点で新規ソフト開発を停止し,以後はバグとり,ポリッシュアップ,ドキュメンテーションに専念するべきなのではないでしょうか.自分に残された時間,体力,気力,記憶力,体調などを考慮すると,そう決断すべき時が迫りつつある --- というのが偽らざる心境です.第一,ベテランの研究者がいつまでもしゃかりきになって働いていたら,若手研究者の出る幕がありません(少なくとも粉末中性子回折の分野では).そうでなくても,最近の若手のアクティビティーの低さは目を覆わんばかりなのです.

12月20日
今日はPowerBook G4をインターネットに接続しました.そして,基本的に重要なソフトを数種類インストールしました.さらにMac OS X 10.2.3がリリースされたので,アップデートしておきました.最初はなぜかPower Macintosh G4とのファイル共有がうまくいかなかったのですが,突如としてつながるようになりました.

12月21日
来週はPowerBook G4をインターネットに接続しようと思い,近所のヤマダ電機にLANケーブルを買いに行きました.結構,朝早く出かけたのに駐車場はほとんど満杯でした.年々,利益がうなぎ登りの会社のようですが,聞きしに勝る勢いだというのを実感しました.ユニクロが凋落し,かのマクドナルドも赤字,176店舗閉鎖という時代に,税金を沢山納めてくれる会社は偉大です.なにしろ,税収が歳出の半分近くにまで落ち込んでおり,私の給料も研究費も税金から出ているわけですから(本Webページには納税者に対する研究成果の還元,という意味も込められています).もともと,つくばには家電量販店が多いのですが,Macを売っている店はごく一部です.ところがヤマダ電機は12/21〜12/31までAppleフェアを開催する,というチラシを配っています.私は来年に自宅のiMacを買い換えるつもりですが,そのときは近所のよしみでヤマダ電機から買おうと思います.

12月22日
オヂには理解不能な3文字カタカナ言葉が氾濫しています.お段の文字で終わるのが特徴です. いわく「カキコ」,いわく「スノボ」,いわく「パワポ」,いわく「マクド」(関西方面),いわく「ミスド」,いわく「ラブホ」.ついていけません.ついていく必要もないか.

ALTIMEがv3.13にバージョンアップしていたのに気づきました.

12月23日
講演と講習のお知らせに,日本セラミックス協会2003年年会,ミニシンポジウム「三次元可視化技術のインパクト」のプログラムを掲示しました.私は1時間10分の講演(VENUSとPRIMAの実演も含む)を行うほか,進行役も一人でつとめなければなりません.このミニシンポジウムは朝9時から始まるので,聴衆の集まり具合が気がかりでなりません.できるだけ多くの聴衆の前で熱弁を振いたい --- それにはどうしたらいいか思案中です.VENUSはもともと派手なソフトなので,とくに派手な演出は不要なような気がしますが...

12月24日
最近入手したDynaBook G6/U22PDEWはWindows XP Home EditionをOSとしています.これまではWindows NT 4.0機しか使っていなかったので,操作に戸惑っています.そこで「Windows XP操作・設定活用ガイド」という623ページの分厚い本を買い込み,これからWindows XPを修行していきます.しかし,Finderの操作自体がエンターテインメントと化しているMacと違って,いかにも仕事している,という堅苦しい雰囲気に陥りやすく,味気なさが常につきまとします.

あるVENUSユーザーから今朝届いたメールを本人(匿名希望)の許可を得た上で転載します:

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泉先生こんにちわ。
キリストさんの誕生日ですね(^^
いかがお過ごしですか

昨日やっとVENUS-1.3bがわたくしのPCで動き出しました。
ハードウェア構成は
・AthronXP 1800+
・DDR 256MB
・Radeon 7500
・Windows 2000 Pro SP3 (SpywareはAd-awareでカット:-)
・DirectX 8.0
です。

最初はDirectXをONにすると
・多面体の稜線として描かれている線がいくつかの多面体に集中する
・Polyhedra - Style ボタンを押すとVICSが落ちる
・insファイルを書きだそうとするとVICSが落ちる
といったエラーに悩まされていましたが、
Radeon 7500のドライバーを最新版(wxp-w2k-radeon-6-13-10-6218)
にすると、すべて解消しました。
今研究中の結晶構造がディスプレイの中で、
まるでSFに出てくる宇宙船のように滑らかに回っています。とても嬉しいです。
多面体のファセットが回転時に時々光を全反射するのが格好良いです。
眺めているだけでどきどきわくわくしてきます(^^;

Free Rotationさせて眺めているだけで、
構造記載の表現法が思い浮かんだり、結晶構造の細部の理解が深まります。
このソフトを使うと、結晶模型を作る必要性が大幅に少なくなりますよね。

おまけになぜか癒される気までします(^^;
30分ぐらい眺めても飽きません(^^;;
結晶構造の入力や多面体の設定は
ORTEP, ATOMSと比べるのも失礼なくらいに、とても簡単でした。
原子や多面体の色が自動的に設定されるのも嬉しいです。

得られる映像がすばらしいので、
ソフトウェア全体の操作性は私は気になりませんでした。
むしろ簡単に使えるので良いのではないかと思います。
こういうグラフィックを自分のデスクトップPCで、
環境ソフトのように表示させておくのにあこがれて結晶構造の研究者を目指したので
本当にとても嬉しいです。

フリーでリリースしてくださって、大変感謝しています。
クリスマスプレゼントとお年玉を一度にいただいたような嬉しさです。

どうもありがとうございました。
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VENUSは癒し系ソフトだった?!

12月25日
今年の研究発表をすべて年末までに新たな書式で届け出なければならず,その処理に追われました.今年出版した単行本(分担執筆),すなわち「セラミック工学ハンドブック」第2版「粉末X線解析の手引き」も届ける必要があることがわかり,泣く泣く入力しました.もちろん両書とも別刷などないので,執筆担当分を全部コピーしましたが,かなりページ数が多いので,往生しました.よくまあ,こんなに長々と書いたものだ --- というのが実感です.昨今は,学会などが講習会を開いても参加者があまり集まらず,赤字決算,専門書の売れ行きも芳しくない,というしょぼくれた話ばかり聞きます.汗水垂らして執筆した以上,できるだけ多くの人々のお役に立ってほしいですが,そのためには読者の立場に立った編集方針が肝要と考えます.読者が理解できようができなかろうがお構いなし,独りよがりで魅力のない専門書(教科書も含む)が多いように感じますが,いかがでしょうか.

12月26日
今年の仕事は実質的に明日で終わりです.近年まれに見るほど充実した,パワー全開の年だったと思います.2月には「粉末X線解析の実際」を上梓し,この本をテキストとしたX線分析講習会を東京(2月)と大阪(10月)で開催し,6月までにポスドクのAlexeiとともに論文を書きまくり(すでに全部活字になりました),日本結晶学会誌の連載記事3回分をなんとか書き上げ,VENUS正式版をCD-ROM「セラミストのためのパソコン講座」に収録し,PRIMAのベータ版もリリースしました.単行本もCD-ROM書籍も売れ行き好調と聞いています.「粉末X線解析の実際」サポートページを読者用サービスとして提供したのは画期的なことと自負しています.VENUS,PRIMAともに事前の予想を超える出来映えで,非常に満足しています.「建設的破壊」は見事な成功を収めたと言ってよいでしょう.VENUSにおいて,実験的に求めた電子密度だけでなく分子軌道法やバンド構造計算で求めた電子密度,静電ポテンシャル,波動関数まで視覚化できるようにしたのは画期的なことでした.VENUSが3D可視化ソフトの価格破壊をもたらすかどうかは定かでありませんが,少なくとも日本ではベンダーにかなりの打撃を与えるのは必至です.PRIMAを自主開発し,既存のMEM解析ソフトをぶっ飛ばすほどの超高速化に成功したことは今後のMPF法の普及に弾みをつけるでしょう.VENUS完成後の端境期に,うまくいったら儲け物くらいの軽い気持ちで着手した仕事であり,心血を注いだ覚えなどまったくありません.にもかかわらず,予想だにしなかったほどの瞠目すべき成果を獲得しました.REMEDYサイクル過程におけるR因子の劇的な低下と同様に,MEM解析技術の開発が長い年月にわたっていかに停滞していたかを如実に物語っています.技術的停滞の原因はただ一つ,methodologyやプログラミングにおける人材の枯渇です.

このように,自分の研究を力強く前進させるだけでなく,いろいろな学協会の活動に参加・協力できたのには深く満足しています.このようなアクティビティーの高まりを反映して,当Webページのアクセス件数は10月以降,一段と増加しています.来年もやらなければならないことが多いですが,なんとか一つ一つ片づけていくつもりです.しかし,この躁状態がいつまで続くのか...自分でもわかりません.

12月27日
本日,CD-ROM「セラミストのためのパソコン講座」が自宅に届きました.そこで約束通り,そのCD-ROMに収録したVENUS正式版v1.4をv1.4.1に更新するための圧縮ファイルを電子・核密度と結晶構造の三次元可視化プログラムのWebページでダウンロードできるようにしました.Pentium用に最適化するとともに,スピード優先でコンパイル・リンクしました.その他,かなりの数のマイナーな修正が施され,安定性が増しています.年末年始の間は,VENUSを思う存分操って遊んでください.

12月28日
CD-ROM「セラミストのためのパソコン講座」 を手にとってみてつくづく感じたのですが,薄っぺらいというのは素晴らしいことです.5つも学協会に入っていると,学会誌だけでも相当な厚みになります.置き場がありません.毎月送られてくる学会誌3誌はざっと眺めた後,ゴミ箱に捨てるか廃品回収に回します.後で必要になったら,図書室でバックナンバーを読むようにしています.いっそ,PDFファイルにして学協会のWebページで閲覧・ダウンロードするようにしたらどうなのでしょうか(もちろんパスワードを入力して).相当な経費削減になるはずです.図を全部カラーにしても,製作経費に変わりはありません.最近の学術雑誌はPDFファイルをくれるようになりました.このため最近は,やむを得ない場合を除き別刷をまったく購入しなくなりました.別刷の代わりにPDFファイルを共著者や希望者に送ればいいので,楽なものです.地球資源の無駄遣いにも通じる印刷物信仰は捨てるべきではないでしょうか.

12月29日
Mac OS, Windows,UNIX用RIETAN-2000をアップデートしました.完全可変フォーマット(Fully Variable Format: FVFM)の強度データファイルが特定の固定フォーマットの場合しか読み込めないようになっていたバグを退治しました.FVFMについては
泉 富士夫, 日本結晶学会誌, 44 (2002) 246-254.
をご覧ください.また,雛形ファイルTl2223E.insとTl2223J.ins中の引用文献のスペルが間違っていたのを修正しました(実害はありません).

12月30日
矢野直明著「インターネット術語集 II」(岩波新書)に以下の一節がありました:
「企業のもつ人的・資源的リソースを本当に競争力のある部分,コアコンピタンス(core competence)につぎ込み,圧倒的な価値を生み出す.」
「今本当に企業が生き延びるのに必要なこと,その会社として一番やらねばならないこと,価値を生み出すことに集中し,たとえば儲からないこと,外に出せることはアウトソーシング(outsourcing: 外部資源の活用)する.スリム化できるところはして,コアコンピタンスに集中する,これが企業にとってもっとも戦略的で前向きなアウトソーシングです.」
これらの文言は研究活動についても,そのまま当てはまります.私も長年,意識的にコアコンピタンスとアウトソーシングを心がけてきました.組織の歯車としての仕事には振り向きもしませんでしたし.「外に出せること」,たとえば雑用や会議からはできるだけ逃げ回ってきました.学会活動や口頭発表は最低限に留め,ポストにもまったく興味を示しませんでした.一言にして言えば「したくないことはしない.やりたいことだけをやりたいようにやる.」その結果多くのものを失いましたが,実質的に無価値な汚れ仕事からの消耗を防ぐことにより獲得したものの方がはるかに多いはずです.まったく悔いていません.

12月31日
DynaBook G6にATOK 15をインストールしました.今回購入した製品にはドクターマウス[英和/和英/国語辞典]が含まれており,研究社「英和中辞典」が利用できます.私は知る人ぞ知る辞書マニアでして,いくつかの辞書を併用して文章を書いています.英和中辞典のよいところは,なんといっても各名詞がcountableかuncountableかが明記されていることで,英文を書くとき実に役に立ちます.